目次 次の話




 教室の中、ホームルームの時間中。
 その日、生徒一人一人の机の上には脱ぎたてのショーツが置かれていた。
 かつて新入生だった彼女達も、いよいよ三年生の年を迎え、さらには卒業さえも迫った新年の新学期で、初日に行われるホームルームの内容がこれだった。
 生徒は男女共々全員が起立している。
 誰もが姿勢良く背筋を伸ばし、綺麗な気をつけを保っているが、机にそれぞれのショーツが置かれている以上、女子のスカートの中身はノーパンである。
 もっとも、この学校の女子生徒だ。
 ノーパン週間や性器検査など、羞恥心を伴うイベントに溢れた学校で、三年も過ごした女子生徒の中には、スカートの内側がすーすーする程度のことでは、もはや誰も顔色一つ変えない。
 担任が新年の挨拶を行っている。
「みんなは正月、どう過ごしていたかな?」
 そんな切り口から、担任は自分の正月について語り出す。実家に帰って、家族や親戚とどんな一日を過ごしたか。どこへ出かけて、何を買ったか。日常についてひとしきり語り尽くすと、もう卒業が近いこと、残り少ない高校生活を大切にして欲しいことを口にした上、さらに次の指示を出す。
「では女子のみんなは、一旦ショーツを穿くように」
 わざわざ脱ぐように指示されて、それをまた穿く。
 具体的な意味はなく、ただ生徒が先生の指示に従順であるか否かを見るためだけの儀式に他ならない。
 そして、儀式にはまだ続きがある。
(叩くんでしょ)
 川澄由香里は半ば確信していた。
 この学校において、女子はあらゆる場面でスパンキングを受ける。校則違反、挨拶忘れ、さらに新学期の挨拶として、様々なタイミングで機会は訪れる。
「皆さん。スカートを脱いでください」
 やはり来たかと思いつつ、由香里はスカートのホックを外した。
 今、由香里のすぐ後ろの席は男子である。
 きっと、その視線が尻に突き刺さるであろうことを予感しながら、とはいえ慣れた手つきでファスナーを下げ、緩んだスカートをすぐさま脱いで机に置く。無駄な躊躇いも、過剰な恥じらいもなく、下半身はショーツのみになっていた。

 じぃ……。

 と、後ろからの視線を由香里は感じた。
 この三年間の学校生活で、由香里の発育はさらに進んで、胸と尻はそれぞれ数センチずつボリュームが増している。腰はくびれたカーブを成したまま、身長が多少伸びた分だけ体重も多少増えたが、痩せすぎず太りすぎない健康の範囲の上で、絶妙にほっそりと、しかし膨らむべき箇所は膨らんでいる。
 由香里の白いショーツのゴムから、尻肉がぷにりとはみ出していた。
 見られていると思っていると、ゴムの食い込みにも意識がいき、由香里の脳裏には自分の尻にまつわる映像が浮かび上がった。男子の目に映る今の尻は、割れ目の溝に布を飲み込み、形をあらわにしながら肉をいくらかはみ出したもののはず。
 ゴムで潰れてぷにりとなった尻肉は、男子の興奮を煽っているに違いない。
 もちろん、男子とて気をつけの姿勢で、真っ直ぐ前を向いている。姿勢を崩したり、露骨に視線をやるわけにはいかず、眼球だけをどうに動かしてみるのが精一杯のことだろうが、きっと凝視しているはずだ。
「………………」
 誰も、何も喋らない。
 教室は静かなもので、授業中やホームルームの最中にお喋りをする生徒は一人もいない。
 男子としても、女子の露出は見慣れたもので、過度の興奮こそしない。まるで今ここで見逃したら一生機会がないかのような、露骨な必死さは誰一人として発揮しないが、とはいえ男は男である。
 誰にも咎められることなく、問題なく眺める機会があれば、当然のように見るはけだ。

 じぃぃぃ………。

 だから、視線を感じてやまない。
 もしも由香里の考えすぎで、たとえ本当は視姦などされていなかったとしても、本人が意識する以上は感じてしまう。見えない何かが尻を這い、丹念に観察してくる感覚で、細胞がざわざわと震えている。
 頬はほんのり赤らんでいた。
(まったく、最後の最後まで……)
 我ながら思う。
 こんな学校で今までやってきたのだから、慣れきってしまってもいいだろうに、羞恥心が完全に消え去ることはないらしい。慣れるには慣れても、ただショーツを丸出しにしただけで、頬が染まりかけになっているなどみっともない。
 もっと、堂々とできないものか。
 それがこの学校で培った価値観だった。
 裸であろうと、みっともない姿を晒していようと、心を強く保って気丈であり続ける。そんな強靱な精神を獲得したはずであり、だからスカートを脱いだ学校くらいて、ほんの僅かにでも頬が桃色に近づくのは、かえって格好のつかないことに思えた。
 別に、裸で堂々としたら格好いいわけではない。
 ただ、辛い状況、恥ずかしい状況でも冷静に振る舞える。そんな精神を養ってきたはずが、やっぱり下着一枚で恥じらいが湧いてくるのは、何とも言えない気持ちになる。
(でも、まあ。脱げるし)
 そうだ。
 今の自分は、ショーツだって簡単に脱いでしまえる。
 指示であったり、行事の場合にしかまず脱がず、何の関係もなしに見せびらかせば、それは単なる変態だ。変態チックな露出行為ができるわけではないのだが、厳しい指示でも我慢して堪えることは、今の自分なら問題なく行える。
 恥ずかしいだろう。顔は赤くなるのだろう。
 だが、一年生だった頃に比べれば、ずっと堂々としていられる。かつての自分に比べれば、精神は間違いなく強くなっている。
「川澄由香里、前へ」
 担任の指示が来た。
 これから、儀式が始まるのだ。
 新学期に備え、体に精神を叩き込み、強く逞しくあるための、お尻を叩くという儀式を執り行う。修行僧が受ける苦行のように、クラスメイトの見ている前で尻を晒して、ペンペンと叩かれることにより、文字通りに打って鍛えるというわけだ。
 今日の儀式は一人あたり一一分とされており、ショーツを脱ぐだけでも一分かけた上、さらに十分かけてお尻を叩く。授業時間を削ってまで行う儀式となり、午前中だけでは終わらないため、朝のうちに済ませることのできない女子は、放課後のホームルーム後に叩かれる。
 由香里は前に向かって行く。
 そして、担任の前に立つなり、宣言した。

「川澄由香里。ショーツを脱がせて下さい」

 全てのクラスメイトを背にしながら、担任と向き合う形で声を張る。
 教卓はわざわざどかしてあった。
 これからショーツの脱げていく様子を皆に見せ、尻が丸出しとなる瞬間に全員の視線を集めるため、担任が由香里の前に膝をつく。
 ぐっと、息を呑んだ。
 人が誰かに膝を突くのは、騎士が王に仕える上下関係の象徴だが、この状況でそんな優越感が湧くことはない。
 むしろ、由香里の方がショーツを取られる立場にある。
 担任の両手が腰に触れ、そのままショーツのゴムに食い込む。
 これから下着を脱がされるのは、自分の方が身分を低めている気持ちになる。腰の両側に感じる親指の感触は、すぐに皮膚へと摩擦してきた。ショーツが下がっていくにつれ、接する指も皮膚を擦って下へと動き、隠れていた陰毛やワレメがあらわとなる。
 ゆっくり、下ろされていた。
 何せ、ただ下げるだけで一分はかけるため、必要以上に焦らしてじっくりと、本当に少しずつ位置を変えている。ミリ単位のノロノロとした進行で進んでいき、やっとのことで太ももを通過していく。
 時間がかかっている分だけ、真後ろからの視線も長々と感じることになる。
 そして、ようやくショーツが足首にまで降りた時、由香里は足を片方ずつどかしていった。
 下半身裸となって、アソコをまじまじと見られる羞恥に赤らむ。
「さあ、膝の上へ」
 担任が椅子に座った。
 いつもなら教卓の下に置かれた椅子も、わざわざ教卓を横にずらしておくことで、みんなに見えるようにしてあるのだ。ここでお尻を叩かれる女子は、一人一人が必ずクラスメイトにその姿を拝まれる。
(ま、こんな学校でやって来たんだし)
 覚悟を決め、由香里は担任の膝に腹を乗せ、腹這いとなった。
 すると、セーラー服を介して太ももの熱を腹に感じて、由香里は床だけに視線を落とす。自分自身の垂れた前髪を視界に加え、床の素材を観察していると、すぐにでも柔らかな尻に手の平は乗って来た。
(拓也君……)
 よりにもよって、川島拓也が最前列だ。
 三年間の生活の中、いつの間に気の知れない仲になり、もしも告白されたら付き合っても良いような気持ちにさえなった相手の、つまり気になる男子の視線がそこにある。席でしっかり背筋を伸ばし、姿勢を正してまじまじと、すぐ目の前の距離から見ているだろうことを思うと、ますます恥ずかしくなってくる。
 それにもう一つ浮かぶ感情は、拓也の前で他の男に触られている点だった。
 校則で『儀式』を受けるのはルール上仕方がなく、規則上の義務に従っているだけである。担任にも教育の一環という意識しかないはずで、気にしなければそれまでなのだが、お尻を叩かれてもケロっとするのはなかなかに難しい。
 本当は拓也がいいのに、他の男に触れられているところを見せてしまって、申し訳ない気持ちはどうしても湧いてきた。

 ぺちん!

 平手打ちが始まった。
 最初の数秒は撫で回し、揉みさえしていた手の平は、急に離れたと思った途端に衝撃を与えてくる。尻たぶを震わせるちょっとした刺激に、由香里は軽く顔を顰めて堪え始める。

 ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、

 両方の尻たぶを叩かれていた。
 軽く小さな音が延々と、時計の秒針のようなリズムで終わりなく続いていき、まだ十秒も経っていないうちから、一体いつまで叩かれ続けるのかと、ゴールの見えない気持ちになる。

 ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、

 これを見られ続けている。
 拓也はもちろん、クラス全員の視線が突き刺さる。
 きっと学校が想定している通り、自分達の身分は教師よりも格下で、どんな指示にも全て従わなくてはならない立場であることが、心の奥まで刻み込まれるようだった。

 ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、

 一分は続いた刺激は、ふとした拍子に止まっていた。
 儀式の終わりに立ち上がり、頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございました」
 ショーツを穿かないままの姿で、お尻をクラス全員に差し向けるように礼をして、ますます身分が低下したような、立場の違いについて思い知る。
 そして、儀式が終わると黒板の前に並んだ。
 お尻を叩き終わっても、すぐに席に着くのではなく、先生の横に控えて全員の終わりまで待機していなくてはならない。
 まるで陳列だ。
 見本の展示であるように、下半身裸のままに立たされて、その間はアソコもお尻も隠すことは許されない。黒板を背にずらりと一列、前に並びきれなくなった人数は、後ろに並ぶことになっている。
 そんな列に加わることで由香里の順番は終了して、次の女子への儀式が始まる。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA