第3話 強制奉仕

 ケンが大きく目を丸めている。
 驚きのあまりに呆然とした顔をしていたが、激しい快楽電流に脳が痺れて、頭の真っ白になったクロエに至っては、より酷く放心していた。
 やがてはお互い立ち戻り、我に返っていくものの、人をイカせてやったケンと、イカされてしまったクロエの表情はそれぞれ違った。
(う、うそだろオイ……)
 正気に返ったところで、それはそれで今度は動揺していた。
 絶頂というものは、クロエにとっても知識的に知っていただけで、今まで体験したことは一度もなかった。それを初めて味わわせ、さも大手柄でも立てたような顔をしているのは、人を脅迫するような男の子だ。
 一気に無念が広がって、心が悔しさに圧され潰れそうな気さえしていた。
「ねえ、今のってなに?」
「うるせーし」
「なーに? 教えてよ! 勉強になんないじゃん!」
「うっせー! 絶頂だコラ! 悪いか!」
 クロエは激高していた。
 その大声にさすがのケンも一瞬ビクつき、肩を大きく弾ませるが、それでも引かずに魔法の一言を唱えてくる。
「校則」
 それを聞くたび、頭が揺れる。
「絶頂だっつの……うちだって初めてだから、よく知んねーし、わかんないけど、今ので合ってる……はず…………」
 合っていてなど欲しくない、本当は違っていて欲しい気持ちもありながら、だからといって今のが絶頂でなければ何なのか。快感が少し激しいだけでは済まず、潮まで噴いてしまったからには誤魔化しは通用しない。
「そっかー。絶頂かー。オーガズムとも言うよね」
「どこで覚えてんだ……」
「今のさ、それだけアナルが弱かったから?」
「黙れっての」
「まー、弱かったんだよね。でなきゃ、あんな一瞬でイクわけないもんね。本でも読んだけど、オーガズムって絶対にこうすればなるとか、そういうものじゃない風に書いてあったし、たまたまかもしれないよね」
「そ、そう。たまたまっ、たまたまだし」
「じゃあ、それを確かめるためにもう一回っ」
「くひん!」
 再び肛門を指でやられて、クロエは頓狂な声を出してしまう。
 ケンの指にくすぐられ、皺をなぞられ続けるあいだ、クロエは延々とよがっていた。生まれる快感の電流に、手足がしきりに動いてしまっての、いかにも翻弄された姿を晒し、顔さえ色気を宿しつつあった。
「ここが弱いのは間違いないよね」
「んぁっ、あぁぁ……!」
「でも、さっきみたいになかなか潮が出ないね? ビクっともしないっていうか、イったのはたまたまだったのかな?」
 感じる様子こそあれども、あまりイク様子がないせいか、ケンはやがてそう結論付けて手を引っ込め、肛門への愛撫を打ち止める。
 やっと終わったかと思うのも束の間、それは次の『勉強』の始まりに過ぎなかった。
「今度は射精について学びたいな」
「あ?」
 ドスの効いた低い声を放っていた。
 射精と聞くなり、経験はなくとも知識はあるクロエには、一体どういった要求が来るかの想像がついていた。冗談じゃない、誰がそんな真似をするかといった思いでいっぱいに、クロエはケンを睨みつけていた。

     *

 ケンは勝利でも確信しきったような、クロエのことを見下しきった顔で言う。
「俺さ。自分の手ではしたことあって、射精ってやつ? したことあるんだけど、女の人の協力でも本当にいけるのかな? エロ本にはフェラとかパイズリとか色々あったけど、そういうのって本当に気持ちいいのかな? 実体験で学ばせてよ!」
 実体験だの、学ぶだの、さも体験学習がしたい風に言ってはいるが、その実態がただの欲望であることは明白だった。
「いつまでつけ上がる気だっつーの」
「でもさ、やるしかなくなーい?」
 ヘラヘラとした態度に虫唾が走る。
「アンタは……!」
「ねえねえ、クールぶってる馬鹿な女でも、パイズリとかできるのぉ? 教えてよぉ?」
 勉強の皮を被せていながら、やはりそういう要求になっていた。
 当然のように拒まんばかりの感情が湧いてきて、誰がそんな真似をするものかと、むしろケンを叱責する言葉が口を突いて出かけていた。いい加減にしろ、もう我慢ならない。そういった思いが喉元にせり上がり、言葉として吐き出される直前にまでなっていた。
 ところが、それは急に引っ込む。

 ――校則。

 もし本当にバラされたら? 退学になったら?
 怒りのあまり忘れていた不安が急に前触れもなく蘇り、それが内側から頭を叩いてくる。頭蓋骨の中で見えない力が暴れ回って、脳を掻き回してくるように、クロエの思考を乱してくる。
「やればいいってわけ?」
 結局、秘密を守るためには屈辱に耐えるしかない。
 そんな結論に至る自分がいた。
(なんでうち、本当に……いや、でも校則……)
 何かの疑問が浮かびそうになったところで、それは直ちに立ち消えとなって、脳の奥底へと沈んでいく。
 そして、パイズリの準備が始まった。
 ケンは初めて服を脱ぎ、全裸となってテーブルに腰を下ろすと、膝を軽く左右に広げる。クロエはその股のあいだへ入り、突き出された腰に対して胸を捧げて、乳房のあいだに肉棒を挟もうとしていた。
(最悪……最悪……マジで最悪……ありえんし……マジありえんし……)
 肉棒を見るのさえ、生まれて初めてだ。
 記憶を遡りさえすれば、パパとお風呂に入る幼児年齢の時には見ているのかもしれないが、そうでもなければ保健教育の本に載せられた図解でしか、クロエは男性器というものを知らない。
 竿の部分を包む皮、先端に突き出た亀頭、リアルなイメージは脳裏にあるも、性や体の仕組みについて語った解説本には、デフォルメの効いた図しか載ってはいなかった。
 今初めて、クロエの前には実物がある。
 自分よりも背の低い、体格の成長も始まっていない、筋肉も少ない少年の、とはいえ勃起のために大きな逸物は、年下好きの気質でもあったなら、どこか可愛らしく見えるのだろう。
 だが、よしんばショタコンのような性癖があったとしても、脅迫されての状況に燃える趣味までない。
 自然とクロエが向けるのは、何かおぞましいものを見る目であった。
 グロテスクとまでは言わないが、そういうものを見る眼差しになりきっていた。
「マジでこれ、挟めっての?」
「そーだよ?」
「ありえん……」
「えー? 恋人同士なら普通にやるらしいじゃん! 予習させてよー!」
 ことあるごとに、ケンは将来のパートナーと肉体関係になった時の未来を持ち出す。
「予習なんて気があるんか? 単なる欲望だろが、この野郎……」
 引き攣る顔でクロエは挟んだ。
 乳房のあいだに迎え入れ、乳房の皮膚で肉棒の硬さや熱気を感じた途端、こんな奴なんかのために奉仕して、快楽を与えてしまっている状況に歯噛みする。
(チクショウが……!)
 十歳児の平均などわかりはしないが、普通よりは少しばかり大きい気がする。少なくともクロエ自身の指より長く、この細い指を二本は束ねた太さに至っている。
「おおっ、すげぇ!」
 しごき始めた瞬間から、ケンは感激していた。
「へー、そう」
 逆にクロエが感じるものは屈辱ばかりで、だから冷え切った視線を送りつけていた。愛する恋人でも何でもない、性的な悦びなど何も与えたくない相手の嬉しそうな姿など、クロエの充足感を満たすはずがなかった。
「姉ちゃんにとっても、予習になるんじゃなーい?」
「は?」
「嫁入り前でしょ? 未来の夫にしてあげるために、練習しておかなくちゃ」
「余計なお世話だっつの」
 日頃のクロエなら、どこか冗談めかしたであろう言葉にも、本気の気持ちが存分に宿されている。心の底から余計なお世話であると感じて、嫌がるあまり頬は引き攣る。肌に感じる肉棒の感触にも、嫌悪感しか湧いては来なかった。
 リンゴよりも一回り大きいかどうかあたりの膨らみで、初めてパイズリを行うクロエにはコツもわからず、そしてケンに喜んで欲しい気持ちもない。心の一切籠もらない、どこか投げやりな刺激を与えていたが、それでもケンは満足そうな顔をしていた。
「すっげーなー!」
 顔がはしゃいでいる。
「とっとと満足しろし」
 クロエとしては、少しでも早く切り上げて、いい加減にこんなところからは帰りたい。こうなるとわかっていれば、家庭教師のバイトなど考えもしなかったはずなのに、後悔の念ばかり湧いてくる。
 あの時、あの道を選んでいなければという後悔は、後からではどうしようもないとはわかっていても、どうしても湧いてくるものだった。
「早くっていっても、そういえば意外と出そうにないや」
「なんでだし……キモチーくせに……」
「気持ちいいんだけどさ、俺って出るのに時間かかるタイプなのかな? ま、とにかく気分は最高だけど、今のままじゃまだまだかかりそうっていうか、口も使ってくれたら、もっと早く終わるんじゃない?」
 反射的に湧くのは拒否感だった。
「口付けるとか、ありえんって……」
 クロエは引いた顔をしていた。
 恋人の頼みであれば気持ちも違ってくるのだろうが、少なくともケンの逸物など、まず接触していたくない。皮膚の表面がぞわぞわと、怖気が走ってならない中で、唇まで触れさせるのは想像もしたくなかった。
 しかし、そう提案してきたに過ぎなかったケンの言葉は、すぐにでも命令に変わってしまう。
「やってよ」
 はっきりと強要してきた。
「ああもう……どんな罰ゲームだっつーの……」
 嫌がる表情のあまりに頬も額も歪みきり、もはやまともな顔などしていない。顔の筋肉が強張って、いたる所がピクピクと痙攣するほどの、気持ち悪い物体を前にした時そのものの引いた表情で、クロエは唇を近づける。
(ホントに? マジでやんの? なんとかなんないの?)
 急に都合の良い奇跡が起きて、こんな真似はせずとも済みはしないかと、そんな願望をクロエは本気で抱いていた。
 しかし、そんな奇跡は起きなどしない。

 ちゅっ、

 と、自らの谷間に顔を落として、唇を触れさせていた。
 その触れる直前の表情は、嫌いな食べ物を我慢するなどという生易しいものでは済まなかった。もう腐って食べられないものを、それでも口に入れなくてはならないような、壮絶じみた汗の浮かんだものだった。
 クロエは亀頭にキスをしながら、両手でもって乳房を上下させ、パイフェラと呼ぶべき奉仕を開始していた。
「ちゅっ、ちゅぅ……ちゅぅ…………」
 当然、これも初めてだ。
 自分が上手にやれているかどうかなど知るはずもなく、そしてケンの方も初めてなので、クロエに技巧があるか否かの判断はついていない。上手い下手の区別がお互いにわからないまま、それでもケンは大満足の顔をしていた。
 どう我慢してもニヤニヤを抑えきれず、どうしても唇が吊り上がってしまうかのような、心の底から満足でならない顔をしていた。
(ウザいッ、フッツーにうぜーわ!)
 好きで奉仕しているわけではない、こうも嫌々しているクロエの感情は、苛立ちじみたものなのだった。
「ちゅるっ、ちゅぅ…………」
 亀頭の先端ばかりに集中して、代わり映えなく似たようなキスの雨を降らせ続けて、クロエは乳房も動かしている。両手で力をかけることでの乳圧で、ぎゅっと抱き締めながら上下にしごき、そうすることで乳房の狭間から、竿の一部が見え隠れを繰り返す。
 連続で行うキスは、それ自体は単調なものである。
 何度も何度も、しきりに鈴口を包み込み、チュッ、と触れた途端に直ちに離れる。数センチは離した頭をまた近づけ、いわば顔でピストンするような、動きの決まった往復運動となっていた。
 真面目にやろうとする意思も、喜んで欲しい気持ちもない。
 ただただ、早く終わって欲しい。
 せめてそれだけを願うクロエの奉仕は、当然のように熱も入らず、腹の底ではさっさとイけと繰り返しているばかりである。
 唾液の糸が引いていた。
 実のところカウパーが滲み出て、少しは濡れていた亀頭だが、そこに唇が重なることで、唾液によっても湿っていた。唇からの付着が繰り返され、表面にまとった水気の層が徐々に厚みを増すにつれ、やがては糸が伸びるようになっていた。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」
 往復運動のたび、唇と亀頭の隙間には、銀に輝く糸が伸び縮みを繰り返した。
 そのうち、舌で舐め始める。
 鈴口の一センチもないラインをなぞり、知りたくもない味を感じていると、カウパーの青臭い風味さえもが舌に広がる。クロエはますます顔を歪めて、激しく引き攣りながら続けていると、ついにケンは射精感を高めたらしい。
「おっ、おぉ……!」
 その瞬間、明らかに様子が違っていた。
「な、なに? どしたの?」
 最初はわけもわからずに、クロエとしても困惑したが、白濁の噴火が顎にぶつかり、顔を直接穢されたことで、今のが予兆だったことを学んでいた。
「おぉ……! 出ちゃった……!」
 ケンは感激しきっていた。
 生まれて初めて異性に射精させてもらい、それがよほど嬉しくての、満面の笑みを浮かべているが、対してクロエは引ききっていた。
「最悪!」
 下から噴き上がってきたものは、顎を中心にして跳ね返り、首や鎖骨に胸の谷間にかけても汚れた挙げ句、頬や鼻にもいくらかが届いてきた。肉棒と触れ合うことにも拒否反応のあったクロエにとって、そこから出て来た体液ほどおぞましいものはなく、触れた箇所から細胞汚染でも広がって来るような戦慄に、顔中から脂汗を噴き出していた。
「マジでない! 人に……か、かけるとか……!」
「あーごめんごめん。でも、洗えばいいっしょ?」
「そーゆー問題じゃないっつーの! ああもう、いいわ! アンタには何も期待せんわ!」
「はいはい。ごめんなさいねー?」
「平謝りもいいわ! せめてシャワーは借りてくから!」
 今すぐにでも洗い流したい。
 その思いでケンの了承も得る前から、ずかずかと部屋を出る。魔法で水を汲み上げて、ノズルから噴射する原理の水浴びで、冷たい水の心地良さに身を浸してはみるものの、こんなもので気分が晴れることはない。
 この程度の気晴らしで済んでしまうほど、一連の出来事は軽く済む話ではなかった。
(なんでこんな目に……うちが何したってんだし……)
 あまりにも最悪で、自分の不幸に泣けてくる。
 しかも、より最悪なことに、クロエが受けた家庭教師の契約は、一日だけのものではないのだ。
 明日から連日この家に通い続けて、勉強を教えなくてはいけないことになっている。
(さすがに、親とかいるんじゃ。つか、いてくれ……)
 両親在宅により、今日のようなことはやりにくい。
 といったことになって欲しいと、クロエは腹の底から願っていた。