前編後編


 栄明学校は中高一貫のスポーツ強豪校で、そんなスポーツ学校があるせいか、スポーツ用品店に顔を出す中高生は自然と多い。
 とある中年が経営しているこぢんまりとした店は、大型デパートの内装店に比べて客の出入りは乏しいものの、喰うに困るほど閑散としているわけではない。ラケットのガットの張り替えや用具の手入れといったサービスで保っている部分もあり、必ずしも商品の売れ行きが良い必要はなかった。
 もちろん、ちっとも売れなくても困りはするが。

「よく来るね」

 レジで会計を行う時、一人の少女に何気なくそう言った。
 この時にはまだ邪な思いはなく、ただ持ち前の外向的な気質を発揮しただけだった。他人に躊躇いなく声をかけ、饒舌な会話を繰り広げる性格上、無意識のうちについつい雑談を持ちかけたり、世間話を振ってしまうことがよくあるのだ。
 女子高生や女子中学生に対する声かけ事案というものは聞いたことがあり、だから声をかけてしまった直後に内心焦る。向こうとしては、店員のオジサンなんかとわざわざ話す気などなく、急に驚いているかもしれない。
 だいたい、こちらに何の企みがなくとも、向こうがそう思ってくれるとは限らない。怪しい店員だと思われて、これで常連が一人いなくなっては、その分の売り上げが失われることへの懸念もあった。
 一人くらい減ったところで、直ちに困るほど切羽詰まっているわけではないが、とびっきり稼ぎが良いわけでもなく、客が減るのは決して面白いことではない。
「まあ、近くに住んでるので」
 しかし、少女は特に警戒した風でもなく、そのまま財布からお金を出してくるので、中年としても淡々とお釣りを出した。
「だよね。ま、今後も通ってくれると助かるよ」
 あまり長々と足止めしようとはせず、無難に会話を打ち止める。
 すると、少女は会釈だけして店を去る。
「あーあー。やっちまってないといいけど」
 表情には何の警戒心も窺えず、まあ平気だろうとは思うのだが、後から怖がられては少し嫌だなと、後ろ向きな想像をしてしまう。例えば家に帰った後、そういえば店員に声をかけられたな、と思い出し、よく考えれば急に声をかけてくるなど不審者の行動ではないか? と、後出しジャンケンのような恐怖を抱かれないとも限らない。
「考えすぎ考えすぎ」
 やってしまったことの取り返しはつかない。
 それに、自分が勝手に悪い方に想像しているだけで、案外何も怖がられることはなく、今後も普通に通ってくれたりもするだろう。くれなかったとしても、やはり一人くらいで直ちに困るわけでもないので、考え過ぎたところで仕方がない。
 さっさと切り替えて、なるべく忘れるように努めていた。
 その数日後、同じ少女がごく普通にやって着て、ごく普通に一品ばかり買っていくので、やはり考え過ぎだったのだな、などと思いながらお釣りを渡す。その一週間後にはリストバンドを買いに、さらに数週間後には靴下を買いに、少女は店に通い続ける。
 もう声をかけはしていない。
 下手に絡んで警戒されても嫌なので、無言の店員として振る舞っていたのだが、ある時になって急に少女の方から声をかけてきた。

「……あの」

 客が店員に話しかけたのだ。
 当然、想像するのは商品のことで何か相談があるのでは、というものだったのだが、次に少女が口を開いた時、むしろ中年の方がぎょっとした表情に染まり上がった。
 恐ろしいことを考える子がいたものだ。
 そんな話を持ちかけられて、良識ある大人としては毅然と断るべきだったのだろうが、やはり自分にも邪悪な欲望はあったのだろう。中学生や高校生の肉体に魅力を感じて、手を出してみたい願望はいくらか抱いた覚えがあり、それを実現する計画が持ち込まれて、中年は頭を悩ませてしまっていた。
 悩んだ結果、頷くことにした。
 良心よりも、欲望を優先しようと決めたのだった。

     *

 先輩は嫌味すぎる。
 別に性格が悪いわけじゃなくて、むしろ良い方だと思うけど、それがもう逆に嫌味になる。華があるのに気取っていないし、努力も欠かさずストイックで、大会では結果を残す。バスケットボール部所属の鹿野千夏という先輩は、欠点のない完璧超人に見えてしまって、もうそれが何か嫌だ。
 それとなくバスケを始めた時期を聞いてみたら、バスケ歴はそう変わらなかった。
 なのに先輩は試合の時にコートに入り、自分はいつもベンチで見ているだけ。
 極めつけは男子の注目を集めているところ。スポーツ強豪校の部員としては、やっぱり恋よりも部活とは思うけど、でも結局は男の子にも興味はあって、気になる男子の一人や二人は現れる。
 まだ、どれもはっきりとした恋にはなっていないけど、もしかしたらこの人なら、いずれ熱い気持ちが育つかも。自分が好きになる相手は、この人なのかも。そう思える男子を見つけたのに……。
 恋できるかなーって思った矢先、決定的なものを見てしまった。
 たまたま水族館に遊びに行ってみたら、そこでデートをしている先輩と、それから猪股大喜の姿を……。
 なんで、よりにもよって、あんなのを見かけちゃったのかな。
 そんなのっていない。

 ――なんでアイツばっかり……。

 心の中に邪悪なものが膨らんできた。それをどうしようもなく抑えきれなくなって、何か悪いことでもしてやらなきゃ、だんだん気が済まなくなってくる。人はこうやってイジメの犯人になるのかな、なんて思ったりもした。
 で、どうすれば先輩を穢せるか。
 その計画まで考えついてしまった。
 同じバスケ部であることを利用して声をかけ、二人きりになる機会を作って店に向かう。そうすればあとは仕込みを行って、その先のことは店員さんにお任せして……。
 つまり、店員さんの協力が必要なことなので、頼みにいく必要があった。
 でも、普通はやってくれないだろうな、なんて思っていたけど、それでも抑えきれない衝動に押されて、足はスポーツ用品店に向かっていた。
 本当は怒られると思っていた。
 我ながら緊張しきった顔で計画を伝えた時、一体その店員のオジサンはどんな反応をしてくるか。それがもう怖くて怖くて、その時の気持ちはもう完全に、悪いことがバレた後、怒られるのを待つばかりの感覚そのものだった。
 普通の常識的な反応で、きっぱりと断ってくるかもしれない。冗談として扱われ、まともに取り合ってくれないかもしれない。
 ――それか、大真面目に説教してくる。
 そう、怒られても仕方がない。
 悪事に荷担して下さいなんて言われたら、怒り出すのも無理はない。しかも、交流が深いわけでも何でもない、ただ客の一人におかしな計画を持ちかけられて、何か企んでいるんじゃないか、美人局の一種じゃないかとか、疑われても仕方がなかったとも思う。

「いいよ? やってみようじゃない」

 店員の答えを聞いた時、まずは怒られなかったことに安心した。
 そして、次の瞬間にあったのは、魂が別の色に染まっていく感覚だった。人として踏み入れてはいけない領域に踏み込んで、そのせいで変わってしまう自分という感覚があった。もう今までの自分ではなくなって、背中に罪を背負った自分に変わってしまうのだと、そう思うと急に恐ろしくなってきた。
 けど、後戻りはしなかった。
 計画通りに先輩を誘い出し、バッグの中に未精算の商品を仕込んでやった。それができるように、隙を見てこっそりとチャックを開けておく準備までして、ついにこの手を悪事に染めてしまった。

 先輩を万引き犯に仕立て上げるために――……。

 計画は単純なもので、ただそのためにはバッグが半開きになっていないと成立しないから、そこはかなり不安だったけど、上手くいってしまった。
 こちらで未精算の商品をバッグに押し込むので、店を出ようとする先輩に声をかけ、万引き犯として追い詰めて欲しい。学校に電話する。親にも連絡する。脅しを駆使して、できれば陵辱して欲しい。
 つまり店員のオジサンには、これから犯罪を犯して下さいとお願いしたわけで、これで人の道を外れてしまった。
 見返りとして先輩を好きにできるとはいえ、下手をしたら警察沙汰になって、自分達の方が捕まるかもしれない。だから伝えた時ほど緊張したことはなかったし、先輩に声をかけたり、誘い出したり、そして小さな商品をバッグの空きかけのチャックの奥へ差し込む時も、ありとあらゆるタイミングで心臓がバクバクしていた。
 でも、やり遂げた。
 やり遂げた瞬間から、染まり変わった魂がもう二度と元には戻らないんだって、そう思ったけど……。
 でも、先輩だって悪いんだ。
 せめてレギュラーにさえなれたら、こんなやり方には走らなかったかもしれないのに、先輩が完璧すぎるから悪いんだ。

「ちょっと待ってくれないかな」

 私の隣へと――先輩へと……。
 何も知らずに店を出ようとした先輩の背中へと、計画通りに店員の声がかかった。
 緊張のせいで、この時もやっぱり、心臓はバクバクいっていた。

     *

 わけがわからなかった。
「君、未精算の商品を持っていないかい?」
 この時ほど、鹿野千夏の頭に疑問符が浮かんだことはない。万引きの疑いをかけるような声をかけられ、まず真っ先にきょとんとして首を傾げてしまっていた。
「え、私……。何も触ってないのに……」
 後輩に付き添いを頼まれて、スポーツ用品店に入ったものの、千夏自身には何の買い物の予定もない。適当に商品を眺めて回り、後輩がレジに向かう姿を見届けた後、自分は何も買わずに店を出ようとしていた。
 千夏と後輩で二人並んで、自動ドアの向こうへ出ようとした時、急に店員から声をかけられ、バッグの中身を確認させろとまで言われたのだ。
 わけがわからなかった。
 何にも触っていないのだから、うっかり会計を忘れているはずもない。間違いを起こす余地などないはずで、しかし店員があまり言うので確認させざるを得なかった。
「せ、先輩……」
「大丈夫だよ。何かの間違いだと思うし、先に帰ってていいよ?」
 不安なことに付き合わせるのも悪いと思い、ついそう言ってしまったが、本当は一緒にいて貰った方が良かったかもしれない。
 人を疑いの目で見て来る店員にバッグを渡し、そのバッグがレジの台へと置かれた時の、容疑者として扱われる感覚といったらない。警察の世話になっているわけではないが、一種の取り調べを受けている気分そのものだった。
(あの子、心配してたよね)
 何かを誤魔化したいように、千夏は帰っていった後輩に意識を傾ける。
 先輩が万引きをするはずはないと、きっと信じてくれているとは思いたい。店員が千夏を疑うのも、何かを見間違えてのことだろう。商品に触ってすらいない以上、何も出て来ることはないはずだと、千夏自身は信じて疑わなかった。
「これ、なに?」
 しかし、包装されたリストバンドが出て来た時、千夏はさすがに青ざめていた。
「えっ、そんな……だって……」
「どういうことかな?」
 どういうことかと言われても、リストバンドなど見てもいなかった。一体いつから、どうやってバッグに紛れ込んだか。聞きたいのは千夏の方だったが、店員が向ける疑惑と嫌悪の眼差しに、自分が犯罪者として見られているショックで胸を撃ち抜かれた。
「本当に違います! 何かの間違いで……」
「間違い? なら、どうして入ってるの?」
 確かにそうなのだ。
「それは……」
 自分のバッグが漁られる光景を面白くない気持ちで見守って、その結果として商品は出て来ている。チャックの外側に乗っかったり、アクセサリーに引っかかっていたのなら、棚からたまたま落ちて来たものだと言えただろう。
 どうして中から出て来たのか、千夏には本当にわからない。
 千夏の脳裏には、一体どうするべきなのか、どう答えるべきなのかの、様々な迷いと焦りが吹き荒れていた。
 ――認めて謝る? やってないのに?
 ――でも、わざとじゃないって、どうやって信じてもらえばいいの?
 ――お金を払う?
 ――払って済むの? ごめんなさいで帰してもらえるの?
 万引きをやってみようなど、まず思いつきすらしていなかった千夏である。こうした事態の想定もしているはずはなく、何をどう選択するべきかもわからない。自分が犯罪者として扱われている衝撃と、何が起きて、どうして商品が入っていたかもわからない困惑と、このまま自分はどうなってしまうのかの恐怖や不安で、心も体も緊張しきってしまっていた。
「とりあえず、事務所の方に来てもらえる?」
「……はい」
 千夏はひとまず従った。
 店の裏側に初めて入り、千夏はひとまず座らされ、椅子を使って向かい合う。真っ直ぐに千夏を見つめて、険しい疑念の眼差しを向けてくる中年の表情に、千夏はどんどん肩を縮めていく。
「じゃあ、詳しく聞かせてもらうかな」
 詳しくも何も、どうやって商品が紛れ込んだか、その想像すら千夏にはつかない。
(万引きはしていない。それは間違いない)
 心の中で整理して、千夏はゆっくりと息を整える。
(……チャック、空いてた?)
 バッグが元から開いていたせいで、どうにかして気づかないうちに紛れ込んだのではないか。その後、何かしらの挙動や様子を疑われ、こうして事務所にまで連れていかれることになったのではないか。
 頭の中でそう推測をつけてみるものの、それを具体的に証明できるわけではない。
 だいたい、どう奇跡的に棚から商品が落ちて来て、バッグの中にまで入ったのか。そんな想像が千夏自身にもつかないのだ。
(信じてはもらえない……よね……)
 もう完全に、窃盗犯として見做されている。
 たとえ無実の罪であっても、素直に認めて頭を下げ、許しを請うしかないのだろうか。
「…………」
 千夏は俯き、自分の両膝だけに視線を注ぐ。ジャージ素材のハーフパンツを無意味に凝視して、どうにか自分の取るべき行動を決めようと思考を巡らす。
「何か言ってくれないかな?」
 助けを求めたい気持ちが湧いてきた。
(……大喜くん)
 あの真っ直ぐなバドミントン馬鹿が傍にいたなら、千夏がそんな真似をするはずはないと、必死に熱弁してくれただろうか。少なくとも、庇おうとしてくれる姿は簡単に想像できて、それだけに今は自分一人であることが心細くなってきた。
「君、栄明だよね?」
「……は、はい」
 学校名を口にされ、心がひやりと冷たくなる。
「学校に電話しようか?」
 その瞬間に吹き荒れたのは、このまま連絡されてしまっては、部活動がどうなるかという不安と恐怖であった。いくら無実であったとしても、それを証明する手立てもわからず、これでは万引き犯として停学や謹慎のような処分を喰らいかねない。
 そして、生徒が犯罪を犯したら、その責任は千夏自身だけでは済まない。
 頭をよぎるのは、部活の活動停止や大会への出場停止だ。
(駄目! それは駄目!)
 インターハイを目指す千夏自身の努力はもちろん、チームメイトのみんなもそれ相応の努力をしている。たった一人の行動のために、それを全て台無しにさせてしまっては、自分で自分を許せない。みんなにどう恨まれても仕方がなくなる。
「……すみません。やめて下さい」
「へえ、どうして?」
 威圧的に尋ねてくる中年を真っ直ぐ見据え、千夏はぐっと屈辱を堪えて頭を下げた。

「どうも申し訳ありませんでした」

 違う、自分じゃない。やっていない。どうして、やってもいないことで謝るのか。悔しい思いが嵐となって胸中を掻き乱し、本当は無実を叫びたい思いが滲み出る。意地でも無実を主張して、それを信じさせたい気持ちがいくらでも膨らんでくる。
「認めるわけね」
「……」
「でも、謝って済ませるわけにはいかないよね? 家に連絡しようか?」
 背中に冷たい物が当たった心地がした。
 親戚として住まわせてもらっている家に連絡がいけば、その結果として大喜にも万引きは伝わるだろう。
(それは駄目……!)
 どうしようもなく、嫌だった。
 何故だか、それだけは決してあってはならない事態に思えて、家への連絡と聞いた瞬間の猛烈な拒否反応から、千夏は下げた頭を勢いよく振り上げていた。
「すみません! どうしたらいいですか!?」
「どうしたら、ねぇ?」
「いくらでも謝ります! だから、連絡は……」
 そうとしか言えなかった。
 いくらでも謝罪して、何なら土下座もするようなことしか、千夏の頭に浮かぶ言葉はない。誠意を見せて切り抜ける以外の道がわからずに、とにかく謝り通そうと必死になった。
 やってもいないことで――。
 その屈辱に歯を噛み締め、千夏は何度でも頭を下げようとしていた。

「ま、とりあえずさ。他にも何か盗っていないか、確認させてもらえる?」

 中年のその言葉に、千夏は頷くことしかできなかった。
 一体、どんな風に確認するのか。その想像すらすることもなく、誠意のためにも千夏は反射的に受け入れていた。
 その時だった。

「あらあら、どうしちゃったの?」
「何か大変なカンジだねぇ?」

 さらに二人の中年が現れて、すっかり血の気が引いていた。
 それでなくとも追い詰められている状況で、より危機が増してしまったような感覚だった。

     *

 中年が犯罪談に応じたのは、実のところ仲間がいたからだった。
 それまで、中年自身は何の犯罪もしたことがなかったものの、友人の中には盗撮を自慢してくる人物が二人もいた。スカートの逆さ撮りをした。電車で女子高生の尻を触った。そうしたことを嬉々として語ってくるので、あまりやるものじゃないと、酒で顔を合わせるたびに諫めはするが、どちらもやめる気配はない。
 警察の二文字が何度頭を掠めたかもわからないが、犯罪自慢をしてくることさえ除けば、それぞれ気の合う友人なのだ。友情が邪魔をして、通報に踏み切る真似はできないまま、諫めるポーズを一応は取っておくだけの形を取って、今までずるずるとやってきた。
 これまで、想像もしたことがなかった。
 まさか自分が犯罪に手を染めて、女子高生に手を出そうとするなどとは……。
 最初に話を持ちかけられた時、おそらく自分一人だけであったら、結局は拒んで終わりだっただろう。冗談でも友達を売るようなことは言うものじゃないと、軽く諫めて済ませただろうが、犯罪自慢の友人二人の顔が脳裏を掠めた時、心は邪悪の方へと傾いた。
 そして、中年は話を聞き入れていた。
 鹿野千夏を万引き犯に仕立て上げ、事務所で追い詰めて陵辱する。
 その計画はいよいよ最終段階だ。




 千夏は椅子から立ち上がり、運動着のシャツを掴んでいた。
「…………」
 だが、千夏は始終無言のまま、掴んだきりのシャツをどうすることもできずに、ただただ沈黙と共に立ち尽くしていた。
 中年から言われたのは、服の内側に隠していないかの身体チェックだ。
 それを聞いた瞬間から疑念を胸に、そういう目的ではないかと警戒したが、では万引きの件はどうするのか。服を脱ぐことは拒否しながら、学校にも家にも連絡させないなど、そんな真似ができるのか。
 迷った挙げ句、椅子からは立ち上がり、ひとまずシャツを掴んでいた。
 それをたくし上げるわけでもなく、どうしても脱衣に踏み切れないまま固まっているのが、現在の千夏というわけだった。
「あらまぁ」
 長髪中年がにやりと笑う。
「どうしちゃったのぉ?」
 白髪中年もまたニヤけていた。
 同じ店員なのか、何なのかはわからないが、このさらに二人の中年は急に現れ、関係者のような顔をして店員の背後に居付いた。店員は二人に何を言うでもなく、そのまま身体チェックを言い渡してくるので、千夏も立ったままシャツを掴み続けているが、実に三人分もの視線があるのも、脱ぎにくい原因の一つであった。
 一対一の状況ですら、当然の抵抗感がある。
 いくらスポーツで鍛えていても、男の力で本気で襲われては分が悪い。女の身に生まれたための、強姦に対する本能的な恐怖と警戒心から、それは越えてはならない一線だと警告してくるような、神経が発するシグナルが全身を駆け巡った。
「ほらほら」
「いつまで躊躇ってるのかなぁ?」
「早くしないと連絡しちゃうけど?」
 店員がこれみよがしに電話に手を伸ばすフリをしながら、三人がかりで煽るような圧力をかけてくる。このまま脱がずにいるわけにはいかないような、かといって裸になんてなりたくない板挟みに囚われて、千夏は苦悩の中に陥った。
「いい加減にしないと、本当に電話するよ?」
 そして、プレッシャーをかけられ続けた。
 躊躇っている時間の分だけ、視線や態度まで駆使した無言の圧力をかけられ続け、言葉によっても苦しめられ、とうとう千夏はシャツをたくし上げていく。そうしなければ苦しみから解放されることはないような、他に道などありはしないような心理に陥り、泣く泣くとそうしていた。
 一枚目を脱いでいく。
 シャツを脱ぐ際の、視界が一瞬だけ布に隠れる時を経て、千夏の目の前に並ぶ三人の顔付きが変わっていた。着衣の女子高生を前にした視線から、下着の女子高生を見る眼差しへと、その一瞬によって切り替わっていた。
 頬が染まっていく。
「へえ、スポブラか」
「運動に適したものがいいもんねぇ」
「練習で汗を吸ってるんだろうねぇ?」
 白いスポーツブラジャーに向け、三人揃って口々にコメントを飛ばして来る。見られるばかりか感想まで言われる恥ずかしさに頬が強張り、千夏の表情は歪んでいった。
「ほーら」
「続きが残っているでしょう?」
「下の方もチェックしないとね?」
 下着を視姦される恥ずかしさに耐えながら、千夏はジャージ素材のハーフパンツに指を入れるが、腕が震えて動かない。ますます恥ずかしくなるのがわかりきっている上、これからどんな目に遭うかもわからない恐怖が腹の底には広がっていた。
 やはり、猥褻目的になっていないか。
 だからといって、目の前にいるのは三人もの大の男で、逆らったり逃げたりすれば、かえって暴力を振るわれるかもしれない不安から、逆らいたくても逆らえない。
 ハーフパンツを脱ぐにも、千夏は長らく躊躇っていた。
 躊躇うだけ躊躇って、それに対して圧力をかけ続けてくる三人に屈する形で、千夏はハーフパンツを下ろし始めた。
(どうして……こんな……)
 ただ後輩の誘いに付き合って、適当に陳列棚を眺めていただけなのに、それでこんな事態になっている理不尽に、運命すらも恨めしくなってくる。
「パンツもスポーツ用なんだよね?」
「汗をよく吸ってるのかな?」
「これで下着だけになっちゃったねぇ?」
 下着姿となった心許なさと恥ずかしさに、千夏は赤らみきった顔で下を向き、床の素材や自分自身の爪先ばかりを凝視する。
「おっと、調べないとね」
 店員は脱いだものへと手を伸ばし、まずはシャツからチェックする。内側に何か隠れていないか、ポケットの中に何かがないか。他に盗ったものがないかを調べているが、何も出てこないはずである。
 バッグはともかく、身体にまで紛れ込めばさすがに気づく。
 かといって、千夏が何も盗っていないと知っているのは、ここにいる中で千夏自身だけなのだ。
 店員はハーフパンツも持ち上げて、ポケットに指を入れるなどして確かめる。
 それが終われば、次は一体何が待っているのか。その薄々とした予感に千夏は緊張しきっていた。お願いだから杞憂でありますようにと、心の中では必死に祈っていた。
 しかし、祈りなど通じない。
 脱いだもののチェックが終われば、その次のチェックを言い渡される流れは、頭のどこかでは薄々わかっていた。

「次は下着も脱ごうか」

 恐れた通りの言葉を聞いた途端、千夏は全身を固く強ばらせた。
 脱げるわけがない。
 だが、脱がなければ許してもらえるはずがない。いや、しかし脱いでしまえば、猥褻目的と化した男達は、一体次に何をしてくるかもわからない。あらゆる予感が不安と共に押し寄せて、千夏は震え始めていた。
(無理……こんなの…………)
 やはり、脱げるわけがない。
 下着姿だけでさえ、かなりの苦痛と羞恥を感じているのに、これ以上など想像できない。
 しかし、躊躇えばためらうだけ、やはりプレッシャーをかけられ続ける。やがて千夏が観念するまで、どれだけ時間がかかろうとも、男達は延々と高圧的な態度を取り、嫌な言葉を投げかける。電話をかけようとしてみせるなどして、千夏のことを繰り返し脅かす。
 その果てに千夏はスポーツブラジャーに手をかけて、ついにそれさえ脱ぎ始めていた。

     *

 後輩と一緒にどこかへ寄り道に行く姿は見たが、それにしても帰りが遅い。
 いつまでも帰って来ないので、両親にも聞かれたが、猪股大喜にも千夏がここまで遅くなる理由がわからない。スマートフォンを見てみても、そこには何のメッセージもなく、試しに送った文章にも今のところ返事がない。
『千夏先輩、いつ帰りますか? うちの人達、そろそろ心配してますけど』
 と、そう送ってあるものの、今のところ既読もつかない。
 そのずっと前にある千夏からのメッセージでは、寄り道をするので少しだけ帰りが遅くなるとある。つまり、それに対する返信の形で心配していると伝えたわけだが、どうして既読すらつかないのか。
「まあ、どこかで夢中になってるんだろうけど……」
 ベッドに背中を落とし、天井を見上げて想像するのは、友達との時間が楽しくて、つい連絡も忘れてしまっている姿である。
「いや、なんかなぁ……」
 大喜に言わせれば、少しだけ無理のある想像だ。
 ストイックに練習をこなし、睡眠時間にも気を遣う千夏が連絡も無しに遅いのは、さすがに珍しい話である。いつまでも体育館に居残って、延々とボールを投げ続けているせいで遅れる
方が想像しやすい。
 ただ、現に今まで帰って来ないまま、メッセージにも返事がない。
 そして、後輩と寄り道をしているとなれば、考えられる展開としては、楽しい時間に夢中になって、ついついといったものくらいだ。
「あんまり遅いようなら、探しに行くか」
 少しだけ、ほんの少しだけ、大喜の胸はざわついていた。
 しかし、まさか万引き犯に仕立て上げられ、事務所で追い詰められている最中など、いくらなんでも想像できるはずもなかった。

     *

 スポーツブラジャーをたくし上げ、とうとう乳房を晒したのも、やはり羞恥心や恐怖から、躊躇いに躊躇った末のことだった。
 頬の内側に見えないものが吹き荒れて、皮膚を内部から焼き尽くそうとしてくるような、激しい感情に千夏は囚われていた。片方の腕で必死になって胸を隠して、決して見えないように気をつけながら、腕と肌の隙間から引き上げていく形で、右手だけを駆使して脱いだのだ。
 上半身裸となり、机の上に脱いだものを置いた途端、店員の手にスポーツブラジャーは取り上げられる。
 いくら腕で隠しているとはいえ、もうショーツしか残っていない心許なさを味わいながら、しかも下着を触られている状況に、千夏は恥辱で表情を歪め尽くした。
「体温が残ってるねぇ?」
 わざとらしい言葉をかけてきながら、店員は両手でブラジャーを広げている。物など隠せるはずもないのに、わざわざ指でなぞって確かめて、繊維の肌触りを確かめている。それはしかも、布の裏側の、乳房が当たる部分であった。
「お願いします……」
 千夏は堪らず口にする。
「もう……許して…………」
 ここまでしたのだ。
 だいたい、無実なのだ。
 こんな目に遭わなくてはいけない理由がそもそもないのに、もうこれ以上は無理とばかりに許しを求め、心の底から懇願していた。
「でもさ、その腕は何?」
 長髪中年が言う。
「誠意ってものがないよねぇ?」
 白髪中年もここぞとばかりに指摘してくる。
 腕で乳房を隠しているのは、反省の足りていない証拠であり、本当に誠意を見せようと思うなら、きちんと気をつけの姿勢になるはずである。それができないのは、心のどこかに『万引きくらいで何だ』という気持ちがあるからだ。
 二人がかりでそんな論調を唱えてくる。
 声量を上げてまで、威圧的に行ってくる説教に、千夏の心は追い詰められる一方で、やはり圧力に押し負ける形で千夏は腕を下ろしていた。

 かぁぁぁぁ…………!

 と、乳房を曝け出した瞬間から、ますます顔は赤らんでいた。
 貧乳というほど貧しくはなく、かといって大きいとも言い難い。皿よりは厚く、茶碗よりは薄いボリュームの、淡い桜色の乳首を生やした胸に三人の視線が注がれる。恥ずかしい部分を凝視され、千夏のそれでなくとも加熱していた頭はより一層のこと熱を上げていた。
「うんうん、それでいいんだよ」
「可愛いおっぱいだねぇ?」
「しゃぶりたくなっちゃうよ」
 説教の時は大真面目な顔をして、さも正しい論調で責めていたのに、いざ腕を下ろした瞬間から、その表情はいやらしいものに変わっていた。視姦目当てでしかなかったような、ニヤニヤした眼差しは耐えがたかった。
「すみません……もう許して下さい……お願いします…………」
 歯を噛み締め、千夏は改めて謝った。
 無実なのに、無実なのに、無実なのに――納得いかない思いが反芻して、だからこそ胸が締め上げられている。万力で潰されるように痛む心は、しかも羞恥の熱で燃え盛り、顔の赤らみを耳まで及ばせようといているのだ。
「まだパンツが残ってるよね?」
「それも脱いで?」
「これは身体検査なんだからさ」
 今度はショーツに狙いが定められていた。
 千夏はもちろん躊躇って、抵抗感からすぐには脱げない。ゴムに指を入れこそしても、固く強張った腕が動いてくれない。
 しかし、それに対する三人の行動は、やはり圧力をかけ続け、脱げないことを責め立ててくるものだった。千夏がショーツを下ろし始めるまで、千夏こそが悪者であるように糾弾する。実際に万引き犯ということになっている以上、正義は自分達にあるというわけに違いなかった。
(なんで……いつになったら……)
 千夏はショーツを下ろしていく。
 下ろせば下ろすほど、それが足首に近づいていくほどに、万力の力が強まるように胸の痛みは大きくなる。耳もはっきりと真紅に染まり、首から上の全てをまんべんなく染め変えて、千夏はショーツを脱ぎきっていた。
 そのスポーツショーツを寄越せとばかりに、店員は手を千夏へと伸ばしてくる。
「…………本当に、これで許して下さい」
 そう言いながら、千夏は歯を噛み締めながら、顔中を激しく歪めながら手渡した。本当は隠しておきたいアソコも、腕を下ろさせられたことから隠していない。またもや説教されるより、初めから曝け出しておく道を選んだ結果、当然のように視線はワレメに突き刺さった。
 長髪中年と白髪中年は、血走った目で鼻息まで荒げている。
 その一方で、店員は目の前でショーツを触っている。好きなように弄び、裏返すなりクロッチの部分もチェックして、店員は繊維の表面をくまなく調べ尽くしていく。商品が隠れている余地などないのは、見れば一目瞭然のはずなのに、やけに詳しく撫で回して、その末にようやくショーツは机の上に放られていた。
 ここまでしたのだ。
 全裸にまでなったのだから、いくらなんでもこれで許してもらえなければ納得できない。

「あとは穴のチェックだね」

「そんな……!」
 千夏の顔には絶望さえ浮かんでいた。

     *

 千夏はテーブルで仰向けとなっていた。
 周りを三人に囲まれながら、不安と恐怖でならない顔で、しかし青ざめる余地もないほど真っ赤な顔で、脚をM字に広げている。直立の時に比べて、はっきりと見えやすくなったアソコに視線は集中して、それが余計に羞恥を煽っていた。
 女なら物を隠せる穴がある。
 そんなことまで言い出して、中身を確認させろと言われた時の絶望といったらなかったが、拒もうにも時間をかけた圧力で攻撃して、意地でも千夏の心を追ってくる。やがて千夏が押し負けるまで、延々とゴリ押しを行う方法で、結局は必ず従わされていた。
 ベンチ型のソファに挟まれたテーブルで、股をあけっぴろげにした千夏の前へと、店員はしゃがみ込む。アソコにぐっと顔が近づくことで、ただでさえ激しく吹き荒れる羞恥心は、その勢いを増していた。
 嵐のあまりに頭部を内側から削り取っていくような、凄まじい熱の嵐に苛まれ、千夏の顔にはまるで拷問でも受けているような苦悶が浮かび上がっていた。
「うぅぅ…………!」
 指が挿入されてくる。
 男によって与えられる異物感に、千夏はますます苦悶していた。恋をして、大切なパートナーを見つけた時でなければ、決して触らせることのなかったはずの、重要な部位にこんな形で接触されて、千夏は苦痛を顔中に滲ませていた。
 幸いにも、実際の痛みはない。
 しかし、究極のプライベートゾーンを他人に侵略されている感覚で、苦悶と苦悩が顔中に満ち溢れ、羞恥による熱気もかなりのものとなっている。額に触れれば高温がもろに伝わってきそうなほど、真っ赤な顔から熱の揺らめきは漂っていた。
 指が根元まで入ったことで、拳の部分も股にぶつかる。
「どうかな?」
「何かあるかな?」
 あるはずがない。
 だいたい、何をどうしたら下着の内側に物を隠せるのか。アソコの穴に入りうる商品が一つでもあったのか。それさえ疑問でならなかった。
「ま、ないみたいだね」
 当たり前の答えを述べて、店員は指を引き抜く。
 これで、終わっただろうか。
 少なくとも、他にはもう盗ったものは何もないと、それだけは証明されたはずである。ここまでやって、なおも疑う余地などないはずだ。

「じゃあ、あとはお仕置きかな」

 その言葉に千夏は引き攣る。
「ま、待って下さい! お仕置きって何ですか!?」
「当たり前じゃない。盗ったのは一個だけだったみたいだけど、万引きには変わりないし、それで家にも学校にも連絡しないで欲しいんでしょ?」
 店員がベルトを弄り始める。
 その時点で千夏は凍りつく。これから起こることへの恐怖で、まずは身が竦んで固くなり、次の瞬間には逃げだそうとしていた。
 だが、逃げることすらできなかった。
「おっと」
「動いちゃダメだよ?」
 両側から腕が伸び、手足が押さえられてしまい、千夏は身動きを封じられていた。店員がベルトを外し、ズボンを脱いでいく前で、ただ大人しくしていることしかできなかった。抵抗で身を捩り、そればかりは避けようともがいていたが、男二人がかりで押さえられては無意味であった。
 トランクスまで脱いだ店員が迫って来る。
「お願いします! 許して下さい! 許して……それだけは……!」
 必死の懇願も無意味であった。

 ずにゅぅぅぅぅぅ………………!

 固くなった逸物があっさりと押し込まれ、股には男の腰が密着してきた。正常位で挿入してきた店員の、奪ってやったと誇らしげにしてくる表情が目前に迫り、千夏は涙を零していた。
「いやぁ……あぁぁ……!」
 痛みと苦しさへの喘ぎであった。
 生まれて初めての挿入で、破瓜の血を流した上に、太さによって穴を内側から押し広げられる圧迫感もあっての苦しさで、千夏は脂汗を噴き出していた。感じるものに快感はなく、身体の一部を抉られでもしているような苦痛に髪を振り乱していた。
「んぅぅ……んぁぁ…………!」
 店員の腰は徐々にスムーズにピストンする。
 最初は動きがおぼつかず、どこか探り探りだったのが、慣れていくにつれ軽やかに、手慣れた経験者のようになっていき、やがては活発な腰振りとなっていた。
「気持ちいいなぁ? 女子高生の生性器は」
 店員は満足そうに千夏の膣内を味わっていた。
「いやぁ……あっ、あぁ……!」
「これならすぐにイケそうだよ。二人はちょっと待っててね?」
 店員は長髪中年と白髪中年の二人に目配せを行って、それを契機にピストンだけにのめり込む。千夏の表情を眺めたり、股間に意識をやることだけに集中しきって、いつの間に乳房に両手まで置かれていた。
 乳を揉まれながら、ピストンもされていた。
「あぐぅ……! んぐぅぅ……!」
 苦悶に歯を食い縛る。
「はぁ……いいよぉ……!」
 満足そうにうっとりとしてくる表情は、気持ち悪いといったらなかった。
「あ……ぐっ、ぐぅ…………ぐぅ…………」
 千夏の脳裏に掠めるのは、ありとあらゆる後悔の念だった。
 一体、どうしたらこうならずに済んだだろう。
 後輩の誘いを受けたのが、果たして運命の分岐点だったのか。それとも、その後の千夏の行動が間違っていたのか。
 だがおそらく、急に万引き犯を疑われた上、身に覚えのない商品が出て来たショックのせいで、どちらにしろ冷静な判断は難しかったことだろう。衝撃に心を揺らされ、思考力が少しでも鈍った頭で大人のプレッシャーに対するには、女子高生ではまだ未熟すぎた。
 試合本番という緊張や、チームメイトの期待といったプレッシャーには慣れていても、悪人扱いされて追い詰められることになど、慣れているはずなどなかったのだ。

     *

 猪股大喜はさすがに家を飛び出していた。
 連絡先のわかる何人かに千夏の所在を尋ねようとは思ったが、千夏が大喜の家に居候をしているのは、ほとんどの人には秘密にしている。聞くに聞けず、千夏へのメッセージをもう何件か送った後、当てもなく夜の町を駆け回る。
 だが、それで見つかるはずもない。
 道端にいるのでも、公園にいるのでもない千夏の姿を目にする余地など、町中を走り回る探し方ではあろうはずもなかった。

     *

「んっ、んごぉ……!」

 千夏は前後から犯されていた。
 店員がひとしきり満足して、その身体に精液をかけた後、交代とばかりの残る二人が千夏に手をつけ始めたのだ。四つん這いのポーズを取らせ、長髪中年は後ろから、白髪中年は口の中へとねじ込んで、どちらも快楽を味わっていた。
「いやぁぁ! いいもんだよ!」
「盗撮も痴漢もしてきたけど、こういうのは初めてだもんねぇ?」
 長髪中年のピストンで、千夏の尻へと腰がぶつかる。その衝撃によって身体が前後することで、結果的に頭も前後として、前ではフェラチオが成立していた。噛んだら殴ると脅されて、必死になって口を開いている千夏の口内は蹂躙され、暴力的な太さが出入りを繰り返した。
「記念もばっちりしておかないとね」
 その隣では、店員がカメラを構えている。
 犯されるばかりか、こんな姿を動画にまで撮られているのだ。
 千夏の絶望といったらなく、もはやショックで放心しきり、途中からはしだいに目が虚ろとなっていた。
 やがて口内に射精され、尻にも生温かいものがかけられる。
 それで終わることはなく、次は体位を変えての挿入で、まだ膣には入れていない白髪中年が正常位で押し込んでくる。そして、左右からは二人が肉棒を握らせての、手コキとセックスによる三本を同時にしごく状況に持ち込まれ、千夏は無心のまま体を『使われて』いた。
 千夏自身の意思で動いてなどいなかった。
 握らされる際の、無力な指があっさりと肉棒を包んだ後、その手がきちんと動くこともなく、さながらオナホールで自らの股間を慰めるようにして、二人の中年は千夏の手を『使用』していた。
 千夏のことを一人の立派な人間として扱う敬意など、この空間にはありなどしない。
 バスケットボールがどれほど上手で、大会で実績を残した経験があろうとも、そんなことに関係無く、彼ら三人は千夏を性処理道具として使用していた。
 それは一人一回の射精などでは終わらない。
 千夏の身体にかかる負担など考慮になく、三人は順番に膣を使って肉棒を慰めていた。たまに体位を変えての性交で、正常位なら両手に握らせ、四つん這いなら口にも入り、必ず一人はカメラを構えて事を動画に撮り続ける。
 やっと解放される頃には、たっぷりと動画を撮ってあると脅された。警察に行けばバラ撒くという脅迫が脳に染み込み、股に散々出し入れされた苦痛の余韻を引きずりながら、生気を失った顔で千夏は店を出て行った。

 そして……。

 道端をぼんやりと、幽霊のような顔で歩く千夏をやっと見つけて、しかしその表情を見た瞬間、大喜はかけるべき言葉を失っていた。



 
 
 

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