後編

 カゼマルは手錠をかけられていた。
四つん這いにポーズを変えてから、腕を後ろへ引っ張られ、手首にかちゃりと、金属の輪をかけられたのだ。
 おまけに首輪にも鎖を装着され、貴族の男は犬のリードを握った飼い主のように振るまい始める。
「さあ、カゼマルちゃん。躾の時間だよ?」
 貴族の男が鎖を軽く引っ張りと、首輪の硬い感触がやや食い込み、僅かながらに息が苦しくなる。

 ペチン! ペチン! ペチン!

 尻が叩かれた。
 一体どれほど楽しげな顔をしながら、いい気になって腕を振り上げているかが目に浮かぶ。
 カゼマルの尻たぶは、左右交互に平手打ちの衝撃でぷるっと震え、その中央ではアナルディルドが蠢いていた。
 もうずっと、長らく入れっぱなしにしているアナルディルドは、Tバックの紐をピンと押し上げ、その振動によって紐さえぷるぷると揺らしている。
 黒いTバックのクロッチは、とっくの昔から愛液を吸い込んで、触れれば必ず糸が引くだけ濡れていた。

 ぺちっ、ぺちっ、ぺちん!

 平手打ちを浴びれば浴びるだけ、カゼマルは歯をきつく食い縛り、屈辱に拳を固めていく。その握力さえ、筋力抑制剤の効果のおかげで、良くも悪しくも手の平に爪が食い込むことはなかった。
 やがて、次に振るわれる貴族の手は、打ち鳴らすのでなく張りついて、尻たぶを執拗に撫で回す。表面をすりすりと磨き回したかと思うと、おもむろにディルドをつまみ、紐をずらして引っ張り抜く。
 貴族の男の指は、活きの良い獲物でも捕らえたように、震えるディルドに絡んでいた。
 そして、今の今まで太いものを収め続けて、その拡張状態に均されていたカゼマルの肛門は、ぽっかりと大きく口を広げていた。
 すっかり緩んだ入口は、その広がったままの形を覚え込み、向こう数秒は大口を開けたまま、ようやく皺が閉じ合わさり、もっとごく普通の形で肛門は剥き出しとなっていた。
 そんな肛門に向かって、貴族の男は肉棒を突き立てる。
 いよいよ入って来るのだと、カゼマルは身構えていた。

 ずにゅぅぅぅ…………。

 切っ先から順々に、窄まりの中へと埋まっていく。
 亀頭が侵入を開始した時から、先端の太さに合わせて肛門はあっさり広がり、カリ首にかけてまで飲み込むと、その勢いのまま竿まで咥える。
「んっ、んぅ……!」
 ぴったりと、根元まで収まっていた。
 Tバックの紐が横にずれての、肛門への結合が果たされて、ディルドとは微妙に形状の異なるもの感触を、カゼマルは腸壁によって如実に感じた。
 しかも、違和感がない。
 普通、肛門は排泄をする場所であって、外からの挿入を受け入れる部分ではない。異物があれば、それに対する違和感はあって当然のはずなのに、毎日のようにアナルプラグを入れられて、連日のアナルセックスにも慣れてしまったせいか、今更になって違和感などありはしない。
 その違和感の無さこそが、自分がいかに徹底的に調教され、性処理道具として磨き上げられてしまったかの、ある種の証拠のようにさえ感じられた。
「んああ――――!」
 ピストンが始まった。
「おおっ、素晴らしい締め付け! 素晴らしい快楽!」
 貴族の男が腰を振り、四つん這いのカゼマルはそのピストンの尻を突かれて前後に揺れる。
 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ――と、打ち鳴らす音はリズミカルに響き渡って、直腸への出入りは多大な快楽となってカゼマルを襲っていた。
「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
 甲高い喘ぎ声を吐き散らす。
 腰の後ろで手錠の鎖が跳ね回り、シーツに押しつけている頬は、後ろからの衝撃に合わせて前後に擦れる。
「あっおあ! おっ、んっおあっ、あっあっ、あぁ!」
 愛液が滴り溢れた。
 それでなくとも、多量の汁気に濡らされて、水気による吸着で前側の布は綺麗にぴったり、肉貝に張りついていた。そのぐっしょりとした布の中へと、なおも愛液が垂れ流されると、今度は内股を伝って水気が広がりつつあった。
「あっおっ、あうっ、んっ! んっあっあ!」
 汁気を表面に纏ったことで、光沢を帯びた皮膚の面積は、時間が経つにつれて徐々に広がる。
「おっぐぁ! あっ、あぁぁ!」
 そして、絶頂もまた近づいていた。
「ほら、イってごらん? カゼマルちゃん!」
「んぐぅ! あっ、あぁ――あぁぁ――あっあぁぁ――!」
 貴族の男もカゼマルから予兆を感じ取り、イカせてやらんばかりにペースを速める。
 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ――そのリズムはペースを上げ、カゼマルの身体もその分だけ、激しく前後に揺れ続ける。
 膨らみ始めていた風船の、一気に破裂へ近づくようにして、カゼマルはそこでビクっと震えた。

「んっぐぁぁぁぁぁぁぁ――――――!」

 その一瞬だけ、より甲高い声が上がっていた。
 腰を左右に痙攣させ、尻すらぷるぷると揺れた時、本来なら潮を噴いていたはずなのか、しかし布で塞がっていたアソコから、その代わりのように滴が垂れる。
 つーっと、素早く糸が引き、伸びれば伸びるほど質量が足りずに細くなる一方の、ぷらぷらと揺れる愛液の糸は、すぐに千切れてシーツへ垂れる。
 ぽたりと、染みが一滴分だけ出来た瞬間、さらにもう一本の糸が伸びて来て、同じく千切れてもう一滴、隣へ染み込んでいるのであった。
「イったねぇ? どうたった? カゼマルちゃん」
 貴族の男はまだまだ元気を残している。
 硬い肉棒を突き刺して、いつピストンを再開しても構わないつもりでいながら、尻を優しく撫でている。そのもう一方の腕では、首輪に繋がる鎖を弄び、ペットを好きに扱う飼い主として振る舞っていた。
「別に……どうということも……ないです…………」
 明らかに息の上がって、肩も大きく上下した様子のカゼマルだが、なおも反抗的な意思を残している。力さえ発揮できれば、今すぐにでも逆襲するだけの気概の存在を、その瞳に宿る意思が物語っていた。
「これはこれは。ではもっと、たくさんイカせてあげなくては」
 貴族の男はピストンを再開する。
「んごぁっ、あぁ! あっ、あん! あん! あん! あん! あん! あん! あん! あん! あん! あん!」
 カゼマルはより激しく喘いでいた。
 出入りする剛直は、先ほどよりもピッチを上げて、抉り抜かんばかりにピストンする。その大胆な出入りが生み出す竿と皺との摩擦から、神経を焼き切るかと思うほどの、実に強烈な電流が生まれ続けた。
「あぁぁ! あっあぁぁ! あぁっあ、あぁぁ……!」
 カゼマルは絶叫にすら近い声を出す。
「ほらほら、またイってしまうよ?」
「あっあっあっあぁ!」
 快楽の津波が脳に押し寄せ、カゼマルの頭の中から、何もかも全てを押し流そうとしていた。脳神経すら快楽電流に焼き切られ、セックスが気持ちいいせいで駄目にされそうな感覚に、カゼマルは無意識のうちに抗うように、髪を振り乱そうとしていた。
「ふぐっ、ぬぐっ、んっぐぅぅ……!」
 もっとも、四つん這いで両手は後ろに、頬をシーツに押しつけた状態では、首はそうそう動かない。ただ振り回そうとする気配だけが現れ続けた。

「あっぐぁ――あぁあぁぁぁ――――――」

 また絶頂していた。
 今度はカゼマルが自ら尻を押しつけて、根元まで咥え込んだままに痙攣する。尻全体を駆使したぶるぶるとした震えは、尻たぶが波打つような振動となり、そして愛液の糸が引く。
 とても太かった。
 先ほどの糸に比べて、一回りも二回りも太い糸は、どれだけ伸びても質量を失わない。細くなるあまりに滴の重さを支えきれず、途中で千切れて消えることがない。
 最後の最後まで伸びきって、シーツの表面にまで到達すると、糸ほどの細い柱によって、ショーツとシーツを繋げてしまうほどだった。
 その柱伝いとなって、染み出る愛液は下へ下へと流れていき、滴の跡が面積を広げていく。それは蛇口を捻って水を出し、そこから流れ出ている光景と酷似していた。
 もっとも、それもやがては途切れて糸も消え、それを合図にしたように、にんまりとした貴族の男は、さらなるピストンを繰り返した。
「あっあっ、あぁ……あぁぁ……あぁぁ……!」
 剛直が皺を抉り抜く。
 突っ込むときには内側へとよれていき、引っ込む時には盛り上がることの繰り返しで、カゼマルの肛門には出入りの摩擦が延々と繰り返される。
「んぐぁっ、あぁ……あぁぁ……!」
 そしてまた、次の瞬間だった。

「ああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!」

 ビクビクと震え、またしても糸が伸びていた。
 つーっと、勢いよく垂れ下がった糸は、先ほどに比べてぐっしょりとしたシーツへと、さらに水気を増やしていた。

「んぐぁっ、あぁぁぁぁ――――!」

 と、次の絶叫は、さらに数分後のことだった。
 やはりまた糸が伸び、それは股のあいだでぷらぷらと揺れていた。

「あっがぁぁ――――――――!」

 一体、何回イっているのか。
「も、もう……」
 懇願の言葉が口に出かけて、しかしカゼマルは歯を食い縛り、ぐっと気持ちを答えるのだった。
 許しを乞うようなことを言っても通じないのは、最初に捕まった時に身を以て体感している。
 それは今も変わらないだろう。
 もう無理だ、これ以上は耐えきれないと叫んでも、それは相手を喜ばせることにしかならないのだ。
 だとしたら、黙っている方がいささかマシだ。
(そうですよ……黙ってやられているしか……)
 抗っても無駄なのなら、せめて心で耐えようとはしてみるが、やはりそれさえ辛くなる。

「んひっ、あっ、あぁぁぁぁ――――!」

 またも体が弾けて尻も震え、糸をぷらぷら揺らした時、自分はもう駄目だという思いがふっと浮かんだ。
 鎖を引かれる。
 男の腕と、首輪のあいだてピンと真っ直ぐ伸びた鎖で、カゼマルの首には軽い食い込みが感じられ、次に始まるピストンは、そうして鎖を引かれながらのものとなる。

「んひっあっあぁぁ――あぁぁぁぁぁ――――――!」

 またも絶頂した。
 次に布から染み出る滴は、糸を伸ばしはしながらも、今までにない大きさと重量から、一瞬にしてシーツへ到達する。糸を伸ばすというよりも、それはポタっと垂れたかのようだった。
 そして、その一瞬先でさらにポタポタと、もう何滴かの滴がシーツへ染み込み、それでなくともぐっしょりとした部分に、さらに水分は浸透していた。
(もう……本当に……こんなの……いつまでも……)
 助けはまだだろうか。
 誰も来てはくれないのだろうか。
 このままでは……このままでは……。

「あっぐっ! ひっ、あぁぁぁぁ――――――――!」

 シーツに広がる愛液の染みは、もはやお漏らしの痕跡と変わらない。小便を垂れ流したほどには広がる円から、愛液の香りは存分に漂っている。
 その牝の香りに対して、貴族の男はあからさまに鼻をヒクつかせ、ニヤニヤしながら体位の変更を命じ始める。
「カゼマルちゃん? 次は上から頼むよ」
 という、騎乗位命令。
 無論、求められるのは肛門での結合だ。
「…………はい」
 力ない返事を返し、体勢を変える男に対し、カゼマルは上から跨がる。従順なまでに上下運動を開始して、肛門を駆使した奉仕を始めると、カゼマルはさらに惨めな思いに駆られ、その苦悶を顔中に広げていた。
 性処理道具として、物として使われるのも屈辱だが、カゼマル自身の意思で動くように言われての、こうして尻穴を使う行為も屈辱的だ。
「んっくぅ――んっ、んっ、んっ、んぅ――」
 自らのペースで弾み、肛門への剛直の出入りを感じながらも、その上下運動で乳房をぷるぷると震わせる。
 寝そべっている貴族の男は、そんなカゼマルの乳房や動きをニヤニヤと見守りながら、股間では快楽を味わっていた。
「んぁっ、んぁっ、んぁっ、んぁっ、んぁっ――――」
 自分のリズムで動けるなら、先ほどのような絶頂の連続など、わざわざ味わう必要はないはずだ。
「んぁっ、あっ、あっ、あっ」
 感じすぎることのないように、早すぎないように意識しながら弾むのだが、この時のカゼマルは、まだ自覚をしていなかった。
 自分が一体、どれだけ激しい快楽に慣れ親しみ、イキ慣れてしまっているかを――。
 そんなイキ慣れた体にとって、この程度の快楽では物足りない。
(あれ……わたし……)
 気づけばカゼマルは、自らペースを上げてしまっていた。
(なん……で……!)
 自分自身に対しての戦慄も、自らの上下運動によって掻き消され、カゼマルはたちまち激しく喘ぐ。

「んぅぅ! んっ、んあっ! あっ、あっ、あぁぁ――あぁぁああああああ――――――――!」

 途端に喘ぎ声は激しくなり、さらには仰け反りながら絶頂していた。大きく背中を反らしての、天井を見上げた姿勢で、目を見開きながらイク際の、髪の乱れきったカゼマルは、イキ震えの止まった体でたっぷりと、思う存分に余韻を味わう真似まで始めていた。
 そして自覚した。
(自分で……イっちゃいました……)
 貴族の男は決して動いていなかった。
 それにペースが速いとも遅いとも言わず、ただ人の動きを満足そうに眺めていたに過ぎなかった。
 つまり、今こうしてイったのは、完全にカゼマル自身の……。
 そうと気づいた瞬間、心の中で何か大切なものが折れてしまったような気がしていた。
(わたしは……わたしは………………)
 顔が凍りついていく。
「自分の意思でイってしまったね?」
 貴族の男から、声に出して指摘されると、胸に沸き立つ敗北の念のような何かはますます膨らみ、心が今にも飲み込まれそうになっていた。
「続けてもらえるかな?」
「……はい。ただいま」
 心が従順に成り下がる。
 つい数十分前までは、心の中だけには反抗の意思があったのに、今はそれすら薄らいで、カゼマルは上下運動を再開していた。

「あっ! あぁ……あっ、あぁぁ……!」

 そして、それは自分がいつ絶頂しても構わないような、加減など考えないペースでの、ひたすら快楽を貪る動きなのだった。

    *

 そして、カゼマルは再び四つん這いとなっていた。
 未だ手錠のかかった両手を後ろにやり、鎖があっても自由の利く範囲で手を動かし、自らの尻たぶを掴んでいる。そうして肉を左右に引っ張り、カゼマルは自身の肛門を見せびらかしていた。

「ご、ご主人様……」

 カゼマルは口走る。
 心まで堕ちていなければ、とても言えないような言葉を――。

「このわたしのアナルを今まで慰めて下さって、どうもありがとうございます」

 心がどんどん沈んでいる。
 二度と抜け出せない泥沼にはまり、魂さえもどうにかなっていくような、自分という存在が汚染され、染まり変わっていく感覚をカゼマルは感じていた。

「どうか……これからも……」

 もっと、もっと欲しい。
 あの至福の時間を、もっと過ごしたい。
 そう思ってしまっている自分を自覚しながら、カゼマルは最後まで口上を述べていた。

「これからも、わたしのアナルをよろしくお願いします」

 貴族の男から命じられたのは、ただただ肛門を慰めてもらっての、何かお礼を言えということだけだった。その命令に従うにしても、もっと簡潔に、一言や二言で済ませることもできたはずが、カゼマルはこうまで屈服したようなことを口走り、そしてアナルをヒクヒクとさせていた。
 このままアナルセックスが再開され、改めて挿入してもらえることを期待しながら……。