目を覚ました時、九重エリサはまたしても拘束されていた。
物理的な拘束具は一切なく、魔法による目には見えない拘束である。姿勢を直立不動に固定され、走ることも座ることもままならず、エリサは闘技場の中心に立たされていた。
客席にはまだ何十人もの客がいる。その視線がこぞってエリサのことを視姦して、ニヤニヤと楽しんでいる。
だが、そんなことより、エリサは目の前の男に敵意を向けた。
「お目覚めですか」
すぐ真正面には支配人が立っていた。
「……ふん」
「おや、元気そうで」
ニヤニヤしながら、支配人はその両手でエリサの胸を揉んでいる。豊満にもほどのある球体は、決して手の平の内側に収まることはなく、指を食い込ませれば隙間からいくらでも乳肉はハミ出てくる。
指の強弱によって、そのはみ出る具合が収縮を繰り返していた。膨らんでは縮み、膨らんでは縮み続けていた。
「何が元気なものか。いつまでこんな真似を続ける。私を永遠に繋ぎ止めておくつもりか」
「さて、永遠かどうかは私自身にもわかりかねます。人の心は移ろうものですから」
「今すぐに気を変えて、私を解放しろ」
「今はそんな気分じゃありませんね」
「だろうな」
「ま、それよりも、こちらをご覧下さい」
支配人は目の前から体をどかし、指をパチンと慣らしていた。
すると、鏡が現れた。
魔法で作り出したその鏡は、物質的なものではない。魔力を板状に可視化させ、表面に光を反射する特性を付与することで、支配人の能力によって生み出されたものである。
そこに映った自分自身の姿を見て、エリサは驚愕した。
そして、憤怒の形相を浮かべていた。
「き、貴様ァァァ!」
エリサのチャイナドレスには、ありとあらゆる文字が書かれていた。
それらの文字は、もちろんこの大陸で使用される言語だが、その意味合いはエリサを侮辱するものだった。
「雑魚」「負け犬」「無能」
「淫乱」「スケベ」
「牛乳女」「一族の恥」
それらの単語が体中に書かれていた。
股のひらひらとした部分に、胸の部分に、尻の上にも書かれていた。
「特別な塗料で書かせて頂きました。それを落とすには、専用の薬を溶かした水に五十年は漬け込んでおく必要があるとか」
文字を落とす方法を口にはしながら、実質的に落ちないと言っているようなものだった。
「よくも! よくもこんな侮辱を! 私達がどれだけ!」
「侮辱しているのはあなたでは?」
「何ィ!?」
「ほら、ご覧下さいよ」
支配人は再び指をパチリと慣らす。
すると、鏡が映像へと変化した。
可視化した魔力の特性が切り替わり、記録を再生する術式へと置き換わったのだ。そこに流れるのはエリサの披露していた試合ぶりで、いくら攻撃を繰り返しても、一発たりともチンピラに当たっていない様子がそこにはあった。
そして、それを見て初めてエリサは気づいていた。
「わ、私が……弱い……?」
強く衝撃を受けていた。
長年の修行で磨き上げた肉体が、あんな動きをするはずがない。いくら一年かけて鈍り続けた体とはいえ、本当ならもっとマシな動きができるはず。しかし、映像として流れるものを見ていれば、嫌でもエリサにはわかってしまう。
自分がいかに見当違いなキックを放ち、最初から届きもしないものを避けられて、それで驚いていたのかを見せつけられ、そのショックは大きかった。
「ほら、侮辱しているのはあなたの方ですよ? あなたのこの無惨な試合ぶりこそが、歴代一族全員を侮辱してはいませんか?」
支配人の手が伸びて、またしても胸が揉まれる。
エリサはそれに抗えない。
動かしたくても、体は動いてくれなかった。
「貴様ぁ……!」
憎しみが膨れ上がる。
今のエリサには、もう催眠魔法はかかっていない。思考阻害が解けたおかげで、あのチンピラが本当は大したことがなく、向かい合った際に行った見極めは、決して間違っていなかったことを悟った。
そして、それ以上に自分が弱くされていたと理解した。
身体能力の低下を解くというのは嘘だったのだ。
「ではこのたびの敗北を記念して、この場で謝罪ショーを披露しましょう!」
支配人が観客に向かって両手を広げ、高らかに宣言する。
その瞬間、エリサの身体は持ち上がった。
マジックハンドだ。
目には見えない、魔法によって精製された幾つもの透明な手が、エリサの肩や脚を掴んで持ち上げている。エリサ自身にも浮遊魔法はかかっており、身体はしだいしだいに宙へと上がる。ちょうど支配人の背丈を超え、そこでぴたりと上昇が止まったかと思いきや、ポーズは強制的に変えられる。
拘束魔法を利用して、エリサを好きなポーズで固めようとしているのだ。
脚は広げられ、強制的なM字を披露させられ、その上で布はどかされアソコが衆目に晒される。恥部に大衆の視線が集まることで、大いに羞恥心を煽られて、エリサの顔は赤く燃え上がっていた。
「ではエリサさん! そのおっぴろげのポーズのまま、一族の名を汚した罪について、ここで謝罪を行って下さい!」
怒りで頭がどうにかなりそうだ。
一体、どこまで人を貶めれば気が済むのか。
どうして、ここまで尊厳を奪う方法を思いつけるのか。
「誰が……そんな下らない謝罪など……」
「ほう? では謝る気になるまで……」
支配人はほくそ笑んでいた。
その怪しい笑みは、まるでエリサが自分の思い通りになることを確信しきっているかのようで、不気味に思えた次の瞬間――
ぺちん!
見えない手に、尻が叩かれた。
「……くっ!」
歯を食い縛る顎に必要以上の力が籠もり、エリサの形相はより強張る。
ぺちん! ぺちん! ぺちん!
最悪なことに、気持ち良かった。
尻に走る衝撃は、皮膚の内側で快楽へと変換され、叩かれるたびにアソコがキュっと引き締まる。下腹部の奥が熱くなり、見えない何かが弾けそうな感覚に見舞われる。
媚薬の効果は、まだ残っているのだ。
(まずい……!)
このまま叩かれ続ければ、一体どうなってしまうのか。
その予感に戦慄した時には、もう遅いのだった。
「……くっ、くあぁぁぁ!」
エリサは潮を噴き上げた。
「おやおや! 余計に恥をかきましたね? ますます一族の名が穢れましたよ?」
ちょっとした噴水のようにして、ぷしゃっと上がった愛液は、地面に多数の水滴の染みを作り上げていた。
「さあ、謝罪を!」
「黙れ! 何が謝罪だ! お前は万死に値する!」
「まだ謝りませんか! では!」
次にマジックハンドが動く時、今度は膣に指が潜り込んでいた。見えざる指によるピストンは、瞬く間に愛液を掻き出し始める。アソコだけに留まらず、乳房にも二つの手が食らいつき、指が活発に踊っていた。
尻も見えない手に撫でられ、うなじもくすぐられている。
肩も、腰も、頭も、背中も、あらゆる箇所を撫でられて、身体の中に愛撫を受けていないパーツが一つもなくなる勢いだった。
「んぅぅぅぅ………………!」
エリサはいとも簡単に絶頂していた。
二度目の潮吹きは先ほどよりも一層派手で、大胆に上がった噴水でより遠くにまで水滴の染みがつく。
「さあ、謝罪を!」
「うるさい!」
「ならば続行です!」
「んぅぅぅぅ! んぁあああああ!」
エリサは延々と辱めを受け続けた。
乳首を弄る指先で、乳房に激しい快楽電流が走っていた。肩やうなじをくすぐられてさえ異常なほどに気持ち良く、クリトリスを弄られた時などには、快感で身体の一部が弾け飛ぶような錯覚さえ覚えたほどだ。
それほどの激しい快感に翻弄され、エリサは謝罪を拒否するたびにイカされていた。
「今度こそ謝罪を!」
「い、いやだ……! うひぃぃぃぃ……!」
喘ぎ方も、首を上向きに反らしてイク姿も、何もかもが無様であった。
そんな無様を晒しておきながら、なおも気丈さを保とうとする姿は、観客にとっても支配人にとっても滑稽なものでしかなかった。
「さあさあ!」
「い、いやぁ……! あぁぁぁ…………!」
「どうします!」
「んんんんんんんんんんん!」
謝罪の要求は、もはや絶頂の前振りと化していた。
支配人の腕を広げて周囲を煽り、観客の興奮を煽ろうとするパフォーマンスは、プロの動作として会場の熱気を上げることに一役買い、その都度その都度、客という客の視線がエリサの絶頂を期待するようになっていた。
そして、それが五回も六回も続くうち、だんだんと増えてくる。
そろそろ、本当に謝る姿が見たい。
いい加減に折れて欲しい。
そんな思いの客が増え、そんな空気が広がり始める頃、まるで見計らったようにエリサの心も限界を迎えようとしていた。
「今度こそ謝りますか?」
「いや……だ…………あっ! あぁぁぁぁ………………!」
その拒否と、直後の絶頂は、エリサの行う最後の抵抗だった。
そして、またしばらく愛撫は続く。
乳首を転がし、アソコには指のピストンが、さらにはクリトリスへの愛撫までもが行われて、肉体が次の絶頂へ向けて高まっていく。
またイカされる。
そのことへの危機感に、エリサは思わず夢中で口走っていた。
「あ、謝る! 謝罪する! だから、止めてくれ! 下ろしてくれ!」
エリサ陥落の瞬間だった。
観客は静まっていた。
会場全てが静かな熱気に満ち溢れ、エリサがこれから行う謝罪の言葉に全員で耳を傾けようとしている。一片たりとも聞き逃すまいと、急にしんと沈んだ会場は、エリサがどんな無様な台詞を吐くかという歪んだ楽しみを共有していた。
「何を謝るのです?」
「い、一族に……侮辱を……」
「人を殺すのも悪いことでしょう?」
「は、はい……その通りです……!」
「このカジノにやって来たのも、私を殺す可能性があったからでは?」
「その通りだ……可能性は、あった……巷に流れる噂が事実だったら、その時は…………」
「なるほど、ではそれらの謝罪をお願いします」
これを最後に、支配人もまた口を閉ざした。
後に流れるのは沈黙だ。
一人一人がエリサの謝罪を待ち侘びて、その言葉が吐き出される瞬間を待ち侘びる。楽しみを前に誰しもが唇を引き締めて、耳に神経を集中している。
「わ、私は……」
拡声魔法で必要以上に声が響く。
空気はより変化していた。
「私は、支配人を殺していたかもしれない…………」
どこまでも、静寂だった。
物音一つない、ピンと張り詰めた静寂であればこそ、そこに唯一存在しているエリサの音はよく響く。静けさとは対照的に、エリサの声だけが大きく耳にうるさい。
だが、それを不快に思っている者は誰もいない。
むしろ、歓喜を膨らませていた。
気丈だった女の屈服は、ここに集まる客にとっては、どこまでもエンタメの一種に過ぎない。見世物として消費して、満足感を胸にする。エリサの存在など、この場においてはその程度のものでしかない。
「数多くの人を殺した。そして、このような恥を晒し、無様な姿まで見せてしまい、一族の名を地に貶めてしまった。こんな風に捕まって、辱めなど受けたのは、歴代でも私だけだ……」
謝罪は強要されたものである。
しかし、唯一自分だけが囚われて、歴史に泥を塗ってしまったことへの思いは、エリサの心からの声だった。
「どうも申し訳ありませんでした!」
エリサは叫んでいた。
いっぱいいっぱいだった。
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」
ここまで延々と辱めを受け続け、限界はとっくに来ていたのだ。
エリサはそれを吐き出している。
股を広げたみっともないポーズも忘れ、無我夢中で大声を出して発散している。それで心の曇りが晴れるわけもなく、後に残るのは後悔や屈辱の念に過ぎないが、それでも今だけは叫び続けた。
『九重エリサ! もはや心まで陥落したといってもいいでしょう!』
実況が宣言する。
この瞬間、客から見たエリサの存在は変化していた。
気丈に振る舞い続ける女から、もう陥落してしまった女へと、その商品としてのラベルが貼り変わったのだ。
それにより、今後の扱いに何か変化があるかもしれない、
客の寄せ方が変わるかもしれない。
今後の未来はまだわからない。
ひょんなことから脱出の機会が見つかるかもしれないが、そんなことはなく永遠にここで暮らして、一生を終えることにもなるかもしれない。
どちらともつかない未来に対して、エリサの心には暗雲が立ち込めていた。
大声で叫んだところで、それで何かが晴れるかといったら、せいぜい気休めに過ぎなかった。
第5話 無念の謝罪
第4話 無様な試合 司波深雪の羞恥体験!座薬とお尻ペンペン
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