胸に広がる恐怖はより濃いものとなっていく。
(うそ…………!)
それを見た瞬間、有香の全身が総毛立つ。
太野が電気マッサージ器の匂いを嗅いでいた。
絶頂した以上、ならば有香の股からは、それなりの愛液が滲み出ている。当然のようにマッサージ器の表面にも付着していて、太野はわざわざそれを鼻に近づけて、存分に吸い上げ始めているのだった。
有香の抱く恐怖は、もはや完全な形となった。
太野に対する疑惑は、もうとっくに確信に変わっている。この大人には子供の裸を楽しむ性癖があり、小学生の女の子にも手を出しかねない。立派な危険人物であり、自分は今、丸裸でそんな大人と一緒に過ごしている。
他に誰もいない密室だ。
本来は休院のせいか、他に看護師や清掃職員など、別の誰かがいる様子もなく、太野だけが職務に当たっている。有香のことを楽しんで、堪能するためだけに、一人で働いている。
今の有香に逃げ場はない。
(ど、どうしよう……どうしよう……!)
できれば、信じたい。
この人はただ、立場を利用したイタズラをしているだけで、何もレイプまではしてこないと、そう信じたくてたまらない。
有香にとって、かなり切実な問題だった。
スポーツが得意なわけではない、とりわけ足の速いわけではない自分では、いざという時に逃げ出しても、きっと簡単に追いつかれる。まして二人きりの状況で、どんなに悲鳴を上げても誰かが助けに来ることもありえない。
そんな状況で身の危険を感じれば、背筋が冷たくもなってくるのだ。
「何をそんなに、怖がっているのかな?」
「い、いえ! ちがいます!」
反射的に大きな声で否定をしてしまうが、それがかえって恐怖を肯定してしまっていた。
「あらあら、そんなに震えちゃって」
「ちがいます……本当に…………」
言えるわけがない。
あなたのことをロリコンだと疑って、身の危険を感じています。レイプされるのではないかと警戒しています。などという告白を本人に向かってできるはずもなく、だから有香としては認めるわけにはいかなかった。
そう認めてしまうことで、逆上した太野によって本当にレイプされはしないかという恐怖心で、だからこそ恐怖の否定に走っていた。
だが、有香は確実に体中を震わせている。太野が少し物音を立てるだけでも、体がビクっと弾みそうになっていた。
気づけばすっかり、有香は恐怖に支配されていた。
性犯罪者と二人きり、どこにも逃げ場はないと感じてこその恐怖心に縮こまり、手足の動き一つを取ってもぎこちなくなっていた。
「ま、いいけどさ。もう一度試してみない?」
太野はマッサージ器を向けて来る。
「や……」
「嫌なの?」
「い、いえ! 大丈夫……です……」
怒らせることが怖くて反射的に大きな声を出しつつも、そんな有香の声は直ちに萎み、小さなものへと変わっていた。
仰向けの有香へと、電気マッサージ器は迫って来る。
また、あの激しい稲妻のような快楽が来るのだろうかと、不安ながらに待ち構える。アソコに触れて来た瞬間、そしてスイッチが入るなり、全身がびりっと痺れるように弾み上がった。やはり大きな快楽電流が弾け回って、仰け反りそうになっていた。
「あああああ…………!」
自分自身でも驚くほどの声が出ていた。
脳が痺れて、何も考えられなくなる。
「あぁ……! あぁぁぁ……!」
あまりの激しい快感に、絶叫めいた声を絞り出しながら、マッサージ器が離れた途端に大きく肩を上下させ、有香は息を整え始める。まるで全力疾走の直後であるように、呼吸を乱して汗まで流し、髪も肌へと張りついていた。
「へぇ? さすがに開発が進んでいるだけあって、よく感じるねぇ?」
気まぐれに離した電気マッサージ器を再び近づけ、有香の膣を震わせる。
「んあああああ!」
「まだ胸もちっこいし、毛だってまともに生えていないのに、感度は立派だね? よっぽどエッチが好きなんだね?」
「やっ、あぁ……! あぁぁぁぁ……!」
あまりにも激しい声を絞り出し、過呼吸になりそうなほどだったが、数秒もすれば再びマッサージ器は離れて行く。
やはり肩を大きく上下させ、有香は壮絶な何かを表情に残したまま、電気マッサージ器をすっかり畏怖していた。相性なのか、何なのかはわからないが、あの振動が膣に及ぶと、恐ろしいまでの快感が弾け回って、喉が壊れそうなほどの声が出てしまう。
(やだ、もういい! もう電気マッサージ器はいいよ!)
誰もここまで感じたいとは言っていない。
あれほどの刺激とあっては、まともに楽しむ余裕もなく、むしろ体力を大幅に削り抜かれる感覚の方が強かった。
診察台のシーツには、すっかり愛液の円が広がっている。
「お漏らしみたくなったねぇ?」
その指摘に、有香の顔は恥辱に歪む。
思春期の少女にとって、お漏らし呼ばわりほどプライドを傷つける屈辱はなかったが、何の言葉も返せはしない。
「ところで、写真撮ろっか」
「え…………」
聞くに心が冷え切った。
写真? この人のカメラで?
ロリコンの手で握られたカメラによって、この体を写されるということは、一体どういうことか恐ろしくてたまらない。今に逃げ出したい思いに駆られ、焦燥にまみれた顔で反射的に身体を跳ね起こす。
バネ仕掛けが弾ける勢いで、有香は仰向けから上半身を起こしていた。
「どうしたのかな? まさか、嫌だとか言わないよね?」
その言葉が呪縛となった。
嫌がったら……怒らせちゃう…………。
怒らせた結果として、一体どんな目に遭わされるか。
もしや本当にレイプされるのでは、という恐怖感を切実に抱く有香にとって、太野の機嫌を損ねることはリスクそのものと化していた。
「じゃあ、撮っていいね?」
「……はい」
そう答えるしかなかった。
*
パシャ! パシャ! パシャ!
シャッターが切られるたびに、その音声と共にフラッシュが焚かれている。その一回ごとに身体がカメラに収まり、自分の裸が記録され続ける感覚は、まるで心に刃物で切れ込みを入れられるかのようだった。
有香は様々なポーズを取らされていた。
全裸の直立不動で正面から、横や後ろから、そして乳房や性器に、尻のアップなど、精密検査の書類に必要だと言いながら、そのために写真と称して太野は撮影を行っている。
半分は事実だろうと、有香も思う。
だが、ひとしきり撮影が進めばきっと……。
「四つん這いになってみようか」
やはり、思った通りであった。
仕事上の必要な撮影はあったのかもしれないが、それさえ済めば、そのついでのように趣味の写真も撮ろうとする。
しかし、有香は素直に従っていた。
逆らえば何を言われるか、どんな風に怒鳴られるか。それが怖くて顔色を窺ってしまい、これで済むなら……と、レイプよりマシだと思いながら堪えている。相手に性犯罪者の気質がある以上、その危険はかなり現実味を帯びているはずだと、有香はすっかり信じ切っていた。
パシャ! パシャ! パシャ!
尻にカメラフラッシュを浴びている。
診察台の上、無造作に取ったポーズをそのまま撮らせ、我慢に我慢を重ねていると、太野はこんなことまで要求してくる。
「ねえ、視線頂戴よー」
これでは完全に、撮影会か何かである。
逆らえず、肩越しに振り向く形でカメラを見ると、自分が一体どんな映り方をしているのかに想像が及んでいった。尻と顔が同じフレームに収まって、もしかしたら肛門も同時に見えているかもしれない予感に引き攣っていた。
(やだ……!)
だが、そんなことだけで済みはしない。
その後もさらにポーズを取らされ、もはや太野の趣味を満たすためだけの時間と化した中、泣く泣く従い続けているうちに、太野はやがてカメラを引き下げる。
これで終わっただろうかと、安心するのは早かった。
太野は次に手錠を持って来ていた。
裸の少女に対し、手錠。
となれば、SMチックなプレイを連想するのは、性知識の揃った有香にとっては当然の話であった。
「有香ちゃん?」
実に穏やかで、気の良さそうな笑顔と共に、明るい声をかけてくる。
手錠なんかを手にしながら、声色や顔つきだけは異常に優しいのが、かえって不気味でならなかった。
「逆らったり、しないよね?」
「――――――っ!?」
心の底から戦慄した。
まるで部屋の空気が一瞬にして切り替わり、真冬の温度になってしまったように、体中が冷え切っていた。怖気のあまりに肌中が泡立って、ふつふつと細胞がざわめくような感覚があますところなく広がっていた。
「ね? しないよね?」
それに対する有香の返しは、
こくっ、こくっ、
と、命乞いであるように、必死に頷きを繰り返すものだった。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫――――)
有香は必死になって、自分に言い聞かせていた。
少しばかりマニアックな趣味に付き合わされ、満足いくまでイタズラをされるだけであり、言うことさえ聞いていれば、レイプだけは勘弁してもらえるはず。そこには根拠も何もなかったが、そうあって欲しい願望のあまりに、有香はそう信じ込んでいた。
「さあ、後ろを向いて?」
診察台に座ったまま、太野に背中を向けた時、冷たい鉄の感触で後ろ手に拘束された。手首に手錠がかかっての、鎖によって身動きを封じられた恐怖でさらに戦慄した有香は、今にも泣きそうになっていた。
「目隠しもしてあげるね?」
そう言ってアイマスクまでかけられて、視界はその厚みに覆い隠され、もはや有香には暗闇しか見えなくなった。☆
もう本当に、何一つ抵抗できない。
目が見えなくなった分、肌や耳に意識がいって、周囲の気配を無意識のうちに探ってしまう。白衣からなる衣擦れや呼吸の音が、自然と太野の居場所を捉え、また机から何かを取って来ているのがわかる。
パシャ!
カメラ、らしかった。
人のこんな姿まで、撮りたいようだった。
パシャ! パシャ!
我慢していれば、きっと大丈夫。
大丈夫、大丈夫――。
「ローターを入れてあげるね?」
その瞬間に沸き立つ抵抗感は、やはり未知の道具に対するものだった。ピンクローターの存在こそ知ってはいても、そんなものを購入しているはずもなく、有香はまず真っ先に不安感を抱いていた。
痛くはないか、それとも電気マッサージ器で感じたような激しい快楽になるのだろうか。
「ほら、仰向けだよ?」
「はい…………」
目が見えない。まぶたを開いていたところで、アイマスクの裏側が作る闇しか見えない。
不安まみれになりながら仰向けに、ローターを受け入れるために足を開くが、有香は緊張で固まりきっていた。
ブィィィィィィ…………!
振動が始まった。
「あっ、あぁ……! あぁぁ…………!」
甘い痺れの奔流が背骨から駆け上がり、脳天にまで及んで来る。
「んぁぁぁぁ……!」
有香は髪を振り乱し、汗を浮かべて喘いでいた。
「あっ、あぁぁ……!」
そんな喘いでいる有香に向けて、シャッター音声が鳴り響く。
パシャ! パシャ!
太野が撮っているものなど、もうとっくに単なる官能写真である。
だが、有香は何も言えなかった。
視界が閉ざされ、後ろ手に手錠がかかっていることで、ますます恐怖に囚われ喘ぐことしかできなくなっていた。
*☆
ぐったりと座り込み、有香は前髪を垂らして俯いている。
ローターで感じさせられ、心身共に疲弊しきっている有香だが、次の瞬間にはビクっと肩を弾ませ恐怖していた。
ぎしっ、
と、ベッドの骨組みが軋む音と同時に、目の前に太野の上がって来る気配があった。
(な、なに……?)
有香はすっかり固まっていた。
ローターでの遊びには満足してか、ようやくスイッチが切られてからのこと、しかし太野は次の何かをやろうと有香の目の前に立ち尽くす。
「………………」
「………………」
同じ無言でも、その様子はあまりにも異なっていた。
血走った目で有香のことを見下ろして、欲望を晴らそうとしている太野。恐怖しきって、自分の余計な動き一つが相手を逆上させやしないかと、固まりきっている有香。
両者の無言はまったく別物と言えた。
そして、衣擦れの音を聞いた時、有香は総毛立っていた。
体中の毛穴という毛穴が広がる思いがしていた。
(ち、違う!)
必死になって、有香は自分に言い聞かせる。
(気のせい! 気のせい! 気のせい! 気のせい!)
無我夢中で言い聞かせていた。
そうすることで何か現実に変化でも起きるはずであるように、心の底から「気のせい」を繰り返し、命懸けの勢いで念じていた。
太野がズボンを脱いだと思ったからだ。
有香の耳が捉えたのは、ベルトを外す際の金具の音に、チャックを下ろす瞬間の音、それらに続いてのズボンを脱ぐ音のはずだった。
「咥えて?」
心が冷え切った。
心臓の代わりに氷でも入っているように、血液の温度がすーっと下がっていくようだった。
「じゃないと、犯すよ?」
他に選択肢はなかった。
まるで命乞いであるように、処女だけは勘弁してもらうため、咥えるしかなくなっていた。
「れじゅぅ……」
アイマスクで前が見えないままに、そこにあるであろうペニスに顔を近づけ、唇が上手いこと亀頭を捉える。
もちろん、こんな経験は一度もない。
ただ知識として知っているだけで、まだ彼氏もいないというのに、実践など考えたこともないのだった。
「れろっ、れろっ」
それを今、してしまっている。
「お、お願いします…………」
懇願さえしながら、有香は必死の思いで亀頭を舐める。
まるで有香こそが罪人で、そうすることで許しを得ようとするかのように、唇にある感触だけで亀頭を捉え、無我夢中で舌を振るって唾液を塗りたくっていた。
「お願いします……最後までするのだけは…………!」
涙まで流していた。
眼球とアイマスクのあいだにある隙間から流れ落ち、しかし滴は皮膚と触れ合う部分に引っかかり、布地に染み込む。せき止められ、吸水され、なかなか頬を流れ落ちることのない涙だが、流れ続けて行くうちに、ようやく外へ染み出していた。
有香は舐める。
亀頭を懸命にペロペロと、そうすることで許してもらうため、ほとんど恐怖からなるフェラチオで、頬張ることまで行っていた。
「んずっ、んじゅぅ…………」
経験もなければ、コツもわかっていない。
しかし、レイプだけは許してもらうため、必死になった有香の奉仕は、太野のことをそれなりに満足させていた。
パシャ! パシャ!
咥えた顔まで撮られている。
だが、それを気に留める余裕もなく、大きく口を開いて頬張る有香は、髪を振り乱す勢いで頭を前後させていた。
ほどなくして、射精の時は訪れる。
びくっと弾む肉棒が有香の上顎を叩いた時、青臭くも熱い精が吐き出され、それが幼い口内を満たしているのだった。
*
病院帰りの天羽有香が暗い顔をしていたのは言うまでもない。
あんな目に遭い、大量の写真まで撮られたショックで引きこもり、数日は学校を休んでしまうのも、無理からぬ話であった。
だが、あのことは誰にも話していない。
話したところで、きっと信じてもらえないと思っているのだ。
大人が子供を? 馬鹿言え、そんなわけないだろ?
この時代、それが普通の感覚だった。
ロリコンやペドフィリアなど、さも存在するはずのないような扱いで、ならば子供が自分の被害を訴えても、まともに受け止めてもらうことなど不可能だった。
その絶望感から、有香は両親にも伝えていない。
周りの大人は、所詮こう思っているだけだった。
精密検査がよっぽと恥ずかしかったんだな。
やれやれ、小学生のくせに、一丁前な恥じらいなんてもっちゃって。
羞恥心を持つのは成長した女の嗜みであり、子供が持つのは生意気だという感覚すら、大人のあいだには存在している。
泣き寝入り以外、どうしようもない。
その絶望感から暗い部屋に引きこもり、隣にくっつくミハエルだけが、有香にとって唯一の慰めとなっていた。
コメント投稿