教師と交際している女子生徒が弱みを握られ、写真をネタに揺すられる。


前編中編後編


 平凡は好きではない。
 退屈は嫌いだ。
 この気持ちは刺激を求めることの裏返しだ。変わり映えのない退屈な日々なんて、毎日が石ころのようではないか。たまにはダイヤモンドを求めたい。いつもと違う、何か変わった出来事という、そういう刺激の何と良いことか。
 友達同士の企画で肝試しへ出かけたり、廃墟に侵入してみたり、中学生の頃に経験した冒険の思い出といったらない。けれど、そういう刺激は少ないもので、退屈な日々のあまりに憂鬱になってくる。
 だから、思ったのだ。
 高校生に上がってからは、是非ともより強い刺激を求めたい。今までにないような、本当に魅力的なイベントを体験したい。
 梓川加奈江は物語のような展開に憧れていた。
 児童文学にあるような、タンスの向こう側が異世界に繋がっている話も悪くはないが、急に事件に巻き込まれ、何かのために奔走することになるのも面白い。何かの主人公になってみたい願望は強かった。
 そんな加奈江にとって、高校教師との出会いは刺激であった。
 そう、先生に恋をしたのだ。
 クラスメイトと仲良くなって、何となく好きになり、何となく告白してみて、などという平凡な恋よりも、他の誰も普通はしない、けれど少女漫画の題材にはなるような、教師との恋ほど胸のときめく展開はないのだった。
 初めて彼が教室に現れて、耳心地の良い声で喋った瞬間の衝撃は凄かった。
 その先生が自分に目をつけ、いつしかアプリでの連絡先の交換を求めてきた時の喜びも、デートに誘われてしまった瞬間の、心が天国に到達しそうな舞い上がる気持ちも強く、高校生になってからの日々は魅力に溢れていた。
 毎日が輝いていた。
 大人の人と恋をして、だけど教師と生徒の関係は誰にも秘密という、面白くてたまらない関係の何と刺激的なことであろうか。
 全身に活力を溢れさせ、活き活きとした毎日を送る加奈江だが、思わぬ展開というものはある日突然にやってくる。

「綺麗に撮れてるだろ?」

 放課後の教室に、綺麗な夕日が差し込んでいる。
 赤焼けた窓からの光によって、机や床が暖色に染まり変わった世界の中で、余計な人の気配もなく、静寂の中でただ二人きり向かい合う。こんなにもロマンスのありそうな絵だというのに、加奈江の前で今こうして立っているのは、恋人の先生ではなかった。
 クラスメイトの男子であった。
「真面目な優等生って、思ってたのに」
 加奈江がその声に含ませるのは、失望と敵意の念だった。
 この男子は藤堂貴樹という。
 いつも朝早くに教室の席に座っては、生真面目な自習をしつつ、友達ともそこそこに騒いでいる。真面目ながらに、ほどほどに馬鹿もやる人間として、決して悪くは思っていなかった男子生徒が貴樹である。
 もっとも、ほどなくして教師に惚れて、その魅力に比べれば、他のどんな男子も霞んで見えているのだが。
 そんな貴樹の思わぬ行動に加奈江の戦慄していた。
 胸に手を当てたなら、一体どれだけの鼓動が手の平に伝わるだろう。身も心も硬く強張り、全身が警戒信号のような何かを放っているのに、恐怖なのか何なんか、不思議と一歩も動けない。
「悪いね? 俺、本当はこういうやっちゃいけないことに憧れてて」
 見れば男子の表情にも、緊張の色が窺えた。
 ああ、脅す方も震えているんだと、加奈江はすぐに理解した。
 男女二人、お互いに緊張し合って、夕焼けに照らされて、それなのに何のロマンもない、むしろ最悪としか言いようのない時間が流れている。過ごすだけでも息がつまる。空気を吸うたび、肺の中に重りが蓄積しているみたいであった。
 こんな展開のはずではなかった。
 アプリにメッセージが入っていて、放課後に時間を指定した上、二人きりで話がしたいとの文面を読んだ時、まず真っ先に想像するのは告白だった。こんなものが届くからには、実は彼に好かれていて、思いを告げられるに違いないと信じたのだ。
 だって、そうではないか。
 男女二人、二人きりで話がしたい、場所も時間も指定するメッセージから、普通は他の何を連想すればいいだろう。
 そして、それ自体は嬉しかった。
 その時は脅迫なんてされるとは思っていなかったから、まず悪い気はしなかった。
 しかし、加奈江は既に恋人のいる身である。その気持ちを受け入れることはできないので、一体どうやって断ろうか。先生との関係は秘密なので、「もう既に付き合っている人がいるから」という文言は使えない。「他に好きな人がいるから」も使いにくい。
 なら、何と言おう。
 ただただ「ごめんなさい」と頭を下げるか――なんて、色んなシミュレーションを頭の中に展開していたのに。
 それが、これだ。
 確かに刺激ある展開を求めてはいたけれど、こんな形でなんて望んではいなかった。

 貴樹の突きつけてくるスマートフォンに、生徒と教師のキスシーンが写っている。

 実に絵になっていた。
 夜に撮影した写真は、手すりの向こうに広がる海と、さらにその向こうにある街のネオンが手前の男女を栄えさせている。外灯に照らし出された男女二人の、背景は夜闇に満ちてはいるが、暗くとも海が海だとわかる程度に海面がキラキラと光の反射に輝いて、暗がりから浮かび出たネオンの写りも良い。
 抱き締め合い、唇を交わす男女を背景が引き立てて、まるでドラマのワンシーンのような写真は、こんな状況でさえなかったら、是非とも譲って欲しいくらいである。自分のスマートフォンに保存して、いっそ壁紙にしたいほど、写真自体はよく撮れていた。
 本当に、よく撮れすぎている。
 最初に突きつけられた瞬間、それこそ一瞬は見惚れるほどの写真であった。その一秒後には状況を悟り、たちまち戦慄したというわけなのだが、こんな状況なのに絵としての美しさには微妙に目が行き、一体何を考えているのかと我ながら思っている。
 この状況で写真が綺麗だなんて考えるのは、ナイフで脅されているのに、呑気に今日の晩ご飯を楽しみにするようなものである。
 抱き合ってのキスシーンなのだから、どちらも横顔しか写っていないが、人物を特定するには十分なものである。どうせ拡大もできるだろうから、赤の他人という誤魔化しが通用するとも思えない。
「なあ、先生なんだろ? この人」
 貴樹の声には微妙な震えがある。
「それで、何? 脅迫?」
 加奈江も内心では動揺している。
 だが、それを微塵も表に出さず、少しばかりの冷や汗だけを噴き出しながら、気丈な態度を装っていた。
 そうするのが唯一の防衛手段だと、加奈江は思っていた。
「そうだけど?」
「警察に行くよ?」
「へえ、警察? そしたら、先生が生徒と付き合ってたこと、表に出るよな?」
 ドクンと、心臓が弾む。
 薄々とわかっていたが、いざ言われてみれば具体的な想像が脳裏に浮かぶ。警察沙汰にすることと引き換えに、先生との関係が表沙汰に、退職を迫られ引き裂かれる。ドラマの中なら、その後も展開が二転三転して、ハッピーエンドが待っているかもしれないが、果たして現実はだろう。
 いいや、弱気になっては駄目だ。
 バラす? やれば? 警察行くけど?
 そういう態度だけを表に出して、強気な眼差しを保っていれば、脅すのは無理だと諦めて、もしや手を引いてくれるかもしれない。万引きの経験も、友達から物を盗んだ経験も、何の悪事も働いたことのない加奈江だが、今の貴樹の気持ちには想像がつく。
 欲望のまま犯行に踏み切ったはいいけれど、堂々と悪事をやるほどの勇気はなく、振り切れた性格をしているわけでもない。脅す貴樹だって、自分のしていることに本当は怯えていて、止まるきっかけを探していたっておかしくない。
 やっぱりまずい、こんなことはするべきではなかった。
 いざ犯行に踏み切ってみてから怖くなり、本当は後戻りしたくてたまらなくなっている。そういう心理があってもいいはずだ。それは加奈江なりの冷静な思考であると同時に、そうあって欲しい願望でもあった。
「ねえ、今なら誰にも言わないからさ。やめない? こういうの」
「なんだって?」
「あたしだって、このまま言うことを聞くよりは、警察に行った方がマシだって思ってるよ。だって、このまま従うってことは――」
 一体、どこまでのつもりでいるだろう。もしかしたら、最後までしようと考えているかもしれない。そんな可能性に付き合って、身を差し出すくらいなら、いくら先生のことは愛していても、いっそ警察にという思いはある。
 いいや、先生を困らせたくない。
 やっぱり、最後まで脅し抜かれれば、秘密を優先するであろう自分もいる。だけど他の男に体を許すだなんて、恋人に対して悪いわけで――。
(どうすればいいの?)
 助けて、先生――。
 今この瞬間にもドアが開いて、ナイトのように自分のことを救ってくれる。格好良い先生の想像が脳裏に浮かぶが、そんな願望通りの展開が起きるなど、妄想を信じるわけにはいかないのだ。
「じゃあ、パンツ見せるっていうのは?」
「な、何それ……」
「今ここでスカートを上げてさ、下着見せろよ」
「そんなんで――――」
 本当に済むのか、とは言わない。
 ここまでは許すけど、この先までするというなら、やっぱり警察に――なんて、どこまで体を売るかの計算はしたくない。
「なら、どこに写真送ろうかなー。学校のアドレス? 教育委員会? 校長先生のところに言って、直接画像を見せに行くっていうのもありかなー」
 本当はビビっているくせに、貴樹は犯罪者になりきろうとしている。このくらいの悪事は平気でしでかす、クズ野郎ですが何か? とでも言いたげな振る舞いを、どこか懸命に行っている。
 それが見えているからと、加奈江も加奈江で、その気丈な振る舞いはほとんど似たようなものである。さも脅しに屈する気はないように振る舞いながら、本当は今にも屈しそうな自分がいる。
「あ、あたしこそ……あんたのやってること、ば、バラす…………」
 強気なことを言おうとして、加奈江だって本当は怯えている。
「なんて言って?」
「…………」
「自分と先生の関係を自分でバラしながら?」
「それは…………」
 駄目だ、不利すぎる。
 生徒と交際した教師の処分は、一体どういうものなのか。具体的にはわからないけど、何も良いことにならないのはわかっている。
 やっぱり、先生に迷惑はかけられない。
「ほらほら、下着見せるだけでいいから」
「……本当に?」
「本当本当! ほら、さっさとスカート上げろよ」
 心が脅しに屈し始めている。
 それで済むなら……と、心のどこかで考え始め、気づけば両手がスカートに向かって伸び始めている。最後の最後まで諦めきれず、この脅しを撥ね除けるための、何か魔法の言葉はないかと必死に頭を回転させてはいるけれど、都合の良いものは浮かんで来ない。
 何一つ思いつかないまま、手はスカートに到達していた。




 指が拳の形へ変わり、そして加奈江は自らのスカートを掴んでいた。
「いい心がけだな」
 悪ぶった貴樹の、ニヤっとした唇の形を見た時、恐怖が薄れていそうだと加奈江は感じた。もう少しで脅しに成功しそうなせいか、悪事を働いてしまったことの怯えより、宝物を目前にしたドキドキ感の方が、きっと貴樹の中では上回り始めている。
(駄目、恥ずかしい…………)
 たった数センチだけ持ち上げて、腕はそれ以上動かない。
 下着なんて、まだ誰にも見せたことがない。先生との関係だって、まだキスが何度かくらいで、唇だけでも心がどうにかなりそうなほどに舞い上がったり、心臓が破裂しそうだったりしているのだ。
 セックスまで進んだ時、自分がどうなってしまっているか、もう怖くて想像できない。
 それくらい、まだまだピュアで、いやらしいことは知識だけに留まっている加奈江には、ショーツを見せることすらハードルが高かった。
(経験でもあれば……)
 頭の片隅で薄ら思う。
 これがもっと後々の、既に処女を捧げた後に起こる出来事だったら、下着を見せるくらいでは大袈裟にはならないだろう。もう少し、ドライに割り切ることだって、きっとあり得たかもしれない。
 けれど、やっぱりキスしか知らない。
 下着とか、その内側の肌を曝け出す経験はしていない。生まれて始めてのことなのに、それをこんな形で味わうなんて信じられない。受け止められない、信じたくない。このスカートを上げてしまったら、先生にはもう二回目だ。
 せっかく真っ白な自分なのだし、だったら未経験の自分を捧げたいのに、それをこんな形でなんて――。
「早くして欲しいなー。それともなに? 焦らしてる?」
「うるさい」
「焦らして焦らして、ゆっくり持ち上げて、やっと見えてくるっていう演出? いいね、そういうの俺好きだよ?」
「あんたの趣味とか、聞いてないし」
「ま、じっくり見てやるから、なるべく急げよ? 日が沈みきっちゃうからな」
 貴樹は目の前に膝をつき、わざわざ腰に視線の高さを合わせてくる。スカートの上がる瞬間へと、真正面からじっくりと、視線を真っ直ぐ注ぎ込んで来ようというわけだ。
「……最悪」
 加奈江はさらにスカートを上げていく。
 太ももの見える範囲を広げるだけで、悔しくてたまらない気持ちが湧いてくる。恥ずかしさだって湧いてくる。こんなはずではなかったのに、先生にお願いされて見せるのだったら、別に構いはしなかったのに、脅しをしてくる男子が相手だなんて……。
「お? おお?」
 スカートの位置が上がれば上がるほど、貴樹は見るからに興奮している。
(サルみたい)
 心の中では貶してみる。
 だけど、こんなことで気は収まらない。

「白かぁ!」

 とうとう、最後までスカートを上げきっていた。
 丈を握った二つの拳を、加奈江は腹の高さまで持ち上げて、夕暮れの元で白いショーツを晒していた。
 しかも、それは絵になっている。
 赤焼けた光が景色を染め、だから本当は純白に輝くはずのショーツも、どこかオレンジ色を帯びている。暖色に照らされた繊維がきめ細やかに、キラキラと小さな小さな、砂粒よりも小さな光を散りばめている。
 紅葉がプリントされている。
 ショーツの限られた面積に無理なく収め、その上で複数を散りばめるため、サイズを縮小してある紅葉が向きもまばらにプリントされている。赤焼けの光を浴びて、そこに紅葉が散乱しているのは、季節を外した秋らしさが醸し出されていた。
「へえ、雰囲気出てるじゃん」
 貴樹はニヤニヤしている。
(最悪……)
 加奈江の頬が歪んだ。
 こんな脅迫をしてくる相手が嬉しそうにしているなんて、貴樹を喜ばせてしまっていることが悔しくなる。
「やっばいなー。感動的だよ」
「あ、そう。もういい?」
 早くスカートを元に戻したい。
 これ以上、一秒だって見せていたくない。
「お、顔赤いねー?」
「うるさい。夕方だし」
 夕焼けのせいだと、加奈江はすぐに言い訳する。
 だけど、きっと通用していない。
 頬は内側から温まって、恥ずかしさが表情に滲み出ているはずに違いないと、自分でも思っているのだ。
「あ、そうそう。次はさ、下ろしてくれる?」
「なんで」
 反射的に強張った声が出た。
「ん? だからさ、そのパンツ下ろしてよ」
「見せたじゃん」
「見せただけだろ?」
「……何それ」
 加奈江は苛立ち紛れになっていた。
 それで終わると思ったのだ。
 冷静に考えれば、これで済むはずだなんて根拠は何もなかった。調子に乗って、どんどん次の要求をしてきても、最初からおかしくはなかったのに、下着を見せて終わりと信じるなんて我ながらおめでたい。
「いいの? せっかくパンツは見せたのに、努力が台無しになって」
「都合のいいことを」
「ほら、下げなよ」
 きっと、成功したからだ。
 スカートを上げさせることは上手くいき、その成功に酔っているから、貴樹は調子に乗って次の要求を出してきている。
(一体、どこまで――)
 どのラインまで、切り売りすることになってしまうのか。
 不安と歪みに満ちた面持ちで、加奈江はスカートを一度は手放す。グーからパーへと変えた両手から、ふわりと落ちて垂れ下がるスカート丈だけど、やっと隠せたことの安心感なんてありっこない。
 あるのは余韻だった。
 こいつに下着を見られたんだ……と、最悪に思う気持ちは、こうやってスカートが元に戻った後でも、いつまでもしつこく胸に漂っている。もしかしたら、擦っても擦っても取れない、しつこい汚れのように、この余韻は長いあいだ漂うことになるかもしれない。
「ねえ、そしたら今度こそ、その写真消して」
「どうかなー? 消したフリは簡単だけど、コピーなんていくらでもできるし」
「…………」
「ま、秘密はバラさないって約束はするよ。言うことが聞けたらな」
 貴樹の顔がどんどん悪人のものになっている。
 最初は自分のしていることにビビっていたくせに、こんなにも早く慣れ始めて、犯罪なんていくらでもやってきた悪人の振るまいがそれっぽくなり始めている。実は詐欺やカツアゲをしたことがあると告白されれば、今なら信じられそうなくらいだ。
「じゃあ、やるけど」
 頭の中には警告信号みたいなものが吹き荒れる。
 身が竦む。
 スカートの中に手を入れて、腰の両側、ショーツの両端に指を入れた瞬間から、緊張感が巨大なくらいに膨らんでいた。高いところから地上を見下ろして、落ちたら怖い気持ちでが竦む時の反応みたく、ショーツを下ろす腕が竦んでいる。
 恐怖は体の中を流れるものらしい。
 飛び降り直前の恐怖みたいなものが、腕の内側を行き来している。感情だって脳の電気信号なのだから、脳で何かが分泌されて、それが神経細胞を通っているせいだろうか。
 ゆっくり、下げ始める。
 さっさと済ませてしまおう、なんて心の中では思いはするけど、体がその通りには動かない。関節が石のように硬くて硬くて、思い通りの動きにならないから、そのせいでやけにゆっくり下ろしてしまっている。
 心臓の鼓動が早い。おかげで鼓膜の内側に音が届いて、心音がうるさく感じる。
 このドクドクという心臓のリズムは、秒間で何回くらいのものになっているだろうか。
 指が震えている。根元から先っぽまで、まんべんなくプルプルとしているし、肩や肘も似たようなものだから、ただ下着を下ろすだけの、物凄く簡単なはずの作業に手こずっている。
 でも、簡単なことだって簡単じゃない。
 崖の向こうに飛び立つことだって、別に物理的に難しいわけじゃない。でも、死ぬから駄目だ。普通はできないことだ。こんな人前でショーツを下ろすのも、やっぱり本当は出来ないことで、無理だ無理だと思う気持ちは本当に強かった。
 だけど、脳裏には浮かんでくる。
 先生の顔がいっぱい浮かび、今まで幸せだったものを台無しにしたくない気持ちとか、秘密をバラされて、先生を困らせたくない気持ちとか、そういうものが溢れてくる。
 ああ、本当にあたし、先生のことが好きなんだ。
 なんてことを思いながら、ショーツをやっと膝に絡めた。
「下ろしたけど?」
 声が震えているのはわかっている。
 強気に振る舞ったって、恥ずかしいとか悔しいとか、泣きたいとか怖いとか、そういう気持ちでいっぱいなのは、貴樹から見てもバレバレのはずだ。
「じゃあ、もう一回スカート上げようか」
「……無理」
 かなり本気で、無理だと思った。
 下着が膝まで下がっている状態で、スカートを上げるだなんて、そんなものは無理難題にしか聞こえない。
「バラすよ」
 だけど、結局それに弱い。
 弱みを握られた自分の方がずっと不利、向こうの方がずっと有利なのを痛感しながら、加奈江はまたしてもスカートを握り締めていた。拳に力が入るあまりに、力んだ両手が震えるくらいだった。
 そして、また時間をかけて持ち上げる。
 焦らしたくて焦らすわけなんてない。演出でも何でもない。ただ腕の動きが硬いから、そのせいで時間がかかって、やっとのことで加奈江は拳を上げきっていた。

 ささやかな陰毛と、その真下にあるワレメを貴樹の視線に晒していた。

 恥ずかしかった。
 いや、恥ずかしいなんてものではない。脳がたちまち沸騰直前まで熱されて、もうすぐ泡がぶくぶくと噴き出すような気配が頭蓋骨の内側に広がっている。一番大切な部分をジロジロ見られ、それほどまでの恥ずかしさを味わっていた。
 しかも、貴樹はスマートフォンを近づけて――

 パシャ!

 その瞬間の思いといったらない。
「ちょっと! や、やめて……!」

 パシャ! パシャ!

 容赦なく、シャッター音声が繰り返される。
 どんなに強く、激しく、やめて欲しいと願っても、そんな気持ちを知りもしないで、貴樹は楽しそうにスマートフォンの画面をタップして、撮影ボタンのところを指でつつき回している。
(な、なんで……!)
 悔しくてたまらない。
 悔しくて、悔しくて、怖いから泣きたいのか、悔し涙が出そうなのかもわからない。
「あ、そうそう。エロさが足りなかったから、脱ぐのやり直してくれない?」
「……なっ!」
「ほら、早くしろよ。言うこと聞かないと、アソコまで見せたのに台無しだぞ? せっかくの努力が無駄になってもいいわけ?」
「最低、最低すぎるよ……」
 悔しいあまり、けれど弱みを握られているせいで、加奈江には何もできない。どうやって反撃したり、こんな卑劣な脅迫をやめさせればいいのかが、まったく思いつかなくて、そのまま従うことしか頭に浮かんできてくれない。
 奥歯を噛み締め、歯軋りしながら穿き直す。
 一度はスカートの内側で剥き出しに、お尻に直接裏地が触れていた状態から、元の状態に一時的には戻るのだが、せっかく戻したショーツをすぐまた下ろし始めていく。
「動画にしてやるよ」
 今度は、撮られながら。
「あ、足首まで下げろな」
 注文まで追加される。
 加奈江は悔し紛れの思いを膨らませ、今すぐ暴れ出してやりたいほどの、本当に腹の立った気持ちになっている。目の前の憎らしい男を殴り倒したり、机を次々と投げ飛ばして、教室中に散らかしてやれたなら、一体どれだけいいだろう。
 しかし、加奈江はショーツを下げる。
 スカートの内側で、ショーツという名の皮が剥け、徐々に尻肌は剥き出しになっていく。スカートの裏地がお尻に直接触れる感触をまた味わい、そのまま加奈江は太ももの半ばあたりを、それから膝を通過させていき、ショーツを足首に絡めてやる。
「……やったけど」
 羞恥と怒りの顔で加奈江は言う。
「やっぱエロさが足りない。今度は早すぎない?」
「……っ!」
「三〇秒? 一分? それくらいかけるべきじゃね?」
「意味がわかんないんだけど」
 もういいだろう。
 加奈江の胸はその思いでいっぱいだ。
「いいからやれって、でないと――」
「わ、わかったから」
 悔しい気持ちは、何回だって煽られる。
 加奈江はまたしても穿き直し、その上で下げ直す。
「あ、一回見せてくれる? たくし上げたくし上げ」
(好き勝手なことを――)
 もう性器を見られた後だ。
 だったら、ショーツぐらいで恥ずかしいことなんて――

 パシャ!

 途端に歯軋りして、顎も頬も強張らせた。
 既にアソコを撮ってあるくせに。
(また撮るなんて……)
「ほら、下ろした下ろした」
「なんなの……本当に……」
 最悪でならない扱いでたまらない。
 たくし上げたスカートをさっさと戻すして、また改めて加奈江はショーツを下ろし始める。今度は時間をかけてだんだんと、お尻から膝にかけての移動を始める。
(これでご満足なの?)
 とでも言いたいような、睨みがちな視線を向けつつ、スカートの中身をだんだん下げる。
 一秒、二秒、三、四、五――心の中でカウントして、一五秒のあたりで膝に到着することを目安にして、加奈江はショーツを下げていく。
(なんで……こんな面倒な趣味に付き合って…………)
 表情が屈辱に歪む。
 下ろすのが早すぎて、カウントが一〇秒のあたりでショーツは膝に届きそうになる。加奈江は仕方なく速度を落として、次は膝から足首まで、またもう一五秒を目安にする。
 お望み通り、時間をかけて下ろしてやった。
 どこまでエロく見えたかは知らないけど、これで満足というわけか。
「うーん」
 しかし、まだ次の何かを考えている。
「動画まで撮っておいて……」
「え? ああ、そうだな。動画まで撮ったんだけど、ここまで来ちゃうと、もっと他になんかないかなーって。こう、アイディアを練っている最中でさ」
「練らなくていい。もう十分でしょ」
「どうかなー。あ、思いついた。オナニーしてくんない?」
「……なにそれ」
「オナニーだよオナニー。あ、やったことない? 先生と付き合ってるなら、欲情くらいするんじゃないの?」
 人を小馬鹿にした風な顔で言って来る。
(この人は……!)
「ほーら、送っちゃうぞー? 教育委員会かなー? 校長先生かなー? あ、俺自身が叩かれるリスクはあるけど、ネットで個人情報晒すって脅しもあるっちゃあるのか」
 危機感が一気に膨らむ。
 風船が一瞬で破裂寸前になるみたく、それだけは止めなければいけない使命感が胸の中で大きくなった。
「待って! や、やればいいんでしょ」
 ネットに晒すだなんて、本気か冗談かはわからない。
 だけど、これが弱みを握られているということだ。
 秘密を……守るためなら……。
「たくし上げながら、きちんと見えるように頼むわー」
 貴樹はスマートフォンを構えている。
 動画撮影モードになっているのだ。
「……こ、こう?」
 加奈江は左手でたくし上げ、アソコを露出した上で、右手をそこに運んでいく。ワレメの上に指を置き、たどたどしく摩擦を始める。オナニーなんてものを見せびらかし、しかも撮られているなんて、恥辱で頭がどうにかなりそうだった。
 恥ずかしすぎて、頭が焼き切れそうだ。
 高圧電流に耐えきれず、内側の熱でコードが弾け飛ぶみたく、頭の中で神経がどうにかなりそうなほど、物凄く恥ずかしい。
「あ、最初は下着の上から」
「なにそれ……」
 注文の多さにも腹が立つ。
 加奈江はショーツを穿き直し、改めてたくし上げ、最初のうちは下着越しのアソコを擦る。指先で繊維を撫で、布の感触を確かめ続けるみたくして、淡々と摩擦を与えていた。急に気持ちいいわけもなく、触り始めのうちにあるのは、単なる指の擦れ当たる感触だけだった。
 続けていれば、やがて少しは気持ち良くもなってくる。
 膣の奥がムズムズして、ショーツの内側が蒸れてきそうだと思ったところで、またも下着を下げるように命令される。しかも、やっぱり時間をかけて、ゆっくり下げろと言ってくるから、頭の中で三〇秒を数えながら下ろしていった。
 そして、足首にはショーツがかかっている。
 気づけば加奈江は肩幅ほどに足を開いていて、足と足のあいだでショーツをピンと真っ直ぐに引っ張っていた。お尻にはスカートの裏地を感じながら、アソコには淡々と摩擦を加え、少しずつ、本当に少しずつだけど、妙な快感が湧いてくる。
(なんて……)
 こんな状況だっていうのに、快楽は湧いてくるものなのか。
 湧かなくて、いいのに。
「へえ、いいじゃんいいじゃん」
「っる、さい…………」
 歯を食い縛り、苦痛に耐える思いでアソコを擦る。ワレメの端から端まで指先を往復させ、その摩擦の感覚で、だんだんと快楽が出て来てしまう。微妙に少し、むずむずとしてくる気配で、膣壁の奥にはもう湿り気が出てきているのがわかってしまう。
「うっ、くぅ…………」
 感じたくない。
 いいや、せめて感じていることはバレたくない。
「あれ? 気持ち良くなってる?」
「そんなわけ……」
「ふーん? 図星かー」
 言い当てられ、加奈江は口を閉ざして歪めていた。




 オナニーが続いている。
「あ、勝手にやめたら台無しだからな」
 なんてことを言ってくるので、いつどのタイミングで切り上げればいいかもわからずに、加奈江はアソコに指を絡め続けている。
 左手ではスカートをたくし上げ、そして右手でワレメに触っている。
 皮膚の表面を指の腹で摩擦して、そのせいで生まれる刺激は、不思議と膣の奥まで浸透する。頬とか、腹とか、足を指でさすっても、そんな風に筋肉で染み込む感覚なんでありはしないのに、アソコを擦る時に限って、奥へと続く何かがある。
(んぅ……やだ……やだ…………)
 嫌だと思う気持ちが膨らむ。
 嫌悪感だなんて言ったら、それは最初に脅された瞬間から、ずっと続いているものではある。こんな男に下着を見せたり、アソコを見せたりだなんて、煮えくりかえるくらいにムカツクことだけど、今の嫌だと思う気持ちは、なんというか種類が違う。
 砂糖にも種類があるみたく、それをブレンドしてしまったみたく、新しい種類の嫌悪感が、今の今まで湧き続けていた感情の中に混ざり始めている。
 こんな形で、この状況で感じている事実が嫌だ。気持ち良くなっていることがバレているのも嫌だ。何よりも一番嫌なのは、先生以外の男の前で、性的に悦んでしまっていることだ。心を許しているわけでも何でもないのに、何かを明け渡してしまった気分になって、それが嫌でたまらなかった。
(ちがう……ちがうの…………)
 生理的な反応だ。
 こんなもの、針を刺してくる相手が誰だったとしても必ず痛い。先生が相手でも、嫌いな相手でも絶対痛い。肉体の反応なんて、きっとそんなものだと頭では思っているけど、自分に対して言い訳をしている気持ちにだってなってくる。
 本当は感じてはいけないのに、感じてしまったことを誤魔化すための言い訳が頭に浮かんで、それを心の中で必死に並べ立てている。
(ちがうの……だって、実際…………)
 そう、実際そうだ。
 同じ力で殴られているのに、この人のパンチは痛いけど、愛する恋人のパンチだから痛みが発生しないなんて、そんなことがあるだろうか。この気持ち良さは、きっとそれと同じなんだと、加奈江は懸命に言い聞かせる。
 自分自身に対して、必死になって言い聞かせる。
(気にしなくて平気、気にしなくて……いや、気にしないなんて…………)
 無理だ、気にしないなんて。
 こんな目に遭っていて、それを気にせずケロっとしているなんて、無理に決まっている。
(うっ、やだ……本当に…………)
 指にはもう、愛液が絡み始めていた。
 最初は膣壁のあいだだけの話で、ワレメの外まで出て来ることはなかった。薄らと気持ちいいだけで、汁気なんてなかったはずなのに、続ければ続けるだけ、だんたんど指に湿り気が出て来たのだ。
 少し蒸れる気がする感じから、汗ばんだ感じへと、段階的に進んでいって、とうとうアソコと指のあいだに糸を引かせることができるくらい、愛液は出て来ている。その愛液が活性油みたく働いて、ヌルヌルするのが余計に気持ち良くて最悪だ。
 こんな状況で、カメラまで向けられているからこそ、気持ちいいことが最悪だった。
(先生、ごめんなさい…………)
 何を謝っているのだろう。どうして自分が悪いみたく思う必要があるのだろう。なんて気持ちも大いにあるけど、やっぱり先生に対して申し訳ない。
 愛液の出ている様子まで撮られている。感じているんだという証拠を撮られている。それは何だか、加奈江にも悪い部分があって、それを証拠に残されている気持ちになる。しかも証拠というなら、加奈江の方は貴樹のしてきた脅しを録音も何もしていなくて、貴樹だけが一方的に加奈江の弱みを握っている。
 こんなの、ますます不利だ。
 不利になる一方だ。
 悪循環でしかないじゃないか。
「一瞬だけさ。指、どけてみてよ」
 貴樹はアソコにスマートフォンを近づけてくる。
(む、無理……今そんなことしたら――――)
 指を遮蔽物の代わりにして、本数を束ねておくことで、濡れた感じだけでも隠している。愛液だけでも、なるべく見えにくいように意識している。それなのに、せっかくの遮蔽物をどかしてしまったら、濡れているところまで撮られてしまう。
「なあ、今更になって努力を無駄にしたい?」
「わ、わかったから…………」
 心がどんどん弱っていって、抵抗するエネルギーが削れているのを加奈江は感じる。だって秘密を守ろうと頑張っているはずなのに、結局はバラされてしまったら意味がない。
 貴樹は本当に有利だ。
 人の我慢を無駄にして、せっかく耐えてもやっぱりバラすというのが向こうには出来てしまう。
 まず、加奈江は顔を背けた。
 黒板だけに視線をやって、見ないように見ないようにとすることで、貴樹の顔も、カメラが迫っている状態も、視界の外に追い出しておく。目を背けておいてから、そして加奈江は指をどかした。
「うわぁ、糸が引いてるよ」
「うぅ……!」
 言葉によって羞恥を煽られ、頬から火花が散る思いを味わった。顔から火が出るなんて言い方があるけれど、本当に熱が噴き出たような気がした。
「へえ? こんなに濡れてるのか?」
 撮られている。
 じっくりと舐め回すようにして、アソコにスマートフォンをかざしている。微妙に位置や角度を変えながら、ねっとりと撮影しているのが肌にひしひしと伝わって、目を逸らしている意味がどれほどあるか、だんだんわからなくなってくる。
 ジリジリする。
 強すぎる日光とか、レーザー照射で肌が火傷しそうな感覚と、何となく似たようなものがワレメの皮膚に広がっている。表面がぬめっとしているから、大気の流れでひんやりとも感じるから、熱いのか冷えてくるのかややこしい。
「じゃ、続けて?」
 もう本当に、意のままの人形になった気分だ。
 いつになったら解放されるだろう。
 もしかしたら、このままずっと――暗い想像が頭に浮かんで、きっとそんなことはない、必ず解放されるはずだと信じるようにしながら、加奈江はアソコに触り直した。改めて愛液に指を触れさせて、ヌルヌルと塗り広げるみたくオナニーをしていると、やっぱり気持ち良さを感じてしまう。
 もしかしたら、クリトリスに血流だって集まっているかもしれない。
 体の方は興奮している。
 だけど、その興奮とは裏腹に、加奈江は危機感を抱いている。肉体の悦んでいるところを見たら、男の子にとってはそれが刺激となるんじゃないか。今はまだ理性を保っていて、飢えた獣の勢いで押し倒しては来ないけど、こんな犯罪をやってくる以上は、それも時間の問題じゃないかと怖くなる。
 貴樹は一体、どこまでのつもりでいるだろう。
 こうやってオナニーを撮影して、もしそこで終わるつもりだったとしても、最初は本番行為までする気はなかったとしても、いざ加奈江の自慰行為を前にしたら、やっぱり興奮でたまらなくなったりはしてこないか。
 それとも、やっぱり最初から、セックスまで考えてはいないか、とか。
 そんな恐怖が加奈江の胸にはどんよりと漂っている。
「エロいなぁ……本当に…………」
 そのぼそっとした声を聞いた時、加奈江の中にスイッチが入る。危険を訴え、本能的な防衛反応を煽らんばかりにするための、生物としてのスイッチが入った気がしたのだ。
 そのくらい、何かがあった。
 貴樹のその声音には、何かタガが外れていそうな感じがあった。
(で、でも……!)
 どうすればいい?
 どうにもできない。逆らったり、意地でも言うことなんか聞かない意思があったら、始めからこんなことにはなっていない。

「暴れたら犯す」

 ぞくっと、背筋が凍りつく。
 黒板に向け続けていた視線を動かし、釣られたように貴樹の顔を見てみた時、自分に向けられるギラついた眼差しで加奈江は悟った。

 ――本気だ。

 体中が戦慄する。
 加奈江の中で働く防衛反応は、もうこの瞬間から、逃げるとか暴れるといったものではなくなっていた。そうする方が逆にまずいと、体の方が判断をしてしまい、逆に全身が凍りついていた。
 できるだけ大人しく、相手の怒りを刺激しないように。
 そうすることで、せめて最後まで犯されないように祈るのが、加奈江に出来る最大限の自己防衛になっていた。
 貴樹はスマートフォンの画面を落とし、急に撮影をやめるなり、ブレザーのポケットにそれをしまう。
 そうすることで、手をフリーにしたのだ。
「ひゃっ!」
 両手が一斉、同時に胸に食らいついてきた。
「あ、ああ…………」
 体が動かない。
 ブレザー越しに、好きなように揉まれているのに、体の方が方針を決めているから、嫌だ嫌だと思っても、払い退けたり、「やめて」と口にすることができない。極力大人しくして、好きにさせるという防衛を行っていた。
「初めて揉んじまったよ」
 貴樹の方は、さぞかし嬉しいだろう。
 しかし、こうして膨らみに指が食い込み、形を変形させてくる感触を味わうのは、加奈江にとっても初めてだった。先生という決まった相手がいて、初めて乳房を揉ませるのは先生だと思っていたのに、恋人でも何でもない男の子に揉まれてしまった。
 悲しくてたまらなくなってくる。
 辛くて、息苦しい気持ちになってくる。
「こっちも触ってやるよ。気持ちいいんだろ?」
 貴樹はしゃがみ、アソコを触る。
「ひうっ」
 ビクっとして腰が引けたけど、払い退けたり、手首を掴んだりする反応は、やっぱり表に出せなかった。逆に自制心でそれを抑えてしまったくらいだった。
「うっ、うぅ――――」
 今度は貴樹の指によって、ヌルヌルとしたアソコを撫でられている。出ている声は、気持ちいいからなんかでなくて、他人の手で触られている状況に対してのものだけど、貴樹は何かを勘違いしてなのか、調子付いた様子で指を活発にしてくるのだ。
「うっ、やぁ――――」
 嫌だ……嫌だ……。
 触られてしまってまで、まだ気持ち良さを感じるなんて、こんなの嫌だ……。
「うっうっ、うぅ…………」
 嫌悪感に震え、肩を強張らせながら声を吐く。
 喘ぎ声なんかじゃない。
 我慢に我慢を重ねようとして、搾り出される心の悲鳴だ。
「指、入れてやるよ」
 だけど、貴樹はそんなことは気にしてくれない。加奈江の気持ちなんて気にせずに、人が快感で震えていると思ったまま、指を天に突き立てるみたくして、加奈江の膣内に挿入してきた。
「くぅ――ふぅぅ――――」
 心が苦しい。
 だけど、初めて性器を触っているはずの貴樹なのに、愛撫慣れしたような手つきをしているから、膣壁には余計な痛みが走らない。ヌメヌメとしたものが膣壁から指へ移って、だから指の表面はぬかるみにコーティングされていて、それが保護粘膜の働きでもするみたく、負荷はかかって来なかった。
 ワレメの表面をやられるよりも気持ちいい。
「んぅ、くぅ…………」
 心の苦しさのせいなのか、快感のせいなのか、自分でもわからない。
「へへっ、こうか」
 ふと見れば、貴樹はそれでも探り探りに、どうすれば加奈江は感じるのか、慎重に確かめるようにピストンしていた。最初のうちはゆっくり、焦らずに腕を動かし、慣れるにつれてだんだんと、指のピストンは活発になってくる。
「んっ、んぅぅ――――」
 ピストンのペースが上がるにつれて、アソコに走る快感は広がっていた。
「んっ……んぅ……んぅぅ………………」
 甘い痺れの量が増え、内股にはピリピリとしたものが走っている。足腰が反応して、太ももを微妙に開閉するみたく、モゾモゾとした反応をいつの間にかしてしまっていた。腰を微妙に前後するような反応で、腰までモゾモゾとさせてしまっていた。
(やだ……本当に、なんで…………)
 息が乱れる。
 熱くじわじわと、細胞が燃えるような感覚まで広がっている。下腹部がどんどん痺れ、電流の刺激も強まっている。
 いつしか、指で愛液をかき混ぜる音がくちゅくちゅ聞こえ、それでいい気になったかのように、指のペースはさらに上がっていた。
「んぅ――んっ、んぅぅ…………」
 見えない何かが膨らみ始める。
 尿意に似ているような、だけどそれとは違う何かがアソコの中で膨らんでいる。目には見えない風船が存在して、それが破裂に迫っているような、未知の感覚を前にして、加奈江は何か焦ったような、このままではまずいような顔をしていた。
 何が来るのか、このまま自分はどうなってしまうのか、加奈江にはわからない。
 ただ、何かが来る。
 このまま刺激が続いていけば、快楽が膨らめば、何かがどうにかなってしまう。
「や、やめ――――」
 とうとう、懇願の声を絞り出す。
 せめて指のペースだけでも落としてもらうつもりで、加奈江は目で懇願していた。
 だけど、貴樹は止まらない。
 それどころか、ますます指のペースが上がる。もはや勢いよくガシガシと、少しでも爪が当たれば激痛が走ってきそうな激しさで、素早く指を出し入れしてくる。普通なら負荷ばかりがかかって、きっと痛いではずの刺激だというのに、愛液がドロドロと溢れ出ているせいなのか、痛みなんてありはしない。
「あ、あぁ…………!」
 ますます大きく、何かが膨らむ。
 風船の膨らむペースが上がったように、余計に早く破裂に近づいて――

「あぁぁぁ――――――」

 ビクっとした後、加奈江は失神していた。
 精神的にも、肉体的にも限界を迎え、その場にぐったりと倒れ込み、さしもの貴樹も慌てるものの、彼は一分もすれば息を落ち着け、パシャパシャと写真を撮り始める。ただ気を失っているだけであり、時間が経てば目を覚ますはずだと判断して、ブレザーのボタンを外したり、ワイシャツのボタンを取ったりしながら、そのスマートフォンの中に加奈江の痴態記録を増やしていった。

 …………
 ……

 目が覚める。
 まだ夕暮れの中、ぼんやりと目を開き、そして自分が今まで寝ていたことに気づくなり、急に危機感が膨らんで、加奈江はハっとしながら大慌てで体を起こす。
「おはよう。十分で起きたじゃん」
 貴樹がショーツをひらひらさせ、加奈江に見せびらかしていた。
「やっ!」
 加奈江は慌ててスカートの内側に意識をやり、そこにはショーツの感触がないことに気づいていた。どうして眠ってしまったのか、人の意識がないあいだに、貴樹は加奈江のショーツを奪ったのだ。
「これ、記念に貰っておいてやるよ」
 物凄く、大きく口角を釣り上げていた。
「や……」
 唇がU字になりそうなくらいに吊り上がって、ここまで歪んだ人の笑顔を加奈江は生まれて初めて見た。
「ああ、明日はノーパンで来い。あと早起き得意だっけ? 待ち合わせ時間は後で送るから、朝の教室でまた会おうぜ」
 貴樹は加奈江のショーツをポケットにしまった上、それと入れ替わりにスマートフォンを取り出した。そこに写っている写真の数々を加奈江に見せつけて、わざわざ言葉にはしてこないけど、言わんとする意味はひしひしと伝わって来た。
「じゃあな」
 いい気になって帰っていく。
 きっと、大きな獲物でも手に入れたみたいな、最高の気分で機嫌がいいのだろう。
「最悪……あたしが何をしたっていうの…………」
 加奈江は俯いていた。
 悔しくて、悲しくて、その去っていく背中を見送った後、目尻から涙を零していた。

     *

 その翌日である。
 わざわざ、誰もいない早朝の教室で、加奈江はスカートをたくし上げていた。
「へえ? ちゃんと指示通りじゃねーか」
 貴樹の命令だった。
 あれだけの目に遭って、あれだけの写真も撮られて、ますます弱みが増えたのだから、先生と写った写真に限らず、バラ撒かれたら困る弱みも余計に増えた。そのせいで逆らえず、貴樹の命令に従う形で、加奈江は朝の早いうちから学校にやって来て、人知れずスカートの中身を公開していた。
 ノーパンだった。
 昨日の帰り際に言われた通り、下着を穿かずにやって来ている。スカートの内側がすーすーして、風が通れば股や尻に直接触れてくる。慣れない感じて落ち着かず、そわそわしてしまう状態で電車に乗り、今日は学校までやって来たのだ。
 そして、きちんとノーパンかどうかのチェックを受けている。

「よしよし、じゃあまた放課後によろしくな」

 悪夢はまだ終わらない。
 人の弱みを手に入れて、何でも言うことを聞かせられるとわかった貴樹は、きっと当分は加奈江のことを手放さないつもりでいる。
 一体、いつまで、それにどこまでされてしまうだろう。
 いつかは奉仕や本番を要求されて、それを断れない自分という、憂鬱でしかない未来が思い浮かんで暗くなる。
 やがて迎える夕暮れは、加奈江にとって地獄の時間の始まりだった。 


コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA