息が乱れる。
まるで暑い季節の熱気に晒され、湿度による不快指数で苦しんでいるかのように体中で汗ばみながら、フォリニックは肩を上下に動かしていた。
眼前には剛直がそそり立つ。
再びベッドへ上がっていき、交わりを開始することになった二人なのだが、男がまず最初に求めてきたのは奉仕であった。ベッドシーツをそのまま足場に、仁王立ちした男の前に、フォリニックは膝を突いて座っている。
肉体を見上げてみれば、分厚い胸板や腹筋の盛り上がりで、いかに全身が鍛え込まれているかがよくわかる。身長の高さと共に、肩幅も広い男の、その股から生える逸物は、覇者の威圧感でも放っているような、圧倒的な存在感でフォリニックの視線を吸引していた。
「こんなものが……私に入っていたってわけ…………」
その言葉がそのままフォリニックの感情の全てであった。
好きで相手をするわけでもないのに、彼の性器に特別な好奇心など湧くはずもなく、フォリニックはあえて肉棒を観察する真似はしていなかった。たまたま視界のフレームに入る以外のタイミングでは、こんなところは見てすらいない。
大きいことはわかっていた。
だが、実際にまじまじと眺めてみれば、他の男性の平均など知るまでもなく、これは特別に太いものに違いないと、否応無しに感じさせられていた。反り返ったフォルムから血管を大きく浮かせ、長大さで鼻先にまで届いて来そうな逸物に、圧倒でもされているような、戦慄にも似た表情がフォリニックの顔の節々に浮き出ていた。
「気に入ったかね?」
「私が何を気に入るっていうの? こんなに太いものを咥えろなんて、無茶な注文に困っているだけよ」
フォリニックが頼まれているのはフェラチオだ。
腹の底では拒否感しかないものの、ある意味ではフォリニック達の命運を握った男の希望である。断るに断れないから体を許している中で、特別にフェラだけは嫌だというわけにもいかず、ひとまずは手を伸ばす。
「まあ、できる限りでいい。君の一生懸命なところが見てみたい」
「ますます無茶よ。愛する人でもなんでもないのに、どうやって心から尽くせっていうの」
「とはいえ、ここまでしておいて、今更になって僕の機嫌を損ねるのも、あまり得策とは言えないと思うね」
「脅しなの? 抱かせてやってるっていうのに」
フォリニックの胸中に怒りが湧く。
「では言い方を変えよう。良い奉仕が出来たら、また先ほどのようにアソコの面倒を見てあげよう」
「自分から求めるなんて、あるわけないわ」
そう鼻を慣らしてやるのだが、しかし成分は確実に効いている。ただイカされ続けた余韻が残っているだけで、休憩から今の今まで、まだ一度も触られていないアソコが、愛液を新たに分泌しているのだ。
性器が切ない。
長時間にわたって挿入が続いていたので、時間という名の魔法によって溶け込んで、その時には嫌な一体感まで湧いてきていた。だから抜けた直後には穴が寂しく感じたものだが、急に異物感がなくなることに、逆に違和感が湧いただけの話だ。
そんな感覚はすぐに収まり、休憩が終わる頃には消え去っていた。
消えたはずだった。
それが薬用酒の火照りと共に蘇り、アソコには抜かれた直後の感覚がある。ずっと密着し続けていたものが急に抜けての、穴のぽっかりと広がった中に空気が流れ込みでもするような、独特の喪失感が再びアソコに現れていた。
(ふざけないでよ)
どうして自分がこんな願望を抱かなくてはいけないのか。
挿入して欲しい気持ちなど、認められない。
自分で自分の感覚を受け入れられない。
「さあ、早く頼むよ」
「……うるさいわね。やればいいんでしょう?」
フォリニックは根元を握り、唇を近づける。
むわっと、何かが鼻孔に流れ込み、顔中の肌にも当たってきた。まるでそこだけに見えない球体が広がっていて、生温かい温度の固まりに顔を突っ込んでしまったような、不思議な湿気を皮膚に感じた。
このサークル状にカーテンの垂れ下がった空間には、相変わらず香油の香りが漂っている。
しかし、この剛直からは、それとはまた違う何かが通っていた。香水でもかけてあるのか、頭のくらっと揺れる匂いがする。不快な種類の匂いではないのだが、酔いでも回る成分でも放ってか、思考がぼやけるような気がした。
……ちゅっ、
ようやく、口をつける。
だが、触れた直後には反射的に顔を離した。ただでさえ、抵抗感を押し殺して、やっとの思いで亀頭とキスを果たしたのに、接触することで不快感がみるみるうちに広がった。接触点から顔中へと、瞬く間に何かが広がってくるように、鳥肌と嫌悪が拡散してきて、思わず顔を遠ざけていた。
「おや、ウブなことだ」
「うるさいって言ってるでしょう?」
「ま、時間はいくらでもある。抵抗があるというのなら、それだけ時間をかけて、じっくりと慣れていけばいい」
「……まったく、噛み切ってやりたくなるわ」
それは半ば本心だったが、それを実行した場合のことを想像すると、肉棒が口内へと、本当の意味で収まってくるのはぞっとしない。
フォリニックは再び顔を近づける。
ちゅっ、
やはり、それだけで顔を離した。
接触と同時に、磁石の反発力にも似たものが働いて、顔が自動的に引っ込んでいた。
「可愛いねぇ?」
男はそれを面白がり、わざとらしくフォリニックの頭を撫でて来る。そのいかにも可愛がってやろうとしてくる手つきに腹が立ち、フォリニックは即座にその手を払い退けた。
「邪魔よ」
「ははっ、怒った怒った」
怒りに対してさえ、この男はヘラヘラしている。
その態度が余計に苛立ちを刺激して、フォリニックは舌打ちする。自然と目つきは険しくなり、睨み上げながら口を近づけ、先端をペロペロと舐め始めていた。
……れろっ、れろっ、
鈴口に唾液が塗られる。
舌先が決まった動きを繰り返し、単調なリズムでペロペロと、そこだけに刺激を与え続ける。代わり映えのない愛撫だけを数分は続けた末に、やっとのことで慣れたと思って、フォリニックは亀頭を咥え始めていた。
先っぽだけでも十分太い。
フォリニックは顎を大きく開いて迎え入れ、まずは亀頭の半分だけを収めてみるが、やはり抵抗感でたまらない。純粋に顎に負担を感じることもあり、こんな男のために苦労して奉仕をするなど最悪だと思う感情は、こうしてやってみることで余計に膨らむ。
「んぅ……んじゅぅ…………」
完全に睨め上げていた。
気に入らないことをさせられて、不満でならないことを表明する目つきで、いかにも不本意そうに頭を前後に動かしている。
「んっ、んぅ……ん……んぅ……んぅ……」
フォリニックにとって、初めての奉仕であった。
抵抗や嫌悪感もさることながら、純粋に経験がないことでのつたなさも加わって、その動きは実に未熟なものとなっている。上手なフェラチオの手本など、フォリニックは知りもしないが、どうせ自分が下手なことはわかっていた。
「文句は無しよ。んぅ……んちゅっ、んぅ……んむぅ…………」
亀頭だけを唇の内側に出入りさせていた。
穂先はしだいに唾液を帯びて、その光沢でオレンジ色のランプを反射するようになっていく。
「いいとも。しかし、もっと色んなところも舐めて欲しいね」
「一体どこよ」
「横とか、玉があるだろう?」
「細かい注文ね」
気に食わないが、フォリニックはそれを行う。
握った根元の角度を変え、竿の側面に舌を這わせる。およそ半ば辺りに当てた舌先で、先っぽにかけて舐め上げることを繰り返し、反対側にも舌を這わせる。
れろぉぉ……れろぉぉ……。
と、繰り返すにつれ、どちらの側面にも唾液は染み込み、しだいしだいにぬかるみを帯びていた。
(何なのよ。この気分は……)
アソコがヒクつく。
舐めていれば舐めているほど、アソコの切なさが増していく。
フォリニックは太ももに左手の拳を置き、密かにアソコを気にしていた。何も触るわけではないのだが、きゅっと引き締まる感覚が気になるあまり、つい近くに手をやってしまっていた。
「そろそろ、玉も頼むよ」
「ええ、やればいいんでしょう? やれば」
ただでさえ、抵抗感の中でしている奉仕だ。
その上、細かな注文まで付けられて、面倒なことこの上ないが、フォリニックは玉袋の方に唇を近づけた。
「ちゅぱ……ちゅぱ……ちゅぱ…………」
吸い込んで、吐き出す。
また吸って、吐き出す。
片方に対して適当に繰り返すと、もう片方の玉にも同じくやって、どちらの玉も唾液に濡らす。ペロペロと舐めることもして、睾丸への奉仕をこなしていると、ますます肌が敏感になっていた。
別に奉仕のせいで興奮するわけではない。
薬用酒に含まれる媚薬成分は、時間と共に浸透しているのだ。その効果が出ているせいで、愛撫をされる前から皮膚が敏感になっている。かっと発熱しているような、妙な温かさが肌中に行き渡り、アソコは勝手に愛液を漏らし始める。
「ちゅぱっ、ちゅぱっ」
睾丸への奉仕をしている最中、ワレメは湿り気を増し続けた。
水を吸わせた布から絞り出しているように、少しずつ染み出してくる愛液は、ワレメの線から皮膚の表面へと広がって、ぬかるみの面積を広げている。先ほどまでの、挿入時の愛液は乾いていたのに、新しく出て来たもので濡れ直しているのだった。
(あんな余計なものを飲ませるから……)
わざわざ快楽など不要だというのに、薬用酒のせいで肉体的には興奮している。
しかも、こうして奉仕を行う中で成分の浸透が進んでいるため、効果の出て来るタイミングのせいで、まるで舐めれば舐めるほどアソコが濡れているようだ。
(冗談じゃないわよ)
本当に良い気分がしなかった。
睾丸をひとしきり唾液で濡らし、周囲への奉仕をやり尽くすと、再び咥えて欲しいとの注文を受け、フォリニックは亀頭を頬張る。その時にはカウパーが出ていたせいで、青臭い味が舌に当たって、フォリニックは咄嗟に目を瞑っていた。
凄まじい不快感だ。
間違っても惚れてなどいない、むしろ険悪な感情さえ抱く相手の体液が、ほんの少しでも口内に入って来たなど鳥肌ものだ。男がいかに精悍な顔つきで、逞しく魅力的な肉体をしていようと、フォリニックにそんなことは関係なかった。
「あむぅ……んっ、んむぅ……んむぅぅ…………」
頭を前後に動かすと、亀頭だけが唇に出入りする。
まぶたに力が入った上に、眉間にも皺の寄った表情は、いかにも我慢が現れていた。苦手で仕方のないものを無理にでも口に入れ、不快な味を堪えているような、苦悶にも似たフォリニックの顔立ちは、頬が強張り筋肉が震えていた。
「むぅ……あむぅ…………」
頭の動きに応じて唇も動く。
前に進む際には、内側に丸め込まれるような摩擦が働き、頭を後退させる際には、正反対の力で唇はやや外側へ捲れている。
だんだんと、竿まで頬張るようになっていた。
口を大きく開く負担を顎に感じて、その苦しささえも表情に表しながら、フォリニックは肉棒の半分までを口内に迎えていた。
頭が前に行くことで、根元を握った右手に唇が接触しかけ、後退すると唾液をまとった竿の表面があらわとなる。
「むぅ……ふむぅ……ふじゅっ、ふっ、むぅぅ…………」
フォリニックの奉仕はつたなかった。
初めての行為でまだまだ慣れるのに時間がかかり、動きが身についていないことはもちろんあるが、何よりも積極性というものがない。契約だから、仕方ないからしているだけの、義務的な奉仕である。心から尽くそうとする気持ちが宿ることなく、少しでも早くコツを掴もうとする思いもそこにはない。
ただただ、義務さえ果たせばそれでいい。
「ふむぅ……むじゅっ、ふじゅぅ……ずっ、ふむぅぅ…………」
言われた通りにしている以上、文句など言わせない。
それがフォリニックの気持ちであった。
最低限のことさえしていれば、特別な積極性を発揮したり、一心不乱になるような必要はどこにもない。そんな義務まではないのだから、やっているのに文句は言うな。そんなスタンスで行うフェラチオには、そもそもの慣れようとする意思もない。
「んむぅ……んっ、むぅ……ふむぅ……んっむっ、んぅ……んぅむぅ…………」
同じ動きを繰り返しているせいで、やる気のほどに関係なく、必ず微妙には慣れてくる。といった、その程度の慣れまでが関の山で、一生懸命に素早く動き、激しくしてやろうとは一切しない。
もしもフォリニックがそうするとしたら、男がそういう注文をした場合だけである。
咥えさえしていれば、義務は果たしている。
「ふむぅぅ……ふじゅっ、ふじゅぅぅ…………じゅっ、ずぅぅ………………」
しかし、いつまで我慢していればいいのだろう。
抵抗感もさることながら、顎に溜まる負担も大きい。さすがに一度吐き出して、少しは顎を休めてから、すると無言で突きつけてくるので再開する。そういった休憩と再開を繰り返し、その長い時間のあいだ、フォリニックは延々と眉間に皺を刻み続けていた。
(いつまでやらせる気よ……)
不快感に否定感。
二つの混じり合った感覚に、フォリニックは実に険しい顔をしていた。二重の我慢で眉間の皺は深まる一方で、動きは一向につたないままだ。
「ふじゅっ、ずりゅぅ……じゅっ、ずぅ………………」
腹の底では、こんな男の悦ぶ顔など見たくないとすら思っている。
その気持ちが表れての、どこか手抜きでもしたような、舌や唇を何ら使いこなせていないフェラチオは、はっきり下手だと断ずるべきものだった。素人だから、初めてだから仕方がないのは確かでも、数多くの女を知り、技巧ある娼婦の口技も体験している男からしてみれば、実際のところ物足りない。
そんな男の心境など、フォリニックにはわからない。
自分の感じる不快感だけで精一杯で、しかも義務は果たしているのだから、文句を言われる筋合いがないという考えは、決して変わることはない。
(さっさと満足しなさいよ。こっちは疲れる一方なんだから)
むしろ、満足の気配を見せない男に対して、フォリニックの方から不満を抱いていた。不満というなら、男が持ちかけてきたそもそもの交渉自体が不満だが、しかも射精の気配すらないのは腹立たしい。
カウパーの味は不愉快で、口内射精など間違ってもされたくはない。
男の射精が待ち遠しいわけでも何でもない。
それは前提でありつつも、いつまでも奉仕の時間が続くのは、疲れと不快感が蓄積する一方でたまらない。早く終わりが来て欲しい、この時間を切り上げたい。そんな思いが早く射精して欲しい考えに行き着いているだけなのだ。
「さて、そろそろ」
その時、男はフォリニックの頭に手を置いた。
大きな手だ。
元々、体格が立派なため、身長に応じて手足も長い。手の平のサイズも平均など遥かに超えて指まで長い。フォリニックの頭をがっしりと包み込み、片手だけで固定してしまうなど容易いことだった。
男の握力は強かった。
頭皮に五指が食い込んで、たったそれだけのことで、フォリニック自身による動きは一切取れなくなっていた。前にも後ろにも行くことは叶わずに、だから口に入ったままの肉棒を抜くこともできなくなって、フォリニックはすぐに男を睨め上げた。
(痛いじゃない。何のつもりよ)
抗議の視線を送りつける。
しかし、男は己の欲望を優先していた。
「んっ! ふぐっ、ふごぉっ!」
その瞬間、男はフォリニックを物のように扱い始めた。
腕力と握力を駆使しての、フォリニックの頭部をその場に固定しきった上での腰振りで、口を犯し始めたのだ。
「んごっ、んんぐぅぅ…………!」
フォリニックは目の色を変えていた。
その苦しさに、すぐに両手を腰に置き、腕力で押し退けようと力を込める。さすがの扱いに抵抗して、押して駄目なら叩いてでもと、拳で脚を打ちつけるが、男は一向に止まらなかった。
イマラチオと呼ばれる行為であった。
先ほどまではフォリニックの方から動き、刺激を与えようとしていたが、今は男の方が腰を動かし、自らのピストンによって快感を得ようとしていた。
(なにするのよ! 苦しいじゃない! や、やめて!)
フォリニックは目で訴えた。
「んっ! んんん! んんん! んんんんん!」
そうやって吐き出す声にも、抗議の意志をいくらでも込めていた。
だが、男は止まらない。
「すまないね。僕はこういうこともしてみたい男なのさ」
そんなことをいいながら、ピストンを緩めるどころか速めてくる。そうやって喉を貫いてくる腰振りに、フォリニックはますます苦しさを感じて憤り、もう本当に噛んでやろうかとさえ思い始めていた。
少し歯を立て、少し痛みを与えてやるくらいなら、もはや文句を言われる筋合いはない。
(先にこんな乱暴なことをして、物みたいに扱ってきたのはそっちの方よ!)
フォリニックは報復を試みていた。
その時、本当に噛もうとしていた。
皮膚にせいぜい歯形を付け、驚かせてやるつもりで力を込めようとしたのだが、その直前に白濁は放出された。
「――――っ!?」
そのタイミングのせいで、噛む暇などなかった。
噛むよりも、まず驚いてしまっていた。
口内に放出される青臭い味は、喉の奥まで届かんばかりに解き放たれ、頬の内側が瞬く間に白濁のコーティングを帯びていく。舌には味が広がって、口内には精液と唾液の混ざった水溜まりが完成していた。
冗談じゃない。
このままでは喉の中まで入ってくる。
いくら何でも飲むつもりはない。フォリニックは今まで以上の力で押し退くことで、やっとの思いで肉棒を吐き出すが、その直後に口は塞がれていた。男は素早く反応して、フォリニックの口を手の平で覆ってきたのだ。
「飲んで欲しいね」
吐くに吐けず、飲まなければ口を解放してももらえない。
(なんてやつなのよ……!)
ますます怒りが膨らむ中で、フォリニックはそれでも白濁を嚥下するしかないのであった。
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