広大な大陸の中には、アカフラというジャングルに覆われた区域がある。
アカフラに暮らす大小様々な部族達は、科学開発の進んだ都市とはかけ離れた前時代的な生活を送っている。発達した国や町にある学校教育、組織的な軍隊や公共機関といったものは何もない、余所の出身の現代人からしてみれば、およそ信じられない暮らしぶりである。
もっとも、そこで生まれ、そこで育った人々にとっては、それこそが普通なのだ。アカフラで暮らす部族達から見てみれば、龍門やカジミエーシュのような外の国こそ、むしろ空想上の世界と感じられるのかもしれない。
自分達で田畑を耕し、狩りで得た獣を食べて暮らす生活には何の疑問もない。とはいえ、科学などほとんど知らず、外の世界というものを知らない者にとって、そんな外から手に入った書物ほど、好奇心をくすぐられるものはないと言える。
無論、全員がそうとは限らない。
発達した都市に生まれてさえ、積極的な読書などしない人間がいる中で、読み書きができなければ吸収不能の知識に触れ、それを面白いと言える感性は、部族全員で共通して持ち得るものとは言えないだろう。
しかし、彼女は知識欲に目覚めた。
ユーネクテス族の族長にして、自らを族名のユーネクテスとも名乗るようになったズゥママが、ある時から急に本に夢中になり、知識の吸収に没頭するのは、それでもごく自然な話である。
新鮮に見えた世界に魅了され、引き込まれるということは誰しもある。
その対象が人によって異なるのだ。
ズゥママの場合は、外の知識に触れていく中、さらに道具の開発というものに興味を持ち、やがては機械弄りに没頭するようになっていた。
ならば、そのズゥママを族長とする部族の仲間も、それに感化されるのは決して不自然なことではない。
「この人体解剖図って、一体誰が書いたんだろうな」
木や藁を組み上げて作った小屋の中、一人の男が疑問を述べる。
彼はその感化されたうちの一人である。
「さあ、誰かが解体したんじゃないか?」
その疑問に、もう一人の男が肩を竦めて答えていた。
こちらもまた、知識体系の吸収に目覚めている。
どちらもユーネクテス族の男である。
細かな部族に分かれているとはいえ、種族的にはアダクリスに分類され、男は総じてワニ顔である。その口を開いた隙間に牙をずらりと並べた顔は、イベリアやラテラーノで見る人間とは極めて異なっているものの、ペッローやサヴラなど、外の国に暮らす人種にも、そうした生物的な顔は見受けられる。
よって、それ自体は外から驚かれることはないだろう。
ただ、藁を編んで作ったスカート状の腰巻きを身に着けて、槍を握った姿など、外の人間からすれば野蛮な民族に見えかねない。こうした風体の部族が余所者を捕らえ、残酷な扱いをする映画や小説の場面などから、漠然とそういったイメージを持つ者は少なからずいるはずだ。
実際、腕力こそを是とする伝統を重んじてはいるものの、彼らは余所者を見るなり急に槍を投げつけるわけではない。
ただただ、ジャングルの奥地で暮らす民族というだけなのだ。
「誰かって、誰だろうな。どんな気持ちで刃物を使って切り開いて、筋肉とか内臓なんかを解き明かしたんだ?」
そんなアダクリス人の二人が、本で見た知識について、疑問を口にしているのだった。
「俺が知るかよ。きっと死体だろう」
「司法解剖ってやつか?」
「司法解剖って、あれだろ? 警察とか、裁判所ってもんのある国で、そいつの死んだ原因を突き止めるやつじゃなかったか?」
「ああ、そうだった。刺殺とか撲殺とか、小説の中でなんかそんなことを気にしてたな」
「だからよ。きっと死体を使ったんだ」
「医学の発展のためか?」」
「そうそう。医学のために、既に死んだ奴の体を利用して調べたんだ。でなきゃ、生きたまま拷問して殺したみたいな話になるだろ」
「そいつは残酷だな」
「んで、誰かが昔やったことが知識になったに決まってる。大勢で同じことをやっててたまるかってんだ。一度誰かが調べたものが広まって、んで後の時代にも受け継がれたんだろう」
「そうだよな。こうして本で読むのはおもしれーが、自分で解剖をやってみたいとは思わないな」
「そりゃそうだ。狩りの獲物を捌くのとはわけが違うぜ。同胞の肉を切り分けて、内蔵取り出して、なんてやってられるか」
二人が交わす話題の内容は、そこに書かれた知識は一体誰が判明させたものなのか。どうやって突き止めたものなのか。そんな根本的な疑問についてのものだった。知識を得ていくうちに、ふとした拍子にそういったことが気になったわけである。
ズゥママが機械弄りに目覚めてから、稀に外から来る人間を介して本を増やして、彼女は様々な知識を増やしている。同じ部族の仲間や取り巻きなども、彼女の集めた本に手を伸ばし、それぞれ知識欲を満たしているが、この二人の男達もまた、そういった手合いであった。
二人はその中でも、最近になって医学書を読んだのだ。
そして、それをきっかけに人体の構造や仕組みといったことに興味を持ち、現在の話題に辿り着いたわけなのだが、彼らが行き着いたのは解剖の疑問だけではない。
とある一冊の、女の裸を載せた本があった。
「ああ、ところでよ。こいつは読んだか?」
最初に話題を振った方の男は、その手に官能的な表紙の本を持っていた。
「なんだよ。エロい本か?」
「エロいはエロいんだけどよ。こんな表紙でも、中には色々と体について書いてあるのさ」
「へえ、女の体か?」
「そういうことよ。ズゥママは興味ねーっていうから貰ってきたんだ。あの人は他の本とか、組み立てたやつのテストとかに夢中だからな」
「で、何が書いてあんだ?」
「そりゃあ、あれよ。女の体について詳しく書いてあるわけなんだから、性感帯とか、オーガズムとか、そういうのが多いな」
「完全にアレじゃねーか」
「そう、アレなんだよ。男女でやるアレについて、すっげー真面目臭く解説してるぜ?」
「そいつはいいな。俺達のそういう教育って、外とはかなり違ってるだろうからな」
未開の部族である以上、制服を着て学校に通っての保健体育の授業であったり、インターネットを介して性知識に手を伸ばすことはほとんどない。全員が読み書きを身に着けているわけではない中で、書物で学べるから良い、というわけにはいかない。
大人が子供に子作りを教える方法といったら、実践を通して実体験をさせるやり方であったり、男女の床に招いて見学をさせることもある。口伝もあるが、ともかく読み書きを介した伝え方は主流ではない。
だから外と密林では性に対する感覚は異なっており、その手の話についてはジャングルの中の方がオープンだ。
「でよ。思ったんだ。色々と、いけるんじゃないかって」
「いけるって、何がよ」
「言わせる気か? ま、つまりだ。小説とかに出て来る外の人間の感覚と、俺達の感覚はかなり違う。外じゃ無理でも、ここならよ?」
「あー。だんだんわかってきたぜ。アレだろ? つまり、族長の体を見てみたり、悪戯したいとかって話だろ?」
「どうよ」
「ああ、乗った」
「てっきり、反対するかと思ったけどな」
「なに、これも嗜みってやつよ。そんで、何か計画とか、そういうのあんの?」
「ないな」
「ないのかよ……」
つまるところ、この二人の流れをまとめるとこういうことだ。
この二人もまた、この地の出身である以上、大都市の現代人と同一の感覚を持っているわけではない。外での感覚は、どうやらこういうものらしいといった具合に、本を介して知識的に理解しているに過ぎない。
だが、周りにはなく、自分達にはある知識の存在は、面白いアドバンテージなのだ。
言ってみるなら、外の人間の感覚になりきって、部族のおおっぴらな感覚に付け込むという遊びがしてみたい。それはごっこ遊びに似ているのかもしれないが、とはいえ性への好奇心もまた確かにあり、ズゥママの乳首やアソコを見てみたり、触ってみたいという欲望に話は尽きる。
思いつきの遊びといえば、その通りということになるだろう。
「あ、やっぱり計画はある。たった今思いついたぜ」
その時、彼の脳裏に閃きがあった。
「おう、なんだよ。言ってみろ」
「バイブとかローターだ」
「なるほどな」
ズゥママの元で機械弄りを覚えた二人である。
大がかりなものは無理でも、配線や基板などのジャンクさえ手に入れば、多少の工作が出来る程度には、技術と知識を身につけていた。
*
ユーネクテス族のズゥママ――のちにロドスに就任後、族名をコードネームとすることになる彼女だが、機械には詳しくても性知識に疎かった。
子作りの方法自体は学んでおり、どうやって子供ができるのかまでは知っているが、彼女の認識ではあくまで繁殖行為に過ぎない。命を授かるための儀式であり、受精という手順を踏む必要があるというだけの認識だけだ。
ただただ、そういう原理としてのみ捉えているのだ。
種子を植え、土の中で栄養を得れば芽が吹いて生長する。そんな自然界に存在する原理の一つであり、それ以上ともそれ以下とも思っていない。
都市の人間がアダルトに興味を持つような感覚が、ズゥママ――ユーネクテスの中からは欠けていた。男は言うまでもなく、女も年頃になれば好奇心は湧き、そういうことに対する興味を大なり小なり抱くものだが、ユーネクテスにはそういったものが薄いのだ。
出身と育ちゆえの感覚だけなら、環境による認識の違いという一言に収まるだろう。
しかし、同じアダクリス人であっても、もう少し興味がある。男ならおっぱいを揉んでみたくて、女としても男に性的魅力を感じることはある。現代都市の人間とは違っても、生物である以上、いくらかは似通った部分がある。
だが、それでもユーネクテスの性的好奇心は薄く、そして知識の欠如もある。
口を使って奉仕したり、手でしごいたりといった行為については何ら知らずない。男が女を見る目はどういうものかという感覚にも疎い。
肝心の挿入行為だけを知識として知っている。ユーネクテスの場合は口伝で知り、その後に得た医学知識で精子や卵子についても学んだが、完全にそこで止まっている。
男目線のエロというものを、知識や想像の上ですらわかっていない。
外の世界なら、アダルト動画を撮影して、AVとして販売したり、娼婦が娼館で働くことで商売が成立するほどに、女の存在そのものに需要がある。そういった知識に偶然触れさえしていれば、本を通して学んでいたことだろうが、ユーネクテスの今まで読んできた範囲にそれらはなかった。
あるいはあったとしても、フィクションに登場する女のシャワーシーンをアダルトなものとして捉えることができず、ただただ女が体を洗っているだけとしか理解できない。サービスシーンという概念など知りもしていなかった。
ユーネクテスの無知とは、そういうものだ。
繁殖行為とは、あくまで繁殖行為であり、単なる生物の仕組みの一つに過ぎないのだ。
そんなユーネクテスがそれを見た時、だから彼女にはそれをアダルトアイテムとして認識することはなく、一体何の道具なのか、本気で首を傾げていた。
「族長。こいつを見てくれ」
「俺達で作ったんだ」
二人組の男達が持って来たものを見て、まず真っ先に目が点になった後、そのまま疑問符を浮かべていた。
男が持っていたのはローターだった。
しかし、それを初めて見るユーネクテスにはローターがわからない。ピンク色で形状は卵形、コードが伸びており、スイッチのパーツと繋がっている。スイッチのオン・オフによって、卵形の部分がどうにかなるのは見てわかるが、彼女の理解はそこで止まってしまうのだ。
「なんだそれは」
「マッサージに使う道具なんだ」
「ちょっと試してみないか?」
そう問われ、ユーネクテスは一考する。
ユーネクテスは今、巨大な鉄人機械の構想を練り上げるため、机で図面を書いている最中だったが、長らく集中していたので肩や目が疲れている。ちょうど休憩を考えていたこともあり、マッサージならば試しに頼んでも良さそうだと結論付ける。
「どう使う?」
尋ねるが否や、二人はこぞって嬉しそうに答え始める。
「簡単っすよ」
「こう、スイッチを入れると振動するんです」
実にシンプルな道具らしい。
人力でマッサージを行う場合、指圧などで筋肉をほぐすのが主になるが、機械が自動的に振動をしてくれれば、手や指ではできない刺激を与えられるというわけだ。
ローターが手の平で震えている。
ブィィィィィ――と、音を立てて振動する卵形は、手の平の上でかすかに暴れ、前後左右に揺れ動く。振動そのものは小さくとも、皮膚の上で微妙に這い回る形となって、わずかな移動を絶え間なく繰り返していた。
「効果はあるのか?」
ユーネクテスは初歩的な疑問を口にする。
「たぶん?」
「その辺詳しくないけど、まあ気休めと思ってだな」
そう言われては仕方がないが、気休めにでもなれば試してみる価値はある。
「まあいい。頼む」
ユーネクテスはそのつもりですっと肩から力を抜いて、いつローターを押し当てられても構わない準備をした。リラックスして腕をだらりと、しかし背筋は真っ直ぐに、ユーネクテスは両肩を差し出していた。
彼女は今、肩はほとんど出している。
穿いているのはブラウンカラーのパンツだが、上半身の方は露出が多く、白のスポーツブラジャーを適当に身に着けているだけで、肩や胴回りは丸出しだ。あるいはそれはブラジャーというよりも、それほど丈の短いキャミソールなのかもしれなかった。
「…………」
「…………」
背後で、二人は無言となっている。
「どうした?」
なかなかローターが来ないので、ユーネクテスはおもむろに振り向くが、その瞬間に彼女は気づく。後ろに近づくだけ近づくと、彼ら二人は肩越しに胸を覗き込んでいた。椅子に座ったユーネクテスに対し、立った二人はそれぞれ左右の肩の後ろで前のめりに、上から真っ直ぐに見下ろしていた。
谷間を覗き込もうとする位置から視姦すれば、そこには布を内側から押し上げる豊満な膨らみが見て取れる。内乳にあたる部位はよく覗けて、おまけに生地が薄いのか、乳首の色が薄ら見える。
突起しているわけではないが、その豆のような形状が微妙に浮き出て、布越しの乳首の位置ははっきりと確認できた。
「ああ、いや」
「このローターってな。女の場合、胸に当てると気持ちいいらしいんだ」
そう言われ、ユーネクテスは特に何も疑わなかった。
「そうなのか?」
確かに乳首にも神経が集まっていると、何かしらで読んだ気はしており、二人がそう言うのんならそうなのだろうと、あっさりと受け入れていた。
「あれ、いいんすか?」
「乳首に当てちまうけど」
何をきょとんと、意外そうな驚いた顔をしているのか。
むしろ、そちらの方に怪訝な顔をして、神妙な面持ちで首など傾げてしまうのだが、そういえば乳房は性的な箇所だったか。勝手に触るべきでない所だったのを思い出し、ユーネクテスは疑いもせずにこう返す。
「問題ない」
と、一言。
乳首に当てるというのなら、早くそうすればいいだろうと、その程度のつもりで軽く答えていた。
「では」
「遠慮無く……」
ローターは二つあった。
それぞれ一個ずつ作っていたのか、頬の真横を拳が通り抜けていく形で、二人の手が乳房を目指す。指につままれながら振動して、微弱な音を鳴らし続ける卵形は、しだいしだいに乳首へと近づいていた。
触れる直前になり、ユーネクテスは黙ってその接触を待ち構える。
触れるか触れないか、非常に際どい距離にまで迫ったローターは、そこで躊躇いでもしたかのように数センチ、微妙ながらに離れていった。
それをユーネクテスは、まだ躊躇いがあるものと捉えていた。
「確か、乳腺組織があるんだったか。まあ、効果がわからないなら、駄目で元々というものだ」
そもそも、二人とも事前に断りを入れてきている。
本人が許可を出しているのに、何をそこまで躊躇うのか。それがわからずユーネクテスはそのように言ってみるのだが、するとようやく二人は腹を決めたらしい。
「そーっすね。ほんと、そうっすよ」
「そんじゃ、失礼して――」
乳房にそれは触れて来た。
乳首の位置に重ね合わせて、指につままれたローターの、その丸みあるフォルムの先端が布の表面に際どく触れる。繊維だけを巧妙にタッチしたかのような、実に繊細な距離感に少し留まり、そのまま皮膚へと押し込まれた。
「んぅ…………」
ユーネクテスは感じていた。
もっとも、本人には『感じる』という知識がなく、それを性的な快感だとは理解していなかった。ほどよい振動がもたらす皮膚への刺激で、あくまでもマッサージの効果によって、そういう感覚がしているものと思っていた。
「ど、どうっすか?」
「感じ……いや、気持ちいいか?」
妙に恐る恐る訪ねてくる。
当はやってはいけない悪戯をしていて、それを怒られないのを内心で不思議がっているような、実に奇妙な態度である。
「確かに気持ちいいようだ」
ユーネクテスにはそれが性的刺激だとわかっていない。
マッサージが気持ちいいだけだと思い込み、だから淡々と事実について答えていた。
「おおっ」
「そいつは良かったぜ」
ユーネクテスは自分の胸を見下ろして、左右それぞれのローターを見やっていた。
卵形の大きさは、それぞれ男の親指よりも大きいかどうかといった具合のサイズであり、楕円形の半ばを指でつまんで、卵状の先端を当ててきている。その先端部によって乳房の山頂はかすかに潰れ、実に薄らとしたクレーターが出来上がっていた。
ほんの数ミリしか皮膚を押し潰して来ないローターは、しばしその感覚を保って押し込まれたままであったが、ほどなくして二人は加減を変える。
数ミリだけの押し込み具合が遠のいて、先ほどの触れるか触れないかといった加減に近づいた。しかし、最初とは違って繊維だけを器用になぞる真似はせず、あと僅かにだけ密着度合いを上げることで、その紙切れ一枚分であるような薄らとした調整によって、乳首に感じる刺激は変化していた。
「なんだ……この、むず痒いというか……いや、気持ちいいが……」
乳首に対する優しげな触れ具合だった。
もしも衣服を脱いでいたなら、産毛だけを細やかに撫でる感覚だったに違いなかった。
「そいつは効果が出てるってことじゃないか?」
「そうそう! 効果効果!」
二人は即座に、まるで食らいつくような勢いで言い出していた。
「そうか? そういうものか」
ユーネクテスは疑おうともしていない。
「んっ、んぅ……」
ただ少しだけ、彼女は息を荒っぽく、かつ熱っぽくし始めていた。乳首に血流が集まって、突起していくにつれてシャツを内側から押し上げる。一センチかその程度の変化であるが、先ほど以上に形はくっきりと浮き出ていた。
*
その後、ユーネクテスは広い場所に機材を並べ、組み上げる作業に集中する。
乳首にはローターの余韻を感じつつ、しかし作業に没頭することで、先ほどまでの気持ち良さは忘れていた。突起したはずの乳首も元の大きさに立ち戻り、肉体の興奮はすっかり沈んでしまっていた。
「ん?」
ふと、ユーネクテスが自分の胸元に目をやるのは、長時間の作業で日が沈み、夕暮れに差し掛かった時だった。
シャツが破れている。
元々、そう生地の厚いものではない。
機械を作る作業といっても、ジャングルという環境下である。都市の工業地帯のように、企業に部品を発注して、優れたネジや基板を取り寄せるというわけにはいかず、トランスポーターのイナムが近場の町から仕入れたものを手に入れたり、どこぞでジャンクを入手するのがせいぜいである。
だから機械を組み立てるには、まずパーツからして作る必要に迫られて、鋭利なものを研磨するといった作業にも時間を費やしていた。
要するに鋭くて危ない金属を扱っていたので、知らないうちに衣服に引っかけて、破いてしまったわけだろう。
幸い、内側の肌には傷がない。
しかし、胸の中央に走った亀裂は、その切れ目からほつれた糸を露出させながら、左右の乳首にまで達していた。布の裂け目から、ユーネクテスの桃色が見えてしまっているわけなのだが、本人はそれほど気にはしていなかった。
「もっと丈夫で、作業に適した服があるといいが」
ユーネクテスが思うのは、せいぜい服を損したことと、破片や鋭利な部位による怪我の可能性が頭をよぎった程度のことである。乳首が出ていること自体は、さほど深くは気にしていなかった。
そんな時、二人の男がやって来る。
「族長」
「作業はどうだ?」
ローターでマッサージをしてきた二人組は、ユーネクテスの様子を見にくるなり、何かに気づいてぎょっとしていた。
「ぞ、族長」
「その、大丈夫なのか?」
あっけからんとしているユーネクテスに対して、二人は困惑しながら尋ねていた。
「何がだ?」
「そりゃぁ……」
「服がだな」
そう言われ、二人が気にしているものについて初めて気づくが、それにしてもユーネクテスの答えはこうだった。
「ああ、怪我ならしていない」
てっきり、怪我の心配をされたものとばかり思っていた。
乳首が見えていて、それは良いのかという疑問については、まるで気づいてすらいないのだ。
そんなユーネクテスの様子を見るに、二人はお互いの顔を見合わせる。何かの使命でも思い出したかのような、ユーネクテスにはあずかり知らない意思疎通が、その一瞬のあいだに行われていた。
「そうだ。片付けがあるッスよね!」
「俺ら、手伝うぜ? ちょうど手すきだしよ」
二人の申し出を、ユーネクテスは純然たるただの親切と受け止めていた。
「そうか? なら、頼む」
そこら中に散らかした部品があった。
装甲の形を整えるため、鉄板を叩いて変形させるためのハンマーに、エネルギーを伝達させるための回路の部品、駆動系に関わる軸パーツなど、大小様々なものを種類ごとに箱に仕分けて片付ける。
今のところ使い道のないジャンクも、後で何かに使えるかもしれない。
そんな片付けの最中、二人はチラチラと視線を向けてくる。それが乳首を視姦するためのものだとは気づかずに、ユーネクテスは淡々と片付けに打ち込んでいた。
両手で木箱を持ち上げる。
金属を詰め込んだそれは、それなりの重量に至っているものの、ユーネクテスや男二人にとっては軽い荷物だ。それらを決まった置き場所に運ぶため、両手に抱えて歩き出す時、ユーネクテスの乳房はより目立った。
彼女の持つ金属には、特に鋭利なものはない。
中身が皮膚に触れることに関して、さほど気をつけてはいなかったが、そのせいだろう。箱の縁部分が下乳を持ち上げて、乳房を微妙に目立たせていた。歩行時の微妙な振動も合わさって、僅かながらにぷるぷると揺れを披露しているのだった。
男二人はそれが見たくて隣に陣取り、ユーネクテスに平行して歩いている。
そして、しきりに横目をやっていた。
「ん?」
彼女の反応は、そうやって一瞬首を傾げる程度のものだ。
自分の両側に男二人がポジションを確保してくるのは、一体どういうわけなのか、少しは不思議に思ったものの、肝心の視線には気づいていない。自分の乳房がいかに性的な目で見られ、裂け目から見える乳首が視姦されているのかを、本人だけが知らなかった。
「ちなみに、また疲れたんじゃないか?」
「またマッサージなんてどうだ?」
そう尋ねてくる二人の言葉にも、やはり疑問など感じない。
「ローターか」
「実は他にもあってだな」
「バイブって機械も作ったんだ」
二人は自分達の発明を誇らしげにする。
「どんな道具だ?」
「ローターとは形が違ってて、バイブは棒状なんだけどよ」
「ぶるぶる震えて動くのは同じなんだ」
当然、バイブもディルドも、何もかも存在からして知らないユーネクテスは、その説明を聞いてでさえも、疑念を欠片も抱かない。
「形状が異なるか。確かに、形を変えて振動させれば、体の部位ごとにできそうだ」
と、ユーネクテス。
「そうそう。そんで、棒状」
「どこ用か、族長ならわかるんじゃねっすか?」
二人の顔には、よりいやらしさが浮かんでいた。
「先端を押し込むんだろう?」
そして、ユーネクテスの頭にあるのは、ローターを乳首に集中させてきたように、棒の先端を肩や腰に押し当てるというイメージだけだった。
「ま、それはまたその時として」
「疲れを癒やしに、風呂にでも入ろうや」
などと、二人はユーネクテスを風呂にまで誘い始める。
「そうだな」
わざわざ、一緒に入る必要があるだろうか。
ここまで来ても、ユーネクテスが浮かべる疑問は、およそそんなものなのだった。
その入浴場はユーネクテスが外の知識を頼りに考え出し、加熱方式を組み上げることで作った大風呂だった。温泉というほどではないが、数人で入ってもそう狭くはならない大きさの、大きな四角形の湯船に湯は張られている。
湯船そのものは地面に穴を掘ったものだが、土に水を入れるのでなく、形を整えたところに鉄板を張り付けて、隙間から漏れないように溶接しつつ、さらに発熱炉を繋げて作り出したものである。
本来、こうした科学など無しに生きてきた民族なので、風呂といったら川で水浴びをするか、あるいは火で釜でも熱して入ることになる。
およそ原始的な方法しかなかったところに、都市の人間から見ても近代的な環境を作り出したのは、ユーネクテス族の仲間にも好意的に受け入れられた。
とはいえ、あちらこちらに作るわけにはいかず、そのせいか男湯や女湯といった概念もなく、この風呂は共同のものとなっている。ここでは余計な羞恥心は捨て、あっけからんとして過ごすことこそが、いつの間に風呂での正しい過ごし方として定着していた。
だからユーネクテスもまた、混浴に対する抵抗を特別に抱いてなどいなかった。
「何をそんなにくっつく?」
湯船に肩まで浸かったユーネクテスは、自分の両隣に来る二人の男に疑問を抱く。もっと大人数なら窮屈だが、今はたったの三人だ。
「十分広いだろう」
と、そういう疑問を抱いていた。
それなりのスペースがあるのだから、もっと広々と使って、ゆとりある過ごし方をすれば良いだろうと、ユーネクテスが思っているのはそれだけだ。
「いやぁ、族長の近くにいたいんすよ」
「別にいいだろ?」
二人の答えに、しかし彼女はあっさりと納得する。
「そうか」
自分を慕い、懐いてくれているだけかと、ユーネクテスの中でのその疑問は、たったそれだけのことで片付いていた。
隣から手が伸びて、肩に触れられてでさえも、特別な疑念は抱かない。
「どうした。虫でもついていたのか」
てっきり、そんな風にさえ思っている始末だ。
「いいや?」
「なんていうか、なんとなく?」
「そうか」
多少は疑問に思っても、それで簡単に納得する。
肩に腕がくっつくほどに接近され、両隣からの密着度合いが上がっても、果ては二人の手が太ももに置かれても、ユーネクテスは顔色一つ変えていない。何をそんなに触っているのか、不思議そうにしているだけで、二人の欲望にはまるで気づいていなかった。
(じゃれ合いのようなものか)
そう捉え、そう片付けてしまう。
だからこそ、どこを触っても嫌な顔一つしないので、結果的にはますます手が活発になってくる。太ももばかりか、腰や腹まで指先で撫でられて、いくら何でも触りすぎだとは思いつつ、かといって特別に不快なわけでもない。
ユーネクテスの持ち得る知識の中に、痴漢やセクハラという言葉があれば、あるいは不快に思っていただろう。
しかし、読んできた本の傾向から、そういった知識を吸収する機会がなく、だから自分が今何をされているのか、本当の意味では気づいていない。育ちや環境のせいなのか、あるいは本人の気質も合わさってのことなのか。
外の世界でなら不快に感じるべき状況に、その通りの感覚が湧いていない。
(スキンシップが多いな)
などと、その程度にしか捉えない。
「あー! お前ら、自分達だけ大族長様と!」
「おい、俺達も入るぞ」
「なあ、いいですよね? 族長様!」
さらに三人の男が増える。
「別に構わないが」
そして、男が増えることへの危機感など、まずありもしなかった。
そもそも、ユーネクテスは強い。
拳によってガヴィルに勝てたことこそないものの、ただ一方的にやられることはなく、それなりにやり返すだけの実力は備えている。そんなユーネクテスからすれば、男の振るう暴力というものに対して恐怖が薄い。
よしんば強引に犯されそうになったとして、それを払い退けるだけの実力を持っているのが、この場合はかえって無頓着ぶりを助長していた。
「しかし、さすが大族長様。お胸も、とても綺麗です」
「そうか?」
「そうですとも! いやぁ、惚れ惚れしますよ!」
三人の男達はぞろぞろと湯面に足を差し込んで、入って来るなりユーネクテスを囲み始める。いかにも好意的な微笑みで、懐いたペットのようにすり寄りながら、しかし彼らは肢体に手を伸ばしてくる。
「ん?」
胸を触られていた。
乳房に指先が触れてくるなり、ならば自分もとばかりに他の手も伸びてきて、実に五人分もの腕が殺到する。それだけの人数が集中すれば、一人一人の手に与えられるスペースが限られて、指先の動きは限られてしまうのだが、触られるユーネクテスとしては、それでも十分な指の本数を感じていた。
五人分もの指がどうにかして各々のスペースを確保して、それぞれのポジションから乳房に接触してくる結果として、指だけを使って揉みしだかれているような感覚となっていた。手の平を当てるのでなく、指のみの接触で押し潰したり、表面を擦ったり、乳首に刺激を与えようとしてきていた。
「んっ、んぅ……」
それにユーネクテスは快楽を感じ始める。
「んぁ…………」
といっても、そう激しいものではない。
まだ触られ始めたばかりの乳房は、ごく僅かにしか甘い痺れを発していない。少なくとも今はまだ、自分自身の感覚に驚くことはしていなかったが、とはいえ妙な快感があるものだと、ユーネクテスは不思議に思い始めていた。
「顔が火照ってきましたね?」
「声もちょっと色気が」
「マッサージが効いてるんじゃないか」
「そうだな。マッサージ効果だ」
「マッサージマッサージ」
ユーネクテスは知らない。
無知で無頓着な彼女に対してなら、色々とやりようがあるのではないかと、目論見を働かせていたのは二人きりだけではない。ことの発端となる一人の男は、さらに三人の男にも似たような話を持ちかけており、ユーネクテスの体に触ったり、裸を見て楽しもうとするための、いわば共同戦線グループのようなものが形成されていた。
そのグループに今、ユーネクテスは囲まれている。
「んぁ……え……?」
四人が胸を触り続けている中で、一人の腕が下へと向かい、股の隙間に潜り込む。ならばアソコのワレメを撫で始めたのは言うまでもなく、さしものユーネクテスも驚いていた。
「そこは、スキンシップで触れるようなところか?」
ようやく、接触への疑問を口にする。
「スキンシップじゃなくて、マッサージっすよ」
「ここらへんにも効果があってね」
男達はマッサージという言葉で押し切って、無理にでも納得させようとする作戦を取っていた。これが外の世界の女であれば、あまりにも馬鹿げた作戦に引っかかる者などいない。しかし、都市にあるような学校教育を受けていない、余所の国々で生まれ育つ人間が自然と備える感覚も備えていない、密林育ちのユーネクテスであればこそ、彼女はそれで納得していた。
「そうか。そんな本があったのか」
多くの本を集めた中で、ユーネクテスはその全てを読破しているわけではない。
読書量自体は多いのだが、機械弄りに費やす時間のために、それでも読めていない本がある。そうしたユーネクテスの手が伸びていない本に限って、外の世界では常識とされる貞操観念についての情報が書かれている。
男女の違いや振る舞い方、性別によってこうあるべき、といった書き方のされた本が混ざっているとは限らないが、創作などの書かれ方から、外の世界では普通はこういう反応をするのだろう。だからこういう書き方が多いのだろうと、察しをつける機会を得る。そんな余地くらいはあるというわけだった。
あるいは官能小説も混ざっていたので、そこから得た知識もあった。
ユーネクテスはフェラチオやパイズリなど存在すら知らないが、周りにいる五人は全員が知っているのだ。
「んっ、んぅぅ…………」
だんだん、気持ち良さが増してくる。
どんなに快楽が湧いたところで、ユーネクテスにその本当の正体はわからない。周りがマッサージで押し切るので、これもマッサージによる気持ち良さなのだろうと、他ならぬ自分自身で結論を出してしまう。
「んあっ、ふぅ……ふぁ……」
やがて、明確に息が乱れ始めていた。
アソコからは愛液が分泌され、触っている男としては、指先にそのぬるりとしたものを感じ始める。お湯の中でのことなので、それは直ちに溶けてしまい、だから今のところユーネクテスの表皮に塗り広がることはなく、ただクリトリスは突起していた。
たぷんと、湯面に乳房が浮かび上がる。
ユーネクテスの浸かり具合で、元から谷間は見えていたが、下乳を持ち上げようとする指により、乳房の角度が上向きに、乳首が湯気から現れる。
全員の視線が集中した。
両隣の男も、正面から三人固まる面々も、それぞれの角度から視線を突き刺し、血走った眼差しで視姦していた。
湯煙をまとった乳房の、いかに美しく見えることか。
乳輪が全て見えきるまでに持ち上がり、出て来た彼女の乳房は肌中に水滴を纏っている。ここは風呂なのだから、当然のように皮膚は水気を吸っており、表面がどこもかしこもしっとりしていた。
そんなしっとりとした表皮に湯気が当たって、それが水滴に変化している。
滴という滴の数々をまとった乳房は、その流れ落ちる筋を谷間の内側に落としていく。
湯気の漂いは、大気の流れの具合によって、ふとした拍子に色濃くなる。一瞬ばかり乳首の色が隠れたかと思いきや、その湯気は直ちに風に流されて、たちまち姿を現し直す。
そして、乳房は浮き沈みを始めた。
誰が最初にそうしたのか、いつどのタイミングがきっかけになったのか。彼ら自身にもわからずに、ただただいつの間にかそのように息を合わせて、ユーネクテスの乳房で遊び始めていた。
みんなの指で持ち上げた乳房である。
ならば、沈めたり持ち上げたりを繰り返せば、上下にぷるぷると揺れて見えるに決まっていた。
「こんなマッサージもあるのか」
ふとユーネクテスがこぼした瞬間だ。
「そうそう!」
「そうなんすよ!」
「乳房って肩に繋がってるからなぁ?」
「だから効果あんのよ」
「マジマジ! マジだから!」
妙に必死な弁解に、ユーネクテスは怪訝な顔をしていた。
誰も疑ってなどいないというのに、何をそう言い訳めいているのかが、彼女にはやはりわかっていなかった。
「んぁ……ふぅ…………」
四人がかりで乳房を触っている一方で、アソコへの刺激も続いている。
上下への刺激に、快楽は膨らみ続けた。
ちゃぷっ、ちゃぷっ、
と、水面を弾く水音が一定のリズムを刻む。
上下運動をしている乳房は、乳首をお湯に沈めては持ち上げて、沈めては持ち上げている。沈んだ乳房が出てくる瞬間、肌の表面がお湯を纏ったようにして、浮上に合わせてお湯もまた持ち上がる。
その表皮を水が伝い流れ落ちていく光景は、何度も執拗に繰り返されていた。
何度も、何度も、飽きもせずに男達は乳房を上下に揺らしていた。
*
乳首は完全に突起していた。
敏感になりきって、また触れられでもした時には、どんな甘い痺れが走ることか。アソコもうずうずと熱っぽく、ワレメの表面には僅かな粘液の気配を滲ませている。
風呂を上がってからのユーネクテスは、なおも体を火照らせていた。
ぽーっと赤らんだ頬は、決してお湯のせいだけではない。
(なんだ……この感覚は……)
知識にない気持ち良さに、いよいよマッサージだけで得られる感覚なのか、どうなのか、もう少しばかりの疑問を抱き始めていた。
そんなユーネクテスなのだが、小屋の中に布を敷き、裸で寝そべった周りを五人の男達に囲まれていた。
「風呂上がったら、次はバイブいきましょうや」
と、そう言われてのことだった。
マッサージの続きがあると、招かれるままに小屋へと入り、こうして一糸纏わぬ姿で寝そべっているのだが、そこでまず最初にされたのは、頭上から乳房を揉むということだった。
仰向けの頭上に一人の男が正座して、そこから上半身を前のめりに、ユーネクテスの乳房を両方とも、そっと手の平に包み込む。マッサージと言って揉みしだき、乳肌の表面に優しげな摩擦をかけてくるのだが、やはり予期した通りの甘い痺れが走ってくる。
「んっ……」
乳首に触れられた瞬間に、頬をぴくりと反応させた。
触られているは胸だけではない。
両側に座った二人は、二の腕から指にかけてのマッサージを施してくる。足のあいだにも一人が座り、太ももや下腹部を中心に揉んでくる。四人の男に同時に各所を触られての、こんな形でマッサージを受ける体験に、ユーネクテスは困惑交じりに目を細めた。
(確かに気持ちいい……)
体が反応しているのは、まず間違いないことだ。
しかし、やはりマッサージだけで得られる純粋な快楽とは思えなかった。
(何なんだ? 本当は何だ?)
そう疑問に思い始めていた。
いや、かといって、彼らは自分を何か――騙しているだろうか。もしかしたら、何か悪い本でも読んで、マッサージではないものをマッサージだと思っているのか。推測だけなら頭に浮かぶが、想像だけで真相は突き止められない。
どうあれ、困惑混じりになりつつも、ユーネクテスは何も嫌がる素振りを見せない。その気になれば、少し意思表示をすれば彼らは簡単に手を引くだろう。そうでなくとも、実力ではね除けることも可能だ。
なまじどうにかなってしまう分だけ、やはりユーネクテスは無頓着だ。男五人に囲まれてなお、焦る必要に迫られていないのが、その無頓着ぶりに拍車をかけていた。
疑問はまだまだ薄らとしたもので、決定的な疑いには至っていない。
だが、そんなユーネクテスにしても、次の瞬間にはぎょっとした。
「これがバイブってやつだ」
マッサージに参加していない、ユーネクテスの肌に触れることなく離れていた五人目は、肝心のバイブを持って来ていた。
「なんだ……その形は……」
戦慄、というほど大袈裟な反応ではなかった。
とはいえ、そういう種類の反応ではあった。
その形状は男性器に酷似している。棒状の道具といっても、先端は亀頭に似たようなフォルムであり、一体何の道具なのかとユーネクテスは本気で疑問に思っていた。
「こいつもマッサージ道具よ。マッサージ」
「そ、そうか? ならいいが」
「で、これもスイッチを入れると振動するんだ」
その瞬間、ブィィィィ……と、無機質な駆動音と共に震え始める。小刻みな振動を帯びながら、前後左右に揺れ動くその様に、やはり先端部を押し当てることにより、筋肉や神経などに刺激を与える道具なのだと、ユーネクテスは真面目にそう解釈していた。
「じゃあ、こいつをおっぱいに挟んで頂いて」
バイブを手にした彼は、それを頭上側の男に手渡す。
受け取った男は、さらにユーネクテスの胸にそれを置き、乳房に挟ませてきた。乳山のあいだに置いた上、外側から手で寄せ上げ、谷間で棒を挟んだ状態を作り出していた。
「変わった方法だな」
ユーネクテスの乳房には、内側から振動が送り込まれた。
パイズリの存在など露も知らずに、だからそれを連想することはなく、ただただ棒から伝わる震えに表皮をやられ、皮膚の内側にかけてまで伝わる刺激を感じているだけだった。先ほどまでは男性器への酷似を意識したが、マッサージ道具であると納得してから、すぐにそんなことは忘れていた。
「んぅぅ……んっ、んぅぅ…………」
ユーネクテスはマッサージとして受け入れている。
だが、そうやって振動から得られる刺激は、やはりマッサージとしての純粋な気持ち良さとは大きく異なる。性的な快感が乳房の中に生み出され、徐々に充満しようとしているのだ。突起した乳首の部分にも、内側で生まれる電流が集まって、ぴりぴりと一人で勝手に気持ち良くなろうとしているように、疼いてならない状態となっていた。
横乳を外側から押さえる両手は、ほとんど沿えてあるだけだ。圧力をかけて固定するようなことはせず、だから内側から生まれる振動で、乳房はぶるぶると振るわされていた。
乳首が上下左右に震えている。
微弱な振動によるもので、だから振れ幅はそう大きなものではないながらに、ぶるぶると揺れ動き続ける乳首は絶え間なく残像を残し続ける。
男達はそれを視姦していた。
じーっと、食い入るような視線を送り続けて、目で乳房を堪能していた。
そして、そんな延々と行う視姦を数分は続けた末に、やっとのことで乳房のあいだからバイブは抜かれる。
だが、それは別の方法に移り変わることを意味していた。
今度は下乳を突き、先端によって押し上げていた。
「んあぁ……んぅっ、んぅぅ…………」
ブィィィィィ――と、鳴り続けているバイブが押し込まれ、その押し込みに応じた小さな小さなクレーターが出来上がる。乳房全体がぷるぷると、乳首もやはり上下左右に、今度は片乳だけが震え始めた。
もう片方の乳にも押し当てる。
すると、今度はそちらの乳房が振動して、乳首もやはり震えていた。
淡々と交互に当て直し、どちらの乳房も震わせ続ける。そんな繰り返しが続く分だけ、乳房は延々と視姦され続けていた。
そして、その間中、ユーネクテスは甘い息を吐き散らし、乳首を突起させ続ける。
「んぅぅ!」
今までよりも、一際大きな声が出て来たのはその時だった。
「んっ、んぅぅ……んぅぅぅ……!」
乳首に直接当てられていた。
それも、ただ力任せに押し込むのでなく、触れるか触れないかといった具合を保ち、実にほどよい加減で振動を送り込む。その刺激に振り回され、とうとうユーネクテスは喘ぎ声を出し始め、見るからに感じ始めていた。
「なっ、なんだこれは……あっ、この気持ち良さは……本当に…………!」
ただのマッサージでこういう感覚になるものなのか、その疑問を改めて抱き始めるが、男達は答えない。
彼らは五人とも、夢中になっていた。
これだけ感じる大族長様の、もっと乱れる姿が見たくて見たくて、もうたまらなくなっていた。
ならば、次に当てるべき部分は一つしかない。
そう、性器だ。
(いくか?)
(いこうぜ?)
(あとで色々バレたら?)
(俺は殺される覚悟はできてる)
(死んだって族長のエロい姿が見てぇ!)
五人は目だけで意思疎通を行って、全員の気持ちが一致していることを確かめ合う。
ついにバイブは股へと移った。
ワレメの上に押し当てて、クリトリスへと直接刺激を送り込むことにより、ユーネクテスは全身でよがり始めていた。
「あっ、あぁ……! あぁぁ…………!」
悩ましげな表情で首を振り、手足をくねくねとよがらせての感じようは、見る者の鼻息を存分に荒げさせていた。
「あぁぁ……あぁっ、な、何か……!」
ユーネクテスはこれまでずっと、感じ続けていた。
マッサージによる気持ち良さに過ぎないと、そう思い込み続けたまま、時に少しは疑問を持っても、マッサージとして押し通す彼らの勢いに納得させられ、そう信じたまま肉体に快楽を蓄積させていた。
「んぅぅぅ……! んあっ、あぁぁ……!」
だからこそ、既にある程度は膨らんでいたのだ。
「あぁっ、あぁ……あぁぁ…………」
絶頂にかけての予感は、目には見えない風船となって少しずつ、微妙に空気を蓄積させ続け、既に半分は膨らんでいたところに一気に続きを送り込む。それが今の、バイブからクリトリスへの刺激であった。
頭の中にも、甘い痺れが走ってくる。
アソコから生まれたものが背骨を駆け、とうとう脳にまで及んで来ていた。
「んっ、んぅぅぅ……んぁっ、はぁ……!」
乳房も揺れ動いていた。
胴をくねり動かす反応で、ユーネクテスの乳房は本人の挙動によって、左右にぷるりと揺れ続けていた。
そして、その時はついに来る。
「んぁぁぁ…………!」
ユーネクテスの背中が反り上がる。
その決定的な瞬間を目の当たりに、五人は一斉に感激していた。
やった、ついにやったと、感動に打ちのめされ、感極まった表情で瞳を震わせていた。しばらくはアーチのように持ち上がり、痙攣していた胴体が床に沈んで、あとはハァハァと息を乱しているユーネクテスの、絶頂直後の姿を見下ろすことで、たまらない達成感を抱いていた。
族長をイカせてやった
もうこれで、後から知識を蓄えて、自分が辱めを受けていたと知ったユーネクテスが、やがて罰を下して来ようとも、もはやそこに後悔はない。族長の絶頂という、最高に価値の高い景色を見た彼らには、もはや死さえも覚悟の範疇に置かれていた。
*
ユーネクテスは余韻に浸り、一人ぼーっと天井を見上げていた。
「マッサージ、だったのか?」
さすがに違う気がしていた。
だが、性感帯の刺激や女の快楽といった事柄は、ユーネクテスの知識にない。ただ淡々と、生物としての繁殖行為を知るに留まり、男女の肉体関係についてそれ以上の詳細を知らない彼女は、自分が一体何をされていたのか、当分は知ることがなかった。
作りたい機械のために、その役に立つ本がしだいに読書の中心となっていく。
兵器として馬力を出すには、アームを可動させるには、といったことが主な興味であり、必要に迫られた知識でもある今、それ以外の優先度は落ちていく。
よって、それを知るのは随分先だ。
あるいは今後ロドスに就任して、本ではなくその身で外の世界を知るその時まで、ずっとずっと知ることなく過ごし続けるのかもしれなかった。
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