前の話 目次




 サルカズ女性がドレスを脱ぐ。
 その肢体があらわとなり、魅惑の肉体が披露されると、モスティマは思わず見惚れそうになっていた。こんな状況で、かつモスティマを辱めている張本人のものだというのに、透き通った肌が織り成す曲線美と、皮膚の艶やかな質感からなる乳房の膨らみは、もはや芸術の域に達していた。
 そんな芸術の権化が迫り、モスティマのいるベッドに上がる。
 上から覆い被さって、真正面から身体を密着させてきた。
「さあ、もっともっと楽しみましょう?」
 サルカズ女性の浮かべる悪魔の笑みは、それさえ美しく見えてしまう。
「これはこれは…………」
 モスティマはもはや関心していた。
 彼女の持つ魅力には、問答無用の魔力がある。これほどまでに美しい者の手に嬲られ、思うままにされてしまっては、そのまま虜にされる女性も現れる。彼女の言うペットとやらに成り下がり、付き従うようになるのだろう。
 だが、いくらなんでも、自分までそうなるつもりはない。
(ま、とにかく目的は体なことだし)
 最後まで耐え抜けば、きっとそれで終わるだろう。
 そう信じてモスティマはサルカズ女性の指を受け止め、乳首に受ける刺激を味わう。指の力でつまんでクリクリと、転がすように弄る攻めは、先ほどまでの刺激を遥かに超えて快感だった。
「なっ……!」
 驚きに目を見開くほどの、強い電流が乳房を流れた。
(さ、さっきまでは……)
 ここまで強い刺激はなかった。
 確かに声が出るほど気持ち良く、髪さえ振り乱すほどの快感だったが、神経がそのまま焼き切れるかと思うほどまでの、恐ろしくも甘美な狂おしさではなかったはずだ。
「あっ、あがぁぁ……! あっ、うあっ、ああぁぁ…………!」
 モスティマは激しく髪を振り、肩を執拗なまでに活発に、やたらにモゾモゾとさせてしまう。乳輪をなぞりつつ、乳首もピンと弾く刺激を受けているだけで、こうも大きな快感の波が押し寄せるのだ。
「んぅぅぅ……! んあっ、あぁぁぁ…………!」
「随分とのたうち回るのね?」
「あっ、あぁぁ…………! あぁっ、あぁぁ……!」
 両腕さえもモゾモゾと、刺激に合わせてよがっている。
「電気拷問でも受けてるみたいよ?」
「あぁぁぁ……! あっ、あぁぁぁ…………!」
 わけがわからなかった。
 どうして、胸だけでここまで刺激が強く、神経が狂ったような快感が発しているのか。理解できない気持ち良さに翻弄され、首を振りながら喘いでいるうち、脳裏にかすかな予感が掠め抜く。
 これも、アーツなのか。
 認識阻害を逆に応用して、認識推進でも行って、感度を上昇でもさせているのか。その予感に確信はなく、純粋にただ上手いだけかもしれない気もしてしまう。
「あぁっ、あぁぁぁ……!」
 浮かび上がった思考を突き詰める暇もなく、モスティマの脳には次から次へと、激しい快感の津波が押し寄せ続ける。
「下を触ったら、どうなっちゃうの?」
「いや、待って……!」
 モスティマはつい、懇願の眼差しを浮かべてしまう。
「あらぁ? どうしたのぉ?」
 そんな人の目を見た瞬間に、ニタァァァァ――と、おぞましく歪んだ笑みをサルカズ女性は浮かべていた。
「別に……ちょっと、休ませて欲しいなー……なんて…………」
「そうはいかないわよ?」
 サルカズ女性の手は構わず下に伸びてくる。
「ひぅん!」
 すぐさま、モスティマの腰は弾み上がった。
 まるでバネの力で弾み上がって、腹で物でも打ち飛ばそうとするような勢いで、ベッドシーツに沈んでいた胴体はアーチの形に持ち上がる。その力に腹部を打たれ、サルカズ女性は嬉しそうに目を細める。
「いい反応ねぇ?」
 サルカズ女性がワレメを撫でる。
 指を上下にしているだけで、愛液はみるみるうちに溢れて来た。さながら、びしょ濡れの布から絞り出しているように、急速に分泌される愛液は、滴となって滴り落ちる。表皮を伝っていくらでもベッドシーツに流れ落ち、その染み込んだ円は広がっていた。
「あっ、あぁぁ……あぁぁぁ………………」
 また、何かが膨らんでくる。
 それは絶頂の予感に他ならない。
 このままアソコをやられ続けていれば、モスティマはまた潮を噴き、その滴が周囲に飛び散ることになるだろう。
 とても堪えきれない。
 すっかり濡れたアソコから、サルカズ女性の指へと愛液は移り、その手もまたすっかり濡れている。愛液にまみれた指で、愛液を帯びたアソコを触る。ぬかるみ同士が触れ合って、実に滑りの良い状態は、モスティマに強すぎる刺激をもたらしていた。
「あぁ……も、もう…………!」
 もう駄目だ。
 また、イカされてしまう。
 そう思っていたモスティマへの、サルカズ女性の技巧に満ちた指遣いは、しかしそこでピタリと停止するのであった。

     *

 モスティマはかえって驚いていた。
「な、なんで……」
 どうして、そこで手を止めたのか。
 イカされて当然とさえ思っていたモスティマには、むしろ理解できない展開で、一瞬頭が混乱していた。同性を嬲り、辱めてイカせることが大好きなら、イカせないはずがないと疑いなく信じていた。
「あら? どうしたのかしら?」
 しかし、わざとらしく尋ねてくるサルカズ女性の顔を見て、モスティマはすぐさま確信した。
 これもまた、辱めの一種なのだと。
「いやぁ……なんだろうね……」
「ふふっ、それじゃあ、もう一回」
 そう言って、次にサルカズ女性が行う攻めは、お互いの性器を擦り合わせるものだった。サルカズ女性の手に片足を持ち上げられ、股同士をくっつけ合っての摩擦が始まると、モスティマはすぐさま喘ぎ始めていた。
「いっ、あぁ……あっ、くぅぅ…………!」
 受けつけない行為のはずだった。
 そもそも、身体を触られること自体、本来受け入れてすらいない。それを性器まで擦り合わせるなど、拒否反応の一つや二つあって然るべきはずであったが、感じすぎた肉体には、もはやそれさえ現れない。
「あっ、あぁぁ……あっ、うぅ……!」
 持ち上がった右足は、サルカズ女性の胸に抱かれている。足が乳房のあいだに挟まり、身体にぴたりと密着したままに、アソコに対しては肉貝が擦り合わさる。その摩擦によって徐々に体は高まって、次の予感が膨らんでいた。
「んぅぅぅ……! んっ、んぅぅぅ…………!」
 横向きで寝たような姿勢のモスティマは、右手でシーツを握り締め、与えられる快感を必死で堪える。
「あぁ……あっ、あぁぁ…………!」
 それは見えない何かが膨らんで、頭の中で弾けようとする感覚だった。その瞬間を迎えた時、頭が真っ白になり、しばらくはものも考えられずに放心すると、既にイカされているモスティマにはわかっていた。
 だが、その感覚が膨らむだけ膨らんで、いざ破裂寸前になった時、またしてもぴたりと停止していた。
「ど、どうして……なんで…………」
 また、イカせてもらえなかった。
「ふふっ、どうして欲しいか、言ってごらんなさいな」
 サルカズ女性は体位を変える。
 今度はM字開脚の姿勢に戻され、まるで正常位のような形となって、真正面から性器を擦りつけてきた。性器どころか、上半身を迫らせて、乳首同士の擦り合いまで行いながら、三つの箇所へと同時に刺激が与えられ、モスティマはその快感に苦悶する。
「あっ、あぁぁ……あぁぁ…………」
 両手でシーツを握り締め、モスティマは大口を開けて喘いでいた。
「ほら、言ってみなさい? どうして欲しいの? ねえ」
 サルカズ女性はモスティマを追い詰めていた。
 また、徐々にイキそうな感じへ近づいて、今度こそはというタイミングが訪れるも、そうするとピタっと止まる。何度イキそうになり、どれほどアソコが切なくなっても、モスティマは決してイカせてもらえない。
 寸止めは延々と続いていった。
 何分も、何十分もかけてじっくりと、モスティマの存在が熟成するまで、サルカズ女性はいくらでも時間をかけようとしていた。

「あぁっ、あぁぁ…………!」

 それは一体、何度目の予感であるか。
 当然、直前になってピタっと止まる。
「そんな…………」
 あまりにも寸止めが繰り返され、もはやイカせてもらえないことの方に絶望を感じるほど、モスティマは仕上がっていた。
 しかし、それでも彼女はモスティマをイカせない。
「ほら、イキたかったら言うことがあるでしょう?」
 そう言って、モスティマの心が陥落するまで、決して絶頂は与えない。その瞬間を迎えるまで、いくらでも喜んで時間をかけ、サルカズ女性は何回でも、果ては何十回でも同じことを続ける勢いだった。

「あっ、あぁぁ…………!」

 やがてまた、次の高まりをモスティマは感じる。
「あっ、あ……なんで…………」
 当然、それは寸止めに終わる。
「ほらほら、言わなくちゃ」
 サルカズ女性の、モスティマが観念する瞬間を待とうとする目論見は、快感に染め尽くされた頭でも、片隅では何となくわかっていた。だからギリギリまで、そんな目論見には乗るまいとする気持ちが残っていたのだ。
 しかし、その意地も永遠には続かない。
 いくら時間がかかっても構わないサルカズ女性と、ゴールも無しに耐え続ける一方のモスティマでは、あまりにも分が悪かった。

 観念すれば、楽になれる。

 モスティマの頭には、いつしかそんな考えが浮かび始める。
(そ、そうだ……今、ここで……一瞬だけプライドを捨てれば…………)
 たったそれだけのことで、切なくてたまらない、もやもやとした感覚は解消される。
 そんなことを考えて、モスティマはふと気づいた。
 ああ、そうか。人を罠にかけ、体を嬲ってくるような相手に対してプライドを捨てるのが、もはや『たったそれだけのこと』と言えるほど、心も体も追い詰められてしまっているのだ。
 きっと、それこそ彼女の目論見通りなのだろう。
 モスティマの心がそんな風に熟成され、堕ちる瞬間こそを今か今かと待ち遠しくしていたに違いない。

「……い、イカせて」

 そうとわかっていても、モスティマはそう口にしていた。
「あらぁ? 聞こえないわよぉ?」
 サルカズ女性はわざとらしく聞き返す。
 その表情を見て、モスティマは今更になって思い出す。認識阻害のせいで見えないだけで、この周りには何人ものペットとやらが立っているのだ。目には見えずとも、複数人に囲まれた状態で、彼女はそんな宣言をもっと大きな声でしろと言ってきている。
 それはどれだけ恥ずかしい――はずのことであるだろう。
 だが、もう駄目なのだ。
 本当の本当にもう限界で、これ以上は堪えきれない。

「イカせて……! もう我慢できない……これ以上は無理だから……イカせて…………!」

 恥を忍び、プライドをかなぐり捨てた宣言の直後である。
「それじゃあ、願いを叶えてあげるわね?」
「んっ、んぁああああ!」
 モスティマは直ちに絶頂していた。
 何をされたのか、どんな魔法をかけられたのかもわからずに、気づけば大きな声を上げていた。アソコに潮を噴いている感覚もしていたが、肉貝同士が擦れ合っているせいで、噴射が塞がれ滴は飛ばす、だからモスティマの絶頂は、サルカズ女性の性器を直接濡らしているはずだった。
「いいわぁ? すっごくいいものを得られるわぁ?」
「んっ! くっ、くっ! くふぅぅ……!」
 モスティマはさらに喘いだ。
 イってもなお続く擦りつけの責めにより、モスティマはサルカズ女性の肩に手をやって、しがみつくような真似さえしていた。両足を交差させ、彼女の腰をこの身に保持さえしてしまっていた。
 未だに筋力阻害を受けている体では、力によって押さえ込む力などありはしないが、モスティマなりの今の全力でもってそうしていた。
 時間など忘れていた。
 体が、心が、全て嵐の中に晒されているように、そして必死でしがみついていなければ、どこか彼方へ自分の存在が飛ばされてしまうかのようにして、モスティマは懸命になってサルカズ女性にしがみついていた。
 体は連続で震えている。
 何度も何度も、数分おきにビクビクと、繰り返しの絶頂を行っていた。

     *

 ひとしきり犯し尽くして、満足したサルカズ女性は、自分の中に力が満たされていくことを感じ取る。
 彼女はレズビアンだ。
 だからモスティマに惹かれたし、付け狙おうと計画した。
 その性癖は間違いないが、しかし狙った獲物を今までに何人も襲った上、これからも続けようと考えているのには、もう一つの理由がある。
 そうすることで、アーツの力が高まるのだ。
 同性を嬲り尽くして慰み者として扱って、絶頂の連続を与えたり、心を堕としてやることで、彼女のアーツはその前よりも力を増す。最初は軽い認識妨害で、せいぜい足し算の答えを狂わせたり、通行人に道を間違えさせる程度のことしかできなかったが、力を磨けば磨くほど、能力は向上していた。
 そして、能力が向上すれば、使い道が増えてより獲物を楽しめる。
 楽しんだらまた、そこから吸収したエネルギーで能力を高め、その高めた力をまた駆使するという素晴らしい循環が出来上がっている。

「さて、次はどんな人を狙おうかしら」

 満足しきった顔をして、サルカズ女性はベッドの方へ目を向ける。
 そこには五人にもなる裸のペット達の、手という手の数々によって撫で回されるモスティマの姿があった。
「あっ、あぁ……もう……無理っ、やめて…………」
 あの余裕を気取ったような、強い力を持つ女特有の何かを崩してやった快感で、見ていて心が満ち溢れる。腕っ節の強い女であったり、心の屈強さであったり、そういったものを持つ同性をへし折って、あんな風に弱らせてやるのが面白くてたまらない。
 彼女はその欲望をまた、果たした。
 あとはペット達に触らせて、その光景を傍から楽しめば十分だった。
 モスティマには見えていないだろう。
 認識阻害を解いていないので、透明人間にでも囲まれて、視認できない腕に触られている感覚でいるはずだった。

 …………
 ……

 飛行装置が町に着き、モスティマは宿泊でシャワーを浴びる。
 それから、薄暗い表情で鏡の中の自分を見つめ、首や鎖骨の周りに残ったキスの痕跡をぼんやり眺めた。
 全て、あのサルカズ女性に付けられたものだ。
 皮膚に歯を押しつけながら吸い上げて、そうすることで残る口づけの痕跡は、鏡に映りやすい部位ばかりでなく、首のもう少し見えにくい箇所にまで至っている。こういくつも付けられてしまった刻印は、きっと十個を超えるだろう。

「また、遊びましょう?」

 そう耳元に言い残したサルカズ女性の言葉がこびりつき、鼓膜の奥に残っていた。
 そのせいか、不安でならないのだ。
 あの認識阻害の力を持つサルカズ女性が、こうしている今にも密かに忍び寄り、またしてもモスティマのことを付け狙ってはいないかと。
 実は既に後ろに立っていて、自分にはそれが見えていないだけではないのかと。
「まったく、とんだトラウマだよ」
 暗い顔をやめようと、モスティマは笑ってみせる。
 しかし、鏡に映るその笑顔は、どうにもぎこちないものだった。
「あーあ。しばらくは引きずるな、これは」
 わざとらしいおちゃらけた口調で、軽口のように言ってみせることにより、少しでも気を楽にしようとしていた。
 時間が経てば、傷は薄れていくかもしれない。
 だが、思い出は永遠に残るだろう。
 あのサルカズ女性が再び現れ、自分のことを嬲りに来ないか。あるいは似たような能力の持ち主に目を付けられ、やはり今度は男に犯されるといったことにはならないか。そんな不安が膨らむだけ膨らんで、心に深くこびりつく。
 こんなトラウマと付き合いながら、当分は過ごしていくわけだ。
「ま、なるようになるさ」
 モスティマはそう言って、鏡に背を向けベッドに向かう。
 眠れば少しは気分も変わってくるだろうと、モスティマは寝間着に着替えて横になり、明かりを落とした暗い天井を見つめながら、やがて目を閉ざしていった。  



 
 
 

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