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 トイレを出て、その上でショーツを上げる。
「お疲れ様」
 などと言い、出迎えてくる石動先生の傍らで、石井はニヤニヤしながら人の性器を眺めてきている。その恥ずかしさで薄ら赤らみ、不快感を胸にしながら、佳純はさっさとショーツを持ち上げていく。
「どうも」
 スカートを穿き直し、そして案内の続きとなるが、続きといってもほとんどの場所はもう見たが、まだ回っていない場所として、佳純の脳裏には一つの名前が浮かび上がる。それはそのまま悪い予感として胸中を漂った。
「ふふっ、じゃあ続きね。今度は懲罰室を案内するわ」
 そして予感は的中して、次は懲罰室を目指すこととなる。
 しかも石動先生は、せっかくだからと言わんばかりに石井を誘い、三人向かう流れとなるが、男子を連れて行く意図など、この先生の場合は一つしかない。会って数時間程度だが、石動先生について佳純は理解しかけていた。
 案内された先の懲罰室は、ドアにプレートの文字を掲げただけの、名前さえ除けば職員室や進路指導室など、どの学校にもある部屋の雰囲気と変わらない。ドアを開いた中身はさぞかし変わっていることだろうが、入口からして目立つわけではないようだ。
「さあ、佳純さん。入るわよ?」
 いかにも何かを楽しみにしている顔で、石動先生はウキウキとドアノブを握って中へと進む。それに続いて石井が進み、佳純もまた入っていくと、部屋自体は変わり過ぎというほどには変わっていなかった。
「鉄格子でもあるかと思った」
 見れば壁には、絵画でも飾るようにして、パドルが――卓球のラケットに少し似たヘラ状のものが、いくつか並んでいる。それから棚や道具箱が置いてある。テーブルがあり、椅子がある。拷問器具を並べた拷問室のイメージともかけ離れ、見たところは随分と普通であった。
「鉄格子? そんな牢屋みたいなところじゃないわよ? ただお尻を叩くための部屋ってだけなんだから」
「二度と来る機会がないように努めたいところです」
「そうねぇ? きちんとしていれば来なくて済むと思うけど、今回は学校案内の一環として、特別に体験をしてもらうわ」
「何も悪いことはしていないのに、ですか?」
 半ば予想通りとは思いつつ、抵抗感がみるみるうちに膨らんだ。
 佳純にはそのような経験はないものの、お尻を叩く体罰は、親が幼児期の子供にするような、古臭い躾のイメージがある。どこでそんなイメージを覚えたか、佳純自身にもよくわからないが、何かそういうものだと捉えている。
 これから高校生になるというのに、この歳でされるようなことではない。オムツでも穿かされたり、赤ん坊の玩具でも与えられ、そういう扱いによって屈辱でも与えられることに似て思える。
「懲罰は全部で三段階」
 しかし、石動先生は構わず説明を開始する。
「一番軽い場合でも、パンツを下ろして直接叩くわ。レベル2ではスカートとパンツを両方下げて、レベル3ではパドルを使うわ。拷問みたいな痛みを与えるわけじゃないけど、レベルが上がると細かい作法が追加されていくわ」
「ツーにスリーですか」
 スパンキングで随分と格好付けたものである。
「というわけで、レベル1にしておくから、早速体験といきましょう?」
「何の意義が」
「新入生代表として、学校のことを誰よりも早く把握してもらおうとしているだけよ」
「そうですか」
「さあ、パンツはゆっくりと下ろすの。やってみなさい?」
 石動先生は命じてきた。
 ニヤニヤと嬉しそうな男子を傍らにした先生の笑顔は、そうやって男子の存在を見せびらかし、お前はこれから視姦されるのだと言わんばかりのものだった。薄々と気づいていたが、石井のズボンがふと目に付くと、股間が明らかに膨らんでいた。
「……では」
 佳純は実に渋々ながら、納得のいかない気持ちで再びスカートに手を入れて、その中にあるショーツのゴムに親指を差し込んだ。下着を脱ぐ姿については、もう先ほど見せてしまっているのだが、二回目でもやはり恥ずかしい。
 もちろん、少しは慣れているのだが、羞恥心が完全には引いてくれない。
 ショーツを徐々に下ろし始めて、その下降に合わせてだんだんと姿勢を低める。足首に到達させた途端、石動先生は指摘してきた。
「少し早いわね。言い忘れていたけど、三〇秒が目安よ?」
 わざとではないかと佳純は思った。
 校則や作法を全て覚えきっているはずなどないのだから、最初に言ってくれなければ、目安など知るがずがない。煽らんばかりの指摘がしたくて、わざと言わずに脱がせたのではないかと疑った。
「それも作法ですか。それで、全部脱ぎきるんですか?」
「足首までよ」
「わかりました。やり直します」
 本当に納得がいかない。
 やり直させられるのも気分が悪いが、そもそも佳純は悪いことをしていない。お尻を叩かれなければいけない酷い非行といったら、万引きやカツアゲのような犯罪のラインに到達していなくては、体罰やむなしの論を唱えるには弱いのではないか。
 人をリンチでもして病院送りにでもする輩がいれば、その犯人が拳で指導されたとしても、納得する人間はいるだろう。
 ただの体験などでお尻を叩かれてたまるものか。
 本当に何もしていない以上、どうして自分が、という思いで佳純の胸はいっぱいだった。
「あと言っておくわ。脱ぐ時には自分の名前を名乗って、ショーツを下ろさせて頂きますと宣言するの」
「……では、青木香澄、ショーツを下ろさせて頂きます」
 戻したショーツを改めて下げ始める。

 じぃぃぃ……

 と、嬉しそうに見てくる石井の視線を前に、佳純は徐々にショーツを下ろしていく。心の中で数を数え、頭の中には目安を作った。足首への到達が三〇秒なら、膝への到達には一五秒くらいだろうかと、佳純は実にゆっくりショーツを移動させていた。
 ゆっくり、ゆっくり、下ろしていく。
 そこに視姦をしてくる男子がいて、そして女王気取りで優越感に浸る女教師がいることで、佳純はある種の感覚に囚われていた。
 さっさとやってしまえば、一秒で済む作業である。
 たった一秒で足りるのに、それを三〇秒もかけて行う。三〇倍もの時間をかける。どうせ済ませるなら、一瞬で終わらせたい心境とは裏腹に、強制的に時間をかけされられるのは、苦痛の引き延ばしのようだった。
 心で五秒を数えたところで、しかも石井は後ろに回り込み、真後ろにしゃがんで尻の視姦を始めてくる。
(最悪……)
 正面から向かい合った形なら、少なくとも腰を折り曲げた状態なので、前からはアソコが見えにくいはずだった。後ろに回られてしまうと、お尻は隠れている時間がなく、腰がくの字気味な関係で、むしろ突き出していることになる。
 尻をジロジロと眺め尽くされる不快感と、薄らとした羞恥心を表情に滲ませながら、一〇秒、一五秒と心で数え、そして膝を通過させていく。
 目安の三〇秒とやらで、ショーツは足首に絡んでいた。
 先ほどのトイレ同様、足の開き具合によってピンと伸ばして、だから見ようと思えばクロッチが簡単に見えてしまう。今日のショーツもある程度は着古しているので、薄らながらにおりものの染みは付いているのだ。
「じゃあ今度は、机にお腹を乗っけてね? お尻はしっかり突き出しておくように」
「…………」
 無言で進み、粛々と従う。
 机の板に上半身を乗せた時、思い出すのは病院での四つん這いだ。姿勢のために性器と肛門の両方が丸見えで、本当に最悪な思いをしたが、この机も位置が低い。膝だけを立て、頭や胸は下に接した四つん這いで恥部の穴が見えるのだから、太ももの半ばより低い机で腹這いでも、きっと後ろからは丸見えだ。
 石井は当然のように後ろに控え、肝心なものを視姦する気でいっぱいだ。
(やればいいんでしょう? やれば)
 恥ずかしいし屈辱なので、さっさと終わって欲しいという、佳純の心の中にあるのは、もう完全にそればかりだ。きちんとスカートを上げておき、尻を見せびらかしているのも、全てその心境のためだった。
「それじゃあ、叩くわよ?」
 と言って、石動先生は道具箱の方へ向かい、ボックスの蓋を開いた中から何かを取り出す。顔に突きつけ見せびらかしてくるものは、長さと太さのちょうど良い定規であった。
「使うのは平らな部分ですよね」
「じゃなきゃ、さすがに怪我をしちゃうじゃない?」
 石動先生は佳純の視界から姿を消す。
 四つん這いに対する胴の真横、尻のすぐ隣に立っているのが気配でわかり、今に定規を振り上げている姿の方は、脳裏のイメージとして浮かび上がった。

 ペチィ!

 音が響き、尻が痺れた。
「どう?」
「痛いですね」
 加減はしているのかは知らないが、耐え難い苦痛ではないにせよ痛いは痛い。いかに屈辱的であるかを語っても良いなら話は別だが、どう、と聞かれても痛いとしか言いようがない。
「石井くん? 見えているものを教えてあげたら?」
「は、はい! お尻の穴も、アソコも両方見えます! パンツも……!」
 わかってはいたことだが、そうやって明確にされてしまうと、頬に宿った熱が上がって、顔がより赤くなる。
「だそうよ?」
「そうですか」
 表面的には無反応を装うが、なんて意地の悪い真似をするのかと、内心では腹を立て、恥辱も少しは膨らんでいた。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 定規の平らな部分が当たり、そこから大きな音がなる。
 音が反響しやすいせいなのか、耳の奥までよく響き、痛みと共に音によっても、自分が何をされているのかという実感は強まった。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 しかも、見られているのは単に下半身だけではない。
 アソコ、肛門、恥部が見えている恥ずかしさは言うまでもなく、その上で石井に見られているのは、体罰を受ける屈辱的な姿である。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 格好の悪い姿をわざわざ人に見せたい人間がいるだろうか。
 イジメを受けている姿、人に怒られている姿、何かのミスをする姿。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 見せたくない姿を見られる感覚が強く、きっと普通に服を着た状態で、スカートの上から叩かれていても、同じ屈辱を感じているのかもしれない。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 尻を丸出しにしていることで、どちらにしても感じる屈辱に、羞恥心を上乗せしているのかもしれなかった。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 一体何回叩くつもりか。回数などカウントしていない。
 とにかく、さっさと終わって欲しい。

 ペチィ! ペチィ! ペチィ!
 ペチィ! ペチィ! ペチィ!

 きっともう、二〇回や三〇回に達している。
 それだけの回数に至ったところで、やっとのことで手が止まるが、尻たぶのどちらもヒリヒリと痺れている。どこまで赤らんでいるのかは、佳純自身には見えないが、大なり小なり腫れっぽくなっているはずだ。
 加えて音の余韻がある。
 静寂が漂っている中で、今まで聞こえ続けた音が未だに脳内で反芻して、鼓膜にはしつこく余韻が残る。
「……済みましたか?」
「ええ、終わったわ」
「そうですか」
 なら、さっさと戻そうと、身体を机から離そうとしかけた時、腰に乗せてある腕に微妙な力をかけられた。さほどの腕力ではないものの、押さえ込もうとする意図を感じて、佳純は反射的に脱力していた。
 下手に逆らって、回数を追加されても嫌だった。
「もう少し細かい説明をするけど、これがレベル2の場合は、スカートも下まで下げて、物差しで叩くわ。レベル3ならどちらも完全に脱ぎきって、脱いだ下着は目の前に置いておくの。それからパドルで叩くんだけど、途中で下着から目を逸らしたら、最初からやり直しよ」
「それは面白い作法ですね」
「でしょう? これで体験も終わったことだし、案内はおしまいね。何か今のうちに聞いておきたいことはあるかしら」
「いいえ、特には」
「ならこれで解散ね。お疲れ様」
 そう言われるが否や、今度こそ佳純はさっさと下着を穿き直した。
 そして穿き直してなお、ショーツの内側にはヒリヒリとした感覚が残り、その屈辱感で顔中が強張ったままなのだった。



 
 
 

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