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 教師はさらに続けてメジャーを伸ばし、手足の長さまで調べ始めた。
 肩から指先にかけての長さ、腰からつま先にかけての長さ、首の長さ、耳のサイズ。何の役に立つかもわからない、細かな部位の測定で、指の一本ずつまで記録する作業にはそれなりの時間がかかり、時計を見るなり家での家事を思い出す。
「すみません。ちょっと、家に電話をさせて下さい」
「どうしたのかな?」
「買い物を頼まないと、晩ご飯が作れないので」
「家庭の事情ね。ま、連絡するくらいならいいだろう」
 教師からの許可を貰い、堀は脱衣カゴへと近づいた。
(…………着たい)
 畳んでおいた制服やスカートを見て、堀は切実にそう思う。
(着たい。すっごく着たい!)
 まさか、いつも当たり前に着ている制服が、ここまで恋しくて大切な宝物に見える日が来るとは思えなかった。決して着る許可など出ないだろう。全ての検査が終わるまで、堀はこの格好からは解放されない。
 脱衣カゴの隣に置いたスクールバッグへ手を伸ばし、携帯電話と手にして宮村の番号へと電話をかける。
 いくらかのコールの後、宮村へと繋がった。
『堀さん? どうしたの?』
「ああ、あのね。ちょっと遅くなりそうというか……へっ!?」
 この瞬間、堀はぎょっと目を丸め、勢いよく振り向くあまり、髪を振り回すことさえしていた。

 尻を触られていた。

 まるで電車の痴漢のように、教師は堀の真後ろに立ち、ぺたりと尻に手を置いている。不快感のあまり、ぞわぁぁぁぁ――と、肌中に鳥肌が広がっていた。
『あれ? ゴキブリでもいた?』
(ある意味ゴキブリ……って、言いたいけど、さすがに言いにくい…………)
 教師の手は尻の丸みに合わせてぐるぐると、下着の表面をさすって撫で回す。その感触に尻肌が泡立ち、背筋が凍りつくような寒気に肩が震える。
「ご、ゴキブリはね? いいの。いたら踏み潰すから」
 本当は真後ろの教師を踏み潰したい。
「宮村さ。このままじゃスーパーに間に合わないから、買い物を頼みたいんだけど」
『いいよ? 今晩は何を作るの?』
 堀は今日のメニューを宮村に伝え、必要な食材のメモも取らせる。
 そのあいだにも尻は撫でられ続けていた。
 手つきはしだいに変化して、手圧を強めた撫で方で、尻肉を少しばかり潰しながら撫でるタッチとなる。指を駆使してグニグニと揉んでくる。
 これらに耐えながら、平常心を装って通話をこなし、ようやく電話を切るに至って、堀は即座に肩越しに振り向き教師を睨む。
「いい加減にしてくれませんか!?」
 堀は声を荒げた。
「ああっ、ははっ、すまんね。つい」
「ついじゃないです!」
「まあ、これもチェックのうちだ。発育状況は調査項目にあるからね」
(うううぅぅぅぅ…………!)
 まるで悪びれもしない教師もそうだが、今の行為でさえも注意せず、黙認している他の四人に対しても、堀の怒りは収まらない。
 本当はここにいる五人を五人とも、みんなどうにかしてやりたい。
 だが、それを実現できるはずもなく、堀に対する次の検査項目が、無情にも伝えられることとなる。

「次からはパンツ脱いでもらうからね」

 堀は軽く凍りついていた。
(これ、恥ずかしさで殺しにかかってる?)
 堀は本気でそう感じるのだった。



 
 
 

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