クエルクスの相手は、言うまでもなく童貞だ。
ひとまわり年下の、まず一人目の相手となる青年は、実に礼儀正しく顔立ちも整っており、初対面での挨拶もしっかりとしたものだった。
「このたびは、この村の特異な風習をご理解の上、お付き合い頂き、本当にありがとうございます」
字面だけを取り上げれば、事務的で淡々とした言葉に見えるとしても、青年の熱っぽい声色には、儀式についてわかってくれて、本当にありがたくてたまらない、感謝の心意気が存分に込められていた。
おかげで、少なくとも青年に対しての悪い感情は湧いてこない。
きっと良い人なのだろうし、良い女性と出会い、幸せにやっていけるのだろうとも思う。
ただ、クエルクスの立場というのは、やはり断りにくいところに付け込まれ、こんな風習なんかに付き合わされる不運な立場だ。好きでオリジムシの襲撃を受け、仲間から怪我人を出したわけではない。
好きで怪我や病気になりたい人間などいない。
つまるところ、好きで助けを求めたわけでもない。
せっかくの親切に対して、まさかそれを口に出すつもりなど一切ないが、不本意にも体を切り売りする羽目になってしまっては、愚痴や不満のようなものが心の中にはいくらでも湧いてくるわけだった。
「……やっぱり、お嫌でしょうか」
そして、だから青年も慎重だった。
クエルクスの状況を青年なりに理解して、案じようとしているのはよくわかった。
「私は大丈夫よ。始めましょう?」
と、表面的には明るく振る舞い、何の不満もないようにしてみせてはいるが、いわゆる大人の対応にすぎない。不満不平をいちいち言わず、我慢するべきところでは我慢をする。そういう種類の対応で、儀式に対する批難の言葉を心の内側に封印しているに過ぎなかった。
成人の儀における手順として、クエルクスは既に身体を清めてある。
この小屋には浴室があり、術師の祈祷によって作られたという聖水で身体の表面を洗い流して、男の側も事前に身なりを整えてやって来る。お互いに顔を合わせた時点でもう、身体を清潔にするという段階は終了しており、早速のようにやるべき行為を開始できるわけなのだ。
「あの、では……。よろしくお願いします」
「さあ、こっちよ」
クエルクスとしても緊張している。
体を売った経験などない以上、初対面の男とその場で始めることには慣れていない。ただ青年よりも年上で、少しは人生経験を経ているから、特殊な状況でも必要以上に焦らずにいられるという、それだけの話であった。
クエルクスは青年をベッドに導き、それから服を脱いでいく。
肌を晒すと、それに対するまじまじとした視線が突き刺さり、さすがに羞恥心を煽られる。胸の膨らみ、太ももは腰のカーブ、あらゆる部位が視姦され、頬が薄らと染まっていくのを自分でも感じていた。
形はどうあれ、役目を引き受けてしまったクエルクスは、儀式存続派による説明を受けた上でここにいる。一から十まで全てが形式的な作法に沿うわけではなく、性行為の具体的な流れに関してまでは、詳しい内容は問われていない。
キスから入るか、フェラチオをするかしないか。
そこに細かい取り決めはなく、もっぱら成人を迎え、子供から大人へと自分の存在を切り替える。性交未経験の側にこそ、事前に参加しなくてはならない儀式、祈祷といった形式的な儀礼が求められている。
前日までにいくつかの儀礼を済ませ、当日には長老か祭司の承認を受けた上、専用の場で身を清めてから、儀式の小屋へと入るのだ。
要するに、ここにいる時点で形式的な事柄は済んでおり、あとは本当に肌を合わせるだけである。さっさと挿入だけさせて、形ばかり童貞を卒業させても、構わないといえば構わないのだが、明確なルール化がないだけで、暗黙のルールとしては、もう少しきちんとした時間を過ごさなくてはいけないのだ。
青年もシャツを脱ぐ。
厚めの胸板に、割れた腹筋を曝け出し、その立派な体つきを相手にクエルクスは性行為を開始した。
「……では、失礼します」
恐る恐るといった具合に、断りを入れながら、青年は胸に両手を伸ばしてくる。
「うん、どうぞ」
と、言うしかない。
しかし、絡みつく指により、胸を揉まれ始めた瞬間の、体中を駆け巡る抵抗感といったらなかった。青年には悪いのだが、やはり好きでしているわけではない以上、乳房に指が当たってくるのは、ムカデやナメクジが肌に触れてくるかのような、不快指数の高い生物に対するような嫌悪感が湧いてくる。
顔立ちが良くて、礼儀もあって、好感の持てる人柄ではあっても、食い込んでくる指に対する感情として、良いものは微塵も湧いてこない。
侵略される気分さえしてくるのだ。
本来、心を開いた相手にしか開放することのない、認めた相手にしか触れさせることのない、プライベートゾーンへの侵入である。そういう関係にならない限り、単なる友人や知り合いに対しては服の内側に秘匿している大切なエリアの中に、好きで侵入許可を出しているわけでも何でもない。
クエルクスは唇を結び、ただただ辛抱強く堪えていた。
正座で膝を突き合わせ、黙々と揉んでくる男に対して、密かに拳を硬くしながら、嫌悪感や抵抗感との戦いを心の中で延々と繰り返す。
(早く終わらないかな)
などと、クエルクスは思い始めていた。
まだ始まったばかりだが、胸を揉ませてもここまでの抵抗感があるというのに、挿入まで許さなくてはならないことに、今のうちから気が滅入る。しかも、相手はこの一人だけでなく、他にも順番待ちが控えているのだ。
「ちょっと、痛いかな」
「え? あ、すみません」
「もう少し優しくね」
「はい。このくらいでしょうか」
「そうそう。そのくらい」
クエルクスが力加減の注意をすると、その瞬間にほどよく力は抜けていき、強すぎず弱すぎない、快感を引き出すには十分な愛撫へと変化していく。直ちに感じるわけもなく、本心ではこんなことはしたくない、今からでも辞退したいとすら思うクエルクスには、まだ微塵の刺激もありはしない。
ただ、揉みしだいていたばかりの指遣いが、しだいに乳首に絡むようになり、指先で上下左右に転がしたり、乳輪をなぞるようになったあたりで、多少は甘い痺れを感じ始めた。
*
しだいに汗ばみ、表皮は僅かにしっとりと、湿り気の気配が生み出される。
クエルクスの乳首は突起していた。
長々と揉みしだかれ、さすがに感じ始めてからは、少しずつ血流が集中していき、ついには突起状態が出来上がった。固くなった乳首をやられると、ぴりっと痺れが走ったように気持ち良く、クエルクスは顔を顰めそうになっていた。
好きでしている行為ではない。
ならば、この青年の指で感じてしまうのも本意ではない。
快感を覚えてしまうことに対しての、微妙な屈辱感から表情が引き締まり、固く強張りかけていた。あからさまに嫌がる真似をしないだけであり、本心としては恥辱に近い感情を煽られていた。
もっとも、不本意が故のこの感情も、相手が礼儀正しい好青年である分だけ、随分とマシではあるのだろう。もっと性欲旺盛で、ヤれてラッキーといった気持ちを隠しもしない、ついでに見た目も最悪な男であれば、一体どれほどの不快感に襲われていたか、さすがに想像もしたくない。
「クエルクスさん。下の方も、よろしいでしょうか」
緊張ながらの、恐る恐るといった具合の言葉をかけてくる。
「そうだね。先に進んでくれないと、いつまでも終わらないんだし」
「……そうですよね。では失礼します」
青年の身体が迫って来た。
正座した股のあいだに手を届かせ、アソコを愛撫するために、少しだけ距離を詰めてきていた。
指がアソコのワレメを撫で上げる。
生まれて初めて行う緊張感で、顔も動きも硬い青年の、そーっと優しく扱ってくる指の摩擦は、やはりまず先に不快感をもたらした。ただマシになっているだけで、嫌悪や抵抗の感情が消えるはずもなく、内股には鳥肌が広がっていた。
不快感によって、体中がぞわぞわする。
(本当にあの長老は……この風習も…………)
人は生まれてくる親や出身地を選べない。
その土地の風習や伝統など、生まれた頃には既に出来上がっているのが普通である。
青年自身が悪いわけではない以上、心の矛先はなるべく他のところに向け、成人の儀という風習だけを恨めしく思うようにと、クエルクスは己の心を制御する。
恨み言の一つや二つ、言ってやりたい。
だが、今はそうすべきではない。
言いたい言葉がどれだけ頭に浮かんでも、そのたびに心の内側に封印していく。恨み言も、憎悪の感情も、全てを極力頭の中だけで完結させ、表情や態度には出さないように努めていた。
しかし、少しは思う。
どうせこの青年にも、ヤれて最高、是非とも楽しみたい。
といった具合の、喜びの情があるのではないかと、疑念というべきか、諦観というべきか。男とは所詮そんなものであることの、仕方の無さに対する念が胸中に漂っていた。
「んっ、んぅぅ………………」
少しだけ、ほんの少しだけ、クエルクスの息は乱れ始める。
愛撫が続く分だけ、皮膚はだんだんと敏感に、頑固であった性感帯のスイッチが少しは押されて、アソコは愛液を作り始める。やっとのことで生まれ始めた湿り気は、膣壁の内側だけに留まって、まだまだ青年の指に付着することはない。
とはいえ、感じ始めた以上はクリトリスも突起していた。
反応を示している肉体は、徐々に刺激を求め始めて、クリトリスが無意識の主張を開始する。クエルクスの心中にどれだけの不満不平があったとしても、クリトリスの方はうずうずと包皮から飛び出して、いかにも触って欲しそうな、接触を求めてやまない欲求を放っていた。
経験豊富な男であれば、そんな細やかな機微を読み取るだろう。
しかし、生まれて初めて異性の裸を前にして、これからセックスを行う男には、そんな機微などわからない。まして初対面であるために、お互いにお互いに胸中を図りかねているくらいである。
つまるところ、ワレメだけへの愛撫が続いた。
クリトリスの興奮に、青年は気づいていなかった。
片方の手では胸を揉みつつ、差し込まれた右手によって、ただただワレメだけが指に撫でられて、いつまでもクリトリスには刺激が来ない。
そして、その焦らされていることへの不満を、クエルクス自身もすぐには自覚できずにいた。
ただ、だんだんと体が火照り、部屋を蒸し暑く感じ始めるうちに、足腰が微妙にモゾモゾと動き始めていた。焦らされる時間が続き、やっとのことでクリトリスの敏感な状態に気づき始めて、あまつさえ触って欲しい気持ちさえもを自覚する。
(感じちゃうんだな……)
我ながら思う。
好きで触らせているわけではないのに、生理的な反応というものは、どうしてもしてしまうものらしい。それに対するやるせない感情で、少し寂しげなものを眉に浮かべるクエルクスだが、やがて己の反応を受け入れる。
生理的な反応とは、そういうものだ。
食事、睡眠、トイレ。
肉体にとって必要なものは、一時的な我慢なら可能なものだが、永遠には不可能だ。いつか必ず限界を迎え、それでも我慢しようものなら健康に支障をきたす。快楽も似たようなもので、欲求を抑えきれなくなるラインが、どこかには存在するのだろう。
気づけば表面に愛液が滲み出て、青年の指に付着するようになっていた。
「んっ、あぁ……ふぁ…………」
息遣いも荒くなり、クエルクスの頬には色気が浮かぶ。
「クエルクスさん…………」
青年の呼吸も荒くなり、目には興奮が浮かんでいた。
クエルクスの反応を見ることで、青年もまた顔を赤くしながら指遣いを活発に、ケダモノの本性を僅かながらに垣間見せているのであった。
*
クエルクスは自ら仰向けとなり、少しでも行為を先に進めようと促していた。
(いつまでも終わらないもの)
というのが大きかった。
延々と触らせ続け、いつまでも行為が進まず、青年の相手が終わらないという展開は、どちらにとっても良いものではない。できることなら、少しでも早めに済ませてしまいたいクエルクスと、初体験の緊張でなかなか先に進まずにいる青年、という取り合わせでは、こうなったらクエルクスの方から、できるだけリードしていくしかない。
本来ならば、もっと経験が豊富であり、相手を導くことに慣れた女性こそ、この儀式には相応しいのだろう。筆下ろしなど慣れていようはずもないクエルクスも、少なからずぎこちなく、だから進行はどうしてもたどたどしい。
「指、入れてみて?」
思い切って、クエルクスはそう告げる。
「はい。では、やってみます」
たどたどしくアソコを眺め、観察しながら指先を押し込んで、膣口の位置を探って差し込み始める。そんな青年の指が埋まって、膣内に収まり始めた瞬間に、やはりクエルクスが感じるものは抵抗感だ。
しかし、本当は拒みたいような気持ちとは裏腹に、指先はあっさりと膣内に収まって、愛液の滑りによってスムーズに出入りする。不慣れで恐る恐るであることがよくわかる、素人ながらのピストンでも、クエルクスはそこそこに刺激を感じていた。
ほんのりとした快楽は、ピストンによって徐々に広がる。
細胞が染まり変わっていくように、甘い痺れが少しずつ周囲を浸蝕して、内股や下腹部に快楽は広がっていく。やがては愛液の量も増え、ますます滑りが良くなることで、刺激はさらに強まっていた。
「んっ、んぅ…………」
呼吸が荒れる。
このまま順調に感度が増して、気持ち良くなり続けていったなら、ついには声が出てきてしまうのかもしれない。
クリトリスにはより多くの血流が集まっていた。
触って欲しい、指で嬲られたい欲求は、心理的には感じ続ける抵抗感と裏腹に、肉体面の反応として加速している。いつまでも触ってもらえない、焦らされたままのクリトリスに関しての、しかしクエルクスは何も言い出せないままでいた。
もっと気持ち良くなりたいので、クリトリスも触って下さい。
などということを、まさかクエルクスの方からは言い出せない。こうした時間からして、まず不本意なものなのに、どうして自らの欲望を口にするのか。意地のような気持ちもあり、クリトリスについては口を噤み続けていた。
膣への指遣いだけを、クエルクスは感じ続ける。
「……もうそろそろ、先に進んでもいいんじゃないかな」
「はい。それでは……その、そうさせてもらいます……」
青年の動きは固い。
ゴムを装着する動作も、見るからにぎこちないもので、脚を広げたクエルクスに向かって、亀頭を宛がう瞬間も、戸惑いに満ち溢れていた。
挿入しようと、腰を前に押し出してくる。
しかし、位置が違う。
ただワレメに当たっているだけで、切っ先が膣口に入っていない。
「もうちょっと下の方かな」
「ここでしょうか」
「そう、そこ」
教えてやると、今度こそ切っ先が侵入する。腰を押し込むだけとなった途端に、青年の肉棒はゆっくりと、少しずつ侵入を開始して、やがては根元までが収まっていた。
とうとう、入ってしまったのだ。
心を開いたわけではない、ただ儀式という理由だけで交わる相手の、本当なら受け入れたくはない肉棒が、クエルクスの膣内に収まっている。その太さの分だけ穴を内側から押し広げ、幅を拡張しようとしてくる苦しさに、クエルクスは苦悶に近い表情を浮かべていた。
「これが……これが女性の…………」
青年は感激に表情を染め上げていた。
まるで大きな感動に出会ったような震えた声に、クエルクスは軽く驚いていた。
「そんなに、嬉しいの?」
「ええ、もちろんです! こんなに、気持ちいいなんて……!」
「そ、そうなんだ? それは、よかったね……」
ぎこちなく笑い返すクエルクスだが、そうまで喜ばれることになるとは、動揺と衝撃の入り交じった感情で、少しばかり落ち着きをなくしていた。
「では、動きますので」
「うん。いいよ」
肉棒が出入りを始める。
青年の行う不慣れなピストンで、膣内に感じる肉棒の存在感は大きく膨らむ。やはり好きで受け入れたわけではない、不本意な結合に対する感情は拭いきれない。不快感そのものは、そうそう消え去るものではなかった。
だが、感動する勢いで喜ばれては、悪い気がしないのも確かであった。
欲にまみれた下品な喜びというよりは、子供がプレゼントを喜ぶ無邪気な感動という方がよほど近くて、青年の面持ちは微笑ましい部類といえた。思わず撫でてやりたくなるような、可愛らしささえ感じたくらいだ。
(何を考えてるのかな。私ってば)
少しでも母性をくすぐられた瞬間の、こんな形でのセックスを受け入れようとした自分に対して、クエルクスは戒めの気持ちを抱く。
体を売る生き方を選んだ覚えはない。
初対面の男に喜んでもらったからと、そんなことで成人の儀を受け入れるべきではない。交渉の結果として役目を背負ってしまったのは、今更どうにもならない話なのだが、何も精神的にまで受け入れて、抱かれることを楽しむ理由が一体どこにあるだろう。
と、そういった具合に意地を張ろうとした気持ちもありはするが、それを抜きにしても不快感を消し去るには不十分だ。
惚れたわけではない、好き合ってなどいない相手の肉棒が動いている。
ゆったりとしたぎこちないピストンで、クエルクスは股を突かれて身体を揺らされる。そこに薄らとした快感こそありつつも、最後の最後まで、やはりそれ以上にある抵抗感を堪え続けているのであった。
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