ナメクジが少女を犯していた。
黒と紫をかき混ぜ、暗い霧っぽい背景が広がる『空間』の中で、ナメクジを悪趣味に擬人化した男が女に腰を振っていた。二本の触覚――いや、目を頭部に生やし、ぬるりとした肌で腰を掴んで、四つん這いの女子高生を犯している。
状況が違えば、例えばこれがテレビの中の出来事なら、ヒーロー番組に登場する怪人の一種にでも見えただろう。
しかし、これは『少年』の目の前で起きていることなのだ。
ざらつきのある肌質に粘液を滲ませ、頭の上からつま先まで、全身を水分で輝かせているナメクジ男の体つきは、小さい頃に触った事のある本物のナメクジと変わらない。年頃の乙女には生理的に受けつけない存在に違いなかったが、犯す側には容赦がなかった。
「――――――っ! ――――――んぁ! ――――――あぁっ!」
大胆に腰を引き、大胆に貫く。大振りに見えるピストン運動が、その一突きごとに少女を喘がせ、着実に限界へ近づけている。
やがて腰振りは小刻みなものへと変化していき、尻を打ち鳴らす音がリズムよく響いた。
そして――。
「――――――――――!」
声にならない叫びで喉を引き絞り、少女は弓なりに大きく仰け反り、やがて果てたように倒れていった。虚ろな瞳から涙をこぼし、息の上がった様子で横向きになったまま、呼吸で肩が上下する以外はピクリとも動かなくなった。
これはナメクジ男にとっての『食事』なのだ。
肉を喰うでもなく、草や木の実をエサにするわけでもない。人間の女を犯す行為自体が、このナメクジ男にとっては、必要なエネルギーを採取する『食事』にあたる。女はそのエサに過ぎないのだ。
ナメクジ男は他に十人近くもの『エサ』を確保していた。
「んぐ! んむぅぅぅ!」
「――んっ、んぁっ」
それは確保された女達の声だった。
十人近くいる女の、口を塞がれてまともに悲鳴も出せない事がわかる声。
そんな声が『空間』に合唱のように満ちている。
この『空間』に捕らわれた女達は、肉で出来た床と天井の上下から伸びる触手によって、まるで商品の陳列か何かのように、あるいは鑑賞物品の展示のように、手足を校則した状態で並ばされていた。
肉としか形容できないピンク色の、粘液に満ちたヌルりとした床と天井から、イソギンチャクのように伸びた触手が女達を絡め取っている。足腰に巻きつくことで逃げることを封じ、両手をバンザイの状態にさせることで抵抗を許さず、全員の口内にそれぞれ一本ずつが捻じ込まれていることで、誰も悲鳴すら上げられない。
他校の制服を着た女子。パンツスーツの社会人女性。
ジャージを来た女子大生。オシャレな私服の美人。
小学生。中学生。
あらゆる種類の女が、身動きが出来ないだけでなく、全て例外なく愛撫を受けていた。
太ももに巻きついた触手の先端が、スカートの内側で秘所を嬲る。スーツに潜り込んだ触手が豊満な乳房に巻きつく。脇を突き、頬を擦り、尻の割れ目にさえ入り込んでいる。
全員の秘所が、胸が、先端で愛撫されていた。
そして、口に一本が出入りしていた。
しかもこの触手は、先端がまるで男性器の亀頭のようになっていて、先端からは時おり精液に似た白濁が放出される。それを絶えずかけられ続けているせいで、女達のいたるところが白濁濡れになっていた。
数人以上の女と効率良く交わるため、あらかじめ濡らしておくことで、いつでも挿入できる準備を整えているのだ。
そんな中にただ一人の男として、少年は同じく触手で身動きを封じられていた。
どうやら、男を貪る意志はない。
なので、ただ拘束される以外、口へ入ろうとしてきたり、股間へ忍び寄るような触手は一本たりともありはしない。手足さえ封じていれば構わないようだった。
だから、少年はただ見ていた。
ナメクジ男が女を順番に犯していく光景を、成す術がないために、少年はただ無力に眺めていた。
まるでショッピング感覚のように女達のあいだを練り歩き、次は誰を犯そうかと見定めている様子のナメクジ男は、どうやらパンツスーツの女性に決めたらしい。ナメクジ男が彼女の腰へ手を回すと、それがスイッチとなるように、彼女を捕らえていた触手はシュルっと上下の床と天井へ引っ込んだ。
パンツスーツの女性は怯えながら、震えながら寝かされていく。
ナメクジ男は留め金を外してチャックを下げ、膝の部分までショーツごとずり下げる。愛液で蒸れ、白濁で汚れきっているであろう秘所に挿入するため、ナメクジ男は彼女の脚を持ち上げ前へ押し出す。
自身の肉棒を掴み、ナメクジ男は彼女へ腰を押し込んだ。
「――――――――――あん!」
悲鳴にも似た喘ぎ声が響いた。
その時だ。
「――ハァ!」
刃の一閃。
これから腰を振ろうとしていたナメクジ男は、ふと背後に接近する何者かの気配に気づき、慌てて肉棒を引き抜いていた。向かって来る攻撃に対して腕をクロスし、かなりの反射神経で即死を防いでいた。
切り裂かれた両腕の肉から、血というよりは汁が飛び、深く切り込みの入ってしまったナメクジ男の肘から先は、糸が重さに耐え切れなくなったようにぷつりと切れ、肉床の上に落ちて転がった。
「何人もの女性を捕らえ、順々に犯し、やがては全員の純潔を奪おうとした淫魔怪人! 乙女の大切な体を嬲り、その心を傷つけることなど、この如月凛菜が決して許さん!」
そこにはセーラー服の少女が立っていた。
如月凛菜。
頭の高い位置でポニーテールを結んだ凛菜は、長い髪の尻尾を背中へと垂らしている。胸の膨らみで、白いセーラー服を前へ突き上げ、豊満な尻がスカートを持ち上げている。丈の長さは膝の近くまであるものの、尻の丸みに沿って垂れているのがよくわかった。
凛菜は日本刀を構えていた。
刀身の黒い、ただならぬ妖気をまとって見える刀が、その右手には握られていた。
「お前のような悪に生きる道はないと知れ!」
気の強そうに見えるツリ目で敵を見据え、凛菜はナメクジ男へ向かっていく。
「討魔剣士如月凛菜! 参る!」
距離を詰めるための移動を助走にして、右足の強い踏み込みで肉床を踏み抜くような勢いに乗せながら、突きを繰り出した。切っ先を真っ直ぐ向けた一撃は、避けようとしたナメクジ男の肩口を貫く。
刺さるというより、部位が弾けた。突きが決まるや否や、まるで肩口が内側から破裂するかのように、肩肉が丸ごと炸裂し、残された二の腕がボトリと落ちる。ナメクジ男は既に両方の肘から先を斬り落とされていた状態で、さらに右腕を完全な形で損失したのだ。実質的に両手とも失っているのと同じである。
そこで、ナメクジ男は蹴り技を出した。
上段への回し蹴りのスイングを、凛菜は背中を反らすことでやりすごす。だが、ナメクジ男は一撃目の勢いを利用して、身体の回転から、もう片方の足で下段キックを放った。足首を狙うような一撃は、背中の反れた上体からでは回避困難だ。
しかし、凛菜は腹筋の力で反らした上半身を持ち上げる。ただ直立に戻るだけでなく、その際に膝をバネのように縮めていき、姿勢が直立に戻るころにはジャンプが出来る状態が整えられていた。
そうして、凛菜は後ろへ身体を飛ばし、バック転を行った。身体が逆さに反転していきような飛び方で、刀を持たない左腕をバネに使って、一転、二転と、バック転による後方移動で距離を取る。
触手が伸びた。
上から、下から、肉床と肉天井に収まっていた何本も何本もの触手が、おびただしく凛菜を包囲し、亀頭にしか見えない先端をそれぞれ向ける。凛菜を綺麗に丸く取り囲む形で、上下それぞれに触手による包囲網が感性していた。
全ての触手はナメクジ男のコントロール下にある。
凛菜を捉え、戦いに勝つ目的で利用したのだ。
そして、まるで首を曲げたヘビが獲物へ飛び掛る瞬間のように、何十本あるかわからない触手の数々が一斉に飛び掛った。
次の瞬間――。
「昇・竜・斬!」
竜巻が発生した。
厳密には凛菜の起こした竜巻が、内側から触手を飲み込むように広がり、触手の千切れるブチンという音が、風と共に何重にも重なり響く。おびただしい数の残骸は竜巻の力で巻き上げられ、風力の許す限り、全ての触手が天井へ押し付けられた状態がしばし維持される。
プツリ、と。
スイッチでも切れたかのように、瞬間的に竜巻が収まると同時に、それまで天井へ張り付いていた触手という触手が、雨となって床へボトボト落ちていく。
しかし、その中心に立つ凛菜には、触手は一切ぶつからなかった。
凛菜の立っている位置には触手は落ちず、その周囲にだけ、円形状に残骸は転がっていた。
「円・月・斬!」
凛菜は両手で刀を握り、大きく叫びながら、左から右へと、横振りに一閃する。
すると、刀の振られた刃先から、まるで発射されるかのように黒い弧が飛ぶ。三日月の形をした漆黒の刃が、ナメクジ男へと滑空し、胴体を斬り抜ける。
飛ぶ斬撃をするりと通されたナメクジ男は、上半身をだらりと倒し転がし、残された下半身も続けて倒れる。
淫魔怪人ナメクジ男は倒された。
次の瞬間、景色は反転。
今まで広がっていた『空間』の景色が嘘であったかのように、ドームの内側をまわして切り替えるかのように、いつの間にか現実世界の風景がそこには広がっていた。
どこかもわからない、公園。
そこに少年は立っていて、被害者となった女達は集団で倒れていて――。
淫魔怪人を倒した如月凛菜は、滑り台の頂上に立ち、夕焼けの空を見つめていた。
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