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 画面は四分割されている。
 目には見えずとも、浮遊でもしながら追って来ているのだろうカメラは四台あり、それぞれの角度が映したものを全て同時に流すため、一つの画面が四等分され、それぞれの箇所に各カメラのものが流れている。
 一つは当然、まるでスカートにスマートフォンを差し込もうとしているような、それをもう少し下から映したアングルのだ。顔の周りにもカメラはあるはずで、だから自分自身の表情も絶えず確認できる状態で、さらには胸のアップもある。
 乳房を狙われても、今はまだ服の上からだ。
 しかし、そこをじっくり映されては、決していい気持ちはしない。わざわざアップにしているからには、途中で胸が見えかねないような、何かのギミックが出てくるのではないかと怖くもあった。
 そして、最後に真上から見下ろすアングルの、やや遠くから映した映像が流れている。
 それら四つの映像が視界の中心に置かれ続けて、そんな状態で二人はジャングルジムを上がっていく。上の鉄棒を掴むために手を伸ばし、着実に上へと進むのだが、そのたびに揺れ動くスカートが気になって仕方がない。
 極力、動きを小さくゆっくりにしていた。
 どうせ時間制限はないのだから、動きに勢いを付けすぎないことで、スカートの揺れを少しでも抑えようとしていた。
 それでも、カメラの方が動いてくる。
 二人の動きに合わせ、カメラの方が勝手に位置を調整して、上手いこと覗き込もうとしてきている。
 ジャングルジムを上がっていくには、手を上に伸ばすのはもちろんのこと、足もその都度上げることになる。段差に足を置くようにして持ち上げて、その際の股の可動がスカート丈を揺らしていた。
 その揺れを極力減らそうとしているが、きっちり手で隠してしまうのでなければ、どう足掻いても限界があった、
 そもそも、この衣装のスカートはラッパの口のように開いたタイプで、内側にドロワーズなどを入れておくのが普通である。そのドロワーズも何もなく、あるのはスパッツのみという心許なさは、本当にたまったものではない。
 がっつりと中身を映されずに済んでいるのは、もっぱら角度のおかげである。
 二人して意識してもいるのだが、ジャングルジムを登る態勢は、さながら壁に向かって四つん這いになるような形に近い。その上で胴体を駆使して気を遣い、少しでも見えにくい角度を維持していた。
 それでも、見える時は見える。
 どうしたところで、限界というものはあり、丸見えのタイミングは何度かあった。
 お尻の形は出てしまっている。
 パッツは肌のラインに沿い合わさり、しかも縦にゴムが入っている。尻の割れ目に食い込む構造をわざわざしており、ただ丸出しでないだけで、体格そのものは如実に浮き出ていた。
「くっ……!」
 顔が赤らむ。
 つい、手を後ろにやって、スカートを押さえたくなる。
 かといって、両手を使っていなければ、ジャングルジムを登る動作は片手だけでやれるものではない。たとえ出来たとしても、高くなればなるほど落下が怖く、リスクの高い真似はやりにくくなってくる。
 とにかく、頂上に着くしかない。
 果たして約束を守る気はあるのか、疑わしさはあるものの、二人が地球に帰る道など、それを信じる以外にない。

 びゅうぅぅ……!

 強風の音が聞こえたのは突然だった。
「や……!」
 そして、透が悲鳴を上げた。
『一定の高さに達すると、風が吹くようになるからねー』
 楽しそうな愛野の声で、この風は自然なものではなく、吹かせる仕掛けがどこかに存在してのものと理解した。
「どこまでも……!」
 しかも、媚薬の効果も出て来ている。
 今にもアソコに汁が染み出し、うずうずと股のヨダレが出て来そうな感覚が、自分自身で信じられない。
(冗談じゃない! なんで!? ありえない!)
 己に対する叱責は激しかった。
 この状況で体が悦ぶなど、完全にどうかしている。
 それとも、おかしな体験をしすぎたせいで、本当にどうかしてきたとでもいうのだろうか。
(ありえない……あっちゃいけない……)
 あの四人のおかげで悦ぶなど、断じてあっていいことではない。
 風のある中、二人は進んだ。
「もうやだ……帰りたい……帰りたいよ……」
 透が完全に参っている。
 見ていて辛い。休ませてやりたい。
「浅倉、頑張ろう……」
「うん…………」
 本当は頑張りたくなんかない。
 好きでやっているゲームでもないのに、どうして頑張らなくてはいけないのか。そう思う気持ちは大いにあるが、嫌でも頑張らざるを得ないのだ。
 風が吹いてくる。
 微弱な風でかすかに揺らされただけでさえ、ついスカートを意識して、全身がひどく強張っていた。吹くたび吹くたび、警戒心が膨れ上がって、手が下へ伸びそうになる。スカートを押さえつけ、確実に見えないようにしたくなる。
 だが、弱風のうちは登ることに集中して、なるべく上だけを意識した。
 嫌でも視界に入る映像は、努めて意識から逸らしていた。

 びゅぅぅぅぅ…………!

 強風が吹いた時ばかりは、咄嗟に片手を後ろにやり、スカートを押さえずにはいられない。二人して一旦止まり、風がやむまで押さえることだけに集中するが、その瞬間にアングルが切り替わる。
 四分割した画面の中で、スカート狙いのアングルが正面狙いに変化して、前から見た場合のショーツのチラつきが流された。
「や……!」
 円香は頬に熱を弾けさせる。
「やだ……!」
 透が悲痛な声を上げる。
 スカートの中身はむしろ、風のおかげで隠れてさえいる状態だ。ラッパ型の形状が横風で折れ込んで、サイドの丈が胴に張りつく。しかし、バサバサとはためくおかげで、スパッツの端が見え隠れを繰り返す。
「浅倉! こうしよう!」
 こうなったら、手でお尻を押さえつつ、気をつけのように全身を真っ直ぐ伸ばす。鉄の棒に股を押しつけ、そうすることで棒と脚のあいだにスカートを挟み込み、無理にでも押さえ込んでいた。
 そして、風はやむ。
「……平気、かな」
 透のいかにも不安そうな声に、円香はあまり頷けない。
 平気ではないに決まっている。
 また進み始めれば、しばらくすると風が吹くのだろう。見えるたび見えるたび、同じ方法で隠すしか道はない。
 二人はまた、進み始める。
 いつ吹くとも知れない風を警戒して、まるで命でも狙われているかのように、全方位に意識を費やしていた。
 そうして、数分ほど登った時だ。
『さーて、鉄棒にさ! 赤いラインがあるのわかる?』
 またしても、愛野の声が聞こえてくる。
 同時に二人で手を止めて、赤い塗装の入った棒に目を留めた。
『一定の高さごとに赤いラインがあって、風が吹くようになったみたいに、ラインの突破ごとに面白いことが起きるからね!』
「面白くない……」
 愛野のことが呪わしい。
 面白いのは自分達だけで、円香と透にとっての面白いことなど、何一つありはしない。
『ほーら、どうしたの? 上がらないの? ギブアップ?』
 上擦った声で煽ってくる。
 円香はそれに大いに苛立ち、歯軋りしながら画面を睨む。
「どこまでも……!」
 何かの辱めがあるとわかって、おいそれと進めるわけがない。引き返したい思いでいっぱいだったが、ふと下を見てみれば、もう随分と高いところまでやって来ていた。落下すれば怪我は免れず、さらに上から落ちれば死亡や骨折もありえるだろう。
 命綱もなしに、高すぎる場所にいることでの緊張感まで湧いてきた。
 ますます、上には行きにくい。
『ほらほら』
 本当に、愛野がうざい。
「……行こう。浅倉」
「う、うん……」
「行きたく、ないけどね」
「うん」
 どの道、ギブアップというわけにもいかず、嫌で嫌でたまらないが上に進んだ。透に元気がないのも当然だ。もしも透がいない、円香一人の状態だったら、円香の方がもっと暗くなっていたかもしれない。
 状況が状況だけに、一緒にいてくれてありがとう――とは、とても言えたものではないが。

 進んだ時、スパッツが消失した。

 急に、パッと切り替えるようにして、スイッチのオン・オフ感覚も同然に、突如として下半身を包むぴっちりとした締め付けが失われた。
 そして、次の瞬間には画面に映る。
「やだ……!」
 円香の悲痛な顔。
「いやぁ……!」
 透の悲鳴。
 二人のショーツの色がしっかりと映り込み、下着の尻が見えてしまっていた。・

     *

 それからも、ショーツが少しでも見えにくいように意識して進んでいくが、たまに吹いてくる風にスカートを揺らされる。吹くたびにビクっとして、しかし弱風の時はまだしもホっとしている。
 強風となると、一度止まって押さえ込む必要があった。
 そうしなければ、丸見えの状態を風がやむまで維持することになりかねない。
 どちらも白。
 両方のショーツには、お尻のゴムに沿う形で、アーチを連ねたようなレースがある。それが風や脚の動きに伴って、限られた面積だけが何度もチラつき、見え隠れを繰り返していた。
 やがて、また強風が来る。
 激しく揺らされ、スカートからバサバサと音が鳴る。それを片手で押さえながら、やはり股を棒に押しつけることで、無理にでも丈を押さえ込んでいた。
 それから、風がやむ。
 無風になっても、警戒心は決して引かない。動き出した直後にまた、ということはないかと怖くなり、身が竦んで動けない。
 だが、延々と止まっているわけにもいかず、やがては進み始めるが、その瞬間だった。

「やっ!」
「やだ!」

 二人同時の悲鳴が上がった。
 次に吹く風は、下から上へと、まるでスカート捲りのためだけのような角度で吹いてきたのだ。スカートも大胆に捲り上がって、丈が背中に張りつく勢いになった時、当然のようにどちらの尻も丸見えになった。
「最悪! 最悪!」
 円香は叫びながら手を回す。
「いやぁぁ……!」
 透も必死だ。
 二人とも、背中とスカート丈のあいだに何とか指を入れようと苦心して、やっとのことで入った瞬間、素早く手を尻に叩きつけ、力強く隠していた。とっくに見えてしまったのもは、どうせ記録に撮られているとわかっていても、二人はしばしそのまま力を込め、もう二度と見せたくないかのように守りを固め続けていた。
「もうやだ……本当にやだ……」
 透がますます参っている。
(私も、無理……!)
 円香の精神も、だいぶやられていた。
 一体、いつまでこんなことを続ければいいのだろうと、心から思い悩んで、二人して泣きたい心境にかられていた。

 ……うずっ、

 それでも、アソコは疼いている。
 媚薬が使われているとは知らない二人にとって、どうして自分が興奮して、アソコを濡らそうとしなくてはならないのか、本当に理解できずにいるのだった。

     *

 まただ。
 またしても、赤いラインが見えてきた。
 このジャングルジムには、いくつかのポイントごとに赤い塗装が施され、レッドラインを越えるたびに何かが起こる。まずは急に風が吹くようになり、次にラインを越えた時にはスパッツが消えた。
 では、一体次は何があるのか。
「…………」
 無言で睨む。
 円香はそこで止まったまま、透も躊躇いを感じたまま、それ以上進むことなく、ただ無意味に赤い塗装と睨めっこを行っている。
 越えたくないのだ。
 進むしかない、後戻りはできない。
 それはわかっているのだが、罠が仕掛けてあるとわかって踏み込むことはできないように、体が抵抗感を示すのだ。そうするしかないにせよ、動くに動けず身が竦み、ただ無意味に固まるだけの時間を過ごしていた。
 そして、そうしているあいだにも、二人の中で媚薬成分の循環は進んでいる。

 じわぁ……。

 と、汗が滲み出るように、膣壁の狭間からはだんだんと、性的興奮によって分泌される体液が染み出そうとしているのだ。
 心なしか、どちらの呼吸も荒くなっていた。
 だが、進む。
 抵抗感に浸って無意味に固まる時間を過ごした末、結局は進むしかない以上、やがては上に手を伸ばし、その赤い棒を掴むのだった。
 そして、レッドラインを越えた時である。

 スパッ!

 と、刃で切り裂いたかのように、突如として衣服が裂けた。
「え!?」
 透の方だった。
 何が起きたか理解できずに、ただ驚愕で目を丸めて、唖然とした顔で硬直していた。突然すぎて、かえって何も反応出来ずに固まっていた。
 裂けたのは胸元だった。
 肌には何の傷もないものの、そこにナイフを一閃させたようにして、乳房と乳房のあいだに切れ込みが入っていた。その切れ目から、ミリ単位で肌が覗けて見える。
 その現象が今度は円香にも起こっていた。

「なに……これ……!?」

 戦慄した。
 衣装の上端が切り取られ、数センチにわたる布切れがひらひらと舞い落ちる。片側をチューブトップのようにしてある衣装の、丁度乳房の真上の布面積が減ることで、今にも零れ出そうな危うさに、円香の戦慄はますますのものとなっていた。

『かまいたちだ』

 火亜の音声だった。
『見えない風の刃ってやつだ。ま、肌や髪は傷つけない。衣類だけが切れるから危険はないぞ?』
 体中から冷や汗が噴き出る。
 怪我の危険はないと言われても、二人にとっては衣服の切断も立派な危険の一種である。ちっとも安心できずに恐怖して、透の瞳が震えていた。円香も動揺に目を見開き、そして画面の様子に気づいて目を背けた。
 本当に乳房が零れ出そうだ。
 右側の布面積を削られて、ただでさえノーブラで着るタイプの衣装から、乳房が微妙にはみ出している。透の控え目な胸は、今のところまだ綺麗に収まっているが、円香の方がいくらか大きく、その分だけはみ出そうだ。
 最初の頃から、僅かながらのハミ乳で、ぷにりとした感じはあったのだ。
 それがますます顕著になり、また同じ箇所が切断されれば、今度こそ乳首が見えかねない危険がある。
『時間制限はないし、何なら全裸になってもゲームオーバーではない』
『ゆっくりしていいんですよォ!?』
 そんなことを言われても、ゆっくりなど――。
 いや、風がある。
 動きを激しくすれば、風の有無に関係なくスカートの動きも激しくなる。そこに風が加われば、スパッツを失った下半身はますます見えやすくなってくる。
 冗談じゃない。
 かといってゆっくりすれば、かまいたちでの切断が続いてしまう。どんな頻度で発生するかは不明だが、いつかは全裸になるのだろう。
 急ぐわけにも、急がないわけにもいかない。
 ギミックや恥ずかしさのことがなくとも、こんな高いところで慌てるのは、落下の危険性からそもそも怖い。
「し、慎重に……でも、さっきよりは早く行こう……」
 というのが、最終的な結論だった。
「それしか、ないよね……」
 他にどうしようもないことへの悲しさが、痛いほどに伝わって来る。
(浅倉……)
 とにかく、進もう。
 二人はさらに上へ上へと、今までのペースと比べる分には急ぎ気味に、かといって本当に慌てすぎたスピードでは進まない。ゆっくりすぎず、慎重さを欠かない程度の微妙な急ぎ方といった具合に鉄の棒を掴んで上がる。

 びゅぅぅ……!

 強風だった。
 手と棒を駆使して、前後を同時に押さえる必要のある風に、構わず進むか、今までのように隠すかの、咄嗟の判断ができなかった。止まっていれば、その分だけかまいたちを浴びる回数が増えかねず、風がやむまでその場に留まることへの躊躇いも、それはそれであったのだ。
 選択に迷うおかげで、即座の判断が下せずに、おかげで手で押さえることすらできずにスカートは捲れ上がった。
「やっ!」
「やぁ……!」
 結局は片手で押さえ、その場に留まる。
 だが、押さえる直前までは、風圧によって存分に持ち上がり、数秒感は丸見えになっていた。
 しかも、この状況になってのこと。

 スパッ、スパッ、

 と、さらにかまいたちが発生する。
「嘘っ!」
 円香が驚愕する。
「やめてぇ!」
 透が叫ぶ。
 風がやむまで待つ体勢に入ってしまい、そのチャンスを狙ったようにスカートの前側に亀裂が走る。股を棒に押しつけて、そうして押さえ込む方法にも関わらず、鉄棒を無視してその内側が直接裂けた。
 縦に、綺麗な切れ込みが走っていた。
 布面積そのものは減らないが、縦二等分であるような切れ込みで、いつそこからショーツの前側が見えてもおかしくはなくなった。
 二人の戦慄は言うまでもない。
 これで次に風が吹いたら、次は前も見えてしまう不安に駆られ、もう本当の本当に嫌になっていた。全てを投げ出し、何でもいいからどこかへ消えたい。こんなクリアの義務など、もう背負いたくない気持ちでいっぱいだった。
 円香の目尻にも涙が浮かぶ。
 透にいたっては、またしても頬に涙の筋が通った。
 なのに、やはり諦めることすらできない。
 敗北すれば性奴隷という条件下では、投げ出すことすらできない。
「い、行こう……」
 円香の声が震えている。
 進み出せば、やはり切れ込みが気になって仕方がない。円香の場合は乳房の状態も気にかかり、こうして動いているうちに、身体の動きに合わせて布がずれ、いつかは見えてしまわないかの恐怖があった。



 
 
 

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