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 ニニム・ラーレイが執務室で裸になったのはお仕置きのためである。
  先日、盗賊団がナトラに攻め込んで来たことで防衛戦を行った。その際にニニムがしでかした失態は、決して責められるものではない。あれはまったく想定外の事態であり、本来ならば妥当な判断だったのだ。
 とはいえ、ニニムは強く責任を感じていた。
 ウェインは強靱な理性で冷静さを保ち、事態に対処してのけた。結果を見るなら最小限の損害だけで防衛に成功したが、聞けば酷く狼狽しかけたという。瞬間的に立ち直り、厳格な面持ちで救援部隊を送る指示を出したそうだが、相当な心配をかけてしまったと、ニニムはいたく気に病んだのだ。
 そんなニニムの様子を見て、ウェインは欲望を抱いて付け込んだ。
 ニニムにもそれはわかっていたが、自責の念からそれに従い、ストリップの命令に従ったのが一連のあらましである。

(やっべー! マジで裸じゃないっすか! ニニムさーん!)

 言うまでもなく、ウェインはニニムの裸を視姦していた。
 手袋にガーターベルト、ソックスにブーツなど、恥部を隠す役には立たないパーツだけが残されて、ニニムは恥ずかしそうに縮こまってる。
(燃えるわ! マジ燃えるわ!)
 肩が小さく縮み上がって、やたらに高く持ち上がっている。その上、内側に丸まって、顔は少し下を向き、全身が羞恥に囚われている。赤面しきっているおかげで、首から上だけが綺麗に別色となっていた。
 膨らみの控え目な乳房であるが、実にふんわりとやわらかそうで、中心に聳える尖った乳首も可愛らしい。胸をしばし眺めた後、視線をずらしてアソコ見ると、ささやかな毛の下に見える一本筋が実に初々しい。
 後ろに回り込んでみれば、お尻も丸っこくて可愛らしい。
「お触りしちゃっても大丈夫ですかねー。ニニムさーん」
 返事を待つこともなく、尻の丸みに手を置いた。
「うっ、うぅぅ……ゆ、許すわ…………」
 震えた声は、まるで苦渋の末の決断だ。
「すっげー。やわらけー。尻ってスゲーな」
「なんなのよ。その幼稚な感想は……」
「いやー。だって、手が止まらないし」
「まったく、早く満足しなさいよ」
 ニニムは呆れきった顔でため息を吐き、しばしの尻撫でを耐え忍ぶ。
 さて、これで終わるのは惜しい。
 ニニムがここまで落ち込んで、反省の証拠にどんな命令でも聞き始めるなど、きっと二度とない機会である。
「ところでニニム、羞恥プレイの契約を結ぶというのはどうかね?」
 そこでウェインは提案した。
「羞恥プレイって……今こうしてストリップを披露して、裸をジロジロと見られて、尻まで揉まれている気がするんだけど……」
「ほら、もっと色々あるじゃん。他にもさ」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「何でも言うこと聞くって言ったじゃん」
「十分に聞いた気がするんだけど」
「いやいやいやいや、こんなの始まりにすぎないっしょ! これからっしょ! もっと先の展開が色々とあるっしょ!」
「てい」
「ぐおっ!」
 手刀で鳩尾を貫かれ、ウェインは両手で腹を抱える。
 さすがに調子に乗りすぎたかと思ったが、顔を上げれば視線が重なり、ニニムは恥ずかしそうにプイっと目を逸らす。逸らした直後にため息をつき、本当に心の底から仕方がなさそうに、呆れ果ててものも言えない顔でニニムは言った。
「……わかったわ。付き合ってあげる」
 ニニムとしては、本当のに思うところがあったのだろう。
「いよっしゃぁぁぁ!」
  ウェインは歓喜の声を上げていた。

     ◆◇◆

 ウェインが命じたのは全裸で外を歩かせるプレイである。
 いきなり執務室の外へ出ろと言っても、ニニムにはハードルが高いだろう。そこで最初はマントを羽織らせたが、城内を歩くあいだは始終顔を赤くしていた。
 布切れ一枚だけで、その下は裸なのだ。
 これが気にならないわけがない。
 屋外へ向けての道のりを行く最中、曲がり角に出るたびに、ニニムはしきりに通行人の存在を確認していた。前から歩いて来る者とすれ違う際、ウェインの背中の影に隠れて、気配を殺し存在を消そうとしていた。
「ニニムさーん」
 そんなニニムにウェインは告げる。
「かえって目立ってなーい?」
「え!? な、な、な……そんなこと……ないと思うけど……」
「いや目立ってるって。目立ってる目立ってる」
「そんなこと……」
「さっきの奴も、めーっちゃ気にしてたし、その様子でいると逆にバレるかもな」
 ニニムはみるみるうちに顔を歪めていき、瞳を動揺させていた。
 布も薄いマントである。体勢によっては尻や腰のラインがよくわかる。
 ニニムは内側に両腕をしまい込み、布を中からぎゅっと抱き締めている。猫背気味で腰もくの字で、裸を気にしているのが姿勢にもありありと現れている。
 だが、この姿勢がかえって目立つわけだ。
 一体どうしたんだろう。何か様子がおかしいぞ。
 すれ違った人間の全てがニニムにそんな目を向けていた。
(いやーでもさ。その様子、結構面白いんだよなー)
 また、廊下で一人の使用人とすれ違う。
 ウェインは城内に勤める人間ほとんどの名前を覚えているので、王子に対する丁寧な挨拶をしてくる使用人に、わざわざ名前を呼んでまで挨拶を返してやる。
 そして、ニニムにどんな目を向けるか。
 それに対するニニムはどんな反応を示すのか。
 挨拶を交わし終え、お互いにすれ違っていく際に、使用人は当然ウェインの背中に隠れたニニムに気づく。さりげなく視線がいき、いつもと異なる服装をいくらか気にかけるだろう。
(やだ……また見た……き、気づかれっこないって、わかってはいるけど……)
 と、やはりニニムは視線に反応して、肩をきゅっと縮めてしまう。
 実際にマントの下を裸にしていると、衣服を介することなく布が直接当たって来る。肌着のように肌にぴったりとあたる衣類と違い、マントは身体との隙間が大きいため、内側に流れ込む大気の量もシャツや下着の比ではない。
 ブラジャーのない胸に擦れたり、ショーツのない尻に擦れたり、そういったことが逐一気になって落ち着かない。
 その上で向けられる視線は、使用人がマントの下に気づいているいないに関係無く、ニニムの心を刺激してしまうわけだった。
 誰かと会うたび、会うたび、本当はマントの中身に気づかれていて、心の中ではニニムをいやらしい目で見ているのではないかと怖くなる。落ち着かない。体中がそわそわして、心臓も忙しく弾んでいる。
 この調子で屋外へ出た瞬間、ニニムはますます周囲を気にしていた。
(だ、誰も……! 誰も、いないわよね?)
 しきりに辺りを気にかけて、間違ってもウェインの背中の影から出ないように気をつける。人目がないとわかっても、なおも不安が和らぐことはなく、ニニムは少しでも安心しようとウェインの背中を掴んでいた。
 衣服を固く握り締め、気休め程度には心が落ち着く。
 だが、騒がしく弾む心臓は、本当には静まりきらず、しきりに周囲をきょろきょろと見渡してしまう。目が左右を行き交って、人目がないこと、誰かの影があってもこちらに意識を向けていないこと、それを常に確認し続けていた。
 さっと周りを見て、問題ないことがわかっても、その数秒後にはもう耐えきれないほどに不安が広がり、また左右を見渡して、肩越しに後ろを確認する。
 ニニムはもうそればかり繰り返している状態だった。
 ウェインは林へ向かっていた。
 人の出入りによって踏み固まった土道を歩き、ある程度中へ入ると、まばらな木々が視界を遮り、ある程度は周囲の目から隠れやすくなってくる。
「よし、ここでマントを脱げ」
 ウェインは命じた。
 こうしてニニムを外に連れ出した目的は、野外で裸となって恥じらう顔を見てみたいと思いついたためだった。
「……どうしても?」
 ニニムはぎゅっと、マントを内側で握り絞め、胸元で皺が中央に引き込まれる。
「どうしても」
「どうしても?」
「どうしても!」
 お互いに食い下がるが、折れるのはニニムの方が早かった。
 許しを請うような目だったニニムは、やがて諦めの色を浮かべ始めて、マントを握り絞めていた力を緩めていく。
「……わかったわ。ウェイン」
 マントを手放すと決めた瞬間から、まだ裸を出してもいないのに、もう顔の赤らみが濃くなってくる。朱色だった頬から赤味が広がり、顔全体に薄らとした色合いは及んでいた。
 そして、ニニムはマントを両側に開いていく。
(もう……既に一回、見せた後だから……)
 丸裸ならもう見せた。だからもう慣れたはずであると、自分に対して必死になって言い聞かせ、どうにか心を落ち着かせる。
 しかし、閉じ合わせていたマントから、少しずつ肌の露出面積を広げていくと、それに合わせてどんどん頭の温度が上がっていくかのようだ。頭蓋骨の内側に火が灯り、脳の中で燃え広がる感覚で、中身が火傷しそうですらある。
 ウェインの視線が乳房に絡むかと思った瞬間、ニニムは手を止めてしまう。肌が外気に晒されて、全身に風が直接当たって来る状況も手伝って、マントを脱ぐに脱げずにいた。
(やっぱり外でなんて……でも、言うこと聞くって、言っちゃったし……)
 躊躇いとの戦いで、乳山の内側を晒しながらも、なかなか乳首までは出せずにいた。それをやっとのことで曝け出し、羽織っていたマントをウェインに預ける。
 林の中、ニニムは丸裸となっていた。
 外を歩くためにブーツは残し、手袋も付けてはいるが、恥ずかしい部分を隠せるものは一つもない。ひゅうっと、ちょうどうよく流れるそよ風に尻を撫でられ、ただ風が当たっただけのことが大いに気になり、つい警戒して誰もいない後ろを勢いよく確認してしまう。
「どんな気分だ?」
「どんなって、外で裸にさせてそれを聞くなんて、凄く良い趣味…………」
「お、褒めてる?」
 ニニムの皮肉も、ウェインにはそよ風に過ぎない。
 比喩ではない、本物のそよ風に必要以上の反応をしてしまったニニムには、服を着ているウェインの余裕が妬ましいような腹立たしいような、とにかく良い感情は湧いてこない。
「……まったく、呆れた神経よ」
 こんなところを人に見られたら、という気が気でない気分に決まっている。
 だが、こうすることで心配をかけた罪を償い、ウェインの趣味趣向も満たしている。臣下として忠誠を誓う身であればこそ、こんな扱いも甘んじて受け入れていた。
「このまま少し歩くぞ。ま、まずいと思ったらすぐにマントを返すから」
「当然よ」
 ニニムは前を歩かされた。
 これといった目的地はなく、ただただ徘徊さえすればいいプレイで、ブーツ越しに落ち葉や枝を踏み締める。背後からジロジロと刺さる視線は、言うまでもなく尻を中心に舐めまわす。
 お尻が見えない何かに撫でられて、くすぐったいようなムズムズするような感覚で、ニニムは落ち着きなく後ろに手をやって、しきりに視線を気にしていた。
 肌中が敏感になっている。
 ほんの少しの風さえ皮膚が過敏に察知する。神経が過敏になりすぎているせいで、どこからか見知らぬ人の視線が来ているような気がしてしまう。あそこに人がいたら、あのあたりから誰かが来たらどうしよう……そういった不安がそのまま視線の感触を生み出して、見えない糸に皮膚をくすぐられている感じがしてくるのだ。
(ウェインだけでも恥ずかしいのに、他の人にまで見られたら……)
 そんなことになったら、もう生きていけないかのように思えてくる。
 自然と肩が縮こまる。
 風で歯が揺れた音にまで、ニニムは素早く反応していた。ただの物音をてっきり人の気配と思ってしまい、咄嗟に腕で胸を隠しながら、そちらの歩行を素早く窺っていた。
(だ、誰もいない……わよね……)
 木々のあいだに人影はなく、それ以上の物音はしない。
 それを確認してもなお、本当は誰かが影に潜んで、密かにこちらを窺ってはいないものかと不安でならない。
「大丈夫だぞ? 誰もいないだろう」
「そうだといいけど……」
「ほらほら、もっと歩け」
「ああもう……何なのよこのプレイは…………」
 こんなことなら、いっそ普通に体の要求でもされていれば、そちらの方がどれほど良かっただろうか。
 しかし、それを想像して……。
(だ、駄目よ! そんなの!)
 生々しいものが頭に浮かび、それにも脳が熱くなり、ニニムは必死にイメージを振り払う。
「どうした? 虫でも飛んでいたか?」
 そんな一人で首を振る様子に、後ろからウェインの声はかかってきていた。
「な、なんでもないわ?」
 妙に声が上擦ってしまう。
 焦りと緊張がありありと浮かび上がったこんな声では、何かがあると主張しているようなものである。
「へえ? なーんもないの? マジで? 本当に? ニニムさーん」
「さ、騒がないで! ほら、誰かいたら……気づかれる…………」
 そう頼んだ矢先、自分自身が慌てて大声を出してしまったことに直後に気づき、ニニムは消え入りそうな小さな声に切り替えていた。
「ま、実際のところ平気だろう。ここらは兵士の訓練用の場所だから、俺の土地みたいなもんだし、許可なく出入りする奴はそんないないって」
 もちろんゼロとは言い切れない。
 だが、森林地帯での部隊展開に適応する訓練場として、ここはたびたび活用されている。それを知っている国民は、厄介な注意を喰らうことを嫌い、あまり近づいて来ないのだ。
 むしろ、鳥や動物と出会う可能性の方がずっと高い。
(確率的に言って、猛獣の警戒をした方がいいくらいだろう)
  ウェインは実際、そのように見立てていた。
 だから気にせずニニムを歩かせ、やたらに縮こまったり、意味なく周囲を気にしている素振りを楽しんでいた。歩行に合わせて可動するお尻の、プルプルと揺れ動く有様を見るのも面白いが、きょろきょろとしている様子も面白い。
「ん? あれは人影か?」
「ちょっ、ちょっとっ!」
 少しからかってみただけで、ニニムは大慌てで周囲を窺い、次の瞬間には木陰に身を隠そうとしゃがみ込む。
「ああ、気のせいだったわー。完全に気のせいだったわー。ごめんねー? ニニムさーん」
「ウェイン……!」
 涙目で睨んで来る真っ赤な顔に、ウェインはますます心を燃やす。
(興奮するわ……)
 ここまで羞恥心をあらわにして、面白いほどに赤らむニニムを見ていると、ますます虐めたくなってくる。
 ウェインは延々とニニムを歩かせ続けた。
「ん?」
 と、何かを気にして見せる素振りをわざと見せると、ニニムはすぐさまウェインの見ている方向に目を向ける。
「あっ」
 と、声を出したら、ニニムは慌ててウェインの背中に隠れてくる。
「おい、誰かいるのか?」
 なんて言ってみた瞬間には、この世の終わりのような顔をして、両手で表情を覆い隠してしゃがみ込む始末である。
(面白っ! ニニム最高だわ!)
 ウェインは完全に上機嫌だった。
 ニニムのこうした数々の様子を目に出来て、愉快で愉快でたまらない。
 しかも、歩き続けているおりに、ウェインはしだいに気づいていた。
(……トイレか?)
 確証はないのだが、ニニムはだんだんと太ももをモジモジとさせたり、アソコの辺りを手で気にするようになっている。周囲の気配を気にしたものではなく、自分自身の何かを気にしてのものなのは様子でわかる。
 では何をやたらに気にしているか。
 そういえば、これだけ外で裸でいれば、肌が冷え込んでくる。
(トイレだよな。たぶん)
 ニニムの尿意がどれほどのものか、それはまだわからない。
 だが、トイレであろうことだけは、およそ見当がつく。
(ってことは、いずれ言ってくるよな)
 尿意が強まれば、木陰でも何でもいいから、放出したいと恥ずかしながらに訴えてくることだろう。オシッコがしたい旨を伝えるより、何も言わずにお漏らしをする方が、よっぽど恥ずかしいことである。
(なるほど、小便か)
 ウェインは意地悪い笑みを浮かべていた。



 
 
 

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