「如月咲夜さん」
「はい……」
とうとう、あたしの番だよ。
あたし達のクラスは心臓の音を診てもらうため、男女別の列で医者の前に並んでいた。うん、列は別々だよ? でも別になっているのは列だけで、部屋は同室って何でなの? おかでで、順番の早い女子はみんな、服をたくし上げるところをまじまじと覗き見られていた。
あたしも、これから男子に見られちゃうんだ……。
暗い面持ちにならざるを得ない。
だいだい、医者のおじさんまでいやらしい笑みにやついてる。頭の中がエロでいっぱいであろうことは、もう目を見ればわかるってレベルだ。胸を見せる恥ずかしさは、あくまで診察だって思えばこそ抑えられるものなのに、問題の医者がこれじゃあ羞恥心を堪えきれない。
しかも、横にならんだ男子達も前のめりになって、一生懸命にあたしの診察を覗き込もうとしてる。後ろの方ならいざ知らず、先頭数人の男の子の角度なら、確実にオッパイを見られてしまう。
それでも、受けなきゃこれも終わらないんだよね。
「では咲夜さん。さっそくオッパイを出してくれますか?」
うわぁ……。
医者が診察の時に、こんな言い方するかなあ? 普通しないよね。
あたしは体操着をたくし上げ、ブラジャーに包まれた胸を晒した。横で並んでいる男子の視線が突き刺さって、恥ずかしい。もう一秒でも早く終わって欲しい!
せめて覗いてくる男子には見えないようにと、腕でどうにか胸を庇う。
「ブラジャーもたくしあげてください」
「え、これもですか?」
そんなあ……やっぱり生で晒さなきゃいけないんだ。
下着の上からで済ませてくれるのを期待していたのに、それはあっさり破られた。
あたしは恥ずかしい思いを堪えながら、下着も一緒にたくし上げて両胸を露出した。
あたしの胸、巨乳って程じゃないけどお椀サイズよりは大きくて、我ながら形も整っている。なればこそ、ちゃんと好きになった相手にだけ見せたいと思っていたのに、医者どころかクラスの不特定の男子に見られるなんて、サイアクだよ。
「じゃあ、乳がん検査しますね? 触診でしこりがないかを調べます」
へ? それって暗に揉みますって言ってるようなもんじゃ?
ていうか、心音を診るんじゃなかったの?
だいたい、それにかかるのは三十代か四十代あたりが多くて、十代のうちは検診もないと聞いたことがある気もするんだけど、もしかして揉みたいがためにこんなことを? そうとしか思えない。
「あの、ちょっと待っ――」
あたしの言葉よりも早く、医者の手が両胸を鷲掴みしてきた。
医者はにやにやして、いやらしい笑みを浮かべながら、乳房の肉をじっくりとほぐしてくる。指の一本一本が柔らかくめり込んできて、その淫乱な技巧に刺激されてしまう。
「うぅっ……」
横に並ぶ男子達も、こちらを見よう見ようと腰の角度を変え、とにかく覗き込もうとしてくる。「うわぁ、すげぇ」「咲夜のオッパイ綺麗じゃん」そんな感嘆の声まで飛んできて、恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだ。
「あの、早くして下さい」
あたしはつい、そんな事を言わずにはいられなくなる。
「ええ、じっとしてくれたらすぐ終わりますよ? 乳房は異常なしのようですが、しこりは乳首に出る場合もあるので、そちらも触診させて頂きます」
医者はあたしの乳首をつまんで、優しい力加減でつねってきた。
「いっ!」
「痛かったですか?」
「いえ……」
痛むというほど、力は入れられていない。あくまでやさしくつねってくる。それから、人差し指でぐりぐりとマッサージをしてきた。
「痛いのでなければ、感じていらっしゃるんですね?」
くそぉ、なんてセクハラ質問だ。
「別にそういうわけでは……」
あたしはそうやってこの場を濁そうとするけれど、医者はそれを許してくれない。
「咲夜さん。痛くはなかったのですよね?」
「そうですけど」
「でしたら、感じてもいないのに声が出るのはヘンでしょう。診察に差し支えますので、正直にお答え下さい」
くうぅぅ……。
診察に性感が関係あるなんて、聞いたことない! っていっても、あたしはあたしで乳がんの知識もなければ、診察の知識もありはしない。素人という立場じゃ、下手な反論が出来ないよ。
悔しい……。
こいつ、絶対半分以上はエロ目的のクセに!
横に並んでいる男子も、あたしの返答を心待ちにしてごくりと息を呑んでいる。
「少しだけ、感じました」
あたしは男子には聞こえないよう、だけど医者にだけは聞こえる、そんな絶妙な声量を意識しながら返事をした。
どうやらうまくいったようで、男子達は聞き取れなかったのを悔やむ素振り。医者は頷く素振りを見せる。
しかし……。
「感じたということですね? わかりました」
こいつ! わざわざ男子に聞こえるように言いやがった!
「咲夜の奴マジかよ」
「診察で感じたって?」
「結構エロいんだな」
男子達は口々に勝手な噂話をひそひそし始める。
あたしはもう、顔が真っ赤になった。
「乳首も異常なし。では聴診器を当てますので、ひんやりしますが我慢して下さい」
うぅ…それがメインだった。
早く終わりますように、とあたしは心の中で祈りを捧げる。
右乳首の上に聴診器があたり、あたしの胸はぷにゃりとへこんだ。医者はこうして、音を聞いている間中、あたしのオッパイをじろじろ観察し、口元でにやけまくる。
やがて医者は聴診器をぐりぐりと回すように動かし、あたしの胸を刺激しだした。
この医者め、もう音は聞けたんじゃないの? でもせっかくのチャンスだから、わざと長引かせてこんなことしてるんじゃないの?
このあたしの考えは、あながち思い込みではなさそうだ。
何せ、誰が見たってわかるくらい、医者はいやらしい顔つきをしている。
「あの、ちょっと長くないですか?」
と、あたしは言った。
遠まわしに、セクハラしてねーでとっとと終われ、っていう意をたっぷりと込めたつもりだ。
「そうですね、こっち側はもういいでしょう」
意図が通じてか、聴診器が左の胸に移った。
だが……。
「!」
あたしは驚愕した。
医者は何故か、開いた左の乳房をさも当然のように鷲掴み、再び揉み始めたのだ。
「あの! 乳がん検査はもう終わったんじゃないんですか?」
「ええ。ですが、気になる部分を思い出しましてね。気のせいかもしれませんが、見落としがあっては一大事なので念のために」
「そう…ですか」
生徒の立場で医者には反論できない。
目を見れば、こんなわかりやすい奴のいやらしい意図くらい、すぐに読み取れるものだったけど、こんなものは証拠にならないし、そもそもこの学校自体が、三年間体を捧げる条件で女の子の学費を免除する、という制度を取っている。仮にあたしがセクハラの証拠を突きつけたとしても、学校側がしかるべき対応を取るのは間違いないし、結果的に不利になるのはどうせあたしなのだ。
医者は右のオッパイを揉み続けながら、左胸に当てた聴診器をぐりぐりしてくる。位置を変えるフリをしながら乳首をこすったり、押したりを繰り返してくる。
「まあこんなものでしょう。次は背中の音を聞きますので、後ろを向いて下さい」
何が、こんなものでしょう、だ。
人のオッパイで勝手に満足しやがって!
あたしは悔しい気分になりながら、晒した胸をしまって後ろを向く。生乳公開の終了に、男子は「もう終わりかあ」と残念そうにしていたが、こっちは逆に、露出地獄を抜け出せてホッとしたよ。
「咲夜さん、すみませんが皮膚の状態も同時に診ますので、次は上半身を全て脱いでいただけませんか?」
へ? 何言ってんの?
医者がヘンな事を言ったせいで、男子達が期待に目を輝かせ始めた。「マジ?」「今度はちゃんと見れんじゃん!」「咲夜、早く脱げー!」と、勝手極まりない声の数々が聞こえてくる。
あたしは羞恥心で身を縮めた。
なんなんだよ、この男共は!
「あのお、今脱ぐ必要性って……」
「ですから、背中の皮膚全体も同時に目で診察いたします。なので、たくし上げるだけでは肩にかかった布地が邪魔になりますし、ブラジャーのヒモも好ましくありません」
くそぅ……普通に嘘臭ェ……。
なのに制度を思えば、あんまり過度には逆らえない。
でも、脱ぐのはせめて医者の前で! そして、両手でオッパイを隠してから、もう一度背中を向け直す! そうすれば、胸を見られる時間を少しは減らせるし、見られる男子の数もどうにか抑えられる。
なんていう作戦を、あたしは即座に思いつく。
そして振り向こうとしたんだけど……。
「いいですか? こちらに背中を向けたまま脱いで下さい」
と、指示を下されてしまった。
……もう、やるしかないってわけね。
好きでもない、ましてや入学して日が浅いために喋ったことすらない男子の前で、脱がなくちゃいけないなんて……!
あたしは悲しさと悔しさを噛み締め、たどたどしい手つきで体操着の上を脱ぎ去る。男子達の「おっ?」という歓声が聞こえて、下着を脱ぐのをためらった。
「咲夜さん。次がつかえますので、早くして下さい」
いやらしい医者が、無情な言葉をかけてくる。
あたしは意を決して、自分の背中に手をまわす。ブラジャーのホックを外し、肩からヒモを下ろし、生乳を再び晒し出した。
「おお! 結構大きさあるじゃん!」
「肌も白くてすべすべだし、いいよなあ」
「触りてぇ~」
男子達はこぞってあたしに視線を集め、列をくずしながら、群がるようにして覗き込んでくる。
あたしはたまらず、両腕で胸を隠した。
「さっきからジロジロ見ないでくんない? 女子に気を遣おうとか思わないの?」
これは当然の主張だと思うんだけど、しかし。
「この学校じゃ、そんな気遣いは無用なんだよ」
「ほら、見せろ見せろ」
うぅ……見せたくない。
だけど医者が後ろから、
「咲夜さん。両腕はちゃんと下げて、気をつけの姿勢になってください」
わざわざ姿勢を支持してきやがった。
もう! それに何の意味があるってわけ?
しぶしぶ両腕を下げると、男子達の目が輝く。
「いいオッパイだよなあ」
「揉んでみてー」
感嘆の声が飛んで来た。
あたしはそんな無作法な連中を睨みつけてやるけど、にやにやするばかりで、誰も目を逸らしてくれる様子がない。
背中には、聴診器が当たってきた。
あたしはとにかく、この恥ずかしい時間が一秒でも早く終わるのを望み、羞恥心に耐えながら目を強く瞑る。
背筋では、聴診器が位置を変えながら心臓の音を辿っている。
それだけでなく、医者の余った手が首筋を撫でてきた。
「ひっ!」
あたしはつい声を上げてしまう。
「また感じましたか?」
「まあ……」
嘘をついてもややこしくされるので、素直に答えるしかない。
「感じましたか。生理的反応ですからね。仕方ありません」
慰めのつもりか? だとしたら最初からセクハラをするな。そして死ね。
それでも、医者の手はあたしの背中を這って、ついには腰まで撫でてくる。くびれを通り越して、わき腹をさすられ、さらに乳の側面に指を伸ばされる。
「おお?」
男子達は一斉に、期待に目を膨らませた。
そして――。
「心音は取れました。最後に、もう一度だけ乳がんのしこりを再確認しましょう」
医者はあたりの両脇から手を差し込んで、またも揉み始めた。
「そんな…またなんて…!」
あたしの悲痛の思いも、届くことはない。
医者は無情にもクラスの男の子達の見ている前で、乳首を指でころがしつつ揉みしだいてくる。強く、優しく、力加減に変化をつけながら、執拗にほぐしてきた。
「おお! すげえ!」
「咲夜、表情もエロい」
「ありゃ感じてるよ」
みんなは口々に興奮し合い、あたしをじっくりと観察してくる。
「乳首が勃ってますね」
医者はわざとらしい大きな声で言った。
くっ……こっちは恥ずかしいのに! 男子は女子の羞恥心に対しては気遣いなしか!
「へえ? マジか」
「俺もつまんでやりてえよ」
男子の声が、あたしの恥辱を駆り立てる。
「これは気持ちいいですか?」
医者はあたしの乳首をつまみ、転がし、丁寧にほぐしてくる。
「はい……」
こんな質問にも、あたしはちゃんと答えざるを得ない。
「わかりました。どうやらしこりの方は完全に心配いらないようです。咲夜さんは感度も良いようですので、このへんでよろしいでしょう。はい、もう着替えていいですよ」
検査終了が告げられるや否や、あたしは大急ぎでブラを付け直し、体操着で裸体を隠すのだった。
ムカツク……ふざけた羞恥プレイしやがって。
こんな医者のいる病院には絶対にいきたくない。
でもまだ、他にも検査あるんだよねぇ……。
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