前編 使用人となりし王族
魔法力の高低がそのまま権利や地位の高さに関わり、魔力無き者は奴隷のような生活を強いられる。そんな魔力主義の国家において、魔法での決闘に敗北は、そのまま人権を失うことに繋がりかねない。
たとえ魔力量そのものは大きくても、勝者と敗者という形で上下関係が決定され、負けた者は勝った者より格下とされてしまう。それが王族や貴族同士の戦いであった時には、政治の場での発言権などまず失われるわけだった。
決闘法の存在により、立法の審議や行政など、政治的な事柄が実力によって決定された例は歴史上いくつかあるが、今回のそれは史上初のことになる。
――王族の敗北。
この衝撃は国中を震撼させた。
王族とは代々の血筋によって高い魔力を保障され、誰もが極大魔法を身に着けてきた。魔力と魔力のぶつかり合いなら、まず負けることのなかったはずの王族だ。だからこそ、力という名のカリスマに忠誠心は集まって、実に百年以上も支持をされ続けてきた。
その王族が負けたという報せが国内に広まって、まず誰もがデマだと思った。王族の魔力を身近に感じ取った覚えがあったり、魔法力を見たことのある人間ほど、どこぞの地方領主ごときが勝ったなど信じない傾向にあった。
王族の力に比べれば、あらゆる魔術師が野ウサギに過ぎない。
猛獣を相手に野ウサギが勝ったと聞いて、それを信じる人間がどこにいるか。おとぎ話の中の出来事と捉えるのがせいぜいだ。王族の敗北と聞かされて、誰もの胸に湧き起こる感覚は、およそそういうものだった。
しかし、真実は真実である。
負けた王族を召し使いとして抱え込み、まさに奴隷のように扱っている。そんな確たる証拠が存在していれば、最初は信じていなくとも、やがて嫌でも信じざるを得なくなる。
やがて、視察という名目で多くの者達が真偽の確認に訪れたが、その誰もがショックを隠せない顔で領地を出て、放心しながらぼーっと空を眺めることとなっていた。現実を見た上で報告を行って、それでもやはり信じない者がまた視察に赴いて、似たような表情で空を見上げることとなる。
現実を目の当たりにした人数が増えれば増えるほど、自らの目で確かめるまでもなく、王族の敗北を信じる者もまた増えていく。
そして、決してデマではない、れっきとした真実であることが広まれば、次に湧いてくるのは疑惑である。
イカサマに違いない。
何か卑怯な手を使ったのだ。
忠誠心や信仰心など、慕う気持ちが強ければ強いほど、敗北の事実をそのまま受け止めることができずに、何か理由があるに違いないと思おうとする。
件の勝者、領主ユミルが用いた手段は、確かに卑怯なイカサマではあった。検問所で事前に媚薬を使い、奴隷から吸い上げた魔力を行使することで、王族の持つ莫大な魔力に対抗した。その勝利への過程自体は、決して正々堂々とは言えないが、そんな勝ち方であっても勝利は勝利だ。
イカサマといっても、その方法が良かったとも言える。
不正な行為を働いて、たとえば魔力を減衰させる薬で実力を発揮できなくさせれば、それは本当の勝利には見えにくい。だが、魔力そのものは自由に使わせ、王族の魔力に対抗する場面を曲がりなりにも披露しており、視覚的にはユミルの力が上回って見えたのは、政治パフォーマンスの観点でも良いように働いていた。
全員に好かれる王などいない。
どれほど良心的な人格者でも、必ず誰かには嫌われる。
加えて、強いからこそ、魔法力があるからこそ、それを信じて支持していた人間にとって、敗北と裏切りはイコールで結びつく。強いと聞いていたから応援したのに、てんで弱いのでは話が違うと、そういった感じ方をしてしまうわけだった。
つまるところ、支持率は暴落した。
チャンスさえあれば成り上がろうとする貴族もいる中で、王族の負けを都合の良い出来事と捉え、この気に王政を手中に収めようとする者まで現れて、国中の騒動はもちろん、王都城内も混乱を極めていた。
まず、対立が生まれていた。
それでも王族を支持しようとする人間と、王族の不在を利用して、我こそが不在期間の穴を埋めようと名乗りを上げ、そのまま王の立場に居座ろうとする貴族。王族の支持派と不支持派の争いが表面化して、対立構造が明確となっていた。
女王の不在期間を埋めるための任命役は、もちろん用意されている。
そして、誰がいち早く王族に成り代わろうとするかの競争で、同じ王族不支持同士であっても敵対するため、そのおかげで直ちに王政が乗っ取られることはない。城内の混乱や対立が続く代わりに、表面的には今まで通りの行政が続いていく。
無論、それがいつまで持つかの保障はない。
王の代役を務める人物やその補佐は、常に周囲からの口撃に晒されている。親切心を装って、大変な仕事を手伝ってやろうと言い出す手口もある。誰が敵で、誰が味方かもわからない状況は、人を疑心暗鬼にさせるには十分で、やがて忠臣のことさえ信じられなくなっていくのは、代役にとって時間の問題と言えた。
この混乱を解決して、対立構造を解消する手段はただ一つ。
領主ユミルの卑怯な手段を暴いた上で、決闘の再戦を挑み、一人でも多くの国民や貴族の前で打ち倒す。本来の力を見せつけて、敗北は何かの間違いだったとアピールする以外、もはや手立てなどないのであった。
*
もっとも、その王族たる母と娘は、ユミルの屋敷で使用人として働かされていた。
揃って魔封じの首輪をかけられており、どんなに莫大な魔力を保持していようと、二人にそれは行使出来ない。魔力の起動からして封じる原理は、例えるなら燃料への着火そのものができないことと同じである。
ただ無駄に存在するだけで、燃料として消費されることの決してない、無意味な油や薪のようなものと化す。
しかも、そのユミル製の首輪には、設定された範囲の外には決して出られなくなる効果も付与されている。鎖に繋いだり、監視をつけるまでもなく逃亡を封じる術で、屋敷の敷地外へ出ようとすると、たちまち意識を奪われ気絶する。
魔法は使えず、脱走もできない。
そして、武器になるものは当たり前だが与えられず、ユミルの屋敷内には剣や槍などが一切ない。侵入者への対策や警備など、そういったことの全てを魔法に任せてあり、だから二人は反撃のチャンスをまず掴めない状況に置かれていた。
魔法無しで戦う手段は、手で武器を操るくらいなものなのだが、そもそも屋敷内に余計なものを存在させないことで、入手できる可能性は皆無である。それでも入手しうる現実的な凶器となると、食器のナイフやフォークなのだが、ユミルにはそもそも警護を不要とするだけの力があり、そんなもので刃向かうことは現実的ではない。
首輪を外さなければ、こっそりと逃げ出すことは不可能だが、その外す手段がない。鋭利な金属でがしがしと突いたところで、何年かけても壊れるような代物ではなく、外部からの魔力行使だけが唯一の方法だ。
では適当なメイドや執事を捕まえて、誰かを脅して無理に外させる方法はどうかというと、屋敷に勤める人間は誰もが大なり小なり魔法を使える。日々掃除に励むメイドにすら多少の自衛能力はあり、兵士の訓練を積んでいるわけではない、魔力を使えなければ実力などないも同然の母娘には、そうした手段も実現性の低いものとなる。
そもそも、解除方法は難解らしく、ユミルのレベルでなければ解除できない。
だから、そういう方法が頭に浮かんだはいいものの、困難な手段を達成する意味が初めからないのだ。
ユミルを脅し、ユミルを観念させる以外、自力で脱する手段はない。
つまり、不可能と同じだ。
こうなると、外部からの助けでもない限り、二人がここから助かる道はない。
その外部からの訪問も、検問を通じてユミルに管理されており、またユミルは他の領地に圧力をかけ、政治的優位さえ勝ち取っている。王族を人質として扱っている上、他のいくらかの貴族と横の繋がりも持っているため、母娘救出の動きに対して牽制をかけやすい。
聡い二人にとって、そうした政治的状況など、確かめるまでもなく想像だけで目に浮かぶ。
希望も何もないままに、二人は使用人としての毎日を過ごしていた。
首輪に加え、与えられる衣服は下着のみ、まともなシャツやスカートは与えられない。恥ずかしい格好で屋敷内を行き来することを余儀なくされ、それを他の使用人や訪問してきた貴族達にからかわれる毎日だった。
しかも、その下着にしても、露出度の高いショーツを穿かされていた。
「おうおう。いい尻だねぇ?」
「確か、見るのは自由なんだろ?」
「職務を怠らない範囲。つまり、やることやってあるなら見放題さ」
二人は今、窓拭きの最中だった。
広い屋敷の、いくつあるかもわからない窓を拭くため、窓拭き用の雑巾を手に、母娘は廊下で窓ガラスを磨いていた。
金髪のロングヘアを髪留めに結わき、滑らかな背にポニーテールを垂らしたマリエルは、かすかに頬を染めながら、屈辱を堪えつつも作業に専念している。三八歳という年齢に関わらず、二十代半ばに見える外見は、男達の好奇な眼差しをいくらでも惹きつける。
その娘であるアリシアは、腰まで届くロングヘアで背中を覆い隠している。母よりももう少しだけ赤い顔で、背後からの視線を気にしながらも、同じく窓拭きに専念しようとしているのだった。
二人して、穿いているのはTバックだ。
紐と紐を掛け合わせ、まさしくTの形を取った下着では、尻を隠すことなどできはしない。紐が割れ目に入り込み、丸出しとなった尻たぶに男達の視線が刺さる。
「これが王族の尻かぁ」
「プリプリしてんなぁ?」
「母親の方がデカいみたいだぜ?」
使用人が三人ほど横並びに、楽しそうに尻を眺めて見比べている。
母娘でそれを堪えていた。
視姦される恥ずかしさと、後ろから感想を言われる屈辱に、歯を食い縛って掃除に励む。掃除をきちんとできなければ、ユミルにお仕置きをされるため、そうならないようにと丁寧に拭いているのだが、それ自体でさえ屈辱だ。
王族である母娘は、本来ならば掃除など使用人に任せる立場だ。
それを地位では下のはずのユミルにやらされ、自分こそが使用人の立場を味わう状況が面白いはずもない。しかも下着姿で過ごさせられ、こうして見世物にまでなってしまうのだから、屈辱の上塗りだった。
やらされている窓拭きは、長い長い廊下のものだ。
どこまでも絨毯が続いていき、幾つも並ぶ窓ガラスの、その一つ一つを順番に磨いている。母娘で協力し合いつつ、足元のバケツをその都度運び、水で絞った雑巾で窓を拭く。綺麗に見える窓であっても、木枠の部分に意外にも埃はあり、その汚れが雑巾の中に蓄積していくことで、絞った際の水は少しずつ黒ずんでいく。
そうやって、やっと何十枚もの窓を磨き上げても、広い上に三階建ての屋敷な上に、西館と東館、それを繋ぐ中央といった構造では、まだまだ気の遠くなるほどの窓が残されている。
それを延々とこなすには、気の遠くなるほどの時間がかかった。
窓を拭いていくだけで、軽く半日は使った。
やがて休憩時間を与えられ、昼食として食事を受け取るが、皿に乗せられてパンと野菜にスープの組み合わせは、あまりにも貧相なものだった。
まず、野菜は調理がされていない。生で食べられるものを適当に手で千切り、乱雑に盛り付けたものは、他の使用人が食べるサラダに比べて、見るからに見栄えが異なる。しかも鮮度の落ちた野菜が使われるので、サラダらしいサラダに対して材料の質すら悪い。
コーンで彩りを与えて華やかにした上に、さらにベーコンまで入ったものを見ていると、わざと差をつけているのがよくわかる。
パンもただカビが生えていないだけの、傷む直前のものを処分するため、それをよりにもよって王族の腹の中へ捨てている。
さらにはスープである。
巨大な鍋を使用して、多人数分を一度に作る方法だ。
それ自体は皆と同じものを与えられ、だから味そのものは皆と変わらない。その盛り付けが最悪で、具が一切入っていない。破片がかすかに浮かんでいるところを見れば、本当なら肉や人参が入っているはずだとわかるが、母娘に対しては具が入らないように入れてあるのだ。
そして、他の使用人にはおかわり自由の待遇が与えられ、大食いであればあるほど好きなだけ食べているが、母娘にその自由はない。
全てがユミルの指示だ。
本来の使用人よりも低く扱うことで、使用人にも格下の使用人として、極めてぞんざいな扱いを受けている。
だが、これもユミルに言わせればこういうわけだ。
「奴隷に比べれば贅沢な暮らしだぞ?」
人権が保障されていない、ただの消耗品や燃料のように見られている人々に比べれば、なるほど贅沢なのだろう。そこまで低い位置と比べて、ようやくまともに見える生活こそ、二人の置かれた状況というわけだった。
*
与えられる下着は過激なものが大半だった。
Tバックは当然として、ブラジャーもカップ部分の布が少なく、今にも中身のこぼれ出そうなものが用意されてくる。母娘揃って巨乳のため、サイズの合わないハーフカップでは乳肉が下品にはみ出て、それを使用人に笑われる。
乳首の部分を穴あきにしたものを着せられる。アソコを穴あきにしたショーツを穿かされる。
日替わりの下着の過激さは、その日によって異なるものの、いずれも好きで着たいようなものではない。
そして、今日の朝になってメイドが用意してきたのは、サイズの合わないハーフカップだ。仮にも乳首を隠せる分だけ、穴あきよりもマシではあるが、ショーツの方は前の方すらT字型で、およそ布というものが使われていない、本当に単なる紐の繋ぎ合わせなのだった。
二人は恥辱感を覚えながらも、それぞれ下着を身に着ける。
尻は丸出し、アソコの肉貝にも少しばかり紐が食い込み、丸出し同然の露出度合いとなっている。
酷いのは下着だけではない。
二人には身体を敏感にする魔法がかけられており、普通よりも発情しやすい、刺激も感じやすい状態が絶えず続いている。放っておくだけでも息は乱れ、掃除の最中に愛液が下着に染み付く毎日なのだ。
「はぁ……ふはぁ…………」
「んっ、はぁ…………」
息が荒い。
窓に向かって二人して、雑巾で磨きながらも熱い吐息で表面を曇らせる。母であるマリエルは頬を火照らせ、その横顔から色香を放つ。娘のアリシアも熱く火照って、しかし自分の興奮を抑えようと、どちらかといえば強張っていた。
それぞれの表情に差異はありつつ、どちらも肉体に疼きに翻弄され、今にもアソコに手を伸ばし、自慰でも始めてしまいたい衝動に駆られている。ユミルの魔法は強力なもので、高い発情効果はタフな精神をも徐々に蝕んでいた。
「おっと、今日も息が荒いぞ?」
「観念してオナニーしちまったらどうだ?」
「はっはっはっ、それをやったらユミル様にお仕置きされちまうもんな」
「にしても、王族のケツを眺め放題になるとは」
「ユミル様に忠誠を誓って大正解だぜ」
いつものことだった。
使用人の群れが通りかかって、母娘を眺めに足を止める。休憩時間を迎えたり、職務に区切りのついた者がわざわざ鑑賞を楽しみにやって来る。
そうやって集まるのが、昨日は三人だけだったが、今日は五人もいるわけだった。
「んっ、くぅ……」
アリシアは歯を食い縛った。
母に比べて一九歳と若い分だけ、こうしたことで衝動に駆られやすい。しかも、悪逆な政治で人々を差別して、多くの人間を奴隷に貶めているような、そんな領主に忠誠を誓って良かったなどと、アリシアにとっては許せない発言だった。
「おお、怖い怖い」
つい肩越しに振り向いて、睨みつけてしまっていた。
「そんな顔したって、ケツが丸出しだぜ?」
「内股のそれはなんだ? エロい汁なのか?」
「悪いこたぁ言わねぇ、ちっとくらいサボってオナニーしてこいよ」
そのオナニーを奨める言葉の、一体何がそこまで面白くてか。一人の冗談で残る四人が一斉にケラケラと笑い出し、アリシアはより一層の屈辱感に沈んでいった。
「アリシア」
名前を呼んでくる母親の、ただ一声に諫められ、アリシアは掃除に集中し直す。
「わかってるわ。お母様」
彼らに対して、どんなに憤ってみせたところで意味はない。
所詮、ここで働く使用人は、ユミルの元で甘い汁を吸うことが目的の連中だ。ユミルが一体どんな政治をして、どうやって裕福層を作り上げているのか。その方法を知っていながら、悪逆を罵ることなく、むしろ優遇される側に立とうとする。
良く言えば現実的で賢いが、悪く言うなら卑怯極まりない身の振り方だ。
王族よりも、ユミルの方に忠誠を誓うユミル派など、綺麗な理想を語ったところで鼻で笑って済ませるだろう。相手にするだけ意味はないと、アリシアは窓ガラスと向き合って、やりたくもない掃除の方に意識を注ぐ。
だが、かけられる言葉のことごとくが、やはり自尊心を抉ってきた。
「お股に汁が見えてるぜ?」
「くせぇくせぇ」
「女の香りをプンプンさせてちゃ、誘ってるって勘違いされちまうぜ?」
「そいつはいい。王族とヤってみてーよ」
「俺はマリエルのケツを見ながらよ、バックで突きまくってみてーな」
人の後ろで猥談まで繰り広げた。
その内容はどちらとセックスをしてみたいだの、どちらの尻が好みだの、人の体を好き勝手に論評しながら語り合う。本人達は楽しくても、ネタにされる身としては不快でならない話題を聞かされて、アリシアはきつく歯を食い縛った。
性知識がほとんどない、そして経験もないアリシアである。
後ろから突く、喘がせる。オナニー。そういった言葉の意味を真に理解しているわけではなかったが、いやらしい話題によって、いやらしい言葉をかけられていることさえ理解できれば、恥辱感を覚えるには十分だった。
「最低……」
聞こえないように小声だが、アリシアはそう呟いていた。
*
毎日、同じ仕事だけを繰り返すわけではない。
掃除や料理、領主の世話についてはメイドの指示に従う形でこなしているが、午前中の窓拭きが終わったところで、今日はユミルの執務室を訪れていた。
領主ユミルが机に向かい、山のように積み上がった書類の一枚一枚に目を通している傍らで、母娘揃って掃除をする。箒をかけ、目立った塵や髪の毛など、わかりやすいゴミを回収した後、さらに雑巾掛けも行っていく。
自分達の本来の姿がそこにはあった。
行政に関わる書類、食料生産の見積もりに、貿易管理など、様々な書類と向き合って数字や政治に頭を悩ませる。そんな王族としてあるべき姿を背にしながら、自分達は床掃除をしていることに、屈辱にも似た何かが胸で膨らむ。
その時だった。
「いやはや、大きな尻を見ていると笑いが込み上げるというものだ」
女児のものにしか聞こえない、実に幼い声が机から聞こえてきた。
ユミルの声だ。
魔法によって若さを作り、八歳か九歳ほどの、まさしく子供にしか見えない姿の領主こそ、二人を決闘で敗北に貶めて、このように扱っている張本人だ。
領民に重い税を課し、奴隷にはさらに厳しい労働の義務まで与え、そうやって作り上げた土台の上で、裕福層のことは甘やかす。甘い汁を吸わせることで支持を集めて、王族の政策に同意できない、魔力史上主義社会を維持したい派閥との繋がりまで作っているのが、このユミルという人物なのだ。
そのユミルが書類作業の手を止めて、実に楽しそうに二人の尻を眺めるのだ。
ユミルの景色として映っているのは、雑巾掛けのために四つん這いに近い姿勢となり、尻を高らかにした母娘だ。
高く振りかざされた尻は、Tバックのために丸出しで、紐の太さだけでは隠しきれない肛門さえもが見えている。アソコの方さえ紐状なので、はしたない姿勢になれば、性器も見えてしまうわけだった。
そうやって、尻を高くしながら行き来する。
机から遠のく際の、尻がユミルへ向いた時はもちろんのこと、向かって来る際ですら、尻山はよく目立つ。
ユミルにしてみれば、政敵を完膚なきまでに叩きのめして、しかも召使いとして傍らに置いている。決闘で勝敗をつけるに飽き足らず、なおも屈辱を与え続けるのは、優越感が湧いてたまらない。
だからユミルはニヤニヤしていた。
おかしくてたまらずに、笑いが込み上げているわけだった。
それに――。
「おい、どちらが好みだ?」
ユミルは傍らの男に尋ねた。
政治の補佐官として、ユミルが脇に抱えているその男は、当然のように母娘に対する視姦を許されている。
むしろ、見ない方が面白くない。
好奇の視線に曝け出し、クスクスと笑われるように仕向けたり、視姦に対して羞恥や屈辱を感じてもらおうと、下着だけで過ごさせているのだ。
見てもらわなくては困るくらいだ。
「そうですね。下品なほどに豊満な尻、垂れ下がらんばかりの乳房。若い娘が好みではありますが、こと体つきに関していえばマリエルかと」
「そうかマリエルか」
「もちろん、アリシアとて乳と尻は大きなもので、やはり私の好みです。強いてどちらかと聞かれればマリエルを選びますが、実際にはどちらもそそられるというもの」
「だそうだぞ? アリシア、今の気持ちを正直に言ってもよいぞ? 好みと言われて嬉しいか? それとも、僅かながら母に劣って悔しいか? 気分が良いので、礼を欠いた言葉であろうと今なら許そう」
それはユミルの遊びであった。
アリシアが攻撃的な姿勢を見せ、一丁前の口でユミルのことを罵倒しようものならば、それを直ちに黙らせる。そういう楽しみを思いつき、だから是非とも強気な言葉を発して欲しいと、ユミルとしては期待していた。
「…………」
アリシアは答えない。
無言で掃除を続ける姿から、ひしひしと伝わる何かによってユミルは察する。無言であること自体が、アリシアにとっては態度の表明のつもりなのだ。ユミルの思う遊びに乗らず、淡々と掃除をこなしていようというわけだ。
「なるほど? 答えんというのなら、別の遊びをするまでの話よ」
ユミルは魔力を行使した。
軽く呪文を唱えたその瞬間、アリシアの中で何かが弾けた。
「あぁん!」
甘い悲鳴を上げながら、ビクっと尻を震わせて、その次の瞬間にはワレメから潮を噴き出す。噴いたばかりの床に滴が飛び散って、ユミルは愉快そうに腹を抱えて笑い出す。
「ははははは! 近頃の王族というものは、そうやって拭いたばかりの床を汚すのか! これは面白いことを知ったものだ!」
「……っ!」
悔しげに睨む視線がユミルに向く。
快感魔法を使ったのだ。
呪文一つの力によって、手を触れるまでもなく快感の限界を迎えさせ、次の一瞬には絶頂をしてもらう。そんな女殺しの魔法によって、アリシアは見事に尻をビクビクさせたわけだった。
「素晴らしい光景ですね? ユミル様」
「そうだろうそうだろう。愉快なものだろう? 生意気な小娘の絶頂というものは」
「ええ、まさしく。せっかくなので、その生意気な口を利いて頂きたかったところです。ま、こうなることが読めていたから、わざと黙っていたのでしょうね」
「それだ。それもそれで、まあ生意気なものだが――」
ユミルはマリエルの方に視線を向け、口角を釣り上げる。
「……なんでしょう」
その視線を察してマリエルは答えた。
「おい、娘が床を汚したぞ」
わざとらしく、楽しげに指摘していた。
「……はい。申し訳ありません」
「良い良い。もちろん許してやるのだがな? ただ許すというわけにもいかんな。他ならぬ領主の部屋で粗相とは、お前達が王族でなければ即刻処刑だ。仮にも尊い血であればこそ、私は寛容になってやろうとしているが、多少は罰を与えないとな」
「では、この母が娘の責任を取りましょう」
粛々と答えるマリエルへと、アリシアの心配そうな視線が向いていた。
「お母様……」
そんなアリシアの様子を見るのも楽しいが、ユミルはもっと面白みのあることを思いつき、それを今まさに口にする。
「舐めろ」
指で床を指しながら、ユミルはそう言った。
「一切の布も使うな。その唇を床に付け、そして舐め取れ」
愉快で愉快でならなかった。
言うが否や、アシリアの顔には憤怒が浮かび、マリエルには憤りのような悲しみのような、どちらともつかないものが見え隠れした。その感情の機微を伺うことで、悔しがったり泣きそうになったりしていく姿を見るのは面白くてたまらない。
マリエルは床に唇を近づけていた。
「お母様……そんな……」
悲壮のよく現れた表情で、アリシアは母を見ている。
そして、そんな視線の先でマリエルは娘の愛液に舌を伸ばして、ペロペロと木目の表面を舐め始めた。
「はっはっはっは! 舐めてる舐めてる!」
ユミルは大笑いした。
王族が床を舐める光景など、普通に生きていては決して拝めるものではない。ありえないはずの光景を作り出し、それを上から見下ろし楽しむのは、自分の力を実感できてならずに気持ち良かった。
一体、どんな気持ちでいることだろう。
憤った眼差しを向け、何かを言いたそうにしているあたりから、アリシアの心はよくわかる。自分の母を侮辱され、良い気分などしないのだろう。
そして、マリエルは粛々と舐め取っている。
舌を使って一つ一つの滴を拭き取って、丁寧に磨いている。その床にほとんど顔をつけ、そのために垂れ下がった前髪で目鼻が隠れた有様は、これ以上なく加虐嗜好を満たしていく。
「そら、尻を振れ。フリフリしながら舐めろ」
そんな命令にさえマリエルは従っていた。
「これ以上させたら……!」
「させたら、何だ? もし許さないとでも言うつもりなら、どう許さないつもりでいるのか教えて欲しいものだ。うん? どうした? 言ってもいいんだぞ? その可愛い拳でパンチでもしてくるのか、それとも雑巾でも投げるのかな?」
ユミルはどんどん調子に乗って、煽り放題となっていた。
どんな攻撃をしてこようとも、ユミルにはそれを問題なく捌く自信と実力がある。もっとも魔封じの首輪をかけている以上、逆にアリシアの方に力がないわけでもある。
「くっ……」
アリシアは悔しげに歯を噛み締め、押し黙る。
それもまた、多少なりとも愉快であった。
ふりっ、ふりっ、ふりっ、ふりっ、
マリエルは尻を振りたくる。
床を舐めながら、腰は高らかに突き上げて左右に動かす。その尻を振った姿は、さながら真後ろに男でも立っていて、必死に誘っているかのようだった。
中編 屈辱の日々
ユミルは半数以上の使用人に暇を与えた。
急に休暇を与えると、失業ではないかと不安がる小心者もいくらかいたが、目論見を伝えればすぐさま安心しきっていた。
本当に最低限の人数だけを残した屋敷は、廊下や広間を行き交う人の気配がほとんどなくなり、普段に比べて随分と静かになる。住み込みで働いている使用人は、休みも仕事も関係無く屋敷内にいるものの、そうでない者は久々に家にでも戻って、家族と過ごすなり何なりをしているはずだ。
そして、マリエルとアリシアには仕事を押しつけた。
使用人が減った分だけ、掃除の量は目に見えて増える上、料理や洗濯など他の家事まで母娘に回る。明らかな過重労働ではあったが、ユミルがそんな気遣いをするはずはなく、わざと仕事を増やしているくらいであった。
しかも、ユミルは執務室でその監視を行っていた。
「ふむ、やっているようだな?」
机に置いた水晶玉に、二人の様子を映し出していた。
遠見の魔法によって、現実の風景をそのまま切り取り、ぼんやりと浮かべたかのように、水晶玉の中には母娘の姿があった。
マリエルは厨房で野菜を刻み、アリシアは大きな鍋をかき混ぜながら、具の様子を見守っている。一応、いくらかの料理人は残してあり、あまり粗末なものを作らせないように見張らせているため、素人の調理だろうとそう不味くはならないだろう。
「さて」
ユミルは映像を切り替えた。
水晶玉への投影は、念じることで映すべき場所を変更できる。そうしてユミルが眺めているのは、マリエルの立派な尻だった。Tバックの紐はほとんど埋もれ、割れ目の中に入った分がもはや見えない。
巨尻に対する恨めしさというべきか。
スタイルの良さは羨ましいもので、だからこそ傷つけたい。女として自分よりも優れた肉体には、何かしらの屈辱を与えたくもなってくる。
「そうだな。感じてもらおうか」
ユミルはぼそぼそと呪文を唱え、その効果は直ちに現れていた。
『ひっ! うっ、うぅぅ……』
急に尻がぴくっと動き、明らかに何かに反応した直後、そのまま固く強張った。内股に力が籠もり、太ももを擦り合わせて我慢する。
快楽を与えたのだ。
相手の肉体に自由自在に快楽を送り込み、興奮度合いを好きなように調整する。そうした肉体にかける魔法は、普通であれば効果が薄い。戦闘中に筋力を低下させられたり、まして呼吸の止まる魔法でもかけられようものなら、不利になったりそれで勝負が決まりもする。そうならないための抵抗を、本来ならば行うものだ。
攻撃や弱体化など、相手の魔法効果が弱まるように、魔力によって自分自身の肉体を保護するのは、戦闘や自衛において常識だ。
しかし、魔封じの首輪がある母娘には、そういった抵抗すらできない。
ユミルの気持ち一つで自由自在に興奮度合いの切り替えは可能となり、思い通りのタイミングで好きにイカせることさえ簡単なのだ。
こうして、その場に居合わせるまでもなく、水晶玉を通してセクハラや痴漢ができる。
「次はこういうのはどうだ?」
『やっ、一体……!』
人形操作の魔法を使い、そこに『手』を送りつけていた。
既に用意のある魔法道具を転送によって出現させ、さらには宙を浮遊させながら、人形から切り取った手首だけの存在を駆使して、マリエルの尻を撫でさせている。人間の手の平と変わらない、生身のそれと酷似した感触を味わえば、まるで急に後ろに人が立ち、痴漢をされた気分が味わえることだろう。
マリエルは後ろを振り向いていた。
本当に誰かに触られていると勘違いして、しかし背後には誰もいないことへの戸惑いと共に、快楽によっても瞳を震わせる。動揺と焦りの見え隠れするオロオロとした姿は、実に見ていて愉快であった。
やがて、手で尻を気にすることで、マリエルは気づいたらしい。
料理人の誰かであれば、果たして注意しようとでも思っていたのか。
だが、一体誰の魔法の仕業なのかに気づくなり、諦めたように調理を再開して、快楽を堪えながらも包丁で野菜を切る。
『んっ、くぅ……んぅぅ…………』
抑え気味の喘ぎ声で、手を震わせていた。
誤って指を怪我したくもないだろう。
ただでさえ慣れない料理で、経験豊富な料理人に比べて随分と時間がかかっていたところ、人参を小さくしていくだけで苦戦していた。快楽の余波で手が震え、ぷるぷると動く両手のせいで慎重になりきっていた。
「おやおや、作業が進まないなぁ?」
ユミルはニヤニヤと楽しみながら、次はアリシアに切り替える。
アリシアは後ろから料理人に見張られながら、大鍋のスープをかき混ぜている。きっと尻にでも視線を感じて、視姦されての気分を味わっている最中だろう。はっきりと振り向くことはないまでも、後ろを意識しているのが様子でわかる。
ユミルはアリシアにも同じ魔法を行使した。
人形の『手』を出現させ、それに尻を触らせた。
「なっ! ちょっと……!」
驚きながら振り向くが、そこに立っている料理人は、決して尻に手の届く距離にはいない。手を伸ばしたよりも、もう少しだけ遠い位置にいて、そもそも振り向いている最中にも、アリシアの尻は揉まれ続ける。
「んぅ……!」
次に魔法をかけた時、アリシアは大きく喘いだ。
娘の方にも快楽の魔法をかけ、それによってアリシアは、急に太ももを引き締めながら、我慢のために腰をくねくねと踊らせ始める。
『どうした?』
『んっ、んぅ……んぅぅ……』
『小便でもしたいのか?』
『ち、ちがう……そんなんじゃ…………』
「はっはっはっはっはっはっは!」
ユミルは大笑いした。
小便、確かにそうだ。股を気にして強張って、その結果として腰が微妙にくの字に折れたその姿勢は、オシッコを我慢して見えるではないか。そのわざとらしい指摘も面白いが、赤らみながら否定するアリシアの反応も見物であった。
作業の質が悪いのは言うまでもない。
料理人達もユミルの目論見はわかっており、だから作業が遅い理由をわざわざ考慮せず、ユミルを楽しませるための言葉を放ってくれている。
『親子そろって、まともに皮剥きもできないか?』
『そんな……そう言われても……』
『お? マリエル、いくら王族だからって、今は俺より下なんだぜ? 奴隷なんだよ奴隷。敗北者は元がどれほど高貴だろうと、ただの奴隷でしかなくなるんだ』
『しかし、この状態では……』
『あまり言い訳をするなよ? どんな理由があろうと、作業が遅いと罰せられる。ひょっとしたら、いつか娼婦の仕事をさせられるかもな』
『…………』
マリエルは言い返すことを諦めて、快感を堪えながらジャガイモを手に取った。
その皮を剥くのも大いに時間がかかってのこととなり、やっとの思いで調理場での作業が終わっても、今度は庭の手入れが待っている。本棚の整理が待っている。浴場の掃除が、銅像磨きが、ありとあらゆる仕事が待っている。
ユミルはその都度、魔法で邪魔をした。
はっきりとした妨害で、手を直接止めさせることはしない。快楽魔法で絶頂直前の切なさを味わってもらったり、男達にセクハラの許可を出し、尻を触るように仕向けるような、間接的な邪魔しかしていない。
きちんと作業に集中しうる余地はあえて残して、それでいて滞っている様子を鑑賞した。
当然、時間までにノルマをこなしきることはなく、二人にはお仕置きが必要となるのであった。
*
母娘を執務室に呼び出して、ユミルはこれ以上なくニヤついていた。
下着を脱がせてあるのだ。
さらに使用人の中から働きの良い男を二人ほど選び出し、母娘の下着を日頃の報酬として与えたのだ。今日のブラジャーやショーツはどちらも男の手に渡り、アリシアの隣にいる男はアリシアの下着を、マリエルの傍らにいる男はマリエルのを、それぞれ嬉しそうに握り締めている。
隣で自分の下着を触られて、堪能されている状況に、親子揃って気まずさと不快感の入り交じった恥ずかしそうな表情を浮かべているのは、見ていて実に面白い。
だが、ユミルが何よりも楽しみにしていることは、もちろんそんなことではない。
「見れば見るほど、まったくだらしのない乳をしているものだ」
ユミルは二人の裸体を見やった。
アリシアの巨乳と、さらに一回り大きなマリエルの巨乳は、張りの良さで手前にツンと突き出ようとしているが、大きさのあまり重力には逆らいきれない。アリシアの方はまだしも下垂が控え目だが、マリエルの大きさでは物理法則に従うままに下向きに、さすがのサイズ感で下垂も目立つ。
かといって、垂れすぎるほどには垂れておらず、どうにか美観を損なわないギリギリのラインに踏み止まっているあたりに腹が立つ。
妬ましいものだった。
別にマリエルほどの豊満さまでは求めないが、ユミルの肉体は十代の思春期や成人年齢を超えてなお、幼児体型のまま膨らみを得られなかった。魔法によって肉体年齢を若返らせ、いっそ見た目だけは女児に戻ることで釣り合いを取っているのだが、それだけに母娘のことは前々から気に入らなかった。
無論、乳のサイズがどうという理由のみで王族を貶めるはずもなく、二人の権威を穢す理由はもっと政治的な目論見のためなのだが。
「作業がまるで進まなかったな?」
ユミルは早速、作業の遅れについて追及を開始した。
「だ、誰が……」
お前のせいだろうと言わんばかりの、抗議の意思の宿った睨みの眼差しは、もっぱらアリシアから向けられる。
ユミルにはその性質が読めていた。
血の気の多さと誤解する者もいようが、あれは正義感だ。不正や悪徳を許せない理想主義による感覚で、妨害しておきながら追求してくるユミルに対し、それ相応の怒りがあるというわけだ。
その辺り、マリエルの方がもう少し大人しい。
「……申し訳ありません」
母の方は大人しく謝るのだ。
そんなものは表面だけで、腹の底にはアリシアと同じ感情を抱えているといったところだろうが、マリエルの方が長生きをしている分だけ、世渡りを意識している。噛みついても仕方のない時は牙を収め、じっと密かに研いでいるのが彼女の性質なのだろう。
どうせ心は諦めていまいと、ユミルはそう考えていた。
自力での脱出手段は無きに等しいと、二人揃ってわかってはいる状況で、きっとあるかもしれない外部からの助けを待っている。そうでなくとも、ユミルが何らかの隙をうっかり見せてはくれないものかと、気の遠くなるような期待を延々と胸に隠し続けているに違いない。
もっとも、そういったものはゆくゆく砕く。
完膚なきまでに打ちのめし、絶望のどん底に落としてやるのが楽しみなのだ。
「おい、アリシアのパンツはどうだ? 何か感想を言ってみろ」
ユミルは使用人に命令する。
「ええ、そうですね。ユミル様の術……いえ、アリシアめの卑しいメスの気質により、股布の部分にはとても甘美な蜜が染みついてございます。わたしのような変態は、こういうものを脇目も振らずベロベロと舐め回したくなるのです」
「ほう? 構わん。許可しよう。今ここでやってみせよ」
「はっ、喜んで」
使用人はショーツを舐め始めた。
後ろ側は紐でしかないTバックの、前の部分にだけは多少の布を使ったショーツの、アソコに当たる部分に舌を這わせて、染み込んでいた汁を存分に味わい始める。これみよがしに、お前の体液を味わってやっているぞと、得意な顔でアリシアのことを見やっていた。
「うぅ…………」
さぞかし寒気がすることだろう。
自分の下着を握られているばかりか、舐める真似までされて嫌悪感がないはずがない。
「お前はどうだ?」
もう一人の使用人にも、マリエルのショーツについて感想を言わせた。
「わたしも同じく、この甘美なる蜜の香りに酔っていたところです。マリエルめはなかなかの匂いを持っているようで、先ほどからそのかぐわしさを吸い込もうと、鼻息ばかりをしているほどです」
「では私の前であることを気にせず、自分一人しかいないつもりになって、好きなように嗅いでみせろ。ついでに舐めてもいいぞ」
「では喜んで」
そうして、マリエルの真横でも、マリエルの下着に鼻が押し当てられている。すーっと、わざとらしい鼻息の音を立て、たっぷりと鼻孔に吸い上げている。すんすんと聞こえる鼻息に、引き攣ったような羞恥の顔をマリエルは浮かべていた。
これもまた、ユミルの思い描いた光景の一つであった。
全裸で立たされ、その隣には脱ぎたての下着を握った男がいる。その男達にそれぞれの下着を触られたり、嗅がれるなどして、存分に堪能されている状況に立たせてみたいと、我ながら良い思いつきだとは思っていたが、想像以上の満足感が溢れてくる。
しかも、まだ楽しみに続きはあるのだ。
「ではこの辺りで、お仕置きをしないとな?」
ユミルは席を立ち上がり、二人の前へと近づいていく。
もし二人が暴れ出しても、丸腰の母娘は魔法無しでは戦闘力を丸ごと取り上げられたと同じである。警戒の必要もなく距離を詰め、ニヤニヤと見上げて、まずはアリシアへと命じた。
「四つん這いになれ」
「なんで……」
「仕置きだ。尻を叩いてやる」
「そんなこと……」
「できんと言う気か? もし拒むなら、そうだな。お前の隣に立っているその男は、マリエルよりもお前の方が好みだそうだ。お前と夜を過ごす許しをそこの男にでも与えるとしよう」
「くっ、わかったわ…………」
アリシアは大人しく膝を突き、ポーズを変える。
「腹はここに乗せるんだ」
ユミルは片膝を突き、アリシアが脚に腹這いになるように導くと、その大きな尻へと早速腕を振り上げる。
ぺちん!
叩き始めた。
その瞬間に全身がぐっと強張り、尻がミリ単位でかすかに反り上がる。見れば床に置いた拳も固く震わせ、屈辱に震える様子でいるところを見て、ユミルは顔のほころびを抑えきれずに歓喜しながら平手打ちを繰り返す。
ぺちん! ぺちん! ぺちん!
打ち鳴らしているうちに、呼吸が怪しく聞こえて来た。
「あっ、ふぅ……くっ、んぅ…………」
息が荒っぽくなっている。
その様子を見逃すことなく、ユミルはさらに平手打ちを繰り出した。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
実に愉快だった。
人をコケにした上で、しかも尻まで叩いて尊厳を辱める。わざわざ見物人の男を立て、使用人ごときに見下ろされている状況も、王族としてはプライドを傷つけられるはず。その楽しさでたまらずに、口角が吊り上がるのを止められない。
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
叩いているうち、アリシアは明確に感じ始めた。
「あっ、あぁ……! あっ、そんな……!」
快楽魔法をかけてあるので、元より感度は高いはずだが、どうやら痛みが快感に変わっているらしい。ユミルはどちらかと言えば容赦なく、この尻が腫れても構わないつもりで叩いているが、とんだマゾ気質があるようだ。
叩かれて喜ぶ性癖でもなければ、興奮状態となって感度が上がる魔法しかかけていないのに、勝手に痛みが快感に変わることはありえない。
「どうだ? じっくり見てみるがよい」
「ではユミル様のご厚意に甘え、視姦させて頂きます」
使用人がアリシアの尻に顔を近づける。
自分の尻の、すぐ真後ろに男の顔がある状況は、ますます羞恥を煽るはず。恥じらいきった表情が目に浮かび、優越感から叩き続けているうちに、使用人は感想を述べ始めた。
「お尻の筋肉やアソコの様子を見ていると、その一発ごとにヒクっと収縮しているのがよくわかります。心でどう感じていようと、肉体は興奮しているいい証拠ですね。何より、だらしなく溢れた愛液が滴になって、糸まで引いている光景といったら、もう面白くて面白くてたまりませんよ」
随分とはしゃいだ早口だった。
熱く語らずにはいられないほど、見ていて興奮するようだった。
「あ、申し訳ありません。ユミル様」
「よい。言葉による辱めも、こいつを存分に悦ばせるだろう」
「で、では……。痛みで気持ち良くなるとは、なかなかの変態ぶりですね? それだけアソコを濡らして、糸の引いた愛液をぷらぷらと揺らしているのですから、とても言い訳など出来ませんよ? ああ、こうしているあいだにも、あなたのパンツの味を確かめています。匂いも嗅いでいますが、いい具合の臭気が染みついていて、とてもとても香しい」
「だそうだぞ? よかったなぁ? 男に悦んでもらえて」
喜悦の顔で、ユミルはさらに尻を打ち鳴らす。
ぺちん! ぺちん! ぺちん!
と、その時だった。
急にビクっと、身体を反り上げるような反応をしたかと思うと、アソコから潮が噴き、飛び散った飛沫が使用人の顔へとかかっていた。ユミルの手にも数滴ほどが染みついて、ユミルは手の平に残った絶頂の証拠を思わず見つめた。
「ほう?」
イった。
確かにアリシアはイった。
こんな方法でイカされた屈辱もさることながら、言葉で辱めるためのネタも増えたのだ。
愉快なことこの上なく、上機嫌にマリエルへ視線を向けた。
その瞬間、マリエルは反射的に強張っていた。
次は自分の番だと悟り、身構えているようだった。
*
娘の有様を見せつけられ、それに対して何もできない自分が歯がゆくてたまらなかった。
力さえあれば、こんな真似は決してさせない。
魔封じの首輪さえなければ、アリシアをこんな目に遭わせずに済むかもしれないのに、ただ見ていることしかできない悔しさで堪らなかった。
「アリシア……」
全裸で尻を叩かれるだけでさえ、それ相応の屈辱となって心は傷つく。プライドを踏みつけられ、蹂躙される気持ちに耐え忍ぶことになるというのに、しかも男を二人も招き入れ、わざわざ視姦や言葉攻めの許可を与えているのだ。
そして、娘が潮を噴いた時、次は自分が同じ目に遭うことを悟った。
マリエルが出来るのは、ただ覚悟を決めたり、身構えることくらいである。心の中で悪態でもつき続けるか、それとも受け入れきってしまうか。向き合い方を心の中で決める程度の、たったそれだけの自由しかマリエルにはない。
マリエルもまた、四つん這いに近いポーズとなった。
剥き出しの腹にはユミルの脚の感触があり、そして後ろにはマリエル派の使用人が立っている。視姦や言葉攻めの役目を果たすため、尻のすぐ真後ろから、平手打ちの邪魔にならないちょうど良い距離を取りつつ視姦してくる。
それはすぐに始まった。
ぺん!
その一発目は痛かった。
「さあ、お前も存分に仕置きを受けろ」
ユミルの楽しそうな表情など、見るまでもなく目に浮かぶ。
ぺん! ぺん! ぺん!
屈辱に歯を噛み締め、床に置いた両手は固い拳となっていく。
(試練よ……試練と思うのよ……)
そうすることで、耐え抜こうとしていた。
娘も同じ試練を受けた。
ならば母の自分が挫けるわけにはいかない。娘と同じ屈辱を分かち合い、共に心を保って脱出の時を伺い続ける。そのためにも、どんなに悔しくて恥ずかしくても、たとえいつ脱出できるかの未来が見えなくとも、最後の最後まで諦めない心を抱き続ける。
この国を変えるためにも……。
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
痛みは徐々に快楽へと変わっていた。
(どうしてなの……?)
こんな痛みなど嬉しくない。
まして、後ろから男に視姦され、アソコや肛門も見えている状態で、叩かれて嬉しいことなど一つもない。
それなのに下腹は疼き、アソコからは熱い蜜が滴り落ちる。叩かれれば叩かれるほど、痛みとは違う何かが尻に走って、呼吸もどんどん乱れていく。
「あっ、くぅ……んぅ…………んぅぅ………………」
娘と同じになりそうだった。
アリシアも叩かれることで愛液を流し、それが糸となってぷらぷらと揺れたそうだが、マリエルもまた自分に滴の玉が形成されているのを感じていた。ワレメの表面に滲み出て、着実に形となって大きくなる。そんな滴がやがて重力に引かれて下へ下へと、糸となって垂れ下がる時、背後の使用人は嬉々として指摘を始めた。
「おやおや、お母様もはしたない蜜をお出しになるようだ! しかも、長々と糸を引いておるようですが、親子そっくりというやつですかな? もしや、娘さんがお尻ペンペンされて悦ぶ変態マゾ女なのは、母親譲りの性癖では?」
酷い言葉攻めだった。
心を深く抉り抜き、屈辱のあまりに何かを言い返したり、仕返しをしてやりたい気持ちが大きく膨らむ。
しかし、そもそも力が出せないのだ。
魔力を封じられている限り、男の腕力の前ではマリエルも一人の女でしかない。魔法がないとこうも無力で、しかもたとえ力を取り戻してもユミルには太刀打ちできない。ユミルのあの領地から魔力を吸い上げ、奴隷を燃料として扱う技を封じなければ、王族ほどの力があっても現に二人がかりで敗北している。
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
無力感に打ちのめされる。
「んっ、んぁ……あぁ……あぁぁ…………」
こんなことを気持ち良く感じてしまっている自分がいる。
「お前の尻は大きいからな」
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
「娘に対してよりも、いささか力を込めているぞ?」
「ユミル様の手によって、いかに肉がぷるぷると振動して、見ていて面白いことになっているか、おわかりになりますか? しかもほら、下腹の疼きによって、アソコや尻穴がヒクヒクしているのがよく見えますよ?」
羞恥を煽る言葉によって、耳まで染まり上がっていく。
しかも、その時だった。
「あっ、お……お許しを……!」
とある一つの予感に、さしものマリエルも急に許しを乞い始めた。
「なんだ? 急にどうしたのだ?」
問いながら、ユミルは尻打ちの手を止めない。
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
「あぁ……と、トイレに……!」
「ほう?」
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
トイレの一言を発した瞬間の、ユミルのほくそ笑む表情が脳裏に浮かんだ時、マリエルは己の運命を察していた。
このまま娘の見ている前で……。
平手打ちが生み出す痺れで、アソコの奥までぴりっと弾け、その都度ヒクヒクと反応を続けている。そんな下腹の反応は、膀胱にも刺激を蓄積して、緩んではならないものまで緩みつつあったのだ。
ちょろっ、
一瞬、少しばかりの水が流れる。
それをきっかけに、決壊した。
チョロロロロロロロロロロロ………………。
失禁してしまっていた。
ある程度の尿意は元よりあって、実のところ出そうとすれば出せる状態だったが、かといって我慢が利かないほどでもない。そういった具合にあったアソコは、度重なる刺激によって我慢の力が緩んでいき、ついに噴き出すこととなったのだ。
「あっはははははは! 失禁とは! 王族が失禁とは! 血族の名を汚すにもほどがあるのではないか? お前、それはもはや血筋に恨みでもあるのかと疑うぞ! 自分を貶めてまで家名に傷をつけたいのかとな! はははははははははは!」
ユミルの笑いが天井を貫く勢いで響き渡った。
そのまま笑い死ぬ勢いで、笑いのあまり平手打ちまで中断して、しばらくは腹を抱えていた。やっと笑いがやむ頃になってな、声色によって表情が目に浮かぶ。未だ愉快でならない顔をして、きっと平手打ちを再開しようと考えていた。
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
そして、実際に再開された。
「仕置きの理由が増えてしまったな? 我が執務室を尿で汚すなど、一体どう掃除してくれるのだ? 匂いが残ったらどうする? いや、綺麗になったとしてもだ。お前が小便を垂らした事実は消えん。その不快感を一体どうしてくれる? どう責任を持つ?」
掃除をして謝るくらいしか、マリエルには何の責任も取りようがない。
しかし、マリエルは言ってくるのだ。
不快な気持ちはどうするのか。尿が染み込んだ部分への、その気分の悪さはどうするのか。マリエルにはおよそ払拭しようのないことまで、しかしユミルはわざとらしくねちねちと、嫌らしい声で追求を続けてくるのであった。
無論、掃除はさせられた。
自分自身の失禁が作った水溜まりを雑巾で拭き取って、その雑巾が吸った水気でマリエルの手には匂いが移る。
アリシアと目が合った時、そこには絶望が浮かんでいた。
(ごめんね……こんな母で…………)
己の肉親のこんな惨めを見て、何も感じない娘がいるだろうか。
アリシアに余計な絶望を与えてしまった。
せめて失禁さえしなければ、今ほどの顔はさせなかったかもしれないのに……。
後編 結末
ユミルはすっかり気を良くしていた。
母娘の暗く染まった表情は、逆にユミルを明るくしていた。
マリエルの失禁は、どうやらむしろアリシアを打ちのめしていた。自分の母が小便を垂らす姿は相当に堪えたらしい。その絶望した娘を見ることで、マリエルもまた連鎖的に沈んでいき、二人の顔からは目に見えて光が薄れていた。
心のどこかでは可能性を信じて、ぐっと堪えてチャンスを待つ。
諦めない気持ちを抱き続けようとする粘り強さの気配が今まであったが、それが消えたとまでは言わないまでも、めっきり薄れているようだった。
そこでユミルは一つの計画を立てた。
「モニュメントを作るぞ」
歴史の象徴を意図したり、偉人の偉大さを語り継いだり、自らの権威を誇示するなど、様々な意図によって建造物は作られる。
ではユミルの意図は何か。
王族二人を参加させた上で、魔力主義を象徴するモニュメントを建造する。
かねてより魔力主義廃止を目標とし、あらゆる事柄を魔力の高低によってのみ判断してしまう風潮を何とかしようとしてきたのが王族である。その王族自身が莫大な魔力の象徴であり、魔力主義の根幹を支えているのだから皮肉なものだが、とにかく代々より廃止を志してきているのだ。
ユミルにも、その理屈はわかる。
建築、芸術、数学など、魔力の高低に関わりなく、魔法が使えずとも才能を発揮できる分野はいくらでもある。そういった分野ですら、その分野の才能よりも、魔力の有無が優先され、優れた人間さえもみすみす奴隷に堕としかねない。
そんなことはユミルに限らず、いかなる魔力主義の貴族とて薄々とわかっているのだ。
しかし、既得権益を手放すつもりがない。
頭で理解していることと、実際に心で同情したり、問題を問題と感じるか否かはまた別である。
そもそも、魔力はないが別の分野で優秀という人間は、それこそ奴隷名目で確保すればいいだけの話だ。奴隷といっても、その待遇は持ち主の好きにできるのだから、優秀な人間を殊更可愛がりたいと思うのなら、それぞれ勝手にそうできる。
よって、ユミルに現状を変える気はさらさらない。
むしろ王族の権威を乗っ取り、我こそが新たな王族となろうとする野望さえ抱いている。魔力主義廃止の動きを鬱陶しく思い、王族を目の敵にしている貴族は他にもいるため、それらとの連携も十分に進んでいる。
そして、王族をひとしきり奴隷扱いした上で、その王族にモニュメント建造の労働をやらせることは、いよいよ権威失墜の象徴となるだろう。
見せてやりたいものだ。
王族の寛大なる目標を指示し、奴隷解放を夢見た市民に、その聖人君主がズタボロになっている姿を――。
その日のうちに予定を組み上げ、数日後には作業開始の命令を出したことにより、母娘は作業員として現場に駆り出される。
当然、下着姿だ。
魔封じの首輪に付与されたもう一つの効力として、定められた領域の外には決して出られないというものがある。その領域を再設定して、作業現場一帯からは決して逃げられないようにされた上、しかも衣服がまともに与えられていない。
ブラジャーとショーツの替えだけが用意され、シャツなど一枚もありはしない。
しかも、ショーツは全てTバックで、ブラジャーもカップ部分の布が少ない。谷間を見せびらかすためのハーフカップだけでなく、乳首の部分を穴あきにした構造に、乳首だけを隠すマイクロ型など、いやらしさにもバリエーションがあるくらいだ。
そして、現場の他の奴隷は男ときている。
ボロボロのシャツを着たり、生気のない眼差しでぼんやりしながら、現場の指揮官に言われるがまま働く人形と化している。生きる希望などありもせず、これが自分の人生だと受け入れてしまった者達の、悲しい姿に溢れている。
その中に母娘は混じっていた。
男しかいない現場の中の、ただ二人の女としてチラチラと注目を集めつつ、母娘揃ってあらゆる感情に飲み込まれることとなる。
「お母様。これが……」
「ええ、そうよ。アリシア」
魔力主義が生み出す奴隷階級の扱いは、母娘の二人とも、市街地の視察によって見たことはあった。だが、それは町中の店で鞭打たれながら働いたり、力仕事や床掃除といったことは全て奴隷に任せた上で薄給といった酷さが中心だ。
虐待同然の扱い、まともに服も着せてもらえない扱い。
確かに間違いなく、奴隷の実態を目の当たりにした経験はあるのだが、とはいえ全て何もかものケースを確認しきったわけでもない。広々とした現場に大量の奴隷を投入して、大がかりな作業に大勢で当たるというのは、二人にとって初めて目の当たりにするものだった。
しかも、見るどころか自分達が投入され、周りと同じ扱いで働かされる。
モニュメントを作る手順は単純だ。
必要な石材を採石場から地道に運び、所定の場所へ積み上げる。指定の石材は粘土化加工が可能なものらしく、魔法を使える者が逐一粘土化していくが、作られた粘土を捏ねて固める作業は奴隷に任されている。
乾燥すれば再び石に戻るので、魔法によって乾燥までの時間を調整されたものを扱って、デザイン通りの形に近づけていく。
巨大なモニュメントになるため、木材によって高台を組み上げて、高所作業のための足場を作る。その組み上げ作業もまた、やはり奴隷の役目とされていた。
どの奴隷がどの役割に回るかは、現場監督の采配によって決定される。
母娘の場合、採石場との往復で地道に運び出す役が任されていた。
重労働なのは言うまでもない。
それは本来、男の体力で行うべき作業であり、しかも魔封じの首輪があるために、魔力による補助も利かない。
たったの一往復をするだけで、二人して足腰に負荷を感じていた。
棒に紐を括り付け、カゴを吊したものを使って、地道に往復を繰り返しての運搬となるのだが、肩に棒を担いでいれば、肌に食い込む痛みがしだいに現れる。蓄積された皮膚への負荷で、少しずつ赤らみも帯びてきていた。
何度か往復するうちに、母娘はもう音を上げそうになっていた。
他の周りの奴隷は問題なく作業を続け、ペースも変えずにやっている中、母娘だけの足取りが明らかに重くなっていた。
そのうち、二人は気づく。
奴隷といっても、それぞれ体格に違いがある。おそらくは過酷な現場で鍛えられ、嫌でも屈強にならざるを得なかった男の、筋肉に満ちた体つきをちらほらと見かけるのだ。体力のある面々が采配によって配置され、そうでない者は他に向いている作業に回されていた。
もちろん、奴隷を使う側には奴隷への気遣いなどなく、ただ作業効率を気にしているだけなのだろう。
「いいケツだなぁ?」
時折、卑猥な言葉を投げかけられた。
「重くて大変だろう」
「おっぱいがゆさゆさしてるもんなぁ?」
惨めにもほどがあった。
仮にも、奴隷のこうした身の上を案じて、そんな現実を変えようと目標を持っていたのに、その奴隷から蔑まれるのは堪えるものがあった。
しかも、言葉の辱めだけではない。
急に後ろに近づいて来た男が尻を触って通り過ぎる。すれ違いざまに胸に手を伸ばして揉んでくる。そういった行為がたびたび繰り返され、母娘はそのたびに声をあげていた。
やめてください。触らないで。
拒むための言葉をその都度口にして、しかし一度としてやめてもらえることはなかった。
ユミルが直々に許可を出しているのだ。
二人へのセクハラは自由であると、正式な触れをユミルが直接発することで、奴隷達の誰もがそういう認識を抱いていた。
*
ユミルは大喜びだった。
モニュメントの建造を命じて、そこにわざわざ母娘を放り込んだのは、もちろん奴隷と同じ扱いで働く王族の惨めな姿が見たかったからだ。魔力主義を象徴するためのモニュメントを王族参加の作業で作らせる。政治的な意図は大いにあるが、しかしこの優越感こそがユミルにとっては本命だった。
「実に気分がいい」
母娘が運搬作業を行っていた。
マリエルが前に、アリシアは後ろに、それぞれ棒の前後を肩に担いで、吊したカゴに石材を積み上げている。肩と足腰に負担を感じながらの運搬作業で、早速のように二人は顔をやつれさせていた。
その周りでは男同士のペアも同じ作業に当たっているが、屈強な男だけあり、一時間やそこらでは音を上げない。
それどころか、二人にいやらしい言葉を投げかける余裕があった。
「今日もおっぱいがゆさゆさだなぁ?」
「後で揉んでやるよ」
「そのケツ、いっぱい触ってやっからな!」
後ろから追い抜かれていきながら、あるいはすれ違いざまに、母娘はしょっちゅう言葉のセクハラを受けている。
触られる場面を目の当たりにできるまで、そう時間はかからなかった。
数十分も見ていれば、尻に触ろうと石材をその場に置き、後ろからこっそりと駆け寄る男を何度か見かけた。急に尻をタッチして驚かせる場面を複数回にわたって目撃して、奴隷ごときに触られる王族という素晴らしい光景をユミルは存分に楽しんでいた。
土や石に触った手だ。
その汚れが手から母娘へと移っていき、白かったブラジャーや透き通っていたはずの素肌が土汚れを帯びてきている。それぞれの金髪も、まともに洗う機会がないせいで、艶がすっかり落ちていた。
やつれた顔で美貌も損なわれつつあった。
さらに採石場での様子を見ると、カゴへの積み込みを行う最中に、二人の周りに男達が集まる場面さえあった。
「へへへっ」
「領主様の許可だってあるんでな」
「遠慮無く休憩させてもらうぜ?」
男の群れに取り囲まれ、逃げ場もなく二人そろって触られていた。
後ろから抱きつくように、両腕を巻きつける形で捕らわれて、その上で正面から胸を揉まれる。背後に組み付く男は擦り付けんばかりに腰を動かし、明らかに尻へ股間を押しつけ楽しんでいた。
「や、やめて……」
アリシアの声がか弱い。
「まだ……作業が……」
だから許して欲しいとばかりのマリエルの声も、実に弱々しく覇気がない。
いい光景だった。
ユミルはそのまま見学を決め込んで、まさか止めに入るはずもなくニヤニヤと見ていると、状況は悪化する一方だ。
ショーツの中に手が入る。
ブラジャーを取り外され、生の乳房を直接揉まれる。
四つん這いのポーズを取らされ、肛門を視姦された挙げ句に性器を愛撫され、快楽魔法の効果があるので簡単に絶頂する。
もはや陵辱の光景に近づいていた。
男の群れが女二人を取り囲み、思い思いに恥部へ触って愛撫して、二人の感じた様子を見ながらケラケラと笑っている。いい休憩が得られたと、奴隷の身分ではそうそうありつけないご馳走で有り難いと、男達は実に楽しそうに母娘を嬲っていた。
その皮肉を彼らはわかっているのだろうか。
母娘の政治が成功して、魔力主義の撤廃が進んでいれば、向こう数年ほどで奴隷生活から解放される未来もあったかもしれない。そんな恩人になり得た王族に、奴隷自らが辱めを与えているのだ。
「ま、仕方あるまい?」
彼らは小さい頃から奴隷として生きてきた。
外の政治などろくに知らず、王族がいかに理想や正義感を抱いていたかなど知る由もない。支配者階級など皆同じと、悪い方へと盲目的に信じ込んでいてもおかしくないのだ。
「気分はどうだ? ええ? 王族さんよォ?」
「政治争いに負けるってのは恐ろしいもんだなぁ?」
「王族だろうとこんな目に遭うとは、世の中わからねーもんだ」
「おかげで俺達はいい思いをしてるわけだがな」
男達の手という手の数々に嬲り尽くされ、しかし彼らはある程度のところで切り上げる。そうしなければ、作業の成果が遅れすぎると、管理者にどんな罰を受けるかもわからない。その懲罰はおよそ虐待的なものであり、奴隷側の言い分が聞き入れられることなどまずないため、遊びすぎてはまずいという焦りもあったはずである。
そして、男達が去った後には、まるで虫の死骸でも放ったように、手足をだらりと伸ばした二人の姿が残されていた。
「まったく、いい姿だ。面白くてたまらない」
ユミルの口角は吊り上がる。
体中が汚れまみれに、下着をどちらも脱がされその辺りに放られての、愛液を存分に垂らして放心しきった姿は、まるでレイプでもされたかのようだ。
「ま、似たようなものか」
性器の挿入がなかっただけで、あれだけやられれば精神的な苦痛も大きなものになっただろう。愛液の広がりようはさながら失禁、目の虚ろぶりも魂が抜けたようだった。
二人の心は着実に死に近づいている。
夢も希望も失って、絶望に飲み込まれるのは時間の問題だった。
*
二人はそれでも、最後の最後まで希望を抱き続けようとしていた。
きっと助けは来る。
必ず逆転のチャンスは来るはずだと、そう信じながら励まし合い、身を寄せ合いながら重労働に耐え忍ぶ。痴漢やセクハラの日々に心を削られ、死んだような虚ろな眼差しを浮かべることがどんなに増えても、心のどこかにはまだ諦めない気持ちは残っていた。
しかし、一向に助けが来ることはなく、モニュメントは完成に近づく一方だった。
やがて、完成の時を迎えた。
モニュメントは腕だった。
土台から直接腕を生やして、その手には杖が握られている。
特定の人物を称えるなら、その人間の銅像を建てればいい。
腕というパーツだけを切り取って、誰というわけでもないモニュメントをデザインしたのは、誰か一人でなく、この国の全ての魔術師の栄光を象徴するためだ。魔力を持つものの輝かしさを殊更にアピールするための、逆に言うなら魔力を持たない者への蔑みの意図を裏に隠したモニュメントであった。
その式典の場に母娘はいた。
「ご覧になるといい! この貧相な奴隷と化した王族の姿を!」
ユミルは演説を始めていた。
モニュメントを背に高台へ上がった上で、その左右には首輪の付いた母娘を並べている。ユミルの握った鎖が首輪に繋がり、両手を見れば腕は手枷に封じられている。もちろんまともな衣服は着せず、ボロボロになった下着だけを着用させての、はしたなさに加えて汚らしさまで兼ね備えた格好は、王家の転落を象徴するには十分だった。
ユミルは市民に説いていた。
この二人の王族がいかに愚かな政策を試みて、その結果として捕らわれの身となっているのか。屋敷で使用人としての日々を過ごしてきたか。さらに奴隷として働いて、この魔力主義の象徴を作り出す一員となったことも強調した。
しかも、ユミルはおもむろに市民に背を向けた。
いや、母娘と向かい合ったのだ。
それぞれのショーツを脱がし、右手と左手を母娘の膣に挿入する。
「あぁ……!」
「いやぁぁ……!」
軽く上下にピストンして、たったそれだけの刺激が腰がくねくねと動き回った。甘い強制を上げ、淫らなよだれを散らして仰け反って、二人揃って簡単に絶頂していた。
そして、二人は膝をつく。
もう逆らう気力などないように、ぐったりと肩を落としてへたり込み、それと入れ替わるようにユミルは立ち上がっているのであった。
「見ろ! これが王族の姿だ! 奴隷にも等しい卑しいメスこそ、ここにいる二人の姿なのだ! もはや王族に権威などない! 我を称えよ! 王族をこの手で堕とし、栄光を穢してみせた我こそが、この国の王に成り代わる資格を持つのだ!」
その論調に市民は湧く。
集まっている人々は、誰もがそれなりの魔力を持ち、奴隷制度を土台に贅沢をしている中流以上の人間達だ。良い暮らしをしている彼らがユミルに疑問を抱くことはなく、むしろ自分達の生活を壊しかねない敵として、王族のことを認識していた。
ユミル! ユミル! ユミル! ユミル!
熱い喝采が広がっていく。
その熱気に満ちた空気の中、母娘はいよいよ希望の二文字を失っていた。
これでは……もう…………。
この場に集まっていた市民はもちろん、他の領地や王都にも、この報せは行き届く。王族二人の惨めな姿が国内に広まって、もう二度と権威が発揮できなくなるのは、もはや目に見えた未来であった。
たとえ今更になって助けが現れ、逃げ出すことに成功したとして、もう二人に国を変える力は残っていない。
夢が、目標が、完膚なきまでに叩き潰された。
魔力主義の時代は以降も延々と続いていくことが、こうして決定付けられてしまったのだ。
心の中に抱き続けたもの、辛抱強く未来を信じる気持ちをついに手放し、二人は完全なる敗北を受け入れていた。
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