第2話 懲罰室

 そんな身体検査と、それに伴う写真撮影を済ませたのが昨日のことだ。
 今日は今日で、この学校の制服を初めて身に着け、転入前に行う手続きのために書類を持って登校した。まだ正確には生徒ではないのだが、とにかく登校した。
 この転入前日の書類提出は、学校案内も兼ねている。
 学校の方針として、ここでの校則やマナーについて詳しく知らない転校生には、事前の案内をできるだけ行いたいそうだ。
 だから郵便による送付などでなく、実際にこの手で持ってくることが求められた。送付したとしても、案内のための日程は設けたいそうだった。
 その書類の手渡しを済ませ、案内役である教師と顔を合わせてからだ。
 校舎内の理科室や音楽室、保健室や職員室など、基本的な場所の案内のために歩き回って、これでもう中は十分、次は外の案内となってからのことである。
 そこで未音流は禊ぎの光景を目の当たりに、身体検査の直後とはいえ、少し驚いたわけだった。
「未音流さん。あなたもそのうち体験するわよ」
 自分の身に起こる未来として、金網の向こうに並ぶ五人の女子生徒の後ろ姿を見ていたが、実際にそのように言われると、脳裏に浮かんだイメージがより具体的なものになる。
 五人の隣に並ぶ六人目。
 誰もいない空間に対する自己投影。
 未音流は既に、頭の中では同じようにショーツを下ろされ、男子の目にアソコを晒されていた。
(覚悟、しなくちゃ)
 昨日はまだ女医だったが、これからは男子の視線に晒される機会もある。
「さて、次は体育館ね」
 禊ぎの場面でしばし足が止まっていたが、女教師は再び進み出す。
 教師の名前は早乙女優子だ。
 書類を提出する際に顔を合わせて、すぐに名前を教えてもらったが、彼女こそが未音流が転入するクラスの担任らしい。するとこの案内のおかげで、どんなクラスメイトがいるかはわからなくとも、担任の顔だけは事前に知れているわけだ。
 明日の真の登校初日には、おかげで緊張が少しは和らぐのかもしれない。
「あの体育館の屋上がそのままプールになっているわ」
 大きな施設なので、具体的な場所を指されるまでもなく、未音流はその方向に目を向けていた。校庭と隣り合い、校舎とも繋がる建物へ近づくにつれ、未音流は付近にある小屋の存在に気がついた。
 校舎と体育館はL字状に繋がっており、そのL字のあいだに校庭はある。校舎と校庭を挟む道のりに聳える金網は、体育館にまで及んでおり、だから金網もまた巨大なL字であった。
 体育館と校庭のあいだにもまた、道のりを敷いた隙間がある。園芸部が植えたのだろう花壇の花が、金網を背にした道沿いに続いていた。
 校舎沿いの道を曲がって、体育館沿いの道へ迫って、その道中で小屋の存在が目に留まった。L字の曲がり道、体育館と校舎の間、建物と建物の間に空いた空間は屋根付きの渡り廊下が繋いでいるが、一本の廊下だけなら余分なスペースが発生する。
 その余分を埋めるようにして、ぽんと置かれた大きな小屋は、果たして用具入れか何かだろうか。
「あの小屋は懲罰室よ?」
 早乙女先生の口からは、聞き慣れない言葉が出た。
「懲罰って……」
「ちょっと響きが怖いかしら? 罰といっても、そこまで恐ろしいものではないのよ。未音流さん、あなたはルールを破った罰と聞いたら、どんなものが思いつくの?」
「罰掃除とか、反省文とか」
「うん、うちみたいな学校に通ってないと、パッと思いつくのはそうなるわね。それよりはずっと厳しいけど、別に鞭で打ったり拷問するわけでも何でもないから、そう構えることはないわ」
 そう聞いて安心して、その直後に思うのは、とはいえ別に校則を破る気などないことだった。
 世の中には喫煙や万引きなどの非行に走る子供がいるが、未音流はそうしたこととは縁が無い。服装や髪型についても、事前説明の書類に書かれていたので、知らず知らずに破る恐れもない。
「ただね」
 しかし、早乙女先生は言う。
「前の学校――ロシア語のわかる人がいるから、以前までのあなたの評判は聞いているわ。特に問題を起こすことはないでしょうけど、だとしても転校生への決まりとして、懲罰を一度は体験してもらう予定なの」
「……えっ」
 体験という理由で、特に悪いことなどしていなくても、罰を与えられることがたった今決定した。それに対するぎょっとした反応で、未音流は少し目を丸めていた。

     *

 懲罰室の中は、多少抱いた恐ろしげなイメージとは裏腹に、コンクリートの床にテーブルや椅子がいくつかあるだけの、実に殺風景なものだった。
 当たり前だが、拷問器具などどこにもない。
「見ての通り、特別な設備があるわけでも何でもないわ。懲罰に使う道具は、全生徒が一律に所持することになっているけど、それも大したものではないから警戒はしなくていいわ」
 早乙女先生はさらりと言うが、未音流にはその言葉が気にかかった。
「道具、使うんですか?」
「お尻ペンペンのためのね」
「お、お尻……」
 思わず後ろに手をやって、未音流はお尻を手で押さえる。
「体験前に少し説明しておくと、懲罰の内容は校則を破った罰の重さに応じて三段階のランクに分かれているわ。同じお尻ペンペンなのだけど、レベルによって姿勢が変わるのよ。
 そして罰を受ける直前には、マナーとして決められた作法があるのよ。懲罰用の道具のことも含めて、これからお手本の時間を用意しているから、実際に披露しながら説明するわ」
 早乙女先生はふと腕時計を確認する。
「そろそろね」
 どうやら、あらかじめ役割を担う生徒を決め、時間通りにここに来るよう指示していたらしい。

「あ、先生。遅れてしまいましたか?」

 とてもお淑やかで、優しく涼しい声が聞こえた。
 振り向けばその声の主を中心に、三人の女子生徒がドアを開け、この懲罰室の中に現れていた。
「いいえ、ちょうどいいわ」
「よかったです。それで、あなたが高橋未音流さんね?」
 黒髪のロングストレートが綺麗な女子は、おっとりとした顔を向けてくる。
「あ、はい」
「私は西園寺音々といいます」
「よろしくお願いします」
 緊張ながら、そう返す。
「はい、よろしくお願いします」
 対して音々は慣れた風で、初対面の未音流の前で何も物怖じしていない。お手本ということは、これから実際に罰を受けてみせるはずなのだが、そのことについてすら、何らの緊張や不安を感じてはいなさそうだ。
「これから、もしも懲罰を受けることになった場合のお手本の披露会を実施致します。なお、私達は拘束を破っておらず、あなたが言い渡されているのもあくまで体験。このように、純粋な罰とは別に、お尻を叩かれる機会があるのがこの学園であることを、この機に胸に留めておいて頂きたいと思います」
 少し長々と語った音々は、ゆったりと足を進めて、早乙女先生の前に立つ。
「では早乙女先生、この西園寺音々がレベルCと決まりました。実に公平かつ正々堂々と行うジャンケンでした」
「よろしい。では準備して頂戴」
「ええ、ただいま」
 音々を中心とした三人の女子達は、それぞれ両手に箱を抱えていた。揃ってテーブルに箱を置き、その中身が出て来るところを見守るに、音々ともう一人の女子は木の定規を、そしてただ一人だけヘラ状の道具――パドルを握っていた。
「では未音流さん。まずレベルCの罰を受ける、この西園寺音々を最初として、BやAのお手本を披露しますが、その前に一つ、全てのレベルに共通した作法が決められています」
 そう語り聞かせてきた直後、音々は早乙女先生に木の定規を手渡していた。
 お尻ペンペンが懲罰の内容なら、全生徒に配られる道具とは、スパンキング用の備品というわけか。全生徒ということは、入学してから最後まで、一度も罰を受ける機会がなくとも、関係無く所持はすることになるわけなのか。
「まずこのように、道具を懲罰役の方に手渡します。CとBは木の定規ですが、最高の罰であるAに関してはパドルとなっています」
 音々は早乙女先生に定規を手渡す。
 そして、音々は一歩だけ後ろへ下がり、次の瞬間にはスカートをたくし上げていた。
 そういえば、丈が短い。
 これだけお淑やかな彼女である。あまり露出度を上げるタイプでなく、もっと生真面目に丈は長めに保ってもよさそうだが、太ももを丸出しにするミニスカートだ。
 その短い丈が持ち上がり、白いショーツがあらわとなる。
 綺麗に持ち上げていた。
 ただたくし上げるだけの動作に洗練された所作を感じるほど、きちんと両側を握り締め、惜しげもなく高らかに、ショーツを露出しきっていた。

「西園寺音々、これよりショーツを下ろさせて頂きます」

 そう宣言するものの、直後にあるのは下ろす動作でなく、何も起きない沈黙だった。
「…………」
 早乙女先生は何も言わない。
「…………」
 他の誰も、言葉を発さない。
 そのしばしの沈黙を経て、やっとのように早乙女先生は口を開いた。
「よろしい。下げなさい」
「はい。このように一度返事を待ち、許可を頂くことで、初めて下ろすことになるのです」
 音々はショーツを下げ始めた。
「ゆっくり、ゆっくりと、一気に下げてはいけません。心の中で時間を数え、二十秒ほどかけて、だんだんと下へ下へとやっていきます」
 本当にゆっくりと動かしていた。たった一センチの移動に時間をかけようとするように、のろのろと下げていき、膝の位置に至ってようやく止まる。
「レベルCでは膝まで下げます。レベルごとに異なる体勢で、叩かれる時間も違うことは、おそらく既に聞いていることと思いますが、このように下げるショーツの位置も異なるのです」
 そう示してみせた時、早乙女先生は椅子に座っていた。
 そんな先生の元へと歩み、音々はその太ももに腹を置き、叩いてもらうための体勢へ移っていた。
「これがレベルCになります」
 その時だった。

 ペシィ!

 早乙女先生の振り上げた定規が尻を打つ。
「今回、時間は省略することとなっていますが、実際に校則違反などペナルティを受ける場合、この時間の終了後にも、罰として立たされる時間が待っています」

 ペシン! ペシン! ペシン!

 振り上げる早乙女先生は、もう何度かだけ叩きつけ、未音流の見ている前で白かった尻肌が赤らんでいく。定規の形と太さに合わせ、線状に薄らと浮かんだ赤らみは、痛みでヒリヒリとしているのだろう。
 それと同じ目に遭うことを思って、未音流は何となくお尻の上に手を置いて、軽く抑えているのだった。
「終わりよ」
 早乙女先生の手が止まる。
 すると、立ち上がった音々は、ショーツを元に戻すでもなく、膝に位置させたまま、静かに壁際に立ち尽くす。
「こうして、レベルCでは十分間、立たされます。Bなら十五分、Aなら二十分と時間が決められています。あくまでお手本披露会なので、今回は特別に省略となりますが、お尻を叩いて頂いた痛みを感じながら、じーっと、ここでじっくり、立って反省するというわけです」
 音々の順番が終わった。
 そして、ジャンケンで順番を決めたらしい三人のうち二人目となる女子が前に出る。
 音々と同じくして、短いスカートをたくし上げ、校則で白と決まった下着を晒す。「下ろさせて頂きます」と言葉を唱え、早乙女先生が「よし」と答えたところで、その手はショーツにかかるのだった。
 音々は膝までだった。
 ではレベルBである彼女はどこまでか――足首だった。
 そこまで深く下げてから、彼女は姿勢を真っ直ぐのまま、頭の上に両手を置く。どうやら立ち姿勢で行うらしく、早乙女先生はその隣に立つなりスカートを捲り上げ、当然剥き出しとなるお尻に木の定規を振り下ろした。
 ペシッ、ペシッ、と、痛そうな音が響き渡って、それから彼女は音々の隣へ立ち並ぶ。
 ショーツが膝にある音々の隣に、ショーツが足首である女子が立ち、これで罰を受けた直後が二人となった。
 そして最後にレベルAが待っている。
 スカートやショーツにまつわる作法は変わらず、早乙女先生の許しを待って下げるのだが、レベルAに関してはスカートすら脱ぐらしい。
 下半身は裸となって、その上で取る体勢は、机に体を置いて尻を突き出すものだった。

 ペシ! ペシィ!

 パドルによる音が鳴り響く。
 Aだけは定規でなく、パドルが使用されるのだ。

 ペシッ! ペシッ!

 と、音はお尻が広く赤らむまで繰り返され、それから彼女も壁を背にして並び立つ。
 直立不動の三人の女子。
 音々はショーツが膝、その隣は足首、最後の一人は下半身裸のまま、彼女達を待つのは本来なら、反省のために立たされる時間である。
(校則、守ろう……)
 元々、破るつもりはない。
 こっそりタバコを吸いたいわけでも、学校の備品を盗みたいわけでもないが、罰を受ける場合はこうなるのだと、お手本を突きつけられるとルール違反が怖くなる。
 あくまでお手本役として、頼まれた仕事をしただけの三人なのだが、未音流は見せしめを見たような気持ちになっていた。
「ところで、最後にもう一つだけ」
 と、音々は説明を付け加える。
「もし彼女のように――いいえ、あくまでお手本なのですが、レベルAの懲罰を受けることになった場合、脱いだショーツはそのまま没収され、翌日もショーツの着用は禁止になります」
「の、ノーパン……」
「忘れていました。Bもです。Bの場合も、足首にあるショーツを脱がされます。没収されてしまいます。そして翌日をノーパンで過ごして頂くことになりますので、くれぐれも校則を守り、節度の上で楽しい学園生活を送っていきましょう」
「そうですね。はい、そうします」
 タバコも、盗みも、絶対にやらない。
 いや、そもそも興味のないことなのだが、元からやるつもりのなかった非行を頭に浮かべ、やめておこうといった気持ちが尚更に強まるわけだった。