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 とある高校の身体測定は、女子にとってはかなり恥ずかしいものだった。

 だいたいの検査が男女同室で行われる上、衣服の着脱が多いのだ。しかも中には恥ずかしい部分をじっくり診察する内容も盛り込まれているので、女の子はみんな憂鬱になる。
 医者におっぱいを見せなければならない内科検診、背骨の歪みを検査するためお尻の骨まで出さなければいけないモアレ検査など、できれば受けずに済ませたいような内容のものが目白押しだ。
 それらの検査が、全て男女同室で行われる。
 まずは体操着に着替えるのだが、検査をスムーズにするためブラジャーは外しておくように指示が出る。ノーブラとなるので服の上からおっぱいの揺れがわかる上、乳首が透けることもあるから、この時点で女子達は恥ずかしがる。
 学校指定のブルマもピチピチで、ぴったりと素肌に張り付いてしまう。なので尻肉と女性器の割れ目はくっきりと浮き出て、男の視線を集中的に寄せ集める。同時に太ももが丸出しになるのはもちろん、パンツの布がはみ出ることもあるので、一層羞恥心がかき立てられる。
 そんな格好で、女子は廊下に整列させられていた。
 既に検査場所への移動時待ちとなっているので、男子は並んだ横から視線を刺してくる。女子はそれを恥ずかしがって、皆一様にもじもじしていた。
 お尻はなどは手の平では隠しきれない。浮き出た股間もそうだが、股に手を当てる格好は、まるでおしっこを我慢しているかのように見えてしまうので、絵的に情けない。それでは恥ずかしさは倍増する。
 腕は二本ではどこかを隠せば変わりにどこかが曝け出される。胸、股間、お尻、三つのポイントを同時に隠し切るなど不可能だ。
 なのでだいたいの女子達は、「お尻はブルマ越しだし……」と諦めて、みんな胸元を腕で押さえて乳揺れを見せないことを選んでいた。それでも一部は一方の手で股間を覆い隠し、形の浮き出た性器を見せまいとしていたが、お尻を隠そうという考えの子は一人もいなかった。
 どこかの部位は諦める必要があるのだから、皆お尻を諦めるのだろう。
 胸と股間こそが、優先的に隠されていた。
 しかし、金髪巨乳である藤宮安奈は、押さえても腕から潰れた乳房の肉がはみ出てしまう。布のシワから浮き出た谷間も、両腕のあいだから見えている。そこに男子は注目し、たっぷりとにやついていた。
「もう! ジロジロ見ないでくんない?」
 怒鳴りつけると、さすがに男子達もあからさまには見なくなるが、それでもチラチラとさりげなく視線を向けようとする。
 見よう見ようとする男は減っていなかった。
 それは教師にしても例外ではなく、整列の指示で先頭に立ちながら、やはり女子の脚や胸ばかりを凝視していた。
 ――ほんっと、男ってこんなんばっか。身体測定は日程まるごと男女別にして欲しいわ!
 安奈は男の本能に憤慨しきっていた。
 逆に、黒髪ショートを整えた小柄な少女、不二野美冬は胸が小さい。にもかかわらず、美冬にもまた男子の目は降り注いでいた。
「…………みんな、何故私を見る​?」
 安奈と違って貧乳なのに、どうしてみんな自分を見たがるのかと美冬は不思議がる。
 それは幼げな顔つきからなるロリティックな容貌が、その手の男子にウケていたからでもあるが、全員がロリコンなわけもない。
 趣味趣向はそれぞれ違う。そして、男子と同じ数だけクラスに女子は在籍している。なのに何故、視線が他の子に分散することもなく、自分などが人より注目されているのか。
 その答えは乳首にあった。
 乳首が固く尖り、その形が体操着の白い布越しに浮き出ていたのだ。生地が若干ながら薄いので、素肌よりも色の濃い乳首は透けやすくもあり、目を凝らせば透け乳首を拝むことができる。男子はそこに目ざとく狙いをつけ、視姦していた。
 美冬は平然とした表情をして、腕をぶらんと下ろしている。小さいから歩いても乳揺れが起こる心配がないため、隠す必要はないと思っている。何より、自分よりも周りの子の方が可愛いと思い込んでいるので、だから自分に目が向けられることを余計に疑問に感じている。一応、股間を見られないよう脚をもじもじさせているが、それだけだ。
 しかし、ノーブラでかつピチピチのブルマで男子のいる前に立つという、胸に関する羞恥心は確かにある。無表情なためにわかりにくいが、美冬も立派に恥じらっているのだ。恥ずかしさという感情は少なからず性感帯を刺激するので、そのために乳首は浮き出ていた。
 当の本人はそれに気づいていないので、ただただ不思議そうに首を傾げている。
「美冬、お前も一応隠せ」
 そんな彼女に注意をかけたのは、ポニーテールを結んだ須藤麗華だった。
 麗華は滑らかなボディのラインをしており、胸もお尻も小さすぎず大き過ぎない絶妙な大きさに膨らんでいる。きゅっと締まった腰つきから、眩しい太ももへと流れる曲線は芸術的ですらあった。
 麗華もまた、もちろん恥ずかしさで頬を赤く染めている。だが、それでも毅然と振舞って、胸元で腕を組んで堂々としていた。
 人に恥らう素振りを見せるなど、悔しくて出来ないのだ。
 だから麗華は強気に振る舞い、こんなのは何ともないと自分に言い聞かせている。確かにこんなブルマを履き、ノーブラとなった時点で男の欲情を煽るのは当然だが、恥じらいを見せればさらに増徴するに決まっている。
 できる限り強気を見せ、しかし隠せるものは隠すべきだと麗華は思う。
「私も隠すの? 見るほどの大きさではないのに…………」
「そうだ、一応な」
 やはり美冬は首を傾げた。
 何故、貧乳でしかない自分が、と。本人はそう思っているのだ。
 しかし、やがて美冬は自分の胸元を確認し、今まで乳首が出ていたことにようやく気づき、顔を耳まで赤く染め上げる。
「まっ、まさかこんな……! 麗華、忠告感謝する!」
 美冬は大慌てで胸を覆い隠すのだった。
「ふん、礼などいるか」
 同性として当然の注意をしただけで、感謝されるほどのことではない。なので麗華はそう吐き捨てた。
「こら! そこ! お喋りしない! もう移動の時間なんですよ?」
 不意に大声をあげたのは、先頭に立っていた学級委員の有明文香だ。
 文香は三つ編眼鏡という文学少女の典型のような装いをしているが、真面目なために曲がったことは許さない部分がある。時間ぎりぎりになってもお喋りがやまないのを見て、注意せずにはいられなくなったのだ。
 学級委員長になったのも、視力の矯正にコンタクトでなく眼鏡を選んでいるのも、全て真面目でありたい気持ちの表れである。
 真っ当な優等生でいたい。
 そう願う文香だからこそ、恥らうばかりでなく、きちんと男子への注意をかけていた。
「いい? 男子は絶対に女子の体には注目しないこと!」
 文香は続けて男子達にもぴしっと言いつける。
 ノーブラにピチピチのブルマだけでもはしたないのに、全ての検査は男女同室なのだ。この高校の身体測定において、女の子の羞恥心には配慮がなされないため、男側のモラルでなんとか気を使ってもらうしかない。
 気を使わせるためには、こうして強く言っておくことが重要だと文香は考えていた。
 もちろん、見ては悪いという考えの男もいないわけではないが……。
 人間、結局は三大欲求にも数えられる性欲に負けるので、視線の一つも動かさない者など学校内には一人もいない。完全に抑えれいられる男がいないのだ。
 だからこそ、いやらしい視線がないか見張っていなければいけない。
 文香はぎらぎらと目を光らせた。
 その眼光の鋭さに、いやらしい男は何度でも注意しやろう、という意気込みが表れている。
「さすがは委員長、頼もしいな」
 麗華は腕組みをしながら、文香の姿勢に敬意を抱く。
「普段は鬱陶しいけど、こういう時くらいはまあ助かるわね」
 安奈は文香の優等生ぶった態度を好んではいなかったが、今回ばかりは対男の視線用くらいには役に立つ。
 ただ、嫌いな相手を素直に認めるなどできることでないので、頬をむっくり膨らませて不機嫌そうにしていた。
「それじゃあ、行くわよ」
 文香が掛け声を出し、教師を先頭に男女別の列が歩き出す。
 そうして、最初の検査場所への移動が始まった。




 
 
 

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