モスティマが犯されている光景など、信じられるはずがなかった。
……ありえない。
およそ起こりえないはずの、現実離れしたものを見たように、目の前の真実を即座には受け入れられない。絶句したまま固まって、指一本さえ動かすことができずに立ち尽くす。受けたショックで全てが吹き飛び、エクシアの頭の中は真っ白だった。
中年の男が後ろから腰を振り、四つん這いのモスティマを貫いている。施術用のはずのベッドで両手をつき、白いシーツを握り絞め、首や背中を反らしながら喘いでいる。
「あっ! あん! あん! あん! あぁん! あぁぁん!」
モスティマのこんな声を生まれて初めて聞いた。
「ああぁ……! あっ、んぁっ、あっ、んぅぅ…………!」
快楽に翻弄され、激しく髪を振り乱す。
掻いた汗で髪が肌に張りついて、全身から色気を放つモスティマの姿を見れば見るほど、ショックで何も頭に浮かばない。
呆然と立ち尽くし、信じられない光景に視線は釘付けになっている。
だが、心がその光景を受け入れていない。
「あっ、あぁぁ……! あぁぁ……!」
モスティマのあんな姿など、想像さえしたことがなかった。
しかも、モスティマを犯しているのは、およそ何の力もなさそうな中年だ。戦いに長けた覇気などなく、修羅場を見て来た者の風格もない。言ってしまえば強そうでも何でもない、そこらの中年にしか見えない男がモスティマを翻弄している。
パン! パン! パン! パン!
と、腰を打ちつけることで響く打音は、一定のリズムを刻む。
「いいぜいいぜ!」
「最っ高!」
「姉ちゃん! 鼠王とやり合ってたよな!?」
「あの戦い、目撃したぜ?」
「あんだけ強くても、チンポには弱いんだなぁ?」
あろうことか、観客まで集まっている。
施術用のベッドを舞台として、それを鑑賞するための客席が用意され、それが男という男の数々によって埋まっている。誰も彼もが陵辱ショーに前のめりに、興奮で鼻息を荒げながら楽しんでいる。
この観客の存在こそ、非現実感を強めていた。
モスティマが犯されている上に、それが見世物として観客に消費されている。およそ起こりえることとは思えない事態が起きてしまっている。見れば見るほど衝撃は強く、長らく頭を真っ白にしていたエクシアは、やっとのことで放心から立ち戻る。
「なんで? なんでモスティマが?」
まるで想像がつかない。
一体どんな出来事があったら、モスティマがこんな扱いに堕ちるのか。
「モスティマさんは客として通っているだけですよ?」
と、女性は言う。
「客って、ありえないでしょ!? こ、こんなの! お金を払って受けるサービスなんかじゃ……!」
「最高の快楽ですよ? 誰よりも優れたテクニックで、いかなる女性でさえも陥落させる。一度でも彼とセックスすれば、もう一度したいと思うようになってしまう。そういう魔力が彼にはあるんですよ」
女性はそう語ってほくそ笑む。
「い、いや……そんな……いくら上手いからって……」
エクシアは女性の言葉を咄嗟に否定しかけるが、いくら否定しようと思ったところで、現にモスティマはああなっている。
「あぁぁぁ……! あっ、あぁぁぁ…………!」
絶頂していた。
中年が腰を押しつけ、モスティマの全身は痙攣する。尻尾がピンと長く伸び、背中も首も大きく反り上がり、何秒もかけて震えた果てに脱力する。力の抜けたモスティマは、尻だけを高らかにぐったりと、顔も胸もシーツに押しつけへたり込んでいるのだった。
休むことを許さないかのように、中年はモスティマを抱き起こす。
そして、仁王立ちした上で自分を向かせ、口元に肉棒を突きつけると、コンドームを外したばかりの白濁にまみれた竿にモスティマは奉仕を始める。周りに付いた汚れを舐め上げ、亀頭を頬張り頭を前後に動かしていた。
「モスティマ…………」
ショックでならない。
モスティマがこんなことを……。
(本当に好きで通ってるの? 脅されてるとか、そういうことじゃないの?)
脅す? モスティマを?
何らかのネタを握られて、従わされるモスティマを想像できない。かといって、女性が言うような快感に堕とされた結果というのも納得し難い。
だが、他にどんな理由があったら、ああなるのか。
何も考えつかない。
とにかく、ありえない……ありえない……。
「モスティマ……」
何故、どうして。
そんな疑問をぶつけたくてたまらない。
その時だった。
「あん? あれって」
「確か……」
客席に座る男達の、いくつかの頭がエクシアを振り向く。エクシアの存在に気づき、そのざわめきが広がりつつあるのだった。
「え、エクシア……?」
「なんでここに?」
「もしかして、サービスに興味でも持って?」
「おおっ、ってことはエクシアのエロい姿も拝めちまうのか?」
男達はエクシアの存在に盛り上がり、期待感を膨らませる。向けられる視線の数々には、あらぬ欲望が存分に込められていた。
「ちょっと待って……あたしは……」
そんなつもりで来てなどいない、当たり前だ。
ただ、モスティマの行動が気になっただけだった。
モスティマの気に入っている店だというなら、自分も試してみようと思っただけだった。
「……え、エクシア?」
そのモスティマと目が合った。
客席のざわめきで気づいてか、ふとした拍子に横を向き、するとその視線がエクシアと重なり合っているのだった。
お互いに呆然としていた。
真っ白になり合いながら、二人は長らく見つめ合っていた。
*
モスティマは快感に堕とされていた。
中年とのセックスがいかに気持ち良く最高であるか、散々に教え込まれた果てに、この店に通い始めていた。
どうしても疼いてしまう。
わざわざ店に通うような真似などすれば、それこそ中年の思い通りだとわかっていながら、快感を忘れられない。頭の中からマッサージ店のことを振り払い、何とか忘れようとしてみても、ふとした拍子に脳裏に浮かび、そしてアソコが引き締まる。
どうしようもなくムラムラして、我慢できずにオナニーをするのだが、溢れる性欲を自分だけでは処理できない。肉体が求めているのは、こんな指だけの快感ではない。中年から与えられるもっと多大なものなのだ。
最初はマッサージ店の近くに行くだけで、思い直して帰っていった。
二度目は入り口の前まで来て、やはり思い直して帰っていった。
三度目はセックスをした。
この店は確かに媚薬を使っている。アロマポットから漂う香りと、使用するオイルの中には、性的興奮を煽る成分が含まれている。モスティマが快感に翻弄されたのは、もちろんそのせいも大いにあるが、きっと媚薬などなくとも大声で喘いだだろう。
あの中年は上手すぎる。
セックスも、マッサージも、神経の反応を全て読み尽くしているように、的確にツボを突いてくる。ひとたびマッサージが始まれば中年の思い通りだ。
数日間の我慢を挟み、やっとありついた快感は本当に凄まじかった。
すっきりとした顔で店を出た後、結局は中年の思惑通りになってしまったことを後悔して、今度こそ忘れようと努めてみる。
……駄目だった。
どんなに忘れようとしてみても、一日も経てばムラムラが収まらなくなり、体が悲鳴を上げ始める。オナニーなど気休めにしかならず、店に行かなければ満足できないと感じて行ってしまう。
やがて通い詰めるようになり、今日も中年の思いのままに抱かれていた時、モスティマは強い衝撃を受けていた。
「エクシア……?」
モスティマは呆然としていた。
エクシアもまた、信じられないものを見る目でモスティマを見ている。
「どういう……こと……?」
「エクシア……これは…………」
何の言い訳も出て来ない。
ここがどんな店かも知らずにのこのこと訪れて、弄ばれた挙げ句にセックスがしたくて通っている。中年との交わりを求めて予約まで入れていることなど、とてもでないが口には出来ず、だからその先の言葉が続かない。
呆気に取られ、何の言葉も出せずにいるのはエクシアも動揺だった。
その時、エクシアの背後に影が迫る。
「エクシア! 後ろ!」
モスティマが声を荒げた時には、もう二人の男がエクシアに武器を突きつけていた。後ろから背中へとボウガンを向けられて、エクシアは両手を挙げていた。
「はははっ、お仲間がやって来ますとは」
「エクシアを離してもらえると嬉しいかな?」
モスティマは咄嗟に中年を睨め上げる。
それまで口奉仕をしていたモスティマは、自然と肉棒を見上げた形となる。顔に棒状の影を受けつつ、モスティマは肉棒の向こうにある中年の顔だけに視線を注ぐ。
「しかし、モスティマ様。エクシア様もマッサージに興味を持たれたのでは?」
「そうだとしても、この店はオススメしないね」
「いえいえ、せっかくです。エクシア様にも私のマッサージを受けて頂きたい」
「……待って、それは困る」
モスティマは声を低める。
一度でも中年と交われば、もう二度と忘れられなくなる。どれだけ忘れようとしてみても、気づけばこの店のことを考えていて、最後にはやって来てしまうのだ。
エクシアをリピーターにさせるわけにはいかない。
「では、こういうのはどうでしょう。モスティマ様。これから再びマッサージを行います。絶頂を我慢できたら、エクシア様には手を出さないことと致しましょう」
「へえ」
「いかがなさいますか? モスティマ様」
勝ち目など感じない。
だが、今のモスティマは手元に武器などなく、何よりも絶頂の連続で体力を奪われている。なおも元気は残っているが、肉体は敏感そのもので、風にさえ触れたくないほど感じやすい。
何度も何度も真っ白になり、快感に晒され続けた頭も、今は回転が鈍い。脳が鈍れば体も鈍るものであり、とても万全とはいえない。
中年には戦闘力などないだろう。
しかし、エクシアの背後にいる二人の店員は、小競り合いくらいはできそうだ。客の中にも腕に覚えのある者がいるだろう。問題なく戦える状態なら、決して物の数ではないが、満足に動けそうにない今の体がもどかしい。
続きがしたい、もっとイキたい。
エクシアに武器が向けられているというのに、体の方は快感を求めている。
(まったく、はしたないなんてものじゃない)
自分自身に対してほとほと呆れ、ため息をつく。
(なんとか、耐えてみるさ)
中年のやり方はわかっている。
もしかしたら、意外にも耐えられるかもしれない。
耐えてみるしかない。
「わかったよ。我慢してみせればいいんだね?」
「ええ、そうですとも」
「そろそろ慣れてきたからね。きっと、なんとかなるさ」
「ではモスティマ様。始めていきましょう」
そして、始まるものはマッサージだ。
決して明快な愛撫ではない。乳首を責めるわけでも、クリトリスを弄るわけでもない。マッサージの範疇に収まるタッチで、モスティマの体中が解きほぐされることとなっていく。
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