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 頭が爆発しそうだった。
 ウェインが、グレンが、ストラングが、それぞれの目つきでジロジロと、これから裸になろうとするニニムに注目してくる。ストリップを披露するというのに、注目するなという方が無理なのだろうが、こうも見られているとやりにくい。
 何よりも恥ずかしさに耐えきれず、まだ一枚も脱いでいないうちから座り込み、気づけば蹲っていた。リボンを引っ張り、首からほどこうとしたはずが、いざとなったら別の行動を取ってしまっていた。
 それで容赦してくれればよかったが、そうもいかないらしい。
「ニニムさーん! ほらほら立って! 頑張って頑張って!」
 ウェインが背後に回り込み、無理にでも立たせようとしてくるのだ。
「いや、ちょっと! なにするのよ! 触らないでってば!」
 ニニムは半ば本気で嫌がる。
「自分で脱げないんだったら仕方ないだろ?」
「そんなこと言ったって――」
「ファイ、おー! だぞ?」
「そう言われても――んひっ、ちょっとそこは……」
 脇の下に手を入れて、幼児でも抱き上げようとするように、ウェインは持ち上げようとする力をかけてくる。それで簡単に立たされるわけではないが、このままでは本当に脱がなくてはいけなくなる危機感に、ニニムは無意識のうちに助けを求めていた。
 ちょっと、何とかしてよ、といった気持ちがいっぱいに膨らんで、ついついそんな視線をロワに向けてしまっていた。
 同性なら味方のはずという先入観で、懇願のような目を向けていたのだったが、そのロワとて勝負に負けている。ニニムと同じ立場にある以上、その答えは申し訳なさそうに視線を背けるものだった。
 逸らされる直前の目が言っていた。「ご、ごめんなさい……」と、そんな眼差しがまさにあった。
 ロワに頼れるはずもなく、ウェインはノリノリで、グレンやストラングが反対してくれるわけでもない。
(絶望的じゃない)
「おい、二人とも手伝ってくれ」
 この状況に追い打ちをかけるようにして、そんなことをウェインは言い出す。
「ちょっと……本当にちょっと……」
 頼むから待って欲しい。頼むから勘弁して欲しい。
 ニニムの胸はそんな気持ちでいっぱいだった。
「仕方ないね。行こうか、グレン」
「そうだな。自分で脱げないなら、手伝ってやるしかないだろう」
 二人はすぐに乗り気になってニニムに迫る。
 男三人に囲まれて、腕やら肩やらを掴まれる心地といったらなく、命でも握られたような戦慄気味の顔でとうとう立たされ、それどころかニニムは両手を後ろに縛られる。手首に巻きつけられる瞬間の、「え? え?」という困惑といったらなかった。
「ちょっと! それじゃあ脱げないじゃないのよ」
 自由を奪われ、さすがに声を荒げてしまう。
 自分でも妙な抗議の仕方だとは思いつつ、口を突いて出てきた言葉はそれだった。
「なーに、抵抗を封じただけさ。ほら、反射的に、つい暴れてしまわないように」
 ウェインは実に爽やかな笑顔である。
 人の手首を縛り、ストリップを強要しながら、ここまでフレッシュな笑顔を浮かべるウェインの問題児ぶりをニニムは改めて思い知る。ロワが持ち込む企画のおかげで、このところ行っている活動でも繰り返し思い知っていたのだが、今ここでまた改めて思い知る。
「なんでそんな綺麗な笑顔なのよ……」
「イケメンだから?」
「ないわ」
 ニニムは目を逸らす。
「ないね」
「ああ、ない」
「あれぇ? 酷くなーい? なんか酷くなーい?」
 ウェインはロワを見る。
 ロワは目を背ける。
 それはまったく予想通りの反応だったが、今のニニムはそんなやり取りに構っているような気分ではない。
「ロワさん!?」
 その微妙な狼狽に構っている気分ではない。
 縛られてしまったということは、ならば人の手で衣服を脱がされるということであり、それはそれで戦々恐々としているのだ。一体、自分の手で脱ぐのと、人に脱がされるのなら、どちらの方がマシなのか、ニニムにはさっぱりわからなかった。
「ま、まあいいや。とにかくニニム、まずはお前からだ」
 気でも取り直したように、ウェインはニニムに目を向ける。
 腰の後ろ側で両手を縛られ、自由なのは足のみとなっているニニムの、今日の服装はナトラでも普段から着ている私服である。肩や二の腕を剥き出しに、ボタン留めのシャツの首には黒いリボンがぐるりと一周している。
「さあさあ、脱ぎ脱ぎしましょうか」
 ウェインはニニムに躙り寄る。
「やっ、ちょっと……待って……本当に待って……」
 弱り切った声を上げ、ニニムは一歩ずつ後ずさる。引き攣った笑いを浮かべているのは、この追い詰められた状況に、もう逆に笑うしかないような、どこか壊れた心境に陥っているせいだった。
 狭い教室の中である。
 後ずさってみたところで、すぐに背中が壁に当たって、もうそれ以上は後ろに行くことができなくなる。壁際に追い詰められ、右も左も塞がんばかりにグレンとストラングが立っているので、仮に走って逃げ出そうにも、容易く捕まって終わりだろう。
 しかも、ロワが目で言っていた。
(次は私なんですよ?)
 黒い笑みを浮かべて言っていた。
(ニニムさんが脱いで下さらないと、私がやりにくいじゃないですか)
 その目はそう語っていた。
 唇が動いているわけではないので、読唇術で読めるわけでもないのだが、ロワは絶対にそう思っている。
「あ、あとで指折るわよ……」
「ん? どーぞどーぞ」
 今は無理でも、後から後悔させてやるようなことを言ってはみるが、ウェインは止まる気配を見せてこない。気にも留めずに手を伸ばし、その迫り来る指先に、ニニムはただじっと固まっていることしか出来なかった。
(やだ……もう無理…………)
 指の接近がやけにゆっくりに感じられ、そのせいか迫って来るのもゆっくりだ。やがて指先がリボンに触れ、それを引っ張り抜かれた後で、ボタンを外されるはずなのだが、そのスタート地点であるリボンへの接触がゆっくりゆっくりと迫って来る。
 本当にゆっくり、ゆっくりと。
 時間の流れがやけに緩やかになっているように、徐々に迫って来るウェインの指が、やっとのことでリボンに触れる。結び目を解かれて、首の部分から引き抜かれると、段階が一つ進んでしまった実感が体を満たす。
(リボンが……)
 まだ、リボンだけだ。
 何が見えているわけでもなく、恥ずかしい要素はないわけなのだが、身に着けていたものの一部がウェインの手に渡り、自分の身体から遠のいている。防具を一つ失って、守りが緩んだ心許なさで、不安のようなモヤモヤとした曇りが心の中に漂っていた。
 ウェインは取ったリボンを適当に近くのテーブルに置いた後、改めて指を近づける。その接近もまた、やはりゆっくりに感じられ、ニニムは焦らされ続けている。処刑に例えるのは大袈裟だが、ギロチンが降ってくるのは今か今かと恐怖だけを煽られて、実際には落とされることがなく、生きた心地がしない状態が延々と続くようなものだった。
(いっそひとおもいにやりなさいよ……)
 とすら、ニニムは思う。
「到着」
 やっと、ウェインの指がボタンに絡む。
 衣服の上から、まだきちんとは乳房に触れていない。ボタンだけを器用につまみ、中身には触れてこないが、今にも接触しそうなミリ単位の距離感に指はある。あと少し、たった一センチでも前に来たなら、乳房は簡単に触られてしまう状態だ。
 ボタンが外れる。
 まず一つ外れただけで、また一歩裸に近づいた感覚がして、ニニムはさっと顔を背ける。ウェインの顔を直視できずに、そしてグレンやストラングの顔を見ることもできず、誰と目を合わせることも避け、壁や床だけを凝視していた。
 もう一つのボタンが外れる。
「お? 白か」
 中身のブラジャーが見えた瞬間、ウェインが嬉しそうに言う。はっきりとは露出していないが、隙間からチラつくように見えているに違いなかった。
「へえ、王道だね」
 ストラングが関心したように言っている。
「おいウェイン、俺も早く見たいぞ」
 などと、グレンがウェインを急かしている。
 ウェインに見られ、ウェインの声で煽られただけでなく、二人にまで情報が伝わった恥ずかしさで、たまらずに頬を強張らせる。赤らんだ顔に歪みを強め、ニニムはただひたすらに耐え忍んだ。
「ひと思いに、楽にして頂戴よ……」
「おいおい、命を取るわけじゃないんだから」
「そうだけど……」
 わざとらしく、ゆっくりとボタンを外される状況は、ただでさえ恥ずかしいのを、余計に恥ずかしくしてくるものだ。ニニムにとっては本当にたまらずに、だから懇願の思いも込めて告げたのだが、ウェインはそれとなくかわすだけだった。
 さらにボタンが外れていく。
 ニニムの着ている衣服の組み合わせは、腰からマントを垂らした形である。白いノースリーブに対して、腰マントの方は青く、その構造を言うなら腹巻きのように巻きついている。胴にぴったりとフィットして、上からシャツを締め付けていた。
 だからマントを外さなければ、シャツのボタンを全て外しきることはできないが、乳房を露出させるには十分だった。
「オープン」
 ウェインの手で、左右に開かれてしまう。
 自ら見せるのであったなら、躊躇いからもっとゆっくり手が動いたり、あるいは耐えかねて腕で隠していたかもしれない。しかし、ニニムの手首には縄が巻きつき、そしてウェインの手ではだけられるのに、躊躇いも抵抗もあったものではなかった。
 白いブラジャーがあらわとなった。
「おおっ」
 ウェインの関心しきった声と、突き刺さる視線が痛い。
 ニニムの着けているブラジャーは、乳房の形に合わせた立体構造を作り出す職人の手がけたもので、カップ上の部分が薄らかな胸の形状に沿い合わさっているだけでなく、表面にほどこされたレースや刺繍など、見栄えする装飾さえもが目を引くのだ。
 ニニムにとって、是非とも身に着けてみたい、綺麗な下着だと思って買い取ったものである。性的な好奇心を抜きにしてさえ、見栄えして視線を引き寄せかねない、豪奢な輝きがウェインの目を集中させている。
「んじゃ、この下着もずらしてっと」
 ブラジャーをずり上げられ、とうとう乳房が露出してしまった。
 まず真っ先にウェインの視線が突き刺さり、それだけでも恥ずかしくて顔が燃えるようなのに、グレンやストラングにも視姦されることになる。ウェインはニニムの背後に回り、「どうだ、いいだろう」と言わんばかりに、ニニムのことを二人に見せびらかし始めたのだ。
「ほーら、存分に見てくれ」
 我が物を自慢するようにウェインは言う。
「なるほど? 薄らとしていて可愛らしいね」
 ストラングの評価は率直かつ、しかし好意的なものだった。
「そうだな。なんというか、とにかく可愛い」
「グレンはそれしか言えないのかな」
「ぐうっ、う、美しい……」
「そうだね。形がとても美しい。綺麗な肌から、ふんわりとしたものが僅かに盛り上がっている感じがなかなかだよ」
 二人の言葉で品評が行われ、ニニムはますます顔を歪める。
 しかも、これだけでは済まなかった。
「んぅ……!」
 ウェインが触ってきたのだ。
 背後から抱きつく形で、後ろから両手を回し、いかにも見せびらかしているように、それぞれの指で乳首を弄る。絡みつく指により、乳首が上下左右に動かされ、摩擦による刺激を受けているうち、すぐにでも甘い痺れは走っていた。
「さ、触るなんて聞いてないわよ」
「え? そうだっけ?」
「そうよ! い、今すぐ……」
「どーしよっかなー」
 ウェインの手は止まらない、
 乳首どころか、乳房にも手を被せ、揉みしだく真似までしてくるのだ。それら刺激で胸がみるみるうちに敏感に、乳首で感じ始めたニニムは、とうとう先端を突起させ、火照った顔に快楽を薄らと浮かべていた。
 単に乳房を見られているだけではない、触られている姿でさえも鑑賞され、その上で感じさせられている。この状況に対する羞恥心や憤りで頬は固まり、そこにほんのりと快楽の気配を見え隠れさせていた。



 
 
 

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