ロドスの任務でエクシアと行動を共にすることが増え、自分はしだいに彼女に惹かれていった。
ピンチの中でも表情を崩すことなく、何とかなると言ってのけ、颯爽と銃を構えて敵勢を払い退ける。そんな彼女の横顔を見れば見るほど、エクシアの存在は頭から離れなくなっていき、ついには告白さえ考えるようになっていた。
恋い焦がれるほど、頭の中はエクシアでいっぱいになった。
彼女とデートをしたら、どんな風に笑ってくれるだろう。どんな私服を持っているのだろうか。
思いが膨らむにつれ、勇気を出して積極的に声をかけるようにしてみてはいるが、一体どれほどの好感を得られているか、いまいち掴み切れていない。せいぜい単なる友達か、ただの同僚で止まっている可能性は捨てきれない。
だから、告白には踏み切れなかった。
思いを伝えようとは思っても、エクシアの中での自分が想像しきれず、それよりも可能性の低さが頭を掠め、どうしても大胆になりきれない。
しかし、そんな自分にも転機が来た。
長期任務の命令が出た。
その任務にエクシアは含まれておらず、ひとたび基地を出発すれば、当分は顔を見ることさえできなくなる。
さすがに心が焦った。
このままでは、自分のいないあいだに他の誰かと心を深め……などということもありそうに思えてきて、危機感さえ募っていた。
「こうなったら……」
やがて自分は決心していた。
ここでいかなければ男が廃る。
焦りに背中を押される形で、いよいよ告白を決意した時、自分はすぐさま彼女に連絡を入れ、二人きりの場所に呼び出しを行った。
待っている時から、体中がそわそわした。
今から、告白するのだ。
「なになに? こーんなところに呼び出しちゃって」
いざエクシアが現れた時、心臓が大きくどくりと跳ね上がり、しどろもどろになって上手く言葉が出せなくなる。
やはり、好みだ。
戦場ですら変わることのない笑みは、自分にはまぶしくてたまらない。何か面白いことでも待っているのかと、こちらの用件を楽しみそうに待っている顔を見ていると、緊張がますます膨れ上がって、今にも心臓が弾けそうだ。
この張り裂けそうな気持ちを言おう言おうと、口をぱくぱくさせてはみるが、なかなか声を絞り出せずに、挙動不審になるばかりだ。
「どうしちゃったのかな? なにか緊張してる感じ?」
エクシアは不思議そうなきょとんとした顔でこちらを見ている。
きっと、こちらの気持ちには気づいていない。だからこそ、この呼び出しの理由も想像できず、何の用事だろうと首を傾げてばかりいる。
脈など、あるのだろうか。
自分はこんなにも緊張して、いっぱいいっぱいになっているのに、エクシアは本当にいつも通りの調子と変わらない。もしかしたら、それはエクシアの中での自分がやはり単なる同僚で、それ以上でもそれ以下でもないからこそ、特別な緊張などいちいちしていないのではないか。
だったら、気持ちを伝えても断られる。
悪い方に想像すると、ますます言葉が出なくなり、吐き出そうとしているものは、喉の途中で引っかかる。目には見えないものにせき止められ、それ以上は上がって来なくなるかのように、どうしても声が出ない。
「……ねえ」
そのうち、エクシアは心配そうに自分を見ていた。
「大丈夫? 具合でも悪い?」
違う、そうじゃない。
そうではなく、ただ緊張しているだけだ。
だいたい、その人の顔を覗き込んでくる表情は、それはそれで素敵なものに見えてしまって、かえって緊張感が高まっていた。
「あ、あの……!」
やっとの思いで、たったこれだけの声が出る。
だが、こうなったら後は勢いだ。
どうせ、絶対なんてない。自分にはまぶしすぎるほどの存在に気持ちを伝えて、OKを貰える確率なんて、元々どのくらいあるだろう。分不相応な賭けなのだから、いっそ当たって砕ければいいではないか。
脈の薄い自分が遠く離れて、会えない期間が続いてしまえば、今のところ本当にただの同僚同士でしかない自分達だ。それでそれっきりになり、口を利く機会すら得られなくなったとしても、何もおかしいことはない。
そして、そのあいだに他の男がエクシアに言い寄り、その男と成就してしまっても、それさえおかしいことではない。
こうなったら、どうせ告白は失敗するつもりで、砕け散る覚悟で言うしかない。
すーっと、息を吸い込んだ。
そして――。
「好きです! 自分と付き合って下さい!」
ついに、言ってしまった。
勢いよく頭を下げ、必死の形相で床を睨みながら、思いをとうとう口にしていた。
もう後戻りはできない。
あとは打ち砕かれるのみ――。
「えっ、うそ……」
しかし、顔を上げた先にあるのは、エクシアの驚いたように赤らんだ表情だった。
(うそ……!)
むしろ、自分が驚いていた。
その困っている風でも、申し訳なさそうにしている風でも、まして迷惑がった顔でもない。胸をドキリとさせた瞬間としか思えない、乙女の顔付きを見ていると、告白までしておきながら思ってしまう。
(エクシアって、こんなに可愛かったのか……)
だから告白したはずなのに、ますます胸が高鳴っていた。
「あ、あはは……。ちょっと待ってね? うん、なんていくか。いきなりだからさー。急に気持ちの整理がつかないっていうか……」
胸に手を当て、鼓動を抑え込むようにしながら、視線を左右にきょろきょろと泳がせる。
その予想外の反応に、こちらの方がかえって戸惑う。
正直、断られると思っていた。
それがこんなにも、可能性を感じさせる反応が返ってきては、今度は逆に期待感が膨らんでいた。これなら、きっと望みの答えを聞けるはずだと、エクシアの返事を今か今かと待ち侘びる気持ちでいっぱいになっていた。
「なんていうか、こういうのって初めてでさ」
困ったように苦笑してみせながら、エクシアは頭の後ろを掻き始める。
「でもま、そういうのも面白いかな」
ドクンと、心臓が弾む。
いっそ飛び出てしまってはいないかと、つい胸を手で押さえてしまっていた。
「いーよ。あたし達、付き合ってみよっか」
一瞬にして、幸福の絶頂に立った思いがした。
人生の運を全て使い果たしてしまったかもしれないが、それも本望である。自分はこれでエクシアと付き合える。
やった……やった……!
「ありがとうございます!」
今度は思いっきり、お礼を言いながら頭を下げた。
そんな自分の姿が、どこかおかしく見えたのだろうか。
「あははっ、お礼言われちゃったよー。ほら、顔上げなって」
エクシアに言われて顔を上げると、彼女はすぐさま、さっと目を瞑っていた。
「え……」
「んー。その、さっそくなんだけどさ。付き合うんだったら、ね?」
その静かに目を閉ざした表情は、今の自分には美しく見えすぎた。どこかのお城のお姫様が安らかな眠りについているような、物語さえ感じさせる表情で、エクシアは顎を突き出し何かを求める。
自分は緊張ながらに一歩近づき、エクシアに唇を重ねていた。
……幸せだった。
本当に、幸せだった。
*
しかし、幸せだった分だけ、長期任務に出た際の反動は大きなものだった。
どっとぶり返さんばかりに、今度は逆に寂しさが溢れかえって、今すぐにでも基地に帰りたい衝動でいっぱいである。
けれども、決して任務は無視できない。
自分だって、世の感染者の境遇を思ってロドスに入り、保護や治療などの活動にあたっている一員である。エクシアのことは大切だが、任務さえ終わればまた会える。今は色恋のことよりも、目の前のことを大切にしなければと、自分は意識的に任務に集中していた。
とある町に駐留して、そこに暮らす感染者達の支援を行うのが、今の自分や他の同僚達が背負った使命だ。感染者の扱いに問題のある町や国など珍しくはなく、この町も例に漏れず迫害的な政策を取っている。
とはいえ、感染の拡大により、人口の一部を占めてしまっている感染者を、政治的にも完全には無視できない。ガス抜きもあるのだろうが、感染者支援の政策として、外部からの救援活動を受け入れたわけである。
ロドスを滞在させ、そのメンバーを優遇することにより、この町の政治はひとまずの対策を取った。その過程で得た物資を支援活動に宛がいながら、感染に苦しむ人々を少しでも楽にしてやることが、今の自分達のやるべきことだ。
しっかりと周囲に目を向けいなければ、ふとした拍子にエクシアの顔が浮かび上がって、寂しくて寂しくてたまらなくなる。
「帰りたいなぁ……」
と、一人になれば、そんな独り言すら出てしまう。
駐留のために用意された建物の、ロドスのメンバーそれぞれに当てられたのが個室で良かった。個室でなければ、エクシアに会いたい思いが独り言に出てしまうのを、いつ聞かれるかもわからない。
いや、むしろ少しはこんな油断した時間を過ごしたい。
気を引き締めてばかりでは疲れてしまう。
こうして気を緩めている時間も欲しい。
「あ、そうだそうだ。そろそろ、届いているかな」
自分は机の通信端末を手に取って、その画面を立ち上げた。
こうして離れ離れでいるあいだ、エクシアとはメールや通話のやり取りを続けている。たまにビデオレターを送ってくれるので、その動画を何度も何度も、それこそ何百回も再生しているが、せめてこんな形でも声を聞いたり、顔を見たりできる時間は、自分にとって最高の癒しであった。
さて、メールが届いている。
雑談を交わす一環として、近況を報告し合うことも多く、自分の場合は出会った感染者について書くことが多い。この町がどんな政治を行い、どんな政策でロドスを滞在させているかは、到着して数日のあいだに語り尽くした。
今は日々出会う顔ぶれのことを話し、多くに感謝してもらったり、あるいは町に関する愚痴を聞かされたといった内容を書き連ねるのが大半だ。
一度送信したあとは、毎回そわそわしてならない。
返事がすぐに来るわけがない。
自分とて、エクシアのメールを読んだ後、その返事を考えるのに時間をかける。仕事の最中で読めないということもある。疲れで文章を書けない時もある。即時返信などありえないのはわかっていて、そわそわするだけ馬鹿げているのも頭では承知なのだが、どうしても体が焦ってしまう。
まだかな、まだかな……と、体がしきりにエクシアからの返信を求めてしまう。
こういう時は仕事だ。
真面目なことに目を向ければ、少しは頭を切り替えられる。患者達の容態を記した書類の束に目を通し、一つ一つの内容を頭に叩き込んでいれば、いくらか時間は経つだろう。早ければそのあいだに返事が来ているかもしれない。
そうして数時間を過ごし、さてどうだろうと端末画面を確認する。
一通のメールが来ていた。
開いた瞬間、まずそこには気になることが書かれていた。
『極秘 pass:******』
どういうことだろう。
極秘などと記した上、そこにパスワードを書いてある。
『※必ず一人で確認すること。流出厳禁』
あとはせいぜい、こんな注意書きがあるくらいだ。
一体、どうしてエクシアからこんな内容が届くのか。このメールの内容はそれっきりで、他に添付ファイルがあるでもなく、ただパスワードのために作られたアルファベットの羅列があるだけだ。
大文字と小文字を混ぜ、意味を持たせず、ランダムに羅列しただけの文字の固まりだった。
何か、任務に関わる内容なのだろう。
そう思ってパスワードを記憶に刻み、次の連絡はないかと待っていると、間もなく続きのメールが届いてきた。
別のアドレスからだ。
しかし、そのメールを開こうとした瞬間、急にパスワードを要求され、入力画面が表示されていた。何をどんな意図で送ってきたのか、それは中身を見てみればわかるのだろう。
自分はすぐにパスワードを入力した。
こんな形で送られてくる以上、よほど重要な連絡事項に違いない。
「……動画?」
メールの内容は白紙だった。
ただ、添付ファイルがいくつかあり、そのファイル形式は動画のものだった。
「ま、見てみるか」
連絡事項や情報の提供などが、文章や写真で行われるとは限らない。動画という方法も、たまにはあるのだろう。
自分は早速、動画を再生した。
「……っ!」
その時ほど、自分はぎょっとしたことがない。
かつて、ゴキブリの足音に気づき、ふと天井を見上げた瞬間、それが自分に向かって降って来た時は仰天した。しかも、それが体に乗った上、服の内側を駆け回ったのだから、これほどぞっとする体験はなかった。
しかし、今の自分はその時以上に戦慄していた。
動画にはエクシアが映っていた。
その様子がおかしい。
ペンギン急便の頃からロドス所属の時まで変わらずに、いつも着ている服装の、見慣れたエクシアが動画の中で立っている。
こちらを睨んでいる。
アングルがアングルなので、動画を視聴する自分こそが睨まれている気に一瞬なるが、冷静に考えればそうではない。その何かを睨み付け、恨めしい感情をたっぷりに投げつけている表情は、自分ではなく、撮影者に向けられたものだ。
「な、なんなんだ……これ…………」
言葉を失いそうだった。
自分はすぐにエクシアの部屋を見た。
大したものは映り込んでいない。
コンクリートの壁を背に、右端に何か白いものがギリギリで、ミリ単位で辛うじて映り込んでいるが、それが何かはわからない。画像でいうなら、ドット単位で微妙に入り込んだだけのものなど、判別のしようがなかった。
しかし、状況だけは薄らわかる。
脅されている?
捕まっている?
何か、良くない状況にエクシアは立っている。
となると、これは例えば、誘拐犯が親しい人物に向けて送信したもので、人質を盾に何かを要求する内容ではないかと、まず自分はそう想像した。何せ戦闘の絡む任務をこなし、買った恨みの数は数知れない。
エクシアのことを拉致して、思い知らせようとする集団がいても、おかしくはない。
「冗談……じゃないぞ…………」
ドクンと、心臓が弾み上がった。
違うと言ってくれ、何かの間違いであってくれ、そんな願望が沸騰の勢いで湧き上がる。
自分は動画に釘付けになっていた。
これを熱中などと言い表すのは、決して正確ではない。自分の想う相手が今、どんな状況に立っているのか。危険な目に遭っているのか。それを少しでも正確に知りたい気持ちが、全ての意識を動画の中へ注がせていた。
『み、見てる?』
その時、エクシアの表情が崩れた。
「え……」
『ちょっと……恥ずかしいけど……その……』
次の瞬間である。
エクシアが服を脱ぎ始めた。
「え? な、なんで?」
一瞬、理解が追いつかなかった。
緊迫した状況ばかりを想像して、戦慄しきっていた自分にとって、エクシアの目の前を睨む顔が急に崩れて、恥ずかしそうに笑ったものに変わったことで、今までの緊張感が一気に失われていた。
ベルトを外し、シャツをたくし上げていく。
その光景にドキドキしながら、徐々に現れる白い腹部に目を奪われながら、頭の片隅では考えていた。
敵対勢力に捕まったわけでも何でもないのか?
だとしたら、さっきまでの表情は何だったのか。
気恥ずかしそうに赤らんで、頬を火照らせた顔で脱いでいるその姿は、まさしく恋人を前に肌を曝け出そうとする乙女のものだ。そうとしか例えようがない。送信対象は自分なのだから、実際にそうなのだ。
もしかして、見せてくれている?
自分はそんな考えに至った。
先ほどの表情は、恥ずかしいことをする手前、つい険しくなってしまっただけで、s目的は自分に肌を見せることなのだ。
気づいてみれば、カメラはただの一ミリも揺れ動く気配がなく、三脚台などに固定しているに違いない。何者かが手に持ったカメラにより、エクシアは撮られている――という、最初に危惧した状況などではない。
エクシアが下着姿になっていた。
白いブラジャーが眩しく輝き、スカートの下から現れるのは、黒いストッキングを介したショーツである。黒い繊維を介して灰色気味に見えるショーツもまた、照明の具合のせいか、動画としては実際にまばゆく光って見える。
(どういうわけなんだろう)
自分達はまだ、キスまでしかしていない。
その自分に、急に下着を見せてくるとは――浮気防止か、離れ離れでエクシアも寂しくなり、何かをしたくなったのか。何かの心境に駆られた末、こういった行動に走ったのだろう。
『ほら、見ていいよ?』
その恥じらいに震えた声に、耳がくすぐったくなった。
聞くだけで興奮でゾクっと肩が弾んだ上、気づけばズボンの内側が膨らんでいた。トランクスを中から突き破らんばかりの勃起に、自分はたまらず脱ぎ出して、エクシアの肌を見ながら自慰行為を開始していた。
食い入るように、下着を視姦した。
拡大可能であることに気づき、自分はまずブラジャーの方からアップにする。一時停止も交えつつ、白いブラジャーに刻まれた花柄の刺繍を目に焼き付け、次はストッキング越しのショーツも見た。
やはり花柄の刺繍を帯び、赤いフロントリボンも付いたショーツを視姦しながら、その内側にある性器を想像して、自分は一心不乱に快楽を求めていた。
顔を見れば、照れ臭そうな恥ずかしそうな赤らみ具合で、いつも以上に可愛く見える。
自分は表情にさえ夢中になって、懸命に逸物をしごいていた。
その最中、一時停止していた動画を再び進め、先の映像まで見ていると、今度は両手が後ろに回る。
「ま、まさか……!」
期待感が膨れ上がった。
「お? おお……!?」
胸の内側で何かが破裂しそうな勢いで、極限まで膨れ上がった期待感と共に、自分は意味もなく前のめりになっていた。身を乗り出し、顔など近づけても意味はないのに、気づけば反射的にそんな真似をしてしまっていた。
背中の後ろでホックが外れる。
カップが微妙に手前へ緩んだ瞬間、それがわかった。
と、いうことは……。
『こっちも、見せちゃおっかな』
恥ずかしそうに苦笑しながら、エクシアは肩紐を一本ずつ下ろしていく。
そして、ついに……。
ついに、乳房があらわとなった。
生の乳房だ。
おっぱい、乳首だ。
さらなる興奮で鼻息を荒げ、自分は食い入るように胸を見つめた。画面の向きを縦にして、拡大を駆使することで、胸をアップに表情も同時に映る形にして、エクシアの乳房をこれでもかというほど視姦した。
ささやかなような、かといって小さいと評するほどでもない、ノーマルなサイズ感ともいうべき膨らみから、乳首が手前に向かって突起している。
「かわいい……」
本当に可愛い形だ。
着衣の時でも、服をわずかに押し上げてはいたものの、その中身はこんなにも愛らしく、乳首は艶やかに輝いていた。
「ずっと、見ていたくなる」
『好きなだけ……見ていいからね……』
その言葉に、胸を射貫かれる。
いっそ撃たれた痛みを抑えんばかりに、思わず胸に手を当てていた。
「ああ、見るとも。自分は……自分は……!」
血走った目で視姦した。
眼力で焼き切るような勢いで、激しく視線を注いでいた。
『こっちも、脱いじゃおっかなー』
「え……!」
ショーツのゴムに指を差し込み、下の方まで脱ぎ始めていた。
まさか、まさか……!
そちらまで脱ぐというのか!
「エクシア……! エクシア……!」
目がみるみるうちに血走っていく。
動画など何度も再生し直せることも忘れて、一度見逃したら二度とチャンスがないかのように、意地でも目に焼き付けてやらんばかりの勢いで自分は画面を凝視していた。一体どれほど鼻息を荒くして、逸物を握る右手も活発になっているかなど、もはや自覚する余裕もない。
自分はエクシアに飲み込まれていた。
その悪戯っぽくからかうような笑みでありながら、乙女のような恥じらいを忍ばせた赤らみ方が本当に美しい。ストッキングもろともショーツを下げ、黒に包まれていた太ももが、しだいしだいに白へと移り変わっていく。
それが足元にまで到達して、ついにエクシアが全裸になった時、自分の心は歓喜に満ち溢れていた。
「エクシアッ、最高だ……!」
なんて素晴らしいのだろう。
こんな動画を送って貰えるだなんて、自分はとても幸せ者だ。
有頂天になって舞い上がり、今にも踊り出しそうに浮かれた自分は、その浮かれようを右手に込めて、エクシアの裸を執拗なまでに楽しんだ。初々しく毛を生やし、閉じ合わさったワレメを視姦して、とうとうティッシュを消費していた。
一度だけでは収まらず、まだまだ二度も三度も出すつもりで、自分は逸物を握り続けた。
だが、その時である。
不意にカメラが持ち上がった。
自分はその瞬間に絶句して、放心していた。
あれほど満ち溢れていた心が突如として空になり、全てが停止してしまったかのように、呆然としきった顔で右手を止めて固まっていた。自分の時間がだけが止まったまま、世界は変わらず動き続けているように、動画の中で映像は動いていた。
「え……」
たったそれだけの声を出すのに、数十秒もの時を要していた。
カメラが、持ち上がった?
どういうことだ?
どういう……どういう…………。
ちがう……。
ちがう、ちがう、ちがう……。
「ありえない…………」
そんなはずはない。
何かの間違いだ。
きっと、間違った何かを見ているに違いないと、そう思い込もうとする自分がいた。
簡単な話である。
カメラをテーブルなり三脚台なりに置き、ちょうどいい距離に立っていれば、カメラマンがいなくても、本人だけで撮影できる。エクシアが送って来た動画は、そういうものだと思っていた。
それまでは、確かに一ミリたりともアングルがずれることはなく、そんな撮り方だった。
だが、急にアングルが持ち上がったり、上下に動いたり、左右にぶれたりしたらどうだろう。それが物でも倒れたせいなのなら、すぐにカメラの元へ歩んでいき、直そうとするはずである。
映像の中はそうではない。
明らかに、カメラを持った何者かがいる。
「だ、だれ……」
呆然として脱力しきった自分の顔には、きっと絶望の色が浮かんでいた。
心臓がばくばくしている。
先ほどまでは、期待や興奮のせいで鼓動を早めていたはずなのに、それが別の緊張感へと切り替わってしまっていた。
上下にアングルが揺れながら、しだいにエクシアへと迫っていく。
その映像の正体は、カメラマンを務める誰かが手にカメラを握った状態で、エクシアに近づいているものに違いない。人が歩いている際の揺れ方で、歩行のリズムで画面の中のエクシアは上下していた。
そして、それがぴたりと止まった時、まず映るのはエクシアの胸だ。
乳房にカメラを近づけて、その表面にスライドさせる。周りを撫で回すかのようにゆっくりと、丁寧に時間をかけて移し込む映像の動きは、決して機械的に設定したものではなく、微妙な手ぶれを帯びたものだった。
カメラを真っ直ぐ動かすにも、手でやれば微妙な上下が入り交じる。
乳房の周りを衛星のように動く挙動は、まさにそれだった。
「どういう……こと……?」
カメラを握った何者かが、エクシアのちょうど目の前に立っている状況がありありとイメージできる。
だが、それは誰なのか。
左右の乳房をひとしきり映した次には、急に顔が大きく映る。
……キッ、
と、一変して目の前を睨む表情へと変わっていた。
きっと、もちろん、それは自分を睨んでいるわけでなく、カメラマンに対する視線に違いなかった。
「だって、じゃあ……」
一体、先ほどまでは何だったのか。
確かに初々しい恥じらいを伴って、エクシアは自分のために服を脱いでいた。自分のために肌を出し、サービスをしてくれていた。
それが、それが……。
「な……!」
手が、映り込んでいた。
どこか見覚えのあるような腕が、エクシアの乳房に向かって伸びる。それに対して、エクシアは何も抵抗するでもなく、ただ触られようとしている状況への、露骨な嫌悪感だけを浮かべていた。
右側から伸びる右手により、エクシアの乳首はつままれていた。
「誰……なんだ……」
誰かがエクシアの胸に触っている。
つまんだ乳首をくにくにと、くりくりと転がすように揉みしだく。やがて乳輪をなぞったり、指先で上下に弾いたりと、様々に弄ぶ。
『そんな人だと思わなかったな』
誰かに対して、エクシアは失望をあらわにしていた。
動画を見ている状況では、自分が言われたような気にならないでもなかったが、それはカメラマンに対する台詞のはずだった。
心臓はより激しく高鳴った。
「誰……じ、自分の……知っている人……?」
カメラマンの正体は、腕しか映っていないままでは特定できない。エクシアの瞳を拡大したところで、都合良く映り込んでいることもなく、手がかりになるのは裾の部分だけだった。
『んっ、んぅ…………』
エクシアは少しだけ声を出し、それを恥じらうように顔を背けた。横顔だけがカメラに向き、赤らんだ耳が髪から覗けて見える映像は、こんな状況でさえなければ興奮を煽るものだった。恥じらいで顔を背ける瞬間ほど、本来ならば胸をくすぐるものはなかった。
だが、一体誰なのだ。
先ほどから、自分の頭を反芻するのはそればかりだ。
誰? 誰? 誰?
手がかりが足りないまま、決して判明することのない正体に対して、頭の中には執拗なまでに疑問符が浮かび続けた。
右手は左右の乳首を交互に弄る。
最初は右側を中心にしていたが、おもむろに左へ移り、そちらの乳輪をなぞる。乳首の周囲を何周もかけて回り続ける指は、しょっちゅう乳首に掠めたり、ぶつかったりを繰り返し、その都度その都度微妙に角度を変えていた。
さらに上下左右のあらゆる角度へ転がし始め、エクシアの頬はぴくりと弾んでいた。
「くそ……誰が……誰がこんな……!」
憤りに歯を食い縛る。
自分はこの映像を見届けなくてはならない。
誰が、どんな目的で送って来たのか。こんな目に遭っているエクシアは、今頃どこでどうしているのか。それを知るには、まずこの動画の結末を見なくてはならない。
しかし、それはいかにも辛い。
他人の手でエクシアの胸が触られている光景は、見ているだけできつく胸が締め上げられ、息苦しくなってくる。見えない力で喉を狭められていくように、呼吸で得られる酸素が減っているような気さえしていた。
「見てやる……苦しくたって……」
もはや自分の視聴意欲は、これを撮った犯人を突き止めたいという動機に変わっていた。
「……っ!」
胸を揉み始めた瞬間には、自分は唇を噛み締めていた。
手の平がべったりと貼りついて、その感触を味わい始めている。
恋人でも何でもないくせに、見知らぬ誰かがエクシアの胸を揉んでいる。今すぐにその場へ行き、食い止めたいとも思ってみるが、動画である以上は全ては既に起こってしまった出来事だ。
衝動的に立ち上がり、当てもなくどこかへ向かおうとした自分自身の、あまりにも無意味な行動に気づいて、自分は脱力しきっていた。
無力感を味わいながら、ぐったりと座って動画の続きを見る。
手が、満足そうに動いていた。
右を、左を、交互に揉んでいる指の動きは、いかにも楽しげなものに見えた。正体すらわからないカメラマンだが、きっと優越感に浸っているのだろうと想像できて、自分はますます憤りに震えていた。
そう、憤ることしか出来ない。
もう起きてしまった出来事など、どうにもならない。
「一体、どこまで……」
動画の視聴を続けることに、恐怖さえも湧いてくる。
……見たくない。
現実から目を背けたい気持ちで、動画を止めようかとさえ思った。今まで見た全てを忘れ、なかったことのように振る舞おうなど、そんな弱い考えすら浮かべてしまう。
受け入れたくなかった。
動画の中で起こっている全てを拒み、こんな出来事が世界に存在した事実を歴史から弾き出してやりたかった。
だが、自分が何をどう思おうと、起きてしまった現実は変わってくれない。
心が圧縮で潰されていくような激しい痛みに、自分は血涙を流す思いで動画を見た。
動画の内容は、延々と乳揉みが続いていた。
左手でカメラを持ち、右手では揉んでいるカメラマンによるアングルは、手持ちであるが故の不安定さがある。固定したり、どこかに置いた状態と違い、身体の挙動に合わせてすぐに角度が変わってしまう。
微妙に左右に揺れ動いたり、上下にたゆたうような動きの中で、右手は乳房を楽しんでいる。飽きもせず揉みしだき、乳首を弄っているだけで、一体何分が経っただろう。
その間、エクシアは顔を背け続けていた。
横顔から見える目尻には、肌に触れられていることへの嫌悪が浮かび、その荒っぽい息遣いも聞こえて来る。何の甘さや色気もない、怒りや恥辱によって震えた呼吸の荒さが、エクシアの口から届いて来る。
部屋が静かなのだ。
静寂な中だからこそ、呼吸音さえも聞こえている。
『いい感触だ』
突然だった。
「な……!」
そのカメラマンの声を聞いた時、自分は信じられないものでも見たような、極限まで驚愕しきった顔をしていた。
ありえない。
馬鹿な、そんなことがあってたまるか。
「聞き間違い……?」
そうあって欲しい願望が口を突いて出て来ていた。
*
右サイドから伸びる右手は、左右の乳房を交互に揉んで、指を丹念に動かすことで感触をよく味わう。その延々と揉みしだく映像が続いている間中、エクシアの顔には嫌悪と屈辱が浮かび続けていた。
息遣いの中にも、苛立ちのような怒りのような震えが入り交じり、そんな荒れ方をした呼吸と共に、肩はかすかに上下に動く。そして羞恥心も働かせ、向いてくる耳は始終赤かった。
そして、そんなエクシアに向かって、唐突にカメラマンの声が聞こえたのだ。
『手の平に収まるちょうどいい大きさだ。その形も実にいい。好みの形状だ』
胸を揉んだ感想をエクシアに聞かせている。
『ふんわりとしたものを触るように、指があっさり沈んでいく。しかし、力を抜けば押し返される。そう、弾力もあるというわけだ。皮膚はすべすべとしていて、心地の良い滑りの良さをしているな』
あるいはこちらにも聞かせる意図があってのことか。
ドクターはエクシアの胸を詳しく品評していた。
『すべすべで、ふわふわなわけだ。それを手の平全体で包み込み、揉んでいると、なるほど乳首の硬い突起が手の内側に当たってくる』
学術的な見解を述べているように、触り心地について冷静に語って来る。
『乳首でも感じているんだろう?』
そう言いながら、揉みしだく手つきから、乳首を虐めるタッチに切り替え、指先で上下に転がす。
『……でさ、約束は守ってくれるの?』
『もちろんだ。良い取引に感謝する』
『取引、ね。あたしには脅しにしか感じられなかったけど』
『結果は同じだ。取引は成立した』
これだけはっきりと会話が聞こえ、一体どこの誰が喋っているのかが判明しても、自分は現実を受け入れられずにいた。
嘘だ、聞き間違いだ。
そう思っていたい気持ちのあまり、自分は無意識のうちに首を振り、否定したい気持ちを滲み出していた。
だが、事実は事実なのだ。
「なん……で……」
呆然としながら、自分はやがて真実を受け入れる。
心は拒否を続けていても、それで動画の内容が変わってくれるわけではない。今まで見た全てが実は単なる夢であり、急に目が覚めてくれるわけでもない。泣いても笑っても、見たものを見たものとして受け入れる以外になく、自分は実に消極的に真実を真実と認めていた。
「ドクター…………」
どうして、何故だ。
信じていた人間がこんなことをしているのは、やはり拒みたい現実だ。いっそ何も見なかったことにして、やはり全てを忘れてしまおうといった気持ちが、また再び自分の心には滲み出ていた。
動揺で心が震えている。
「……な、何が……何があったんだ?」
さっぱりと、想像がつかない。
エクシアは脅しと言うが、こんな風に付け込まれなくてはならない弱みが、果たして彼女にあったというのか。あるいはトイレや着替えの盗撮のような話で、何の後ろめたいこともない女性を、それでもネタで脅しているのか。
わからない。
自分には何の心当たりもなく、せいぜい想像してみるのが関の山だ。
『ではもっと楽しませてもらおう』
カメラマンが……いや、ドクターが振り向いた。
カメラを持つ人間が振り向くことで、そのレンズもまた反転して、一瞬の景色を横へと流して背面側の壁を映した。そこに映ったテーブルに置かれてか、再びアングルの固定されたカメラの先に、ドクターの後ろ姿は映っていた。
どうやら、そこはどこかベッドのある部屋らしい。
ホテル、だろうか。
ベッドを斜めに移した映像には、二人の全身が収まっている。エクシアに迫ったドクターは、次の瞬間に乳首に吸いつく。自分からしてみれば、ただ顔を近づけただけに見えないこともなかったが、頬が激しく歪む反応と同時に肩も上がって、嫌悪をより一層あらわにしている様子を見れば、何かをされているのは伝わって来た。
口で吸いつくなり、ペロペロと舐めるなり、何かの刺激を受けているはずだ。
「く、くそ……!」
自分は歯軋りをしていた。
悔しい、冗談じゃない。
こんな被害に遭っているエクシアへの、大きな心配の気持ちもそうだが、自分以外の男があんな真似をしていることにも、憤りは激しく湧いてくる。
「自分の……自分の彼女に……!」
そんなことをする権利があるのは、お前なんかじゃない。
自分にこそ、その権利はある。
ある、はずなのに……。
『ちゅっ、ちゅぅ…………』
やがては吸いつくような音が聞こえてきて、胸を吸われてのエクシアの反応にも、色気を帯びた反応が見え隠れしていた。
「感じて……いるのか…………?」
自分はさらに呆然とした。
「そんな……」
せめて、自分でない男に対しては、嫌悪や拒否感だけを示していて欲しい。延々と拒み続けていて欲しい願望を抱いていたが、刺激を受けているうちに、エクシアは何か驚いたような目をしたり、戸惑うような表情をしたりと、しだいしだいに嫌悪以外のものも浮かべ始める。
気持ち悪がっているだけだ。
きっと、きっとそうに違いない。
そう、あってくれ……。
『あっ、んぅ…………』
感じた声が聞こえた時、自分は絶望を浮かべていた。
「え、エクシア……」
『あっ、んっ、んぅ…………』
具体的な行為は見えない。
舐めているのか、吸っているかもわからずに、ただエクシアの胸に迫った後頭部だけが自分には見えている。
しかし、声が聞こえる分だけ、そこにある行為はより確かなものになっていた。
口を使った愛撫によって、エクシアは快楽を感じている。
「駄目だ……そんな、感じるなんて…………」
頼む、感じたりなんかしないでくれ。
そう願う気持ちが湧き上がり、自分は画面に向かって強く念じる真似までしていた。そんなことで歴史が変化したり、真実が書き換わるわけでもないのに、自分はそう願わずにはいられなかった。
「違う……」
そして、自分は思うのだ。
「違う――違う――違う――!」
どうしてエクシアを責める?
生理的な反応を示したくらいで、まるでエクシアが悪者のように思うのは違うじゃないか。責めるべきはエクシアじゃない。それを自分は、なんて歪んだ気持ちを抱いてしまったのか。
「くそ!」
自分自身の心に対してさえ、悔しさは湧いてくる。
「くそっ、くそ……」
だが、何よりももどかしいのは、見ていることしか出来ないその一点だ。これが生中継か何かであり、場所が判明でもしてくれていたのなら、自分には今すぐそこへ向かって現場に踏み込むという選択肢があっただろう。
この動画は録画映像だ。
あくまでも、もう過去の記録に過ぎない。
現場がわかろうと、犯人がわかろうと、それはもう関係無い。ここに起きていることをもうどうしようもないのだ。
「くぅ……!」
唇を噛みながら、自分は画面を凝視した。
相変わらず、そんな状況で感じないでくれと思う気持ちが湧いて、自分はそれをエクシアに向けてしまう。人の恋人に何をするんだという気持ちも、もちろん大いに湧いてきて、動画の中の男のことが憎らしくなってくる。
ドクターがしゃがみ始めた。
頭の位置が下へと移り、後頭部がヘソを隠すと、乳房には光沢は見受けられた。水分が皮膚に染みつき、そこに照明が反射したせいで出来上がった光沢は、それぞれの乳首を中心に広がっていた。
今までどんな愛撫をしていたのか、これで完全にはっきりした。
『んぅ……! んっ、んぅぅ…………!』
そして、愛撫は今なお終わっておらず、今度はアソコを触っているに違いない。
『んぁ……あっ、んぅ………………』
どんな触り方をしているのか。
やはり、ドクターの背中を映したアングルでは、手つきなどわかりようもなかったが、後ろからでも肘のモゾモゾとした動きだけは映っていた。あの動きに応じて手も動き、性器のラインをなぞるなり、膣に指をピストンするなりしているはずだった。
『んぅ……んくっ、んぅ………………』
表情を細かく窺うには、拡大しない限りは少しばかり距離がある。
しかし、嫌悪の滲み出た表情で、頬をピクピクと鳴動させるエクシアの様子には、感じてしまう自分自身に対する何かが溢れていた。自己嫌悪とも、悔しさともつかない、不本意に快楽を与えられての気持ちが見え隠れする表情に、自分は一抹の安心を覚えてしまった。
「馬鹿な……何を、自分は……」
駄目だ。
さっきから、ずっと心がおかしい。
確かに、エクシアには自分以外の男など受け入れて欲しくない。拒む姿勢を見せて欲しいと思ってしまうが、嫌がっている顔を見ることで安心など、それはそれで何か違う。
自分が抱くべきは、こんな目に遭ったエクシアへの、心配の気持ち一点だけではないだろうか。
いいや、そんな風にはなりきれない。
憎しみもあれば、他にも色々と感じてしまう。
『んっ、んふぁ……はっ、あぁ…………』
エクシアは目をつむり、だらりと落とした両腕を強張らせる。しきりに拳に力を入れ、耐えるように震える様子が見え隠れした。
『濡れてきたじゃないか』
『う、うるさいから……!』
エクシアが声を荒げていた。
憤ったエクシアの声など、そういえば一度も聴いたことがなかった。
『音もしてきたな』
『うるさいってば……!』
音とやらまで、さすがにカメラには届かない。
しかし、愛撫している張本人には聞こえるらしい愛液の音で、今のエクシアは一体どこまで濡れてしまっているのかと、自分は想像してしまう。
気づけば、勃起が蘇っていた。
「そんな……自分は、こんな形でなんて……」
これはアダルト動画でも何でもない。
契約した女優がフィクションを演じるものと違い、大切なエクシアが本物の悲劇に遭い、苦しんでいる最中の記録である。それを見て興奮するなど、決して人道的ではないと、頭の中では思いながらも、硬くなった逸物に萎える気配はなかった。
『んぅ……んっ、んくぁ……あっ、ふぁ…………』
映像そのものは単調で変化がないが、愛撫が続く分だけ、エクシアの感度は増しているのだろう。喘ぐ様子は先ほどよりも明確に、身体もモゾモゾと動いている。
『んっ、んぅ……んぅぅ……んっ、んぅぅ…………』
エクシアは始終耐え忍んでいた。
声では気持ちよさそうにしていながら、表情に浮かぶのは我慢そのものだった。不快感を堪えるために、ぎゅっと目を瞑って眉間に皺を作ったり、頬を強張らせたまま、上を向いたり左右を向いたり、ドクターのいない方向へと顔を背けているようだった。
そして、その時だ。
『んっ…………!』
一瞬、ピクっと肩を弾ませながら、一度だけ大きく喘いでいた。
エクシアの喘ぎ声は決して大袈裟なものでなく、呼吸が乱れた結果として、色気ある声が聞こえて思える程度のものだったが、その一瞬の声だけは明確だった。
『オーガズムに達したようだな』
ドクターが淡々と告げる。
『…………』
それに対して、エクシアは無言で顔を横に向け、気恥ずかしさと屈辱を宿した表情で、睫毛を震わせながら目を伏せた。
そこで一旦、動画は終わる。
エクシアの受けた被害は、せめてここまでであって欲しいが、果たして本当に終わるものだろうか。女を抱けるチャンスがあって、男は抱かずにいるものだろうか。
動画には続きがあった。
二つ目の添付ファイルに、きっと後半を取ったのだろう動画が添えられていた。
次の動画を再生した時、大股開きのエクシアが映っていた。
カメラと正面から向かい合い、開脚しきったM字の股の中心には、愛液を帯びて輝く初々しいワレメがある。ささやかに生えた毛に、唾液の乾いた乳首の色も、自分は思わずチェックしてしまう。
何を考えているんだ。
と、自戒の念こそ抱きながらも、自分はエクシアの裸に見惚れてしまう。
悔しいが、やはり魅力的だ。
状況さえ考慮しなければ、エクシアの横向きになった顔にもそそられる。カメラと向き合うことが恥ずかしくて、顔だけでも隠したいかのように片手を上げ、頬のあたりに手の甲を当てている。
そんなエクシアの破廉恥であり美しくもある姿は、男としてはじっくりと鑑賞して楽しみたくもなってくる。
だが、その真後ろにドクターはいた。
背面の体位でエクシアの背中に密着している。
よく見れば、後ろから伸びたドクターの手によって、エクシアのM字の脚は持ち上げられているようだった。その気になれば、本当は抵抗など容易いだろうが、何らかの弱みに付け込まれている彼女には、下手な動きなど取れないのだ。
『エクシア、君の恋人に映像は中継している』
『うそ……』
瞬間、横顔がますます赤らんでいた。
絶望を孕んで震えた声に、羞恥心がたっぷりと入り交じった一言は、またしても自分の興奮を煽っていた。
中継?
そんなはずはない。
間違いなく動画形式で送られており、自分は既に起きてしまった出来事を視聴している。口先だけで中継と言っているのは、今まさに自分の視線を浴びている真っ最中だと思わせて、羞恥心を煽る方便だろう。
底意地の悪い言葉であればこそ、その目論見通りにエクシアは恥じらいを強めているのだ。
恥じらう姿は、どうしても魅力的だった。
それがたとえ、自分ではない、別の男の仕業によるものであっても……。
『エクシア。今から、恋人の見ている前で挿入する』
『や、やめて……!』
どこか必死さを帯びて、声を荒げていた。
「やめろ……」
自分もまた、反射的に呟いていた。
記録映像に向かって叫んでも、それがいかに無意味かはわかっている。それでも、口を突いて出て来る気持ちはあった。やめて欲しい、本当にやめて欲しい。その激しい思いが胸の底からくつくつと、沸騰のように湧き上がっていた。
人の心というものは、矛盾を孕むものなのだろうか。
こんなにやめて欲しいと思っているはずなのに、これが本当に中継で、現場さえわかっていれば今すぐ突入してやるはずなのに、エクシアに肉棒の入る瞬間を見てみたい気持ちは、自分の中に少なからず湧いていた。
自分でもおかしいとは思っている。
エロ漫画やアダルト動画の鑑賞ではないのだ。
好みの女の子が挿入され、喘いでいるところを見たいなど、恋人に対して思うことではない。自らの手で抱いたり、愛したいと思うのが普通のはずで、こんな形でエクシアのセックスを見たがるなど、きっと一般的な感覚ではないはずだ。
『あたしさ。こう見えても処女で、それだけは勘弁して欲しいなーって……』
エクシアの言葉には切実な思いが見え隠れしていた。
駄目かもしれない、通じないかもしれない、それでも行う必死の説得で、処女だけは守ろうとしていた。
『そうか。初めてか』
ドクターの右手がアソコに移る。
再び性器への愛撫が始まると、エクシアは見るからに強張っていた。
『他のことで満足するっていうのはどう!? 何でもするから、だから処女だけはさ――』
『ふむ、感度がいい』
説得などまるで聞く気がないように、ドクターはワレメを指でなぞり始める。
『本当に……お願いってば……』
感じながらも訴えるエクシアの、その股のすぐ下には、ドクターの勃起した逸物があった。密着しているせいで、さながら竿でエクシアの肉体を持ち上げているように、尻の下に沿い合わさっていた。
『中身を見てもらおうか』
ドクターの指がワレメを左右に広げた。
「な……!」
驚愕しながら、しかし自分は見てしまう。
桃色の綺麗な肉ヒダに、自分は視線を集中させてしまう。
黒ずみのない、粘膜の反射でキラキラと光ってさえいるエクシアのアソコは、やはり美しく栄えている。羞恥心から赤らみを増し、頭を沸騰させんばかりにしている横顔も、自分をますます魅了していた。
エクシアは両手で顔を隠し始める。
もっと恥ずかしい部分が見えているのに、けれど表情の方を覆い隠していた。
『ではこのくらいにして……』
不意にドクターの手が離れた。
性器への辱めが中断され、てっきりこれで挿入されずに済むのかと、安心したかのように肩から力の抜ける様子が見受けられた。
そう、エクシアは油断していた。
挿入はやっぱりやめてくれるのかと、少しでもそう感じる気持ちがあるに違いなかった。
しかし、見ている自分は油断などしていなかった。
警戒心を緩めることなく、きっとそうなるに違いないと読んで覚悟していた。
その時、ついにドクターは挿入を決めた。
再び両手で脚を持ち上げ、開脚を強いたかと思いきや、それで足腰の位置を調整して、浮き上がったエクシアを自らの上に落とした。落下で串刺しにするように処女を奪い、急にあっさりと収めてしまっていた。
「……っ!」
わかっていた。
こうなると読めていた上、覚悟まで決めていたのに、それでも自分は呆然していた。
呆然のあまり、心が無になりそうだった。
『そんな……!』
エクシアもそうだった。
大いに驚き、突然のことに戸惑ったような顔をしながら、そして始まるピストンにみるみるうちに悲しげな涙目を浮かべていた。
『あっ、やぁ……! やめて……! お、お願い、抜いて……!』
エクシアは懇願していた。
それで止まるドクターではなく、むしろ見せつけんばかりに立ち上がる。人の身体を持ち上げて、空中にキープするだけの腕力がドクターにあったのかと、こんな時なのに妙な点にも自分は驚く。
背面から密着しての体位であった。
ドクターは腰を手前に突き出して、棒を真上に向けて上下させ、懇願など聞きもしないピストンを行っていた。
『んっ、ぐぅ……んんぅ……なんで……抜いてよォ……!』
聞き入れられることのない懇願は続いていた。
こんな形で処女を破られた事実が受け入れられず、悲嘆に暮れたような表情で、肉棒の出入りしてくる苦しさにエクシアは髪を振り乱している。
乳房も揺れていた。
下から突き上げる衝撃で、ぷるっ、ぷるっ、と。
ささやかな膨らみの乳房だが、揺らせば上下に動くだけのサイズには至っており、ピストンに合わせた乳揺れも起こっていた。
ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ――と、揺れている一方で、結合部がくっきり映る。ゴムも着けていない肉棒は、見え隠れのたびに愛液を纏った姿を現す。そこには少しの血が混ざり、本当に処女が破られてしまっているのだと、見ていて自分は痛感した。
本当なら、自分こそが破ったかもしれないものが、他者の肉棒に奪われてしまった。
心に穴でも空いたような虚無感が広がりながら、なおも勃起は続いている。萎えることなく硬さを維持して、それどころか自分は自らを慰め始めていた。
とても惨めだ。
自分の恋人が他者に犯され、それを見ているしかない気分は最悪のものだ。
向こうではセックスが行われているというのに、自分が味わう快楽は自分自身の右手によるものであるなど、格差を実感せずにはいられない。身分に大きな差でもつけられ、遥かに格下にでもされてしまったような感覚だった。
無意識だった。
自分が自慰行為を始めているなど、すぐには自覚していなかった。
『お願いっ、見ないで……!』
懇願はこちらにも向けられていた。
「エクシア……!」
途端に申し訳なくなってくる。
自分はそれでも、こんな形であっても、エクシアの裸に興奮して、肉棒の出入りを食い入るように見てしまっている。そんな自分に気づかされ、その次の瞬間には、ハッと気づいたように自らの股を見た。
『見ないで……見ないで……!』
エクシアはあんなに懇願しているのに、無意識とはいえ自分は自慰行為を行っていた。
そして惨めな気持ちが湧くと同時に、途方もない罪悪感さえ味わった。
「自分は……そんな……」
エクシアに対して、一体どれだけ悪いことをしているのかと思いながらも、勝手に動く右手が止まらない。
頬に涙が伝った。
どう足掻いても、何をどんなに思っても、起きてしまった出来事は覆せない。今この世界に存在するエクシアは、この動画の内容を全て体験しきった後の、ドクターに犯されてしまった存在なのだ。
『やめて……抜いてっ、んぅっ、んぅぅ…………』
エクシアの頬にも涙が伝っている。
悲しみながら苦しんでいる。
その姿さえ、自分にとっては興奮を煽るエッセンスになってしまって、だからこそ罪悪感も留まることを知らなかった。あるいは悪いことをしている感覚自体、背徳感そのものさえも興奮の一種なのかもしれない。
お互いに苦しみ合っていると、言えるのだろうか。
自分の中には、確かに興奮している部分がある。憤りやエクシアへの思いだけが全てではない。あるべき感情の中に不純物が混ざっていて、それが自分に自慰行為をやらせている。
手を止められない。
乳揺れも、肉棒の出入りにも、どちらにも視線を注いでしまう。
『んっ、んぐぅ……んっ、んぅぅ…………』
エクシアの苦しげな声に、微妙な色気が混ざっていた。
感じているのかもしれない。
そんな快楽に、エクシア自身が抱く感情は複雑なものだろう。こんな形で感じたくなどない、もっと本来の形で快楽を得たかった。エクシアの気持ちがひしひしと伝わるようで、それだけに自分の受ける罪悪感への刺激は止まらない。
『見ないで……!』
悲痛な叫びに、胸を貫かれる。
だが、エクシアの望みに反して、自分は視線を背けることができずにいた。結合部への観察を止められず、乳房の視姦も辞められない。
特に、胸はやはり可愛い。
愛らしくも無垢な少女であるような、何も穢れを知らないような形の乳房は、本当にふっくらとした丸みを帯びた三角形なのだ。茶碗をいくらか低くして、浅めの山を成したような形状は、実に整っていて美しい。
高名な画家に描かせれば、立派な芸術になりそうだ。
そんな魅力的な美乳から、目が離せるはずがない。
『見るだろうな』
ドクターも淡々と言っていた。
『あっ、んぅ……んっ、ぬぁ……はっ、んぅ……!』
『エクシアの胸は可愛らしい』
自分と似たような評価をドクターは下していた。
『あっ、んぁ……!』
『小さなようで、ふんわり、ふっくらとした感じが見た目でも伝わって来る。まるで柔らかな生地の固まりを見ているようだ。そんな魅力的な乳房から、果たして目を離すことができるだろうか』
『やぁ……あっ、あぁぁ……!』
嫌だ嫌だと言わんばかりに、エクシアは激しく首を振る。
「エクシア……!」
『今頃はどれほど激しい視線を送っていることか』
『だめっ、言わないで……そんなこと……!』
『こうして突いていれば、いい乳揺れも楽しめるのだろう。ぷるぷると揺れる有様も、彼は悦ぶんじゃないか?』
「ああそうさ」
自分は憤り、声を震わせながら肯定した。
その通りだ。
目が、離せない。
決して巨乳ではないながらに、柔らかなせいか振動で揺れやすく、上下運動に合わせて震えている。
「くそっ、そうだよ! 悪いかよ!」
ドクターが突き上げる動きに合わせ、エクシアの身体はわずかに上下していた。肉体もろとも揺れ動き、その勢いに応じて乳房も動く。ぷるぷると振動を続けるような揺れ具合は、さながら皿に乗せたプリンを揺らし続けているようでもある。
パチュッ! パジュッ! パツン!
と、貫く際の打音が激しくなった。
パンっと、何かを叩いたような音の中には、微妙な水音が入り交じり、打音の中に濁音じみたものが重なっていた。
『ま、まさか――んっ、んぅぅ……!』
ペースの上昇に、エクシアは何かの危機を感じ始める。
見るからに、何かに焦っていた。
『どうした』
『中に出したりなんて……しないよね……んっ、んっ、んぁ……!』
不安そうに怯えたように尋ねる顔が、次の瞬間には喘いだものへと立ち替わる。
ドクターは何も答えなかった。
問いに対して、首を動かすことすらなく、答える代わりのようによりペースを上げていた。
『ねえ、ドクター? あっ、んぅっ』
その無言に不安を強め、ますます顔を陰らせながら、エクシアはより速く上下している。ドクターの腰振りが許す限り極限までのペースへ迫っていき、パンパンと打ち鳴らす音もその分だけ大きくなる。
「ドクター! や、やめろ……」
自分も不安を感じていた。
こんなことまでしておいて、この上さらにエクシアを穢す気かと、ひどく危機感を煽られていた。
「やめてくれ……」
懇願の気持ちさえあった。
もうそこまでしたら十分じゃないか。それだけ楽しんだのだから、もういいだろう。だから、だからせめて、それだけは許してくれ……。
それだけは、それだけは……。
天に祈る気持ちの中で、自分は既に予感していた。
きっと、きっとそうなるに違いないと……。
もう、それは止められない。、
「やめろ……」
決して、どうにもならない。
画面の向こうで起きる出来事など、一体どうしようというのだ。自分はただ、見ていることしかできない。
何よりも、記録映像である以上、結末は初めから決まっている。
内容を知らない自分が、その中身をただ確認しているに過ぎないのだ。
『んっ! んっ! んっ! んっ!』
エクシアの声もトーンが上がる。
そのリズムが自分の心を狂わせる。決定された未来をただ待つしかない心境ほど、苦しい絶望はなかった。
「やめて…………」
ついにその瞬間はやってきた。
『あぁ……………………』
エクシアはひどく目を丸めていた。
目玉が外に飛び出るほどに、本当に大きく開かれた彼女の目は、眼球を痙攣させているかのように、ショックで瞳を震わせている。そんな呆然とした表情と、きっと自分は同じ顔をしていた。
自分は放心していた。
遅れたように出て来る白濁は、天を目掛けて放たれたものが降下して、肉棒の表面を伝い流れ落ちてくるものだった。
気づけば自分も射精していた。
しかし、呆然としているあまり、自分はしばらくそのことに気づかずにいた。あまりのショックに本当に心を空にされ、虚無の中でただただ延々と放心していた。虚空を見つめ、魂の抜けきった顔で、ぼんやりと座り込むだけの存在と化していた。
『気持ち良かったぞ』
ドクターが自分に向けて放つ声にすら、自分は何の反応も示せない。
そもそも、そんな言葉をかけられたこと自体、放心のせいで気づくことすら出来ずにいた。
…………
……
一体、どれだけの時間を放心に費やしていたことだろう。
気づいた時には動画を全て再生しきり、端末の画面は時間経過によって自動的に消えていた。一定時間の操作がなければオフになる設定で、いつの間に暗くなっていた画面を自分は無心になって眺めていた。
放心から立ち戻り、頭の中に様々な思いや考えが蘇ってきてさえも、自分はぼんやりとし続けていた。
この画面の中には、先ほどまでエクシアの痴態が流れていた。
夢だと思いたい。
全てが嘘だと思いたい。
そう思い込もうと努力して、何事もなかったように振る舞うことは可能なのかもしれないが、それでエクシアの身に起きた出来事が変わってくれるわけではない。何もかもが現実であるという証拠も、この端末の中には入っているのだ。
データを消すことで、そのまま過去も消えてくれたら、どんなに良いだろう。
しかし、消すことが可能なのは、あくまでもデータだけだ。
一体、エクシアやドクターとは、どんな顔をして会えばいいだろう。
……わからない。
自分には何もわからない。
エクシアに何があった?
どうしてドクターがこんな?
わからない……。
わからない、わからない、わからない、わからない……。
何故、こんなことが起こったのか。
答えの出ない事柄に延々と頭を抱え、自分は苦悩の中に陥るのだった。
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