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 マリーサがこの宿を選んだのはわざとであった。
 透ける水着を備品として用意していたり、出会い湯を用意していたり、男女関係に絡んだサービスを取り入れた施設なら、少しばかりアリッサを裸にしても許される。
 同性愛をアリッサ本人には隠しているが、従業員には密かに伝え、アリッサで楽しむ目的で水着も透けるものにしてもらった。マリーサ自身も透ける水着を身につけたのは、多少は自分のことも巻き込みバランスを取らなければ、アリッサの機嫌を損ねすぎると思ってのことだ。
 しかし、アリッサの衣服を部屋に持ち帰り、タオルだけを残して欲しいと金貨を握らせての依頼には、自分自身を巻き込むつもりはなかった。
 マリーサが思い描いていたのは、タオル一枚でアリッサを歩かせて、自分は服を気ながらニヤニヤしている状態だった。一般人からジロジロと見られ、それを気にするアリッサの様子を楽しむのが、理想的な状況設定だったのだが、従業員はどうやらツボを理解しきってくれていない。
 元々、アリッサの方がマゾっ気は強く、どちらかといえばマリーサの方がサディストだ。
 アリッサの辱めを受ける姿が楽しいのであり、自分自身を巻き込む理由の一つはバランス取りだ。他には、そうしなければ拝みに行けない場所であったり、仕込みの交渉が出来ない時が基本である。
 以前の鉱山などは、一緒に行かなければ拝みようがなかったため、自分自身も身体検査を受けるリスクは受け入れた。受け入れてでも、アリッサのああいった扱いを受ける姿が見たくて見たくて仕方なかった。
 それらは計画の範囲内だから受け入れているだけで、マリーサ自身は露出性癖はマゾヒズムなどにあまり目覚めていない。
 想定外の状況はあまり好ましく思わない。
(……まったく、困ったものだわ)
 かといって、服がない以上はマリーサ自身もタオル一枚で外に出て、一般人の中を出歩くしかなさそうだ。
「はぁっ、行くわよ。アリッサ」
 ため息をつきながらも、マリーサはアリッサを更衣室の外に連れ出した。
 受付の従業員に頼み、人を呼んでもらうことも考えたが、それではアリッサの服も持って来てもらわなければ不自然だ。財布の中身はそれ相応に温かいので、金貨の無駄打ちだけなら痛手にはならないが、用意してもらったシチュエーションまで無駄にするのは勿体ない。
「いや、マリーサ? 代わりの服を……」
「誰も気にしないわ。さっさと出るわよ」
 受付に声をかけようとするアリッサの、至極真っ当な行動を阻止するように、さっさと背中を押して外へ連れ出し、廊下へと出て行った。
「ねえ、どうする気よ」
「盗まれたのだか、どうだか。真相はともかく、部屋に戻れば着替えなんてどうにでもなるでしょう?」
 着替えは何着か用意している。
 何なら、人に金貨を握らせ、買いに行かせる手もあるだろう。
「マリーサ? なんかわざと……」
「どうせアリッサのアソコは悦んでいるんだから」
「うぐっ」
「だいたい、全裸の経験だってあるんだから」
「ぐぅ……」
 弱みを握られ、従うしかないかのように、アリッサは文句を言わなくなる。
「行くわよ。さっさと部屋に戻りましょう」
 タオルのみの格好で、早速男とすれ違い、好奇心に満ちたニヤニヤとした眼差しが向けられる。こうして二人で並んでいると、自然とアリッサの方が目立ち、そちらに視線が行きやすいことは知っている。
「もう……ジロジロ見て……」
 さっそく気にかけるアリッサの顔に、マリーサは胸の内側で心を燃やした。
(いいわ? アリッサ)
 Fカップの大きな胸に、太く大きめな脚や尻というのもあり、同じサイズのタオルでも、アリッサに巻いた方が小さく見える。きっちりと覆い隠すには長さが足りず、胸の谷間は出すしかない。大きな尻のカーブに沿って、ギリギリで全てが隠れきった状態は、たった数センチでもずらせばアソコが見えそうな危うさがある。
 胸を完全に隠しきるには、アソコが少しは見えかねない。かといって丈の長さを気にすると、今度は乳首が見えかねない絶妙さから、上下共にギリギリで隠した状態が作り出されている。
(タオルの長さは指定通りみたいね)
 マリーサのスタイルも綺麗なものだが、尻と胸のサイズがアリッサを下回るので、危ういにせよアリッサよりはマシである。
(ああ、目立つわ。後ろから見ると、お尻がすっごく……)
 隣り合って歩いている最中に、さりげなく距離を変え、横から尻を見下ろすようにポジションを調整する。すると、歩行の動作に伴って、筋肉の可動による尻のフリフリとした動きが伺えて、それがマリーサの心を躍らせた。
「ヒュー! 誘ってる?」
「いくら?」
 また二人組の男とすれ違い、その視線はアリッサの乳房に向く。
「そういうのは他よ! 他に当たりなさい!」
 突っぱねるアリッサだが、怒ったところでなおも視姦の眼差しは向き続け、後ろを振り向き尻を眺めることまでしていた。
 体が放つ空気感の違いなのだ。
 ルックスやバストの差だけでは、マリーサとて美人だというのに、アリッサの方が殊更に注目されやすい理由にならない。だが、それを具体的に説明する言葉も、オーラの違いや雰囲気の違いといった抽象的な言葉となってしまう。
 とにかく、アリッサの方が存在感が強く、輝き目立って見える。マリーサの方が影に控える大人しいオーラを出しており、パっと見た印象だけで視線を集めるにはいささか弱い。
 これを理解しているマリーサは、二人並んだ状態でアリッサの方がモテるからといって、特に嫉妬のような感情は抱いていない。むしろ、アリッサを辱める際には都合がいい。同じ格好で歩いていても、マリーサが抱く羞恥心は微妙ながらに軽減される。
 さて、ここからだ。
 この宿は温泉コーナーと宿泊部屋をロビーで区切り、それぞれを右と左に分けている。部屋へ戻るためには、より人通りの多いロビーを通過する必要があり、タオル一枚という格好はいくら何でも注目を集めやすい。
 アリッサという輝きの影に隠れたところで、さすがにマリーサも注目されるだろう。
 だから自分だけは服を着て、一人だけみっともない格好で歩くところを言葉で虐め、辱めの浮かんだ顔を楽しむ警戒でいた。わざわざ自分の性癖を説明してまで金貨を握らせたのに、相手の理解不足が本当に残念でならない。
「うわぁ、なにあれ」
 まずは人を見てドン引きする女の声が聞こえた。
「……うっ」
 心に効いてか、アリッサは引き攣る。
「痴女ね。痴女。ああいうのは金払ってくれる男を捜してんのよ?」
 ベンチ型ソファに座るセクシーな女性が、隣に座る男に対して訳知り顔でアリッサを語り、ただ偶然見かけただけのアリッサについて、耳元へ囁き語り始める。
「……うっ」
 それも効き、アリッサは顔を顰める。
「露出性癖じゃね?」
「黒髪の子は付き合わされてるんだろ」
 知りもせずに勝手な憶測を語る男達の声が聞こえ、その言葉もアリッサを引き攣らせた。
「……うっ、さっきから」
(けど露出性癖は当たってるわね)
 こうした、何か痛々しいものを見る視線ばかりが溢れ、温泉の中とは違って視姦的な目が少ない。ニヤニヤと体を観察してくる者もいるにはいるが、場所の違いというものは恐ろしく、混浴の場では良くても、ロビーで刺激の強い格好をする女は、分別の足りない非常識な痴女と見做されていた。
 こうなると、ここで生じる羞恥心とは、肌を見られて恥ずかしいものとは異なってくる。
 失敗や惨めな姿、そういったものを見られるような恥ずかしさと言えるだろう。
「これじゃあ、私がおかしい人みたいじゃない」
 そうこぼし、俯いて顔を赤らめるアリッサの様子がたまらなく可愛く思え、マリーサの胸がくすぐられる。
(ああ、可愛い。最高よアリッサ)
 そのあまりの良さに、自分自身も同じ目で見られていることは、だんだんと些事に思えてくる。
「裸マント」
「……うっ」
 たった一言、単語を呟いただけのことで、アリッサの胸には深々と刺さったらしい。
「あの後、一緒に謝ったことを思い出すわね。またアリッサに巻き込まれている気分。どう責任を取ってくれるのかしら」
「……や、やめて……それはもうチャラにしてくれたんでしょ?」
 アリッサはますます深く俯く。
「でも、あの時の気持ちを思いだしてきちゃったわね。アリッサ? やっぱり、もう一度お仕置きしてもいいかしら?」
「い、いや……ちょっと……さすがに……」
「冗談よ。早いところ戻りましょう」
 と、そう告げるなり、アリッサはすぐさま早足となり、マリーサもそれに着いていく。
 しかし、ここでマリーサは思い出す。
(着替えられないんだった)
 部屋に着くと、ドアには張り紙があった。

『着替えと鍵は温泉Bの更衣室に』

 そもそも、鍵がなければ部屋に入れず、その鍵ごと服が消えていた。
 その服の消えた行き先は、別の温泉の更衣室に指定してあり、せっかく部屋に戻った矢先に、部屋に入ることすら出来ずに温泉コーナーへと逆戻りして、無駄な往復を行う羽目になる。という、ここまでがマリーサの仕込みである。
 つまるところ、温泉コーナーへ行くたびに、二人はこの格好でもう一度ロビーを通過しなければならなかった。
 余談だが、この犯人は悪戯好きの子供という設定となっていて、従業員としては存在しない架空の子供にそれ相応の説教をしたと説明していた。ならばマリーサもそれに乗っかり、アリッサの様子を見たが、アリッサは何ら疑いもせず、言葉だけの説教では生温いので、お尻ペンペンをするべきだと熱く語り出す始末であった。



 
 
 

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