淫魔妖怪。
女を犯すために存在する怪物は、そのように総称されている。
人型であれば淫魔怪人。猛獣タイプは淫魔獣。
といった具合に、相手の姿形によって呼び分けがされる場合もある。淫魔ロボットまで存在すると言われているが、それら淫魔妖怪達の目的とするところは、人間の女との性行為だ。
厳密には挿入を通じてエネルギーを採取することだ。
人間は誰でも、必ず少しは妖力を持っている。
淫魔妖怪は人間から妖力を採取することで生きている特殊生物であり、女性に棒状の突起を挿入することで、まるでストローで吸い上げるかのようにする。だから彼らにとって女を犯すのは『食事』であり、性欲というより食欲で行動するのだ。
もちろん、男性にも妖力はある。
妖力自体は。
しかし、古来から女性の方が妖力は強い。決定的な男女の差で、肉体的な強さが男なら、妖力に関しては女が上であることが常なのだ。
だから、淫魔妖怪は女性だけを狙う。
男性器によく似た突起が発達しているのも、女性を感じさせる能力を備えているのも、全ては食事を効率良く行うための生物上の進化といえた。
それを倒す存在こそ、討魔剣士である。
討魔剣士も、やはり女が多い。
男の討魔剣士も決して皆無ではないのだが、男女の違いという理由で女の妖力が上回っているため、淫魔妖怪においては女の力が有効とされている。男の討魔剣士の人数は、いつの時代も数少ない。
あの場にいた『少年』も、妖力こそあれ、修行経験こそあれ、戦う能力は持っていない。
にも関わらず、狙われた。
女しか襲わないはずの淫魔妖怪に襲われたのだ。
理由はわかっている。
それは少年が――新谷織田彦が、淫魔妖怪にとって危険な能力を持っているからだ。
それが淫魔妖怪にとっては厄介なことだから、淫魔空間に捕らわれた健太は、あのまま助けがなければ殺されていたことだろう。
「ありがとうね? 凛菜ちゃーん」
「ちゅぱっ、くちゅぱっ、ちゅぐるるるぅ……」
織田彦は自分の股に向かって前後している頭を撫でる。
「君は命の恩人だよ。だから、たっぷり、ご褒美をあげないとねぇ?」
「ふちゅぅ……」
亀頭の先を食み、唇で吸い付いた如月凛菜は、何かを言いたげな目で織田彦を見上げた。それは一瞬のことで、凛菜はすぐにフェラチオに集中し直し、唾液をたっぷりまぶしつけながら頭を動かす。
「――ちゅぐっ、ぢゅぢゅぅぅぅ、じゅるっ」
織田彦の肉棒には、凛菜の舌と内頬がべったりと張り付いていた。頭の前後により、唾液の粘着を通じたスライド摩擦が刺激となり、根元を握ってくる手の温もりも心地良く、肉棒が根元から解け落ちそうなほどの快感を覚えている。
あのままでいれば、先程の織田彦は最後に殺されていたはずなので、凛菜は命の恩人ということになる。
その恩人に対して、ご褒美と称して咥えさせる。
それが最高に気持ちよかった。
「僕って優しいよね。あんな目に遭った後なのに、こうしてきちんとご褒美をあげちゃうんだからさ」
「ぺちゅる――はぷぅ……。んじゅるっ、じゅじゅぅ……」
「ねっ、凛菜ちゃん。君は消耗したはずなんだから、きちんと回復しないとね?」
自分の肉棒に沿って動く凛菜の頭を、織田彦は今一度撫でてやる。
織田彦にとって、一応これは役目なのだ。
妖力を消費した人間は、自然回復を待っていてはあまりにも時間がかかる。数日から一週間はザラにかかるし、酷ければ半年以上もかけて、やっと全快になることもありえる。討魔剣士の人手はそうそう多いわけでもないのに、戦うたびに一人あたりがそんな日数を休むのでは、とても人々を守りきれない。
そこで素早く回復するためには、性的な行為から発生する精力を妖力へと変換する男女の儀式が最も効率的なのだ。
方法は何でもいい。
男女が同じ場所に揃い、精力を発散すれば構わないわけだから、実際には男が一人で自慰行為をしても回復自体は行える。ただ、やはり女性に何かしてもらったり、理想的にはセックスをした方が、より確実で大量の回復が行えるのだ。
淫魔妖怪はその事実に本能的に気づいていて、自分の天敵を助ける人間を駆除対象のように見做したのだろう。
だから織田彦は狙われた。
そして、凛菜に助けてもらった。
「んじゅっ、ちゅうぅぅ……」
「凛菜ちゃんは大技を二度も使ったからねぇ? 必殺技ボーナスだ」
「――ちゅぅぅっ、じゅっ、じゅじゅっ」
「いっぱい出してあげるからね? ぜーんぶ飲んでね」
織田彦は射精した。びくびくと凛菜の口内で、何度も肉棒を弾ませて、先端から弾けるように白濁を打ち出す。
「――ゴクンッ」
凛菜は喉を鳴らして飲み込んだ。
「飲んだねぇ?」
「……飲んだわ」
「美味しかった?」
「別に美味しいものじゃ……」
「駄目だよ。ちゃーんと、美味しく味わえなくちゃ。悪い子だからもう一回ね」
織田彦は萎えかけになった肉棒を突き出し、再びしゃぶるように強要する。
何かを言いたげな目で、凛菜は織田彦を見た。
そして、言った。
「今日の回復は十分よ。これで」
「だーめ。僕が十分じゃないでしょ? 凛菜ちゃんがエロいから、もう何回かは出さないと収まりがつかないよ」
「そんな……」
「さあ、咥えて咥えて」
凛菜は不満のありそうな眼差しで、さぞかし嫌そうに、仕方無さそうに口を広げる。
「はぁむぅぅ……」
肉棒を迎え入れ、フェラチオを再開した。
何度咥えても屈辱だが、凛菜は仕方のない運命として受け入れていた。
初めて織田彦がパートナーになったのは、十五歳の誕生日。
高校生になったばかりの四月の春の時だった。
***
凛菜にとって、淫魔妖怪は復讐の仇である。
如月家に生まれた女は、代々から討魔剣士になるのがお決まりらしく、凛菜も小さい頃から剣と妖力の稽古を受けてきた。
――お前には戦う使命がある。
――人々を守るんだ。
と、そんな風に繰り返され、初めはそういうものかと思って親の言うことには従ったが、やがて小学生になり、高学年へと上がり、学校で見る友達同士の楽しそうな様子を見ているうちに思ったのだ。
どうして、私はあんな修行ばかりの毎日なんだろう?
いつかは人々の平和と自由を守る戦いに赴くため、来る日も来る日も稽古ばかりだ。
毎朝四時にはスタミナをつけるジョギングをやらされる。妖力の扱いに慣れるために滝に打たれて集中力を鍛え、剣に妖気を込める練習をこなしていく。疲れた状態で学校へ行き、帰ればまた修行メニューが待っていて、稽古で剣を打ち合ったりを行うのだ。
それらは決して生温いものではない。
小さな身で、ジョギングは長時間にわたるので、走り終わる頃には立てなくなるほど疲れ込んでいる。そんな疲弊状態のまま次の修行へ移り、学校へ行き、また稽古が待っているというハードな日々だ。
友達と遊ぶ暇がなかった。
修行をやって、宿題をこなしたら、誰とも遊ぶ時間がない。
唯一の休みである日曜日には、体が疲れきっているので、一日中休んでいなくてはならない。
凛菜にとっての唯一の憩いの場は、学校の休み時間に友達とお喋りをすることだけで、一緒に映画を見たり、出かけたりといった楽しみは何一つできないのだ。そうしたいと親に言えば怒られるから、誘われたって断らなくてはいけない。すると、友達の方も毎回凛菜には断られているので、やがては誘われることなんてなくなっていく。
とても嫌だった。
ただ如月家に生まれただけで、初めから自分の人生や生き方が決まっているのが嫌だった。
そんな時だ。
「そんなに大変ならさ。こっそり、どこか行っちゃわない?」
当時の親友が、そう誘ってくれた。
嬉しかった。
小学生当時の凛菜にとって、勝手にどこか遠くへ行き、修行をサボって遊んでしまうということが、とてもドキドキする素敵なイベントに感じた。
あとで怒られようと、どうなろうと、その時だけは楽しみたかった。
だが、よりにもよってだ。
たまたま親友と遊びに行き、修行をサボったその日に限って、二人の前にまるで待ち構えていたかのように淫魔怪人は出現して、親友が目の前で犯されたのだ。
――いやぁぁぁ! やめて! やめて! だ、誰か! たす、助け……。
恐ろしい光景だった。
カッパが強引にその子を押し倒し、抵抗するのを押さえつけながら、少しずつ衣服を引き剥がしていく。悲惨な暴力を前に絶叫して、鳴きながら暴れもがく親友の姿は、もはやトラウマともいえる光景である。
「くっひひひひひ」
カッパは笑った。
強引に親友を犯して、処女を奪ったカッパは、それが誇らしいかのようにニヤニヤとした表情を浮かべていた。
「あー……。けど、満腹には足りねーなぁ。こいつの妖力じゃ、ショボすぎて。ブサイクすぎて美味しくねーよ。なんか腹壊しそうだわー」
犯した相手のことを、強引にやっておきながら勝手気ままに貶していた。
鬼だ。悪魔だ。
そんな風に人の言葉を理解できる知能がありながら、相手の感情を無視して平気で犯す。犯した挙句に投げ捨てて、その相手に暴言まで吐く。
途端に復讐の炎が燃え上がった。
「おのれ淫魔妖怪! お前だけは許さない!」
そうして、凛菜はカッパに殴りかかった。
だが、小学生の修行途中の攻撃では、とてもダメージを与えられない。カッパは避けようとすらせず胸板で受け止めて、凛菜のパンチを嘲笑ったのだ。
「許さない? ハハハ! 許さないパンチがこれかよ! チョー笑えるんですけど!」
「この! このォ!」
いくら殴っても、強く拳を固めて踏み込みまで効かせても、カッパのボディには通用しない。
それが悔しくて、より強い力で殴ってやろうと繰り返すが、当時の筋力でありえる限りの限界の力を尽くしても、ろくなダメージすら与えられなかったのだ。
「へいへい? もういいかな? んじゃ、メインディッシュのお前食うわー」
凛菜はいとも簡単に押し倒され、カッパの気分一つで、すぐにでも貞操の危機に陥る。
「ぷぷぅっ! 最っ高! 討魔剣士ってのは、なかなか食えないからさ。けど修行が済んでないお子様は食べやすくていいぜ! くぷぷぅ!」
「こ、このォォォオ!」
***
もし助けが来なければ、如月凛菜はあの当時に処女を奪われていただろう。
あの直後に母親が駆けつけて、熟練の腕でカッパを一撃のもとに下したおかげで、凛菜だけは犯されずに済んだのだが、親友はそうはいかない。
その子は死んでしまった。
人間は妖力がゼロになると死ぬ。
空っぽになるまで吸い取られ、魂の干からびた親友は、あんなカッパごときに犯されたために、あの世にまで送られたのだ。
あの子の人生は何だったのだろう?
まだ小さかったのに、あんな犯した相手をさらに蔑むような下衆な奴に、命まで奪われて終わるだなんて、あんまりすぎる。
それ以来。
淫魔妖怪がいかに危険な連中であるかは、凛菜は身に染みてよく思い知っていた。
思い知ると同時に復讐の火を宿し、それからは修行をサボろうなどとは欠片たりとも考えなくなっていた。
奴らを倒す。
この手で、全て倒す!
戦わなければ、あの時の凛菜の親友だけではない。同じように無念な形で人生を終える少女が、これから何人も出てくることになるだろう。下衆ごときに犯されて、その挙句に命を落とす人生など、決してあっていいものか。
そもそも、あの時の凛菜にきちんと闘う能力が育っていれば、親友を守ることだって出来たはずだ。力が及ばないが故にそれが出来ず、あまつさえ凛菜自身が本来なら犯されていたというのは、あまりにも無念で悔しい。
悔しくて悔しくて、このまま黙ってはいられない気持ちになった。
その上、淫魔妖怪という奴は、男で妖力の高い人間を見つけると殺害するのだ。討魔剣士を回復させる役目が男にあるのを知っているので、その可能性があったり、そう確定している人間を見かければ、とにかくその命を狙う。
可能性の上では女が被害に遭う確率が高いが、男の命も狙われるというわけだ。
だから、凛菜は戦う。
人間の自由と平和のために――。
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