本文 犯される符玄
完全に油断していた。
もう大丈夫、占いに出てきた災難なら、全て過ぎ去ってしまっただろうと思い込み、警戒よりも寝付くことを優先した。
その結果が背後からの不意打ちになろうとは、己の油断を悟った時にはもう遅い。
どうやら、この私室に侵入者が潜んでいたらしい。
普段なら即座に気配を悟っただろうが、油断のせいか簡単に忍び寄られて、初めて侵入者の存在に気づくのは、後ろから羽交い締めに、薬の染み込んだ布で口を塞がれた時だった。
そうなって初めて気づくようでは遅い。
即効性の薬が直ちに体の中に浸透して、その意識は暗闇の中に沈んでいき……。
*
符玄は夢の中、今朝の出来事を思い出す。
占いが災難を示していた。
何者かによる襲撃を受け、いらぬ苦労をするであろうと予知したことで、ならば今日のところは大人しくしていようと考える符玄であった。
(雨に降られる占いなら、外に出ないことで運命を避けるのよ)
符玄は自身の占いに絶対の自信を持っているが、それは今日の出来事を正確に予報して、傘がいるかいらないかを読み解けるということでもある。賊か何かの攻撃が予想されるのなら、そもそも外に出なければいい。
(というわけで、災難とは遭うこともなくおさらばよ)
と、思った。
だが、そんな時に限って通信が入ってくる。
町に不埒な輩が現れたので対応すべし、などという話がどうして太卜司にやって来るのか。
「はぁ……仕方ないわね……」
符玄は大いにため息をつきながら、仕方がないので重い腰を上げて外に出る。
当たる占いとは、こういうことでもある。
雨に濡れる未来なら、外に出ないことで避けられるはずであっても、外に出なくてはならない用事がちょうど良く舞い込んで、引きこもるということが阻止される。
「ま、仕方がないわね。当たるんだから」
仕方なく、本当に仕方なく外に出た符玄は、結論から言うと帰る頃には疲れ切った。
一度ならず、二度も三度も賊が現れ、実力を発揮することになろうとは、おかげで私室に戻った時には疲れた顔で全身がベッドを求め、今日はさっさと寝ようと、休むことだけに意識は注がれきっていた。
その油断、大いなる心の隙を侵入者が突いたのは、偶然かはたまたは狙ってのことなのか。
「占い以上の結果だわ」
目覚めた時、符玄はどこかの牢屋にいた。
床も壁も石造りの、正面は鉄格子に閉ざされた牢の中、符玄はどうやら手足を鎖に繋がれている。大の字で壁に磔に、背中に硬い石壁の感触が当たっている。
「こんな真似をして、ただで済むとは思わないで頂戴」
符玄は言い放つ。
目の前には容姿の醜い男がいた。
人のことを見つめてハァハァと、随分と興奮した息遣いで、鼻の下を伸ばして視姦してくる。鼻の下が伸びきって、ただでさえ悪い容姿が余計に歪んだ男の双眸は、目の血走ったものだった。一匹のケダモノとして、見るからに獲物に対してヨダレをだらだらと垂らしていた。
その滴が床へと落ち、石の中に染み込んだ。
「しかも、そんな格好」
符玄は男を蔑んだ。
上半身裸の上で、下の方にも下着一枚しか身に着けない。そして言うまでもなく勃起して、その大きさで布を内側から押し上げている男に対し、符玄はいくらでも顔を引き攣らせているのであった。
「はぁ……はぁ……! 前から、君とこうして、二人きりになってみたかったんだ……!」
「気持ち悪いわね」
「逃げられないよ? 今夜は僕と、ずーっと一緒に過ごそうね」
顔中が引き攣った。
(誰がこんな奴と……)
符玄はどうにか拘束を解けないものかと腕を動かし、鎖を軽く引っ張るが、とても脱出できそうにはない。大の字となった手足を少しでも内側に引き寄せれば、手首や足首にかかった鉄の枷が食い込んで、四肢の可動すらままならない。
そんな符玄へと男は迫る。
逃げようにも逃げられず、ただ距離が縮まるのを見守っているしかない歯がゆさに、符玄はきつく歯を食い縛る。
目の前に顔が迫って来た。
荒っぽい息遣いもさることながら、眼差しの気持ち悪さで、口臭の不快感で、符玄は男から目を背ける。頬と耳だけを男に向け、壁に視線を突き刺した時、さらに距離が縮まって、首筋に鼻先が触れるのだった。
鼻先が少しだけ掠めるくすぐったさと、それ以上の不快感で符玄は頬を硬く歪めた。
「嗅ぐんじゃないわよ」
体臭を吸い上げるなど気持ち悪い。背筋に悪寒が走り、思わず身震いしてしまう。それに露骨な視姦の眼差しも、ただ視線で肌をなぞられただけでさえ、妙な汁でも塗られたような嫌悪感が走るのだ。
すー……すー……。
鼻で吸い上げる音は、耳の穴すら犯してくる。
「気持ち悪いのよ! 本当に!」
たまらず腕を動かした。
脱出は困難だと、本当に随分と頑丈な鎖だとわかっていながら、それでも反射的な行動に走っていた。引き千切らんばかりの勢いで鎖を引っ張り、意地でも脱出しようとして、しかし手首にかかった枷が皮膚に食い込み、あとは鎖の暴れた金属音が鳴るばかりで、脱出できそうな気配すらない。
「ずーっと、チャンスを窺っていたんだよ?」
耳に向かって、生温かい息が触れてくる。
「何をチャンスって……!」
無理だろうとわかっていても、符玄は懸命に腕を引っ張る。力をかけ続けさえしていれば、鎖を壁に打ちつけるための杭がいつかは抜けないか、符玄はそう期待して脱出の努力をやめない。
「君を僕のものにしたいと思っていたんだ」
「気持ちの悪い!」
脱出の試みそのものが反射であった。
目の前の男があまりにも気持ち悪くて、拒否反応が猛烈になるあまり、体が勝手に脱出の努力をする。そのために皮膚に枷が食い込んで、いくら負荷がかかってこようと、体臭を嗅がれる気持ち悪さや視姦される嫌悪感の方にこそ、そんな痛みよりもずっと拒否感が働いていた。
だが、その努力は不意にぴたりと止まっていた。
それまで何度でも鎖を引っ張り、その力によって鎖はピンと伸びていた。たるんでは伸び、たるんでは伸び、その繰り返しが壁をなぞって、小さな金属音を立て続けていた。
そんな符玄が急にぴたりと止まっていた。
その停止の原因は、男が伸ばした手であった。
もみっ、
と、手が乳房を鷲掴みにしていた。
その戦慄でたちまち全身が強張って、符玄は一瞬にして凍りついていた。おぞましさのあまり引き攣って、頭から爪先にかけての全てに鳥肌を広げていた。
「ああ、可愛い胸だねぇ?」
もう一方の手まで置かれて、符玄のささやかな胸は揉みしだかれる。
「……っ!」
ますます引き攣った。
より大きな拒否反応が働いて、その触れられた部分から、まるで腐食が広がっていくような、皮膚がみるみるうちに汚染されていく感覚に襲われていた。
「さ、触らないで…………」
あまりにも気持ち悪さを感じると、まるで恐怖に縮み上がった声が出てくるものなのか。符玄の声は震えを帯びて、そして男はそんな言うことを聞きなどしない。
「ああ、初めてもんじゃったなぁ? 符玄ちゃんのオッパイって、こういう感じなんだねぇ?」
「うぅ……!」
耳が腐ると本気で感じた。
この薄ら寒い声を聞くだけで、うなじや背筋に寒気が走るばかりか、鼓膜すら汚染された気持ちになる。耳の穴に腐敗が広がり、顔の内側がどうにかなっていくおぞましさに、より一層のこと引き攣っていた。
触られるのは胸だけでは済まされない。
乳房から離れたと思いきや、今度は腰がまさぐられる。着衣の上からすりすりと、手の平による摩擦の音が鳴ったと思えば、男はそのまま後ろ側、壁と胴の隙間に指先を及ばせて、お尻を触り始めていた。
「やっ、やめなさいよ! 離れなさいってば!」
符玄は喚く。
だが、男はやめるどころか腰を押しつけ、自分がいかに興奮しているかを、その勃起の感触によって伝えていた。下着一枚だけを介した肉棒が太ももに埋まってきて、符玄はもはや気持ち悪さで泣きそうになっていた。
無理だ、とても耐えきれない。
おぞましい地獄に喘ぐ符玄に対して、男はスカートに手を及ばせていた。丈の内側に指を這わせて、白いタイツを下着もろともずり下ろした。
「なっ……!」
一瞬だった。
大の字である姿勢に合わせ、足首とのあいだで破けそうなほどに生地が伸び、スカートの中身がすーすーと、符玄はノーパンにされてしまった。
そして次には抱きついてきた。
「うぅ――――っ!」
顔どころか、全身の肌という肌、筋肉という筋肉が引き攣っていた。拒否反応などいくらでも広がっているのだが、体が密着してきたことで、細胞や血液に至るまでもが男のことを拒否していた。
だが身動きが取れない以上、符玄が何をどう感じていようとも、その密着から逃れることは出来ない。
背中に両手が這い回った。
「気持ち悪い……気持ち悪い……!」
脱がせることが目的のようだった。
符玄の身に着けている着衣、その後ろ側にある紐を触って、ほどける場所を探している。下の次には上も脱がせることが男の狙いだ。
そうはさせまいと、符玄は背中を壁に押しつける。男の両手は体と壁の隙間に入っているのだから、そうやって力をかければ妨害できると思ったわけだ。
しかし、そんな符玄に対してである。
べろぉぉ……!
舌先で頬をなぞられた。
「ひぃ……!」
皮膚に唾液の筋が残っている。
身動きさえ自由なら、今すぐ風呂場でも洗面所でも駆け込んで、必死になって洗い流しているところだ。
その一瞬の隙だった。
背中の紐がどうにかほどかれ、着衣が緩んだその瞬間、今度は前がずり下げられた。スカートの中身と違い、即座に乳房が露出して、ささやかな膨らみ具合が男の視線に曝け出された。
「……っ!」
頬が赤らむ。
「可愛いねぇ? 綺麗だねぇ?」
男の視線が突き刺さる。
こんな醜い男に視姦されての屈辱と恥ずかしさで、符玄の顔はまんべんなく強張り歪んでいた。
男の顔が迫ってくる。
「薄らした形が本当に可愛くて可愛くて、とーっても好みだ。むしゃぶりついて、いっぱい、いっぱい味わいたいなぁ?」
耳元へと囁かれた。
それら言葉と共に生温かい息が耳の穴に入り込み、符玄はいよいよ気持ち悪さが理由で涙目になっていた。
「ああ、髪も綺麗だ。触り心地が抜群だよ」
男は髪に触れ始める。
掴まれた一房の中に指が入ると手櫛が通され、そしてその手は生の乳房へと食らいつく。べったりと、生肌に置かれた手の平の感触に、温度に、符玄は反射的に体を後ろへ引っ込めようとしていた。
背中は壁に触れているのだ。
引っ込める先などないが、肉体の反射的な動作はそうなっていた。ただ阻まれるから引っ込むことが出来ないだけで、全力でそう動こうとはしているのだった。
逃げたくても逃げる先のない、ただ壁に背中を押しつけるだけとなっている符玄に対し、男は嬉々として指を踊らせる。好きなように揉み心地を味わって、撫でる手つきで肌触りまで確かめる。
「やめなさい! 今すぐやめないと――」
「やめないと、どうなるのぉ?」
その時、男の手がスカートの丈を掴む。下着もろともタイツが下ろされいる今、それが捲られた瞬間に、もっとも肝心な部分が視線に晒される。
符玄は固まっていた。
「だ、だから……やめないと……」
自由な身動きさえ取れれば、こんな男一人など、どうとでもなるはずだ。そもそも油断さえしなければ、捕まることすらなかっただろうに、格下の男ごとにに言いようにされ、ろくに犯行できない歯がゆさに、符玄は唇をきつく引き締めていた。
ばっ、と。
何の容赦もなく、スカートは持ち上げられた。今まで丈に隠れていたワレメがあらわとなり、視線も遠慮無く注がれて、符玄はますますの恥ずかしさで顔中を真っ赤に染め上げていた。
「変態! クズ!」
悔しくて、悔しくて、どんなに抗いたくても、この鎖がそれを許さない。決して振るうことの出来ない暴力の代わりに、符玄は荒い言葉での罵倒を始めた。
そうしなければ気が済まないように、睨みながらに男を変態と吐き捨ていていた。
「許さない! 絶対にゆるさ――なっ、あぁ……!」
符玄は狼狽した。
男はその唇でもって、乳首に吸いついてきたのである。
戦慄が走るどころではない。細胞がみるみるうちに汚染され、体の芯までドス黒く腐敗していくような、あまりのおぞましさに涙が流れた。何かが気持ち悪いという理由だけで、符玄の頬には涙の筋が伝っていた。
「ちゅっ、ちゅぱ……」
吸い上げる音が立つ。
「ちゅっ、ちゅっ」
吸引力を効かせることで、少しばかりの愛撫を行うと、男はもう片方の乳首にも吸いついた。
やはり、ちゅぱちゅぱと音を立て、その唇を離す時には、舌と乳首のあいだに唾液の糸が引いていた。
「くっ……この……!」
睨みつける符玄に対して、男はただニヤニヤと、鼻の下を伸ばした視姦の眼差しで返している。下の方へ手をやって、性器の縦筋をなぞり始めれば、符玄の罵倒はますます激しいものとなる。
だがどんなに喚いても、男が辱めをやめることはない。
その声もまた楽しみの一つであるように、嬉々として愛撫を活発化させ、染み出る愛液を指先に絡め取る。
そして、見せつけた。
わざわざ顔の近くに手を運び、指のあいだで糸を引かせて、愛液を見せつけていた。
「なんなのよ! それがなんだっていうの!?」
「いっぱい感じてくれたんだねぇ?」
「うるさいわよ! 気持ち悪い!」
「もっと気持ち良くなってもらおうかな?」
「ふ、ふざけないで! もうたくさんよ!」
およそ会話など成立しない。
符玄が何を叫び、どう喚こうと、お構い無しに愛撫を続ける男である。
符玄は恐れていた。
こんな目的で人を監禁する男なら、最後には何をしようとしてくるか。まだそこまで行為は進んでいないとしても、それは時間の問題に過ぎないはずだ。
いや、もうすぐそこまで迫っている。
男はひどく口角を釣り上げて、不気味なほどに歪んだ笑みを浮かべながらに、下着を脱ぎ始めていた。下がったことで飛び出る中身は、欲望の覇気をまとって符玄を向く。
「や、やだ……しまいなさいよ……」
震えたような引き攣った声で符玄は言う。
男はそんな言葉では止まらない。
止まるはずもなく迫っていき――。
*
「んっ! んっあっ、んぅ! このっ、このぉ……!」
符玄は喘いでいた。
「ぐっ、くっ、くぅ……!」
怒りで殺気立つ眼差しで、喘ぎながらでも睨み返して、しかし男はそんな符玄に向かって楽しげに、心から気持ちよさそうに腰を振る。
男は符玄の両足を抱えていた。
直前に鎖を調整して、もちろん足の自由度が上がった途端に符玄は抵抗を試みるが、蹴られようと踏まれようとも男は怯まず、こうして挿入に至ったのだ。
「んくぁ! あっぐぅ!」
そのM字に近い両足は、抱えて持ち上げておくための、男の両肘にかかっている。壁に背中が密着した状態で、肉杭を打ちつけられる符玄の体は、ピストンのリズムに合わせて小さく上下を繰り返した。
「ぐぁっこの! この! 絶対! 絶対許さない!」
どんな怨嗟の言葉でさえ、男は心地良さげに聞き入っている。
そして――。
ドクッ、ドクッ、ビュル――――!
男は符玄の膣内に射精した。
「なっ……!」
熱いものが下腹部の中に広がって、もしや孕むかもしれない事実に符玄は衝撃を受けていた。
そんな彼女の耳元へ男は囁く。
「これからはずっと一緒だよ? 毎日、毎日、いっぱい、いっぱい、愛し合って生きていこうね?」