ところで、先ほどの臣下がウェインに伝えてきた内容は、女性特有の感染症が流行る兆しありというものだった。
(いやいや、勘弁してくれ)
病気などという天災で国民の大半を失うのは真っ平である。
しかし、幸いのところ、医師によるなら表皮に予め症状の予兆が現れ、早期発見を治療できるという。逆に発見が遅れれば、今の医学では助かる見込みはほとんどない。
(となれば、早期発見の手立てを講じるのみ!)
とまあ、それはわかっている。
(それが面倒臭ぇえええええ!)
これだ。
厄介な仕事が現れて、ウェインは早速頭を抱えていた。
(冗っ談じゃねーよ! 何!? 流行病って! 嫌がらせだろ! 対策するにしたって、ナトラの限られた医者を配備して? 体勢を整えて? けど流行具合によっては、うちのリソースじゃとてもカバーしきれねーぞ!)
その感染力に猛威を振るわれては、ウェインがどれほどの手腕を発揮しようと、関係無しに国民をやられていく。
(ま、とにかくだ。直ちに対策整えて、やれることはやるしかないよな)
ウェインは既に悪い想像を膨らませている。
もし、どう足掻いてもナトラの国力では防ぎきれないほどに流行ったら、国は何をやっているのか、王子は何をしているのか。国民の怒りが爆発して、その矛先が自分に向けられる。行き着く先はクーデターに違いない。
(頼むからそもそも流行らないでくれよ?)
願ってみたところで、流行る時は流行ってしまうだろう。
そこで、まずは定期的に城内の身体測定や健康診断を行うことを決定した。流行病の兆しが過ぎ去り、心配がなくなるまで、期限は仮に無期限としつつ、いずれは廃止することを前提に仕組みを作る。
上に立つ人間がやられては、下の者を守りようがない。
(つっても、あれだっけ)
感染症は主に女性にかかる。
表皮の観察によって早期発見が可能なのは助かるが、その発見方法がまた問題である。
(乳房? 肛門? 性器? なんで!?)
ウェインはやはり頭を抱えた。
(なーんでそういう場所の検査を強要しなくちゃいけないんですかああ!? 問題大有りじゃありませんかあああ!? 嫌がらせか何かですかああ!?)
これが天から降って湧いた嫌がらせでなければ何だというのか。
いくら必要な行為だからといっても、女性からの反発は必至である。ましてフラーニャにまで恥ずかしい思いをさせるのは本意ではない。本当に本意ではないのだが、だからといって死なれては元も子もないわけだ。
(こうなったらさ、あれしかなくない?)
ウェインはニニムの顔を思い浮かべた。
(だよな! それしか無い! やべぇ! 俺マジでいい案を思いついちゃった!)
そのアイディアがニニムにとっては新しい災難になるのは言うまでもない。
◆◇◆
ウェインは城内の者を集めていた。
勤めている女性から選出した代表達と、医学に関わる有識者を場に揃え、傍らにはニニムを控えさせている。
「諸君らも聞いての通り、ナトラには流行病が流行する兆し有りと、専門家による予測が立てられている。これに迅速に対処するため、早期発見の仕組みを作りたいわけだが、そこに問題が生じることはご存じの通りだろう」
ここに集めた人間には、今回の流行病に関する基礎知識を事前に学んでもらってある。
よって、恥部を調べる必要性自体は、誰しもが理解しているのだ。
「そこで、まずはこのニニムをテストケースとして、実際に健康診断を実施していく。検査にまつわる必要な行為は避けられないが、その上で、どのように配慮し、どのように仕組みを形作っていくべきか。皆に案を出してもらおうというわけだ」
もっともらしいことを重々しく述べ、集まる皆からも指示が集まる。
(さすがウェイン殿!)
(よく考えていらっしゃる!)
(己一人で抱えず、皆の力も借りようとするその姿勢!)
(いやはやお見事!)
忠誠心の厚い者は、その心中でひたすらウェインを持ち上げている。
だが、実態はこうだ。
(やっべええ! 俺頭いいわ! ニニムを合法的に弄べる最っ高のアイディアじゃん!)
表向きにはそれらしい理由を整え、周囲の理解まで得ることで、逃げられない雰囲気を形成していく。これならニニムに拒否の選択は取れず、国民のためという大義名分の元、この場で裸にならなくてはいけなくなる。
「今回はテストケース故、特別な配慮は考えていない。実際に仕組みを導入するにあたって、裸体での検査を実施した場合の状況を皆に見てもらうこととする」
ウェインはいかにも重々しく、苦渋の決断であるかのように語っていた。
「とても心苦しいが、ニニムには既に合意を得ている」
(合意なんてしてないわよ)
「私の補佐官だからといって、遠慮はせず、担当の者達にはじっくりと然るべき観察を行ってもらいたい」
(ウェインの変態)
隣から突き刺さるニニムの視線が痛い。
だが、やってもらわねば困るのだ。
「早速ニニムには服を脱いでもらうこととする」
ウェインが目配せを行うと、テーブルに置いたカゴに向かって、ニニムはすぐさま脱衣を開始していた。
(だよねー! そうそう! 時間をかけたりせず、素早くスムーズに脱がないとねー!)
これは仕事の一部であり、公的な顔で振る舞わなくてはいけないのだ。
やたらに躊躇い、時間をかければ、業務に支障をきたすことになる。
今のニニムは私情を押し殺し、さも躊躇いや抵抗感など感じていないように脱いでいこうと努力していた。震えた挙動を抑え込み、手早く手袋を外し、胸のリボンをほどく姿がたまらない。
全員の視線がニニムに集まっている。
男女問うことのない、この場に集まる限りの全ての顔がニニムを向き、ニニムのスカートを脱ぐ姿に注目している。ガーターベルトを外し、靴下を脱ぎ、ショーツを下げる姿をまじまじと見つめている。
見る間に全裸となったニニムは、顔中が真っ赤であった。
唇の周りにやけに力がこもったせいで、顎にシワが深まり強張った表情の、滑稽な感じが実にたまらない。
「身体測定から始めていこう。皆、頼むぞ」
「は!」
計測担当の者達が敬礼する。
「ではニニム殿」
「こちらへお願いします」
ニニムは促されるままに歩んでいき、その先にある身長計へと上がっていく。柱に背中を付けた瞬間の挙動にウェインは燃えた。
(おお! これこれ!)
二つの拳が腹の上に置かれていた。
たったそれだけの挙動だが、身長計においては背筋を伸ばし、きちんと両手を下ろした姿勢で計測を行う必要がある。ニニムは今、これだけ数多くの視線を浴びることで、隠したくてたまらない気持ちをありありと示したのだ。
本当は片手を乳房に置き、もう片方はアソコに置き、肝心の部分を視線から守りたい。
しかし、今はプレイによる裸ではない。
(そう! 職務上の行為!)
故にニニムは真面目にことに当たってしまう。
当たらざるを得ない。
流行病の兆しそのものは真実だ。早期発見の方法が表皮の観察にあることも真実だ。だったら、ニニムもきちんと真剣な気持ちで計測を受けるしかなくなる。多少の疑問はあったとしても、一度押し通した方式には、そのまま則るしかないという寸法だ。
(いいぞいいぞ? その調子で、もっといい感じの姿を俺に見せてくれ!)
ニニムは両手を下に下ろして、背筋を伸ばす。
(ほーら! みんなが見てるぞー!)
ニヤニヤしながら見ていると、ふとした拍子に目が合った。
そして、ニニムは顔の赤らみを強くして、恥ずかしそうに目を逸らす。
(うおおお! 今のいいわ!)
興奮が止まらない。
今は臣下達の前だ。興奮しきった表情は間違っても晒せないが、内心では心を燃え上がらせていた。
計測担当の者がバーを下ろす。
それが頭に付いた時、担当者は顔を近づけ、その数値に目を通す。その際の顔の接近を気にしてか、ニニムは顔をますます強張らせ、力んだ肩が少しばかり持ち上がる。
「あ、すみません。今ので少しずれましたね」
「え…………」
「緊張なさるのはわかりますが、今ので頭がピクっと上がっていまして、少しずれました。気をつけて頂けると」
「……そうね。わかったわ。気をつけるわ」
(おおっ、いいじゃないか!)
ウェインは目を輝かせた。
決して仕込んだわけではない。それなのに計測担当の者はニニムの挙動を声に出して指摘して、するとニニムも顔をくしゃりと歪ませる。
「では改めて」
計測担当はずれたバーを下げ直す。
ニニムは今度こそ動かないようにと体中を強張らせ、意識して石のようになろうとしているが、それがかえって我慢の感じをありありと放出している。計測担当の顔が目盛りに近づき、もしかしたら耳に息が吹きかかっているかもしれない状況に、ニニムは指先まで固くしているのだ。
しかも、計測担当はニニムの腹に手を置いた。
(ひっ、えっ、さ、触って……)
ニニムの視線がウェインを向く。
目が訴えかけていた。
(ウェイン!? これ、注意して!)
(ごめん、無理~)
ニニムが他の男に触られている状況よりも、腹部への接触に驚いて、動揺に瞳を震わせた様子の面白さが上回る。
ウェインは何も注意せず、わざと見過ごしていた。
(いいわ。マジ、いいわ!)
計測担当が数字の確認を済ませ、そして身長の記録を取ることで、ニニムは身長計から解放される。
しかし、ニニムの身体には余韻が残った。
(最悪よ……お腹に見えない手形が付いたみたい…………)
ヘソの上に手を置かれ、体温が染み込み続けた感覚は、すぐさま引いてなどくれはしない。ついでに言うなら、耳の近くに顔が迫って来た余韻さえ感じている。
そこに休まる暇もなくスリーサイズの計測が待っているのだ。
「では引き続き、身体計測を続けて行きますので」
計測担当は巻尺を用意していた。
「ええ、早めにお願い……」
手早くやってしまって欲しいのが、今のニニムにはせめてもの願いというわけだ。
「では両手を広げて頂いて」
「ええ」
「しかし、とても美しい乳房ですね。白雪のように輝く肌、その頂点に立つ果実のように瑞々しい乳首、実に芸術的ではないでしょうか」
(ナイス! ナイスだぞ!)
ウェインは心から称賛を送る。
体つきについて声に出し、私的に褒め称えてみせたのだ。何らの悪意もなく、計測担当の者はただそこに芸術があったから語った顔しかしていない。どうもかなりの天然らしいが、おかげでニニムの恥じらいを煽ってくれた。
それを聞いた他の家臣達も、そうだそうだと言わんばかりに頷いている。
(そうだろう! そうだろう!)
確かに素晴らしい、芸術的な乳房だ! そんな同意の広がる空気の中で、ニニムの羞恥はんどん煽られているに違いない。どんんどん膨らんでいるに違いない。このまま頭が破裂するまで膨らんでいって欲しい。
「そいうことは……! い、言わなくていいので、早く測るように」
顔から火を噴き続けた様子で、目尻を歪めて頬を震わす。
「ええ、わかりました」
計測担当は素知らぬ顔で巻尺を巻きつけようと、ニニムの背中に両手を回す。その動作を取るためには、さながら抱きつくような形になる必要がある。本当にくっつくわけではないが、身体が際どい距離にまで近づいていた。
(いい……!?)
ニニムはかなり引き攣っていた。
異性の顔が乳房に接近して、あと少しでも近づかれれば、そのまま埋もれてきそうなのだ。
そして、ニニムの感じた緊張など知らない涼しい顔で、計測担当は巻尺を手前に引っ張り出し、それを乳房に巻きつけていく。
(どんな気持ちだろうな? ねえ、ニニムさーん!)
ウェインは楽しくニニムの様子を眺め回す。
乳房に沿い合わさった巻尺は、横乳のところで目盛りを合わせ、その数値を示している。計測担当はそれを確認するべく顔を近づけ、きっとあくまで数字を見ている。
だが、ニニムにとってはどうだろう。胸に顔を近づけられ、羞恥心を刺激されないはずがない。視線がチラチラと下を見て、顔の接近をわかりやすく気にしている。ニニムはまさに恥じらいの度数を高めているのだ。
「八六センチですね」
大きな声で読み上げた瞬間だ。
(ちょっとぉ!?)
ニニムの顔はさらに歪んだ。
そんなニニムの心境など意に介さず、計測担当は次にアンダーバストを測り、その数字さえも大声で発表してしまう。
ウエストの計測に移り、腰に巻きつけた時だ。
「なんとも良いくびれで惚れ惚れしますね」
またしても、ただ芸術を語らずにはいられないような、いかにも純粋な面持ちで、計測担当はニニムの体つきを称え始める。素晴らしいものを愛でんばかりに、そのカーブを手でさする真似までして、ニニムの引き攣りようといったらない。
(やめなさいってばぁぁぁ!)
心の悲鳴が聞こえるようだ。
(いいぞいいぞ! 俺は止めない! もっとやってくれ!)
「六十センチ!」
またも数字を発表され、ニニムの目尻がピクっと跳ねる。
きっと、単にウエストを発表された恥ずかしさだけではない。その次に行われる計測も予感して、今のうちから胸に羞恥を込み上げている。
「ではヒップを測りますが、毛はささやかですね。この毛並みの良さ、きっと触れればサラサラとしているのでしょう」
計測担当は巻尺の位置を変え、尻に巻きつける直前、陰毛をまじまじと眺めて嬉しそうに語っていた。
そして、陰毛に関しても関心が広まっている。
臣下達一人一人の顔に関心と好奇が生まれ、女性でさえもニニムの陰毛はどんなものかを気にしている。
(これはまさしく、自分もニニムの毛を観察して、触ってみたいと思っている顔の数々!)
それがこんなにも数を揃えて、ニニム一人に向けられている。
この状況でニニムの心境はどうだろう。
(だからやめてってばぁ……!)
ニニムはもう泣きそうである。
「八八センチ!」
追い打ちのようにヒップサイズが発表され、それに対する関心が広まっていく。
(いやぁぁぁぁ……………………!)
ニニムの心の悲鳴が聞こえてくる。
(うおおおお…………!)
ウェインは逆に興奮していた。
*
計測はまだ終わらない。
計測担当は次に乳首を図り始める。巻尺をピンと真っ直ぐ伸ばし、それをニニムの乳首に当てて直径を確かめる。
(そんなところ測ってどうするのよ!)
顔を見ているだけで、心の悲鳴が聞こえてくる。
(ウェインの馬鹿ぁ……!)
乳首に巻尺を添え、数字を読むために至近距離に顔を近づけてくる。計測担当の視線に耐えきれないようにして、ニニムは正面から顔を背け、ぎゅっと目を瞑っている。俯きがちに、拳を固く震わせていた。
乳首のサイズが発表され、乳輪のサイズも読み上げられる。
(あぁぁ……嫌だぁ…………)
そのたび、ニニムの心は締め上げられていた。
「さて、乳首と乳輪を測ったところで、次は性器の計測になるだろうが、この場合は毛が少々邪魔ではないかな?」
(なっ、何を提案してるのよ!)
「ここは剃毛を行い、すっきりとさせておこうではないか」
ウェインの提案がニニムには悪魔の言葉に聞こえてくる。
「ははぁ、なるほど」
「それは素晴らしい提案ですな」
「皮膚の状態を見るにあたって、毛が邪魔になるケースも考えられる故」
などと忠臣達はウェインの提案に関心している。
(ま、ニニムをからかいたいだけなんだけどねー!)
本心はこれだ。
しかし、流行病の視診にあたって表皮の観察が必要である以上、あるいは本当に陰毛が邪魔になるケースも出てくるだろう。ニニムの場合、さほど剛毛の毛むくじゃらというわけではないようだが、分厚い毛の層などあった時には、皮膚は完全に隠れてしまう。
忠臣達は盲点に気づいたような顔をしていた。
なるほど、それは気づかなかったというわけだ。
「我が補佐官の処理であるからな。王子の身である私だが、彼女に対する日頃の敬意と称賛の意味を兼ね、私自らが剃毛を行いたいと思う」
毛の処理などという、王子がすべきこととは言えない役目を自ら背負う。これを部下に対する敬意とすることで、ウェインは目論見通りに周囲の好感度を高めていた。
「さすがは王子!」
「ニニム殿をよく思っていらっしゃる!」
(だよねぇ! 余所の王子なら? 斯様な汚い仕事は使用人にでもやらせておけ、って感じになるはずだもんねぇ! それを俺がやるっていう意外性! それを美徳としてしまう俺の計算! 好感度を上げながらニニムをこの手で辱める! 一石二鳥の素晴らしい一手!)
もしもウェインの心が表情に表れていたら、一体どれほど下品かもわからない。それを表には一切出さず、いかにも真面目で部下思いな王子を演じているのだ。
(本当にさすがとしか言いようがないわね……)
ニニムだけは見抜いていた。
「といったわけだ。ニニム、そこのテーブルに上がるのだ」
「はい。王子」
(ってなるよねぇぇ!)
二人きりだったなら、少しばかり小突くのもじゃれ合いの範疇だ。ニニムも手刀で突いてくる程度の反撃はできただろうが、他の臣下達の前でそれはできない。公の場に立つための、仕事用の顔をしていなくてはならない。
ニニムは言われるままテーブルに上がり、仰向けとなっていた。
「脚を開きたまえ」
どれほど恥ずかしい思いをしていようと、王子の命令には忠実に従い、ニニムは脚をM字の形へと変えていく。アソコの目立つはしたないポーズとなって、ニニムの顔から火が出る光景が見えるかのようだ。
ウェインはアソコを目の前にしながら椅子につく。
「こちらをどうぞ」
使用人が水桶とカミソリを用意してきた。
加えて、石鹸も手元に運ばれて、道具の準備はこれで整う。
「ではニニムよ。動いてはならんぞ」
ウェインは袖を捲り、石鹸を泡立て始めた。
(なんなのよもう……なんでこんな目に…………)
ニニムはウェインから顔を背けて、唇を内側に丸め込んでいる。頬の強張った表情は、恥じらいで熱っぽくなるあまり、ここまで熱気が伝わってくるかのようだ。
(それじゃ行きますよぉ? ニニムさーん)
ウェインは手の平に泡の山を作り上げるが、それを塗り込む前に、もう片方の乾いた手で陰毛に触れてみる。ニニムの脚がピクっと小さく弾むように反応して、そのまま緊張しきって固くなる。
「ふむ、やはりサラサラとして指通りが良い。実に素晴らしい毛並みであるな」
ウェインは陰毛について声に出す。
「っ!」
ニニムの顔がビクっと弾けたように反応する。
「おおっ、やはりそうですか」
「ニニム殿の素晴らしいお体から申しますと、さぞかし毛も素晴らしいとは思いました」
「やはり毛並みも違ってくるものですな」
忠臣達が関心して、口々にニニムを称える。
それが本心か、ウェインのご機嫌取りか、両方か。そういった細かいところは、さしあたって重要ではない。
重要なのはニニムの反応だ。
(聞きたくない…………!)
ニニムの顔はより一層強張っていた。
眉間に、頬に、唇の周りに、顔のあらゆる筋肉に力が入って硬化している。固くなろうと力むあまりに、いたるところがプルプルと震えている。
(耳を塞ぎたいわ……)
だが、今の職務上の立場では、そういった動作も気軽には取れないのだ。
「さて、まずは泡を、と」
ウェインは灰色の陰毛に泡を乗せ、指でかき混ぜるように馴染ませる。その水気を吸い取る陰毛は、水分によって束ねられ、一本一本の隙間に無数の細やかな泡を覗かせる。根元にまで泡が紛れ込み、さらにその上には白い塊の泡も乗り、きっちりと泡まみれになった陰毛に、次はカミソリを近づける。
その瞬間、周囲の空気が変わっていた。
(もしあれを任されていたら……)
(いやはや、万が一にもニニム殿を傷つけるわけには参りませんからなぁ)
と、そう思っている臣下や使用人のいかに多いことか。
もちろん、傷つけないように丁寧にやるのは当然だが、万が一ということがある。うっかり手を滑らせたら、折り悪くくしゃみでも出て、そのせいで切ってしまったら、そんな不安が必要以上に大きくなる。
(ウェインがやるのは……正解かもしれないけど…………)
ニニムにとっても、刃物が肌に触れてくる緊張の瞬間だ。
もしもミスをして、ウェインの逆鱗に触れたらどうしよう。そんなプレッシャーを背負った使用人の手でやられるより、ウェイン自身にやってもらう方が、少なくとも緊張するせいで傷を負わされることはない。
ニニムは自分がウェインに寵愛されていることを知っている。
実に丁寧にやることだろう。
それはわかっている。わかっているが。
(だからって、なんでこんなことされなきゃいけないのよ…………!)
毛について声に出されて、周りの関心した声も聞こえて来て、ニニムの心はこれでもかというほど締め上げられている。顔の温度はどんどん上がり、自分自身の熱で火傷しないかさえ心配になってくる。
そして、いよいよカミソリの冷たい金属の感触が当たってきた。
ニニムは一気に緊張して、全身をより固くした。下手に動いたらかえって危ない。うっかりくしゃみが出ても怪我をする。ニニムは石になりきって、呼吸さえもゆっくりと落ち着けようと努めていた。
(これ、結構怖いな)
ウェインにも緊張はある。
うっかり怪我などさせたくないのは、剃る側にとっても同じである。
ウェインは肌にカミソリの側面を当て、皮膚を切らないように意識しながら、しかし根元から剃り落とすように、上手い具合に食い込ませる。慎重にスライドさせ、泡を掬い取る気持ちでカミソリを動かすと、剃り落とされた毛と共に、白い泡の塊がカミソリの上に乗る。
ウェインは一度カミソリを持ち上げて、それを水桶の中に落とした後、綺麗になった刃を再び近づける。
もう一度剃り落とす。
(よし、上手くできたぞ)
無事に怪我をさせることなく剃り抜いて、今まで陰毛のあった部分は、あたかも初めから無毛だったようにツルツルだった。
ウェインは残った泡を水で洗い、布で軽く拭いてやると、これで剃毛を終了する。
「実に綺麗になった。まるで生まれたてのようなアソコになったぞ」
(ちょっとぉ……! そ、そういうことは言わなくていいのよ!)
「きめ細かな肌が元より美しいが、こうして剃り落とした跡の肌も負けず劣らず、実にツルツルとして綺麗なものだ。その下にある一本筋も、ヘラで彫り込んだような素晴らしい見栄えをしている」
(嫌ぁ…………やめてぇ………………!)
ニニムは苦悶していた。
「おっと、計測だったな。さあ、席を替わろう」
ウェインは椅子から立ち上がり、先ほどまでの計測担当に席を譲った。計測担当は巻尺を片手に着席すると、ウェインの語っていたアソコへと、早速視線をやっていた。
「どうかな? ニニムのアソコは」
「ええ、仰る通りの美しさで、このような芸術を目にすることのできた幸せでたまりません。もはやどのように言葉を尽くすべきか。とにかく美しいの一言です」
計測担当がこう語るとだ。
「おおっ、それほどまでに」
「さすがはニニム殿」
「王子の傍らにあるに相応しい美しさというわけですな」
やはり、関心しきった声が広がる。
(やめてってばぁ……! 何も言わなくていいのよ! そこも関心しなくていいのよ!)
ニニムにとってはたまらない。
自分の体について話題にされる恥辱感で、脳が見えない力に締め上げられ、今にも潰されそうである。
「では計測をさせて頂きます」
巻尺が近づいて来た。
指で上下に伸ばし、ピンと張ったものが添えられると、ワレメの端から端にかけて宛がわれ、その数字が読み上げられる。
「線の長さは六・五センチ」
(嫌ぁ……!)
「では横幅を見ますと、四・二センチですね。扉はそれぞれ、片方につき二・二センチということになります」
計測担当は巻尺を横向きに変え、肉貝の幅を図った。
(やだ……やだ……やだ……)
自分自身ですら知らなかった数字が発表され、恥ずかしい秘密が情け容赦なく公開されていくような感覚に心が乱される。
「性器から肛門にかけての長さは、ちょうど三センチ。さらに肛門の直径は三・一センチで、皺の本数が十二本ほどでしょうか。細かい枝分かれが、ちょっと数えにくいですが、大元の皺については十二本です」
(何を数えているのよ一体…………)
「ではニニム殿。次は中身を調べますので、開いて頂けますでしょうか」
(な、中身って……そんな…………)
こんなM字のポーズだけでも、死にそうなほどの恥ずかしさだ。
それを性器の中身まで見せるなど、羞恥で脳が焼け消えるのではないかと思うほど、ますます頭の温度が上がっていく。ニニムは非常に躊躇いながら、本当に躊躇いながら、両手をアソコに移動させ、左右に引っ張り開いていった。
「ありがとうございます。美しいピンク色が見えて来ました。赤味のある表面が光の反射でキラキラと輝いています」
(せめて正確な表現をやめて…………!)
心の中でしか訴えられない。
出来るなら声に出して訴えたいが、王子の命令を受けている立場ではやりにくいのだ。
計測担当はさらに小陰唇を計測した。膣口の直径を測り、陰核亀頭でさえも計測して、処女であることまで声に出されて、ニニムの性器にまつわる情報が全て曝け出されていく。おまけに書面に記録を取る者までいて、きちんと物としてまで残るのだと悟った時、頭がくらくらして気でも失いそうになるのだった。
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