前の話 目次




 二人は警戒しきっていた。
 何歩も何歩も距離を取ってなお、まるで落ち着きが得られない。あの時の数々の行為に加え、つい先ほどの凶行と、そして今こうして二人のことを見知らぬ土地に呼び出している状況。
 これから、ロクなことが起きない。
 今すぐに逃げ出したいのは山々で、どこでもいいからがむしゃらに走り出し、二度と愛野に会わずに済む場所へ行きたかった。
 だが、振り向いた先にあるのは、無数の草木が生い茂り、樹皮にはツタまで張った密林だ。よく見れば日本に生えた木とは思えない、奇妙な形をした葉もあって、こんな場所に飛び込んで本当に平気なのかがわからない。
 人を襲う動物なり、恐ろしい蛇なりの、自然の驚異がありそうで足が竦む。
 驚異と脅威の挟み撃ちだ。
 密林のサバイバルに挑むのと、目の前の愛野に頼んで元の場所へ返してもらうのと、どちらがマシか。そんな究極の選択を、今ここでしなくてはいけない。
 強姦未遂の、また同じ暴力を働くかもわからない相手がそこにいるなら、それでも後ろに逃げたい気がしていた。
「ま、簡単に状況を教えてあげよう」
 愛野は言う。
「まずはね。ここは地球じゃない」
「は?」
 円香は苛立ち気味に、不信感を惜しみなく宿した目で愛野を睨む。
「信じられないかな? でもね、信じる信じないに関係無く、ここは地球じゃない。君達二人に適した大気組成の星をわざわざ買って、色々とセッティングしてあってね。どこに逃げたって元の場所には帰れないってわけだ」
 冗談じゃない。
 あんな男に、やはり付き合っていられない。
 いくら信じられない現象が起きて、顔立ちや体格の変貌まで披露したからといって、そう易々と何でもかんでも受け入れるのは無理だ。
「行こう。浅倉」
 円香は透の手を取って、さっさとこの場を去ろうとした。
 こうなったら、迷わず愛野に背を向けて、密林に踏み込んでも逃げようとしたのだが、早足で踏み込んだ瞬間だ。

「え……!」

 二人揃って、洞窟の中に一歩踏み込んでいた。
 わけもわからず咄嗟に振り向くと、本当に踏み込んだはずの密林は後ろにあり、背を向けたはずの洞窟こそが目の前だった。漫画やアニメにはワープホールや時空の歪みといったものが出てくるが、そういった話でなければありえなかった。
「ほーら、逃げることすらできない」
 愛野と離れるどころか、距離が縮まっていた。
 ほんの一メートル先に、ニヤニヤと楽しげに笑う愛野はいた。
「ふざけてる。さっさと元の場所に帰して」
「駄目駄目、君達と楽しむために、時間をかけて準備したんだから」
「そんなの知らない。だいたい、こっちは何も楽しくないし」
 円香は完全に敵意を剥き出していた。
 楽しむだの準備だの、ロクでもないことに決まっている。
「円香ちゃん? 君はもっと状況をよく飲み込んだ方がいいね。ここは地球じゃないと言った意味がわからないかな? そして、ほら! 逃げようとしたって、君達は洞窟に踏み込んでしまったわけだ」
「なんなの、これ」
「私達の星の技術でね」
「は? 宇宙人とか」
「信じられなければ、信じるしかなくなるまで逃げてみるといいよ。何度やっても、君達はかならずこの場所に来てしまう」
「浅倉」
 呼びかけるなり、円香は再び愛野に背を向け、洞窟をさっさと出て行き密林を目指す。あんな醜い中年のいる場所からは、一刻も早く離れたい。同じ空気すら吸いたくない。その一心で踏み込むが、やはり次の瞬間には洞窟だった。
 ある一歩を踏んだ瞬間から、パっと切り替えたかのように世界が変わり、気づけば洞窟の出入り口に立っているのだ。
「ほーら」
「……っ!」
 怒りが込み上げる。
 思い通りにならないことに、そして煽らんばかりの満面の笑みに、腹の底からふつふつとした感情が湧き上がる。
 意地でもこの場を離れようとした。
 しかし、何度やっても、何度試しても、二人は必ず洞窟の中に立っている。逃げる方向を変え、壁沿いを歩いてみても、やはり一定の距離を超えた時から切り替わり、洞窟に立たされている。
 結果がわかっていても、なおも繰り返したのは意地だった。
 意地もあるが、性犯罪者と同じ空間で過ごすなど、最悪極まりない状況から一刻も早く離れたかった。どうせ同じ結果が繰り返されると、頭の中ではわかっていても、心が激しく拒否をして、愛野の顔すら見たくない思いでいっぱいだった。
 繰り返せば繰り返すだけ洞窟に立たされ続け、さしもの円香も最後には諦め始めていた。どんなに意地になっても結果は変わらず、心の底では愛野の言葉を信じ始めていた。
 地球ではないなど、どう信じればいいかはわからない。
 だが、何かまともでない技術か能力があり、その力で円香と透をこの一定のエリアの中に閉じ込めている点だけは、嫌でも認めざるを得ない。
 閉じ込められていることだけは、はっきりとわかった。
 そして、通信も圏外であり、助けを呼ぶ手立ても存在しない。
「わかったかな?」
 愛野のニヤっとした顔の腹立たしさといったらない。
 十分に思い知ったかどうかを尋ね、わざとらしくふんぞり返り、背中を反らしてまで見下してくる顔が気に入らない。気持ち悪い猫なで声も、聞くだけで鼓膜が腐りそうだ。
「円香ちゃんも、透ちゃんも、私達に付き合うしかないんだよ?」
 ……嫌だ。
 一体、どんな事柄に付き合わせようとしているのか、その詳細を聞くまでもなく、全身から嫌悪感が溢れていた。透の顔にも露骨に嫌がる気持ちが浮かび上がって、二人して拒否反応を示していた。
「……で」
 円香は愛野を睨む。
「どうしたら帰してくれるの?」
 そう問うなり、待っていましたとばかりに、愛野は嬉々として語り始める。

「ではルールを説明しよう!」

 大仰な身振り手振りだった。
 何がそれほど面白くて、そこまでテンションを高めて嬉しそうに発表などしてくるのか、まるで意味がわからなかった。
「君達はとある小さな惑星にやって来ています! 時空操作装置を使用しているため、お二人はこの一定空間の中に閉じ込められ、脱出することができません! このままでは永遠に空間を彷徨うことになってしまいますが、しかし! 君達には、元の世界に戻るためのチャンスが用意されているのです!」
 そのチャンスの内容は、ロクでもないものに決まっていた。
 もし、星だ何だという話が事実なら、嫌でも愛野に頼まざるを得ない二人は、究極的にはどんな要求も拒めない立場にある。ストレートに抱かせろと言われても、体と引き換えに地球に帰るか、意地を張って空間を彷徨うか、どちらにするか真剣に悩む羽目になる。
「チャンスって、どんなチャンス? どんな内容? 気になるよねぇ? 気になって仕方がないよねぇ?」
 その声も、態度も気持ち悪い。
 腹立たしい。
「さっさと言って」
 ぶっきらぼうに、しかし視線はますます鋭くしながら、円香は低い声でそう言った。

「お二人にはこれから三つのゲームに挑戦してもらいます!」

 円香はすぐに身構えた。
 そのゲームの内容こそ、二人にとって最悪のものになるのだろう。
「三つのゲーム全てをクリアした時、お二人には地球へ帰還する権利が与えられますが、ではクリアできなかったらどうなるか。一生を性奴隷として過ごしてもらいます」
 身震いした。
 何かそういう目的だろうとは思っていた。どうせ負けた場合の話だけでは済まず、ゲームの内容自体が変態の発想で出来たものに違いない。
「で、最初のゲームは」
「迷宮脱出ゲームだよ? この洞窟は迷路のような構造になっていて、別れ道や行き止まりがいっぱいあるんだ。制限時間はたっぷりと用意するから、焦らずじっくり進むことが出来るけど、ちょっとした仕掛けもあるからね」
 その仕掛けとやらが、本当にちょっとしたもので済むのかどうか。
 迷路に入って、ゴールを目指すだけなのなら、こんな状況でさえなければまともなレクリエーションになるだろう。
 どうせ、まともな迷路ではない。
 円香は完全に疑ってかかっていた。
「それ、問題とかないの?」
 セクハラじみた仕掛けは、盗撮用のカメラなどは、果たして平気か。
 それを尋ねてみた瞬間、我ながら間抜けな質問だと気づく。前科のある性犯罪者を相手にこんな質問、痴漢常習犯に満員電車を選ぶ理由を聞くようなものである。
「うーん? 問題があってもなくても、君達は挑むしかないんじゃないかなぁ?」
 神経を逆なでする声と態度に、その顔を殴りたくさえなってくる。
「本当に帰してくれるの?」
 愛野への信頼など、当然皆無だ。
 クリアできたとして、それで本当に済むのかさえ疑わしい。
「もちろん、まだまだ好きなだけ無駄な足掻きを繰り返しても構わないよ? ゲームに挑戦したくなるまで、何百回でも、何千回でも逃げてごらん?」
 自信たっぷりの顔が腹立たしい。
 どうにかその自信をへし折ってやりたくなるが、そんな手立ては円香にも透にもありはしない。
「……浅倉」
 透の横顔を見る。
 不安そうな色が浮かんでいるのは、当然といえば当然だろう。
 円香自身、嫌な予感しかしていない。まるで痴漢の巣窟とわかった満員電車に、それでも乗らなくてはいけないような、地獄に踏み込むしか道のない状況に、顔中が余すことなく引き攣っていた。
「やるしか、ないっぽいね……」
 透の顔は諦めのような、泣きたい思いのような、そんなものでいっぱいだった。
「本当に、最悪だけどね」
 もう、挑戦するしかない。
 そうする以外の道を丁寧に断たれた上、相手の思い通りに誘導された結果としての、愛野が今か今かと待ち侘びている答えをそのまま出すしかないことで、無念と屈辱を通り越した諦めの境地にさえ行き着きそうだ。
「ゲーム、やればいいんでしょ」
 円香がそう言った時、愛野はますます嬉々とした笑顔を浮かべ、心の底から楽しそうにルールの説明を開始する。
 愛野の声すら聞きたくないが、ゲームのためにも、その気持ち悪い声にきちんと耳を傾けていなくてはならなかった。

     *

 二人は洞窟の奥へと進む。
 愛野の隣を通り過ぎ、暗闇の中へと歩んでいくと、それがきっかけであるように照明が内側を照らし出す。赤外線センサーでオンになる照明もあるが、おそらくそれで明るくなっていた。
 壁には延々と続くコードが張り付けられ、一定の間隔で電球が輝いている。
 明るいおかげでわかるのだが、この洞窟の中は出入り口の付近と違い、壁や天井、床などが綺麗に磨かれている。凹凸まみれの岩壁でなく、ビルや家など、建物と変わらない平面続きだ。
 見た限りの質感は、それでも岩だ。
 岩をここまで丁寧に削り出し、平面と化すように磨いた労力は、一体どれほどのものなのだろう。
 最初は一本道だった。
 迷宮という割りに、一体いつになったら曲がり道や別れ道に行き当たるのか。
 そんなことを思った時、ちょうど行き止まりに当たる。
 一本道を歩いていたのに行き止まり――が、壁には穴が空いていた。綺麗な四角形に刳り抜いたその穴は、幅もあるのでしゃがめば二人一緒に入れるが、低さを考えれば四つん這いで進むことになりそうだった。
 そして、二人はスカートを穿かされている。
 シャツも、靴下も、どれもが二人の所持品から選ばれたであろう、二人にとって見覚えのある服なのだが、スカートだけが見知らぬ服だ。丈は膝より数センチほど上まであり、一般的な長さであっても、二人が避けてきた長さである。
 もう一つ、二人はとっくに気づいていた。

 スカートの内側はスパッツになっている。

 そのサイズを例えるなら、男性のトランクスより少しばかり丈が長い。スパッツによる締め付けの感触で、ショーツの上にもう一枚何かを重ねているのは、わざわざ確認せずとも、とっくに気づいていることだった。
 ……気持ち悪い。
 勝手に服装を変えられたのも、その服が二人の所持品に違いないことも、スカートを穿かされているのも、全てが気持ち悪い。部屋に勝手に入られて、知らないうちにクローゼットを漁られたのだろうかと、身震いするような想像がよぎってしまう。

『はーい! ここで先ほどの説明を思い出して下さいね?』

 スピーカーは見当たらないが、放送音声と思わしき形で愛野の声が響いてきた。
『制限時間はたっぷりと一時間! きちんと冷静に対処すれば、必ずゴール可能になっていますが、ゲームを面白くするための仕掛けを用意してあるから気をつけてねぇぇ?』
 こうして洞窟の奥まで入る前、愛野が先ほど述べたルールでは、制限時間と仕掛けの存在について述べていた。
 迷路は二人一緒に行動しても、あえて分かれて行動しても構わない。不安を和らげるため、ずっと一緒にいるのも有りだが、効率的にゴールを探すため、手分けをしても構わない。
 もっとも、一人がゴールを見つけても、合流の手段や作戦を考えておかなければ、単にはぐれて終わってしまう。
 分かれて行動した場合、一人が先にゴールをしても構わないという。
 ただし、クリア扱いになるのは一人ずつ。
 仮に片方がゴールして、もう片方がいつまでたってもゴールできない場合、一人だけがクリア扱いとなり、もう一人はゲーム失敗扱いとなる。
 できれば一緒の行動を続けたいが、迷路が複雑すぎることなく、合流も簡単だろうと踏ん切りがつきそうなら、その時は分かれてみてもいいかもしれない。
 と、ここまではいい。
 必要なルールは把握できていると思うが、愛野の言う仕掛けについては、まだ詳細が明かされていない。
『さぁて! お二人には合図と共に迷宮に突入してもらいますが、その前! 先ほどから言っていた仕掛けについて、まずはその一つを紹介しましょう!』
 その瞬間である。

 べちゃり、

 まるでジェル状の固まりを床に叩きつけたかのような、何かが飛び散ったかのような、水気のある音が後ろに聞こえ、円香と透は同時に振り向く。
 そこにはスライムがいた。
 水色の、大型犬ほどのサイズであろうスライムは、どうやって現れてか、地面に平らに潰れていた。叩きつけた勢いであるように、円形に広がっていたものが、しかし徐々に形を膨らませる。
 円の面積がみるみるうちに縮む変わりに、山なりに膨らんでいき、しだいに高くなっていく。
「……なにこれ」
 というのが、円香の率直な感想だった。
「スライムだね」
 透の答えは、見たものそのままだった。
「そりゃ、スライムだけど……」
「離れた方がいいかも」
 愛野が用意したものだ。
 ただの大きなスライムであるはずがなく、警戒心から二人して後ずさる。危険なものかどうかはわからないが、ゲームを面白くする仕掛けというからには、ゴールへの到達を邪魔するギミックとして投下されたわけなのだろう。
 迷路というだけで面倒なのに、ギミックを掻い潜り、妨害を突破しながらゴールを目指すなど、今のうちから辟易してくる。
『ではお二人とも、このスライムの特性をご理解頂くため、手っ取り早くその目で見てもらうことに致しましょう!』
 愛野が高らかに告げた時、ひらりとシャツが降って来た。
 あたかも初めから天井に干してあり、それが落ちて来たかのように舞う白いシャツは、ちょうどスライムの真上に乗っていた。ジェル状の固まりの上に広がることで、まんべんなく水気を吸って、一瞬のうちにびしょ濡れとなっていた。
 さらにシャツは沈んでいた。
 水面に浮かんだものが、やがて水底を目指し始めたように、シャツはスライムの内側へと飲み込まれる。

 次の瞬間に始まるのは服の溶解だった。

 溶けている。
 まるで急速に色が薄れて、透明になろうとして見えるシャツなのだが、よく見れば繊維が溶け消え、徐々に消滅していくことで、色というより厚みが薄れているようだった。
 シャツは瞬く間に消えた。
「…………」
「…………」
 何の言葉も出ない。
 取り込んだ物を溶かすスライムという、まさしくモンスターとしか思えないものがそこに存在している事実に、絶句したまま戦慄の汗を浮かべていた。
『まずはご安心下さい! こちらのスライムは、決して人間の血肉を溶かしたり、体毛を奪うことすらありません! 溶かすのは身に着けている衣服! 靴や靴下など、着衣物にあたる物だけです!』
 ちっとも安心できなかった。
 生物を溶かすように食べる魔物で、襲われれば骨しか残らないような想像は確かによぎったが、そういう危険はないと保障されたところで、服が溶かされるのなら立派な有害生物だ。
 要するに……。

 服を溶かすモンスターをギミックとして配置するということだ。

 追跡してくるモンスターを背に、逃げながらゴールを目指す。
 迷宮の入り口を改めて見てみれば、四つん這いでしか進みようのない穴の高さがますます憎らしいものに見えてきた。スライムの追跡というプレッシャーを受けながら、立って歩いたり、走ることすらできないのだ。
『ではこれより、スタートへ向けたカウントダウンを開始します!』
 愛野は有無を言わさない。
『えー! 合図を無視してそこに突っ立っていても構いませんが、ルール上、スライムに捕まり素っ裸になった場合、即時失格と見做しますよ?』
 さっさと迷宮の中に入るしかない。
 入らざるを得ない理由を急に作られ、もう他に悩む余地さえなくなっていた。
『カウントダウンが終了してから、さらに十秒後にスライムは動き始めます。もう一度言いますが、突っ立っていてもいいですけど、私としては早めの突入をオススメしますよぉ?』
 仕掛ける側は、さぞかし楽しいことだろう。
 人を追い立て、焦らせるギミックを仕掛け、それを傍から眺める立場にいるなど、本当にいいご身分である。円香や透が慌てふためき、泣きながらゴールを目指す姿を晒したなら、それをゲラゲラ笑って楽しんだり、愉快でならない気分に浸ったりするわけだ。
『迷路の中にも、いくつかの仕掛けがありますからね? スゴロクのマスみたいに、到達すればゲームを有利にしてくれたり、逆に不利にしてしまうギミックは数々ありますので、楽しみにして下さいね!』
 何が楽しみなものか。
 本当にゲーム性を考える気があるなら、二人にとって役立つアイテムの一つや二つも出て来るだろうが、とてもそんなことは信じられない。セクハラめいたギミックだったり、使用するには妙な代償を支払うといった形の、どうせロクでもない仕掛けに満ちているに決まっている。
 そこに、入らなくてはいけない。
 何が待ち受けているかもわからない迷宮が目の前に、しかし後ろには服を溶かすスライムが控えている。
 かの虎と狼のことわざを思い出す。

『ではカウントダウン! 十! 九! 八! 七!』

 まず、二人して躊躇った。
 顔を見合わせ、目と目で交わしてしまう意思疎通は、迷路に対する拒否感を確認し合うものだった。

『六! 五! 四!』

 だが、カウントダウンは進む。
 それがゼロになってから、さらに十秒経過した時、後ろのスライムは動き出す。
「い、行こう。浅倉」
「……だね」
 本当は行きたくない。本当は真っ平である思いを顔に滲ませ、引き攣った表情になりながら、二人は背の低い穴に向かって姿勢を低め、四つん這いで突入の構えを取る。
 当然、スカートが気になった。
 これはきっと、中身が見えそうなことを気にしながら、それでも四つん這いで進行しなくてはならない仕組みになっているのだ。

『三! 二! 一! 〇!』

 二人はすぐに突入した。
 まずはスライムから距離を取るため、早め早めに這っていき、とにかく安全の確保を優先していた。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA