前の話 目次 次の話




 青年が深々と頭を下げる。
「どうもありがとうございました」
 実に満足そうな顔をして、嬉しそうに腰を折り曲げ、クエルクスへの感謝の念を口にする。その礼儀正しさと、本当に喜んでもらえている実感に対しては、やはり悪い気はしない。しないのだが、かといって精神的にも気持ち良く、満足のいく時間を過ごせたかといったら、そういうわけでもないのだった。
「どういたしまして。これで成人になれたんだね」
「はいっ」
「じゃあ、これから大人としてしっかりね」
「はい! すぐに仕事を見つけて、自立していきたいと思います!」
 本当に初々しく、そして若い。
 年上のクエルクスとしては、青年の若さに対する微笑ましさも感じつつ、これでようやく一人目の相手が終わったことへの、肩の荷が少しは降りた感覚で、僅かながらに力が抜けて背中のあたりが軽くなる。
 しかし、筆下ろしの相手がまだ残っていることを思い出し、改めて肩が重くなっていた。
「はぁ……」
 青年を外まで見送り、それから浴室に入ってのこと。
 蒸し暑い小屋の中、冷たい聖水は心地良く、汗を洗い流すにもちょうどいいものだったが、体を拭いてベッドに戻ると、改めて表皮がしっとりと、汗の気配でぬかるみを帯びようとし始めていた。
 成人の儀が普通のことで、何の疑問もないような時代の女性なら、筆下ろしによって相手に喜んでもらえれば、自分自身も嬉しくなってくるものなのだろう。処女や童貞が未熟な子供のシンボルなら、それを取り除いてやることの意義も、大いにあるのかもしれない。
 しかし、そもそも外部の出身であるクエルクスには、そういった感覚がない。
 むしろ体を売らされているような感覚で、それも自分自身で決心してそうしたというよりは、話術によって思考を縛られ、誘導され、いつの間にか同意させられての話である。その巧みな話術について後から気づき、騙された気持ちでいるクエルクスには、儀式を快く思うことなどできなかった。
 元を辿れば、オリジムシの攻撃である。
 あれさえなければ、せめて怪我人さえ出ていなければと、厄介な変異種の群れに対する恨めしい感情が蘇る。そして、もちろんこんな儀式さえなかったら、クエルクスに役目が回ってくることもなく、もっと別の形でお礼をしていたことだろう。
 風習に対する恨めしさも湧いてきて、薄暗い感情はどんよりとした灰色の雲のように胸中を漂っていく。

 コン、コン、

 と、木製のドアを叩くノックが聞こえた。
「し、失礼します! 自分はこの村の――ええっと――――」
 二人目の相手が現れたのだ。
 クエルクスはその緊張しきった次の青年を迎え入れ、ベッドの上で向き合うが、彼の緊張はなかなかほぐれる様子がない。ただ、人の色気に目の色を変え、固唾を呑んでいるばかりで、全身が硬くなりきったまま、指先一つの動きでさえもカクカクとしてぎこちない。
 最初の青年よりも、ずっと緊張している。
 一人目の整った顔立ちは、格好の良いイケメンといった部類であったが、この二人目の青年は童顔だ。歳は一人目と変わらないが、クエルクスよりも少しだけ背が低く、あどけない顔立ちに可愛らしさの方が目立つあたりは、青年というより少年を相手にしている気持ちになる。
「とにかく、服は脱いじゃおっか」
 と、そう言っておかなければ、このままでは先に進まない。
「は、はい!」
 青年は言われるままに脱ぎ始め、シャツだけはあっさりと、何の抵抗もなく脇に投げるが、ズボンやその内側の下着に関しては、いささかの抵抗感を示していた。異性の前に逸物を曝け出し、見せびらかしてしまうことへの、緊張と躊躇いをいくらでも抱いているようだった。
 しかし、クエルクスの方が服を脱ぎ切り、乳房も何も晒していくところを見ることで、どうにか決心はついたらしい。
 青年も裸となり、お互いに一糸纏わぬ姿となって、あとは行為を進めるのみとなる。
「さあ、始めよっか」
「はい!」
「そうだな。何からしたい?」
「え? ええっと、その……あの…………」
 尋ねてみれば、強張った表情で天を仰いで、しどろもどろに言葉を濁しているばかりだ。なかなか何も言い出せず、緊張のあまりに言葉さえも上手く捻り出せない彼に対して、仕方がないのでクエルクスの方からことを進める。
 そうしなければ終わらない。
 この不本意な時間に過ぎ去ってもらえないからこその、クエルクスの判断だった。
「しょうがないな。じゃあ、横になって」
「はい!」
「最初は私の方から触ってあげるね」
「よ、よ、よろしくお願いします!」
 仰向けになってもらうと、青年はますます硬くなっていた。
 気をつけのような形で、ピンと真っ直ぐに両腕を伸ばし、肩が大きく持ち上がっている。体中に力がこもり、筋肉という筋肉の数々が硬くなっているのもさることながら、表情だけを切り取ってみたのなら、まるで拷問を受ける直前の恐怖の顔にさえ見えてくる。
(なんて顔なの……)
 見ているクエルクスの方が呆然とするほどに、これから一体何が起こるのかと、未知に対する震えた瞳がそこにはあった。
(酷いことをするわけじゃないのに……)
 むしろ、酷い目に遭っているのは、どちらかといえばクエルクスの方のはずだが。
 それはわざわざ口には出すまいと、唇を結んでおき、クエルクスは青年の胸板に手を触れる。
「っ!」
 たったそれだけで、ビクっと弾けたように反応して、ますます体を硬くしていた。
「凄い緊張だね」
「申し訳ありません! 自分、初めてでありまして、女性と話をしたこともあまりなく――」
「あら、そうなの?」
「で、ですから、話をするだけでも、どうしても硬くなってしまい――すみません、なかなかこう……きちんと出来ませんでして……」
 自分でも気にしているらしいのは、ひしひしと伝わってくる。
「そう。だったら、とにかく最初はじっとしていてね?」
 こうなると、完全にクエルクスの手動でやっていくしかない。
「はい!」
 最初はひとまず、胸板や腹筋を適当に撫でてみて、それからだんだんと下の方へと手を伸ばす。どれだけ緊張していても、股間の怒張は立派なもので、しかも大きさに関して言えば一人目の青年を上回る。
 長大な逸物の表面には、血管が大きく浮き出ている。
 強い熱気が肌に伝わり、周囲には蒸し蒸しとした暑苦しい空気が漂って見えてくる。
 クエルクスはそれを握った。
「あっ、あぁぁぁ…………!」
 喘ぐのとも、悲鳴とも違う、何ともつかない頓狂で滑稽な声が上がった。
「どう、かな?」
 試しに上下にしごき始める。
 軽やかな指圧によって握り締め、ゆったりと拳を動かす手コキによって、青年は見るからに呼吸を荒くしていく。顔がみるみるうちに染まり上がって、血走った眼で興奮をあらわにして、鼻息まで荒っぽく吐き出していた。
「と、とても気持ちいいしだいであります!」
「そう? じゃあ、いっぱい感じてね」
 ひとまずは手コキに時間を費やした。
 ただ手首を上下させ、延々としごき続けるだけの時間を過ごしているあいだ、青年は緊張ながらの表情で、始終荒い呼吸を繰り返す。
 クエルクスの方はといえば、やはり抵抗や嫌悪感を腹に抱えて、本心では手で触れることにも拒否感を覚えているくらいであった。ただ口にも態度にも出さないだけで、相手がどういう人物だろうと、この時間が不本意なものであるという、根本的なところに変わりはなかった。
 黙々と続けていれば、やがては先端にカウパーが見えてくる。
 ぷっくりとした滴の膨らみが見えたところで、それを区切りということにした。
「入れ替わろうか」
「はい、どうすればいいでしょうか!」
「次は君が私に触ってね?」
「じ、自分が……や、やって……みます……!」
 今度はクエルクスの方が仰向けに、青年がその上から手を伸ばす形となるが、まず真っ先に乳房を揉もうとしてくる両手がたどたどしい。まるで磁石の反発力でも働いているようにして、迫るだけ迫った両手は、見えない力に押し返されて遠のいている。
 随分と目は血走り、ハァハァとわかりやすく息も荒くしているのに、純真なのか何なのか、触るに触れない様子であった。
(悪い子じゃないっていうか、いい子なんだろうけど)
 顔立ちにも、性格にも、嫌悪感は湧いてこない。
 もちろん、嫌な相手が現れたら最悪だが、相手がどうこうというよりも、やはり成人の儀を任され、筆下ろしの役目を背負わされる状況自体への不本意な気持ちがある。きっと、どれだけクエルクスの好みを突き、胸のきゅっと引き締まる相手が現れても、根本的な不快感が消え去ることはないだろう。
 そして、この時間から抜け出るためには、とにかくするべきことを済ませていく必要がある。
「ほら、触りたいなら触らなくちゃ」
 クエルクスは自らの手で青年の手首を掴み、自身の胸元へ導いた。
「な、な……な……!」
 あからさまに動揺して、しばしのあいだ固まるが、しばらくすれば青年の指は動き出し、いかにも恐る恐るといった具合であるが、胸を揉み始めるのであった。
 これでまた一段階、先に進んだことになるだろう。
 挿入へ向けての階段を、クエルクスが自ら進んでいる。肉棒を受け入れて、ピストンをしてもらうためのステップを、この手で進めてしまっている。そのことに対する感情で、胸中は複雑なのだったが、青年も青年で、どうやらいっぱいいっぱいだ。
「ち、乳房を……ああっ、この手で乳房を――――」
 青年の心境も、随分と忙しいものらしい。
 とにかく、女体に慣れてもらうため、しばらくは乳房を揉んでもらっていた。初対面に過ぎない相手の指に対する、やはり抵抗感はありつつも、段階を進めるためにも揉ませておき、クエルクスは青年の様子を窺っていた。
 青年はただただ、黙々と揉み続ける。
 たどたどしかった指遣いは、少しずつ活発になろうとする。これは平気だろうか、こういうやり方をしてもいいのだろうかと、探り探りといった風にタッチを変えて、乳首や乳輪を弄ってくる。クエルクスが何も言わない様子を見て、初めて平気だとわかったように、だんだんと指遣いのパターンが増える形で、徐々に愛撫は洗練されていく。
 十分も経つ頃には、巧みなマッサージと化していた。
 乳肌を撫で回し、表皮に刺激を与えつつ、ふとした拍子に指を埋め込み、乳首を転がし抜いてくる。甘い痺れが薄らと駆け巡り、だんだんと気持ち良くなる乳房への、永遠とも思えるような愛撫は続いていた。
 きっと、クエルクスの方から言わなければ、ずっと胸を揉み続けているのだろう。
「――く、クエルクスさん! このあたりで、アソコを――アソコに、触れさせて頂いても構いませんでしょうか!」
 と、思いきや、予想とは裏腹に青年の方から申し出る。
 彼としても、胸を揉むだけでは先に進まず、いつまでも終わらないとは思ったのだろう。
「う、うん。いいよ? 触ってみて?」
「では失礼致します!」
 青年の手がワレメに移る。
 クエルクスはそんな右手を受け入れるため、ぴったりと閉じ合わせていた脚に隙間を作る。内股に差し込まれた指先は、ワレメに向かって上下往復を開始した。
「んぅ…………」
 すぐに刺激を感じ始める。
 一人目の青年に触ってもらい、挿入でもいくらかは感じた時の余韻が、未だに残されていたのだ。漂っていたものが目を覚まし、再び活性化したように、クエルクスの膣は早いうちから愛液を分泌していた。
 まるで中断ポイントから再開したように、一人目の青年から与えられた快感を引き継いで、二人目の指に反応していた。
 十秒、二十秒と経った頃には、はっきりとぬかるんで、青年の指には愛液がまとわりつくようになっていた。
「んっ、んぅ……んぅぅ…………」
 気持ち良かった。
 それはやはり、クエルクスとしては不本意な快楽にあたるわけだが、気持ちはどうあれ肉体的な反応としては心地が良い。ほんのりと、甘く薄らとした快感は、それ自体はまったりとくつろぐような気持ちで楽しむのに丁度良い具合であった。

     *

 くちゅり、くちゅりと、粘液の音が鳴る。
「んっ、んぅ……んぅぅ……んぅぅ…………」
「問題、ありませんか?」
「……ん、うん。いい感じ」
「では、このまま続けていきます……」
 指遣いのチェックを求める青年と、判定を下すクエルクスという、ちょっとした実技演習のような空気が二人に漂う。
 青年は享受を求めたのだ。
 自分はこの通り、女性に対する免疫のない人間で、きちんと相手を見つけられるかは怪しいものである。しかし、もしも見つけられたら、きっと良い気持ちになってもらいたい。そのためにも、このせっかくの機会で覚えるべきことを覚えて帰りたい。
 そのようなことをしどろもどろに、緊張で拙い言葉で語ってきたので、クエルクスなりに教えたのだ。
 扱いが乱暴だと痛いこと。指の角度は、出し入れの具合は、どのくらいが丁度良く、どれほどやれば激しすぎて負担になるか。そういったことをひとしきり述べていき、そのうちに膣内に指を入れさせて、青年による指ピストンは行われていた。
 痛かった時に駄目出しをして、良かった時にはそれも伝え、青年はそれらを吸収しながら、愛撫に反映させていた。
「んぅ……んくぅぅ……」
「……ど、どうでしょう」
「気持ちいい、かな。その調子」
「では、続けていきます……」
 と、そういった具合であった。
 青年はクエルクスの教えた通りの加減を忠実に守ってくれるので、快楽の具合は丁度良い。乱暴さによって負荷を感じることもなければ、爪が当たって痛いということもなく、クエルクスは問題なく快楽に浸っていた。
 そして、浸るうちに思い出す。

 ――クリトリスが興奮している。

 一人目の青年には、結局のところ一度も触ってもらっていない。今のこの青年にも、特に教えることはしていない。クリトリスが包皮の中から顔を出し、外側に飛び出て突起している状態は、しかしワレメに隠れて見えていない。
 指でワレメの中身を開き、肉ヒダをあらわにさえすれば、きっとわかることだろう。
 クリトリスがいかに敏感になっていて、刺激を求めていることか。
「……んっ」
 だが、やはりクエルクスはそれを言わない。
(だって…………)
 好きで過ごしている時間ではない点が、どうしても大きいのだ。
 愛し合った相手と過ごす時間であれば、自分の心から認めた相手であれば、敏感な部分を可愛がってもらっての、辱めを受けることもまた一興だが、成人の儀で相手をするのは初対面の青年に過ぎない。
 人として認めるも何も、初対面ならば最低限の好意しか湧いて来ない。
 そして、第一印象の良し悪しや少し話してみての感触だけでは、普通は体など許さない。たったそれだけの好意を元手に行う性行為では、抵抗感を払拭しきれないのが現実だ。
 筆下ろしを繰り返し、初対面の相手とするということに、慣れきってしまえばまた話は違ってくるのだろう。
 しかし、クエルクスにとって、この青年はまだたったの二人目だ。
(言えるわけ、ないかな……)
 だから、クリトリスについては黙っていた。
 どうか敏感な部分を弄って欲しい、もっと気持ち良くして欲しい。などという、自分でも性行為を楽しもうとするような、いわばふしだらな発言など、不本意に過ごしている時間の中で、初対面の相手に行うことは、どうしてもできないのだった。
 それが意地を張ってのものなのか、ある種の線引きなのかは、本人にもわかりきっていなかった。
「クエルクスさん」
 おもむろに愛撫を切り上げ、青年は熱く真剣な眼差しを送ってくる。
「挿入、してもよろしいでしょうか」
 そして、告げてくるその言葉は、儀式を終わりに近づけるものだった。
「いいよ」
 クエルクスとしても、この時間に決着をつけるため、異論なく挿入の許可をする。ゴムを纏った肉棒に対して股を広げて、M字となった脚のあいだに挿入を受け入れて、二人は結合を果たすのだった。
「お、おお……! これがセックスというもの……おお、これは……!」
 一人目の青年に負けず劣らず、この青年もまた感激していた。
 泣き出す様子こそないものの、目から感涙の汗を出したとしても、まるでおかしくない勢いだった。
(どうしよう。また悪い気がしないというか……)
 そう、まただ。
 抵抗感は残っているが、感激をしてもらったり、喜んでもらえることについての、悪い気持ちは特にしない。むしろ、喜んでもらえて嬉しい気持ちによって、抵抗感が希釈されてすらいるのである。
「おぉ……おぉぉ……!」
 感激ばかりで、青年はすぐには動かない。
 一つになった感動に浸ったまま、ただ結合しているだけで気持ちいいように、しばらくはそのまま固まっていた。
 だが、やがては尋ねてくる。
「動いても、よろしいでしょうか」
 その言葉に頷くことで、初めてピストンは開始していた。
「んっ、んぅ……んっ、んぅ……んぅぅ……んぅぅ…………」
 一人目の青年よりも大きいため、幅を内側から押し広げ、穴を拡張してくる感じは強い。その苦しさが顔に浮かぶも、とはいえほぐれた膣内である。負荷ばかりを感じることはなく、突かれるたびに一定の刺激が生まれ、甘い痺れは内股に走っていた。
「んぅ……んぁ……あっ、んぅぅ…………」
 はっきりと喘ぐには、まだまだ程遠い。
 荒れた呼吸の中から、声らしき何かを吐き出すくらいがせいぜいなものだったが、続けるうちに青年の方も慣れてくる。たどたどしく、ぎこちなかった腰使いは、時間の経過につれて熟れたものへ変化していき、クエルクスが感じる快楽も増していくのだ。
「んぅぅ……んぅっ、んぅぅ…………」
 それでも、劇的には変化しない。
 呼吸が荒い以上の反応は、最後の最後まで見せることはなく、荒れた呼吸にかすかな声を混ぜ込んでいるだけで、やがて性交は終わりを迎える。
 数分か、あるいは十分近くか。
 いくらか続いたピストンは、精液でゴムを膨らませることにより、終わりを告げているのであった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA