第3話 ルリの視点から

 撮影を目的とした露出は始めてだった。
 戦艦の中で着ている制服の、白いケープを羽織った姿で廊下を突き進めば、それを後ろからカメラマンが追ってくる。エロビデオである以上、単なる後ろ姿でなく、お尻を主に狙っているのはわかっていた。
 タイトスカートは普段に比べてかなり短い。
 歩いているだけで布がずれ、お尻が見え隠れしてはいないかが気になって気になって、とても落ち着いてはいられない。周りにいるのはカメラマンだけとわかっていても、つい後ろに手を回し、丈をつまんで下に引っ張ろうとしてしまう。
 しかし引っ張ってみたところで、元々の布の長さが足りない。お尻のはみ出る感じはどうにもならず、心許なさは始終続いた。
 最初の撮影は資料室だ。
 シチュエーションは大雑把にしか決まっていない。エロビデオの中でのルリは、どこかの会社で働く社会人であり、資料が必要になったので探しに来た。何故、どんな資料を探しているかまでの設定はされておらず、ただ棚に向かっている絵さえ撮れれば良いと言われている。
 ルリはそんな指示に従いドアを開け、所定の場所に立つなり、いくつもの背表紙を指でなぞった。あれでもない、これでもない、確かこの辺りにあったはずなのに、という演技を一応は意識している時だった。

 パシャ!

 シャッターの音が聞こえた上に、股下から光が瞬いた。カメラのフラッシュが焚かれ、突如としてスカートの中身を撮られたことは明白だった。
 痴漢役の中年が現れたのだ。
 この流れは事前に聞いていたものなので、ルリは慌てず落ち着いて、何も気づいていないフリをする。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 いいや、気づかないはずがない。
 股のあいだにカメラが挟まり、微妙に肌に触れているのが気になって気になって仕方がない。
 しかもカメラが引いていったと思いきや、次の瞬間にはスカートが捲られて、お尻を触られることになる。
 むにっと、指が押し込まれ、下着越しに撫でられて、ルリは恥辱感を味わっていた。
 今まで自分の意思で繰り返した露出行為と、エロビデオのスカウトに捕まって、撮影の企画として行う行為では感覚が違ってくる。
 不特定多数に見られる前提なのだ。
 販売されたビデオは売れるのか、売れないのか。もし売れるようなら、どのくらいヒットしてしまうのか。それはルリにはコントロールのしようがない。
 今はカメラマンや出演する男優だけでも、その後は本当に多くの目に晒される。ひょっとすれば、クルーの誰かがビデオの存在に気づき、買ってしまうかもしれない恐怖もある。
 そんな未来の視線まで気になった。
 お尻を触られている恥辱感と、痴漢を受ける姿が撮られている恥ずかしさで、ルリは赤らみながら俯いていた。

     *

 そして、次の日。
 食堂の中、ルリは実際に料理を食べながら、下着にカメラ越しの視線を受け止めていた。
 テーブルの下にカメラマンが潜っているのだ。
 撮りたい絵について事前に聞かされ、そこに人がいるとわかった上で席に着き、しかも脚を開き気味に座っている。衣装の下着もわざわざ穿き替え、ピンク色へと浴びる視線で、アソコがムズムズするような、くすぐったいような、何とも言えない奇妙な感覚がして落ち着かない。
 ついつい、膝を閉じようとしてしまう。
 それではいけないと気づいて開き直すが、やはり気になり閉じたくなる。
 微妙な開閉を繰り返しているうち、急に背後に人の気配が迫っていた。誰かが真後ろに立ったと思った次の瞬間、肩越しに伸びた手がテーブルに一枚の写真を置いていた。
「やっ……!」
 ルリは顔を赤らめた。

 昨日の下着の写真である。

 股の隙間にカメラを差し込み、レンズには真上を向かせて撮った白い下着が映っている。フラッシュのおかげで影にならずにくっきりと、繊維の質感まで伝わる鮮明さで写っている。
 自分自身の痴態をこんな形で突きつけられての恥ずかしさは、今まで味わったことのないものだった。

     *

 さらに水着の撮影である。
 水泳を習っている設定で、コーチとマンツーマンの指導を受けることになっている。ルリは更衣室で服を脱ぎ、競泳水着に着替えるわけだが、この着替えシーンにもカメラが入るため、カメラマンにじろじろと裸を視姦されていた。
 視聴者から見れば、ルリが一人で更衣室の中にいる場面となるのだろうが、実際にはこうしてカメラマンが入り込み、その視線を浴びている。
 エロビデオだからなのだろう。
 一度きちんと全裸になり、その上で水着を着るように指示が出ている。タオルの内側に隠しながらといった着替え方は許されず、カメラマンに対してストリップを披露することとなる。
 下着姿となったルリは、そこそこに赤らみながら両腕を背中に回す。ホックを外してブラジャーを脱ぎ去ると、残り一枚しかない心許なさに襲われた。
 パンツの両側に指を入れ、するりと下ろす。
 全裸となって、お尻に視線を浴びる恥ずかしさで、さらに赤らみながら素早く競泳水着を着るのだが、着衣で肌を隠してもルリの赤面は引かなかった。
 食い込みが激しいのだ。
 性器が隠れているにはいるが、とてもギリギリである。股の部分の三角形がとても細く、少しずれれば簡単に性器が見えてしまう。
 後ろ側も布が少ない。
 普通の下着や水着に比べ、やはり三角形の形が細く、お尻のはみ出る量が丸出しにほど近い。溝の中にずらしてしまえば、紐状のTバックと変わらなくなるだろう。
 この格好で更衣室を出たルリは、中年の指導の下で準備体操を行うが、その最中にもカメラが体を舐めまわす。特に前屈のような下半身の目立つポーズでは、肝心な部分にぐっとレンズが近づいていた。
 それから、帽子を被り入水する。
 クロールを撮るために、ルリは言われるまま二五メートルを泳ぐのだが、この時はまだ気づいていなかった。
 聞かされていなかったのだ。
 競泳水着の露出度は知っていた。
 更衣室にカメラが入ることも知らされていた。

 だが、水着が透けるとは聞いていない。

 梯子を伝ってプールサイドへ上がった直後の、中年男優から言われた言葉がすぐには理解できなかった。
「ところで、前を見てごらん?」
 一瞬、意味がわからなかった。
 そのまま真正面を意識した。
 すぐ目の前には中年が立っているだけだ。さらにその向こうを見ても何もない。前を見たが、それが何なのか、ほんの一瞬だけの困惑にルリは囚われていた。
 だが、たった数秒もあれば、ルリの視線は自分自身の体へと向けられる。白い競泳水着の胸を、それからアソコを確かめた時、ルリは驚愕しながら赤らんだ。
「やっ……!」
 反射的にしゃがみ込み、肝心な部分を両手でどちらも覆い隠していた。
 冷静に考えれば、こんなものより恥ずかしい思いはいくらでも繰り返している。そもそも自分から混浴温泉に入ったり、電車の少年にはアソコを見せたくらいだというのに、不意打ちのように知らず知らずに肌が出ていたことで、思わぬ赤らみが顔中に広がっていた。

     *

 マッサージは気持ち良かった。
 全身をまさぐられることになり、最初は緊張して仕方なかったが、オイルがだんだんと塗り広がって、乳首をやられ始める頃にはすっかり息が乱れていた。
 驚いたことに、相手の女性は一度会ったことのある相手だ。
 もう一ヶ月以上も前、ジムの宣材映像の出演して欲しい依頼を受け、そこで恥ずかしい思いをしたルリは、お詫びの印としてマッサージ店のチケットを受け取った。ところがそのマッサージでも辱めを受けることになり、その時にルリを感じさせた女性が再びルリの前に現れたのだ。
「あら、また会うとは思わなかったわ」
 何かを悟り、見透かした眼差しでくすくすと笑われて、撮影が始まる前までのルリは、たちまち居心地を悪くしていた。あの時はただの普通の少女――艦長という身分はともかく、特別な性癖など持たない女の子だったはずなのに、こうして再会したのはエロビデオの撮影現場だ。
 彼女の中で、ルリはどんな風に見られているのだろう。
 もしエッチなことにハマった変態だと見做されても、自分で露出現場を求めたり、電車の少年にオナニーまで見せているせいで否定できない。
 きっとそうだ。
 間違いなく変態だと思われている。
 エッチな趣味が高じてこんな場所にいると思われながら、一度は会ったことのある人物と再会する気分といったらない。
 その肩身の狭さで縮こまり、そして撮影が始まっても、体を触られることへの緊張で全身を硬くしていた。
 だが、マイクロビキニの内側に手が潜り、指が乳首を責め立てる時には体中が敏感になっていた。乱れた息にはいくらでも熱が籠もって、ビキニの布から手が出れば、突起した乳首の形が如実なまでに浮き出ていた。
 そして、四つん這いのポーズである。
 お尻にオイルを塗りたくられ、Tバックの紐をずらされた瞬間の、恥部を至近距離から拝まれる恥ずかしさといったらない。
 しかも、性器への愛撫が始まるのだ。
 その刺激で頭が痺れ、指が入った時にはたまらずに絶頂していた。潮の噴き出る感覚と共に、頭が真っ白になっていた。
 最後に言わされた台詞も恥ずかしかった。

「私のエッチな姿でいっぱい射精して下さいね?」

 これを言う時、カメラマンと目が合っているのだ。この場にいない視聴者だけでなく、本当に目の前にいる男に向かっても言わされている恥ずかしさで、悶絶したくもなるのだった。