前の話 目次




 しかし、討魔剣士として生きるということは、パートナーとなる男と性を交える運命を意味していた。決められた男に純潔を捧げ、戦うたびにその人から回復の儀式を受けなくてはならない。
 そのパートナーは大人達によって決められる。
 女側に選ぶ権利があるとは限らない。
 討魔剣士は十五歳の誕生日を迎える際、その日に男を紹介され、処女を捧げる契約の儀を執り行う掟がある。
 凛菜はそれを両親から聞いて知っていて、それ自体には覚悟があった。
 気に入らないのは確かだし、何が悲しくてそんな回復方法しかないのかはわからない。他に方法があればいいのだが、それしか確立されていないのなら、そういうものとして受け入れる以外に道はない。
 それが嫌なら、家を出て行く宣言でもするしかない。
 しかし、あれ以来から使命感を抱くようになり、復讐心さえ燃やしている凛菜にとって、家を出る選択肢はありえない。あの時の無念を晴らし、同じような被害者を出さないためにも、誰かが戦うべきなのだ。その義務感を背負った凛菜は、例え誰に抱かれようとも戦う決意を固めていた。
 自分は普通の女ではない。平凡な日常には属すことなく、戦いの世界に身を置く以上、ごくありふれた恋愛なんかに憧れることは出来ない。そういう家に生まれ、そう教えられて育った影響もあり、運命は運命として受け入れていた。
 だが、その上で絶句した。
 それは男の紹介の際。
 初めて顔合わせを行うため、畳部屋の中で相手が現われるのを待っていた時である。時間が訪れ、やがて襖を開くと同時に少年が顔を出し、自己紹介をしながら歩んでくる姿を見て、凛菜は言葉を出せなくなった。

「やあ? 初めまして。僕は新谷織田彦だよ」

 あまりにも恐ろしいルックスの悪さに全身が総毛立ち、こんな男に抱かれるのかと正直寒気が走ったのだ。
 もちろん、顔なんかを期待したわけではない。
 ごく人並みの人格があって、ごく人並みの身なりさえしていれば、誰が来ようと構わないと考えていた凛菜だが、その凛菜が青ざめるほどの醜悪な容姿を織田彦がしていたのだ。
 まず、目つきがいやらしい。
 まるで視線で嘗め回してくるような、胸だの尻だの、そういう場所ばかりを見ていそうな卑猥な瞳には、色欲ばかりが宿っていそうで、その目つきだけでも十分にゾッとする。
 その上、顔のパーツが悪い。
 まず鼻が潰れていて、ブタに似て穴が前を向いているのだ。頬にはふっくらと肉がつき、両側に垂れているのはブルドッグを彷彿させるし、腹も出ていて体格が悪い。おまけに全身が脂っこくて、夏でもないのに皮膚に汗っぽい何か粘液のようなものが出ていて、触れとネバネバしているように思えて、心底最悪だと思った。
 醜悪すぎる顔、体格。
 いや、見た目で判断してはいけない。
 どんな外見をしていようと、人並み程度の人格であれば、別にそれでいい。
「は、初めまして。私は如月凛菜」
「凛菜ちゃんか。可愛いねぇ?」
 鼓膜にネバついてくるような、ねっとりとした声で、初対面からいきなり下の名前でちゃん付けをされ、全身に寒気が走った。
 しかも織田彦は、テーブルを挟んだ向こうに座布団が置いてあるにも関わらず、わざわざ凛菜の隣へ回って座り込む。早速女に触れ、味わってみたいかのような、既に待ちきれないかのような興奮の息遣いで、ギラギラとした視線でねっとりと凛菜を見る。視線は明らかに胸や太ももへ集中していた。
 決まりだ。織田彦は気持ち悪い。
 男としてはハズレの相手だ。
 だが、女を回復させてやれる男というのも、基本的に限られている。嫌だから拒否するとはいかない世界なので、生半可な言い訳ではパートナーを拒めない。如月家や他の家系でも、そのように決まっている。
「私の回復役になるって、聞いているわ。アンタなんだね」
「うん。そうだよ?」
「まずはそうね。心意気でも聞こうかしら。私のパートナーになるからには、アンタも決して戦いと無関係ってわけじゃない。覚悟はあるわけ?」
「もちろん」
「どんな覚悟があるのか。聞かせてくれる?」
「それはセックスだよ」
「――っ!」
 凛菜は一瞬にして顔を引き攣らせた。
「ずーっと稽古を頑張ったんだ。可愛い女の子を抱けるんだから、やる気が出るのも当然のことだよね? いつか、いっぱいセックスするのを夢見て、それはもう死に物狂いで頑張ってきたってわけ」
「ふざけないで!」
「へ? どうして?」
 織田彦はきょとんとする。
「あのねぇ? こっちは命懸けなのよ? もし戦いに負けて、妖力がゼロになるまで吸われてしまえば私は死ぬ。アンタだって、妖力の高い男は見つかり次第命を狙われる。それをふざけた理由で――。信じられない!」
 凛菜は激高していた。
 こちらは親友を殺され、その無念を胸に抱いて今日までやってきた。あの時何も出来なかった自分が許せなかったし、同じ被害者を増やしたくない。れっきとした思いを抱いた凛菜の前に現われるのが、よりにもよってセックスがしたいだけの理由の男だ。しかも、恥を知らずにいけしゃあしゃあとそれを自慢げに口にしたのだ。
 本人はそれを怒られたことできょとんとしている。自分が何を悪い事を言ったのか。自覚できていない顔だった。
 頭がおかしい。顔で判断してはと思ったが、織田彦の顔には人間性がそのまま現れているに違いない。
「僕ってこんな顔でしょ? 他にモテる方法なんてないし、いつ命を狙われるかはわからなくても、確実に誰かとセックスできる世界にいた方がいいと思ったんだ」
「馬っ鹿みたい! アンタ馬鹿でしょ!」
「うーん。情熱的って言って欲しいな。男はセックスのために命懸けになれるんだよ?」
「ああもう、完全にふざけているわね。アンタ。自覚が足りないっていうか……」
 覚悟と使命感を抱く凛菜に対して、完全にどうかしている織田彦。
「けど、掟はわかっているよねぇ?」
 じゅるり、と。
 欲望にまみれたケダモノの舌なめずりで、汚らしいヨダレの音を立てながら、既に興奮している荒い息遣いで迫ってくる。熱くて臭い息がかかるほど、顔を近づけられ、正座の太ももへ手の平を置いてくる。
「お、掟ね。わかっているけど……」
「だったら、受け入れないと駄目だよ?」
 ふぅーっと、粘り気を帯びたような息が、耳の穴に吹きかけられ、凛菜はゾッと身震いした。
 掟において、男の欲望を拒んではならない。
 回復の儀を執り行うには、男女が同じ場に揃った状態で精力を発散するわけだが、男側が満足しなければ、儀式が不発に終わる可能性がある。たとえ男にとって満足のいく性交でも、両思いの愛情に満ちたセックスであっても、確率のランダム性という理由で、数百年の歴史においても回復失敗の記録は多かった。
 そこで、成功率を高めるための措置が研究され、決められたパートナーと契約を結ぶ術法が生み出された。
 契約という見えない繋がりを男女のあいだに作り出すことで、不発に終わる可能性は限りなくゼロに近づく。
 ただし、男の欲望発散が儀式行為の手順なので、基本的に相手の趣向を満たさなければ回復の儀は成立しない。フェラチオといわれれば咥えなくてはならないし、体位に関する欲があるなら、それも満たしてやらなくてはいけなくなる。
 回復の術者は男であり、満足したり、欲望が発散できて楽しい『感情』を術法の手順のうちに含んでいるため、それを阻害すると簡単に不発になる。決して阻害せず、契約まで結ぶことにより、初めて絶対的確率で回復に成功するのだ。
 女は相手を受け入れるべしというのは、そのため掟の一部とされている。
 拒むことが許されるのは、刃物で生体を傷つけるような加虐的な趣味であったり、排泄物を飲食させる人体に有毒な行為など、目に見えて過激な趣味趣向の場合に限られる。
 そして、女の怪我や病気に関わる性癖の持ち主など普通はいない。あるとしても、コスプレだとか体位だとか。風呂場でしたい、外でしたいなど。肉体的な怪我や健康被害の危険がない限り、大半のプレイ方法が許されている。
 男を拒める掟など、事実上無いのと同じだ。
「稽古は厳しかったよ。妖力を高めるために滝に打たれて、穴に落とされて、色々と過酷な目に遭ってきたけど、それでも僕は頑張れたんだ」
「……へ、へえ?」
 織田彦は肩へ手を回し、スカート越しの太ももを撫でている。明らかなセクハラに凛菜は顔を引き攣らせ、冷や汗ばかりを流した表情を浮かべていた。
「ずっと前から、君の写真を見せてもらっていたからね」
「――っ!」
「こんなに可愛い子とセックスできるって運命が決まっていたから、僕はそのためだけに修行をしたんだ」
 織田彦の手が、セーラー服の腹へと移動する。服の内側へ潜り込み、ヘソ回りの肌を直に手で確かめ始め、脂っこい、気持ち悪い手の平の感触に全身が総毛立つ。
「アンタ最低ね。私としては掟は守るけど、もっとマシな自覚は持てないわけ?」
「まあまあ。セックスへの欲望だって、命を賭ける理由になるよ? 人間の三大欲求。とても気持ちいいことだから、たとえ淫魔妖怪に狙われるかもしれなくても、リスクがあっても構わない覚悟はあるよ?」
 腹の肉を撫でていた手が、セーラー服の内側で上へとスライド。ブラジャー越しの乳房を揉み始め、初めてそんな目に遭った凛菜は、さすがのさすがに耐えかねてしまった。
「やめろ!」
 突き飛ばした。
「ぐへぇ!」
 片手一本で押しのけられた織田彦は、情けなく畳に倒れる。
「今は回復の儀の最中でも何でもない! アンタみたいのがパートナーなのはこの際仕方ないにしても、私に触れることになるからには、その最低な根性を叩き直して貰わないと困るわ」
「だ、だって……」
 まるで小さい事もが言い訳を始めるような、幼稚で情けのない口調の声を出す。
「だって何?」
「だって、討魔剣士は性処理道具だって習ったよ?」
「――なっ!」
「満足いく『感情』が回復の儀の手順の一部だから、性奴隷とかペットとか、そんな風に考えるのがコツだって教えられたよ?」
 なるほど、術の行使にあたっては、それはコツなのだろう。
 しかし、そんな風に思われて、それを堂々と公言までされ、実際にセクハラまでしてくる相手をだ。はい、そうですかと、快く認めて受け入れるほど、凛菜の心は広くない。
 掟だから、仕方は無いが……。
 もしも掟が存在せず、そんな回復方法が必要なければ、こんな男には絶対に触れもしないし、視界にだって入れたくない。最低の人種に間違いなかった。
「契約を結ぼうよ。凛菜ちゃーん」
 織田彦は笑いながら、よだれを垂らした欲望まみれの卑猥な顔で立ち上がる。
 十五歳の誕生日、討魔剣士は契約を結ばなくてはならない掟である。
 受け入れるしかなかった。

     ***

 真夜中。
 畳を敷き詰めた障子の部屋の中央には、契約の儀を執り行うための、魔法陣によく似た円形状の図形が描き込まれていた。もちろん、日本製の術式なので、西洋のものと違って、図形の内側に並んだ文字は全て漢字か東洋の記号である。
 円周のラインに沿ってロウソクが並べられ、小さな火の数々だけが灯りとなって、暗闇をぼんやり明るく照らしていた。
「さあ、始めようか」
「……ええ」
 魔法陣のさらに中央に置かれた布団の上で、お互いに膝を向き合わせ、これから行う情事に対して、織田彦とと凛菜はそれぞれの感情を抱いていた。
 二人の衣装は白く薄い着物である。
 契約の儀に合わせ、事前に身体を清めてあるため、この内側には何一つ着ていない。儀式の手順として、下着類は着用しないため、お互いに布一枚だけを纏っている。
 まず、織田彦が言葉を放つ。
「これより、我に結ばれる者として、その素肌を晒されよ」
 儀式上の言葉。
 それに従い、凛菜は着物の紐を解き、布団の上に脱ぎ落とす。男の性感情を満たすための存在になるために、これからの関係を明らかにするために、女は自らの手で裸体を見せてやらなくてはならないのだ。
 凛菜の肉体は鍛え込まれている。
 そのため、腰は引き締まり、脚のラインもすらっとしている。丸く育った乳房は垂れることを知らずに前へ突っ張り、その下にあるヘソ周りには、薄っすらと腹筋の肉が見える。下腹部の恥毛は手入れがされ、逆三角形の形に綺麗に短く切り揃えてあった。
 凛菜はそれら全てを見せるため、直立不動のまま手は横に下ろしていた。

 恥ずかしい……。

 当然、恋を知らずに生きてきたため、男に肌を見せるのは初めてだ。覚悟はあるにせよ、羞恥心の強い年頃なので、裸になれば顔も赤く染まっていく。恋愛にまつわる願望はほぼ捨てている凛菜だが、恥じらいという意味では、やはり立派な乙女であった。
 癪だった。嫌だった。
 最低としか思えない人種の男が、醜い顔で満足そうな表情を浮かべている。胸やアソコを舐めるように見て回し、ニヤけているのが、本当に気に喰わない。
「我に従う者として、その秘密を明かされよ」
 赤面しきっていた凛菜の表情が、さらに歪んだ。
 次の手順では乙女の秘密を口にして、その情報を相手に与えなくてはならないのだ。
 相手の顔を見ないため、筋力の許す限り、強くまぶたを閉ざしながら、凛菜は震えた声で言葉を放つ。
「……あ、明かします。この胸の膨らむのは十の頃、冬の時。この毛が生えしは十一の頃、春の時。女の血を流したのもまた、十一の頃、春の時」
 乳房の時期、陰毛の時期。初潮の時期さえ口にした。
 こんな情報を口にするのは、例えるなら、秘密にしていた日記を読まれるのが可愛いほどに恐ろしく気まずい。とても顔など合わせられず、視線をどこかへ逸らしたり、唇を丸め込んだり、恥ずかしくて気まずい気持ちが、表情にありありと浮かんでいた。
「従う心を、その身によって示されよ」
 次は肛門を見せなくてはならない。
 身を捧げゆく象徴として、ただ裸になるだけでなく、さらに恥ずかしい部位を相手の視線に晒さなくてはならないのだ。
 背中を向けると、織田彦の視線が尻に集中するのがよくわかった。
 戦いの修行を重ねた凛菜にとって、相手の視線を察することは容易い。例え視界を隠していても、気配によって背後のものを感じ取れる領域に達しているため、織田彦がいかに凛菜のお尻をよく見ているのか、必要以上によくわかった。
 凛菜の尻はプリっと膨らんでいる。ハート型のように丸々と肉を盛り上げ、艶やかな肌質の表面にロウソクの火を反射した光沢を敷いている。淡いオレンジの光が影を作る分、割れ目の溝がより深く見えていた。

 これから、お尻の穴を……。

 凛菜は悲しく俯く。
 下手をすればアソコよりも恥ずかしい、汚い排泄のための穴なんかを、織田彦の視線へ晒さなくてはいけないのだ。
 だが、自分で決めた道でもある。
 淫魔妖怪は許さない。容赦無く斬り捨てる。
 凛菜はそのために、自らの尻たぶを両手に掴み、影に隠されていた割れ目の中身を広げて織田彦へと見せつけた。
 汚れ一つ無い、綺麗な桃色の雛菊皺。
 織田彦の視線はそこに集中的に突き刺さり、凛菜は顔から湯気が出るほどの熱い赤面に見舞われ、傍から見れば何ともいえない構図が完成していた。直立した少女が指を尻たぶに沈めて割れ目を開き、正座で姿勢を正した少年が、じーっと穴を眺めている。

 くっ、こんな奴に……!
 これって、何秒やるのよ!
 屈辱すぎる……。

 人の視線をほぼ皮膚触覚で感知できる凛菜にとって、一点に視線が集中するということは、存在しない透明な指をピタリと置かれているようなものだ。両側へと皺の伸びた肛門を、まさにツンツンつつかれて、もみこまれているような気持ちが、凛菜の心を締め上げていた。
 熱にうなされてもおかしくないほど、凛菜の赤面した顔の温度は上昇していた。
 目元は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうになっていた。
 どんなに戦う覚悟があっても、この儀式に対して腹を括った気持ちがあっても、体を見られて恥ずかしいことだけに関しては、立派な十五歳の少女に過ぎない。
 むしろ、そのせいで男子の目線を意識したオシャレを試したり、スカート丈を短くしてみる挑戦をしてみた経験が皆無なのだ。日常を捨てる決意をした分、修行の成果で戦う力を身につけたという自信もつき、自分は戦士なのだという自覚を持っている。人知れず平和を守る存在としてのプライド意識さえ芽生えていた。
 それだけに、恋に恋する平凡な少女の方が、よっぽど男の視線を浴び慣れているといってもいい。
 プライド意識がある分、こんな格好悪い真似をしている情けなさにも泣けてくる。

 ま、まだなの? いつまで見てる気よ!
 こっちは死にそうなのに……。

 織田彦は正座の姿勢のまま足を歩ませ、もっと肛門をよく見ようと接近する。前のめりになってまで覗き込むのが、凛菜にはよくわかった。
 まるで一点に直線レーザーが照射されていて、顔が近づいてきたせいで、その出力が強まったように感じた。

 絶対に一分以上経ってる!
 もういいでしょ?
 早く、早く! 早く終わりにしなさいよ!

「ふぅー……」
「――!」
 息を吹きかけられ、あまりにもギョッとした凛菜は、仰け反るかのように顔を天井の真上へ向け、そのまま強くまぶたを閉ざした。顔の筋力のある限り、限界まで頬肉が強張り、唇は強く結ばれ、クシャクシャと形容してもいいほど、凛菜の表情は歪み切った。
 目が皺の本数を数えることさえ、皮膚の感覚で察知できる。上から時計回りに一本ずつ、放射状のラインをなぞって、織田彦は肛門の皺を数えている。

 人を恥ずかしさで殺す気なの? コイツは!
 いい加減にしてよ! いい加減に……。

 あまりのことに涙が出て、まぶたの閉じた左右の目から、それぞれ一滴ずつだけ、頬を伝って流れていった。

     ***

 実際、何分間肛門を視姦されたのかはわからない。数分以上だったのは間違いないし、いっそ一時間近くにさえ感じられたが、そんな長い長い時間を経ることで、凛菜はやっとのことで視姦から解放された。
 恥ずかしかった余韻が抜けない。染まりきった顔の赤みはすぐには引かず、耳もせいぜい色が薄まっているに過ぎない。織田彦を睨み付けなければ気が済まない、本当は殴りつけさえしたいような、惨めな屈辱を味わった表情を凛菜はしている。
 儀式は次の手順へ移る。
 それは同時に本番が近づくということでもあった。
 もう、かなり近い。
 凛菜の処女は織田彦のものとなる。
「よいしょ」
 織田彦が立ち上がる。
 次に凛菜が行う作業は、織田彦の着物を脱がせてあげるという作業である。契約の儀式は女が男の性癖に従う義務を明らかにする意味合いを兼ねているので、相手を脱がせることさえ、凛菜の方からしてあげるのだ。
 腰のあたりの紐を解き、裾を下へとひっぱると、白い着物は脱げ落ちる。
 これでお互いに全裸になった。
 そして、さらに次へ移っていく。
「この唇を捧げます」
 凛菜は自ら、織田彦の胸へ縋りつくようにして、瞳を閉じた顔を向けることで、言葉通りに唇を捧げるポーズを取る。
 織田彦の汗っぽい肌は、密着するとその粘り気が自分の肌に粘着してくるかのようで、ぞっとするほど気持ち悪い。そんな嫌な男の腕が、背中へと回され、抱き締められ、自分の体がこんな男のものになっていくのが悲しく思えた。
 唇が重ねられ、全身が総毛立つ。本来なら反射的に身が引っ込み、思わず相手を突き飛ばしかねないほどの悪寒に満ちていたが、こうなることが初めから決まっていたおかげで、凛菜は強い気持ちで耐え忍んでいる。
 ぼってりとした厚い唇の感触が、ぐいぐいと凛菜の唇に押し付けられ、ネバっこいかのような鼻息がフウフウと吹きかかる。
「――んっ!」
 織田彦の唇の狭間から、舌がぬぅっと伸びてきて、それが凛菜の唇に触れたことで、凛菜は反射的に身を震わせた。やはり、思わず自動的に頭を引っ込めかねないほど、それは気持ち悪い感触に思えたが、凛菜は辛抱強く耐えていた。
「ちゅぶぅっ、れるぅ――」
 舌が絡み合い、貪るように口内を蹂躙される。蠢くように凛菜の口内を冒険し、歯の裏側や頬の内肉をまさぐっていく。唾液が流し込まれ、舌にその味が広がり、自分の口腔が腐食に犯されていくような、おぞましい心地を覚えていた。
 やがて口を離すと、唾液の糸が引いていた。
「この胸を捧げます」
 凛菜は儀式の言葉を呟く。
 織田彦は乳房を掴み、両手で丹念に揉み始めた。撫でるように触感を確かめつつ、指に強弱をつけて揉み、指で乳輪に触れて乳首を摘む。
「この尻を捧げます」
 織田彦は再び抱きつき、背中に巻きつけた腕を下へやる。尻たぶを包み、撫で回し、存分に触り心地を確認してから揉み始める。
 次でいよいよだ。

「私の処女を捧げます」

 そんな声を絞り出した。
 そして、凛菜は布団に体を寝かせ、両足の膝を立てる。開脚することで股の手前に織田彦を招き入れ、本番直前の緊張した気持ちに心臓が大きく弾む。
 この男が、凛菜の処女を破るのだ。
 超え太ったせいで皮膚はたるんで、顔の造形も醜悪に崩れている。ブルドッグのように頬肉が垂れ、ブタのように鼻が上向きになった容姿は、本当に気持ち悪いとしか形容できない。顔だけではなく、人間としての中身も同じようにゾッとする。欲望に満ちた下半身だけでものを考える奴なのだ。
「えへっ、えひひひひっ、イヒヒヒヒ」
 息を荒げた織田彦は、犬がエサにありつくかのように、勢いよく秘所に顔を接近させ、閉じ合わさった性器の観察する。まじまじと眺め、指でクパっと中身を開き、薄ピンクにところどころ血管の赤みをまぶした肉壁が晒される。

 み、見てる! そんなところ……!

 処女を散らすまでへの最後の手順として、凛菜が本当に処女であるかを、こうして織田彦は確認しているのだ。
 人としての尊厳が壊されていく。プライドに罅を入れられ、何かを失ったような喪失感にさえ見舞われた。

 死にたくなる……。
 こんな、こんな!
 覚悟はしてたけど、こんなに……!

 トン、と。織田彦の指先が、凛菜の下腹部の陰毛あたりを軽く叩いた。
 妖術だ。
 男の少ない妖力でも習得かのうな、女の感度を引き上げて、瞬く間に愛液を分泌させる淫らな術――。
 挿入の準備のため、織田彦は術を使って、凛菜のアソコを汁の滲んだ状態へ変えたのだ。
 そして、いよいよだ。

 さ、されちゃう……。
 このまま、よりによってこんなのに私の初めてが……。

 亀頭の先端が割れ目に触れて、ぴたりと潰れる。生まれて初めて股間同士が触れ合う緊張に全身が強張って、凛菜は自分の気持ちをほぐそうと、全身の力を抜いていく。
 納得のいかない気持ちはある。
 戦いに一定の意識を持つ凛菜に対し、性欲を動機にしている織田彦だ。顔に目を瞑っても、運命に覚悟を決めても、それだけが納得いかない。
 納得ができないまま、割れ目に亀頭が触れるところまで来てしまった。
 もう、このまま入ってくるのだ。

 は、はじまる……。

 亀頭が膣口を圧迫しながら入り口を拡張する。ただ受け入れるしかない肉棒が、腰の進行によって押し出され、亀頭をだんだん埋め込んでいく。未経験だった小さな穴は、それに合わせて広がって、裂傷のように一部を裂く。
 これが、初めての痛みだった。
 痛みには個人差があるし、戦闘訓練を積んだ凛菜にとって、怪我そのものは怖くない。初めてセックスをすることに関して、痛みという理由で恐れはない。ただ乙女にとって大切なものが、本来ならおいそれと渡すことのない、目には見えない財産が、織田彦なんかの手に渡ろうとしているのだ。
 そういう緊張と、そういう恐れ。
 このまま自分は織田彦のものになるのだという、その事実が決定付けられてしまうことに対する恐れが、緊張感で凛菜の体を硬くして、顔もどこか強張っていた。

 ――あ! ああ……。
 は、入って……!

 腰の進行がさらに進んで、亀頭は全て膣へと埋まる。
 さらに竿までゆっくりと、スローモーションのように入り始めて、自分の処女がこうして散らされていることを、凛菜はありありと実感していた。こんなにもゆっくり、丁寧に挿入しているのは、織田彦が初めての挿入を味わおうとしているからだ。
 ゆっくりと入れることで、一度しか出来ない処女への挿入を、できるだけ長く味わおうとしているのだ。

 なんで、こんな人だったんだろう。
 男ってこいうもの?
 他にマシな人、いたはずだよね……。

 織田彦はじゅるりと舌なめずりをして、凛菜の処女を奪った事実に満足そうな表情を浮かべている。戦利品でも勝ち取ったような誇らしげな顔で、荒い鼻息をあげている。肉竿の半分以上が埋まり、根元まであと少しだ。
 凛菜ちゃんの処女を奪ったのはこの僕だ。
 僕が凛菜ちゃんの初めての相手だ。
 と、そう言いたげな表情がよくわかって、自分の膣に入っているのが、そういう男の肉棒だという事実をますます実感させられる。

 全部、入った……。

 先端から根元にかけて、全てが埋まり、凛菜の膣壁の狭間で蠢いている。
 ゆさゆさとしたピストン運動が開始され、凛菜は物言わぬまま揺らされる。勝ち誇った顔で自分を犯す織田彦の顔を、凛菜はただ見ていた。
 ボディランゲージというように、相手の動きや顔つきを見ていれば、どんな気持ちで腰を振っているのかよくわかる。セックスありきを名言していた織田彦は、こうして女を自由にできる立場を使って、相手を欲しいままにしているのだ。
 欲望のまま、相手を玩具にしたがっている。
 全裸を鑑賞され、肛門を視姦され、アソコを見られ、そして挿入されている。
 その一つ一つが、これから性処理道具としてデビューするための入門手続きに思えて、この儀式も織田彦も、何もかもが恨めしく思えてきた。
 これが、凛菜の初めてのセックスだった。



 
 
 

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