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 第三ゲームではさらにふざけたことを言ってきた。
「絶頂したら負けねー」
 いくら何でもありえない。
 オナニーについて白状させられてしまった通り、アソコを濡らした経験はいくらでもある。自分の指で感度を磨き、ある程度は感じやすいアソコに出来ている。
 だが、イったことなど一度もない。
 経験のないものを、こんなところで急に味わうはずがない。
 そう固く信じている美鶴への、男から下されるポーズの指示は、まんぐり返しに負けず劣らず恥ずかしい四つん這いである。
 単なる四つん這いではない。
 頭や肩の位置を低めて、尻だけを高らかにしたポーズは、下半身を人に差し出したも同然の形である。屈服でも強いられているようで、ポーズだけでも屈辱でならないところ、お尻へのマッサージが行われた。
 尻を中心のマッサージだけで感じさせ、美鶴を絶頂に導くらしい。
(やれるものならやってみなさいよ)
 強気に構えるようでいて、頬をたっぷりと染め上げて、表情には羞恥を含めた美鶴の顔は、唇を内側に丸め込み、ぎゅっと噛み締めてしまっている。つい先ほどまで油を注がれ、羞恥の炎が火力を上げ続けた余韻もやまないうちに、新しい恥ずかしさを与えられ、美鶴の顔は改めて燃え上がっている最中だ。
「肛門が丸見えだよー」
 などと後ろから言ってくる。
「Tバックの紐なんかじゃ、全然隠れないよねー。ほら、ただでさえ皺がはみ出てるのに、こうやってずらしたら、もう簡単に丸見えだよー?」
 尻のすぐ真後ろから、尻たぶを両手で撫で回され、あまつさえ紐まで指でずらされる。肛門を視姦される恥ずかしさで、美鶴はますます頬を固めて、心すらぷるぷると震わせていた。
「うるさいわ」
「あ、美鶴ちゃーん。今、ヒクってしたでしょ」
「してないわよ」
「うっそだー。可愛い感じに、キュって引き締まってたじゃん?」
「本当にうるさいわ。いいから、マッサージだけやってなさい」
「はいはい。んじゃ、しばらく集中しまーす」
 男はべらべらと喋る言葉を切り上げ、少しのあいだは静かに施術へ集中する。尻たぶをまんべんなく撫で回し、たまに指圧を加えるマッサージに、オイルの使用も加えて美鶴の尻は丹念に磨かれていた。
(ヒップアップね。余計なお世話よ)
 美鶴は今、これを立派な施術の一環であると認識している。
(あと八分三〇秒、まだまだね)
 先ほどまでの施術では、純粋なマッサージとは思っておらず、半分以上はただの性的な辱めとして認識していたが、そんな美鶴の現在の認識は異なっている。そのような専門技法があり、男はそれをやっているのだと、何故だかそう受け止めていた。
(――私の認識、本当に正しいのかしら)
 そして、自分で疑問を抱いている。
 人にポーズを取らせたり、質問への回答を強要したり、たとえトリックがあったとしても、それが解けない美鶴にとって、男のしていることは魔法じみている。その魔法じみたテクニックを用いれば、ある程度の認識操作はできるのではないか。
(例えば、今私が受けているマッサージは、本当は非常識だとか)
 といった風に考える。
 しかし、肝心の認識を操作され、これを正しい技法と思い込まされているのだから、いくら疑問までは抱いても、一度かかった魔法を本人の力では跳ね返せない。
(考え過ぎかしら)
 と、そうなる。
 もしかしたら、ひょっとしたら、とまではいっても、確信を抱くことができない。
 何よりも、そんなことより恥ずかしかった。
(くぅ……! どうせなら、この羞恥心も取り除きなさいよ)
 美鶴の尻の狭間には、二つの親指が往復していた。割れ目の内側に入り込み、上下往復によって指先を肛門に掠めさせ、そのたびに尻全体には刺激が走る。敏感な部分に触れられて、ビクっと電流が走った途端、皺の伸び縮みのように反応をしてしまう。
 ヒクッ、ヒクッ、と。
 肛門を蠢かせてしまうたび、そこに視線を注がれている事実を思い、美鶴は羞恥に顔中を燃やしている。
(あと四分――)
 美鶴の尻は輝いていた。
 オイルをまんべんなくまぶされ、皮膚が水分を保持した見栄えは、磨きたての宝石のように光沢を帯びている。滑らかな表面から、自分が一体どれほどの牝のフェロモンを放出して、見る者を惑わさんばかりにしているか、美鶴自身は気づいていない。
 ベッドシーツや床だけに視線を注ぐ美鶴としては、表皮を這い回る手の平や、指の感触を味わったり、視姦される感覚に苛まれているだけで、気持ちが忙しくてたまらない。自分の尻が一体どう見えるか、そんなイメージをしている余裕がなかった。
(あと二分……)
 恥ずかしさという名の拷問に耐えきって、無事にここから解放されることだけが、美鶴の一番の目的である。
 もう少し、もう少し――そう心で繰り返すことにより、尻の感触から気持ちを逸らし、顔に広がる炎を和らげようと努めていた。
 だが、その時である。

 ぺちん!

 急に尻を叩かれた。
「な……!」
 何をするのだと、肩越しに振り向いた瞬間に、もう片方の尻たぶも打ち鳴らされる。

 ぺちん!

 その打撃によって、下腹部が急にヒクヒクと激しく疼き、膣の奥から電流が迸る。激しい痺れが発せられ、それが全身に拡散されたかのように、尻や太ももの筋肉がビクビク震え、美鶴は思わず戦慄していた。
(ま、まずい――)
 危機感を煽られて、全身という全身に力を込めて堪え始める。
 てっきり、これが絶頂だと思ったのだ。
 この感覚が増幅して弾けた時こそ、イク時だと思ったのだ。
「へえ、耐えたねぇ?」
 上擦った声を聞くだけで、腹の立つ笑顔が想像できる。
「もう十分でしょう? いい加減に解放しなさいよ」
 と、そう強気に返した途端である。

 ぺちん! ぺちん!

 生意気な口を黙らせたいかのように、改めて尻が叩かれ、しかもその二発とも、何故だか膣壁がヒクついていた。
「あ、あと五〇秒よ……」
 なおも強気に返す。

 ぺちん! ぺちん!

「んっ、くふぅ……四〇秒…………」
 溜飲を下げたくてたまらなかった。
 ここまで屈辱を味わって、恥ずかしい目に遭わされ、今現在でも恥辱に苛まれている美鶴には、たった一度でもゲームに勝つことで、どうだイカなかったぞ、と鼻を鳴らしてやりたくてたまらないのだ。

 ぺちん! ぺちん!
 ぺちん! ぺちん!

 そんな目論見を抱く美鶴の、尻たぶが左右交互に叩かれている。
 一発の衝撃が走るたび、膣壁がキュッと引き締まると同時に、肛門もまたヒクヒクと反応を繰り返している。
「さ、二、二〇……いい加減、諦めて頂戴、あっふぁ…………」
 強気な言葉は、しかし喘ぎ混じりである。

 ぺちん! ぺちん!
 ぺちん! ぺちん!

 そして、何かが膨らんでいた。
 アソコの内側で、見えない何かがだんだんと、叩かれるたびに大きく膨らむ。目には見えない風船が存在して、それが破裂に近づいているように、徐々に危機感を煽られている美鶴だが、あともう少しの辛抱なのだ。

 もう少し、もう少しよ!
 イカない……絶対にイカないわ……!

 強い決意を胸にしていた。
 極限まで意地になりきり、命すら賭ける勢いで、体中を余すことなく強張らせる。ありとあらゆる筋肉が石となり、力むあまりにぷるぷると震えていた。
 だが、そこまでしても――。

 くにっ、

 と、肛門に指が置かれて、ほんの数秒のマッサージが行われた瞬間だ。
 衝撃に目を見開き、絶句するほどの激しい電流が体中を駆け巡り、美鶴は頭を真っ白にしながら大口を開いていた。
「――――――っ!」
 声にならない絶叫と共に、潮を噴こうとする勢いで、ショーツを激しく濡らしているのであった。

     *

 悔しくてたまらなかった。
 あれだけ耐えようとしたにも関わらず、それでもイカされてしまった無念に打ちのめされ、それから休む間もなく次のゲームの内容が告げられる。

「三〇分間、絶頂我慢ゲーム! 五回イったら負けだからねー?
 で、負けたら肉壺肉棒マッサージ、白濁オイル付きでいっちゃうっしょ!」

 しかも、その際にとある催眠をかけられていることに、美鶴自身は気づいていない。
 何かそういう力の存在は悟りつつ、具体的にいつどのように力が行使されているかまで、掴み取ることはできなかった。

 イった場合、それを口頭で報告する。

 それが今、美鶴にかかっている催眠である。
 その催眠内容を美鶴自身は知らないまま、改めての愛撫は始まっていた。

「あっ、くぅぅ……んぅぅ…………!」

 始まってから一分も経たないうちに、もう声が出始めている。
 仰向けに姿勢を戻し、タイマーの時間も変え、カウントダウンを開始してから、男はすぐにでもアソコを嬲り始めた、布をずらして、ワレメを直接指でなぞって、その刺激に美鶴は淫らで熱い息を吐き出している。
「ヌルヌルだねー? もうずっと気持ちいい時間を過ごしてきたもんねー?」
 男の言うように、美鶴のアソコは愛液をたっぷりとまぶした状態で、触ればその表面でヌルっと、指はあっさりと滑り動く。
「うっ、んぅ――るっ、さいぃ…………!」
 苦悶のようなものを浮かべて、喘ぎ混じりに言い返す。
「まだまだ強気な感じ? でも、もうすぐじゃなーい?」
 指が活発になった。
 ワレメを上下になぞり回して、そのついでのようにクリトリスにも掠めてくる刺激は、みるみるうちに電流を発生させ、それが下半身を激しく行き交う。神経を内側から熱に溶かされ、それが甘ったるい何かに変わって体内を漂うような、快楽の充満が進むだけ進んだ時、美鶴の腰はついにビクっと跳ね上がった。
 軽く潮すら噴きながら、一瞬の跳ね上がりを披露してた。

「い、イったわ――――」

 そして、催眠がかかった通り、その効果によって美鶴は宣言する。
「!」
 そんな自分自身の宣言に対して、美鶴はひどく驚愕していた。
「へえ? これで一回じゃん?」
「ま、待ちなさい! 何を言わせたの!? なんで私は――――」
「自分で申告してくれたって感じだろ? 偉いねぇ? ルールを意識してくれちゃって」
「誤魔化さないで! あなたの妙な力で言わせたんでしょう!?」
「おお? 頭の回転が速すぎて、美鶴ちゃんって微妙に怖いよね。チートでもなきゃ、あんまし挑みたくない部分あるわー」
 調子のいいことを言いながら、男は指を潜り込ませて、今度は膣内に出し入れさせる。
「あっくっ、んぅんぅぅ――やめっ、なさ……い…………!」
 ピストンから生まれる刺激に、またも美鶴は腰を震わせ、脚を激しく開閉させんばかりに痙攣していた。

「イったわ……あっ、また……!」

 申告を行い、その自分自身で行う申告に対して、美鶴はやはり驚愕する。
 それだけではない。
 絶頂のたびに宣言してしまうこともそうだが、短時間のあいだに呆気なく、もう二度もイカされている。
 こうなると、美鶴はもう確信していた。

 ……勝てない。

 さすがに泣けてくる。
 男の提示した条件は、美鶴にとって始めからクリア不能なものなのだ。決して耐えきることのできない快楽を与えられ、あと三回の絶頂をただ待つことしかできないのだ。

「んぅ! あっ、あぁ――い、イった……!」

 三度目の絶頂を告白するのは、クリトリスを指で集中的に弄り抜かれて、その刺激に対してだった。敏感な部分をやられ、足腰に電気を流し込まれるような激しさを味わって、気づけばまた弾けていた。

「あぁぁんぅぅぅ……! あ、また――イった…………!」

 四回目の絶頂を告白するのは、指が性器を離れ、乳首を集中的にやられた時だった。両手でそれぞれの乳首をやられ、絡みつく指先によって愛液を塗り込まれる。その滑りの良さを活かした刺激に翻弄され、気づけば胸でイってしまっていた。

 こ、この男は――私をイカせるなんて、簡単にできるってわけ――。

 まるで圧倒的な差を実感させられたようだった。
 プロと素人ほどの格差を見せつけられ、とてもでないが敵わないことを痛感させられてしまった感覚を、この一連の絶頂によって繰り返し味わい続けた。
「で、あと一回なわけだけどさー」
 その時、男はベッドによじ登る。
 美鶴の身体に跨がる形で膝立ちに、そうすることで男は一物を見せびらかしてきた。

 美鶴の顔には、大きな逸物の影がかかった。

 立派な覇気をまとったそれに、美鶴は思わず目を奪われ、その直後には逆に背ける。
(何を見てるのよ……)
 こんなものに、こんな状況で興味を持ってどうすると、美鶴はなおも理性を保とうとしていたが、体の素直さには自分でも気づいている。それが挿入された時、一体どんな快感があるのだろうと、腹の底ではもう興味を抱いてしまっている。
「欲しい? 欲しいとか思っちゃった?」
「別に」
「いらないならいいけどさ? でも、んじゃあ次はもっとさ、我慢しやすい感じにしてあげよっか? チャンスを与えるっていうかさ」
「何よそれ」
「だーって、手加減しないと簡単にイっちゃうじゃん? このままじゃ運命確定じゃん? 少しくらいチャンスがないとつまんないじゃーん?」
 どうせ勝つのは自分だから、とでも言わんばかりの余裕でもって、男はそんなことを言い出している。
「ありがたい話ね」
 美鶴は素直に受け取った。
(そして、せいぜい後悔しなさいよ)
 わざわざ美鶴に耐え抜く余地を与えるというのなら、そのせいで三〇分という時間を過ぎる可能性は、どの程度かは不明だがあるはずだ。
「じゃあ、そういうことで」
 それから、男は手足のマッサージばかりをやり始める。
 まだ二〇分以上も残っているから、ハンデのために残り時間を調整すると言い出しての、性感帯とは程遠い場所への愛撫である。手の平や足の平を指圧され、ぐいぐいとツボを押される際の気持ち良さは、性的な快楽というよりも、純粋なマッサージとしての気持ち良さに過ぎなかった。
「リラックスリラックス」
 と、男のかけてくる言葉は、何故だか魔法のように美鶴の身体を脱力させ、本当にリラックスができてしまう。
(なん……で……)
 この男に与えられるものである。
 美鶴は反射的に抗うが、無駄だった。
 意識がほわほわと、夢見心地のようになり、四肢からも力が抜ける。指先からみるみるうちに体が溶けて、自分の存在がベッドに染み込んでしまう感覚すら湧いてくるほど、全身のあらゆる筋肉がほぐれていた。
 美鶴はまどろみの中に飲み込まれた。
 沈んだ意識が浮かび上がって、ふと思い出したようにタイマーの時間を見ると、残り時間はたったの二〇秒となっていた。
「じゃあ、耐えたかったら耐えなよ」
 まるでイってもイかなくても、どちらでも構わないような言い方で、久々のようにアソコに指が置かれるも、何故だか最初ほどの快楽はない。気持ちいいことは気持ちいいが、呆気なく四回連続でイカされた際の激しさに比べると、拍子抜けする程度の快感だ。
 といっても、比較対象が大きいだけで、やはり十分に気持ちいい。
(なんなのよ……この快感は……本当に……)
 オナニーで感じる自分の指より気持ちいいことに、文句ありがちに心の中で呟いていた。
 つい拍子抜けしてしまったが、今の快感も通常は上回る。

 くちゅっ、くちゅっ、

 指が出入りすることで、粘液を捏ねた水音がよく聞こえる。ピストンによって生まれる指と膣壁との摩擦は、甘い刺激となって下腹部を駆け回り、やはり目には見えない風船が膨らんで、破裂に向かう感覚が湧いてきた。
 この感覚を堪えなければ、確実にイカされる。
 しかし、先ほどの四回とは違い、我慢の意思さえ持っていれば、膨らみを抑え込める。あと一四秒、一三秒、残り時間を考えても、耐えきることは現可能である。
(やっと――)
 ようやく勝てる。
 ステージをクリアすれば、あとは解放の約束さえ守ってもらえれば――守る気があるのかはわからないが、ともかく勝てることは勝てるのだ。
「ちなみに欲しかったらイクように」
「は?」
 もちろん、肉棒のことだろう。
 欲しいわけがなく、美鶴は反射的な声を上げるが、まるで魔法でもかかったように、その瞬間に心の中には何かが湧く。
(何? 急に……)
 突如として、アソコが切なくなっていた。
 今の指ピストンだけでは物足りず、もっと大きな何かがなければ、決して満足できない寂しさが急に膨らむ。この先ほどまでなかった感覚は、やはり催眠によるものではないかと疑って、美鶴は意地でも我慢を試みる。
 八秒、七秒、あと一息だ。
 どんな魔法かは知らないが、目先の快楽に釣られないよう、理性を保つべき時間は、あとたったの数秒である。
 しかし、同時におかしな考えが湧いてきていた。

 もしも約束を守られて、挿入無しで解放されてしまったら?

 美鶴自身、わかっている。
(違う、こんな考えはおかしい。私の考えではないはず)
 そう気づきすらしていた。
 これは外側から植えつけられたものであり、自分自身の心の中から湧いてきたものではない。よってそれに従うことは、男の意のままにコントロールされることと同じであると、美鶴は自制心の限りを尽くして、残る数秒を乗り切ろうと気合いを入れた。
 だが、その美鶴に対しての追い打ちはこうだった。
「約束通り解放しないとね」
 頭が揺れた。
 その言葉自体に脳を掴んで、前後左右に揺り動かす力でもあるように、頭蓋骨の中身を揺らされていた。
 もうその時には、風船の膨らみを、それを抑えるための我慢を忘れていた。
「あ……!」
 忘れたのは、ただの一瞬のことだった。
 だが――「しまった!」と、己の失態に気づいた焦燥を抱く頃には、残り一秒の表示に重ねるように、ちょうどそのタイミングで美鶴はビクっと腰を跳ね上げ、背中をアーチのように反り上げていた。

「い、イったわ…………」

 そして、絶頂宣言の効力が残っていたために、美鶴はそう口にしていた。放心気味の顔でアラーム音声を聞きながら、美鶴は自分がどんな負け方をしてしまったか、一体何を望んでしまったかの自覚と自己嫌悪に陥っていた。





 
 
 

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