第4話「羞恥のモアレ画像撮影」

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 しばらくは腕で乳房を覆い隠せる。
 身長計では手を横に下げ、スリーサイズでは頭の後ろに組む事を強いられていたので、測定中は隠すことを許されなかった。だが、これらの測定が終わって廊下へ出て、次の場所へ移動するまでの最中は、ずっとガードをしていられる。
 散々視線に晒された乳房だけに、こうして腕で守れる事にはちょっとした安心感がある。とはいえパンツはどうにも出来ず、色っぽい背中も腕二本ではガードのしようがない。横の男子列から、チラチラと背中やお尻を見られるのは、やはり我慢するしかないのだった。
 麗奈の前では、ちょうど今朝の子が歩いていた。
 白い布地に水玉模様を刺繍した、ゴム部分はピンク色になった彩りあるパンツだ。白ではないかと風紀委員に言われていたが、柄さえあれば問題無しとして、結局は没収されずに済んだのだろう。でなければ、今頃は彼女だけはパンツも履けず、完全な全裸姿でこうして校内を徘徊しなくてはいけなかった。

 ところで、視力検査は集中しにくい心地がする。
 廊下移動のあいだは分散するが、こうして検査が始まれば、今検査を受けている女の子に視線は集中しやすくなる。パンツのお尻部分をジロジロ見られては、食い込みで割れ目が浮き出てはいないか、尻肉がいやらしいハミ出しをしていないかが気にかかる。今、何人の男子の視線があるのか。皆川にも見られているのか。考えれば考えるほど気が気でない。
「右、左」
 目は良い方なので、麗奈は問題なくランバルト環のCの形の方向を言い当てた。片手で胸をガードしながら、視力検査用の目隠しに片目を覆って、小さくなっていくランバルト環の口部分を次々と言い当てる。
 ただそれでも、恥ずかしさに声が何度か震えてしまい、それが余計に恥ずかしいという負の連鎖に身悶えするような気持ちを味わった。

 内科検診は緊張で全身が強張ってしまう。
 中年のおじさんが聴診器をぴたりと当て、麗奈はそのひんやりとした感触に息を飲み、静かに姿勢を保っていた。ここでは胸が隠せない上、硬くなった乳首に向かって眼光が浴びせられ、真顔で観察され続けるのだ。
 肌の凹凸がないか、視診も含めているらしいが……。
「美しいね」
 感想を述べられ、麗奈は反射的に肩を縮めた。褒められること自体は嬉しいが、とても素直に喜べるような状況下ではなく、むしろ耳まで熱くなるような、異常な照れに襲われて、麗奈は相手の顔を直視できなくなってしまった。
「じゃあ、触診に移るからね?」
「……は、はい」
 さらに緊張が膨れ上がり、心臓が早鐘のように鳴り響く。体内で音を上げていく麗奈の鼓動は、鼓膜のすぐ裏側からバクバク聴こえて思えるほどだ。
 手に乳房を包まれて、じっくり揉まれる。鷲掴みで力を出し入れするように、内部を丁寧に探るようにして指を躍らせる。指先を伸ばして掬い上げ、乳肉を弾ませ振動を加える。おじさんはプルプル揺れる乳房の動きを観察し、それから乳首を摘んで軽くねじった。
「んっ」
 麗奈はピクっと、肩を弾ませてしまった。
 摘んだ乳首を引っ張られ、熱い疼きに鳥肌が立った。

 モアレ検査に移ると、背骨に歪みがないかを目視で調べられる。真っ直ぐに伸ばした背筋の溝に指が這わされ、鳥肌が立って肩が縮んだ。
 ここでも両手は横に伸ばしていなくてはならないので、前を隠せず男子に見られる。男性教師も一緒になって、麗奈の乳房を凝視していた。
「前屈みになってね」
 麗奈は体をくの字に折る。後ろに向かってお尻を突き出した。
 モアレ検査では視診もそうだが、カメラで背中を撮影することによって、背骨の歪みを画像判定するものだ。尾てい骨まで写す必要があるため、パンツを少しだけずらされて、お尻の割れ目が見えかけになる。
 少しだけ見えるお尻を拝もうと、男子の固まりはぞろぞろ動く。見えやすい位置に集まって、一斉に視線を突き刺してくるのが肌でわかった。静まった空気の中、男子の興奮した息遣いが耳を撫で、視線のことを思えば思うほど皮膚が熱くなってくる。
 パシャリ。
 シャッター音と同時にフラッシュが光り、麗奈の背中が撮影された。あくまで検査用なのは理解しているものの、履いているパンツと見えかけのお尻が同時に写されているのだ。男からすればいやらしい目的で使えなくもないのでは? 検査結果を提出しつつ、きっとカメラマンは自分用にも画像をコピーし、好きなときに眺めて楽しむかもしれない。
 疑い過ぎかもしれないが、可能性はゼロではない。
 他にも女子がいる中で、これだけ注目率の高い麗奈の体で欲情しない男など、この地上にいるのだろうか。
 パシャリ。
 フラッシュと共に麗奈は震えた。
 巧妙にずらされたパンツのゴムは、実に上手い具合に食い込んで、お尻をプニッとさせている。男子はゴムの食い込みに注目し、少しでも鮮明に目に焼き付けようとまぶたを大きく開いているのがほとんどだ。
 パシャリ、パシャリ、パシャリ。
 三枚も連続で撮影された。
 パシャリ、パシャリ、パシャリ。
 再びだ。
 他の子は二枚か三枚がせいぜいだったのが、麗奈の時だけ余分に撮影されていた。カメラマンがデジタルカメラの機能を活かし、お尻の部分をズームして撮影していることなど、撮影している本人以外に気づいている者はいなかった。
 パシャリ。
 とどめの一枚も、股の部分を狙った扇情的な写真であった。
 撮影を終わったカメラマンは麗奈の元へ歩んでいき、ずらしたパンツのゴムに指を入れ、元通りに履かせ直せた。
(これも私だけ……!)
 ずれを直してもらっただけだが、人の手でものを履かせてもらうなど、赤ん坊扱いでも受けるような屈辱だった。よりにもよってパンツであるのが、余計に屈辱感を煽ってきた。
(この身に備わる魅惑の力が憎いと思うことなど、今日をおいて他にはない。こういう目に遭うようでは、呪いと変わらない)
 自分が美麗な容姿を備えることをはっきりと自覚している麗奈は、自分の意思に関係なく勝手に男を魅了してしまう自身の肉体を、少し複雑に思っていた。
 ルックスの良さには自覚を持っているものの、麗奈は無自覚なナルシストであった。