実施当日、場所は校舎内だった。
三階の空き教室に内側から鍵をかけ、その中で検査を行う。
この放課後の時間となっても、ここにはまだ明るい陽射しが窓から差し込む。机の一つ一つを照らして輝かせるが、ここに立つ堀京子の顔は決して明るいものではない。
身長計が置かれている。体重計がある。座高計がある。
これらの器材を置くために、いくらかの机をずらしたスペースを形成して、堀はそこに立ち尽くしているのだった。
そして、検査を担当するために揃った陣営には、堀にサインを書かせた教師その人と、加えてあの病院の医師の姿があった。
(なんであの変態医師が……)
堀はその存在に顔を歪める。
さらにはどこぞの研究機関の職員らしい白衣の男が三人も、何のためにかこの場に立ち会おうとしているのだ。
堀一人に対して、男が五人もこの場にいた。
「さあて、担当は僕達だ。手筈通りに君の肉体を調査するから、さっそく下着一枚になってもらおうかな」
じゅるりと、唾液の音を鳴らした舌なめずりに、堀はぞっと身を引いた。
(……キモッ)
それが率直な感想だった。
決して容姿には優れていない、脂の目立つ太った顔で、そんな風に唾液で唇を光らせたのだ。堀に向ける視線はいやらしさに満ち溢れ、鼻息を荒くしながら、いかにも制服の内側を想像している。
医師も医師で、今日は長髪がボサっとして枝毛が目立ち、黒縁眼鏡の奥にある眼差しには暗い影がかかっている。いかにも陰気でありながら、眼差しは堀に対していやらしい。お世辞にも良い印象など欠片もない。
(こんな人達の前で裸って、マジなの?)
ありえない、ありえない、ありえない――そんな言葉が頭の中でぐるぐると回り続けて止まらない。
「どうしたのかな? 堀さん」
教師はにこやかに微笑んでくる。
(どうしたじゃないわよ)
スクール用のセーターを握り締め、たくし上げていく。
机に置かれた脱衣カゴを横目にして、一枚目は特に抵抗もなく脱ぎ切るが、ワイシャツやスカートからは肌の露出が伴ってくる。二人の男にジロジロと見られながら、おいそれと脱げるほどには、女としての羞恥心は捨てていない。
「あのー。脱ぐあいだだけでも、向こうを向いて頂いたりとか――」
「早く脱いでね」
聞く耳を持たず、教師は堀の言葉を遮りながら告げてきた。
(……コイツ)
気軽な友達が相手なら、とっくに頭突きかチョップでもしているだろう。暴れたい衝動をぐっと抑え、せめて男達には背中を向けて、ワイシャツのボタンを外し始める。
一つずつ、下から上へとボタンを外していくにつれ、隙間から肌がちらつく。
しかし、後ろ向きの今、あちらからは堀の下着の色さえ見えないだろう。深刻な羞恥心が湧くような段階には遠いも、かといって頬がちっとも染まらないわけでもない。女は自分一人だけの空間で露出度を上げていくほど、桃色への変化は進んでいた。
「あー、そうそう。下着もチェックするから、こちらを向いてもらえるかな」
「は?」
「下着もチェックするから、こちらを向いてもらえるかな」
「二回も言わなくていいです! 下着って、聞いてないですけど!?」
「でもね。君がサインした書類には、性的プライベートに関わる質問調査を行うとあるから、あながちおかしいことではないね」
(いや、ありえないわよ……)
心の中には拒否感が芽生えるも、とはいえ脅迫材料を握る教師だ。反抗心はそのせいか抑えられ、従うしかない諦観の方が上回る。
堀は男達に身体を向け、たどたどしくワイシャツの前を左右に広げ、ブラジャーを見せているのだった。
(……二回目だけど、やっぱり恥ずかしい)
羞恥心が込み上げて、堀は思わず下を向く。
「スカートもたくし上げてね」
「なんですかそれ!」
「上下ともチェックするから」
お前は従って当然の立場だと言わんばかりに、当たり前のように述べてくる教師への腹立たしさに歯を噛み締め、堀はスカート丈を両手に握る。
ぎゅっ、
と、力を込めるあまりに拳が固くプルプルと震えだし、堀はそんな両手でスカートを持ち上げる。
「ほほう?」
「白だねぇ?」
教師が、医師が、同時に感嘆の声を漏らす。
(うるさいから!)
ただでさえ、桃色からより濃い赤へと、顔の色合いが移り変わろうとしているのに、余計な声までかけられて、じわっと羞恥の熱が広がっていた。
堀の下着は純白である。
買ってからまだ数週間しか経っていない、真新しい部類の純白は、窓から差し込む陽光でより輝き、どこか発光して見える。
ブラジャーの中央には、カップとカップのあいだを繋ぐかのように白銀のリボンが添えられて、生地全体には銀糸の光る刺繍が花柄を描いている。ショーツのフロントリボンも白銀で、やはり似たような刺繍の花が咲いていた。
「ギャルっぽい見た目に反して清楚」
「上下白」
「恥じらい具合はAっと……」
白衣の職員らが次々と、それぞれ独り言のように口にしながら、各自が握るバインダー留めの書類に書き込みを行っていた。
(何のメモよ!)
調査だとか言ってはいたが、意味がわからない。
一体自分は何を調べられているのか、堀には理解ができなかった。
「では堀さん。続きをどうぞ」
言われるが否や、それをスカートのたくし上げを解いても良い許可と見做し、堀はすぐさま勢いよく、いかにも高速でショーツを隠した。どうせ脱ぐとはわかっていても、一瞬でも早くスカートを元に戻そうと、力を込めて叩きつけ、自分の太ももを拳で打ってしまっていた。
(いたっ、ああもう)
しかも、この次にはもうワイシャツを脱ぎ切って、上半身はブラジャーのみにならなくてはいけないのだ。苛立ち紛れにワイシャツの袖から腕を引き抜き、さっさと適当な畳み方をして脱衣カゴに放り込む。
あとはスカートとブラジャーだ。
隠したてのショーツをこんなにもすぐに晒すのかと、我ながらそんな思いでいっぱいだが、かといって脱ぐ順番を変えても仕方がない。ブラジャーを外した状態で、上半身裸でスカートを脱ぐ流れも、堀には何も面白くはない。
いや、最初から今の今まで、何かが面白かった試しはないが。
(いいわよっ、スカートからで!)
半ば自暴自棄にスカートのホックを外し、ファスナーを下げることにより、緩んだものがばさり落ちる。床の上でドーナツ状となったスカートから足をどけ、下着姿になった恥じらいを顔に浮かべつつ、堀は拾い上げては脱衣カゴへと畳んでおく。
いよいよ、ブラジャーを外す時が来た。
(時間をかけたって、どうせこの時間が長引くだけ。長引くだけ、長引くだけ、長引くだけだから、だからさっさと――)
堀の顔はもう赤にまで変化していた。
真っ赤なリンゴ色の頬は、ブラジャーの脱衣を前にして、さらに範囲を広げつつある。
乳房を出すことへの抵抗感に、背中へ回した両手がホックを探すことに手間取るが、だからこそ堀は自分自身に言い聞かせた。
長引くだけ、長引くだけ――さっさと終わらせることを優先しようと、何とかホックを見つけるなり、ぱちりとはずしてブラジャーを緩めていく。肩紐をさっと、左右両方とも、動作だけを見るなら軽々と下げていた。
もっとも、乳房の解放が一歩近づくにつれ、堀の頬はピクッピクッと、強張っているのか緊張なのか、恥辱の反応を浮かべていた。
目をつむり、まぶたを強張らせ、そんな顔立ちで堀は最後までブラジャーを外しきる。
「……脱ぎましたけど」
腕のクロスによって、がっしりとガードを固め、堀は教師に告げるのだった。
「脱いだねぇ?」
「早く測定して下さい」
「うんうん。恥ずかしいもんねぇ? さあ、こっちへおいで」
教師の手招きする先へと、身長計へと目を向ける。
わからなかった。
(なんで、これを裸で……変態……)
身体の詳しい調査といっても、脱衣が必要な内容の時だけでいいではないか。脱いでも脱がなくても変わらない測定なら、制服のままでもいいではないか。
納得のいかない気持ちを大いに抱え、堀は身長計へ向かって行った。
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