最近、やはりあずさの様子がおかしい。
そうは感じているものの、では具体的にどうおかしいのか。上の空になっているわけでも、元気がなさそうなわけでもない。学校で会う時も、デートをする時も、いつでもどこでも、あずさの様子は普段通りだ。
だというのに、何故だか様子が変だと感じる。
和也自身、何をそうまでおかしいと感じるのかがわからずに、自分の中でそれは気のせいであると片付けている。なるべく気にしないように、考え過ぎないように振る舞っているうちに、むしろ和也の方が言われてしまった。
「ねえ、和也。なんか最近、変じゃない?」
それは家デートで部屋にあずさを呼び、一緒にゲームをやったり、お喋りをしたり、他にはだらだらと過ごしていた最中のことだった。
「変って、何がだよ」
「なんていうか、ずっと何かを気にしてる。みたいな?」
「いやぁ、そうか?」
「うん。そう見える」
「って、言われてもなぁ」
さすがに長く一緒にいるだけあって、和也の些細な変化にあずさは気づく。
「言ってごらんよ」
「うーん。あずさって、最近なんかあったか?」
「何かって?」
「いや、なんもなきゃいいんだけど。なんか、そんな気がして」
「ふーん? 私は何もないよ? あ、もしかして、何か変なニュースとか見た? 怖い事件とかそういうのが頭にあって、無意識のうちに私のことが心配になっちゃったんだ」
「……そう……なのか?」
「そうだと思うよ? だって、私は何もないし」
「うーん。ま、そうなのかもな」
いまいち納得はいかないが、そう納得する以外にないだろう。
「ね、それよりさ。そろそろ、私に甘えてみない?」
あずさはおもむろにサインを出す。
服のボタンを一つ外して、はだけるフリをしてくる露骨な誘いに、和也の頭はすぐさまそちらへ切り替わる。
「……お言葉に甘えて」
すぐに二人は準備を始めた。
順番にシャワーを浴びてベッドに入り、枕元にはコンドームを置いておきつつ、やるべきことを開始する。
(そういえば――)
ふと、和也は気づく。
「ねえ、ほら! 甘えて甘えて!」
あずさはそんな風に言い出して、顔を乳房のあいだに埋めたり、乳首をちゅぱちゅぱと吸って欲しいと、そう言ってくることが増えている。その言葉に乗せられて、赤ん坊のように甘えていると、やけに優しい言葉をかけながら、頭をいっぱい撫でてくれるのだ。
それは嬉しい。
とてもとても嬉しくて、悪い気などちっともしない。
ただ、思うのだ。
あずさって、こういうプレイ好きだったっけ?
そんな疑問が浮かんだ時、やっとのことで和也は思う。
ひょっとしたら、どこかでそういう趣味に目覚めたのだ。インターネットに無数に溢れるコンテンツから、女性が男性を甘やかす描写を見るなりして、赤ちゃんプレイ、甘やかしプレイのようなものに興味を持った。
きっと、そうだ。
たったそれだけのことを、今まで様子がおかしいと感じていたのかもしれない。
試してみたいプレイについて、言い出す機会を窺っていた。どこかで嫌な目に遭ったのでも、怖い目に遭ったのでもないのだから、具体的な様子の変化もなくて当然なわけだった。
今までの違和感について、和也はついにそう結論付け、自分を納得させていた。
しかし……。
その数日後だった。
和也は見てしまった。
「何だよ……あれ…………」
窓の外を見た先で、白いカーテンに二人分の影が映っている。
今日は優の勉強に付き合うと言っていたので、あずさが優の部屋にいること自体は、何もおかしいと思わない。家族ぐるみの付き合いで、姉弟感覚に近い間柄である以上、あずさがそこに出入りするのは、姉が弟の部屋に出入りすることと変わらない。
いちいち、気にするべきではない。
実際に兄か弟を持つ女子を彼女にしていた場合、その兄妹ないし姉弟仲が良いこと嫉妬などするべきだろうか。
あずさと優の関係に対する見方はそれと同じだと、今の今までそう考え続けてきて、そして何の疑問も抱いてはいなかった。
しかし、二人分の影がカーテンの向こうに立っていて、それが明らかに抱き締め合って見えた時、胸がやけにざわついたのだ。
咄嗟にアプリでメッセージを送っていた。
『いま、なにしてる?』
わかりきった質問を咄嗟にして、やがて返って来る返事はこうだった。
『何って、勉強って言ったでしょ? どうしたの?』
『いや、何でもない。悪い』
『ふーん? ヘンなの。私が優のとこに行くのって、そんなに心配?』
『そうでもないけど』
『だったら、気にしない気にしない。優とは何も起きっこないって!』
(そうだよな。起きっこないよな)
きっと、あの抱き合って見えた影の動きは遠近法だ。
カーテンに映る影としては、真正面から向き合って見えていても、きっと本当は立ち位置がずれているのだ。だから抱き締め合って見えていても、ただ影が重なっていただけで、何も起きてなどいないのだ。
*
あずさは抱き締められていた。
「ママぁ……!」
「はいはい」
もう完全に、ママという呼び方に慣れてしまった。
初めてそう呼ばれた瞬間の戦慄も何もなく、むしろ甘えてもらえることへの快感と、胸に顔を埋めてくる優の頭を撫でてやり、可愛がってやりたい欲望の方が膨らんでいた。
部屋の中、お互いに全裸であった。
勉強に区切りを付け、今日もそういう時間を過ごそうとなった時、優はとうとう裸が見たいと言ってきた。先週はシャワー現場に踏み込まれており、お尻やアソコも見せてしまっているせいか、もういいか、という半ば投げやりな感覚にもなっていた。
「はぁ……ママぁ……」
乳房のあいだに顔を埋め、ぎゅっと抱きついてくる優は、あずさの胸に甘えることですっかり落ち着いてしまっている。安らぎに満ちた表情で、背中に回してきた両腕をだんだんと尻へと移していた。
「ほらほら、今日もおっぱいチュパチュパしましょうね」
頭を撫でてやりながら、あずさはそう囁きかける。
「うん……!」
すぐに吸いついてきた。
「んっ、んぁ……あっ、ふぅ……感じちゃうなぁ……」
「ママ気持ちいい?」
「うん、気持ちいい」
そう答え、優の頭をゆっくり撫でる。
髪に指を通していき、背中も軽くさすってやると、明らかに目が喜んでいた。そういう目をしてもらえると、可愛がっている甲斐があると感じてしまう。
「ねえ、ママ……」
「うん?」
「お願いがあって」
「言ってごらん?」
「あのね。僕……」
途中まで言いかけて、優の声はすぐに途切れる。
一体、何をお願いしようとしているのか。何か頼みにくいことなのか。言いにくそうにしている優の、次の言葉を待ち続けると、その内容にあずさはぎょっとすることになる。
「ほ、本番……!」
切実そうに訴えてきたのだ。
「僕、どうしても……彼女作るなんて、自信なくて……」
「でも、言ったでしょ? この関係はずっと続けるわけじゃないって――」
「わかってる! わかってるけど、お願い! 一時的でいいから! ゴムだって用意してあるんだ」
「えっ、ゴム……でも……」
「したい! どうしてもしたい! ママと……あずさとしたい……!」
よほど悩んだ末に打ち明けているのか。
それとも、やはり男の欲望とは大きなものなのか。
ここまで押しの強い主張に対して、またしても断りにくさを感じてしまう。それだけはまずい、その一線だけは越えるべきではないと、頭の片隅では警告が発せられ、赤いランプが点滅をしているが、しかし許してしまいそうな自分がいる。
(断らないと……)
そう思いかけたあずさだったが、しかし優は言ってくる。
「させてくれたら、学校行くから……」
「……本当?」
「僕が学校に行けるように支えてくれたら、嬉しいんだ……その、学校では和也くんと過ごすだろうし、だからここだけでいいから……」
「学校……優が、学校……」
学校に行きすらしなければ、つまりは他人と関わる機会がなければ、誰との接点もないのに恋人など作りようがない。まずは学校へ行くだけでもしようとしている優の姿勢は、高校に合格だけはしながらまともに通っていないことを考えれば、大きな一歩と言えるだろう。
優が成長するかもしれない。
そう感じた瞬間から、このまま断りきれなくても構わない。押し切られてしまっても構わないと思う気持ちが湧いてきて、もう答えが決まってしまっていた。
(和也、ごめんね)
心の中で、和也に深く詫びていた。
そして、あずさは答えた。
「――いいよ」
その答えを聞いた瞬間ほど、優の目がキラキラと、綺麗に輝いたことはなかった。
そして、スマートフォンの点滅に気づき、和也からのメッセージの返事を打つのは、優と交わる直前のことなのだった。
*
優が求めたのは対面座位だった。
正面から向かい合い、抱き合いながら繋がることを望む優のため、二人はまずベッドへ移る。ゴムの装着を確認してから、濡らした股であずさは跨がり、その肉棒を受け入れていくのであった。
腰を沈める。
「おっ、おお……!」
優が感激に震えていた。
何故だか、和也と初めてした瞬間を思い出し、体がじわじわ熱くなる。初体験は痛かったが、興奮しきって鼻息を荒くしていながらも、なおも理性を保ってあずさを気遣い、痛みについて気にかけてくる様子を見ることで、大切にされていることを実感した。
それから回数を重ねたことで、もうとっくに性交痛を感じることはなくなっていた。
優の肉棒は思いのほか太いもので、腰を沈めれば沈めるほど、内側から拡張される。穴が大きく幅を広げているのが感覚でわかり、まだ膣口が狭かったころの思いが蘇るも、しかし痛みはないのであった。
腰を沈めきり、あずさは優を抱き締める。
根元まで収めた感覚は、内側でヘソまで届いているかのようなものだった。
「凄い……気持ちいい……!」
「感動しちゃってる?」
「うん……! 凄くいい……凄い……ママ……!」
「へへっ、動くね?」
あずさはそう言って上下運動を開始する。
対面座位による密着で、身体を上下させればそのまま乳房を優に擦りつける形となり、尻に回ってくる両手も食い込んでいる。全身で触れ合いながら、一体感を味わっての性交に、あずさは快楽を感じていた。
「あぁっ、あぁ……!」
胸もアソコも気持ちいい。
上下運動によって優の胸板に乳首が擦れ、その刺激で感じてしまう。アソコに走る刺激は言うまでもなく、尻を撫で回してくる手の平さえも心地いい。一度繋がってしまったせいか、決定的なスイッチが入り、今や体中が敏感となっていた。
「あっ、あん! あん! あん!」
あずさはこれまでになく喘いでいた。
(こ、こんな声、私――今まで和也の前でしか――)
本番を許したばかりか、声すら優に聞かせてしまうのかと、そんな焦燥感が今更になって湧いてきていた。
「あん! あぁん!」
「ママ……ママ……!」
優もきっと感じている。
膣で根元から締め付けて、上下運動によって擦り抜くことにより、射精感が高まりつつあるのだろう。
「チューしてあげるね?」
あずさは優の頬を両手で包み、唇を下ろしていた。
(なんで私……キスまでしちゃってるんだろう……)
唇を頬張って、勢いのままに舌を奮い立たせていると、優の方からも舌を伸ばして、絡め合うことを求めてくる。舌同士でつつき合い、絡まり合うディープキスで唾液の音を立てながら、アソコではクチュクチュと、ピストンに応じた愛液の音が鳴っていた。
「あぁ……あっ、やっ、んぅぅ……!」
腰が弾ける。
結合部に走る痺れは、背骨を勢いよく駆け上がり、脳天さえ貫いてくる。ビリビリとした感覚が脳にも走り、あずさはもはや夢中になって、一心不乱に動いていた。
「あぁぁ……!」
胸に手が回ってくる。
下乳を揉み上げられ、乳房からの刺激が強まることで、喘ぎ声のトーンはますます上がった。
「ママ……ママ……!」
その声の上擦りようと、震えようから、優の射精感も極限まで高まっているのだと、感覚的に気づいたあずさは、気づけば口走っていた。
「いいよ……! 出して……!」
すぐに優は放出する。
膣内でコンドームが膨らんで、薄い膜越しの熱気を感じた時、あずさはさらに一層の興奮で目に熱気を宿していた。
もっとシたい。
もっと感じたい。
ここまで欲望がせり上がると、もはや発散せずにはいられない。おあつらえ向きに、優の肉棒も一度の射精では萎えていなかった。
「優……!」
あずさはアソコから肉棒を抜き取るなり、すぐさま精液の溜まったゴムを外す。
そして、今度は避妊具も無しに跨がり直し、改めて同じ体位で繋がろうとしていた。
「えっ、ママ……ゴム……!」
「大丈夫っ、今日……平気な日だから……!」
不意に安全日であることを思い出した瞬間から、もう生挿入をせずにはいられなくなり、あずさはゴムの装着を許す暇もなく咥え込む。
「おっ、おぉぉ…………!」
結合した瞬間の、より大きな感激に震えた瞳がそこにはあった。
「あっ、あぁ……あぁぁ……!」
あずさはすぐに動き出す。
一心不乱に弾み上がって、気持ち良さのあまりに大きく仰け反る。そうして体勢に変化がつくことで、抱き締め合っての密着から隙間が生まれ、自由になった乳房が大胆にぷるぷると上下に弾む。
「あっ、あぁん! あぁぁん!」
メロンサイズが暴れていた。
乳房の弾みように目を奪われ、優は胸に釘付けになっていた。
「あっ、あぁぁ……あぁぁ……!」
「ママ……ママ……!」
ゴムを介していないことで、お互いの感じる快楽は増している。愛液はますます溢れ、カウパーも激しく滴り、それが上下運動によって膣内で混ざり合わさる。
「んっ、んぅぅ……!」
腰を落とし続けていることで、ずん! と、上下運動のリズムに合わせて膣内に心地良い衝撃が走っている。その衝撃のたびにビクっと仰け反り、乳房をより大胆にアピールするかのようになっていた。
「出る……出る……!」
「出して! 出していいよ!?」
「ママぁ……!」
その叫びを聞いた途端、頭が真っ白になる予感に駆られ、あずさは咄嗟に優を抱き締めていた。両腕に力を込めながら、足さえ腰に巻きつけて、中出しの精液を膣内に受け止める。
お互い、そして余韻に浸った。
結合を保ったまま、お互いがお互いに肩で息をした状態で、無心になって見つめ合う。まるで愛し合っているように唇を貪り合い、やたらに体を触り合い、あずさが正気に返るのは、それから数十分後のことだった。
何しちゃってたんだろう……私……。
和也以外と、とうとうセックスまでしてしまった。
その戦慄で背筋に寒気が走ると同時に、背徳感による興奮と、甘えん坊の弟をいっぱいに甘やかし、可愛がったことの満足感が心の中には溢れかえった。
私……。
あずさは思う。
そもそも、胸を揉ませた時点でおかしかったのだ。
一度おかしいことをしてしまい、それでタガが外れた自分は、きっともう……。
これからも、セックスしちゃうかも……。
心の中で和也に謝罪した。
こんな自分になってしまったことについての謝罪を繰り返し、かといって真実を打ち明けるはずもなく、表面的にはいつもの日常を繰り返す。
*
「あずさ、なんか変わったか?」
「え? どこが?」
「なーんか。前より充実してるっていうか、笑顔に艶が入ったっていうか?」
「ふーん? 気のせいじゃない?」
「そうかなぁ?」
和也は決して気づかない。
ただ、説明できない違和感だけがあり続けた。
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