本文 千束の恥辱
一人の少女が住まいの玄関を背に、しんと寝静まった夜更けの世界へ突き進む。女子高生が出歩くような時間帯ではないのだが、彼女は赤い制服を身に纏い、いささかの緊張を帯びた面持ちで外灯の下を通過した。
明かりの少ない道のりを行けば、外灯と外灯の隙間を埋める暗闇で、視界がたびたび灰色に塗られている。暗さと明るさの串団子を行く彼女の名は――錦木千束。
DAの制服を着ている千束だが、その懐に銃はない。非武装の身で目的地へ向かっていき、到着したのは区内の高等学校だ。暗闇に佇む校門や影に塗られた校舎を見ていると、昼間には感じる事のない不気味さが薄らと漂って思えるのは、人間の遺伝子に怪談のイメージが刻み込まれているためか。
千束は校門を飛び越えて、校庭に着地するなり体育館へと向かっていった。
つい先日、この高校で銃を使った。
連続殺人犯が逃亡し、学校に逃げ込むという事件が起こり、そこで千束は井ノ上と共に潜入。銃を片手に二手に分かれ、挟み撃ちで追い詰めようと校舎を駆け、見つけた犯人に非殺傷弾を叩き込んだのだが、問題が発生したのはその時だった。
なんと千束が撃った相手は別人だった。
信じられない事態であった。
千束の弾が非殺傷用なのが不幸中の幸いではあるのだが、無関係の別人と殺人犯で、驚くほど顔が似ていたのだ。双子と見紛うまでの赤の他人の、弾で痛がる姿を前に、無線イヤホンからクルミの慌てた指摘が届いた時、さしもの千束も戦慄した。
その発砲と同時刻、校舎裏に出ていた犯人をたきなが見つけ、その上空にはドローンを飛んでいた事から、千束の方は別人であると判断された。犯人は単独のはずであり、たきなと対峙した際にも血塗れのナイフを握っており、対して千束が遭遇したのは体育教師――それも、犯人どころか、殺人犯をとっちめてやろうと、意気揚々と木刀を握った男であった。
後で頭を下げて謝ったのは言うまでもない話だが、事は謝罪だけでは済まない。いかに非殺傷弾とはいえ、実銃を持った女子高生の存在を無実に一般人に知られた形になる。
その体育教師は秘密に付け込むような事を言ってきた。
下手な事を言い触らされたくなかったら、この日、深夜の体育館に一人で来い。
千束はその言葉を律儀に守った。
出入り口に鍵がかかっていない事を確かめると、中へと入って体育館の床を踏み締め、体育教師と向かい合うのだった。
「約束通り一人で来たようだな」
「まあそうだねー……。ほら、色々と秘密は守ってくれないと困るというか……」
「それで、銃は?」
「もちろん、手ぶら。秘密のために消えてもらう、なんて私は考えないから」
というのが、千束なりの誠意の示し方だ。
ミカ達やDAに動いてもらえば、彼らなりの方法で秘密を守らせる事も可能だろうが、誤射による罪悪感が千束をここに呼び寄せていた。
密かに付け込まれている事に関して、皆に黙ってきたわけだ。
本当に非武装で、体育教師が一体何を言ってくるのか、どんな要求をしてくるのかを聞くために、千束はここにこうして立っていた。
「いい心がけだ。では教師として、君には色々と指導をさせてもらう」
「指導ですか? やっぱり、物凄い説教とかなされる感じで?」
「稽古をつけてやろう」
その一言で、千束は今になって急に体育教師の服装を意識した。何やら胴着に黒帯を締めている事に、体育教師がそういう格好をするのは普通だろうと、あまり深くは捉えていなかったが、どうやら彼が千束を呼び出したのは、未成年の指導という意図があっての事らしい。
「稽古とは、つまり稽古で?」
「そうだ。柔道はできるか?」
見たところ、体育教師は腹が少し膨らんでおり、横幅のある体格をしている。筋肉が無いわけではないだろうが、スポーツマンというには太った体だ。
きちんと絞られた体に比べれば、やや俊敏性は欠けそうに思える。
「ちょっとはできちゃうかなー? いやぁ、だけど男の人と組み合うだなんてぇ」
「いいからかかってこい」
おちゃらけてみせる千束に対して、体育教師は既に始めるつもりで構えていた。
その姿勢を見て、千束も腰を適度に落として構えを取る。
「組み手を行うその心は」
「俺に勝ったら、実銃を持った女子高生の活動については黙っていてやる。君が負けた時の話は、その時にでもさせてもらおう」
きっと実銃を喰らった腹いせで、何かしら思い知らせてやりたいのだろう。
もしや、こういう事だろうか。
拳銃なんて持ったところで、所詮お前は女の子だ――と、男女による格闘を通して教え込みたいのか。
「では負けるわけにはいきませぬか」
本来、柔道は男女別に分けられている。身体の接触が激しい事もそうだが、性別による体格差を考えれば、やはり女性が勝つのは難しいだろう。いかに千束といえども、筋力勝負になれば不利になるのは目に見えている。
とはいえ、特殊な訓練を受けている千束だ。
まったく勝ち目がないかといえば、まさかそんなはずもなく、投げ技で背中をつかせたり、足を引っかけて転ばせる見込みはある。
ルールのある試合としては何とかなる。
さらに言うなら、ルール無用の組み合いに発展しても、肘を鼻に叩き込んだり、金的で大打撃を与えたり、筋肉の薄い部分に打ち込むなど、女子高生の筋力でもダメージを与える手立てはある。
勝って約束を守ってもらおう。
勝負がついて、なおも何か脅しをかけてくるようなら、さすがに皆に動いてもらわざるを得ないだろうが、ひとまずは要求通りに組み手に応じる。
体育教師は目の前から迫って来た。真っ直ぐに踏み込み距離を詰め、袖や胸倉を掴もうと、一気に手を伸ばしてきた。
銃弾を直感的にかわせる千束にとって、腕の動きを見切るのは容易い。銃口を向け、引き金を引く。少ないアクションで殺傷力を発揮する拳銃に比べ、素手による攻撃は予備動作が多すぎるくらいだ。
千束には相手の腕のリーチが感覚的にわかっていた。どの程度の歩幅で移動して、何歩まで後ろに下がれば腕の届かない位置にいられるか、反射的に読み切って、千束は素早いステップで後退する。
がしっと、目の前で作られる握り拳は、着衣を掴むはずが風を握り潰すものとなり、直後に千束の方こそが体育教師の裾を掴んでいた。
だが、体育教師は勢いよく腕を引っ込め、千束の拳の中から袖が抜け出る。さらに掴み返そうとしてくるが、飛び出る腕に対する反応は常に機敏で、千束であれば容易に回避できるのだった。
伸びた腕に向かって、掴もうとする体育教師の腕が来るので、千束は即座に肘を縮めて引っ込めた。体育教師の手の平は、またも空を掴む形となり、その隙を突いて千束の方こそが袖を掴むが、それは再び力任せに引き剥がされる。
両者のやり取りは拮抗した。
体育教師が何度距離を詰めようと、どれだけ腕を伸ばそうと、千束はその手から必ず逃げ切る。だが千束が相手の着衣を掴んでも、筋力の差によって引き離されてしまうため、技をかけるには至らない。
お互いに腕を出し合っているうちに、やがて胸倉を掴むチャンスが見えた。千束はその隙を逃さず、パンチでも放つような勢いで、素早く腕を伸ばすのだが、すると体育教師もまた腕を動かしていた。
――まずい!
直感的に、伸ばした腕を千束は即座に引っ込める。そうしなければ、胸倉という餌を使って逆に手首を掴まれて、そのまま筋力差の餌食にされかねなかった。
「チッ!」
体育教師は意地になり、何としても制服を掴みたいようにして、今までよりも乱暴に踏み込んだ。あまり強く床を踏むので音が響いて、伸びた指先が胸に触れかけ、しかし千束は後退を間に合わせる。乳房に触れかねなかった指先は、数ミリほど手前の風を引っ掻くのみに終わった。
その時である。
体育教師は足を滑らせ、転ぶ形でさらに前へと体を突っ込んで来た。
「ちょっ、ちょっ!」
汗なのだろうか。
まるでつるっと滑るものでも踏んだように、急にバランスを崩して倒れてきて、風を引っ掻いたその腕は、さらに前へと伸びてくる。
千束の反射神経は、それでも後退を間に合わせる。危うく乳房に触れられそうなところを、背中を反らして躱しきり、なので着衣を掴まれる事はなかった。
だが、それでも千束は驚愕した。
スカートが思いっきり、大胆に、力強く捲られた。
その一瞬、千束の体は下半身が前に出ていた。背中を反らした関係で、後ろに傾くような形となって、足が前へと行っていたのだ。
そして、男は床に向かって倒れている。
倒れながらに、なおも何かを掴もうと腕を使えば、その手がスカートに及ぶわけだった。しかし倒れる最中の、あまりにも咄嗟の出来事で、掴むという動作をやり損ね、体育教師はまったく別の行動に走ったのだ。
慌てた行動がスカートを大きく捲り、裏返った布が腹巻きのように腹へ張りつき、穿いていたピンクのショーツが一瞬だけ、本当に一瞬だけだが丸見えになっていた。
「ちょいちょいちょい!」
千束は素早く両手を使い、太股に手の平を叩き付け、素早く下着を隠していた。
直後、体育教師は受け身を取る。
前受身の動作によって、手の平が床を叩いた。そのまま腕力で床を押し返したようにして、体育教師はスムーズに立ち上がり、すかさず距離を詰めていく。
「おっ!? おおっと!」
こんなに速く立ち上がるのかと、思わぬ素早さに驚きながら、しかし千束は腕をかわした。一瞬で掴もうとしてくる瞬間的な動作に対し、千束は足腰を低めてかわすどころか、さらに体育教師の真横をすり抜けていた。
あまり後退を繰り返していたので、背中が壁にぶつかりかねなかったのだ。だからこの時の千束は、避ける方向を変えなくてはならず、姿勢を低めながらも前に出て、腕と頭がすれ違った。伸びていく最中の腕の真下を頭が通り抜け、千束はそのまま体育教師の隣を横切り後ろを取る。
否、取るはずだった。
ところが、体育教師は千束の動きに反応して、伸ばした腕を即座に別の動作に使っていた。大胆にスイングさせ、手の平で逃げる体を追いかけていた。
水泳のフォームで水を掻き、腕で体を押し出す際のようにして、空気を掻いた体育教師の手の平は、千束のお尻に追いついているのであった。
ペチン!
と、スカートの上からお尻を叩かれ、千束は驚きに目を丸めていた。
「のわっ! 無し無し! 変なところは――」
その慌てた隙を千束は突かれた。
ぎゅっと、背後から抱きつかれた。
お尻を叩いたその瞬間、体育教師は本当に素早く振り向いていた。千束が後ろを取る流れかと思いきや、逆に彼こそが背中を正面に捉えていた。
そして、その一瞬を突けば、予備動作は見られない。お尻を叩かれ驚いている瞬間こそ、体育教師にとっては絶好のチャンスとなる。
視界の外から組み付けば、千束の鋭い直感と反射神経は働かず、体育教師は腕を胴へと巻きつけているのであった。
「捕まえたぞ? 錦木千束」
「ちょいちょいちょいちょい! あきまへんって先生!」
千束は慌てて身を捩るが、その程度の事では男の腕力を振りほどけない。
「何がいけないんだ? これは稽古なんだぞ?」
「いやぁー、柔道ってこんな風に抱きついたりは――」
「寝技はあるだろう?」
刹那、千束は天井を見た。
体育教師が体を倒し、寝技への持ち込みを行ったのだ。
腕力の輪に巻かれ、腕が締め付けられている。足が下から絡みつき、両足の動きも阻害されている。身動きを封じられ、男の体を背に敷いて、仰向けとなった千束は、困ったような慌てた顔で脱出を試みる。
「わあちょっと、寝技は接触が過ぎるというか――」
「何を甘いことを言っている? うん?」
体育教師はそこで転がる。
「ぬおぁ! あ、あかんって! あきまへんって!」
うつ伏せにさせられて、背中を体重によって押し潰され、千束は慌てふためいていた。
「指導してやる」
お尻に股間が押しつけられているのだ。これだけ密着していれば、何やら硬いものの気配が感じられ、それがぐいぐいと擦り付けられる感覚に、千束は顔を大きく歪ませ引き攣っていた。
「ぬあぁぁぁ……! 駄目駄目駄目駄目――」
「動くんじゃないぞ?」
身動きの取れない所へ、うなじの髪を掻き分けるように鼻が近づき、次の瞬間にはペロっと、舌先が皮膚を走っていた。
「ひぃっ!」
千束はますます引き攣る。
「こっちは急に撃たれてるんだ。こんなことで文句は言わせないぞ? ええ? 銃刀法違反のお嬢さん?」
一度では飽き足らず、執拗なまでに舌を振るって、皮膚に唾液を塗りつける。そのおぞましい感覚に身震いして、千束は抵抗を激しくするが、男の体重で床に体を押し潰されて、ほとんど身動きの取れない状況では、転がる事も力で押し返す事も出来ずに、されるがままとなっていた。
何より、千束は慌てていた。
まあ負けはしないだろう、などと考えていた千束にとって、寝技に持ち込まれただけでも驚きなのに、先ほどはスカートを捲られて、次にお尻を叩かれて、さらにうなじをペロペロと舐められる。それら動揺の積み重ねで冷静さを失って、脱出の手立てが余計に見えなくなっていた。
抵抗でがむしゃらに暴れるうちに、不意に頭を跳ね上げて、その偶然の抵抗が体育教師の鼻を打つ。だが脱出には繋がらず、むしろ相手を怒らせるだけだった。
「やってくれたな」
体育教師は素早く動く。
腕を自由に動かす暇を与えず、本当に一瞬で姿勢を変え、体育教師は千束の腰に座っていた。それも体を反転させ、お尻を見下ろす形となって、さらに両足の間に腕を挟んで抵抗を許さない。足をバタバタと動かす事は出来ても、男の体重を腰の上からどかす事は出来ずに、やはり千束はされるがまま、次の瞬間にはお尻を揉まれた。
「ひゃっ! 痴漢痴漢! それ痴漢! 駅員さん! いやお巡りさん!」
「助けが来ないあたり、本当に律儀に一人で来たんだな。おかげでみっちり指導が出来そうだ」
体育教師はお尻を存分に撫で回す。
そこで千束は足を勢いよく振り回し、踵を駆使して自分自身の尻を蹴る。撫で回したり、揉みしだいてくる彼の手を、そうすれば打ってやれると思ったのだ。
しかし、体育教師は瞬時に手を引っ込める。
千束は本当に自身の尻に踵を喰らわせ、その自滅でかえって痛みに喘ぐのだった。
「まったく、抵抗しやがって」
体育教師は腕を振り上げる。
そして――ペチン! ペチン! ペチン! と、平手打ちが行われ、お尻を叩かれる屈辱に千束は顔を歪めていく。
「まさかこういう事がやりたかったと!?」
「ああ、指導をしてやらんとな。確かに頭は下げてもらったが、あんな謝罪なんかで済む話ではないだろう?」
彼は平手打ちを繰り返す。
ペチン! ペチン! ペチン!
と、打たれる痺れが蓄積して、もしや今の千束のお尻は、薄らと赤らみを帯びているかもしれない。
「それはその――仰ることはごもっともですが、女子高生に手を出す教師というのはいかがなものかと……」
無理にでも愛想を浮かべ、腰を低めた姿勢で窘めてみるのだが、それで止まる彼ではなかった。
「お前の方がもっと良くないだろう? あの時の弾、本当に痛かったぞ? ここできっちり思い知ってもらわないと、帳尻が合わないってもんだ」
体育教師はスカート丈を掴んで捲り上げる。
「ちょーっ! やめてやめて! 戻して! 戻して!」
ショーツが丸出しになった。
ピンクの布に包まれたお尻を視姦されても、千束にはスカートを元に戻す手立てがない。挟まれた腕は使えず、足を暴れさせても捲れた丈は直せない。
お尻が揉まれた。
先ほどはスカート越しに、今度はショーツ越しに、尻たぶに指が食い込み、蠢く指遣いによって柔らかな肉が変形する。
「か、堪忍を……!」
許しを乞う言葉と同時に、再び踵を振り下ろす。だが今度も結果は同じ、自分自身の尻を蹴った痛みが走るだけだった。
それどころか、ショーツを下げられた。
「いやぁぁぁぁ!」
お尻を丸出しにされ、千束は悲鳴を上げた。
すぐに両足を折り畳み、足の平をべったり当てて隠そうと試みる。しかし、隠したつもりでも羞恥心は抑えられずに、千束は顔中を染め上げていた。
「そろそろどいてやろう。だが、ショーツを元に戻すことは許さない。戻そうとしたら、その前に組み付く」
体育教師はそう言いながら立ち上がる。
本当に直す暇は与えてくれないのか、ショーツに手を伸ばした瞬間に体重を乗せられる事になるのか。戻したい気持ちは山々でも、千束は仕方なくそのまま立ち上がり、改めて体育教師と対峙する。
ショーツが膝に絡んでいる。
「あのぉ……。動きにくくて、ですね……」
そーっと、千束は言ってみる。
「直してもいいぞ?」
「マジですか」
「ああ、その隙に攻撃を受けずにいられる自信があるなら直してみろ。こっちは遠慮無く邪魔させてもらう」
「ちなみにですね。先ほどから痴漢セクハラなさってますが、どこまでなさるおつもりで?」
「お前次第じゃないか? 好き放題されたくなければ、せいぜい頑張って抵抗してみろ」
体育教師の眼差しは、獲物を楽しく味わう狩人のそれとなっていた。すぐにトドメを刺すのでなく、逃げ回る姿をひとしきり眺めて楽しんで、ようやく射止めるかのような、追い詰める事を面白がる顔をしていた。
体育教師は前に踏み込み、胸倉や袖を掴もうと、最初のように腕を伸ばした。
その動きが千束には見える。
相手の視線、予備動作、それらを直感的に読み取って、未来でも見たかのように、狙われる部位が事前にわかる千束なのだが、膝に絡んだショーツが足取りを阻害する。歩幅を広げる事が出来ない制約で、試みた回避はぎこちないものとなり、千束は赤い制服を掴まれてしまった。
鎖骨の上を引っ張られ、布が固い拳に収まる。
さらに肘の部分も掴まれて、柔道のあらゆる技がかかる寸前に、千束は思いきって体育教師の胸と袖を掴み返した。お互いに相手の布を掴んだ状態で、あとは足捌きで微妙な距離を調整し合い、どちらが先に技をかけるかの駆け引きになるのだが、ここで体育教師は腕力を活かしてくる。
ぐいっと強く引っ張られれば、腕がその方向へ動かされる。胸の布を引っ張られても、動きを微妙にコントロールされてしまい、この距離では腕力の差がそのまま千束の不利に繋がっていた。
自分の優位をどうしても作れずに、そのうち体育教師の足が千束の足へとひっかかる。
テコの原理のように倒された。
経験者の上手な技のかけ方は、やられる方にとっては綺麗に受け身を取りやすい。そもそも運動神経の良い千束なので、手の平で床を叩く大きな音こそ鳴らすが、音の激しさに反して体のどこを傷めるわけでもない。
ただ、床に寝かされてしまった。
起き上がる暇を与えられず、まるで襲うために押し倒すような形となって、上から肩と二の腕を掴まれる。皮膚に握力が食い込んで、覆い被さる形で体重もかけられて、脱出の出来なくなった千束は、次の瞬間におぞましさで身震いした。
レロォォォ――と、舌が頬を張ったのだ。
「いやぁぁ……!」
またしても唾液を塗られ、千束は引き攣っていた。
そして、その隙を突くように、今度は唇まで重ねてくる。思いがけない唐突なキスにショックを受け、ひどく目を丸めた表情でしばらく固まり、それから急に抵抗を思い出したようにして、千束は両手で体育教師を押し返す。
体重が重かった。
女の子の両手では、小太りした男の体重を押し返せない。
「無駄だ」
手首をどちらも掴まれて、床に叩きつけられていた。強い力で両腕を封じ込まれて、股の間には膝まで入れられている。膝でショーツやスカートの布を押さえつけ、それに足の動きまで阻害され、上手く抵抗が出来ない千束へと、今度は首筋に舌が這う。
「ひやっ、嫌だぁぁぁ」
首だけでは済まされない。
体育教師はさらに顔の位置を変え、耳の穴に舌先を埋め込んだ。ベロベロと舌を動かし舐め込まれ、耳の皮膚にも唾液が浸透してきていた。
「これは指導だ。悪いことをした以上、帳尻が合うように、それ相応の目に遭ってもらわないとな」
体育教師は首のリボンを引っ張った。
制服を脱がされ始めていると悟った千束は、やはり抵抗を試みるのだが、腕を暴れさせれば手首を掴まれ、強く床へと押さえつけられてしまう。
もちろん、体育教師の腕が動くたび、その手が制服を脱がそうとしてくるたび、相手の手首を掴み返したり、体を押し退ける事を試みるのだが、それでも赤い制服のボタンは外れ、上半身の布が左右にはだけた。
さらに腕が足へと封じられた。
胴に跨がる形を取られ、両足の間に腕が挟まれ、ワイシャツのボタンが外され始めても、それを妨害する事が出来なくなった。
「やだ……やだ……ちょっ、ちょっと……! あのっ、脱がなくては帳尻が合わないんですか!? せめて服の上からとか――あっ、ブラが……見えちゃ……見ないで……!」
千束は慌ただしい早口を披露して、体育教師はそれを無視してワイシャツを左右に引っ張る。ピンクのブラジャーが剥き出しに、そのブラジャーも上へとずらされ、乳房を丸出しにされてしまった。
「やぁぁぁ……!」
羞恥心が吹き荒れる。
「ほーう? いいオッパイじゃないか」
体育教師は無遠慮に乳房を掴んで揉み始め、好きなように指の一本一本を蠢かせる。思う存分に味わいほくそ笑み、いやらしく目を細めた。
さらに手で両腕を押さえつけ、抵抗をさせないように気をつけながら姿勢を変える。顔を胸に埋めたいかのように近づけて、次の瞬間に行うのは、唇で吸いつく行為であった。
「ちゅっ、ちゅぱっ」
乳首がしゃぶられていた。
「いやぁぁぁ……! 無理無理無理無理!」
千束はより一層のこと引き攣っていた。
「美味い乳首だ」
体育教師は本当に美味しいものでも味わう顔をして、もう一方の乳首もしゃぶる。口内に含めた上で、唇の内側で舌を使って舐め込んで、唾液を擦り込む真似までしてくるのだ。
「いやっ、無理……ほんとむり……!」
実に屈辱的だった。
体を許すつもりのない相手に、それでも肝心な部位を好きに扱われる気分は最悪だ。自分のパーツを玩具にされ、弄ばれる恥辱に苛まれ、千束はみるみるうちに顔を歪めて、眉間の皺さえ深めていた。
「ちゅぱっ、ちゅぱっ」
舐めしゃぶる唇が離れれば、乳首から唾液の糸が伸びていく。
「あのぉ、本当にやめてくれませんかね」
これまでにない、本当に嫌悪感を表に出して低めた声音で言うのだが、体育教師は萎縮の様子を見せなかった。
「やめると思うか?」
体育教師はこれみよがしに大口を開き、舌を長く伸ばして見せてから、ベロっと舐め上げしゃぶりつく。
「くぅぅ……」
「気持ちいいんだろう? え? 感じているんだろう?」
「はい? か、感じてなんて――」
「乳首が硬くなってるだろうが」
「それは……! くぅぅぅ……!」
そんな事まで言われた千束は、乳房をいいように扱われ、抵抗もできない無念の中で刺激を感じる。唇に先っぽが含まれて、口内で蠢く舌に舐め回され、乳輪やその周囲にまで唾液が浸透してくるおぞましさに、背筋に悪寒が走っている反面、確かに乳首は硬く突起していた。
舌に嬲られれば快楽が走り、気持ち良ければ気持ちいいほど、自分がこの男の思い通りである感覚に苛まれ、千束は顔中を歪めていく。
(こんなの……悔しすぎる……)
体育教師は顔を横へとずらしていき、腕の閉じた脇に舌を走らせる。そんな場所までペロペロと舐められて、千束の抱く屈辱はより一層のものだった。
人の体を玩具にしていい気になり、そしてそれに抵抗できない。その狂おしいほどの悔しさで、さしもの千束の心にも、報復で何発か撃ち込んでやりたい気持ちの一つや二つは湧いてくる。
どちらの脇も舐められた。
唾液が塗られ、濡れたばかりの皮膚に風が当たれば、その部分がひんやりする。
その時だった。
体育教師は急に帯をほどき始めた。
「まさか……」
脱ぐという事は、今まで以上の事をする気でいるのかと警戒して、千束は体育教師を睨み返した。
「なんだ? その目は」
「これ以上やったら、後が怖いから」
銃さえあれば、そんな歯がゆさを胸にしながら、千束はそのように虚勢を張る。
「後だって? そりゃ、今は何も抵抗できないって意味か?」
黒帯がほどけた事で、胴着が左右にはだけていく。脂肪で少し膨らんだ胸と、ささやかにたるんだ腹が見えた時、体育教師は千束の体を掴んで動かし始めた。
人をうつ伏せにさせようと苦心を始めた。
抵抗する千束なのだが、どんな風に身を捩っても、手こずらせる事しかできない。何度か拳で叩いてやったり、手で体を押し返そうとはしたのだが、最後には体育教師の思い通りに、体をうつ伏せにされてしまった。
そして腰に尻を置かれて、相変わらず体重によって抵抗を封じてくる体育教師は、さらに腕の拘束まで試みてきた。黒帯をぐるぐると巻きつけて、後ろ手に両手を縛ろうというのだ。
もちろん、抗う。
強い握力で手首を掴まれ、力ずくで腰の上に置かれても、巻きつける作業が始まる前にその腕を動かして、縛られないように抵抗する。だが体育教師は意地でも縛り付けようと、膝の動きを駆使して、どうにか千束の腕を固定しようと努力を始めた。
最後には片手の中に両手首を封じられ、もう片方の手で帯を通す作業をやられ、どれだけ手こずらせてやったとしても、最後には縛り付けられてしまうのだった。
それも何重にもぐるぐると、非常に固く結びつけられ、力ずくでは外しようがないほど頑丈な結び目となっていた。
そして、拘束の作業の末に、千束は仰向けに戻される。
再び体育教師と顔を合わせた時には、憎いものでも見るような、恨めしさの籠もった眼差しを浮かべていた。
「反抗的な顔だなぁ? ええ?」
「こんなこと……。許されないから」
悔しげに震えた声だった。
「最初に許されない事をしたのはどっちだ? このくらいの目を見てもらわなくちゃ、とても帳尻が合わないんだよ」
体育教師は膝の上に乗っていた。
動きを封じるために体重をかけるわけだが、後ろ手の拘束が成った今、その場所が胴体である必要がなくなった。だから彼は位置をずらして、膝に尻を乗せて足だけを封じている。
四肢のいずれも使えない、何の抵抗もできない状態で、体育教師はスカートの丈をつまんだ。
「ほら、どうする?」
挑発的な、煽ってくる表情を向けてきながら、わざとらしくゆっくりと持ち上げる。
千束のショーツは膝まで下がったまま、つまりスカートが上がってしまえば、剥き出しの性器を見られる事になる。
「……やめて」
低い声でそう言うが、体育教師の手は止まらない。
「ほーら、見えたぞ? 大事な部分が」
スカートが捲りきられた。
どんなに恥ずかしくとも、決して隠す事の出来ない状態で、アソコが視線に晒されていた。
「最低……」
千束の頬がみるみるうちに赤らんで、表情がより激しい歪みを帯びていく。
「思い知れ」
指が縦筋に置かれ、千束は無骨な指の愛撫を受ける。上下になぞる刺激に反応して、すぐにでも股が疼き始めてしまい、千束はぐっと歯を食い縛った。
(なんで感じちゃうかなぁ、こんな形で……)
それも多少の快感だけでは済まされず、膣壁が分泌液を滲ませている。体育教師の指に愛液が付着して、糸が伸びるまで時間の問題となってしまい、自分が彼の思い通りである実感が余計に強まる。
実感があればあるほど屈辱は増す。
そして、とうとう愛液が染み出して、体育教師が指でそれに気づいた時の、いい気になった表情といったらない。どこまでも調子に乗った笑みを見て、敗者と勝者の関係にでもなったような悔しさが溢れかえった。
そんな千束への追い打ちのようにして、指の蠢きが活発となっていく。体育教師はほんの少しの付着を塗り伸ばし、その刺激がまた愛液を生み出して、指と性器に介在するぬかるみが厚みを増す。
潤滑油が増えれば増えるほど、性器に走る快感は強くなり、千束は呼吸を乱し始めていた。
「あっ、んあっ、やめっ、あぁぁ……!」
「おっと、本格的な快感になっているみたいだな」
「やめっ、本当に――くぁっ、あぁ――」
抵抗をしたいわけだが、仰向けという体勢で、自分自身の腰に敷かれた両腕は、固い結び目をどうしてもほどけない。
「クンニでもしてやろうか?」
体育教師は言った直後に顔を埋める。
「いやぁぁ……! あっ、くっあっ、あぁ……!」
性器に顔が当たってくる。しかも唾液まで塗られる。そのおぞましさに最初の一瞬は悲鳴を上げるが、さらに直後に走る刺激で喘ぎ声が出てしまい、千束は慌てて歯を食い縛っているのだった。
「おっと、声を我慢する気か? そうか、我慢しないと、きゃんきゃん喘ぐくらいに気持ちいいんだな?」
勝ち誇った笑みを浮かべながらに、体育教師は舌と性器の間に愛液の糸を引かせる。
肉貝にはたっぷりと、唾液の感触が残っていた。
乳房といい、脇といい、幾つもの箇所に唾液が染みた気持ち悪さに、もっと拒否反応が起こっていいはずが、しかし愛撫に対する反応はどうしても快感ばかりだ。気持ち良ければ気持ちいいほど、体育教師が悦び自分は悔しい思いをするのに、どう我慢を意識してみても、膨れ上がる感覚を抑え込む事は出来なかった。
今度は指が挿入された。
「ああぁぁ……!」
愛液の滑りであっさり埋まり、そのままピストンを始める指により、千束は髪を振り乱すほどに喘いでいた。性器に走る刺激に振り回され、胴体がくねくねと捻れて脚も蠢き、体中が快楽に反応していた。
「あっ、あぁ……あっんっ! あぁぁ――!」
「おっと? その感度の高さ、ひょっとして素質があるな?」
体育教師は何かに気づいたようにピストンのペースを上げ、さらに顔を近づけクリトリスを舐め始める。舌で突起をくすぐって、指では穴を嬲る二重の刺激に、千束はより大きな快楽に翻弄された。
そして、胴体が跳ね上がった。
まるで腰の真下にバネでもあって、そのせいで腹が浮かんだようにして、千束は胴を持ち上げていた。一瞬だけのアーチを成して、すぐに沈んだ胴体は、深い深い呼吸によって腹を大きく動かしていた。
「イったなぁ?」
「ぬぅぅ……」
悔しげに、千束は顔を背ける。
「仮にも組み手の最中だったはずなのになぁ? それが今、お前どうなった? 俺を相手にイクって事は、よほどのエロい素質があるって事なんじゃないか?」
「そ、素質って……」
絶頂させられたその上に、人を小馬鹿にする言葉まで浴びせられ、恥辱による苦悶を千束は浮かべる。歯を食い縛る力で顎が震え、深い無念に駆られて眼輪筋を震わせていた。
「せっかくの素質だ。もっとイカせてやるよ」
それからの千束は完全にされるがままだった。
アソコを指でやられれば、体育教師の思い通りに髪を振り乱し、乱れた声まで吐き散らす。やがて次の予感が迫り、二度目の絶頂を迎えるなど時間の問題に過ぎず、そして千束は目と鼻の先に濡れた右手を突きつけられる。
お前が絶頂した証拠だ。
そう言わんばかりの顔で見せつけられた指先から、羞恥と悔しさで素早く顔を背けると、それが合図のように次の愛撫は始まった。
今度は体を抱き起こされ、背中に抱きつく形で背後から乳房を揉まれた。左手で揉みしだき、右手は下へ忍び込み、乳首と膣を同時にやられる刺激で甘く激しい息遣いを披露した。
乳首に走る電流で、肩がもぞもぞと動いていた。抵抗を試みているわけではない、快楽による反射的な挙動によって胴を捻って、まるで腕の中で藻掻いているかのようだった。
膣に潜った指遣いに責め立てられ、やはり大きな快感に振り回されて、千束は三度目の絶頂を迎える事となる。
ビクッ、と。
肩が大きく跳ね上がった。
「体がくっついていると、反応が直に伝わってくるぞ?」
イった直後に耳元へ囁いて、さらに舌をべったりと這わせてくる。うなじに唾液を塗りつけて、耳の裏すら舐める行為に、もはや悪寒よりも快感の方がよほど走って、千束は自分の体の変化に戸惑いと焦りを感じていた。
「ほら、ここはどうだ?」
膣への愛撫からクリトリスへの愛撫に切り替わり、脚がピクピクと蠢いた。左手による乳首への刺激も再開され、二箇所に生じる快感で、千束は一つの実感に打ちのめされる。
自分の体がいかにコントロールされてしまっているか。
体育教師の思い通りに快楽を感じさせられ、そのせいか脚がもぞもぞと動くのも、絶頂の際に体がビクっと弾むのも、何もかもが彼に操られた結果のように感じられ、無念は深まる一方である。
そんな千束を体育教師は押し倒す。
股の間に胴体をねじ込んで、今までにも増してニヤニヤと、何かを楽しく企む表情に、千束は背筋が凍りつくほどに戦慄していた。
「ま、まさか……!」
相手はここまでしてきたのだ。
ならば、そこまでされてもおかしくない。いや、むしろしない方がおかしいくらいだ。
その然るべき瞬間が迫った事で、千束は顔中を強ばらせた。
気づけば体育教師は下半身を剥き出しに、既に肉棒すら解き放っている。それが膣口に触れた時、千束は胴体をくねり動かし、挿入を阻止しようと努力した。
もちろん、体育教師は手こずった。
穴に対して狙いが合わず、すぐには挿入できずにいたが、そんな千束の抵抗も長くは持たず、ついには切っ先が埋まってくる。亀頭が収まれば残りが埋まってくるのも一瞬で、千束は呆気なく下半身を貫かれていた。
「あぁぁぁ……!」
未経験の膣口を肉棒の太さによって拡張され、狭い幅を押し広げられる苦しさはありながら、しかしそれ以上の快感が足腰を貫いていた。背筋を駆け上がるような激しくも甘い電流に、千束は大きな喘ぎ声を上げていた。
「ああああ! あっ、あっ! あん! あん! あん!」
体育教師が腰を振り、それに応じた声が出る。濃密な濁流が全身の神経を蝕んで、体中に甘い感覚が迸り、千束は悩ましげな顔で髪を激しく振り乱した。
「あっ! あん! あぁん! あん! あん!」
強烈な刺激に抗えない。
深く飲み込まれてしまった千束は、ただ喘がされるがままに腰を振られていた。
「あくぅ! んっあっ、あん! あん! あぁん!」
「いいぞぉ? 気持ちいいぞぉ? これだけいい思いをさせてくれたら、あの事も許せちゃいそうだなぁ?」
体育教師は興奮で息を荒げ、鼻の下を伸ばした表情で快感を味わっている。
「ああっ、あん! あぁん! あん!」
その言葉が千束には届いていない。
嵐のような快感に苛まれ、言葉を耳に入れるどころではなかった。
いつしか体位が変わっていた。
体育教師が仰向けに、いつの間に千束は騎乗位で弾んでいた。快楽で頭が真っ白に、無意識に肉棒を求める淫らな状態へと陥って、千束は自分でも気づかないうちに上下運動に夢中になり、自ら性を貪っていた。
体育教師の肉棒が限界に至り、膣内で弾んで精液を解き放つ。それと同時に――否、射精が刺激となった影響で、千束はそこで絶頂していた。
複数回にわたる絶頂と、自ら弾んだ疲弊感が重なって、千束はイった直後に俯いた。肩を大きく上下させての深い呼吸で、ようやく気を持ち直し、そして千束は表情を凍りつかせた。
「あれ、私……今まで…………」
戦慄した。
今の今まで、自分が取っていた行動にようやく気づき、千束は急に青ざめていた。
「そうだ。お前、かなり夢中になってたぞ?」
体育教師は語る。
体位を変えた時からの、千束が自ら快楽を貪る腰使いは、いかに卑猥で興奮を煽るものだったか。饒舌なまでに、上下運動について語り聞かせて、それら言葉の一つ一つが千束を震撼させていた。
しかも膣内には熱っぽい感覚がある。
ゴムも着けずに行われた挿入と、内側に広がる奇妙なぬかるみで、中出しされた事実に嫌でも気づき、千束はますます青ざめていた。
「せっかくだ。もっと楽しませろ」
千束は敗北感を味わっていた。
体育教師が勝者であり、自分は負け犬である感覚に襲われて、そのせいなのか体に力が入らずに……。