本文 囚われのエリィ

 薄暗い。
 目に見えるものの全てにぼんやりとした影がかかって、じめっとした湿気の固まりのようなものが漂っている。ほのかにカビの香りもするような、どことも知れない部屋の中、エリィ・マクダエルは目の前の男を見据えていた。
 記憶が上手く整理できない。
 少し、後頭部も痛む。
 事故に遭った人間は、ショックで前後の記憶を失うと聞くように、エリィの頭の中からも、細かなことは吹き飛んでいるのだろう。
 だが、状況は把握している。
 任務中だったか、休暇中だったか、一人外を歩いていた時、急に後ろから殴られ気を失い、目が覚めてみれば囚われていた。木製の椅子に座らされ、腕は後ろ手に、背もたれの向こう側に縛られている。両足も椅子の足へと縛られて、肩幅近くまで開いた股を閉じることが出来そうにない。
 殴られたこと、そのせいか捕まる前までの記憶がないこと。
 エリィはそれらを冷静に把握していた。
「よお、待ち遠しかったぜ? お嬢ちゃん」
 目の前の男が犯人だろうか。
 筋肉質で手足が太く、胸板の厚みがタンクトップを内側から押し上げている。二の腕が凹凸に満ちて、肩幅も広い屈強な男であるが、その一方で清潔感がまるでない。タンクトップは糸がほつれて小汚く、髪もボサボサしていて、いかにもフケが溜まっていそうだ。
 おまけに顔立ちも醜悪な部類である。
 その上、人を舐め回すかのような目つきが気持ち悪い。
「あなたが誘拐犯、ということになるのかしら」
「話が早いな。そういうことだ」
 答えるなり、男はすぐさま手を伸ばし、エリィの乳房に指を絡めつけてきた。
「……っ!」
 その拒否反応で、咄嗟に身を引っ込めようとはしていたが、椅子に拘束されているのだ。椅子の足が少し浮き、がたりと音が鳴るだけで、迫る腕から逃れることは出来なかった。男の指に揉み潰され、戦慄にエリィはひどく顔を歪めていた。
「ははっ、なかなかデケェじゃねぇか」
「い、今すぐ……その汚い手を離して……」
「あまり強がるもんじゃねーぜ? 言っておくが、お仲間がここを突き止めるにゃあ、結構かかるはずだ。その頃にゃあ、あんたの身柄は取引相手に引き渡され、俺の懐にはカネが舞い込んでるってわけよ」
 エリィ個人か、特務支援課を恨む連中からの依頼によって、この男は動いているというわけか。
「後悔するわ」
 脳裏に浮かぶ仲間の顔――その中には、捜査資格を持つリーダーの姿もあり、この男が思っているよりずっと早く、きっと助けは来るとエリィは信じる。
「お? 聞かねーのか? 取引相手についてよ。まあ、聞かれたところで、大したことは知らねーんだがな」
 下品な笑みを浮かべつつ、もう片方の手も乳房に食らいつかせてくる。
(最悪、最低……!)
 好きなように揉みしだかれ、抵抗は一切できない。払い退けようにも、後ろ手に縛られた両手が動かず、仮に暴れようと試みても、椅子をガタガタと揺らすことしかできない。
「へっへっへっ、いってー何カップだ?」
 指遣いを駆使して堪能し、男は無遠慮に鼻の下を伸ばしている。
「た、タダじゃ済まさないわ……あなたは必ず、逮捕されるから…………」
「威勢がいいのは結構だが、俺の取引相手はよォ、オメェの体の状態についちゃ、なんも注文はつけてねーんだぜ」
「あら、そう」
 エリィは気丈にも目を細め、鋭い眼差しを保っているが、内心穏やかでいられない。胸を揉まれている恥辱感もさることながら、男の告げた言葉は脅迫も同じであった。
 それはつまり、拷問で身体を傷つけたところで一向に構わないことを意味している。
 それをわざわざ、男はご丁寧に語ってきた。
「生きてさえいりゃ、最悪手足が千切れててもいいらしい。ってことは、乙女の大事な膜が破けてたって、何の文句もねーわなぁ?」
 わざとらしく、見るからに鼻の下を伸ばしてみせながら、ねっとりとした視線を顔や足へ絡めてくる。目で見られているだけで、表皮にネバネバとした何かを塗られるような、気持ちの悪い感触が皮膚に走ってぞっとした。
 ――じゅるり、と。
 舌なめずりで唇が濡らされて、その際の唾液の汚い音が聞こえた時、背骨が氷結せんばかりの寒気すら駆け抜けた。
 こうして胸を揉み続け、丹念に味わい続けてきているのだ。
 この男が一体何を考えているのかなど明白で、そしてエリィに抵抗の手段はない。拘束によって手足は動かず、武器や通信機の類いも当然、取り上げられている。
(このままじゃ……されるがままだわ…………)
 何とかしたい。
 だが、どうすればいいだろう。
「好みの顔だ。ええ? 髪もなかなか綺麗でよォ、そのキレーな肌を見てるだけでも、いい香りを嗅いでいる気分になるってもんだ」
 その時、不意に乳房から手は離れる。
 これで満足してくれたなど、まさかおめでたいことを考えるはずもなく、エリィが真っ先に考えるのは、では一体次にどこを触られるのだろう、ということだった。
 両手に頬が包まれる。
 そして、キスでもしてくるのかと思うほど勢いよく、鼻先が触れ合わんばかりの距離まで顔を近づけてきたかと思いきや、血走った目を大きく見開きながら視姦してきた。胸や尻のような場所でなく、目鼻立ちに対する視姦であった。
(気持ち悪い…………)
 嫌悪感がそのまま精神的な苦痛となる。
「いい顔だなぁ? 興奮するぜぇ?」
 口臭が肌に触れ、鼻の中まで入り込む。臭気への不快感もさることながら、体内に汚物を入れられたような、おぞましい気持ちにさえなってくる。
 しかも喋った際に覗けて見えた男の歯は、驚くほどに歯並びが悪い上、欠けた前歯が黄ばんでいた。欲望を向けられて、この状況で抵抗できないだけでも戦慄するのに、加えて不潔にもほどがある。
 ふつふつと毛穴が開き、体中に鳥肌が広がっていく。
 次の瞬間、抱きつかれた。
「や……!」
 これ以上ないほど引き攣っていた。あまりの嫌悪感や生理的な拒否感で、エリィの引き攣りようは壮絶なまでになっていた。
 むちゅりと、唇が首へと触れる。
 その口づけだけでさえ、細胞を汚染され、体内に腐敗を広げられでもするような、猛烈な拒否感がさらに膨らむ。今すぐ両手で払い退けたいあまり、無意識のうちに腕は動いて、縄を引き千切ろうと努力していた。
 無理に決まっていようとも、体の方が勝手に動き、必死になった両腕は左右に広がろうと懸命になっている。
 そこまでして拒否反応を示すエリィに対して、しかし唇による接触だけで済むはずもなく、さらに舌まで触れてくる。舌先の少しざらりとした感触と共に、唾液の付着まで感じ取り、汚染に対する戦慄はより一層のものとなっていた。
「うぅ…………!」
 気持ち悪い、おぞましい。
 この状況への恐怖心があってもなくても、その感情だけで十分に、悲鳴すら上がりそうになっていた。ゴキブリやナメクジなんてものではない、それ以上の不快指数を煽られて、汗すら噴き出る勢いだった。
 舌で舐められるのは、首筋だけに留まらない。
 今度は頬に唇を当ててきて、そのままべろりと舐め上げてくる。指で髪を掻き分けながら、露出した耳を舐めてくる。さらには髪の一房を持ち上げて、あからさまに臭いを嗅いだり、頬ずりまでして感触を楽しんでいる。
 そのあいだにも、もう一方の手では腰のくびれを撫で回し、太ももをさすってくる。
(気持ち悪い――気持ち悪い――気持ち悪い――気持ち悪い――――)
 相当の戦慄を味わっていた。
 汚染した細胞から、体の内側にウジ虫でも発生するかのような、思わずそんな想像すらするほどに、猛烈なまでに気持ち悪さを味わって、もはやそれだけで涙が出たり、悲鳴が上がりそうになっていた。
 かえって恐怖がない。
 仮に怖くて怖くてたまらずに、必死で命乞いをしたくなるほど震えていても、ここまでの気持ち悪さを味わえば、そちらの感情によって恐怖は上書きされていたかもしれない。もっぱら嫌悪や拒否感の方で、エリィは泣き言を言いたなっていた。
「どうしたのかなぁ? お嬢ちゃん、泣いたっていいんだぜぇ?」
 それはそれで興奮するとでも言わんばかりに、男は人の表情を覗き込み、気持ち悪がるエリィの様子にむしろ喜んでいた。
「だ、誰が……」
「にしても、マジでいいオッパイだよなぁ? 何センチだ?」
 またしてもサイズを聞いてきながら、男は乱暴な手つきで揉みしだく。痛いほどに深く食い込み、粘土のように変形させようとしてくる指遣いで、エリィの衣服は丹念に捏ね回された。グリーンのネクタイがかかった乳房の、内側のシャツもろともに捏ね回し、両手で存分に味わっていた。
 さらにまた、もう片方の頬にも唇を近づけ、皮膚を吸い上げんばかりにしてくる上に、前歯まで当ててくる。まだ汚染されていなかった耳も舐められて、舌先に穴をほじくられる。唾液をたっぷりと擦り込まれ、そして甘噛みまで受けた時、目尻には涙がにじみ出ていた。
「へっへっへ」
 男はまた、おむろに離れて立ち上がる。
 無論、地獄の時間が終わったなどとは思わない。男はただポジションを変えようとしているだけで、おぞましい時間はまだまだ続いている。今度は後ろに回り込み、背もたれに密着してきながら、後ろから抱きついてきた。
「ひっ!」
 気持ち悪い、それが理由の悲鳴。
 肩に顎を乗せられて、頬と頬とが触れ合った時、男の汗ばみ具合が伝わったのだ。汗をかいていた男の、表皮のぬるっとした感触に触れられて、その悪寒でびくっと体が反応した上、次の瞬間には耳の裏側をべろりと舐められ、エリィは本当の本当に、心の底から泣きたい思いを味わっていた。
「いや……いや……」
 背後から両手が周り、またも乳房は鷲掴みに揉みしだかれる。
「あぁ、でけぇでけぇ」
 しばし揉み、頬ずりも繰り返す。
 頬と頬とが擦れ合い、男のかいた汗が塗られ続ける地獄の上で、乳房も好きなように扱われる。
(無理……こんなの耐えきれない……!)
 あまりにも気持ち悪い。
 あまりにもおぞましい。
 それ自体が立派な拷問に匹敵するほど、エリィにとってこの男は、精神的に耐え難い存在だった。顔の醜悪さから不潔感、口臭、微妙に漂う体臭と、ヌルっとした汗の具合、何もかもが気持ち悪くてたまらない。
「んじゃぁ、そろそろよォ」
 男はわざわざ、耳の穴に直接息を吹き込むように、唇の微妙に触れた状態で喋ってくる。生温かい息が皮膚を汚染し、その次の瞬間だった。

 ボタンが千切れ飛んでいた。

 男は腕力任せに衣服を掴み、急に左右に引っ張り、繊維を引き裂かんばかりにしてきたのだ。みしりと音が鳴ったと思えば、もう下着が露出して、純白に輝く布地に銀の糸で刺繍を施し、煌びやかに仕立てたブラジャーが姿を現す。
 そして、男はそれを見るために、真正面へ回り込んでくるなりしゃがみ込み、ブラジャーへぐっと顔を近づける。大きな乳房を寄せ上げて、谷間のラインを形成している部分を覗き込もうと、たった数センチの距離へ迫った上に、やはり舌を伸ばしてぺろりと舐める。
 乳房の皮膚にすら、汚い唾液が擦り込まれた。
 それはもう、唾液というより、ヘドロでもへばりついてきたという方が、もはやエリィの心情にはぴったりだ。
「どんな果実を閉じ込めてるんだ? へへっ、とっても健康的なオッパイなんだろうなぁ? デケェわ形も綺麗だわで、魅力に溢れまくりなんだろうなぁ?」
 期待に満ちた表情と声音を向けられ、背筋には悪寒ばかりが走り続ける。
 太ももを這い回る手がスカートに入り込み、タイツの上から脚を激しく撫で回す。摩擦熱でも与えようとするように、必要以上に活発やられた上に、男はブーツを脱がそうとしてきていた。
 やや長めの白いブーツを脱がすのに、邪魔にならない位置へと縄は巻かれている。ちょうど膝に巻きつけつつ、椅子の足にも繋げる結びは、靴を脱がせる作業を阻害しない。まずは片方のブーツが脱がされ、後ろへと放り投げられ、すぐにもう片方も奪われると、黒タイツに包まれた爪先が露出して、男は大いに目を興奮させていた。
 ふくらはぎを掴み、揉み、撫で回す。
 その手が徐々に上へ上へと移ってくると、膝を数秒くすぐられ、その末に太ももがまた撫で回される。今度はスカートをずらそうと、内側に潜った両手を駆使して、手の甲の動きだけでどうにかしようと苦心してくる。
 だんだん、スカートはずれ始めた。
 エリィは元々、縄の固定によって少しばかり足を開かされており、股はV字に解放されている。スカートの丈はそう長くない上に、左右には短くスリットも入っているせいで、最初から覗こうと思えば簡単に中身が見える。
 そんなエリィのスカートは、捲れうる位置まで捲れ上がって、タイツの内側から白いショーツを輝かせた。黒タイツの繊維を帯びて、色を混じり合わせた純白は、刺繍の糸に使われている銀の光を放ちつつ、やは灰色のようになっていた。
「お嬢様はパンティも上品だなぁ?」
 男は真正面から股を覗いた。
 視線の高さをわざわざ合わせ、顔を近づけんばかりにして、至近距離から覗いているのだ。上下の下着がどちらも見えている状況に、羞恥心すら煽られて、エリィの頬は桃色に染まりつつある。
「んじゃぁ、果実の鑑賞といこうじゃねーか」
 男は顔を持ち上げて、乳房を見ながら舌なめずりを行った。そんな唇の両端から、唾液を垂らしている上に、歯まで覗かせた表情は、美味しそうな獲物を前に、野獣が獰猛にも牙を覗かせているかのようだった。
 また、乳房に手が伸びる。
 こうして揉みしだかれるのは、もう何回目になるか。ここまで好きにされていながら、抵抗もなにも出来ない無念に打ちのめされる。
 ブラジャー越しに揉み潰され、しばらくは指の食い込みを感じていた。揉みしだいてくる手の動きに応じての、自分自身の乳房の変形を感じていた。
 だが、そんな次の瞬間に、男はまた急にブラジャーを掴むなり、カップを左右に引っ張っていた。その腕力はあっさりとセンターを引き千切り、まるでフロントホックが外れたように、エリィの乳房はあらわとなった。
「へへ! ぷるって弾け出て来たぜぇ? ぷるってよぉ!」
 男は嬉々としていた。
 目が血走っていた。
「すっげぇ瞬間だったなぁ? ブラジャーに閉じ込められてよぉ、ちょっぴりだけ潰れてたのかァ? そいつが急に解放されて、本来の大きさに膨らみ直そうとするみてーに、ぷるって一瞬揺れたんだぜ? いかにも飛び出てきましたって感じによォ!」
 男は指先で掬い上げる。
 下乳を指に乗せ、弾き上げる遊びによって、エリィの胸をぷるぷると揺らし始める。そうやって起こす乳揺れで、男は大いに目を悦ばせ、鼻息を荒くしながら興奮していた。
「あぁ……! いいじゃねぇかァ!」
 乳首がつままれ擦られる。
「くっ、うぅ…………」
 エリィは恥辱に歯を食い縛り、顔には赤らみを広げ続ける。ありありと羞恥の浮かぶ表情に、男の浮かべる悦びはますますのものとなっていた。
「恥ずかしそうだなァ?」
「だ、黙って――――」
「こっちを見られたら、その顔はもーっと赤くなっちまうのかァ?」
 乳首から手を離し、また下半身に移してくる。
 今度は太ももを撫でるでなく、ショーツのゴムに指をやり、次の瞬間にはタイツごと、力ずくで引きずり下ろされていた。足の広がっている関係上、脱がせにくいはずであっても、男は腕力で左右に伸ばし、無理にでも口を広げた上でずらしたのだ。
 生地が一気に伸びてしまい、繊維のよれよれになった白いショーツと、その上に被る黒いタイツは、どちらも膝の位置に留まっていた。
「ほーら、見えるぜぇ? キレーなワレメがよォ?」
 そして、男はわざとらしくアソコを覗く。
「やぁ……!」
 既に十分に捲れ上がって、わざわざ動かすまでもないスカート丈を、それでもあえてつまんで持ち上げる。覗き込んでいることをアピールせんと、全身を駆使して顔を近づけ、視姦のポーズを見せつけてくる。
 胴体を横へと捻り、宙に寝かせた顔を迫らせての、自分のしていることを教えるためのポーズと共に覗き込む。
 その視姦のせいでエリィは顔をますます燃え上がらせ、苦悶に満ちた羞恥の顔で、思わず髪を振り乱していた。
「いいぜいいぜぇ! ますます興奮すんじゃねぇかァ!」
 次の瞬間である。
 男はエリィの足を掴み、無理にでもポーズを変えさせようとし始めた。
「やっ、む、無理――!」
 反射的なことを口走る。
 実際、縄で固定している足は、そうそう動くものではない。無理に動かそうとする分だけ、皮膚に食い込んだり、擦れたりするばかりで、痛い以外の何もない。それに気づいた男はニヤニヤとロープを緩め、結び直そうとしているのだった。
「しょうがねぇなァ?」
 そう口にしながら、縄を緩めた上でエリィの足を持ち上げて、かかとを座板のラインに近づけて、その上で足首に巻き直す。エリィの足は高い位置へと固定され、もう片方の脚もまた、同じく緩めた上で持ち上げられる。
 抵抗の余地などない。
 片方ずつ順々だったので、両足が同時に自由になることはなく、そしてどんなに声を荒げても、男が止まることはなかった。ポーズを変えられている間中、「やめて! やめなさい!」と、しきりに口走っていたものの、そんな言葉が聞き入れられるくらいなら、始めからこんな事態が起きているはずすらなかった。
 しかし、エリィの危機感はますますのものとなっている。
 こんな風にポーズを変えられ、力ずくでもM字開脚の形を取らされている。はしたないポーズの恥ずかしさもそうなのだが、こうして挿入しやすい形にさせられて、男が次に考えていることは何なのかが明白なのだ。
「さーて、そろそろプレゼントをくれてやらぁ、楽しみだろ?」
 冗談じゃない。
「や、やめなさい! そんなこと――それだけは――――」
 嫌だ嫌だと、エリィは必死になって首を振り、髪がいくらでも乱れるまでに振り乱す。
「おうおう、暴れんじゃねーか」
 それを少しは煩わしく思ってか、男は一度エリィの近くを離れていき、エリィの視界が及ばないどこからか、布を用意してきていた。ハチマキでも巻きつけるようにして、目にはぐるぐると布が巻かれて、口にも同じく布は巻かれる。
 もちろん、首を激しく振りたくり、抵抗しているエリィだったが、男はそれを力尽くで押さえ込み、どうにか固定を試みながら、手こずろうとも最後には巻きつけたのだ。
 目も口も、ロープでぐるぐる巻きにせんばかりに、細長いハチマキ状の布が巻かれている。視界は二重三重に塞がれた上、口の中にも布は入って、エリィはそれを噛んでしまっている。まともな発声はできなくなり、くぐもった呻き声を吐き出すか、必死の息遣いの音を鳴らすぐらいしか出来なくなった。
 そんなエリィの正面へと回り込み、男はベルトを外し始める。
(いや! いやいや! こ、このままじゃ――――)
 金具の音と、ズボンを脱ぐ衣擦れで、視界の塞がる暗闇の向こうでは、今にペニスが露出されているであろうことを悟っていた。それはそのまま、このままでは挿入されてしまうことの危機感を煽っていた。
「言っておくが、手こずらせようとしたら、拳を叩き込むぜ?」
 固い握り拳が肩や頬に押しつけられる。そのぐりぐりと押し込んでくる拳は、暴力を匂わせる脅迫だった。
(犯される――)
 股のあいだに何かが当たる。
 微妙に感触のぷにりとしたような、しかし石のような硬さも帯びているそれは、さながら鉄を何かで包んだようである。それが亀頭に違いないことを本能で悟るエリィは、巻きついている布に涙を滲ませ、最後の最後まで髪を激しく振り乱した。
(やめて! お願い!)
 必死の訴えかけも虚しく、硬い逸物は埋まってくる。
「ン! んぐっ、ふぅぅ――!」
 まともな声の出ないエリィへと、肉棒は乱雑に押し込まれるが、そこにあるべき痛みがない。こんな粗暴な男から、準備もなしに挿入されれば痛いはずという事実を、こうもパニックに近いエリィであってもわかっている。
 だが、どうしてか痛みがない。
 それどころか、準備は整ったも同然なまで、たっぷりと愛液が出ていたことに、エリィは挿入されて初めて気づいていた。
(ど、どうして!?)
 エリィは知らない。
 自分の眠っているあいだに、一体どんな薬を使われていたかなど知る由もない。意識のないあいだに起きた出来事は、今の今までエリィに伝えられてはおらず、そして男はこれからも喋るつもりがない。
 媚薬で感度が上がっており、そのせいで愛液が出ていたなど、まったく気づいていなかった。
 嫌悪や拒否反応に上書きされて、自分が本当は感じている事実自体に、エリィはずっと気づいていなかった。その本当は始めからあった快楽に気づいたことで、エリィはさらなる戦慄に全身を震わせていた。
「んぅぅ! んっ、ん! ん! ん! ん! んぅぅ!」
 ピストンが始まっている。
 もう肉棒は入ってしまった上、こうして性交が始まってなお、エリィは激しく髪を振り、嫌だ嫌だと意思をあらわにし続けている。というより、それはもう自然現象ですらある。沸点に迫った水からぶくぶくと泡が噴き出て当然であるように、肉棒まで出し入れされているエリィにとって、拒絶の意思や信号を全身に走らせるのは当たり前のことだった。
 もはや意識などしなくとも、体は勝手にそう動く。
「んぅぅ! んっんぅ! んぅぅ!」
 どんなに快楽が走っても、エリィは髪を振り乱し、嫌だと感じる思いを際限なく、永遠に膨らみ続ける風船のように膨張させ続けていた。
 だが、視覚的には区別がつかない。
「おうおう! 楽しんでるじゃねーか!」
 エリィの繰り出す反応は、快楽のせいでよがっているものにも見え、男はそのように思い込んでいた。
「へへ! 愛してやろうじゃねーか!」
 背もたれもろとも抱き締めて、抱き潰さんばかりの力を込める。タンクトップを内側から押し上げる筋肉と、エリィの露出している乳房が触れ合い、密着感を強めていく。その接触度合いに対しても、エリィはやはり激しい拒否反応を示していた。
「んんんん!」
「感じまくりってか?」
 べろりと、男はその頬を舐め上げる。
 そして、たっぷりと腰を振り、膣壁の感触を味わいながら、男はエリィの全身をまさぐった。胸を揉みしだくだけでなく、尻まで触ろうと手をやって、椅子のおかげで触りにくい部分にも、どうにか指を埋め込もうと苦心する。
 乳房のあいだに顔を埋め、頬ずりしながら味わってくる。
「んっ! んっ、んぅぅ! んぅぅ!」
 走る刺激に反応して、脚はビクビク弾もうとしているが、縄のためにそう高くは持ち上がらず、ただ小刻みに動いて見えるのみに留まる。
「んぅぅぅぅ!」
「ほーら、くれてやるぜ?」
「んぅぅぅ! んぅ! んんんん! んぅぅぅぅぅ!」
 男の肉棒にはコンドームが付いていない。
 ただでさえ、最悪の可能性を帯びているのに、射精までされてしまったらどうなるのか。おぞましい未来が脳裏に膨らみ、極限を迎えたかに思われた反応は、さらに活発に激しくなっていた。
「んんん! んっ! んっ! んっ!」
 中だけは、せめて膣内射精だけは。
 その必死に叫ぼうとする意思で、振り乱す髪はより一層のこと激しく、そうやって振り回された毛先が男の身体にぶつかるものの、男は腰を止めないままに、とうとう射精の瞬間を迎えていた。
「おら!」
 そして、いざ射精を迎えた時になり、初めてピストンを止めた男は、奥に注がんばかりに根元まで押し込んで、ぐっと押しつけるようにしながら腰を震わす。ドクドクと放出される熱気を感じ、エリィは妊娠の恐怖に涙を流した。
 目に巻かれた布に水は染み込み、涙の分だけ色が変わり始めている。
 そんなエリィの様子を見て、男はニヤニヤしながらオマケとばかりにべろりと舐める。頬から目のすぐ舌にかけ、舌先を這わせることで唾液を引く。ペンで線でも入れるようにして引かれたぬかるみは、すぐさま皮膚に浸透していった。
「んじゃ、休憩すっか。また後で楽しもうぜ」
 足音やドアの開閉から、その言葉を最後に男の気配が遠のいていくのを感じ取る。閉まる音が鳴ってから、そのまましんと静まると、エリィは一人俯きながら、まだ二回目や三回目の性交が控えているのだと、暗い未来への絶望感を胸中に漂わせる。
(助けて……)
 一刻も早くここを出たい。
 だが、犯されたことで心は沈み、精神の傷ついたエリィの中には、今に仲間が駆けつけ自分を救ってくれるに違いないような希望は薄れている。ただただどんよりと、薄暗いものばかりを胸中に抱えていた。