前編 過ちの代償
エレベーターのドアが閉まった。
一時的な密室に閉じ込められ、地下深くへ突き進む下降の感覚が体にかかったところで隣の男はほくそ笑む。
「いやぁ、まさか本当に来てもらえるとは」
「そう仕向けたのはどこの誰だ」
険しい顔で横目を向け、不機嫌そうに彼を睨む美麗な女は、イヴリン・シェヴァリエという名のマネージャーだ。歌手のアストラ・ヤオの警護を兼ね、彼女と共に密かな独立計画を立てている。
その正体は企業スパイ。
とある組織に所属して、フーガという会社の依頼に応じる形で帝高に入り込み、元々はスパイとしてアストラに接近した。だが彼女の輝きに照らされて、組織を裏切っても彼女の味方でいようと決めたイヴリンは、紆余曲折の末にアストラに正体を知られる事になる。だがそれによって二人の間に亀裂が走る事はなく、今も変わらず傍らに立ち続けている。
現在は大金を貯め、帝高への違約金を支払い独立する事を計画中だ。
その考えに至った背景として、ヨラン・デウィンターの存在に触れないわけにはいかない。彼は一世を風靡した歌手だったが、帝高とフーガ、二つの会社がそれぞれヨランの公演権を主張し、彼自身は自由にコンサートを開けないという束縛を受け、やがて無念の中で命を断った。
そして今、アストラは帝高に身を置いている。
彼女もまた、企業によって飾られている。
自分の歌声はあくまでも自分のもの、思うままに歌い続けるためにも独立を考え、契約を断ち切るために多額の資金を必要としている。
かの一件以来、注目を浴びるアストラだ。
一般市民ならば、人生を何度繰り返しても稼げない金額も、今のアストラならば稼げてしまう。独立の実現も夢ではないが、しかし問題は起こった。
起こしてしまった、というべきか。
イヴリンは迂闊にも何の罪もない職員に危害を加え、しかもそれを記者に撮られてしまった。
バーチャルリアリティを使った企画があったのだ。
技術プロモーションのための依頼で、バーチャル空間から歌声を披露する。
そのログインポッドによって異空間を体験する技術は、どうのような感覚なのか。安全点検も兼ねて、まず先にイヴリンがバーチャル世界を歩いてみて、その後アストラをログインさせた。
身辺警護の都合上、無防備となる現実の肉体を放置はできない。共にバーチャル空間を見て回ってみたいとアストラは言っていたが、周囲への警戒で迂闊に隙は見せられない。
前日のテストでは何も問題がなかった。
ログイン最中、ログイン後、どちらも特におかしな点はなく、体調の変化も見受けられない。
ところが本番当日だ。
その日も先にイヴリンがログインして、入れ替わりでアストラがバーチャル空間に立つ予定であった。点検を済ませてログアウトしたイヴリンなのだが、ポッドを出てみれば既にアストラがログインを済ませていた。
イヴリンがポッドから出るまで待って欲しいと、事前に注意していたのに、きっと人を驚かせようとでもしたのだろう。そのタイミングすら合わず完全なすれ違いとは、まったく困ったお嬢様だと呆れていた。
その時、そこへ忍び寄る影に気づいた。
何か物音がすると思ってアストラのポッドへ近づけば、そこには一人の不審な男がいた。
不審者への対応は仕事のうちだ。
声をかけるなり暴れる素振りを見せられては、取り押さえないわけにはいかない。
しかし、この時のイヴリンは酔っていた。
当日に限って、何故かログアウト直後にバーチャル酔いがあり、正常な判断力や注意力を欠いていた。頭をくらくらさせていたイヴリンは、職員による機材のチェックを不審者の接近と勘違いしてしまった。ログイン中の無防備な肉体に何をするつもりかと危機感を煽られ、さらにちょっとした動きが暴力の素振りに見えてしまい、イヴリンは次の瞬間に職員を倒していた。
後になって考えれば、それがいかに用意周到な罠であったかが見えてくる。まずログイン前後で体調に変化がないかのチェックは前日にしていたのに、当日になった途端に、ログアウト直後の頭が異常にくらくらした。
この時点でおかしいと思わなくてはいけなかった。
本番当日に限って異変が起こり、その矢先に不審者の気配など出来過ぎている。だがくらくらと酔った頭では慎重な判断が出来ず、イヴリンは先走ってしまったわけだ。
職員も企業の制服を着ていなかった。
マスクにサングラスなどという、むしろ不審者アピールのような装いだったのも、イヴリンの焦りに拍車をかけた。関係者以外は出入り禁止となって、封鎖されているはずのログインルームに、見るからに怪しい人物がいるというのは強烈だった。
そして、何故だか記者まで入り込んでいた。
職員が偶然にも制服を着ておらず、偶然にも不審者アピールの装いをしており、さらにまた偶然にも記者がログインルームへの侵入を働いていた。
首謀者がいないかの調査をする理由としては十分すぎる。
だが調べるまでもなく、首謀者自らが姿を現し、イヴリンに対してこう告げた。
お前達にとって、不利な証拠を手に入れた。
ばら撒かれたくなければ言うことを聞け。
首謀者が脅しをかける対象は、どうやらアストラではなくイヴリンだった。
彼女を守る立場上、自分に矛先が向くのは都合がいい。
弱みにつけ込むというのなら、是非とも自分の方にしてもらおうと、イヴリンは某企業の社長から呼び出しを受け、共にエレベーターに乗って下層へと降りていた。
目的は体らしい。
身辺調査の暇を与えないため、早速イベント翌日に呼び出され、予約したホテルの部屋へ向かっているわけだが、限られた時間の中でも可能な限り周囲を調べ、社長の人となりや活動内容を頭の中に叩き込んだ。
イヴリンを撮った記者の写真は、一般人に一方的な暴力を振るって見える一瞬をものの見事に写したものだ。その写真にでっちあげの事件を書き添えれば、たちまち真実は『作られる』ことになる。
だがその記者の所属会社は、社長の傘下で顔色伺いの日々を送っている。社長にとって、その記者の属する編集部は、好きなように圧力をかけられる手札の一つだ。社長にとって都合のいい記事を書かせ、都合の悪いものは書かせないのが、その手札のもっともわかりやすい使い方か。
撮られた写真の扱いは、社長の胸三寸でどうとでもなる。
「ところで、私についてはどこまで理解できているかね?」
イヴリンの手腕は社長もご存じらしい。
そんな事を尋ねてきながら、隣から延ばした腕で背中に触れ、さらに尻を撫で始める。好き勝手に触られる不快感に、イヴリンは顔を顰めていた。
「真っ当ではない手段で、過去にも何人かの女性をつまみ食いしているようだな」
「おっと、それは経験豊富という意味かな?」
社長はさらにイヴリンの手首を掴み、自らの股間へと導いた。お尻には手の平が這う一方で、イヴリンの左手もまたスラックスのテント張りへと置かれ、撫で回すような手つきを暗に要求されていた。
こいつでこれから相手をしてやる。
とでも言いたいわけだ。
触らされる肉棒は、布の向こうで極限まで太くなり、今にも人の体を味わいたがった風に脈打っている。指で硬さを感じるほどに、社長の強い性欲が如実に伝わる。
「そこそこメジャーな雑誌を抱えているな? お嬢様に有利な記事を書くよう計らってもらいたいところだ」
そう口にするイヴリンの言葉には、言外のメッセージが多分に含まれている。雑誌の内容、主に歌手を扱う部分について、こちらにコントロールの権利を渡せ、もしも雑誌編集部が裏切ったら、それなりの制裁を下せるように調整させろ、というのが体を捧げる事と引き換えのイヴリンの要求だ。
いくらでもコピーの効くデータなど、見せかけばかりの削除をしてもらっても意味がない。
それよりも、流出にリスクを課す。
デマを流せば、でっち上げの事件を書いた雑誌が世間に吊し上げられるように、カウンターの準備を整える。社長にとって、いつでも切り捨てられる出版社の弱みなど、いくらイヴリンに流しても腹は痛まないはずだ。
雑誌編集部を介して脅し、その脅しを封殺する手札さえ、社長はイヴリンに与える準備をしている。抱かれ損など馬鹿馬鹿しいが、体を捧げる意味があるように、彼はわざわざ調整を行っている。
男とはとんだ生き物だ。
性欲のためだけに根回しを行い、陰謀めいた計画でイヴリンをホテルに招くまでに至っているのだ。
「部屋に着いたら、じっくりと話をしよう。とある記者が職員に金を握らせ、不審者のフリをさせ、護衛が暴力に走るようにい仕向ける計画、とか。そんなものの証拠が、もしかしたら出てくるかもしれないからね」
社長の手の平は這い回る。
ぴったりと肌に合わさるラバー素材の、黒光りするイヴリンの尻は、継ぎ目がお尻の割れ目に食い込んで、その形状を惜しみなく着衣に浮かべている。そんな生地の感触と共に、社長はお尻を味わっている。
そしてイヴリンの左手もまた、触れたくもない剛直をさすったり、くにくにと微妙な指圧をかけるなどしている最中だ。
「それにしても、下半身を制御できないのはトラブルの元だろう」
「そんな落ち着きのない私に抱かれることを、君はどのように思うのかね」
「たかが体だ。どうでもいい」
「割り切りのいい女性だ」
こんな男の相手か、と。
面白くない時間への不満などいくらでもあるが、抱かれておけば悪い芽を摘めるのだ。
手の平はお尻で這い回る。
指先が継ぎ目をなぞり、ぐにっと力を込められもして、体の一部を好き勝手にされる不快感を胸中に、イヴリンは冷たい眼差しでドアを見つめた。
エレベーターがようやく止まり、ドアが左右へ開いていく。
着いてもなお、社長は尻から手を離さない。
部屋でゆっくりと楽しめばいいものを、股間から手を離そうとすると、手首を掴んで阻止してくるほどの気の早さだ。これだけ性欲が強ければ、同じような被害者が、今知る限りよりももっと多くいるのだろう。
まあいい、幸い廊下に人はいない。
どうせ抱かれる覚悟はしてきた。スラックス越しに触る程度は問題にもならない。こうしておけば満足なのかと、イヴリンは軽くさすってやる真似をして、ほんのささやかながらに指の強弱もつけていた。
男の本能が左手に伝わる。
社長がどれほど精力を高めているか、どんなに興奮しているのか。それが手の平を通じて流れ込み、イヴリンの女としての感覚が情報を処理している。人の膣に入りたがる強烈な欲望が宿っている。彼の張り切りようがどんな激しいセックスをもたらすのか、あと少し先の未来を本能が予感していた。
凄まじい嵐に対して身構える魂の姿勢に宿るのは、期待とも警戒ともつかない、しかし警戒に近いものだった。
「到着だ」
最後の最後まで、社長は人の尻を触っていた。果てはカードキーでドアを開いて、中に入る瞬間にかけてでさえ、欲望の手が離れる事はなかった。
それでなくとも顔を顰め、不満や不機嫌を抱えたイヴリンは、さらに眉間の皺を深める。
「他にも人がいるとは聞いていないな」
部屋には数人、男が待ち構えていた。
人を見るなり楽しみそうに、頬の緩みや口角の吊り上がりを隠せていない。いやらしい期待を大いに抱いた面々の、三人もいる男達の視線をその身に浴びて、イヴリンはますますの不快感に表情をより冷たいものへ一変させた。
かなり不躾な眼差しだ。
お尻、オッパイ、アソコ、然るべき部位に対しての、欲求に満ちた熱っぽい瞳ほど、向けられて困るものはない。自分の認めたパートナーならともかく、好意すら抱かない相手からの、あからさまがすぎる目つきは気持ち悪い。
「私はね? 部下にも良い思いをさせたいのだよ。せっかくの上玉を脱がせるのに、私一人の視線だけを向けるなど勿体ない。どうせなら、彼らにも見てもらおうではないか」
「見学でもさせるのか」
「彼ら三人には撮影をしてもらう」
「お前以外の男がいるとも、カメラが入るとも聞いていない」
「言っていなかったからな」
社長は悪びれもせずさらりと答える。
「それで私をどう辱める。お前の頭の中には、随分と妄想が膨らんでいるのだろう?」
「そうだねぇ? 早速だが、脱いでもらおうか」
「本当に早速だ」
脱ぐとわかるなり、三人の男達が目の色を変え、それぞれのカメラを素早く構え始めていた。その三台全てが動画撮影モードなのだろう。
映像が残る事には抵抗があるが、イヴリンはコートを椅子の上に置く。
イヴリンの服装は白のノースリーブで肩を剥き出しにしたもので、胴や腕にベルトを巻きつけている。それらベルトをまず外し、長い手袋も外して、首に通したネクタイをほどく。
三人の男がカメラ越しに、脱衣をまじまじと見つめてきた。
社長は近くのソファに座り、随分と嬉しそうな顔で人のストリップを眺めている。
鑑賞会というわけだ。
脱ぐことを強要して、それを自分達は映画感覚で楽しむ。このような扱いを受けて面白いはずもなく、心底つまらない、気に入らないといった気持ちが顔に滲んで隠せない。いや、どうせ体を捧げる以上、態度や表情でまで媚びてやる必要がどこにあるだろうか。
悦んで抱かれたり、忠誠心たっぷりに奉仕するような姿まで演じてやるつもりはない。
咥えろと言われれば咥えるが、ただ淡々とこなすだけの話だ。
脱衣がさらに先へ進んで、ボタンやファスナーを開き始めるに、三人の男達は勃起していた。エレベーターの時からテント張りであった社長と、彼の部下らしい三人組で、この部屋にいる男全員がイヴリンを見て肉棒を固くしている。
脱いだものは椅子の上に積み重ね、いよいよ下着姿になった時、三人の男達の鼻の下が伸びていた。ブラジャーやショーツの中身を想像して、一層のこといやらしい表情になっていた。
この密室で、四人から同時に性欲を向けられる。
その、なんと嫌な居心地であろうか。
武力行使に走れば、彼らの制圧など簡単ではあるのだが、それでも女の本能が不安に近い感情を喚起する。もしも自分が無力でか弱い少女なら、四人もの男を相手に抵抗できず、されるがままの捌け口となるしかない。
不安や危機感を刺激するに十分な状況故の、居心地の悪い空気の中で、イヴリンはブラジャーのホックを外す。
中身を晒せば、それがどれほど相手の興奮を煽るか。
気に入らない連中を悦ばせる事に繋がるか。
相応の無念を抱きつつ、イヴリンは乳房を解き放った。あらわとなった乳首への、熱の籠もった視線が一斉に向けられて、こうも力強い視姦をされては恥ずかしい。さしものイヴリンも頬を染め、いささかの羞恥心を堪えていた。
そして、ショーツを下げる。
腰の両側から指を入れ、股から膝へと下げていき、さらにもう少し低い位置までやったところで、片足ずつを持ち上げ脱ぎ切った。
もう身に着けているものは何もない。
四人がかりでの視姦に加え、三台ものカメラが動いている空間で、最後までストリップをこなしてしまった。
次の瞬間、社長がソファから立ち上がる。
早速楽しむつもりでいるのか、社長自身も服を脱ぎ、逸物まで晒すなり、彼は一本の瓶を手にした。小さな瓶の蓋を開け、グラスに注いでみせるなりこう言った。
「これは媚薬でね。飲んでもらうよ? 口移しで」
社長は水を口に含めて迫って来る。
「わざわざ口移しとはな」
それも、カメラの前だ。
裸にしても、異性と唇を重ねる場面にしても、撮られて嬉しいものなど何もない。財布の中身が減るわけでも、血を抜かれるわけでも、何が物理的に減るわけでもないが、視線やカメラが向いている中での口付けは、搾取されている感覚が強く生じた。
裸で抱き合えば、相手の体温が触れてくる。剥き出しの肉棒も当たってくる。しかも腕まで回って来て、口の中には温まった水が入り込む。口腔で生温かく、唾液の混ざったねっとりとした感じが口内に流れて来て、イヴリンは不快感に顔を歪めながら飲み干した。
毒でもなければいいが、どちらにしろ体内を直接穢されたような気持ちになる。
「では始めよう」
次に人の背後まで回ってくるなり、背中へと抱きついてきた。今度は背中の肌にべったりと体温が触れてきて、剥き出しの逸物もお尻に当たっている。
改めての接触に、イヴリンは顔を顰める。
「スリーサイズはいくつだね」
「さあ、最後に測ったのはいつだったか」
「ならその最後の記憶を言いたまえ」
「……ふん」
仕方なく、イヴリンは自分のサイズを上から順に口にすると、何が面白いのか、三人の男達はいい事でも聞いたような顔をしていた。
「ではイヴリン、これから実況をしてもらおう」
「実況だと?」
「私のちょっとした性癖でね? ほら、今何が始まった? 何をされている最中だ? 説明してみたまえ」
そう言いながら、社長は背後から腕を回して、乳房を触り始めていた。下乳を持ち上げて、ゆさゆさと揺らさんばかりのタッチで弄ばれ、体の一部を玩具感覚で遊ばれる恥辱で頬が歪んだ。
「胸を触られているな」
「どんな風に?」
「面倒な……。下から触って、揺らす風だ。揺れているところをカメラで撮らせたいわけか」
弾ませようと、指で打ち上げるようにしてくるので、乳房はぷるぷると揺れている。ボールが頷き続けるような、柔らかな上下運動を拝んで三人の男達は嬉しそうに、そして社長も耳元で息を荒くしていた。
「さあ、もっとだ。もっと実況したまえ」
「手つきが変わり、鷲掴みになったな。そして揉みしだいている。それに乳首も狙っているな」
最初は鷲掴みにして指の強弱をつけてきたが、すぐに中指を乳首に置いた。頂点をくすぐるような動きを交え、残る四本指で全体を揉みしだいていた。
柔らかく、軽やかな手つきによって、あまり乱暴にはしてこない。痛くされずに済むのは結構だが、ソフトタッチを心がけた力加減と乳首へのくすぐりは、イヴリンの体から快感を引き出そうとしているものに間違いない。
そして胸は反応している。
癪な話だが、社長の手で胸が気持ち良くなり、中央へと血流が集まっている。
「ほら、実況。淡々とした説明でも構わんがね」
「なるほどな」
彼の性癖が少しわかった。
つまり、そうやって辱めたいのだ。
「理解してもらえて嬉しいよ。さあ、では頼むよ?」
「……乳首が突起してきた。先ほどの媚薬のせいか、私の体は早くも反応を示している。おかげで中指が気持ちいいな」
言葉にすれば満足なのだろうと、心底つまらなそうにイヴリンは従っていた。実際、乳首への刺激の方が周りよりも快感が強く、だから中指による愛撫が他の四指よりも気持ち良い。
そして、三人の男達もニヤついていた。
乳首の突起という情報が、彼らにはよほど嬉しいらしい。
「さあ、次はこっちだ」
右手がアソコに移る。
指先で縦筋をなぞる愛撫が始まると、最初のワンタッチから刺激が走る。少し驚き、僅かに目を丸めてしまうほど、強烈なものが膣の奥を駆け抜けて、腰を貫かれたかのようだった。
「アソコへの愛撫が始まった。上下になぞっている」
「それだけじゃないだろう?」
耳の裏側に息を吹きかけるようにして社長は囁く。
言わせたいわけだ。
言わせることで、彼は興奮するのだ。
「もう濡れている。これも媚薬のせいか? 私のアソコはいきなり体液を分泌している。指への付着を利用して、塗り広げるようにしてきている。滑りが良くなっていて、おかげで余計に気持ちいい」
快楽の証拠について語る時、自分で自分を辱めている感覚がしてしまう。
「ほほう? そんなに気持ちいいと」
指に力がかかってきた。
圧力によって割れ目が開き、少しだけ隙間に沈んだ指でクリトリスの部位が刺激され、腰がぴくりと動いてしまう。さらに大きな快感に、イヴリンは呼吸を熱っぽく乱し始めた。
「く、クリトリスへの刺激が始まった。上から擦られるより、こちらの方が快感は強い。体が少し、動いてしまう……」
腰が勝手に逃げようとしているような、それとも電流の流れる刺激で、ピクっと反応しているような、どちらともつかない動きで、イヴリンの腰は前後左右に動いている。小さくモゾモゾと、僅かな動作を繰り返し、膣の奥から愛液の分泌量が増えていく。
「んっ、んぅ……んふぁ……はぁ……」
さらに呼吸が乱れてきた。
「おや? 色っぽい息遣いだ」
「気持ちいい……せいだ……。どうやら、私は本当に媚薬を飲まされたようだな。おかげで普通より刺激が強い」
自分がいかに気持ち良くなっているか、それを語らされる屈辱感といったらない。好きでもない相手に体を好きにされるだけでも抵抗が強いのに、カメラを向けられながら感覚を言葉にするなど、これでは魂まで辱めを受けている。
「んっ! んぅぅぅ――――」
左手の愛撫が乳首中心になっていた。他の全ての指も乳輪に集まって、敏感な部分だけを狙った愛撫で快感はより濃密なものとなっていく。
「んっくぅ……!」
クリトリスへの愛撫も活発になっていた。
その分だけ腰のもぞもぞとした動きは増え、イヴリンはお尻を後ろに擦りつけてしまっている。そのうち、割れ目に肉棒がフィットして、意図せずお尻を使った奉仕を始めてしまっていた。
「んっ、んぅ――んぅぅ――――」
何かが迫る感覚があった。
このまま愛撫を続けられたら、あと少しで起こってはいけない事の起こる予感に駆られ、焦り始めたイヴリンは、やがて頭を真っ白に染め上げていた。
「んぁぁ――――――!」
一瞬、イヴリンは天を仰いで、直後に体を前に倒していた。腰をくの字に、その反射的な動作でますます強くお尻を押しつけ、肉棒の感触が如実になっているのだった。
「おっと、どうしたのかな?」
わざとらしく尋ねてきた。
それも、何が何だかさっぱりだと言わんばかりの、あからさまな演技で首を傾げてみせる振る舞いが癪に障った。
こんな態度を取る相手に、この事実を口にしなくてはならないなど、とんだ扱いがあったものだ。
「……い、イった」
悔しげにそう答えた。
「ほう? てっきり、乱暴にし過ぎて、痛かったのではないかと心配したんだけどね。イった? 君は確かに、イったと答えたね?」
相手が調子に乗るのは予想が付いた。絶頂などしたくはなかっただけに、堪えきれなかった無念が胸中に渦巻いていた。
「……そう言っている」
「はははっ、これはこれは! まさか、媚薬を使ったとはいえ、こんなにもあっさりイってもらえるとは予想がつかず、さすがの私も驚いているよ」
「ふん」
「いやぁ、そうか。絶頂したか」
社長は右手を持ち上げる。目と鼻の先に濡れた指先を近づけて、わざわざ糸を引かせてまで、お前はこれだけ感じたんだぞ、随分濡れたではないかと言わんばかりだ。
その行為が心への辱めとなり、イヴリンはますます険しい顔をしていた。
「私がイって嬉しいようだな」
「女性を感じさせるのは面白いことに決まっている」
濡れた指先がアソコへ戻り、再び愛撫は行われる。その手つきによって溶け出すように、愛液がさらに溢れて内股にぬかるみは広がって、イヴリンはそれを説明させられる事となる。
*
声が出そうな程度には気持ちいい。
おかげで体液の分泌が進んで、内股に濡れた感触が広がっている――ふっんっ、うん……膣内が、指の出入りが快感に、体も少し動いてしまう。腰が引っ込みそうになったり、筋肉がピクっとなりやすいな。
それに、乳首も――。
*
どこが気持ちいいのか、どのくらい感じているのか、それをイヴリン自身の口で語らせ、周りの男はそれを聞いて興奮する。わざわざ言いたくはない事を言わされて、嫌な性癖があったものだと歯噛みしながら、イヴリンは社長の楽しみに付き合い続けるのだった。