近頃、恋人の様子がおかしい。
高校の昼休み、クラス公認のカップルである二人が一緒に弁当を食べるのはいつも通りだ。彼女が自分で作ったという弁当を覗き込み、すると美味しそうだと思ったおかずをこちらの一品と交換してくれるのも、代わり映えのない日常の一幕である。
特別に言動が変わったかというと、そうでもない。
情や挙動がおかしいかといったら、それもやはり違う気がする。
では一体、何がおかしいのかと言うと、教室で他の友達と過ごす場面やデートの際の顔を見ていても、決定的なおかしさはどこからも見出せない。明らかに変わったといえるものは何もなく、それでも感じる違和感の理由は、こうなると「何となく」の一言に尽きるのだろう。
和也はそれを、自分の考え過ぎだと捉えていた。
たった今、校内テラスのテーブルで顔を突き合わせ、お喋りをしつつも弁当の中身を箸でつついている姿にも、何ら代わり映えなどありはしない。
そう、いつも通りだ。
だから、必要以上に気にしなかった。
「はー。うめー」
交換してもらった卵焼きを頬張ると、和也にとって好みの甘さが口溶けよく広がって、舌の上でとろけていく。箸で掴んだ時は形がしっかりしているのに、噛んだ直後にはふんわりと崩れる卵焼きの、なんと美味しいことだろう。
これは普通の味ではない。
飲食店に出しても通用するプロの味に違いないと、和也は半ば確信していた。
「ふふーん。自信作ですから」
あずさはその味を誇らしげにしていた。
卵焼きの味もさることながら、毎日の弁当はいつも必ず美味しそうで、何を作っても大抵美味しい。
「ほんっと、うちのかーちゃんとはだいぶ違うな」
「よくないよ? そういうの」
「いやいや、人に作ってもらったもん悪く言う気はねーよ? ただプロの味と比べたら、感想くらい変わってくるだろ」
「それは褒めすぎだってばー」
そうは言いつつ、嬉しそうに照れ臭そうに、ニヤニヤの止まらない顔をしている。
そんな愛しのあずさが作った卵焼きをよく味わい、じっくりと噛み締めているうちに、ふとした拍子に豊満な乳房へ目がいった。
(……デカい)
といっても、中学の頃から付き合い始め、初体験まで済また間柄だ。もうとっくに見慣れているといえば見慣れている。何ならパイズリさえ頼むことがある程度に、乳房もまた日常の一部である。
慣れていったり、同じことが繰り返されれば、普通化して価値が減るというのはありがちな感覚だ。和也もその例に漏れず、中学生の頃ほど鼻息を荒くしたりはしないのだが、とはいえたまに目がいくのだ。
ふとした拍子に、発作的に価値が蘇る。
特に理由があるわけでもない、衝動的な感覚から、和也は乳房に視線を送っていた。
(うん。デカい)
テーブルの上に、乗ってしまっている。
女子の制服はセーラー服で、その服の内側から巨乳を存分に目立たせていた。
メロンを生やしているといっても大袈裟ではない。
まるでC字を成そうとしたように、手前に丸く飛び出たカーブに沿って、赤いスカーフもまた手前に突き出ている。乳幅の方が胴体よりもやや広く、立ってバンザイのポーズを取らせれば、裸であれば背後からでも横乳が見えないこともない。
あずさがテーブルで前のめりになった時、だから乳房がほどよく乗り、若干の持ち上がりを帯びて目立つのだ。
「あ、こら。どこ見てる?」
和也の視線に気づくと、さして嫌でもなさそうに、やんわりと注意してくる。
「いやぁ、目立つなーって」
「はいはい。時と場所は選んでね」
あずさはすぐに姿勢を直し、乳房はテーブルから離れて行く。
しかし、綺麗な姿勢を保ったからといっても、爆乳の目立ち具合は相変わらずで、通りかかりの男子生徒が好奇心の目を向けているのがたまに気になる。
(あんま見るなよな)
と、思ってしまう。
自分だって、綺麗な人を見かけたり、スタイルの良い異性が街角を歩いていたら、チラっとした視線ぐらいはやってしまう。それと同じく、あずさに視線をやる男がいるのも仕方がないが、いつか道端でナンパでもされないかと不安になる。
(押しに弱いからなぁ)
和也は思う。
あずさとは幼馴染みだ。
幼稚園から同じとはいえ、小さい頃はそれほど深く関わっていたわけでない。幼馴染みにあるという兄弟姉妹のような感覚は薄らとしたもので、だから大きくなるにつれ、しだいに異性として意識するようになっていた。
そして、中学生の時に告白をしたのだが、その時の自分がまさに押しを強くして、勢いのままに頷かせている。交際そのものはもちろんあずさの返事を聞いてのものだが、仲を深めようとするのを積極的に、かつ衝動的に行っていた。
例えば、同じクラスなのをいいことに、まずは顔さえ見れば挨拶をした。休み時間のたびに話しかける隙を探って、アプリで連絡先を交換できないものかと求め、その交換を達成するなり、より積極的に誘いに出た。
今度一緒に遊びに行かない? 映画とかどう? 勉強、教えて欲しいんだけど。
といった内容を頻繁に送った上、しかも「今日はちょっと……」と渋るような反応があった時には、「どうしても駄目?」「いつなら平気?」という食い下がりだ。
今にして思ってみれば、しつこい男として嫌われていても、きっとおかしくなかっただろう。
だが、当時の和也はあずさの存在を求めてやまず、休日を一緒に楽しく過ごす方法については、いつでも画策し続けていた。
その末に行った告白で良い返事を貰ったのだから、押し切り勝ちといえるだろう。
ただ、和也自身に押し切った体験があるだけに、いつか積極的にガンガン迫る相手が現れたら、あずさは一体どうやってかわしきるだろうかと心配になる。長らく一緒に過ごしているので、本当に嫌なことは断るのはわかっているが、それにしても押しに弱い部分は確かである。
(ま、大丈夫だろうけどさ)
考え過ぎ、妄想のし過ぎでもだろう。
ある日突然、過去の和也以上に激しく食い下がり、意地でも押し切ろうとする男が現れ、あずさにナンパをするというのは、雷に打たれることを心配するようなものである。あり得ないとまでは言わないまでも、過度に心配するのも馬鹿らしいような確率だ。
(こういうこと考えるからかな?)
あずさの様子が最近おかしい。
などと思ったのは気のせいで、むしろ和也自身の方が、その爆乳に対する他の男子の視線を気にしすぎているのかもしれない。
(考え過ぎ、考え過ぎ――)
無駄に心配をするあまり、まさか自分以外の男子と口を利くなとまで言うわけにもいかないのに、心配性になっても仕方ない。
しかし――。
和也はこの時、知らなかった。
様子がおかしいと感じたことも、あずさを狙う男の心配も、ある意味では当たっていた。
それも予想できない形である。
魅力に溢れたイケメンが現れれて、自分の恋人に声をかけていたら、それは心配になるだろう。その一方で、モテすらしない男がいても、まず警戒しようとすら思わない。
あずさの身に起きているのは、そんな予想の外側からの出来事だった。
*
放課後を迎え、和也はあずさと共に下校する。
幼稚園に小学校、中学校まで同じであっただけ、住んでいるのも同じ学区で、さらに徒歩数分の距離にお互いの家がある。
賑やかな町を通過して、静かな住宅地の道のりを歩いていくと、和也は一軒家の前で足を止め、あずさに別れを告げていた。
「んじゃ、また後で」
「後でねー」
手を振り合い、玄関のドアを開けて帰宅する。手洗いうがいを済ませるなり、すぐさま二階の自分の部屋を目指していった。
あと数分もしないうちにあずさもまた家に着き、さらに数分もすれば部屋でスマートフォンを起動して、アプリでメッセージを送ってくることだろう。制服から部屋着に着替えることで、その短い待ち時間を潰してみると、案の定の通知が入っていた。
『やっほー。今日も勉強だよ』
という一文を見て、和也はすぐに返事を打つ。
画面へのタップ操作で素早く文字を入力した。
『上手くいってるのか?』
『まあね。本人もやる気はあるみたいだし』
『学校には?』
『うーん。それはまだまだ』
『そっかー。難しいかー』
『とりあえず家出るから、またさらに後でね』
『そうだな。俺もしばらく勉強でもしておくよ。あ、今度は俺に付き合えよな』
その返事を送った時、会話を締め括るためのスタンプが返信代わりにやって来る。これを最後にスマートフォンを手放して、充電コードを差しておきつつ、和也は気怠い顔で勉強でもしようと机に宿題を広げ始めた。
数十分ほどで集中力が切れてきて、和也は眉間を指で擦りながら椅子から立つ。
「あいつも、同じとこ勉強してんのか?」
ふと気になり、カーテンを開いた。
すぐ隣に一軒家が建っているのだ。
数メートルの距離なので、あちらにその気があったなら、お互いの窓を開いて挨拶ができてしまう。そして、カーテンに気をつけていなければ、部屋が覗けてしまうわけでもある。
白いカーテン越しの影が見えていた。
中の様子がはっきりとはわからないが、二人の人間がうろついたのであろう二つの灰色がちらっと浮かび、直ちに消えていく。
「あっちは集中してんのかな」
実はもう一人、幼馴染みがいる。
あの窓の向こうには、優という同い年の少年が住んでいる。やはり幼稚園の頃から一緒で、そこそこに面識はあるので知り合いのような仲ではある。
彼は中学時代にイジメを受けて、不登校になっていた。
陰湿な女子に囲まれ、何もやり返さずにいるのをいいことに散々なことをされ、とうとう学校に行かなくなった。そんな彼を心配して、あずさが部屋に出入りしているのだが、和也はそれをおかしなことだとは思っていない。
二人は親戚同士なのだ。
父親の姉が結婚した家族こそ、優の暮らしている一家なのだが、優には一人妹がいて、あずさはその妹と仲が良い。もっぱら妹の方に会うために、元から出入りは多いので、元々は幼馴染みの顔もついでに覗いていたといった具合だったそうだ。
家族ぐるみの付き合いで、あずさとしては優とその妹のことを本当の兄弟姉妹のように思っている。
その弟が不登校になり、心配になって様子を見に行くことが増えたのだ。
最近ではずっと勉強を教えているらしい。
つまり、あの窓の向こうでは、今頃はあずさと優が二人きりで過ごしてはいるものの、それは姉と弟で過ごすようなものである。誰かの姉か妹を彼女にしたとして、同じ家に男兄弟がいることを、果たしてどれほど心配するか。
あずさは優を弟としか思っていない。
言い換えるなら、異性として対象に見ていない上、優としても似たような感覚のはずなので、心配してみたところで仕方がない。
それに、そういう世話焼きもあずさの良いところの一つである。
何事にも面倒見良く付き合って、一緒になって笑ったり、喜んだりしてくれるところが可愛くてたまらない。胸の大きさもあるにはあるが、あずさのそういうところに惚れたわけで、告白に踏み切るきっかけにもなった。
「教え方、上手いもんな」
和也自身、あずさから何度も勉強を教わっている。
どこがわからないのかを伝えると、どうして理解できないのか、どうしたらわかるようになるのかを一生懸命になって考えてくれるのだ。一体どこで引っかかったり、どういう考え方をしてしまっているのがまずいのか、道筋を立てて導こうとしてくれる。
中学時代、まだ告白する前の頃もそうだった。
国語の文章問題がわからずに頭を悩ませ、机で一人唸っていた時、勉強を教えてもらう口実を思いつき、是非とも指導して欲しいと願い出たのだ。
うーん、私だってそんなに頭良いわけじゃ……。
という返事が当初は来たが、そこを和也は押し切った。
いやいや、二人で考えたらなんかわかるかもしれないし!
それ、私じゃなくてもいいんじゃ?
お前がいい! 他の奴だとなんか、上手くいく気がしない! 頼む!
まあ、そんなに言うなら……。
思い出せば、我ながら品性に欠ける勢いで、がめつかったといったらない。
ともかく、一緒に勉強という時間を勝ち取り、図書館で席を取っての勉強の際、あずさはやけにじっくり考えてくれたのだ。
「うーん。答えはそのまま文中に書いてあるんだけどなぁ」
「いや、みんなそう言うけどさぁ」
「そっかー。それじゃあ、こうしよう。どうして和也くんには解けないのか、何がわからないのか、そこから考えてみようかな」
つまり、できてしまう人間として、出来ない人間はどうして出来ないのか、そこからしてわかっていなかったあずさだが、それを考えようとしてくれた。考えに考え抜いて、どうにか和也にも答えを解かさせてくれた時、達成感が湧くと同時にあずさも一緒に喜んでくれたのだ。
「やったね! できたよ!」
と、まるで自分のことのように嬉しそうな顔をしていた。
その時の顔を見て、ますます惚れたのが思い出の一つだが、今は親戚という名の弟にも、同じように親身に教えているわけだ。本人によれば、教えるという形を通すと、より理解度が深まって、テストで点数を取りやすくなるとのことだった。
もちろん、少しは思うところはある。
優がいるから、あずさと二人きりの時間が減る――などと、疎ましく感じたこともありはするが、それを言ったら女子同士で遊ぶ約束でも、その時はデートができなくなる。あずさだって同性の友達と過ごしたい時はあり、行動をいちいち制限するわけにはいかず、そういった感情にも和也は自分の中で折り合いをつけていた。
『一応、男女で過ごすわけだし。警戒っていうか、そういう意識はしてくれよ?』
あずさが優に勉強を教え始めた時、そういうことをメッセージで伝えたことがあるのだが、その返事を見ることで納得した。
『そりゃ、もちろん! 和也が一番ですとも!』
『心配かけちゃってごめんね? でも、和也も一緒に優を心配してくれたら嬉しいな』
もし自分に弟か妹がいて、落ち込んでいるところをあずさが一緒に慰めたり、応援してくれたとしたら、心強く感じるものかもしれない。
あずさが求めているものは、きっとそれだと感じたため、とやかく言うことはなく、和也自身も稀に顔を出している。
仲良しというほどでもないので、向こうはそれほど嬉しくないかもしれないが。
もしも学校に行く気になって、登校を再開したら、自分という話し相手がいることぐらいはアピールできていることだろう。
「ま、俺も頑張るか」
和也はそこでカーテンを閉め、机に戻って勉強を再開する。
だから、気づかなかった。
白いカーテンの向こう側で、ちょうど二人分の影が一つに合わさり、まるで抱き締め合って見えていたことには――。
*
優は弟のような存在だった。
歳は同い年でも、自分よりも背が低く、童顔気味で少しだけ幼く見えるので、兄弟感覚といっても兄や双子の気はしない。年下の弟というのがしっくりきて、昔からそのつもりで接していた。
今日もそう、そのつもりだ。
優の部屋の前まで行き、ドアをノックしてから顔を出す。
「こんにちはー。お姉ちゃんが来たぞー」
「あ、あずさ……!」
部屋へ入ると、人の顔を見た瞬間から、表情がパっと明るくなっていた。
この可愛げがまさに弟だ。
「あれれ? お姉ちゃんが待ち遠しかったのかな?」
「まあ、多少は……」
「ふーん? 部屋の掃除はちゃんとしてる?」
「うん」
「たまには外歩いたりしてる? ストレッチもサボってない?」
「一応、やってるよ。運動不足にならないように」
「よろしい。ではお勉強といきましょう」
「お願い……します……」
優はどことなくオドオドしている。
学校ではもっと声が小さくて、人の顔色を窺うようにしてばかりいたためか、それがイジメ気質のグループに狙われるきっかけになったのだろう。
まさか、自分の幼馴染みが女子に囲まれ、玩具のように遊ばれているとは思わなかった。
いや、前々から様子は気になっていたのだ。
二年生の時はクラスが同じで、だから優が女子に声をかけられたり、しょっちゅうどこかに連れて行かれている場面を見て、あの優がモテモテになっているなどと、当初のうちは誤解していた。
だが、実際には暴力を受けたり、裸で土下座をさせられたり、屈辱的なことばかりをさせられていた。そんな目に遭う毎日の人間が明るい顔をしているはずもなく、そして大人しくて暗い顔の一人を陰湿な笑みの集団で囲んでいるのは、さすがに普通ではないと気づいていた。
気づいても、勇気が出なかった。
助けるべき、注意するべき――正義感から、何かをやるべきだと衝動に駆られたものの、怖くて一歩踏み出せない。学校に相談しても解決しないというのはよく聞く話で、ではどんな方法を取ればいいのかと、こうなったらネットの知恵を借りようと検索をした。
しかし、刑事訴訟や探偵業者による虐め調査の話が出て来た時、自分にそんな大がかりな真似ができるだろうかと二の足を踏んだのだ。
そこに飛び込んだのは和也である。
「あれ? おかしくない?」
と、その当時、既に付き合っていたあずさと和也は、一緒に下校をしようとしていた際、虐めグループに連れて行かれる優の姿を目撃した。様子を気にした和也が後をつけるので、あずさも一緒に見に行くと、なんと全裸になるように命令され、しかもスマートフォンまで向けられていた。
悪魔にしか見えなかった。
全裸での自慰行為を強要して、それを動画に撮ってゲラゲラ笑う。何がそんなに面白いのか、どうしてそれで笑えるのかが理解できずに、あずさには人の皮を被った悪魔が並んでいるように見えたのだ。
一度そう見えてしまうと、余計に怖くて足が竦んだ。
しかし、和也は違ったのだ。
「あいつら……!」
即座に助けに行ったのだ。
やっていた行為が行為だけに、女子を殴ることにさえ迷いがなく、たちまち騒ぎになったことでイジメグループの行為は発覚した。駆けつけた教師としても、全裸の優と、イジメの噂があった女子グループ、そのイジメ集団に暴力を振るう和也となれば、前後の状況に察しがついていたらしい。
もっとも、ネットで拡散を試みたり、警察に持ち込むことを結局はしておらず、厳重な注意や指導をするものとして処理された。
立派な犯罪だったと思うのだが、学校としては警察沙汰にする意思はないようだった。
そして、ネットを利用して話題を集めたり、マスコミを利用するような勇気はあずさにはなく、何よりも優自身がそれを望むかどうかもわからなかった。
暴力はいけないことだ。
だが、それ以上に最低なことをしていたイジメグループに対して、和也は正義感から拳を出した。暴力現場を見ていたその時は怖かったが、後で冷静になって考えれば、幼馴染みのために迷いなく立ち向かう彼氏というのは、誇らしくてたまらなかった。
きっと、あずさが暴漢に襲われて、その現場に和也がいれば、必ず助けてくれるだろう。
その一方で、あずさは結局のところ何が出来たわけもなく、ひたすら二の足を踏んだり、及び腰になったりしているだけだった。和也はあんな風に動けたのに、何一つ出来なかった自分が引け目となり、後からでも何かできることはないかと思ったのが、やがて勉強を教えるようになったきっかけだ。
二年生で不登校になり、そのまま最後まで中学校には通っていないが、受験自体は受けようとしていたのだ。
合格後、数えるほどしか登校はしておらず、来ても保健室登校だったりするのだが、とはいえ合格は誇らしい。
中学三年の半ばといった時期からだった。
不登校となった優の様子を見に行って、たびたび気にかけているおりに、参考書を開いて勉強している後ろ姿が目についた。そのことについて、「勉強はしてるんだね」と、雑談のつもりで触れてみた時、ぼそっと高校受験はすると答えたのだ。
だったら、それこそがせめて自分にできることではないかと、あずさはよく勉強を教えに行くようになり、高校生になった今でもたまに勉強を見ているのだ。さすがに休日はデートが優先だが、平日にはよく家に出入りする。
そもそも、あずさの家の両親は留守がちだ。
そこで家族ぐるみの付き合いで、今日はあずさの晩ご飯もよろしくといった具合になり、優の家に泊まることもたまにある。その時は妹の部屋に泊まって、夜などは妹と過ごすのだが、ここぞとばかりに優とゲームをして過ごしてみたり、なんてこともやっている。
しかし、いくらなんでも、こんなことまでするようになってしまうとは、さすがに想像したこともないのであった。
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