そして、それは翌日だった。
「今日はこのくらいで勘弁してやるよ」
乳房の写真を撮られ、それからようやく恥辱からは解放されたが、最低最悪の体験は濃い余韻となっていつまでも胸を引きずり、朝になっても一人で悶絶して、ベッドでのたうち回ったり、壁に頭でもぶつけたくなる心境だった。
そんな真似はしない新條美鶴なのだが、心境としてはそうだった。
それから、いつものように学校へ向かい、またあの透明人間が現れやしないかと、警戒しながら電車に乗る。教室へ辿り着き、席に着き、それまでのあいだ何もなく、ひと安心と思ったところで、授業が始まると聞こえた。
「おはようございまーす!」
大きな声だった。
誰もが授業に集中して、静寂の広がる教室に大声が発せられ、誰一人として反応を示さない。教科書の内容に目を通し、黒板に書かれた文字をノートに書き写している生徒はその様子を一切変えず、教科担当の先生も表情一つ変えていない。
険のある顔となり、眉間に皺を寄せる反応を示したのは、教室の中でもただ一人、美鶴だけなのだった。
「認識操作でさ。昨日と同じく、俺の存在に気づけるのは美鶴ちゃん一人になってるわけ」
「…………」
「あ、喋っていいよ? 俺とお喋りしても、誰にも意識されないから。でも美鶴ちゃんは透明人間になっているわけじゃないから、目立ちまくれば認識操作の意味がなくなる。昨日もそうだったけど、そういう調整をしてあるから」
「へえ、大声を出しても?」
「キャーキャー叫べば注目が集まるけど、小さな声なら意識しないね。隣とか前後の席の奴ですら、美鶴ちゃんが喋ったこと自体に気づかない」
「で、うちの生徒だったってわけ」
「え? それはどうかな? だって他校に忍び込むのなんて簡単だし、何ならこの声だって、オッサンが超能力で若い声を出してるだけかもしれないじゃん?」
正体に近づく情報を出さないどころか、別の可能性すら提示してくる。
この超能力者には一体何がどこまでできるのか、力を使うことに条件はあるのかないのか。美鶴には何もわからないので、声を変えている可能性も、どの程度のものなのかは判断がつかなかった。
「授業に集中したいんだけど」
「すればいいじゃん? でもさ、俺は美鶴ちゃんで遊ぶことにするよ」
透明人間がそう言って、次の瞬間だった。
「っ!」
少しの驚愕と、それ以上の怒りと屈辱で、美鶴は表情を染め変えていた。
彼は胸を揉み始めたのだ。
椅子の後ろから、背後に立って手を下ろし、ブレザー越しに揉みしだく。誰かもわからない、正体不明の人物に胸を触られるおぞましさに、体中に怖気が走り、乳房の皮膚に至っては、ふつふつと泡立つような感覚が広がっていた。
「お、そうだそうだ。俺さ、テレポーテーションみたいな能力もあって、物体を転送できちゃうんだよね」
彼がそう言い出した途端である。
ブィィィィィィ!
ショーツの中で、アソコの上で何かが振動していた。
美鶴にも性的な好奇心はあり、成人指定の検索をすることで、メジャーな性技やディルドにコンドームといったものの知識は備えている。ショーツの中に出現したのは、ピンクローターであることがすぐにわかった。
「くぅ……」
まるで本当は最初から入れてあり、たった今になって初めてそれを思い出したかのように、ローターは振動していた。
しかも、体は反応を示している。
こんな男の、こんな仕打ちによって受けている刺激だというのに、肉体的には反応して、アソコが徐々に気持ち良くなっている。
ブィィィィィィ!
という、その振動が美鶴にとって程良いのも、この場合はかえって最悪だった。
アソコや胸を勝手に責められ、辱めを受ける屈辱感もさることながら、こうも駆動音が聞こえていると、それを周りが聞き取ってしまわないかと不安になる。透明人間の言う通りなら、この音も周りは認識しないのだろうが、頭でそうわかっていても、心理的には落ち着かないわけだった。
しかも、その時である。
「えーっと、次の問題をだね。誰に解いてもらおうかな?」
数学教師が教室を見渡して、黒板の問題を誰かに解かせようとしているのだ。
認識操作で存在感を薄めてあるのなら、ここで美鶴が指名される確率はゼロなのだろうが、当の透明人間の方がこんなことを言い出した。
「あ! せっかくだし、解いてみなよ」
彼が思いついたように言った途端だ。
「では新條美鶴」
教師に指されてしまった。
表情は変えていないが、内心ではぎょっとしていた。
(認識操作を解いたの?)
美鶴は仕方なく立ち上がる。
アソコに与えられる刺激のせいで、黒板へと向かう足取りは少しだけおぼつかない。いつも通りに振る舞って、さも何事もないように見せかけているので、誰も様子がおかしいこと自体に気づかない、とは思うのだが。
ブィィィィィ!
と、駆動音は鳴っているはずなのだ。
「ああ、サービスでその音だけは認識されないようにしてあるよ?」
(あらそう)
特に感謝などしない。
美鶴はさっさと黒板に向かっていき、チョークを握って解き始める。日頃から予習復習はしっかりこなし、数学が苦手でもない美鶴にとって、そこに書かれている数式は、決して難しいものではなかった。
ローターのせいで集中力は削がれるが、それでも問題なく頭の中に答えは浮かび、美鶴は黒板に白いチョークを走らせる。
間違っても、感じた声を出してはいけない。
今は教室の誰もが美鶴の存在を認識して、駆動音だけが都合良く聞こえていない。ローターの刺激に反応して、そのせいで声を出した途端、少なくとも様子がおかしいことはバレてしまう。
気持ち良さから、呼吸が荒くなりそうな自分に気づき、美鶴は頬の内側で歯をきつく噛み締めた。
「お尻、教卓でぴったり隠れてるよね」
その時だった。
スカートの後ろ側が捲れ上がった。
教卓は生徒の机に比べて少しばかり高度があり、そのおかげか尻が綺麗に隠れている。ぴったりと背中合わせのようになっているので、最前列の先や両端の席など、至近距離や角度のある位置からでも、見えないといえば見えないのかもしれない。
しかし、大いに不安を煽られた。
(なんて真似をするのよ……)
顔が赤らむ。
誰に見られているわけでもなく、透明人間自身にも、透視でもしなければ見えないだろうが、隠れた露出というだけで、羞恥心を煽るには十分なものがあった。
さっさと問題を解いて、席に戻ろう。
美鶴はその一心で、ローターによる快楽も、スカートが捲れている状態も、全てを無視して問題に集中する。手早く数字を書き込んで、あと一文字といったところまで進めた時、突如としてそれは起こった。
「こういうのはどう?」
と、透明人間が言った途端だ。
ばっさりと、スカートが落ちていた。
「…………」
さすがに絶句して、手が止まった。
見れば足元には、スカートがドーナツ状のリングとなって落ちていた。
(ど、どこまでもふざけて……!)
怒りのあまり、美鶴は謝ってチョークを指でへし折っていた。
どうやら、こんなことになってもまだ、誰にも気づかれた様子がない。それとも、本当は気づいている人がいて、騒がないようにしてくれているのかもわからない不安が募り、気が気でなくて落ち着かない。
せめて誰にもバレていないことを祈って、美鶴は最後の一文字を書き込んだ。
慌てれば、かえって注目される。
もちろん、ここに立っている時点で、教室中の視線は集まっているのだが、不審な様子を見せれば、それが観察の視線に変わる。一体どうしたのだろうと気にする視線を向けられれば、ただ何気ない目で見られるよちも、気づかれる確率は上がってしまう。
平常心だ。
こんな状況だったとしても、それでもなお、平常心は大切なのだ。
「頑張れ頑張れ。今は認識されちゃうよ?」
透明人間の言うように、丸出しの下半身を教卓という遮蔽物の外に出したら、たちまち状況がバレてしまう。美鶴はその場に素早くしゃがみ、さっとスカートを持ち上げ穿き直す。
何の事情も知らない人からすれば、今のスクワットは何なのか、意味がわからないことだろう。
美鶴は咄嗟の思いつきで、これみよがしにチョークを置いた。
つまり、チョークを落としたフリをしたわけだった。
「へー? マジで頭良くない? だって普通思いつく? 慌てた状況ってさ、簡単なアイディアすら出て来ないはずじゃん?」
(鬱陶しい。いい加減その口を閉じなさい)
「席に戻ったら、さっきまでの調整に戻してあげるよ。ちょっとくらいなら、喘いじゃった声が出ても平気だぜ?」
(誰が喘ぐか)
美鶴はさっさと席へ戻って座り込む。
ブィィィィ!
という音は相変わらず鳴り続け、美鶴はこの授業中、最後の最後までローターの刺激を感じていた。アソコを徐々に湿らせて、気持ち良くなっていくのであったが、それでも授業をこなしてみせるのは、下らない透明人間に負けないための意地が大きい。
だが、何よりもバレないためだ。
認識操作の加減はわからないが、やたらに体をモゾモゾさせれば、いつかは様子に気づかれる危険性があると思って、美鶴は必死に堪えているのであった。
*
この透山町に伝わる言い伝えとして、悪い神様から力を受け取り、それを悪用した人間が報いを受けたというものがある。
もちろん、それが実在のものだとは思っていなかった。
正直、自分がいつどこで言い伝えを覚えたのかは覚えていない。桃太郎や浦島太郎の筋書きを一般常識として知ってはいても、何歳の時に覚えたのか、正確に把握しているのは少数ではないだろうか。
ただただ漠然と、小さい頃に覚えたとしか言いようがない。
自分の生まれ育った町の言い伝えを、彼は物心ついた時には何となく知っていたのだ。
「いやー。めっちゃ気持ちいいわ」
その放課後、少年は教室の椅子を動かして、実に優越感に満ちた顔で快楽に浸っていた。
「はじゅぅ……じゅっ、ずぅ…………」
彼の股を見てみれば、艶やかな黒髪ロングの少女が一人、頭を前後に動かしている。その瞳は虚ろなもので、今の彼女は意識のない人形と同じであった。
心を眠らせているのだ。
肉体は起きていても、精神の方が眠っている。脳そのものは正常に動いているので、命令をすれば体はその通りに動くのだが、要するに何でも言うことを聞く人形の状態に彼女はある。術さえ解けば、この時間の最中の記憶は残らず、まさか自分が肉棒を咥えていたなど、夢にも思わないことだろう。
「ずぅぅ……ずっ、じゅぅぅ…………」
「美鶴ちゃん。無意識のうちにフェラチオ覚えちゃったね?」
「ずずっ、じゅぅぅ……ずるっ、じゅぅぅ…………」
「そうそう。すっごい気持ちいよ? あ、玉もお願い」
「ちゅぱっ、ちゅぱっ」
竿から玉へと移り変わって、美鶴の唇は睾丸を愛撫する。吸い取ろうとキスをして、口内に含めるなり、吸ったり吐いたりを繰り返す。その繰り返しの中にも、舌でチロチロと舐めようとする行為が織り交ざり、それが快楽を掻き立てる。
「美鶴ちゃんはさ。睡眠学習みたいに、学んじゃってるんだよ。生まれて初めてフェラをやる時、自分がどうして慣れているのか、きっと理解できないだろうね」
舌が活発に這い回る。
どちらの睾丸もちゅぱちゅぱと、ひとしきり唾液を帯びた上、今度は竿が舐め上げられている。唇を根元に当てて、下から上へ向かってレロォォォ……と、そして亀頭の先端に到達すると、ちゅぅっと吸い上げるようにする。
そんな下から上への舐め上げを繰り返し、舌でくすぐったいような感覚がしばらく続くと、美鶴は再び頬張った。
「あむぅぅ…………」
口内に収まることで、肉棒全体な生温かい感触に包み込まれる。
「はじゅぅ……じゅぅ…………」
頭が前後することで、竿に張りつく舌がそのまま前後のスライド往復を繰り返し、ぬかるみを帯びた摩擦が心地良い刺激となった。
射精するまで、そう時間はかからない。
やがて限界を迎えた時、少年はその精液を飲ませていた。ごくりと嚥下する瞬間を見届けてから、自分が教室を去った後、時間差で能力を解除するのであった。
そして……。
…………
………
どういうことよ。
と、美鶴は憤りに震えていた。
フェラチオの最中は意識を奪われ、だから自分が何をしていたのかの自覚や記憶がない。ただ急に時間が飛んで、気がつけば誰もいない教室の中、一人意味もなく立っていたという体験だけが美鶴には残っていた。
そして、校舎を出ようと少し歩いて、すぐに気づいた。
膣内にローターが入っている。
それも下着を脱がされて、ノーパンの状態である。
尻に直接すりすりと、スカートの生地が当たってくる感触と、膣内に収まる硬い何かの感触で異常事態に気づいていた。
こんな状態で帰れっていうの!?
ローターそれ自体は、トイレにでも行って抜き取ればいい。
そのはずなのだが、美鶴はそのまま校舎を出て、あまつさえ下校を始めてしまう。自分の思考が制限され、思いつくべきことを思いつけていない、そのこと自体に気づいていない。
落ちそうじゃない……これ……。
小さな卵形の器具は、膣内からツルツル滑り、今にも抜け落ちそうである。だから下腹部に力を加えていなくいてはならず、ただでさえ内股を意識しながら歩いているのに、学校を出たあたりで振動が始まって、思わず声を出しそうになっていた。
美鶴は咄嗟に手で口を押さえていたが、明らかに周囲の注目が集まるような視線を感じて、恥じらいと焦りを同時に覚えた。
あいつにとっては、ゲームってわけね。
美鶴はそんな状態で駅まで歩き、電車に乗り、そして家に帰る羽目になる。
ローターの刺激は何故だか強く、教室の授業中より遥かに感じてならなかった。内股に湿り気が広がって、スカートの中身を確認すれば、濡れているのがはっきりとわかる状態にさえ至っていた。
一体、いつまで遊ばれていれば……。
冗談じゃない、いつまでも玩具になどなってたまるか。
美鶴は心に誓いを立てた。
いつか、必ず報いを受けさせる。
こんな超能力が存在して、それを神のような何かに受け取ったなら、その対抗手段もまたどこかに存在するかもしれない。持てる知識を総動員して、必ずや対策を見つけ出し、こんなことをしてくる犯人に報復をする。
その決心はいいが、今は家に帰らなくてはならなかった。
「んぅぅ……!」
と、油断すれば喘いでしまう状態で、とうとう手でアソコを押さえながら、通行人に奇妙な注目を浴びながら、美鶴は歩いていくのであった。
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