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 といったわけで、ウェインが新たに思いついたのは卑猥な衣装で仕事をさせるものだった。
 猫の衣装である。
 頭には猫耳をかけ、上下に着せるのは白い水着だ。ショーツは尻尾付きとなっており、歩けば白いフサフサがよく揺れる。
「あらあら、まあまあ、ちょっと顔が赤いんじゃないの? ニニムさーん」
「う……だ、だって……」
 ニニムは顔が真っ赤である。
 裸でもあるまいのに、腕で胸を隠しつつ、左手はアソコに置かれている。肩を小さく内側に縮めて、震えながら赤らむ姿から、恥ずかしいので許して欲しいかのような、懇願の気持ちがひしひしと伝わって来る。
「あ、隠すの禁止な」
「ウェイン……!」
 悲しそうな、許して欲しそうな顔をする。
「もう裸だって見せただろ?」
「でも……」
「オシッコだってしたろ?」
「……っ!? でも!」
 放尿のことに触れると、思い出してしまってか、ニニムはますます顔から熱を噴き出し、声を荒くして懇願の目を向けてくる。
「ほら、隠さない隠さない。オープンしようぜ?」
「もう……!」
 ニニムは震えながら腕を下ろした。
 その挙動がまた面白い。まるで体中が固く錆び付き、指を一本動かすことさえ困難であるように、カクカクと、プルプルと、本当に震えながら下ろすのだ。力を込めた筋肉が震えるような、はっきりとわかる振動を帯びた両手が、ぎこちなく動いていく光景は、それだけでウェインの心を満たしていく。
(なんてまあ真っ赤なこと! ニニム最高じゃねーか!)
 一度は全裸になっていながら、耳まで染まる恥じらいようだ。
 これはいい、実にいい。
 さらに利尿剤を飲ませてやろうと、仕事中にコップを手渡し、ニニムはそれを疑いなく飲み干してくれてしまう。
 内心でほくそ笑み、しばしの時間を共に過ごした。
 ウェインが書類の山に目を通し、一枚一枚サインを書き込んでいくその傍ら、ニニムもまた書類のチェックを進めている。二人がかりの事務作業だが、これが中々に終わらない。どこから湧いて出て来るのかと思うほど、本当に量が多くてたまらない。
 しかし、ふと目を向ければ、すぐ近くにニニムの素晴らしい姿がある。
 仕事に没頭して、そちらに集中力を注いでいる時は、さすがに恥ずかしさを忘れているらしい。
「……っ!? ウェイン? サボらないの」
 それが視姦に気づくや否や耳まで赤く染め直し、どこか慌てたように注意してくる。反射的に手で恥ずかしい部分を隠しかけ、咄嗟に命令を思い出すことで、動いた両手を微妙な位置で停止させていた。
「ふーん? だったら、ニニムもそれ終わるまでトイレ行くなよ?」
「行かないわよ。まだまだ忙しいんだから」
「お、言ったな? はい言質取ったー」
「まったく、こんなことで言質なんか取っても仕方ないでしょ」
 ニニムは呆れた顔でため息を吐き、ウェインの視姦を気にしながら、赤い顔のまま書類に目を移し直し、チェックに没頭しようとする。
(気になる…………)
 ウェインが見ている。
(……凄く気になる……今、どこ見たの? 胸? お尻?)
 視姦されているかと思うと、顔の赤味がなかなか引かない。
 それどころか、ウェインが向けて来る視線の先が気になって、集中すらできなくなる。
 だいたい、この露出度は何だ。
 既に全裸になった後だとウェインは言うが、昨日の体験限りで肌の露出に慣れきったわけではない。ニニムにはまだまだ羞恥心というものがある。それを下着と同等の露出度の衣類など、これを恥じらうなという方が無理なのだ。
 しかも、こんな時にだ。
 臣下の者が扉をノックし、部屋への立ち入りの許可を求めてきた。
「殿下! お伝えしたいことが!」
 ぞっとした。
 まさか、このまま臣下を招き入れるつもりかとウェインを睨む。
(はーい。その通りでーす!)
(ウェイン!?)
 ニニムは大いに引き攣った。
「よいぞ! 入るがいい!」
「では失礼を」
 臣下は軽く会釈をしながら、扉を開くなり幾人かの部下を背後に引き連れ踏み込んでくる。
「ふむ、それで何かね? それなりに重要な知らせと見受けられるが」
「は、それが…………」
 臣下は明らかにニニムの格好を気にしていた。
 そして、臣下と目が合った瞬間に、ニニムは目を逸らしていた。その様子を見るに、手で隠してはならない命令は守っているが、両手が腹や太ももの近くを彷徨っている。せめて隠すだけでもしたくてしたくて、本当にたまらなそうだ。
 臣下はどうにかニニムから意識を逸らし、伝えるべき職務上の事柄を口にする。
「なるほど、話はわかった。この件は重く受け止めておこう」
「はっ、ありがとうございます!」
 その連絡内容は、今この場で答えをどうこうといった事柄ではなかったため、重要な件を頭に入れたというだけでひとまず終わる。
 とはいえ、この件は早めに対応した方がいいだろう。
「ところで」
 ここでウェインは切り出した。
「ニニム、前に出たまえ」
「はい。殿下」
 ニニムは忠臣の一人として、毅然とした振る舞いで前に立つ。
 大いに言い分のありそうな目を向けては来たが、今は臣下達の前である。私的な場での馴れ合いや礼を欠いた仲は見せられない。
(なんだっていうのよ)
 ウェインばかりか、より多くの視線が集まることで、脳の内側に火が燃えるかのような、熱い羞恥に囚われる。視線の殺到から逃れたくてたまらない。本当なら即座に駆け出し、ウェインの座る机の下に隠れるなり、カーテンに身を包むなりしたいのだが、公的な場での顔ではそんな行動は取れないのだ。
 両面焼きの気分すらしてきていた。
 前からは臣下達、後ろからはウェインの視線。
 それらから、せめて手で隠したい思いは本当に大いにあり、それはニニムの両手に強く宿されている。
 だが、それでもニニムはしっかりと両手を下ろし、隠すことなく背筋もピンと伸ばしていた。
「どう思う?」
(はい?)
「ど、どうとは……?」
 ニニムと臣下の反応は、おおよそ似たようなものだった。
「ああ、つまりだ。ちょっとした趣のために、今日はこのような格好をさせている。礼や尊敬を欠いた言葉をこの場では許す故、色気など感じるかどうか、といったことを諸君からも聞いてみたくてな」
 エロい衣装だよね。可愛いよね。どう?
 と、まあそんなことを、ウェインは事務的な口調で重々しく尋ねているわけである。
(聞いてみたい? いえいえ、皆さんの感想は別にいいんですー。俺の趣味には合ってるから、臣下から見た感想とか、それはどうでもいいんですー。重要なのはニニムの反応なんですー)
 それこそがウェインの計算だった。
 ニニムを前に立たせ、臣下にその感想を言わせる。エロい、興奮する。猫耳が想像以上に似合っており、赤らんだ顔が可愛くてたまらない。そんな言葉を引き出すことで、臣下達の口からニニムに言葉を浴びせかける。
 そう、そうやって羞恥を煽る作戦だ。
 ニニムをからかい、辱めるための頭脳的策略なのだ。
「さすがはウェイン殿下の補佐を務めるニニム・ラーレイ殿であります!」
(ん?)
 ウェインが期待したのとは、何かが微妙に違っている。
「確かに、職場の花というものは心癒やすもの。ニニム殿はその肌をあえて晒し、特別な衣装を身に纏うことにより、ウェイン殿下の心を支えているものとお見受けします。その見事な献身、男である我々には方法は真似できませぬが、心意気は見習いたいと感じる次第です!」
(違うだろおおおお!? もっとあるだろ! 礼を欠いていいって、失礼な言葉を使ってもいいって許可したんだよ!? ねえ、もっと胸がエロいとかアソコの食い込みがどうとか、そういう感想を言えよおおおおお!)
 顔には出さない。
 表面には涼やかな表情を浮かべ続けている。
「妙なことを聞いてしまったな。しかし、ニニムの良さを私ばかりか周囲の者にまで理解してもらえるのは、実に喜ばしいことだ。行ってよいぞ」
「は! では、これにて失礼致します」
 かくして臣下達は背を向けて、執務室を去っていく。
 それを見送ったウェインは、扉が閉じてしばらくするなり、両手に頭を抱えていた。
「ぬおおおおお! ちょっと違う! 思ったのと違う!」
「はいはい。どうせ私をからかわせようとしたんでしょ?」
「そうだよ!? それでニニムが『キャー! 恥ずかしい!』 みたくなったところを俺が眺める! この完璧な作戦がこうもあっさりと打ち破られるだなんて! こんなことあっていいんですかニニムさーん!」
「私にはありがたい展開だったわ」
「でしょうね!? まったくもー!」
「ところで、ウェイン」
「……うん?」
 切実な何かを訴えようとしてくる目に、ウェインは咄嗟に顔を切り替える。
 てっきり、何か大切な要件だと思ったのだ。
 しかし、見れば顔を染め直し、太ももの上に拳を置いてモジモジしている。脚を内側に引き締めながら、腰を小さく振るかのように、何かを我慢している様子である。
(利尿剤か! 効いて来たな!)
 この喜びは胸の内側に封じ込め、顔には出さない。
「どうした。ニニム、言ってみろ」
「ちょっと大事な用を思い出したので、少し外れてもいいかしら」
 直接トイレに行きたいと伝えても、行かせてもらえないと思ったのだろう。別の口実を作ることで部屋を離れて、用を足す時間を作りたいわけだ。
「駄目だ」
 そう見抜いた以上、許可は出さない。
「で、でも……」
「じゃあ、大事な用って何だ? その要件は俺には言えないのか?」
「と、トイレ…………」
「だめー!」
「いや……本当にまずいんだけど……」
「さっき言質取ったんですけどー?」
「それはでも、漏らすよりは……」
 ニニムの顔に危機感の色が強まる。
 今にも漏れそうになってか、太ももをきつく締め合わせる力が強まって、両手でアソコを押さえ始めている。
「ほら、我慢我慢。きっと大丈夫だって」
「大丈夫じゃ……うぅ……」
 ニニムは涙目になっていた。
 そして、もう出てしまったのだろう。急に締め合わせる力を緩め、諦めたように両手を離すと、白かったショーツに黄ばんだ染みが広がっていた。
「じゃあ、そのまま仕事続けようか」
「うぇ、ウェイン? 本当に、私に何か恨みでも?」
「ない!」
「それじゃあ本当にただの変態じゃない…………」
「うむ、すまん!」
 ウェインは開き直っていた。



 
 
 

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