前の話 目次




 数日後、プロデューサーは言葉を失っていた。
 アイドル達のネットでの評判を確かめるため、ざっと様子を確認することがあるのだが、その際に知ってしまった渋谷凛激似動画の数々には頭を抱えた。
 そして、今日でその種類が増えたことにも、彼は頭を悩ませることになっていた。

 映像の中、フックで肛門が広がっていた。

 その中身を見せんばかりに、フック状の器具で左右に広げ、穴の奥をライトで照らした動画が公開されている。尻毛を帯びたその穴から、暗闇の奥にある桃色を照らしだし、チューブ状のカメラまで挿入していた。
 胃など内蔵の様子を視認するため、医療の場で使われることのある内視鏡カメラだ。
 まず、それが差し込まれていく。
 広がるだけ広がった肛門へと、チューブ状の先端が挿入されると、さながら尻尾を生やしたような状態が出来上がる。腸内を確かめるため、それはさらに奥までねじ込まれ、その穴がチューブを飲み込むだけの映像が数十秒は続いていた。
 そして、映像は切り替わる。
 動画のタイトルによるなら、それはS状結腸というものの観察らしい。カメラが入ってすぐの位置がまず照らされ、徐々に奥へと潜っていく。その肉ヒダの洞窟を進んで行く映像は、医療動画のようだったが、冒頭に堂々と映し出された尻や肛門のせいなのか、アダルトサイトに投稿されていた。
 動画はそれ一本に留まらない。

 肛門に指を入れ、ほじくっている映像があった。

 一人の黒髪の少女が自らの足首を掴み、尻を高らかにしたポーズで、肛門の中身を調べられている。職員の一人が尻の真後ろに立ち、カメラを持ったもう一人は、それを横合いから映していた。
 少女は全裸である。
 裸でこんな格好をさせられて、肛門まで調べられる状況は、さぞかし屈辱のはず。
 しかし、聞こえて来る声は色っぽいものだった。
『はぁ……はふぁ……あっ、んぅぅ……!』
  明らかに喘いでいた。
 肛門で感じているようにしか聞こえなかった。
『******(外国語)』
 プロデューサーには現地の言葉がわからないため、具体的な内容は掴めないが、声色や雰囲気さえ感じ取れれば、おおよその意図だけは掴み取れる。
 みんなして、凛を馬鹿にしていた。
 呆れながら笑って楽しんでいた。
『肛門に異物が入ることで、性的に興奮しているわけだね』
 日本人通訳の声が入って来る。
 その声には、ちょうど聞き覚えがあった。
 プロデューサーの前から凛のことを連れていき、審査を行った職員達の通訳として、傍らに控えていたあの男だ。あの場限りのやり取りで、お互いに名前すら知らないままだが、顔と声だけは何となく、見るか聞くかしたなら思い出す程度には記憶に残されていた。
 とういうことは、映り込んでいる職員も、はっきりと顔の映る場面は少ないが、あの時プロデューサーの前にいた面々なのかもしれない。
 字幕によって、直腸内部の解説が行われていた。
 内視鏡カメラを潜り込ませて、桃色の肉壁を明るく照らした映像に、学術的なことを述べた英字の字幕が次々と出てくるが、英語を読める読めないに関わらず、プロデューサーの目はそんなものには向かなかった。
「凛……」
 ただ被写体の少女にばかり、彼の心は向けられていた。

     *

 動画は一本きりではない。
 十分前後の内容として切り取られ、いくつもアップロードされている動画の数々は、もはや簡単に発見できた。自分自身の流出動画を確認するべく、どんなサイトやアカウントを見て回ればいいのかは、もはやとっくに心得ていた。
 そして、凛がすることは、その動画を視聴しながら思い出に浸ることである。
「私って、本当に……」
 自分の変態性について、やはり思うところのあるような、複雑そうな顔をしながらも、スマートフォンで見つけた動画サイトの映像を覗き込み、食い入るように見つめて凛はオナニーを始めていた。
 机の上に置いた画面を夢中になって凝視して、股のあいだには右手を忍ばせている。

 見ている映像は、性器に指を挿入するものだった。

 陰部にモザイクをかけていない、陰毛の生え具合も何もかもが鮮明な動画の中で、他ならぬ凛自身の穴が大きく映し出されている。画面に大きく見せているのは、主に性器の方であったが、上端部分についでのように映り込んだ肛門も、フレーム内に収まっていた。
 自分がいかに毛むくじゃらで、密林状態であるかがよくわかる。
 生え揃った毛は、アソコと肛門のあいだを繋ぐ部分にさえも及んでおり、陰毛と尻毛が繋がってさえいる始末だ。
 そんな映像の中、男の手が映り込む。
「きた……!」
 性器をほじくられた感触は、今でもはっきりと覚えている。
 まずは指先で毛をかきわけ、くすぐるようにワレメを撫でて、やがて濡れたアソコの中へと押し込んでいく。根元まで挿入した指で膣壁を擦り抜き、ひとしきり探るのに使った時間は、現場においては数分だった。
 この動画の長さも、五分に満たないものではあるが、その時の凛にとっては十分にも二十分にも感じられた。
「こんな風だったんだ……はぁっ、あぁ……!」
 動画の中の、過去の出来事と同時に、現在の凛も指を動かし、自らのアソコをほじくるように快楽を楽しみ始める。
 審査の最中、凛は始終あのポーズを取り続けていた。
 周りの様子は股越しに見える逆さまの光景だけで、自分では見えない箇所がどんな風に触られていたかは、気配や感触だけで感じ取っていた。それを具体的な映像として見ることで、確かな手の動きを確認するのは、なかなかにオツなものである。
 記憶が鮮明に蘇り、感度が増す。
「あぁ……あっ、あぁ……わ、わたし…………」
 不意に画面が暗くなる。
 それは一瞬、周りで人が動いたせいで照明が遮られ、影で映りが暗くなってのことだったが、その瞬間に自分自身の顔が反射した。黒い画面は鏡のように反射しやすく、だから動画に熱中する自分自身の、ヨダレさえ垂らしかねないだらしのない表情がわかってしまった。
 あの時も、自分はこんな顔をしていたのだろうか。
 自分のみっともなさを思うと、あの時の周りの反応も当然に思えてくる。

『あぁぁぁ…………!』

 画面の中で、腰が震えた。
 それはほじられている最中の快感で、絶頂したためのものであった。
『******(外国語)』
『******(外国語)』
『******(外国語)』
 通訳の彼は、それら全ての言葉を訳したりはしなかった。
 ただ、こうとだけ教えてくれた。

 ――絶頂までするなんて、って風に呆れているよ。

 そして、その空気感は、言葉がわからずともひしひしと伝わっていた。
 あーあー、一体何をやっているんだか。
 潮を噴いた直後の凛は、そんな空気感の中で、気まずいような恥ずかしいような思いをしていた。その時の気持ちも鮮明に思い出せるが、何よりも今の凛が気にするのは、カメラの視点で見れば潮吹きはこんな風であったのか、というものだった。
 プシャっと、カメラに向かって飛んで来たことで、何滴かの滴がレンズに付着し、その箇所だけが像を歪めていた。

     *

 また、それは警察が撮った映像だった。
 取調室で通訳と凛が交わり、その際の様子を監視カメラで映したものが、多少の編集をかけて公開されていた。顔に薄いモザイクをかけただけで、凛が全裸土下座をしている様子に、フェラチオやテーブルでのセックスなど、数々の場面を見栄えの良いシーン毎に切り集め、それは長編動画としてアダルトサイトで公開された。

「ふむ……」

 そして、彼はその購入者だった。
「君の話は色々と聞いているよ。是非、次のライブは任せたい」
「ありがとうございます」
 彼は企画関係の人物として、渋谷凛を前にしていた。
 テーブルをあいだに挟み、プロデューサーを隣にした凛と打ち合わせも兼ねて話をしたが、その間にも頭をチラつき続けるのは、凛が必死に奉仕をしていた映像だ。
 ネット上では『激似』と言われ、本人の映像ではないことにされてはいるが、だとしても見る人間見る人間の大半は、渋谷凛だと思いながら使うのに最適な動画として、数々の激似を視聴している。
 彼もまた、その一人だった。
(真実を確かめる機会が欲しいものだね)
 腹の底には目論見を抱えつつ、今日のところは話を済ませ、そこで凛やプロデューサーと別れることとなる。
 仕事を終え、部屋で夜を迎えるなり、彼は再び動画を見た。
 今日会ったばかりの本物の渋谷凛を思い出しながら、激似動画の中にいる少女の、本人にしか聞こえない声で耳を慰め、オナニーを楽しむのだった。

     *

 色んな男の視線が変わってきた。
 それは今まで感じることのなかった種類の視線だ。
 凛のことを何かと見比べ、頭の中で比較しているような目や顔に、しょっちゅう出会うようになったのは、きっと流出動画が増えてからのことである。警察署での出来事までアップされ、それを見ている人間は、業界関係で出会う相手にも多くなっているのだろう。
(まずいんじゃ……)
 危機感を胸にしつつ、その一方でスリルも感じてしまう。

 この動画、君だよね?

 などと、また尋ねられる機会があったら。
 一体、その時はどうしよう。



 
 
 

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