時間が経つにつれ、プール内やプールサイドには人が増え、しだいに賑やかになっていく。
プールそのものは番組用に貸し切っているものの、エキストラ募集の形で一般客を集めており、企画上の設定を理解した一般人がチラホラと、四人や撮影スタッフの周囲には現れ始めていた。
大学生あたりの男達がグループで行動しながら、目当てである鷺沢文香の姿を見かけて盛り上がり、嬉しそうにニヤけている。サラリーマンの男も今日は立派な水着に着替え、少しでも文香の姿を見ておこうと、撮影現場に視線を送る。
文香のファンというわけでなくとも、せっかくだからアイドルの生の姿を見ておこうと、中高生の集団が視線をやる。
そんな周囲から集まる視線の数々は、文香を当然のように羞恥に陥れていた。
(みんな……みんな見てます……!)
身が縮こまる思いであった。
両腕で胸を隠して、せめて乳房だけでも視線から守りたかったが、それは撮影スタッフからNGが出されてしまう。企画の意図に沿わない行動を取るわけにもいかず、そもそも腕のクロスで守ったとしても、穿いている水着のはしたなさ、尻たぶのはみ出具合の方も恥ずかしくてたまらないわけであり、これでは羞恥心はどうにもならない。
「なあ、文香!」
「アイス買おうぜ!」
休憩時間中だった。
プールから上がり、テーマパークともなっている屋内施設の敷地内で、四人は周囲の撮影スタッフを伴って、売店へと向かっていた。休憩時間そのものは脚本の指定通りでも、その具体的な内容は決まっておらず、先ほどまではぐちゃぐちゃとしたお喋りで、何のアニメを見ているか、どんなゲームをやっているのか、そういった雑談を繰り広げた。
共通のゲームの話題となれば、そのゲームに登場するどの武器が強い、どのキャラクターが強いといった話になる。
しかし、あまりゲームはやらず、読書が趣味の中心である文香は、それらの話題にあまり着いていくことができなかった。
(話もそうですが、頷いたりしているばかりで……絵的にも、切り替えが効いて良かったとは思うのですが……)
売店へ向かっていくため、ある程度の雑踏の中を突き進む。
その際にすれ違う老若男女の視線が痛く、ファンなのか、単に異性の裸体が見たいのか、両方なのかはわからないが、さりげなく追いかけてまで文香のことを視線に収めようとしてくる気配も多い。
そういった中で辿り着いた売店は、数人ほどの列となっており、文香を先頭に三人の男児は並びにつく。それぞれ、スタッフからお小遣いを貰っており、手に握った小銭でアイスクリームを買おうというわけだ。
(あぁ……み、見られました……)
ちょうど、文香の目の前に並ぶガタイの良い男は、子供達の賑やかな気配に気づいてか、後ろを気にしてさりげなく肩越しの背後を見る。その瞬間に目が行くのは、当然のように文香の乳房なわけであり、彼はぎょっとした顔で視線を前に戻していた。
(そう、ですよね……ヘン、ですよね……)
彼もエキストラの一人とはわかっている。
だから企画と設定の理解はあるはずだが、かといって傍目にはおかしな変態にとして映りかねない。本当に男のフリが成立していて、少年と見間違えられるような歳とルックスさえしていれば、まだしも誤魔化しは効くのかもしれないが、無理な設定を押し通しているために、文香は恥をかいていた。
その彼が二度とこちらを向かないのも、恥をかいたという感覚に拍車をかける。
もちろん、積極的に乳房を見せたいわけでも何でもなく、見られずに済むのならその方が良いには良い。
しかし、後ろからのまじまじとした視線はどうにもならない。
そう、男児らの視線だ。
Tバック状態を少しは直してあるものの、なおも尻たぶのはみ出た後ろには、男児達の視線が遠慮無く注がれているはずだった。
(お、お尻くらいは……いいでしょうか……)
文香はごくさりげない動作のつもりで後ろ側に右手をやり、手の平で隠そうとはしてみるが、手の面積だけでは尻などとても覆いきれない。気休めにしかなりはしないが、せめて気休めだけでもと、文香はそのまま手をやっていた。
列が縮み、目の前から彼の背中がどいていく。
そして、文香の順番になった時である。
「では、私は……どうしましょう……」
展示写真の中から選ぼうとするのだが、ソフトクリームにも種類があり、王道のバニラから黒ごまに抹茶に加え、フルーツ味など様々だ。それらソフトクリームの中から、一体どれにしようかと頭を悩ませ始めた瞬間だった。
「えい!」
まさしく、子供のイタズラだった。
やっている本人は、楽しいイタズラやごっこ遊びのような感覚でやったのだろう。それをやられた文香としては、途端に頭が真っ白となり、放心したまま数秒は固まって、やっとのことで思い出したように悲鳴を上げそうになっていた。
水着をずり下ろされたのだ。
真後ろから両手が伸びて、突如として膝まで勢いよく。
それがスタッフの指示なのか、子供自身のイタズラなのか。文香にはわかりようもなく、ただ驚愕と羞恥に飲み込まれ、耳まで染め上げた恥じらいの顔で、大慌てで水着を元に戻していた。
カメラはそれを横から撮っていた。
複数のカメラによって、複数の角度から、視聴者を盛り上げるであろう瞬間を逃すことなく、ばっちりとカメラに収めていた。
すぐに戻したとはいえ、多少の放心と硬直の後である。
性器と丸出しの尻は、それぞれ間違いなく撮られていた。通りかかった一般人も、今の決定的な瞬間を目撃して、店員に至っては文香のアソコまで目にしていた。
土台やテーブルを挟んでの対面は、角度によっては遮蔽物に阻まれる形となって、下半身は見えずに済んでいたかもしれない。ところが店員と文香のそれぞれのポジションは、台に身体をくっつけた店員に対し、一歩離れた文香である。
要するに店員の視界にアソコが収まる状況で、生の性器を目撃されてしまったことになるわけで、そう思うともう恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。まともに顔を合わせていられず、選ぶことなど忘れて文香は慌てて注文を済ませていた。
「ば、バニラで……!」
何でもいいから、早くこの場を離れるために、さっさと味を決めてしまった。
これだけ慌てていても、恥ずかしくても、店を離れる前に注文だけは済ませてようとしているのは、良くも悪しくも仕事に対する意識のためだった。
*
ベンチに座り、四人並んでアイスを食べる。
脚本設定では友達同士ということになってはいても、年長者が保護者となって男児を遊びに連れて来たようにしか見えないだろう。隅っこに座る文香に並び、三人の男児もまた次々と自分のソフトクリームを片手に腰を下ろすが、食べている最中にもチラチラと、何度か視線をやってきていた。
隣からの視線が気になる。周囲からの視線も気になる。
そんな状態でアイスを頬張っているうちに、文香は微妙な尿意を感じ始めていた。
さして危険なほどではないが、早めに行っておくに越したことはない。それに今なら、スケジュールの上ではまだ自由時間の最中だ。無邪気に遊び楽しむ光景、という非常に漠然とした指定しかない時間の中、早いうちにトイレに行き、早めに戻ってくれば良いだろうと、文香はベンチを立ち上がる。
食べ終わったゴミを片付けて、文香はスタッフに断りを入れ、公共のトイレへ向かおうとした。スタッフに声をかける最中はベンチに背中を向け、そしてトイレへ向かう時には、再びベンチの方向に身体を向けていた。
その時だった。
「あ!」
男児の一人が、祐樹が急に文香を差して大きな声を上げていた。
「え? 何か……」
文香はまず、戸惑う。
いかにも何かに気づいたような、面白い発見に目をキラキラと輝かせる表情だが、一体何があるというのか想像がつかなかった。
「どうしたと、いうのでしょうか……」
文香は何もわからずにいる一方で、拓也が、勇美が、三人の男児全員が次々に、その何かに気づいていって、表情を一変させている。楽しそうな、嬉しそうな面持ちで、無邪気に浮かべるニヤニヤとした目つきは、やはり面白おかしいものに対するものだ。
男児達からも、お尻やおっぱいに対する興味自体は感じている。
しかし、それ以上にもっと無邪気で、いやらしさのないニヤニヤが向けられていた。
「はみ出てる」
「出てる出てる!」
「ボーボーだ!」
一瞬ではわからなかった。
急な指摘に、はみ出るも何も、こんなサイズの合わない水着一枚で、ぴったりと肌に張りついた中から何がはみ出ているというのか。残念ながら尻肉はたっぷりと出ているのだが、それを今になって指摘するのもおかしな話で、直ちには理解が及ばなかった。
だが、気になって自らの身体を見下ろした時、文香はそれに気づいてしまった。
――陰毛だった。
水着がブーメランパンツの形だとは思っておらず、当日になって知ったため、陰毛の処理をする暇がなかった。はみ出ないようにと、更衣室では気を遣い、見えていた毛はしまったのだが、きっと先ほどのずり下ろしのせいだった。
下ろされた水着を大慌てで穿き直して、だから陰毛のチェックはしていなかった。
(こ、これは……!)
文香のアソコは、布が肉貝に食い込みつつ、性器がミリ単位でゴムからはみ出て、非常にいやらしい状態となっている。ワレメの形も浮き出でおり、そんな布とゴムの密着によって左右に倒された陰毛の、毛先がびっしりと見えているのだ。
ムカデやゲジゲジのような足の並びに酷似して、横に寝かされた毛がはみ出ている。
それに対する指摘は大声で、だから周囲のエキストラの視線を引いていた。ボーボーだという声を聞き、それが気になり目を向けてくる男という男の数々に、アソコを撮るために回り込み、映せる角度で屈んでくるカメラマンの、殺到してくる視線に文香は一気に羞恥を煽られていた。
顔中が染まり上がって、文香はたまらず両手でアソコを隠す。
「いや……!」
悲鳴を上げ、トイレに駆けた。
「よし、追え!」
「追跡だー!」
「逃がすな!」
「な、なんで……! どうしてですか……!?」
追いかけられる意味がわからなかった。
走り始めた文香の後ろに、三人の男児はぴったりと着いて来ていた。そればかりか、上半身は裸である以上、走れば必ず乳房は揺れる。両手でアソコを隠すポーズのため、胸は二の腕のあいだに挟まって、ある程度は固定されているものの、ぷるぷるとした振動を少しは帯びているのだった。
それを撮るため、カメラマンも並走する。
肩に担いだまま動き回るフィジカルでもって、さして足が早いわけでないとはいえ、先回りのポジションを維持しながら着いて来ている。それもカメラを向けながら、後ろも見ずに文香だけに集中しての走りであった。
文香はトイレに辿り着く。
迷わず女子トイレへ行こうとするが、その瞬間である。
「まてーい!」
「変態め!」
「お前は男だろ!」
男児が文香の真正面に回り込み、通せん坊を始めたのだ。
「え……え……!?」
確かに、そういう設定である。
男児達としても、これは『無理のある設定』だという説明を理解して、男のフリをしている文香と、それに気づいていない自分達という体裁を守っている。
それ故の、男なら男子トイレでなければおかしいという主張であった。
男が女子トイレに侵入するのは変態行為に当たるため、それを阻止しようとしているわけだった。
「あの、お願いします……トイレくらいは、その…………」
文香がそう懇願した時だ。
男児達は明らかに、スタッフの方を気にしていた。文香の意思というよりも、周りに控える大人の方に判断を煽ろうと、チラチラと視線を向け始めていた。いくらお願いされたとしても、自分達が勝手に文香の願いを叶え、勝手な気遣いを利かせていいのか、わからずにいるようだった。
そして、カンペか何かで指示が出たわけなのだろう。
「いかんいかん!」
「男子トイレへ参れ!」
「行こう! 我らと共に!」
多少は迷う素振りを見せた男児達は、次の瞬間には迷わず文香の手を取って、文香のことをトイレの中に引っ張り込もうとする。その行き先が男子トイレであるために、文香は思わず抵抗して、その場に踏み止まろうとしてしまう。
だが、その瞬間に目に入るのは、文香に対するカンペ指示だった。
『そのまま行って』
そう書かれた紙が目に入り、それで抵抗の力も抜け、文香は結局のところ男子トイレにまで連れ込まれ、立ち小便用の便器の前に立たされるのだった。
それも、カメラが入り込んでいる状態だ。
「私はその……個室で……」
「ウンコなの?」
と、拓也がストレートに尋ねてくる。
「いっ、いえ」
あまりにも真っ直ぐに聞いてくるので、反射的に答えてしまうのだが、いざ答えてしまった直後に文香は気づく。恥を忍んで、そうだと答えてしまっていれば、個室の中で用を足せたかもしれないのに、今ので自ら退路を断ってしまったのだ。
(し、しくじりました……!)
自分自身の失敗に文香は引き攣る。
もう、こうなると観念するしかない。
性器を露出し、尻も完全に丸出しとなってしまうが、文香は涙ながらの思いで水着を下げる。男性の体と違い、棒状の性器から排泄するわけではないので、自身の尿を自らの水着に引っかけることを恐れて、文香は一度全てを脱ぎきっていた。
どうせ水着を下げてしまえば、もう全裸と変わりがないと、涙ながらに割り切っていた。
小便器に並ぶ男児達は、迷い無く性器をつまみだし、それぞれ放出を開始している。そこに並んで文香自身も放尿を試みるが、ワレメの中から飛ばした尿を小便器に当てるには、一体どんな体勢が良いかと迷った挙げ句、文香はがに股気味になっていた。
もう本当に情けない。
泣きたくなるような格好の悪いポーズである。
がに股の上で、腰を手前に突き出している。性器を少しでも前にやり、狙いを安定させようと、背中はやや逸らし気味となっている。いかにも滑稽な姿を晒した上で、文香はアソコに意識をやり、やがて尿は性器から飛び出ていった。
ジョロロロロロ――――。
と、出て来る黄色いアーチが小便器の壁に当たって弾けている。
(もう……死にたいです…………)
男と一緒になって放尿をするなどという機会が、果たして普通に生きていてあり得るだろうか。尊厳を削り抜かれて、踏みにじられでもしているような、深い悲しさと屈辱さえもが湧いてきていた。
だが、悲しくもこれは設定通りだ。
男同士であるのなら、一緒にトイレに行った上、並んで小便をしてもおかしくない。少しポーズは変わっているが、わざわざ隣の肉棒を覗き込み、自分のものと比べるようなこともしてこないので、だから別にバレていない――ということになっている。
ジョロ――ジョロ………………。
放尿は止まった。
尿が途切れるなり、文香はすぐさま水着を穿き直して、男子トイレの中から出ていった。その出た直後も、エキストラの男性と目が合って、その相手がいかにもぎょっとした表情をしているので、もはや前さえ見ていられず、文香は深く俯くのだった。
しかも、その後だ。
「染みがついてる!」
「オシッコ残ってる!」
「きったねー!」
個室ではなかったために、滴を拭き取ることはできずに、そして少しでも早く出て行きたかったせいで、しっかりと尿を切ることもできていない。慌てて穿いた白い水着の表面には、一滴の水を垂らしたような痕跡が浮かび上がっていた。
それを指差してまで指摘され、文香はその恥ずかしさにもまた苦悶していた。
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