そこまでやって、まだ項目が残っていると聞かされた瞬間に、もはや絶望さえ通り越し、諦めの感情しか抱くことの出来ない自分に気づく。
尿検査が終わった後、佳純は便座に座って滴を拭き取り、綺麗にしてからトイレを出た。
そんな拭いている最中の動作さえも見守られ、本当に惨めでならなかったが、何よりも惨めなのは、紙コップを渡す瞬間だった。出したての尿を直接手渡す気持ちといったらなく、学校の尿検査で提出する場合の方式は、どれだけ素晴らしかったかを思い知らされていた。
そして、せっかくショーツを穿き直しても、診察室に戻ったところで、次の項目が開始となる。
「もうちょっとだからね? 最後は臀部検診、細部計測、身体撮影だけだから、あと一息で帰れるからね?」
だから、あともう少しだけ頑張ろうと、励ましでもしてくるようなニュアンスの声色だったが、もうちょっとだと言いつつ項目が三つも残っている。
臀部がお尻を示すことは知っているが、細部計測というのは、身体測定よりもさらに細かい計測で、もしや乳首や性器でも測るのだろうか。それに身体撮影など、写真ならばフォトスタジオのデータがあるが、あちらはあちら、こちらはこちらなのか。それとも、あの場では撮らなかった部分まで撮るという意味なのか。
「では下の方を脱いで頂いて、診察台に上がってもらうかな」
と、中年医師の指示に従う。
(はあ、もういいわよ)
気持ちもどこか、投げやりになってきている。
放尿まで見られたせいで、すっかり慣れた自分がいるようでいて、つい先ほどの余韻がまだまだ全身に残っているようでもある。加熱しきった顔中から、未だに熱が放出され続けている感覚がある。
ともかく、下半身は見せたばかりである手前、今度はあっさりとショーツを下げて、ブラジャーのみを残した姿となり、佳純は診察台へ上がっていく。
四つん這いは屈辱だった。
肘を突き、尻は高らかにしたポーズを指定され、まず性器が丸見えとなるのは言うまでもない。そればかりか、お尻の割れ目が姿勢のせいか広がっており、肛門すら見え放題になっているのがわかり、佳純は改めて赤らんでいた。
先ほどから、赤面が最後まで引き切るタイミングなどないのだが、少しは薄らいでいた色が、またしても耳まで赤い状態に変わっていた。
「それじゃあ、お尻の検査から始めるからね?」
その直後に聞こえる物音で、何か器具を用意していることがわかると、数秒後には肛門に指がきて、ぐりぐりと拭き取られた。除菌ペーパーか何かなのか、アルコールでも染み込んだものを介しての、肛門へと押し込まれる指の感触に、また新しい屈辱が広がっていた。
(お尻を拭かれるなんて――)
佳純は歯軋りしながら拳を固く振るわせる。悔しさで頭がおかしくなりそうだった。
お尻を拭いてもらうなど、トイレの世話が必要な赤ん坊への対応である。これから入学式を迎え、晴れて正式な高校生になろうという時期の、思春期の只中にいる佳純にとって、肛門を拭き取るために、皺を丁寧になぞられる状況は、それだけで拷問のように辛かった。
放尿を見られるのと、今の状況と、一体どちらがマシなのか、自分でもわからない。
除菌ペーパーはすぐに離れていくのだが、そこに茶色い汚れがほんの少しでもありはしないかも、不安で不安でならなかった。もちろん清潔は保っており、そう汚れてなどいないはずだが、もしも痕跡が残っていて、それを見られてしまったなら、もう本気で死んでしまいたい。
「直腸検診のあと、綿棒で細胞を採取するからね?」
と、簡単な説明が行われる。
それから早速、ビニール手袋の指が触れ、素手とは少し異なる感触が肛門の皮膚に押し込まれる。そこにはジェルのひんやりとした感じもあり、指を差し込みやすくするための、活性油を塗っているのだと気づいた時、指は内部に収まってきた。
(お願い……早く終わって……)
肛門に指が収まっている。
異物が入り込んでいる違和感もさることながら、恥部に触れられていることで、焦燥によくにた心境に陥っていた。何を焦らなくてはいけないわけでもないが、このままでは何かが手遅れになる状況に酷似して、落ち着きのない表情で、体もどこかそわそわしていた。
見方によっては、用事があって急いでいるので、早く終わって欲しい様子に見えないこともない。
だが、それはただただ、肛門に指が入っているせいなのだ。
(耐えるわ……耐えてやるわよ……)
指が僅かに出入りする。
診察目的に過ぎない指の動きは、明確なピストンをしてこない。中身の状態を探ろうとして、その結果として少しは抜き差しがあるだけで、それよりも左右への回転の方が多かった。
(くぅ……)
歯を強く食い縛り、辛抱強く佳純は堪える。
やがて指は引き抜かれ、入れ替わりとなって入ってくるのは、細い綿棒の感触だった。たった今まで指の太さにやられていた手前、綿棒では何かが入っている感覚が薄らとしているが、後ろから見た佳純の状態は、肛門から棒を短く生やしたもののはずだった。
そして綿棒も引き抜かれ、これで肛門検査は終わっただろうかと思った時、直後には冷たい金属の感触が触れていた。
「……なんですか」
怒気を帯びた強張った声で尋ねる。
「ノギスっていってね。ま、定規みたいなもんだよ」
「そんなところ、測ってるんですか」
「そうだね。直径を見ているところなんだけど、皺の本数もチェックしてあるからね」
(……馬鹿みたい)
何の意味があるかの想像がまるでつかない、必要性が不明のデータまで取られている。それにデリカシーのない中年医師なので、数字はやたらに大声で発表して、それを看護師は電子タブレットの中に打ち込んでいる。
入力している姿を見ることで、何かを取られている実感は強まった。
さらに金属の冷たい感触が位置を変え、今度は肛門とアソコまでの長さを測っているのが伝わってきた。数秒もすれば読み上げられ、発表内容は入力され、次はアソコでも測るつもりかと思っていると、不意にポーズ変更の指示が出る。
「仰向けになってもらえるかな」
「……ふん」
ここまでくると、肛門を見せびらかすポーズから解放され、胸とアソコだけで済む状況は、もはや楽にすら思えてくる。慣れてきたというべきか、感覚が麻痺しているのか、自分でもわからないが、あと一息の辛抱で、この地獄からは脱出できる。
「乳首と乳輪を測っていくからね」
と、そういうわけで、最後の最後まで残っていたブラジャーも、いよいよ手放すこととなる。もう本当に靴下しか残っていない、心許なくてたまらない格好の上で、佳純は改めて仰向けとなっていた。
胸に近づくその器具の、定規とは異なる形状を、佳純はここで初めて目にしていた。棒状の器具に目盛りを振って、長さを測る道具としてある点は定規と変わらないのだが、言ってみるなら定規に追加パーツが付いた器具だった。
細い金属の定規に、小さなアームパーツが二つほど付いている。
アーム部分を動かして、内側にものを挟んで、そうやって物を測るわけらしい。中年医師はノギスによって乳輪を挟み、続けて乳首も挟んでいって、それぞれの数値を相変わらずの大声で読み上げていた。
それから乳房の直径に、陰毛の生えた領域の広さも、それぞれ縦横で計測する。
最後に求められるのは、案の定というべきか、M字開脚でアソコを見えやすくすることだった。脚をしっかりと開いたあいだに、ノギスはやってくるのであった。
そして、アソコのワレメにノギスが当たり、その長さを測られている最中、慣れたつもりでいた自分を馬鹿らしく思い始めた。
「では中身を開いて見せてもらえるかな?」
最悪だった。
散々に心を抉り尽くされ、もう自分の中には抉り取る中身が残っていないと思っていたが、まだそんなネタが残っていたのだ。
指で中身を左右に広げ、桃色の肉ヒダを公開すると、顔から炎が噴き出る勢いの、脳が蒸発しそうな羞恥の熱に襲われる。表情には苦悶が浮かび、恥じらいの感情をどう足掻いても隠しきれない。
計測の対象は、膣口や陰唇にクリトリスなど、性器の中でもさらに細かい部位の数々だった。
ノギスが肉ヒダの部分に触れ、数秒後には離れたと思いきや、大声での発表を挟んでまた触れる。その繰り返しが計測部位の数だけ行われ、看護師の持つタブレットには、これで性器の情報さえもが収まったことになる。
「次で最後だよ? 本当にあと一息だね?」
そう言われても、佳純が抱く感情は、決してゴールが見えた安心感などではない。
(撮影って、もしかして……)
計測が終わるや否や、佳純はそこで指を離して、M字開脚のポーズすら解こうとしていたが、看護師がそれを見咎める。
「ああ、そのままでお願いします」
そう言われて渋々と、本当の本当に渋々とポーズを維持して、中身すら公開状態を保っていると、中年医師はデスクから一台のデジタルカメラを持って来る。
ただのカメラだ。
だが、裸の少女にとって、それは凶器でも見せびらかされたような戦慄に匹敵する。撮影をしようと構え、中年医師が真っ先にレンズを近づけてくる先は、しかもアソコの中身に対してだった。
パシャ!
苦悶が浮かぶ。
「――っ!」
シャッター音を聞くことで、さも拷問の激痛でも受けたような顔をして、顔中をひどく歪めた上に、額には汗すら噴き出していた。
パシャ! パシャ!
写りが気に入らなかったのか。
性器に対して、さらに二回のシャッター音が鳴らされる。
「はーい。指は離していいからね?」
と、中身を晒した状態からは解放されるが、その次には外側から、ワレメに対して二回、三回とシャッターが鳴らされる。
さらにはカメラの位置を変え、もう少し下から覗き込もうとしてくる態勢で、また何度か鳴らしてくる。仰向けのM字開脚である佳純の、性器よりも低い位置にある部位といったら、肛門に決まっているわけだった。
(お尻の穴まで……)
屈辱で頭の中身がねじ切れそうだ。
パシャ! パシャ!
しかも、シャッター音の回数が増え、肛門は五回以上も撮られてしまう。
下半身の撮影が終わったところで、さすがにM字開脚からも解放され、ようやく姿勢を元に戻すことができるのだが、残る乳房の撮影で、佳純は胸にシャッター音を浴び続ける。真正面から撮るために、真上から見下ろしてくるレンズに撮られ、横乳を撮ろうと姿勢を低めてのシャッター音を浴びせられ、今の佳純が感じているのは、自分という存在が搾取され、最後の一粒までつつかれ尽くす気持ちであった。
エサ皿の中に置かれた自分の血肉の、僅かに残ったカスをつついて、食べ残しがないようにしてきている。先に性器や肛門を撮られた上で、胸の撮影が最後になるのは、何かそういう感覚なのだった。
コメント投稿