第8話「最終指導」

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 今日は最後の勉強だった。
「いいかい? これは気持ちを学ぶための指導でね。性教育委員会の方針で、立派なカリキュラムとして定められていることなんだ。ま、そのくらいのことは、ネットでもわかるし、保健の教科書にも載っている。言わなくても知っているだろうけどねぇ?」
 あれから、何度かの感度開発を行い、洋との回数もこなしていき、健全な肉体関係を築けている。もちろん普通の勉強も疎かにはしておらず、趣味の読書で同じ小説を楽しんだり、難しい本を読み合ってみることも忘れていない。
 勉強も、デートも、セックスも、二人は全てをこなしていた。
 文句のつけようがないカップルだが、いくら評価が高くても、方針で義務付けられた指導を教師個人の裁量では省略できない。
 先生に行う性奉仕も、セックスも、心のどこかには嫌がる気持ちが残っていて、柚葉は本当の意味では合意していない。そういう決まりだから、制度だから、ルールだからしたのであって、仕方がないという諦めの感情で交わったことは確かであった。
 豚山とのセックスがどれほどの天国でも、彼氏以外と行うセックスは健全なセックスではない。
 小学生の頃から、あらゆるメディアによる発信からも、そう刷り込まれて生きて来た柚葉である。
 もう豚山と性交する必要がなくなるのは、正直にいって望ましい話である。
 ただ、最後だから良い評価は得たい。
 それは例えるなら、勉強が嫌いで宿題なんてやりたくなくても、取れるものならテストでは良い点数を取りたいような、どこか相反するものがある。
 しかし――――。

 洋に見られながら性行為をするというのは…………。

 柚葉は既に丸裸だ。
 ブレザー姿の、背が高くスタイルのすらりとした洋と、1メートルの距離を離した向かい合わせで、すぐ傍らに立つ豚山が、柚葉の肩に触れて来ている。
 豚山もまた、全裸で股間を勃たせていた。
 これではまるで、洋に向かって「こいつは俺の女になった」と、元彼氏を相手に勝ち誇っているような、そんな構図が脳裏を掠める。
 違う、自分は先生の女ではない。
 洋への愛は変わらないことを訴えたくてたまらない目で、わかってほしい気持ちをいっぱいにした表情を投げかける。柚葉の心境を言葉もなく受け止めて、洋はそれに静かに頷いてくれていた。
「柚葉ちゃん。今の気持ちはどうだい?」
「――そ、それは――ひゃっ!」
 尻を触られ、とっくに慣れ切ったはずの行為で柚葉は肩を弾ませた。
 苦痛に歪む洋の前で、お尻を撫で回されている。尻肌にぴったりと張り付く手の温度が、実に上手に皮膚を快感で泡立たせ、恋人を裏切ることがどういうことか、柚葉は身をもって体験していた。
「……洋に悪い、嫌だっていう、そんな気持ちだと思います」
 豚山はさらに柚葉の手を掴み、股間の元へ導き握らせる。手コキまですることになる柚葉は、気乗りせずにしごき始めた。
「どうしてだい?」
「やっぱり、洋は恋人で、先生はそうじゃないから……」
 それ以上も、それ以下の答えもない。
 指導の名目とはいえ、教育によって推奨されるのは、あくまでも恋人と行う健全なセックスだ。豚山との性行為は、教育課程におけるカリキュラムに過ぎない。
「では洋くん。君はどうだい?」
 洋への問いかけと同時に、尻を撫で回す手つきが、ぐにぐにと指を喰い込ませ、揉みしだくものに変わっていた。どうすれば柚葉が感じるか、知り尽くした指の動きに捏ねられて、下腹部は熱く引き締まった。
「もちろん、柚葉が他の男に触られているのは、とても嫌だと感じています。本当に、辛いです……」
 歯を食い縛り、拳まで震わせている。
「ひ、洋……」
「これも勉強だ。恋人以外とするのは、本当は不健全なセックスにあたるタブーだからね? 教師としては、指導以外の理由でそういうことになるのは防止したい。だから気持ちを体験させるカリキュラムが組まれているっていうわけだねぇ?」
 学習内容の一部なのは知っている。
 だが、わかっていても辛い。
「柚葉ちゃん。騎乗位しようか」
「…………はい」
 肩を抱かれる形でベッドへ歩み、わざわざ洋の前で行う騎乗位は、恋人同士で向かい合い、視線を合わせた形式となっている。
 豚山が寝そべった。
 さながらベンチに座るかのように両足を下ろし、その状態から上半身は仰向けに、雄々しい肉棒を天に向かってそそり立たせる。柚葉はそこにゴムをかけ、自ら跨ることになるのだ。
 唇を噛み締め、胸の痛みを堪える洋の前で……。
「洋…………」
 柚葉の胸も、万力で締められているような苦痛に見舞われ、じきに心臓が張り裂けそうなほどである。
「さあ、おいで? 柚葉ちゃん」
 跨る柚葉は、股下の肉棒に触れ、亀頭の位置を自分に合わせて、切っ先に膣口を重ねていく。腰を沈めるにつれ、子宮まで届く長大な一物が穴を抉って、すぐに根本まではまっていた。
 そして、動く。
「んっ、ん、んぅ……うっ、んくっ、くっ、んぅ……んあっ、う……く……くふっ、んぐっ、ぬっ、あぅ…………」
 自分自身で腰を弾ませ、上下運動に合わせて視界も動く。
 豚山のサイズを受け入れるのに、もう少しの痛みや苦しみもない。初めてを思えば、想像以上にすんなり入る。それだけ慣れても大きな存在感が引力を放ち、腹の内側まで意識を引っ張る。
 いつもなら、感度開発の指導で感じたり、喘いだり、絶頂するのは当たり前なので、特に我慢はしなかった。
 今回は洋の前だ。
 他人の肉棒が入っているところを見せるだけでも、洋には拷問じみた苦痛を強いている。柚葉自身だって辛い。せめて柚葉に出来るのは、出来るだけ感じないよう、イカないように気をつけて、必要以上の思いをさせずに済ませることだ。
「んっ、んっ、んっ……ん……あっ、んくっ、んう…………」
 豚山の方からは動かないから、気持ち良さは柚葉の方で調整しやすい。感じ過ぎず、良い部分にも当たらないように気をつけて、しかしそれでも感じる快感に、静かな喘ぎは漏れてしまう。
「………………」
 洋は顔を苦悶させ、表情の筋肉をいたるところまで強張らせ、そこまで辛い思いに耐え忍ぶ。
(私も耐えるからね。洋っ!)
 同じ苦悶を顔に浮かべて、アソコに生まれる快楽など、封殺しようとばかりに心を強く引き締めた。
(あっ、ん、んっ、だめ……声が……どうしても…………)
 いくら豚山の肉棒が気持ち良くても、そのセックスの上手さは性教育に関わるプロだからだ。これからも指導を行い、他の女子といくらでも交わる男の、指導用のおチンチンにいつまでも悦んでいてはいけない。「んっ、んふぁ……あっ、くっ…………くっ、ううっ、うぅ…………」
 他の男で感じる声も、洋には聞かせたくない。
 本当なら、交わっているのも見られたくない。
「んっ、んんぅ――――――――」
 手で口を塞ぎ、聞かせまいとしながら、柚葉は初めて快感を心の底から拒もうとしていた。気持ち良くなりたくない、絶頂なんてもってのほか。アソコに溢れる甘い痺れは、洋を傷つけ自分も傷つく、恐怖の刃でしかなくなっていた。
(これが……! これが、洋を裏切るセックス……!)
 決してあってはならないことだ。
 絶対に浮気はしない。
 そもそも、別の男という発想すらなかった柚葉が、わざわざ一途でいようと決意を固め、洋だけを愛そうと、結婚まで夢想する。
 しかし、このカリキュラムは豚山を射精させるまで続く。
 いつまでも緩い刺激だけでは、肉棒の方が精液を出してくれない。柚葉は快感を拒否したくても、豚山の方には感じさせる必要がある。
 こうなったら、柚葉は俯いた。
 少しでも感じた表情を隠し、洋には見せないため――。

 あっ、あっ、あ! か、硬いのッ、奥にあたる! 子宮にぶつかる!
あうっ、あん! あん! あん!

 柚葉は動きを速めていた。
 精液を絞り出し、この時間を一刻も早く終わらせるため、下腹部に力を入れてキュゥキュゥと締め付ける。

 んっ! あん! だ、だめ! 良すぎる! なんで!?
 が、我慢したいのに――できない――!

 腰を落とすたび、極大な槍でも使って股から脳天にかけてを串刺しにされてしまうような、激しい快感が身体を貫通していく。下から上へと、快楽の電気が頭から天井に放出されているのではないかと思うほど、痺れは強くなっていた。

 ぬっ、く! こ、こんなの! すぐに抜いて――。
 あっ、あん! あん! あん! あん!
 少し……は、激しくすれば……。
 髪とか揺れまくるし、オッパイもプルプルすると思うけど。
 でも、早く終わった方がいい!
 あ! あん! あん! あん! あん!

 それは洋を苦しみから解放して、性教育に決着をつけるための動きであった。

 ずん! ずん! ずん! ずん!

 叩きつけんばかりに腰を落とし、喘ぎ声はあくまで噛み締め、しかし腰は快楽にくねくねと動いてしまう。

 イケ! 早くイっちゃえ! 精液出しちゃえ!
 早く、早く――あっ、あ、あん! あん! あぁ――!
 せ、精液っ、精液!
 射精っ、してぇ……!

 そして、彼氏のためを思えばこそ、けれども必死になって豚山を射精させようと頑張る姿がそこにはあった。
 
 ずん! ずん! ずん! ずん!

 手で口を塞いだ内側は、歯も強く食い縛り、荒げた息が最低限聞こえる以外は喘ぎ声を漏らしていない。俯くことで垂れる前髪の影が、感じた顔を洋の目から隠している。
 
(洋ッ! 私は、早く洋のところへ――――)

 コンドームが内側からドクンと熱く膨らんで、たっぷりと射精してきた気配が膣内に感じられた。

 よかった……。
 これで……私は洋とだけ……。