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 そして、次に永雪氷織がリベンジを挑む時、女社長は今まで以上に大きな罰ゲームの内容を告げてくる。さすがにいくら何でもと、抵抗感を示した氷織ではあるが、それに対する社長の態度といったらない。
「あらぁ? 負けたまんまで帰っちゃうのねぇ?」
 難色を示したその瞬間から、大喜びで挑発をしてきたのだ。
「いいのかしら? 負け犬のままで」
「ここでリベンジの気概を見せられなかったら、そういうメンタルの問題って、ひょっとしてジェットバトルにも影響しちゃうかもねぇ?」
「でもしょうがないわよねぇ? だって、負けたら怖いものねぇ?」
 一つ一つの言葉が氷織のプライドを刺激する。
 頭ではわかっていた。
 そんな挑発に乗ってしまえば、結局は後悔するかもしれない。気持ちを抑えるのも大人の態度の一つだと、氷織も理解はしているが、頭での理解に心がついていかなかった。後で後悔する可能性より、屈辱を晴らしたくてたまらない衝動の方に傾いて、氷織は次なる賭けの内容を引き受けてしまったのだ。
 女社長が出した条件は、ほとんど体を差し出すようなものである。
 女同士である以上、そうはなるまいとしても、男相手の話であれば、処女を差し出した上で奉仕することにまでなりかねなかった。
 そのトランプ勝負においても……。

 氷織は敗北した。

 負けたショックは翌日まで引きずった。
 敗北によって生まれるモヤモヤとした曇りが心に漂い、胸の内側がどんより重い。それを晴らす方法は、リベンジを果たしての勝利であると、答えだけなら見えているのに、あれだけ繰り返しゲームをやって、氷織は全敗なのだった。
(次は……次こそは……)
 そう言って何回負けたか。
 そのせいで、どんな罰ゲームを受け入れているわけなのか。
 やはり、頭の片隅ではわかっている。
 わかっているが、自分で自分の衝動を止められない。負けたままではいられない、必ずモヤモヤとしたものを払拭して、心を晴れやかにしたくてたまらない気持ちが大いに湧き出し、もうどうにもならなかった。

 今日、氷織は女社長の会社を訪れる。

 そして、彼女の望みに合わせてユニフォームに着替えた後、氷織はしばらくのあいだ、社内の特定のフロアでのみ過ごすことが許される。表向きには広告への抜擢で、泊まり込みの仕事を頼むためとして理由を作り、KAZAMIをどうにか納得させているようだが、一週間にもわたる泊まり込みなど、社が本当に了解したというのだろうか。
 いや、でなければ一週間の不在などありえない。
 どんな交渉術を使ったのか、圧力をかける手段でも持っていたのかは知らないが、とにかくKAZAMIから選手を預かる許可を得ているのだ。
 氷織は静かに佇んでいた。

 ガラス張りの内側で、社員達の見世物になりながら、ぽつんと椅子に座っていた。

 丸椅子に尻を置き、ガラスの向こうを見つめる氷織の視界では、スーツやワイシャツ姿の社員が行き交い、絶えず何かの仕事の様子を見せている。
 しかし、こんなに目立つ形で永雪氷織を『展示』している以上、たまたま通りかかった男達の視線は言うまでもなく、好奇心から見学にやってくる者もいて、本当にたまったものではない。
 こんなことが罰ゲームの内容なのだ。
 展示品か何かのように、前後左右の壁から天井まで、全てがガラス張りとなった内側で過ごし続ける。寝泊まりに関しては社員寮が宛がわれ、氷織は毎日このガラス小屋の中に『出社』して、大勢の視線に晒される生活を始めるのだ。
 その一日目、最初の数時間を過ごしてみて、まず飽きた。
 何が起きるわけでもなく、何をするでもない。
 ただ見世物であり続ける時間は、大勢の人から視線を浴びせつけられるストレスと、あまりにもやることのない退屈さで、心が少しずつ蝕まれる。
 氷織が今の自分の状況から連想するのは、動物園の動物だった。
 動物の立場になって、檻の内側から客である人間を眺めるのは、ちょうどこんな感覚なのだろう。動物自身は動物園で生まれ育って、自分の環境を当たり前のものと思うものかもしれないが、氷織は罰ゲームという理由でここに座っているのであり、人間扱いされていない感覚が苦痛でならない。
 こうまでして、たかがトランプの勝負ごときにこだわるのか。
 その馬鹿馬鹿しさについて、自分でも思っているものの、ああまで大喜びで挑発してきた女社長だ。どうしても鼻を明かしてやりたくて、それがリベンジを受けつける条件だから、氷織はこうしてここにいた。
 やがて、その女社長がニヤニヤしながら現れる。
 背後に何人もの男達を伴って、子分のように引き連れながら、女社長はドアノブを握って氷織の前までやって来る。男達は入室せず、見学の指示でも受けているのか、まるで人気の動物に集まる客の群れのようにして、ガラス張りの向こうに貼り付いていた。
「おはよう? 気分はどうかしら? 氷織ちゃん」
「動物扱いですね」
「いいじゃない。あなたみたいな負け犬にはぴったり」
「…………」
 無言で、氷織は彼女を睨む。
「あら、怖い。この罰ゲームの条件、覚えているわね?」
「七日間、こうして過ごす。広告への抜擢が表向きの理由なので、その仕事もこなす。そして、条件を満たすことで、期間を一日縮めてくれると」
「そうよ? よく覚えていたわね? 偉い偉い」
 さも小さな子供を褒めるようにして、女社長は氷織の頭に手を置いて、髪をわしゃわしゃと乱しながら撫でてくる。
「やめてください」
 氷織は静かにそっと払い退け、社長に対する拒絶の意思を瞳に込めた。
「怒っちゃった? でも、条件は受け入れるのよね?」
「…………」
「これも、一つの勝負の形よ?」
「受けます」
「話がわかるわね? さあ、立ちなさい?」
 すっと、氷織は腰を上げ、すると後ろの気配に気づく。コン、と。ノックにも似た物音を聞くことで、ふと振り向いてみたところ、背後にまで人集りが形成され、氷織に対する好奇心に満ちた視線がいくらでも集まっていた。
 男、男、男。
 見学者の全てが男によって構成されている。
 自分自身も同じようにその内側にいて、ガラス小屋の動物と化しているのだろうに、女社長は悠然と腕を組み、氷織だけが人間扱いされないことの屈辱を感じていた。
 きっと、人と動物の違いだ。
 今の氷織は動物園の動物であり、女社長はその世話をする飼育員だ。動物が目当ての客達は、飼育員に対する注目などさほどしないのだ。
「さあ、始めましょうね? エッチなエッチな耐久ゲームを」
 女社長は早速のように氷織の身体に手を伸ばし、ユニフォーム越しの胸を揉み始める。
 まず、真っ先に襲ってくるのは、やはりプライベートゾーンを好きなように扱われ、いい気になってくる彼女に対しての不快感や恥辱感だ。気分など良いはずがなく、それに周囲の視線も気になって、氷織は薄らと頬を桃色に染めていた。
(男を集めているのは、このためというわけね)
 そういえば、昨日のトランプを行った部屋では、その場にいた社員が社長の性癖について承知している風だった。もしや他にも多くの社員が女社長がレズビアンだと知っていて、だからガラス小屋の中には入って来られないのではないか。
 見学は許す。
 しかし、手を出すことは許さないというわけだ。
 もしかしたら、女社長にとって今こうして周りにいる男性社員は、全てが氷織を辱める道具に過ぎないのかもしれない。バイブやローターの用途が快楽なら、ギャラリーを集めて視姦をさせることにより、羞恥心を煽るための舞台装置を作ったのだ。
「みんなにも見てもらいましょうね?」
 女社長はガラスの近くに氷織を導き、より人に見えやすい形で、背後から抱きつきながら揉み始めた。

 じぃぃ……じぃぃぃ…………
 ジィ……
 ジィィィ――――
 じぃぃ……
 じぃぃぃ――

 視線がいくらでも殺到してくる。
 手の平に包まれて、揉み込まれることによって変形を繰り返す。ユニフォーム越しの膨らみに対しての、好奇と欲望に満ちた眼差しが、ガラスの向こうにはいくらでも並んでいる。二十歳そこそこの、氷織と同世代と思わしき若手社員から、三十歳前後に見える男性社員、さらに中年社員まで、年齢層のバラけた集団が、しかし目つきだけは共通して、いやらしいものに対するニヤニヤとしたものを浮かべている。
「気持ち悪い……」
 女社長に対してか、男達に対してか。
 どちらに対して言ったのか、自分でもわからないが、あるいは両方に対してかもしれない。
「ほら、見てみなさい?」
 女社長の唇が、髪を掻き分けるようにして、耳の裏側へと触れてくる。
「みーんな、見ているわよ? あなたのオッパイ」
 揉みしだく指遣いは、ますます活発なものとなっていた。
 こんな姿を見られていると思ったら、たまらない気持ちになって、氷織は少しばかり横向きに顔を背ける。
「エロいなぁ」
「顔が赤くなっちゃってさ」
「へへっ、俺ファンなんだよなぁ」
 ガラス越しである男の声は、氷織の耳にも届いてくる。
 声量によっては遮られてしまいつつ、しかし大きな声は確実に鼓膜へ届き、いかに自分が猥談のネタになっているのか、鑑賞物として消費されているのかを思い知る。
「AVを見てオナニーする男の人って、みんなああいう顔なのかしらね?」
「やめて……」
「きっと、後で氷織ちゃん、ネタになるわよ? ここにいるみんなの頭の中で、永雪氷織が犯されるの。汚い肉棒を咥えさせられたり、挿入されたりして――」
「やめてください……」
 あまりにも生々しかった。
 男はそういう妄想をするものだと、知識的にはわかっていようと、こんな状況でねっとりと囁かれては、現実味を帯びすぎている。自分に対するいやらしい視線の一つ一つが、脳に記憶を刻み込み、思い出しやすくするための行為であると感じられ、そう思ったが瞬間に、氷織の頬はますます赤らみを帯びるのだった。

     *

 氷織はガラスに頬を押しつけ、そして胸も押し潰し、女社長に対しては尻を突き出す。
「セックスなら立ちバックになるかしらね?」
 そんなことを恥じらいもなく言い出しながら、女社長は後ろから尻を撫で回し、そして氷織には視線が殺到する。ガラスに向かって押し潰され、平らとなった乳房が観察されている。押しつけてある頬の、羞恥心による色の変化を見られている。
「恥ずかしそうだね?」
「どう? 社長の手、気持ちいい?」
「イったら一日延びちゃうんだっけ?」
「頑張ってイキ我慢しないとね」
 年齢層に関係なく、ここに集まる男達の言動は、全てがそういったものだった。
 それは女社長に命令され、見学をしたい者は、必ずいやらしい目つきで視姦をしたり、セクハラな言葉で辱めを与えるように言われてのことであると、氷織自身には知らされていない。教えられていないことなど知る由もなく、そして男達もその命令に拒否感を覚えることはなく、むしろ大喜びで女社長に従っている。
「僕ね? 勃起しちゃったよ」
「見せてあげたいなー」
「社長って、見せびらかすのは好きだけど、触らせてはくれないからなー」
(まさか、私だけじゃなくて……)
 きっと他にも、こんな風に扱われた女性が存在する。
 彼女は元々そういう人間で、周りに集まっている男性社員も、見学許可という名のおこぼれを預かって楽しんでいる。きっと、そのためだけに対外的な調整に奔走して、KAZAMIから氷織を預かる許可まで得るような、そんな方向性の努力をする人材が、身の回りに数多く揃っているのだろう。
(最悪な社長ね)
 こんな人物の手なんかで、いいようにはされたくない。
 そんなことになっては負けだと思い、氷織は快楽を堪え始める。頬を固く強張らせ、その内側で歯をきつく噛み締めながら、感じまい感じまいと意識をするが、女社長の尻を撫で回す両手の動きは、そういう魔力でもあるように、じわじわと快楽を引きずり出す。
 撫でられれば撫でられるほど、尻は敏感になっていた。
 ユニフォーム越しの、形の浮き出た尻が熱っぽく、隠れた肌が火照っている。レオタードや競泳水着と変わらない形状で、あるいはショーツのゴムとも例えられる尻の部分は、布の端から微妙に尻肉をはみ出して、ぷにりと潰れたものが見えているのだが、そんな肌の露出部に至るまで、女社長の愛撫は及んでいた。
 尻が延々と撫で回される。
 ただそれだけの行為に、一体どれほどの時間を費やすつもりでいるというのか。飽きは来ないのかと、純粋な疑問が湧くほどに、長々とやられ続けた尻肌には、確かな快楽が滲み出ていた。
 特に声が出る気配はない。
 いくらなんでも、喘ぐには程遠い感覚ではあるものの、ユニフォーム越しのタッチは細胞が溶け出すように心地良い。指先から細胞へと、何かを注入されているように、快楽はじわっと広がり、肉体の内側にある見えないスイッチは、確かに一つずつ押されていった。
 もう既に、下腹部はきゅっと引き締まっている。
 もしアソコを触られてしまったら、今よりもっと気持ち良くなってしまう。尻を揉まれている分には、マッサージが気持ちいいだけとも言える。性的な気持ち良さではないと言い張る余地があるにはあるが、アソコへの刺激となれば、決してそうもいかなくなる。
(まずいわ……)
 危機感が募ってくる。
 もし今、ここまで火照った状態で、肝心な部分を刺激されてしまったら、こんなに多くの人達が見ている前で、自分は一体どんな反応を示してしまうのか。その恐怖や不安は切実なものとして膨らんでいた。
 お願いだから、アソコだけは勘弁して欲しい。
 そういった気持ちが膨らむものの、この女社長が勘弁などするはずもない。
(来る……わね…………)
 尻から太ももへと手が移り、その両手が内股を揉み始めた時、そのあからさまにアソコの周囲を徘徊している指先に、いよいよアソコをやられるのだと覚悟を決める。
 Vラインをなぞられた。
 突き出した尻の下へと潜り込ませて、股のあいだに手を出し入れさせる形によって、その指先は鼠径部ばかりをなぞる。肉貝に触れそうな位置にありながら、明確には性器に触れず、焦らすためだけのポイントを突いていや。
 そして、その指が不意に離れた。
(来る……今度こそ……)
 やられるとしたら、このタイミングに違いない。
 そう思って、氷織は全身に力を込める。
 いきなりアソコを触られても、絶対の絶対に、わかりやすい反応などしてやるものかと意地になり、その感情は歯を食い縛った表情にいくらでも表れていた。
「お? 我慢できるかなー?」
「声が出なければ氷織ちゃんの勝ちだね?」
 そして、様子を見て悟ったのか。
 ガラス一枚を隔てた向こうから、氷織の反応をいかにも楽しみにする空気が広がり、期待感が肌に伝わる。氷織が可愛い声を出し、乱れるところを見たがっている。その下品な期待になど応えるものかと、意地を張った気持ちはより一層に硬化していた。
 そして、次の瞬間だった。

 ぺちん!

 尻に一撃を受けた時、
「ひゃ!」
 氷織は小さく悲鳴を上げていた。
 てっきり、アソコをやられるとばかり思って、その覚悟だけを固めていた氷織にとって、立派な不意打ちとなっていた。

 ぺちっ、ぺちん!

 尻叩きは繰り返される。
「やっ、なっ、なにを……!」
 執拗な平手打ちは、ユニフォームをふっくらと丸く押し上げた部分を打ち鳴らす。その打音を聞くことで、尻に感じる軽い痛みだけでなく、耳によっても屈辱を味わって、氷織は大いに表情を歪めていた。
 こんな仕打ちがあるであろうか。
 ただスパンキングをされるだけでも屈辱なのに、そんな氷織の姿を見世物にして、何人もの男を悦ばせている。自分という存在が消費され、すり減っていく感覚に、ただ屈辱という理由だけで、まるで拷問でも受けているような苦悶を浮かべた。
「おおっ」
「エッチな顔だね?」
「叩かれて感じてるのかなー?」
「オジサンも叩いてあげたいなー?」
 次々と嫌な言葉を投げかけられ、それらが感情を増幅する。
 ガラスに当てた氷織の両手は、いつのまにか握り拳へと形を変え、爪の食い込む跡が残りかねないまでに、みるみるうちに握力はこもっていく。

 ぺちん! ぺちん!

 一発を浴びるたび、風船に空気が注入されているように、屈辱感は膨らんでいた。
「ふふっ、氷織ちゃん?」
 しかも、その瞬間である。

「あぁぁ――――」

 突如としてアソコを撫でられた。
 ユニフォームの上からワレメなど見えないが、見えているかのように正確に、女社長は指で縦筋を上下になぞる。たったそれだけの刺激に腰が震えて、氷織は首で仰け反っていた。快感の弾ける衝撃で、尻すらぶるっと震えていた。
 一瞬、何が起きたのかがわからずにいた。
 ただただ、思いがけない衝撃に対する表情で、氷織は大きく目を見開いていた。

「イったわね?」

 その言葉を聞くことで、氷織はようやく思い知る。
 自分はたった今、またしても敗北したのだ。

 絶頂を我慢できれば期間は一日縮むが、イった場合は一日延びる。

 その条件による我慢ゲームに、氷織は負けてしまったのだ。



 
 
 

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