後編 そもそものきっかけ
高巻杏が寝取らせプレイを受け入れたのは、恋人のカミングアウトだけが理由ではない。
最近、とあるパレスに行った。
歪んだ性癖で女を苦しめる男という情報を掴み、その男を改心させるためにパレスへ入れば、そこには随分な光景が広がっていた。
パレスにはその人間の心が現れる。
例えば鴨志田の場合、学校を自分の城と思っているから、兵隊のような怪物が混じっていたり、シャドウのカモシダは王様の装いだった。
では歪んだ性癖の男なら、どんなパレスだったわけなのか。
まるで絵画を展示するかのように、薄型のモニターがあらゆる部屋や廊下に飾られて、そこにはセックスする女性の動画が流れていた。正常位、騎乗位、バック挿入、あらゆる体位で突かれる女性の姿と声は、男女入り交じる怪盗団にとって気まずいといったらなく、微妙な空気が流れたのは言うまでもない。
最初はただただ、人の十倍も二十倍も性欲が強いことの表れだと思っていた。
だが、そんな話ではなかった。
パレスの調査を進めるうちに、怪盗団はそれら動画の正体を知った。
真実の判明に、全員で顔を歪めた。
「正気かよ……」
坂本竜司は動画の数々に真っ先に興奮して、始めはみっともなく鼻の下を伸ばしていたが、ここがどういうパレスなのかを知った時には、さしもの彼も大真面目に正気を疑っていた。
「とても普通とは言えんな。というより、こんな性癖が存在するとは思わなかったぞ」
喜多川祐介も驚いていた。
「まったくね。おかしいったらありゃしない」
杏としても、その性癖をそう吐き捨てた。
展示された動画では、いつも決まった顔ぶれが動いていた。五人はいたであろう女性達の、交わっている映像全てが、寝取らせプレイのものなのだ。
パレスを生み出した大元は、つまり自分の恋人を別の男に抱かせて悦んでいた。そして、それこそが彼に関わった女性を苦しめ、幾人も悩ませる原因となっていた。
驚くような趣味の上、しかも言う事を聞かなくなった女性に対して、撮った動画で脅すような真似までして、その歪みこそがパレスを生み出したのだ。
ジョーカーこと雨宮蓮が、寝取らせという性癖について知ったのは、あのパレスがきっかけだ。
だが、真の原因は戦闘にある。
現実の男性に予告状を出し、パレスのお宝を盗み出す際、ボスとの戦闘で杏は攻撃を受けかけた。怪しげな光線が目前に迫り、そこへすかさず飛び込んだ一人の影が蓮だったのだ。
蓮に攻撃から庇ってもらった。
『お前達の性癖も歪ませてやる!』
怪物の光線は、そんな言動と共に放たれたものだった。
つまり蓮が寝取らせについて打ち明けて、それを杏に求めた理由は、元々杏を庇ったせいかもしれない。
杏にはその責任感があった。
恋人として、この手でなんとかしてやりたいが、性癖そのものを矯正する手があるだろうか。
内容が内容だけに、仲間への相談がし難いといったらなく、ネットで色々と調べてみても、望みの情報は見つからない。
そんな杏の耳に入ったのが、まさにスワッピングだの寝取らせだの、そういう事をするカップルの話であった。読モの仕事で何度か同じ現場になった女性が彼氏持ちで、寝取らせプレイのために彼氏ではない男に抱かれた経験があると話していた。
渡りに船、杏は彼女に相談した。
自分もまた、彼氏から寝取らせを望まれていると伝えると、彼女は自分を抱いたという男を紹介してくれた。
その男性もまた読モらしい。
それだけに顔が良く、脱げばガタイの良い男と共にホテルへ入り、杏は緊張にまみれた顔で裸となって、生まれてこの方、一度も考えた事もなかった奉仕を行った。
「んずぅ……ずっ、ずむぅ…………」
フェラチオが辛かった。
初めて蓮に頼まれた時、恋人の一物に対してなら、むしろ性的な好奇心を発揮した。肉体関係を持つことに不思議がない、着衣という名の壁を取り払う間柄では、それで悦んでもらえるならと、さほどの抵抗なく口に含めた。
だが、相手は惚れてもいない男である。
惚れる惚れないどころか、顔合わせをしたらすぐにホテルの中に入ったような、好意を抱くタイミングがそもそも存在すらしない相手だ。始めに軽く挨拶を交わす際、寝取らせプレイについて理解がある、これはこのような理由の性癖であり、だから差し出された女性を口説くつもりはないという、ポリシーの説明があったくらいだ。
その説明のおかげで、多少は不安が薄れた部分はあるが、好きでもない相手と裸で絡み合うという、根本的な嫌悪感については変わらない。
「ずぅ……ずむぅ……ずむぅぅ…………」
太さに合わせて唇を丸く広げて、頭を前後に動かすことが辛い。
動画を撮られていた。
男がカメラを手に持って、後ろからも三脚台を使って撮られている。レンズによる挟み撃ちを受けた中、杏は床に膝を突き、抵抗感を懸命に堪えて奉仕している。
「ふじゅぅ……ずっ、ずぅぅ……ずむぅぅ…………」
肉棒はもちろん洗ってある。
しかし、好きでもない男である以上、汚いものを咥えたような拒否感は拭いきれず、杏は顔中を硬くしていた。
杏は必死に蓮のことを考えていた。
(蓮……蓮のため、蓮のため…………)
確かに、今ここにいるのは別の男だ。
この唇で、舌の感触によって、快楽を得ているのは、視線を上げた先で満足そうな笑みを浮かべた男である。
しかし、だとしても、彼のためになどやっていない。
蓮の歪んでしまった性癖を満たすためにこそ、こうして他の男とホテルにいる。寝取らせプレイ、などというものさえなければ、そもそも接点すら持たなかった男になど、悦んで欲しい思いはない。
本当に悦んで欲しいのはあくまで蓮だ。
(蓮、蓮……)
杏にとって、これは恋人への奉仕だ。
自分がこうして他の男のものを咥え、フェラチオしている姿を見て、最愛の恋人が興奮する。そんな未来のためにこそ、蓮に捧げるのだという意識を持って、いっぱいに口を使って刺激を与えていた。
「んちゅぅ……ちゅむぅ……ずっ、ずむぅ………………」
もっとも、いくら蓮のためを思っていても、顔の険しさや抵抗感は拭いきれず、果たしてどれほど様子に表れていた事か。
パイズリを行う際も、やはり鳥肌が広がったり、肉棒の温度におぞましさを感じていた。
後ろから抱きつかれ、背中に男の肌や体温を感じた時など、全身が引き攣りそうだった。
そんな調子での本番行為だ。
ベッドの真横に三脚台を設置して、アームの接続によってカメラを宙に浮かせての、仰向けとなった杏の目の前、天井への視線を遮るようにレンズが光り、そしてコンドームの装着を経て挿入は始まるわけだが、結合によって下半身には怖気が走った。
(わ、私……っ、ホントにシちゃって……!)
本来、受け入れるはずのない男を受け入れて、その苦痛を杏は必死に堪えていた。
我慢に我慢を重ねる時間のはずだった。
ところがピストンが続いていくうち、感じるつもりのなかった刺激がアソコを中心に走り始めた。
いや、快楽それ自体は、後ろから抱きつかれた際に、絶頂すらするほど感じさせられ、だから本番行為でもそれなりの状態になるのは覚悟していた。
しかし、杏は歯噛みした。
やはりイカされる羽目になり、頭の中身がどこかへ飛んで、真っ白な時間を何秒も過ごした果てに、そこには大手柄でも立てたかのような、本当に調子に乗った表情が浮かんでいた。
(ふざけんな! なんでコイツがそんな――ちょ、調子に乗って――!)
これは蓮のためなのだ。
寝取らせプレイでもなければ、手だって繋がない――いや、それ以前に知り合うこともなかった男が、こんなにも嬉しそうな顔をしているのが気に入らない。
どうして、お前が悦んでいる。
悦んでいいのは蓮であってお前ではない。
そう言いたくてたまらない気持ちが溢れ出し、そんな杏に向かって直ちに二回目の挿入をしてきたのだ。
ひどく喘がされた。
もうアソコのスイッチが入っているせいか、その性交では直ちに快楽が迸り、シーツに爪を食い込ませたり、髪をいっぱいに振り乱して、何分もかけて喘ぎ続けた。
そしてまた、イカされた。
全身に甘く激しい電流が駆け抜けて、脳にも痺れが残るような感覚だった。アソコの余韻に至ってはもっと如実な、もう引き抜かれた後なのに、まだ挿入やピストンが続いている感覚が染みついていた。
「どうだったー?」
絶頂はこれで三回。
それだけの記録を出した男は、ますます調子に乗った顔をしていた。
「どうって、二回もするなんて聞いてないわよ」
「気持ち良かったっしょ?」
「ええ、そうね。絶頂ってやつ? そのせいでくたくただし、ソッチも十分楽しんだでしょ?」
「つれないねー」
「口説いてこないって約束よね?」
「もちろんだとも」
「だったら、二回もシたんだし――――」
これだけやれば十分だろう。
これ以上、この男と共に居たくない。
好きでもない男が人のことを感じさせ、あろうことか絶頂まで味わわせてくる時間など、もう過ごしたくない。
とにかく切り上げて欲しい杏に向かって、そんな気のなさそうな男は高説を述べてくる。
「寝取らせってさ、要は自分で抱くだけじゃ味わえないもんを求めてるんだよ。最初に言ったっしょ? 例えば、他の男に抱かれるシチュエーション自体を求めているって」
始めに挨拶を交わした際、寝取らせとはどういう理由の性癖であり――などと、この男は語っていた。そこで語られた言葉の中に、確かそうした説明があった気がする。
「それが何よ」
「自分のセックスに自信がなくて、他の男ならもっとヨガった姿を引き出せるんじゃないか? ってヤツがいた」
「それは蓮じゃないわ」
「他にはまあ、好きでもない男とセックスしてる顔が見たい。我慢しながら感じているところが見たい。愛する女性のはずなのに、自分はどうしてそんなものを求めてしまうのか、って感じのヤツがいた」
「へえ、あなたこんなこと何回してるのよ」
「これは色んな男に共通していた。寝取らせを考える男は、ほとんどそういう傾向にある」
「どんな傾向よ」
「快感に屈服する姿を見たがる」
男が得意げに口にした時、杏はそれを鼻で笑った。
「バッカみたい。屈服? そうね、確かに私はイったわよ。もうね、気持ち良かったのは否定のしようがないけど、それで屈服ってなに? 笑えるんだけど」
「ま、俺が杏ちゃんに聞きたいのは、ただ一つ。せっかくなら、きちんと彼氏に悦んでもらいたいはずだろう? もっともっと、最高のネタを俺なら彼氏くんに提供できる。なのに、もうこれでいいのか? 杏ちゃんはさ、二回目は無しって考えてない? なら今日限りで十分なネタを撮影して、いっぱい提供できた方がいいとは思わないか?」
「そう言われても……だからクタクタだって…………」
杏は言葉を濁した。
好きでもない男とセックスをする成果として、蓮が悦んだという結果がなければ仕方ない。
(あまり悦ばれても、それで次を求められたら困るけど……)
かといって、もし何ら悦ばれることがなかったら、一体何のために我慢をしたかがわからない。
乗ってやろう。
どうせこの男は、楽しいセックスの機会が惜しくて言っているだけだろうが、それで蓮に捧げる動画の量は増やせる。
(決めたわ)
杏は一旦目を瞑り、そして――。
「いいわ、続けなさいよ」
屈服などという、馬鹿げた言葉を見下して、そんな真似が出来るものならやってみろ――と、思いながらに、杏と男で次の撮影に取りかかる。
次はバック挿入だった。
背中を見下ろすアングルのため、一台のカメラはアームの接続で四つん這いの真上に浮かせ、さらにもう一台のカメラでは横から撮る。
セッティングを済ませてベッドの上、杏は突いた両手でシーツを握り、後ろからの挿入を受け止める。今日でもう三回目となる結合で、きっと絶頂については四回目を迎えるだろう。
(けど、イったからなに? 本当になんだっていうの?)
それで屈服……。
……ありえない。
「あぁん!」
ピストンが始まって、杏はすぐに喘ぎ始めた。
「あっ、あぁん!」
大胆にぶつけるようなグラインドで、お尻に打ちつける音が鳴る。勢いよく貫く一撃のたび、強烈なものが背骨すら貫通して、脳まで快楽を届けてくる。
「あっ! あっがぁ! やっ――ちょっ、ちょっと……! ああん! あん! あん! あん! あん!」
ものの数秒で頭が真っ白になりそうな、本当に激しい快感の嵐が襲ってきた。体の内側に風が吹き荒れ、筋肉も神経も何もかも、気持ち良さによってかき混ぜられる感覚は、天国なのか地獄なのかがわからない。
「あぁ……! あっ、あぁぁ……! あっ、あぁ……!」
どんな映像が撮れているかはわかっている。
上から見下ろすカメラによって、上下に蠢く背中が撮られている。尻を打ち上げ胴体が弾まされ、きっと出来上がった動画を視聴したなら、腰を前後に振ることでのリフティングが向こう何分も続いている。
その時だ。
シーツに込める握力が強烈なものとなり、杏の頭には激しい快感の火花が散った。
「くぁああ――!」
また絶頂させられていた。
これで本当に四回目――しかも、男は腰を止めてくれない。イっている杏に対して、まだ尻を打ち鳴らし、パンパンと良い音を立ててくる。
「まっ――! い、イって――ちょっと待ってっ、あっ、ああああぁぁ――――!」
狂おしい電流の真っ最中に、そのまま快感を与え続けてきているのだ。
みるみるうちに次が迫った。
「杏ちゃーん? 屈服しちゃう?」
「そういう……バカじゃ……! するわけ――あっ、あっ、あああっ! あん! あん! あぁん! あん! あん!」
体の中で目には見えない風船が膨らんで、瞬く間に破裂へ迫る危機感に、心の底から待って欲しい思いに駆られた。
「あぁぁぁぁぁ――――――――っ!」
そして、ビクン!
――と。
四つん這いであった杏の体は、高らかに背中を弾ませ猫背のように丸まって、その勢いで額をシーツに近づけていた。
連続で絶頂させられて、ようやく肉棒が引き抜かれる。
「はぁ……こ、こんな……連続とか……はぁ……はぁ……!」
すっかり息の上がった杏の尻へと、ぺたりと手の平が置かれていた。好きなように撫で回す手つきに対して、絶頂の余韻と疲弊感で、何を思う余裕もなく、ただただ懸命に息を整え、少しでも体力を取り戻そうとしているのだった。
「どう? 降参?」
男が得意げに尋ねてくる。
「だからなんなのよ! その屈服とか降参って!」
「まあまあ、別に負けたからって、罰ゲームを考えてるわけじゃないから、気軽に降参して欲しいなー」
「ホントに意味わかんないから!」
「はーい、次は杏ちゃんが上になって欲しいなー」
「ああもう! あと何回する気よ!」
男の精力が途切れない。
ベッドの上には使用済みのコンドームが散乱して、その全てが精液を閉じ込めているというのに、まだまだ何度も出せそうな勢いだった。
*
蓮の握るスマートフォンで杏が弾んでいた。
『あぁ……! あっ、あぁん! あん! あん!』
激しい上下運動が乳房を揺らす。本当にぷるんぷるんと、魅惑的に暴れように蓮は魅入った。
杏がこんなにもよがっている。
こんな、ここまで――。
『あっ! あっ! あぁ……! あっ、あん!』
自ら弾んで髪をいっぱいに振り乱す、画質の良い動画を拡大させれば結合部がよく見えて、両者の股からゴムを被った肉棒が見え隠れしていた。
『あぁ……! あっ、あっ……! あっ……! あっ……!』
ああ、もうすぐ限界だ。
動画を視聴しているうちに、絶頂の瞬間が読めてきた。もうそろそろだと予感して、まさにその数秒後に、杏は肩を高く大きく弾ませ猫背になった。
『あぁぁぁ――――っ!』
ビクっと体を前のめりに、垂らした前髪の影に表情を隠した杏は、その姿勢によって乳房を垂らす。
『はい、続けるよー』
仰向けになっている男は、すると下から腰を掴んで、打ち上げるようなピストンを始めていた。
『やっ! ちょっ、ちょっと! イったばっか――あっ、あっ、あっ、あっ――――!』
蓮は興奮した。
本当に、あと何回イカせる気だ?
まだまだ続く動画の時間、まだまだ残る動画のファイル、それら全てを視聴しきる頃には、杏は一体どうなっているのだろう。
怖いような、そそられるような、心臓の激しい鼓動を手で押さえ、蓮はその動画に魅入られていた。
『あぁぁぁ――――――っ!』
杏はまた絶頂する。
騎乗位においての二回目は、背中を大きく反らし、危うく後ろに倒れそうなものだった。
『あっがぁ――ああぁああ――――――!』
三回目はまた肩を高く弾ませ、そして次の瞬間にはぐったりと前へ倒れる。咄嗟に突き立てた両手を男の胸に置く事で、自分の体を支えていた。
そんな杏へと、男は打ち上げのピストンを続けるのだ。
『んっぐぅ――! ま、待ってってば! 待ちなさいよ! もう私……い、イキたく……これ以上……やっ、やめて……!』
懇願の眼差しを浮かべる杏に、それでも男は容赦なく、腰を両手で掴んでいるのも逃がさないためなのだろう。
激しいピストンが杏をどこまでも狂わせた。
『あっがぁ! あぁ――あっ、あぁぁ………………!』
吠えるような喘ぎ声、髪を乱して余りある体のよがり、嵐に晒されたも同然の姿が画面の中に収まっている。
こんなものを蓮は知らない。
見たことがない。
高巻杏という女の子は、ここまで狂うことが可能だったのかと、蓮は動揺で目を見開き、瞳を激しく震わせていた。
『ねえ、ホント……もうムリ……! イキたくない……!』
何度も何度も、あと十回はイカせるつもりに見えた動画の中で、杏は弱々しく懇願する。
その頃には両手で体を支えるのがやっとのように、男の胸へと突き立てた腕により、すっかり前へ傾いていた。
『んじゃ、降参しちゃう?』
『す、する…………』
ドクンッ、と。
心臓が弾む。
『なら、宣言してみない? オチンポに負けましたって』
杏がそんな宣言を?
快楽で屈服など、そんな事はあり得ないと口にしていた、この男は一体何を言っているのかと、本気で理解できない風な顔をしていた杏が、オチンポなどと言わされるのか。負けたと、口にさせられるというのか。
『………………』
しばらくは無言であった。
だが、男がこう言うと、杏は慌てた。
『あれぇ? まだ降参しない系? だったら、もうちょっと攻撃を続けないと駄目かなー?』
わざとらしく煽るや否や、杏は慌てふためき懇願した。
『待って! ま、負けたから! 言えば満足!? ヘンな敗北宣言みたいなコトを!』
『そうそう、それが面白いんだよ。雨宮蓮に届くように、しっかりとカメラを見て宣言しな』
動画の杏と目が合った。
本当に合っている最中だと、ひょっとすれば言えるのだろう。既に起こった後の出来事を見る蓮と、動画を送った後のカメラの向こうを見る杏の、両者の視線は確かにここで重なり合い……。
杏は口を開いた。
無念そうに目を瞑り、閉じた唇を大きく開き、そこから出て来る言葉を蓮は心待ちにしてしまっていた。
『れ、蓮……私、この人の……お、オチンポに……。ホント、こんなこと言わされるの、すっごく困るんだけど、とにかく私は……負けました……もうイカされるのが限界で、降参しないともうムリで……それで、オチンポに負けました…………』
蓮は衝撃を受けていた。
頭をハンマーで打ちのめされたかのように頭が揺れ、心が激しく震えていた。
杏が、杏がこんな……!
そして、動画はまだ残っている。
まだまだ、いくつも……!