次の日も、クロエはバイトに訪れていた。
(っても、なんでこんな親にも言えない状況になってんのやら……)
正直、行きたくはなかった。
以前までのバイトでは、チンピラやゴロツキの入り浸る酒場であったり、何か非合法な取引をしている魔法道具店など、まともとは言えない場所ばかりで働いていた。校則でバイト禁止のため、教師に偶然見つかるといった可能性を避けつつも、かといって放課後に学校から通うのに不便すぎない、絶妙なポイントであるか否かも重要だった。
その点、家庭教師で個人宅に出入りするのは、傍からバイトに見えにくく、これなら発覚しにくいはずだと思っていた。
しかし、クロエの顔や学校を知る子供が現れ、何の偶然かバイト禁止の校則まで知られていたせいで、たちまち脅迫されてこの有様だ。
「へえ、こういうのも気持ちいいねぇ?」
クロエはまたしても、ケンに奉仕を強いられていた。
(しょーもな。どーやって思いついたんだか)
「姉ちゃんのネクタイはペニスをしごくためにあったんだね?」
(はっ、どーかしてるわ)
クロエは緑色のネクタイを肉棒に巻きつけて、その上から握らされていた。仁王立ちするケンの前に膝をつき、手コキをしているわけなのだが、男性経験のなかったクロエにとって、やはり抵抗感は変わらない。
脅迫などしてくる相手への忌避感もさることながら、ネクタイを使って欲しいなどという要求のマニアックさにも理解が追いついていなかった。
誰が好きでこんなことをするものか。
そんな思いでいっぱいに、クロエは右手を前後に動かす。
(ネクタイ、こりゃもう使いたくないわ……)
普段身に着けるものでこんな真似など、今後も使い続けることに抵抗が出てしまう。
「へへっ、そうだ。女の人もオナニーってすんの?」
嫌な質問が来たものだ。
「はあ、また急に答えにくいことを……」
「教えてよ。これも勉強なんだから」
「ベンキョーベンキョーって、しなくはないけど」
と、そう答えておく。
下手に誤魔化すより、いっそサラっと答えてみせていた。この程度の質問など何でもない風にしてみることで、つまらない思いの一つでもして欲しかった。
「へえ! するんだ! どんな風にするのか、やってみせてよ!」
無駄だったらしい。
「ちょっ、無理無理」
クロエは見るからに青くなっていた。
昨日は裸を見せてしまったが、加えて自分自身でアソコを慰める姿など、より一層の屈辱に他ならない。
「校則」
「ああもう……!」
クロエに抗う道はない。
やはりクロエはスカートの中から下着を脱ぎ、再び恥部を晒す羽目になりながら、昨日のようにテーブルで仰向けに、大きく脚を広げていた。M字開脚を晒しての、顔が燃え上がるような恥ずかしさに、クロエは早速赤面しきっていた。
(ハズすぎんだけど、これでオナるって正気じゃないわ。死ぬわ)
クロエは半ば以上本気でそう感じていた。
目の前で背筋を伸ばし、妙に姿勢を良くしたケンは、まるで人を鑑賞物のように見てきている。
「ほらほら、家庭教師だって立派な教師。ちょっとは教師らしく、昨日の復習を交えてみてもいいんじゃないの?」
「はいはい、復習ね。膣分泌液だっけ」
「そ、それ! 女の人がエッチな気分になった時に出るもので合ってましたっけ!」
「合ってる合ってる。大正解だから、早くこのハズい格好から解放させてほしーわ」
「そうだね。ならオナニーしないとね」
「はー、マジでやるのか……」
クロエはいかにも仕方がなさそうに、渋々に過ぎないことを隠すつもりのない顔で、アソコのワレメに指を置く。羞恥のあまりに歪みそうな口元を隠すため、左手の甲を唇に置きながら、まずはゆっくり動かし始めた。
「へえ、そういう感じにするんだ」
「そうなの。こういう感じなの。ちゃっちゃと満足してくんませんかね」
恥ずかしさの中にありながら、こんなしょーもないことで喜ぶ子供への、冷ややかな思いもまた湧いてくる。
(っとにウザ……)
恥辱感に苛まれ、恨めしい気持ちを抱きながらのオナニーなど、いつになったら愛液が出て来るのか、クロエ自身にも想像がつかない。ただただ、ワレメのラインに沿って指を往復させ続け、それを延々と繰り返しているだけの、見ても面白みなどないはずの光景ばかりが続く形となっていた。
(とっとと飽きろ?)
そう願ってやまないが、ケンはなかなか飽きてくれない。
数分以上が経過して、なおも愛液が出る様子はないのに、それでも見ていて楽しいらしい。まるで冒険を前にワクワクしているような、熱中しきった顔で見てくるので、これではいつ飽きてもらえるかもわからなかった。
(感じるわけないわー)
恥ずかしい一方で、どこか冷めた部分もある。
(だいたい、しょーもなさすぎ)
こんなものを見て何がいいのか、何がそんなに面白いのか。呆れた気持ちを胸にしながら、クロエはオナニーを続けていた。
愛液など、出るはずがないと思っていた。
ところが皮膚の表面がしっとりと、微妙に瑞々しく感じられるようになってきたのは、果たして気のせいだろうか。水に浸した直後の皮膚であるように、どことなく潤いが感じられ、クロエは微妙に焦り始めた。
(い、いや……感じるわけ、ないし……これで感じるとか謎だし……)
人に見られながらでは、落ち着いて快感に浸れるわけがない。
何かそれらしい妄想をして、自分を濡らすような真似もする気になれず、だから愛液など出ないとばかり自分では思っていた。
だが、ワレメからかすかに染み出て、微妙な水分が塗り広がる。
(まさか……いや、ありえんって……)
嘘だと思いたい。気のせいだと思いたい。
そう思いたい気持ちとは裏腹に、続ければ続けるだけ愛液の気配は強まってくる。続ければ続けるほどだんだんと、時間をかけて少しずつ濡れようとしているのだ。
(駄目だ。こんなん、続けてたらいずれは……)
そうだ、これだけ何分もやってなお、未だ愛液は出て来ない。クロエ自身は指で気配を感じていても、見た目ではきっと何もわからない。
「なかなか出ないね?」
そんなケンの言葉を聞くに、待っていたとばかりにクロエは言う。
「そりゃ出ないって。こんなんさ、アンタだって――エロ本? そーゆーの、例えば親が見てる前とかで楽しめんの?」
「うわ、親の前とか……」
思いつきの例えを口にするなり、ケンはその状況をリアルに想像したらしい。
「ってわけで、うちも人に見られながらなんて――」
「でも! 俺が触った時は出たじゃん?」
「生理的な反応っていうか……」
「人に触られたら出るのに、自分でオナニーしても出ないの? なんで?」
「なんで、っつわれても……」
「これは気になるなぁ」
「気にせんでいい」
「いいや、気になるじゃん? とりあえずさ、もうちょっと続けてみてよ。それでも出なければ、今度は試しに俺が触るからさぁ」
「触らんでいいっつーのに」
クロエは思いっきり顔を顰めた。
誰が好きで触らせたいものかと、腹の底では思うのだが、ともかくクロエは指を動かし続けてた。仕方がないので往復運動を止めることなく、一体いつまでやらされるかもわからない、終わりの見えないオナニーを延々と繰り返した。
(マジでとっとと飽きとけな。ほんと……)
未だ熱中した視線を送ってくるので、半ば呆れも混じりつつ、ついにクロエのワレメからは愛液が染み出していた。
(やば……)
あまりにも、決まりが悪い。
出るわけがないと言い張った手前、それで膣分泌液が出てしまうなど、一体どれほど格好のつかない話か。相手に冷やかしのネタを与え、喜ばせてしまうことになることか。嫌な想像ばかりが膨らんで、クロエは大いに顔を顰めきっていた。
(マジやば……出んなし……!)
などと自分で自分を叱責しても、もう遅い。
「やっと出たね!」
ケンは聞きとしていた。
「ったら……なんだし……」
クロエは屈辱のあまり顔を背けて、そのままケンの顔を直視できない。お漏らしというわけではないが、出すつもりのなかった汁を見せてしまい、どこか格好のつかない思いもあった。
「よし、じゃあ姉ちゃん。実演してくれたお礼に、今度は俺が気持ち良くしてあげるよ!」
「は? いいから。果てしなく遠慮したいわ」
「まあまあ、そう言わずに」
ケンはお構いなしにしゃがみ込み、クロエのアソコを触り始める。
「ちょい待ち? マジにいらんから! そういうの!」
ワレメに指が置かれた時、クロエは思わずケンの手首を掴んで止めかけるが、その瞬間に向けられるニッタリとした表情に、やはり校則の二文字が脳裏を掠めていく。握った弱みを楽しげに突きつけて、嫌でも言うことを聞かせようとしてくる目だとわかった時、クロエは諦めたように両手の力を抜いていた。
「いらんっつーのに……」
それでもケンの愛撫は始まる。
「もうヌルヌルだね?」
そう言いながら、表面をなぞるだけでなく、穴に指まで入れようとしてくるケンに目を丸め、クロエは慌てたように下を見た。
「んっ、ちょっ……な、なに謎に上手くなって……!」
昨日の今日のはずなのに、ケンは恐ろしく上達していた。
膣口に埋まった指がスムーズに出入りして、もう片方の手ではクリトリスをなぞってくる。二点に対する刺激が快楽の電流を生み出して、それに反応した手足がくねくねと、しきりに動いてしまっていた。
ケンの満足いくまでアソコを弄られ、やっとその手が離れる頃には、指先から滴が垂れるほどには愛液が染み出ていた。
*
また次の日、クロエは体操着に着替えていた。
ケンによる脅迫はまだまだ続き、今度は聖学祭の時の格好をして欲しいと言われての、緑のリボンで髪を束ねたポニーテールを披露していた。あの時の格好では、体操着の片側を縛ってヘソ出しのようにしていたが、そんな細かいところまで要求され、わざわざ再現させられていた。
(っとに、随分なシュミしちゃってまぁ)
その性癖に顔を顰めるのもさることながら、クロエがひどく顔を歪めているのには、もっと大きな理由もあった。
(なんでコイツがいんの?)
ケンの傍らには、クロエの弟がいた。
「へえ? 姉ちゃん、本当に家庭教師やってたんだ?」
「そーなんだけど、なんで? どーゆー知り合い?」
どこでどう知り合ったのかは知らないが、自分を脅迫してくる人物の隣に弟がいる。この状況を好ましく思うはずはなく、もしや人質か何かのつもりか。あるいは弟にも余計なことを吹き込むつもりではないかと気が気でない。
「まあまあ、そんなのいいじゃん。それよりさ、今日は遊ぼうぜ?」
「いや、うち一応家庭教師。勉強教えにきてんの。あんたの親からお金貰ってるわけ」
「いいのかなぁ? あの話」
「ああもう……!」
クロエは本気で頭を抱えた。
両親は子供のこういう部分について知っているのだろうか。もし気づいていれば、こんなことは続けられないはず。きっと親に黙って秘密の楽しみを見つけ出し、それを堪能しているつもりもあるのだろう。
大人に隠れて何かを楽しむのも、立派な子供の習性だ。それがこんな形になっているのは、本当は見過ごしてはいけないのだろうが……。
ケンがおもむろに迫って来る。
弟には聞こえないように気をつけながら、耳の近くで囁いてきた。
「弟さんには、まだ話してないよ? 昨日とか、一昨日のこととか……」
クロエの頬に冷や汗が浮かぶ。
「あーあ、弱みが増えちゃったね」
「へえ、そーゆーこと」
これでケンの目論見はわかった。
つまり、クロエはますます身動きが取りにくく、そして逆らいにくくなったわけである。
「姉ちゃん! 何して遊ぶの?」
弟は目を輝かせ、いかにも楽しみそうにクロエを見上げる。
おそらく、遊びに誘う形で呼び込んで、部屋にまで連れ込んだに違いなかった。
「あー、そうだね。なんしよっかねー」
「お馬さんごっこだろ」
と、ケンが提案した。
「いくつだオイ」
「子供ながら童心に帰りたいってやつ? 三歳児の頃に帰ってみたいなーって」
「ったくもう……」
今までの仕打ちに比べれば、四つん這いになって背中に人を乗せる方が随分マシだ。あまり気は進まなかったが、クロエはすぐに両手を突いて、いつでも乗ってもらって構わない体勢を整えていた。
まずは弟が背中に乗る。
「いけー! 姉ちゃん号!」
「無邪気か……」
とはいえ、弟を乗せる分には、まだしも嫌な気はしない。人の弱みを握ってくるようなケンと、気心の知れた弟では、感覚がまるで違った。
ひとまずテーブルの周りをぐるりと一周する。
「俺も俺も!」
「あんたも無邪気か……」
今度はケンが背中に乗り、さすがに弟を上回る体重を感じながらも、同じようにテーブルを一周する。
果たして、その最中だった。
ぺん!
急に尻を叩かれた。
「は?」
「ほらほら、急げ急げ!」
ケンはそんなことを言いながら、後ろ側へと手をやっていた。
ぺん! ぺん!
クロエは引き攣るように歯を食い縛っていた。
(ぐっ、こいつ!)
人の苛立ちと不快感を知ってか知らずか、ケンの楽しげな平手打ちが繰り返される。
ぺん! ぺん!
尻に軽い痺れが走り続けて、業腹だがクロエはそれに合わせて速度を上げる。
(弟の前だっつのに……)
ここまで格好のつかない姿を身内に見せる。
こんな情けないことがあるだろうか。
「わー! 姉ちゃん、だっさー」
「うるさいから……」
「お尻叩かれてるー」
「あーもう! 情操教育によくないから! その辺にしときな!」
クロエとしてはかなり本気の注意であった。
いいや、本当はもっと怒りをあらわに、思いっきり怒鳴りつけたいくらいである。
一瞬、手が引っ込んでいた。さしものケンも萎縮したのか、しばらくは叩かれることもなくなって、お馬さんごっこは終わりを迎えることとなる。
終わると、思っていた。
「姉ちゃん! もう一回!」
「はぁ……」
弟の要求で、仕方なくもう少しだけ付き合って、クロエは馬となり続けた。
*
さらに次の日、クロエはケンを伴って出歩いていた。
(はぁ……もう完っ全に本来の勉強どころじゃないわ……)
この日も体操着で髪を結わえているのは、ケンの趣味によるものなのだが、加えて外に出ているのは挨拶回りのためだった。
ケンの思いつく内容にロクなものはない。
もちろん、単なる挨拶をして回るわけではない。知り合いの元へ赴き、そこで屈辱的な宣言をして回るという最低のプレイである。
その提案を聞いた時、もはや我慢の限界を超えかけていた。
「は? ふざけてンの?」
学校では何故か不良に見られているクロエだが、その時の有様はもはや本物のヤンキーが人に因縁をつける光景そのものと化していた。家で提案を聞くや否や、ケンのことを壁際に追い詰めて、睨みを利かせながら凄んだ時の縮みようといったらない。
「ひ、ひぃ……!」
などと、ケンが悲鳴を上げかけていた。
「いつまでも言うこと聞くと思ってンの? 人には限界ってもンがあんの知らない?」
「こ、こ、校則! 校則! いいのかよ!?」
無様にビビり散らかしながら、必死になって脅し文句を唱えるケンの滑稽な顔といったらなかったが、やはり校則の二文字を聞かされた瞬間だ。
くらっと、またも頭が揺れた。
こんな脅しなど撥ね除けて、逆に脅し返してやろうと思うクロエの心は、何故だか縮んでいってしまう。風船に針でも刺したかのように、すーっと小さくなっていき、結局はケンに従う自分がいる。
依然として脅しに屈したまま、クロエはこうしてケンと共に出歩いているわけだった。
町を行き、その最中。
「あ、あの制服!」
ケンが指差すその先には、クロエのクラスメイトの女子二人が歩いていた。
(あー……あの子らは……)
クロエのことを謎に恐れてくる二人組だ。
以前、古物商のバイトで巻物を預かっていたことがあり、その巻物が授業中に熱を発した。それを気にして中身をチェックした際に、他の席から中身が見えてしまったことがある。現在では禁忌とされている呪法が載っていたため、ヒソヒソと噂されたのが気になって、口止めしようと声をかけたのだが、その結果として必要以上に怖がられてしまった。
秘密を守ってくれるのならいいのだが、あれほど怖がることがあるだろうか。
「あの子達のとこに行ってよ!」
ケンが指す二人組は、まさにその時のクラスメイトだ。
(あー……いや、どうしたもんかな……)
「ほら、行けって!」
その時、後ろから平手打ちが炸裂する。
ぱぁん!
尻に軽い痺れを感じ、肩越しに睨み返すと、ケンは「ひっ!」と声を上げながら萎縮していた。
(んなビビるクセに、なんで脅迫はやめないかな)
「ほら、行けよ! じゃないと――」
「あー、はいはい」
仕方がない、行くしかない。
クロエは二人組の元へ向かって行き、その正面を立ち塞いだ。
「ひぃぃ!」
「く、クロエさん!?」
先ほどのケンに劣らず、人の顔を見ただけで縮み上がる勢いだった。
「あーどうも」
まずは気持ち程度に挨拶する。
「な、な、な、なにかご用件が?」
「わたくし達は別にその何も……クロエさんに悪いことは……!」
やはり恐れられている。
「そーゆんじゃなくて、そのだ。なんつーか――」
ここまで言って、口を噤んだ。
日頃交流があるわけでない、同じクラスであるという点以外には何の関わりもないクラスメイトではあるが、かといってケンに命令された言葉はいいにくい。二人に向かって屈辱的な宣言をしなくてはならないのだが、それがどうして週のオナニーの回数なのだろう。
(だいたい、この子らの中でのうちって、一体どーゆーことになるんだろね)
急に声をかけ、はしたない宣言をして去っていく。
変態と思われても仕方がない。
(あー我慢なんない……やっぱ無理かな……)
そう思った時である。
ぺん!
と、また後ろから尻を叩かれた。
「そちらの子は……もしや舎弟か何かですの!?」
「く、クロエさん……舎弟がいらしたんですの!?」
(なんだ舎弟って)
だいたい、今のが見えていないのだろうか。
ある意味クロエにばかり夢中で、尻を引っぱたく瞬間に気づかなかったのか。
「あー……えーっと、うちは週に三回くらいオナニーしてまーす……」
そう言って背中を向け、ケンを伴いながら去っていく。
(サイアク……)
いい気分などするはずもなかった。
「え? え?」
「いったいなんですの?」
後ろから聞こえる反応だけで、わけもわからず、信じられない目を向けてくる顔が浮かんで来る。
モヤモヤする。
(ま、いーけど。いや、ちっともよかないけど、いいか……)
どの道、そう仲良くすることもない相手だと割り切って、さっさと忘れてしまおうと思ってはみるものの、次にケンが指すのも女の子であった。
「次はあの子ね」
ケンがたまたま指した女の子に目を向けると、その見覚えのある顔にクロエはぎょっとしていた。
「待て、オイ。覚えてないんか?」
「あ……」
言われて初めて、ケンも気づいたらしい。
その子はケンが聖学祭の時にセクハラしていた女の子だ。それに本人も気づくことなく、まったくの偶然で指していたようだが、かといって相手を変える気もないらしい。
「ま、いいじゃん」
「何がいいんだか」
「ほら、行けって!」
ケンはまたしても、クロエの尻を叩いてくる。
ぱん!
と、平手打ちの打音と共に、軽い痺れが尻に走っていた。
仕方がない、行くしかない。
本当の本当に気が向かず、抵抗感がどうしようもなく膨れ上がるが、後ろから見守ってくるケンの視線もまた痛い。肩越しに睨みつけると萎縮はするが、怯えながらも校則のことを目で訴えかけてくる。
「あ、どうも」
クロエは女の子の前に立ち、真正面から声をかけていた。
「く、クロエさん!」
何故だか頬が赤らんでいる。
その嬉しそうな表情を見ていると、これから行う宣言がますますやりにくくなってくる。
「あ、えーっとねー」
「はい! 何かご用でしょうか!」
女の子にはクロエのことしか見えていないらしい。
キラキラと瞳を輝かせ、期待混じりの表情を向けてくるのは、クロエにとって本当の本当に複雑でならない。
(この顔曇らせるンか、うちは……)
そう思うとため息しか出て来ない。
しかし、退学のリスクと天秤にかけ、結局は口にするのだ。
「うち、週に三回くらいオナニーしてまーす」
本当に屈辱的だった。
人前に現れて、急にオナニーの回数を宣言するなど、果たして変態以外の何があるだろう。
「え……」
女の子も絶句していた。
クロエが何を言ってくるのか、期待に期待を膨らませ、目から輝きを放った表情そのままに、石のように固まっていた。
非情に申し訳ないというべきか、何というべきか。
あまりにも微妙な気持ちで女の子に背を向けて、ただの変態宣言だけを残して去っていく形となる。しかも女の子がクロエの背中を見送る時、そこにケンの姿があることで、一体彼女をどんな心境にさせたことだろう。
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