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 べちゃっ、

 粘液を叩きつけたような音だった。
 その音と同時に、円香と透はそれぞれ胸に軽い衝撃を受けた。ゴムボールのように柔らかい、痛いわけではないものが、しかし強くぶつけられた感覚に、二人して自身の胸を確かめる。
 すると、濡れていた。
「なに……これ……」
 レッドラインは越えている。
 つまり、新しいギミックとして、何か液体の固まりが飛んで来たのだ。
 しかも透けている。
 思いっきり乳房に当たり、白い生地がその水分を吸い込むことで、その中の肌色が今に浮かび上がろうとしていた。
「やだ……! やだ……!」
 透が叫ぶ。
 このままでは乳首が見えかねない危機感に、もう急ぐしかないと速度を上げるが、その瞬間に強風が吹いてきた。

 ビュゥゥゥゥゥ…………!

 激しい風音だった。
 髪が激しく暴れ出し、自分自身の髪に頬を打たれる。横から殴りつけてくる突風で、スカート丈の片側はむしろ脚に張りつくが、その反対側は捲れていた。横から見れば、ショーツのサイドが丸見えのはずだった。
 しかし、それだけでは済まされない。
 先ほどの切れ込みもあり、ついにショーツの前側があらわになっていた。スカートのはためきで、多少の見え隠れはありながら、二人の前に浮かぶ画面上には、フロント側が映されていた。

 透の白いショーツには、薄らとしたラメ光沢の刺繍があった。

 白に溶け込みそうな薄色の刺繍は、糸そのものにグラデーションを施しているのか。それとも、複数の種類の糸を使ってか。多色の刺繍は薄水色から薄ピンク、薄黄緑と移り変わって、それが花の形を成している。

 円香の白は、薄水色のフロントリボン付きだった。

 白い生地に白い刺繍で、色の溶け込んでしまいそうな花柄は、上端部から花びらをはみ出していた。ゴムの外までアーチを届かせ、周囲のラインだけをピンク色に、花弁には透けた布が使われていた。

 それらどちらのショーツにも、怪しい染みが浮かんでいた。

 アソコには今の粘液を浴びてはいない。
 つまり、二人が純粋の興奮しての、媚薬効果の現れだった。
『あれあれ?』
『愛液かなぁ?』
『どうして濡れてるんですかァ?』
『興奮してんのか?』
 口々に煽り、からかってくる音声に苛まれた。
「ちがう……!」
「ちがう! ちがう!」
 二人は必死に否定した。
 媚薬の存在など知らない二人と、わかっていて煽る四人とで、当然のようにその認識は異なっている。自分で自然と興奮して、こんなことで性的に高揚してはいないかと恐れる二人の心理と、そんな状態に陥る姿を面白がる男達で、見世物と鑑賞側に分かれていた。
『ほらほら! ローションが飛んできますよォ?』
 その瞬間――

 べちゃ!

 今度は尻だった。
 スカートの上とはいえ、ローションの固まりらしい透明な液体に濡らされて、映像の中ではその箇所の生地が薄れる。繊維をかすかに溶かす作用があり、その上で水分が染み込めば、透けやすくなるのも当然だった。
 どこから飛んで来るのかもわからない。
 まるで目には見えない砲身に包囲され、何もないはずの空間から、突如として現れてくるかのように、ローションの弾は飛んでくる。
 狙いは必ずしも正確ではない。
 むしろ無造作に乱射して、二人のいない箇所にも当たり、鉄棒の表面がローションにまぶされていた。
 そして、風が吹く。
「や……!」
 透のスカートが捲れ、尻が丸出しになったところへ――。

 べちゃ!

 尻に直撃していた。
 ローションがショーツに染み込み、瞬く間に肌色が浮かび上がった。布が肌に張りついて、白い分だけ透け具合はわかりやすく、尻の割れ目の溝まで見えていた。
 それを透自身が映像で見てしまい、透は浮遊画面から目を背ける。

 スパッ!

 今度はかまいたちが、円香の胸を切り裂いた。
 V字に近い、細長い切れ込みの、その隙間から飛び出るように乳首が露出し、円香はみるみるうちに赤らんでいく。羞恥の熱で頭が火照り、恥じらっているあいだにも媚薬効果は強まって、興奮で息遣いはすっかり荒くなっていた。
「はぁ……あっ、あふぁ………………」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 荒っぽく熱の籠もった呼吸は、全て媚薬のせいだった。
「なんで……」
「おかしい……」
 浮かぶのは悲痛な顔だ。
 どうして、自分はこれで興奮するのか。自分はおかしくなってしまったのか。異常者にでもなったのかと、本気で思い悩む悲しげな表情に、興奮とは裏腹の涙がにじみ出ていた。
『乳首が硬くなってるね!』
 指摘してくる声に、円香は深く歯を食い縛る。
 実際に画面の中では、その胸をアップにしている箇所では、切れ込みの隙間から見える乳首には極限まで血流が集まって、触れればいつでも快感を走らせる準備を整えていた。
「ちがう! こんなのちがう!」
 自分で自分の興奮を否定して、円香は必死に頭を振る。
『急げ急げ、進まないとどんどん悪化するぞ?』
 その指摘の直後にローションが直撃した。
 背中が透ける。腹部が透ける。スカートの生地が薄れて、透の乳首も白い布越しに薄らと見えてくる。
 かまいたちがさらに服を切り刻み、いたるところに切れ込みが増え始めた。
 ただの切れ込みなら、それ自体は布面積を変えることなく、指で広げるなりして初めて中身が見えてくる。しかし、その目には見えない斬撃は、必ずしも縦筋の形でなく、三角形の斬撃も存在していた。
 三連続で切る結果、あたかも三角形に刳り抜くように、その部分の布が取れ、ひらひらと宙を待っては消えていく。スカートに穴が空き、ついには捲れるまでもなく、小さな三角形から常に尻が見えっぱなしの状態が出来上がる。
「や……!」
 透が足を滑らせた。
 幸い、落下はしないのだが、無造作なローション弾のせいで鉄棒が滑りやすくなっている。ヌルヌルとした棒に足を乗せ、その瞬間にバランスを崩しかけたのだった。
 やがて、ついにはただ裸でないだけの状態に陥っていた。
 切れ込みの数々と、いたるとこがローションの濡れで薄れた二人の姿は、実に無惨なものと言えるだろう。
 円香の場合は切れ込みから、透の場合は透けた布から、それぞれ乳首が完全に見えている。スカートもズタズタに、もはや細長い布をいくつもまとめ、一箇所に束ねただけのような状態で、隙間から見え放題だ。
 脱いでもいないのに、透け具合だけで背中は剥き出しに、切れ込みからヘソも出ている。

「あ……!」
「そんな……!」

 円香が、透が、驚愕と悲しみを織り交ぜた眼差しで、待って欲しいかのように手を伸ばし、落ちていくそれを見送った。

 ついにスカートが脱げたのだ。

 切られるだけ切られ尽くして、もはや着用の限界を迎えるのは時間の問題だったスカートに、とうとう腰の部分が切断された。腰を締め付け、身体に維持するための機能が断ち切られ、自然と脱げ落ちる。縦長の切れ込みがおびただしく走っていたせいもあり、太ももにかかって落下が止まることもなく、宙へと消え去ってしまったのだ。
 下半身はショーツ丸出しとなってしまった。
 そんな二人に、なおもギミックは容赦しない。
 ローションが飛び続け、かまいたちに残る上半身の衣服も刻まれ、もはや裸になるのは時間の問題なのだった。



 
 
 

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