性教育 第2話

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 石崎は未来を教材にすることを、自分だけの判断ではなく生徒たちの意志でもって決定したことにしようとした。
 そうすれば、後々トラブルが発生した場合も、教師としての自分の責任が多少は軽減されると考えたのだ。教室内の最高責任者が教師である限り、生徒に責任転換できるなどと言うことは先ずあり得ないことなのだが、この時点では石崎はそう考えたのだった。
 いずれにしても未来としては、大変な迷惑であることには変わりがなかった。

「ここは私だけの判断だけではなく、教材を選ぶのはみんなであることをよく認識してもらいたい。愛川を教材にするかどうかは多数決で決めたい」

 未来は当然異議を唱えた。

「多数決だなんてそんなぁ。先生、本人の意思をもっと尊重してください!」
「お前は黙ってろ」
「そ、そんなぁ」

 石崎は未来の言葉を遮って言葉を続けた。

「では今から多数決をとる。愛川が教材モデルになることが相応しいと思う者は手を挙げてください」

 石崎がそう述べると、1人の女子生徒が激しく抗議をした。

「先生、そんなの酷いです!本人が嫌がっているじゃないですか!未来を教材にするなんて絶対にやめてください!」

 石崎に反発したのは、未来の大の親友である吉山理美であった。
 未来には理美ともうひとり利代子という親友がいる。
 利代子はたまたま今日は欠席しているが、もしここにいれば、理美と同様に未来救済に乗り出していただろう。

「ん?なんだ?吉山か。これはあくまで授業であり、授業に教材は当然必要となってくる。より分かりやすく説明するために愛川に協力してもらおうとしているだけだ。しかも、みんなの総意で決めようとしている。反対する者が多いようなら、取り止めにしようと思ってる。それでもダメだと言うのかね?君は」

 その時、理美の斜め後に座っている播磨と言う男子生徒が理美に罵声を飛ばした。
 播磨は停学を2度までも喰らうほどのワルであったが、不思議なことに石崎に対しては至って従順であった。

「やい!理美っ!お前黙ってろよ!先生のやり方に文句垂れるんだったら、お前が代わりに教材になったらどうだ!?」
「そ、そんな・・・」

 播磨はクラスに3人の子分を従えていた。
 そのうちのひとりは矢野と言い、成績もよくなかなか口も達者であった。
 当然のように播磨の援護に廻ってきた。

「俺達にとっては性教育も大事な勉強だ。それを石崎先生がみんなにより分かりやすく説明しようとしているんだから、俺達も協力しなければいけないと思うんだ。友達の未来を守ろうとしている理美の気持ちも分からないではないが、もっとクラス全体のことを考えて発言すべきだと思うよ」

 矢野はまことしやかに全員にアピールするかのように周囲をグルリと見回しながら大きな声で語った。

 もうひとり播磨の彼女という噂の女子生徒岸本リエが、未来と理美に攻撃を仕掛けてきた。

「こうすれば?未来と理美でジャンケンして負けた方がやればいいのよ」

 この言葉に未来は顔を紅潮させて反論した。

「理美を巻き込まないでよ!これは私の問題なんだから・・・」

 未来は理美を庇ったが、逆にそれが播磨を煽る結果となってしまった。

「おお~おお~!優しいね~!おい、未来!そこまで腹を決めているんだったら、多数決なんてしないでお前が教材になれ!早くパンツを脱げ!」
「はははははは~~~!」
「わっはっはっはっは~!」
「まぁ、いやだわ」

 教室内は笑い声に包まれた。
 石崎は播磨を叱った。

「播磨、暴言は慎め。こんなことで議論していても時間が経つだけだ。みんな夏休みにわざわざ登校したんだから時間は有意義に使わなくてはならない。では今から、多数決を採ることにする。愛川が教材になることに賛成の人、手を挙げて」